魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者
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第四十二話 機動六課のある休日 5
ガジェットを撃墜しながら突き進むアスカとギンガ。
先を急ぐためにギンガが取った方法とは?
そして現れる新たな敵は?
魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。
outside
地下水路では、アスカとギンガの戦闘が続いていた。
「こっちだ!鉄クズ!」
アスカがガジェットの注意を引いている隙に、
「はぁぁぁぁぁぁ!」
ギンガがリボルバーナックルでガジェットを撃破する。
アスカがガジェットの攻撃を一身に受け、ギンガが攻撃するというコンビネーションが見事にハマっていた。
「すげぇな……スバルと同じような攻撃なのに、洗練度が違う」
アスカは、ギンガの戦いっぷりを見て感心する。
(防御が上手い。スバルの言う通りね、戦いやすいわ)
ギンガもアスカの防御テクニックを見て、スバルの言っていた事を納得していた。
二人は瞬く間にガジェットを殲滅した。
周囲の安全を確認した時に、ティアナから通信が入る。
「アスカ、ガジェットが出たみたいだけど大丈夫?」
「コッチは問題ない。心強い援軍がいるからな」
「援軍?誰かいるの?」
ギンガが合流している事を知らないティアナが聞き返してくる。
アスカはギンガにも通信回路を渡す。
「ティアナ、久しぶりね」
「ギンガさん!」「え?ギン姉!」
思いも寄らない人物の登場に、ティアナとスバルが声を上げる。
「挨拶は後でね。ティアナがフォワードのリーダーでしょう?従うから指示をくれるかな?」
「は、はい!ひとまず、南西のF-94区画を目指してください。途中で合流しましょう。アスカ、いいわね!」
「F-94……ラピ、ナビゲート」
《了解》
アスカが前に出る。
「先行します。ついてきてください」
「うん、分かった」
ガジェットの反応に気をつけながら、二人は走り出す。
途中、何回かガジェットとの戦闘になったが、ギンガとのコンビネーションで難なく突破するアスカであった。
「でも、これじゃ時間が掛かるわね」
後ろを走るギンガがそう口にする。
「しょうがないですよ。近道でもあれば良いんでしょうけど」
何気なくアスカが答えるが、ギンガは何か閃いたようだ。
「近道……そうか!アスカ、ストップ!」
ギンガが急にアスカを止める。
「え?どうしたんですか?」
突然止めれたアスカが振り返る。
「近道がなければ、作ればいいじゃない」
と何やら晴れやかな笑みを浮かべて、ギンガはリボルバーナックルを高速回転させる。
ギュイイィィィィィィィィィン!
「え?何を……」
アスカが言い終わらないうちに、ギンガはリボルバーナックルを壁に叩きつけた!
バゴォン!
音を発てて崩れ落ちる水路の壁。
「最初からこうしておけば良かったのよ」
そう言って、ギンガは壁の穴に入る。
「……」
唖然とするアスカ。
バゴォン!
そうしている間にも、ギンガは新たな穴を作っている。
「アスカー!早く来なよ!」
穴の奥からギンガの声がする。
「……………………………………………………………………………はい」
深く考えるのは諦めて、アスカはギンガを追った。
「この辺は廃棄都市だからね。曲がりくねった道なら、真っ直ぐにすればいいんだよ」
何やら得意げにドヤ顔のギンガ。
(……ああ!さっき逆らわなくてよかった!本当によかった!)
事故現場でギンガに拘束され掛かった時の事を思い出し、アスカは心底そう思った。
アスカとギンガが合流した事を知ったティアナ達は、F-94区画へと向かっていた。
「ギンガさんて、スバルさんのお姉さんですよね?」
すぐ後ろを走るスバルにエリオが聞く。
「そう!私のシューティングアーツの先生で、歳も階級も2つ上」
大好きな姉の事を聞かれたからか、スバルは嬉しそうに答える。
「アスカにギンガさんがついていれば大丈夫ね。それより気に掛かるのが……」
ティアナが言いにくそうに言葉を濁す。
「あの生体ポッドだよね?」
スバルが言うと、そうだとティアナが頷く。
「どういう意味ですか?」
キャロが尋ねるが、ティアナもスバルも答える事ができない。
「……人造魔導師の素体を作る為の、生体ポッドの可能性があるんだよ」
沈黙の中、エリオが答えた。
「人造魔導師って?」
キャロはまだ理解できないのか、戸惑った表情になる。
だが3人の顔色から、深刻な事と言うことは分かる。
「……優秀な遺伝子を使って人工的に生み出した子供に、投薬とか機械部品を埋め込んで、後天的に強力な魔力や能力を持たせる。それが人造魔導師」
スバルが硬い声で説明する。
「倫理的な問題はもちろん、今の技術じゃどうしたって色んな部分で無理が生じる。コストも合わない。だから、よっぽどどうかしている連中でもない限り、手を出したりしない技術の筈なんだけど」
ティアナが更に説明を重ねる。
(よっぽどどうかしている連中……ジェィル・スカリエッティなら躊躇なくやる!)
ギリッ!
エリオが静かに歯を食いしばった。
薄暗い地下水路で、それに気づく者はなかった。
不意にキャロのデバイスが反応を示す。
「来ます!小型ガジェット6機!」
その言葉に、スバル達は壁を背にし、キャロを中心に置くようにフォーメーションを組んだ。
空でも戦闘は開始されていた。
なのは、フェイトが次々にガジェットを落としていく。
その様子を、はやては司令室から見ていた。
「スターズ1、ライトニング1、共に2グループ目を撃破!順調です!」
「スターズ2とリイン曹長も、1グループ目を撃破です!」
アルト、シャーリーが戦況を報告する。
「各員、次の攻撃に備えよ!レリックへの陽動なら、このくらいでは終わらへんよ!」
まだ終わりの見えない戦闘に、はやては油断なく目を光らせた。
1グループ目を撃破したヴィータとリイン。
ヴィータは軽くグラーフアイゼンを振るう。
「おし!いい感じだ!」
「リインも絶好調です!」
妹の頑張りに、ヴィータの顔がほころぶ。
「ガンガン行くぞ。さっさと片づけて、他のフォローに回らねぇと」
「はいです!あっ!」
ヴィータに元気よく答えたリインの視界に、何かが小さく写った。
「あれは!」
その方向を指さすリイン。
「ん……増援!?」
大量の飛行型ガジェットが編隊を組んで向かって来ているのを、ヴィータは目撃した。
なのはとフェイトは、背中合わせでガジェットと対峙していた。
「この反応!」
「くっ!」
それまでのガジェットの反応との違いに気づいて、なのはとフェイトは歯噛みする。
戦闘現場より遙かに離れた海上で、一人の女性が宙に浮かんでいた。
足下には、魔法陣のようなテンプレートが浮かび上がっているが、それはミッドチルダ式でも新旧ベルカ式のどれでもない。
「うふふ、クアットロのインヒュレーントスキル、シルバーカーテン。嘘と幻のイリュージョンで回ってもらいましょ」
スカリエッティか誇る戦闘機人のNo.4。
クアットロは楽しそうに唇を歪める。
クアットロが持つIS、シルバーカーテンは、魔法で言う所の幻術。
だがそれは、人間の目だけではなく、センサー、レーダーすらも欺く超高度な幻である。
「精々あがいてくださ~い」
邪悪な笑みを浮かべて、クアットロは幻のガジェットを送り続けた。
突如、司令室のレーダーが捉えていた敵影が爆発的に増加した。
「航空反応増大!これ……ウソでしょ!」
そのデタラメな増え方にアルトが絶句する。
「何なんだ、これは!」
あり得ない敵機の数に、グリフィスも思わずつぶやく。
「波形チェック急いで!誤認じゃないの!?」
「問題ありません!どのチェックも実機としか出ません!なのはさん達も目視で確認できるって報告がきてます!」
シャーリーの出した指示に、ルキノが間髪答える。
つまり、このレーダーに反応する全てのガジェットが目で確認できるという事だ。
ガタッ
それまで静かにモニターを見ていたはやてが立ち上がった。
そして、副官であるグリフィスに目を向ける。
「グリフィス君」
その一言で、グリフィスは部隊長が何をしようとしているかを理解した。
「……はい!」
グリフィスの返事を聞き、はやては彼にその場を任せて司令室を後にした。
大量のガジェットを打ち落とすなのはとフェイト。
その内の何割かは、魔法攻撃を受けると消えてしまっている。
「幻影と実機の構成編隊?」
厄介な相手に、フェイトは苦虫を噛み潰したような表情になる。
「危ない!」
ガジェットの攻撃に反応したなのはが、フェイトと自分を包み込むようにバリアを展開する、
ガジェットのミサイルは、なのはのバリアを打ち破る事はできずに、ただ二人を爆煙に晒す事しかできない。
「防衛ラインを割られない自信はあるけど、ちょっとキリがないね」
なのはが自分たちを攻撃しているガジェットを見据える。
この全てが幻術なら、攻撃その物を無視すれば良い。
だが、実機体の紛れ込んだ編隊では、放っておく訳にはいかなかった。
「ここまで派手な引きつけをするって事は……」
フェイトの言葉に、なのはが頷く。
「地下かヘリの方に主力が向かっている」
もしくは、その両方か、と二人は考える。
地下にはレリックがある可能性があり、現にガジェットが攻め込んできている。
ヘリを襲う理由は、証拠隠滅。
生体ポッドの少女を消す事によって事件を闇に葬り去るかもしれない。
「なのは。私が残ってここを抑えるから、ヴィータと一緒に」
「フェイトちゃん?」
フェイトの提案になのはは驚く。
「コンビでも、普通に空戦してたんじゃ時間が掛かり過ぎる。限定解除すれば、広域殲滅でまとめて落とせる」
「それはそうだけど……」
フェイトの言うことは尤もだが、なのはは迷う。
「なんだか嫌な予感がするんだ」
「でもフェイトちゃん……」
「割り込み失礼!」
その時、突然二人に通信が入る。はやてからだった。
「ロングアーチからライトニング1へ。その案も、限定解除申請も部隊長権限で却下します」
「はやて!」
「はやてちゃん!なんで騎士甲冑?」
セットアップをしたはやてがモニターに映し出された。
「嫌な予感は私も同じでなぁ。クロノ君から私の限定解除許可をもらう事にした。空の掃除は私がやるよ」
はやてはそう言って、隊長二人とヴィータ、リインに指示を出す。
「ちゅう事で、なのはちゃん、フェイトちゃんは地上に向かってヘリの警護。ヴィータとリインはフォワード陣と合流、ケースの確保を手伝ってな」
『『了解!』』
それぞれがはやての指示通りに散らばったのを確認して、彼女は聖王教会に回線を繋ぐ。
「君の限定解除許可を出せるのは、現状では僕と騎士カリムの一度ずつだけだ。承認許諾の取り直しは難しいぞ。使ってしまっていいのか?」
モニター向こうのクロノが心配そうに言う。
「使える能力を出し惜しみして、後で後悔するのは嫌やからな」
自分の意志が変わらない事を、はやては伝える。
「……場所が場所だけに、SSランク魔導師の投入は許可できない。限定解除は3ランクのみだが、それでいいか?」
はやての強い意志を確認したクロノは、許可できるランクを表示した。
「シングルS……うん、それだけあれば充分や!」
ちょっとだけ考える仕草をしたはやてだったが、すぐに笑って答えた。
「はぁ……」
諦めたようにため息をつくクロノ。
だが、すぐにテーブルに手をかざして、小さな魔法陣を出した。
「八神はやて、能力限定解除。スリーランク承認。リリースタイム、120分」
クロノが魔法陣の中央に手を当てると、その場所が赤く反転する。
それと同時に、はやては身体に魔力が漲ってくるのを感じた。
「リミット……リリース!」
古代ベルカ式の魔法陣からはやての魔力光があふれ出し、彼女を包み込む。
リミッターが解除された証拠だ。
クロノとカリムは、聖王教会のモニターでその様子を見つめていた。
「ふぅ……」
残念そうに、再びため息をつくクロノ。
その理由を察したカリムがクロノの肩に手を置く。
「完全解除でない分、許諾取り直しもいくらか易しくなるかもしれませんし、ね」
慰めるように気遣うカリム。
「気休め程度ですがね……地上部隊は上層部が厳しいです」
カリムの気遣いに、クロノは苦笑して答えた。
空高く舞い上がったはやては、夜天の書をその手に取った。
「よし、久しぶりの遠距離広域魔法、行ってみよか!」
攻撃態勢に入るはやてに、ロングアーチから通信が届く。
「ロングアーチ1、シャリオからロングアーチ0、矢神部隊長へ」
「はいな!」
「サイティングサポートシステム、準備完了です。シュベルトクロイツとのシンクロ誤差、調整完了」
バックアップの準備が完了した事を、シャーリーが報告する。
「うん、了解。ゴメンな。精密コントロールとか長距離サイティングは、リインと一緒やないとどうも苦手で」
はやてはSSランク魔導師。単純魔力だけでもかなりの量を有する。
だが、その膨大な魔力を単独でコントロールしきる事は難しい。
だからリインとユニゾンし、魔力コントロールやサイティングを任せる事により能力を発揮している。
だが、今回リインは出撃していて側にはいない。
「その辺はこっちにお任せください!準備完了です」
リインの代わりを、ロングアーチが代行するのだ。
「うふふ、おおきにな」
シャーリーの言葉に、はやては微笑む。
だがすぐに表情を引き締めた。
「来よ、白銀の風、天よりそそぐ矢羽となれ!」
呪文詠唱と同時に、はやての前方に巨大な魔法陣が一つと、その四方に小さい4つの魔法陣が現れる。
「スターズ1、ライトニング1、安全域に退避。着弾地点の安全確認!」
シャーリーから次々とデータが送られてくる。
「おっし、第一波いくよ!フレースヴェルグ!」
魔法陣から白い魔力光の砲撃が放たれる!
それは超長距離にいるガジェットの大群に向けて突き進む。
「フレースヴェルグ、第一波発射!発射軌道正常!」
フレースヴェルグの軌道計測をするシャーリー。
「グループEに着弾します!5、4、3、2、1……0!」
アルトが着弾地点を確認する。
放たれた魔力はガジェット群の中心に着弾し、大きく膨張しながら敵機を飲み込んでいった。
その魔力に捉えられたガジェットは、脆くも大破する。
フレースヴェルグ
古代ベルカ式の殲滅を目的とした広域攻撃魔法だが、はやての使う術式は、彼女自信によって改良が加えられていた。
投射面をミッドチルダ式の大きな魔法陣と、その四方に小型魔法陣を置く事によって命中精度を上げているのだ。
ミッドチルダ式の魔法陣を使用したのは、ロングアーチの支援を受ける為だ。
機動六課の司令室では、状況確認作業が行われていた。
「グループE消滅!続いてB、着弾!消滅!」
「同じくA……」
「追撃二波、発射!」
シャーリー、ルキノ、アルトが次々とデータを処理していく。
「シャーリー、消滅時のデータから幻影と実機の判別パターンの割り出しを!手がかりがあれば、必ず見分けられる!」
ロングアーチの指揮を任されたグリフィスがシャーリーに指示を出す。
「うん、全力で見つける!」
シャーリーははやてのサポートと同時に、幻影の解析を行うと言う離れ業を行っていた。
「相変わらずスゴいな、シャーリーは」
幼なじみを頼もしげに見たグリフィスはメインモニターに目をやる。
そこには、はやてが次々とフレースヴェルグを撃つ姿があった。
「待っていてください、部隊長。今、頼りになる仲間がこの手品のタネを暴いてくれますから!」
スバル達は地下水路で遭遇したガジェットと戦闘を開始していた。
今のフォワードメンバーにとって、ガジェットは傷害にはならない。
手際よく殲滅する。
「空の上は何だか大変みたいね」
ガジェットの反応が消えた事を確認したティアナが口を開く。
「うん」
スバルも油断なく周囲に気を張りながら答えた。
「ケースの推定位置までもうすぐです」
ケリュケイオンでサーチを行っていたキャロが言った時だった。
すぐ近くの壁が突然爆発するように崩れた。
「「「「!」」」」
四人が身構えて爆発地点を見る。
そこから出てきたのは、左手にリボルバーナックルを装着した髪の長い女性だった。
「ギン姉!」
スバルが驚いて声を上げる。
「ギンガさん!と、アスカ?」
ティアナも目を丸くしたが、ギンガの後ろかノッソリと出てきたアスカを見て首を傾げる。
「……よぉ」
気のない声で右手を挙げるアスカ。
「一緒にケースを探しましょう」
そんなアスカに気づかず、ギンガはスバルとティアナに近寄った。
「ここまでのガジェットはほとんど叩いてきたと思うから」
「うん!」
ギンガとスバルは仲良く話をしているが、
「「……」」
スバルの後ろにいるエリオとキャロは突然の展開について行けてなかった。
壁が爆発して、中から出てきたのがスバルの姉。普通の登場ではない。
唖然としているエリオとキャロに気づいたギンガは、優しく微笑みかける。
「「あ……」」
二人が慌てて敬礼をした。
「んで、アンタは何ボケッとしてんのよ」
ティアナがジト目になっているアスカに言う。
「……ギンガさんて、スバルの姉ちゃんだな。色んな意味で」
「あー、うん。そうね……」
何となく言いたい事を察したティアナは、それ以上ツッコム事を止める。
(コエーよ!何?壁突き破って直線移動って?)
合流したフォワードメンバーは、探索を再開した。
が、いきなりガジェットと戦闘になる。
「この!ワラワラと出てきて!」
ティアナの魔力弾がガジェットを打ち抜く!
「はぁぁぁぁっ!」
エリオの斬撃が切り裂き、
「フリード!」
キャロの命令に応え、フリードの炎撃がガジェットを焼き尽くす。
全滅させたと思ったら、今度は3型が奥から転がってくる。
「スバル、一撃で決められる?」
3型に対して真っ直ぐに突き進むギンガ。
「決めても良いけど……」
ギンガのすぐ後ろを走っていたスバルが、チラリと後方のアスカを見る。
その意味に気づいたアスカは、苦笑いをしてラピッドガーディアンをシングルモードに移行させた。
「アスカ!ギン姉と私で隙を作るから、カッコイイ所を見せてよね!」
「人使いが荒い事で!」
アスカはそう言いつつ、カードリッジを一発消費する。白く輝くラピッドガーディアン。
「ギン姉は左お願い!」
「分かったわ!」
ガジェットのレーザーをトライシールドで防いだギンガが左のアームに殴りかかる。
同時にスバルが右のアームに攻撃を仕掛ける。
ナカジマ姉妹に押さえつけられているガジェット。中央がガラ空きになる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」
そこにアスカが駆け込んでくる。
シグナムから授かった一撃必殺を放つ。
「紫電一閃!」
ラピッドガーディアンを一気に振り抜き、3型を真っ二つにする。
ガジェットはそのまま爆散した。
「……まだまだだな」
納得いかないのか、アスカはやや憮然とした。
「そんな事ないよ!いい感じじゃない!」
ポンポンとスバルがアスカを叩く。
「凄い……今の技って、シグナムさんのよね?」
アスカの攻撃を見たギンガが感嘆の声を上げる。
「授かったんですけどね。シグナム副隊長の宝物をもらったのに、この程度じゃ怒られちゃうな」
ポリポリと頭を掻くアスカ。
「充分だと思うけど?」
ギンガは、何が不満なのか分からない。
「本物を何度も見ていますからね。喰らっている本人が一番よく分かりますよ」
「え?」
(喰らってるって、紫電一閃を?まさかね……)
今度はギンガが苦笑する番だった。
ガジェットの攻撃が止み、周囲に静けさが戻る。
その静寂の中を、アスカ達は慎重に進んで行った。
しばらく進むと、大きな広間に出た。
「ここは……水路の合流地点か?」
薄明かりに照らされた空間を見てアスカは呟く。
豪雨などで地下水路に流れた雨水を一時的にまとめる空間なのだろうか。
その中を手分けしてレリックを探す一同。
「反応はこの辺なんだよな?」
アスカは近くにいたティアナに話しかける。
「ええ。ケリュケイオンのセンサーではこの付近に……」
「ありました!」
ティアナが言い終わらないうちに、キャロがケースを見つけだした。
「これで一安心ね……え?」
ホッとティアナが一息入れた時、その場にいた全員の耳に妙な音を捉えた。
ガン!
「なんだ?」
アスカが周囲を見回す。
ガン!ガン!ガン!ガン!
「なに、この音?」
ティアナが呟くよりも早く、その音は頭上を駆け抜けて行った。
「見えないだと?」
アスカも何かがもの凄い勢いで通り過ぎて行ったのを感じる。
だが、それは目視では確認できなかった。
アスカ達が戸惑っている隙に、正体不明の音はキャロに迫っていた。
空中に四つの魔力弾が現れる。それに気づくアスカ。
「キャロ!危ない!」
アスカが叫んだが、間に合わなかった。
魔力弾がキャロの足下目掛けて放たれる。
「きゃあっ!」
着弾した魔力弾の衝撃で吹き飛ばされるキャロ。その時にレリックのケースを手放してしまう。
「であぁぁぁぁぁぁ!」
最初に反応したエリオが、舞い上がった水煙を切り裂いて強襲者に斬りかかる。
霧状になった水分のおかげで、見えなかった強襲者のシルエットが見えたのだ。
交差するエリオと強襲者。
「くっ!」
鋭い痛みが、エリオの左頬を走る。
キャロの近くに着地したエリオの左頬から血が滴る。
「エリオ君!」
叫び声を上げるキャロを背中に回し、エリオが強襲者を睨む。
それまで不可視だった強襲者は、もう姿を隠す必要が無いと考えたのか、敵は自ら姿を露わにした。
「人……じゃない?」
その強襲者を見たアスカが固まる。
スバル、ギンガも同様に強襲者を見ていた。
黒い鎧のような外骨格に四つの目。人型はしているが、明らかに人間とは違う生命体。
その強襲者がエリオと対峙している。
「……」
フォワードメンバー全員が強襲者に注意を向けている時に、もう一つの人影がレリックのケースに近づいた。
召喚士の少女、ルーテシアだ。
ルーテシアは黙って、そのままケースを拾い上げる。
「あっ!」
それに気づいたキャロがルーテシアに駆け寄ろうとしたが、
「邪魔」
ルーテシアは抑揚のない声で呟き、キャロに向かって左手を突き出す。
「あぁっ!」
咄嗟にバリアを張るキャロだったが、ルーテシアの放った魔力弾がそれを打ち破った。
「キャロ!」
弾き飛ばされたキャロを抱き留めるエリオだったが、勢いは止まらずに二人とも壁に叩きつけられてしまう。
壁がヘコみ、エリオとキャロが崩れ落ちる。
「てめぇ!」
アスカがエリアルダッシュでルーテシアに迫るが、強襲者がその間に入ってくる。
「どきやがれ!」
ラピッドガーディアンで攻撃するアスカだが、強襲者はその一撃を受け止める。
「アスカ、どいて!」
スバルの声に反応したアスカはすぐに強襲者から離れる。
「うおぉぉぉぉぉぉ!」
スバルが蹴りを放つが、強襲者は身を翻して躱す。
一瞬、スバルと強襲者の視線が火花を散らす。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
ギンガが連続で攻撃を加える。
これは避けきれないと判断したのか、強襲者は腕を交差させてギンガのリボルバーナックルを受け止めた。
「やあぁぁぁぁぁぁぁ!」
ギンガはそれに構わず、力ずくで強襲者を弾き飛ばした。
強襲者はそのまま壁に激突して動かなくなった。
強襲者がフォワードを引きつけている隙に、ルーテシアはレリックのケースを持って歩き出す。
「こらぁ!そこの女の子!それ危険な物なんだよ!触っちゃダメ!こっちに渡して!」
立ち去ろうとしたルーテシアにスバルが叫ぶ。
ルーテシアはスバルを一瞥しただけで、立ち止まろうとはしない。
突如、空間からオレンジ色の魔力刃が浮かび出てルーテシアに突きつけられた。
いきなりの事に、ルーテシアの足が止まる。
「ごめんね、乱暴で。でもね、これ本当に危ない物なんだよ」
幻術で身を隠していたティアナが姿を現した。
「くっ……」
それまで無表情だったルーテシアが、僅かだが悔しそうに眉を歪めた。
「どんな理由があるのかは知らねぇけれどよ、やっていい事と悪い事があんだよ。お前は悪い事をしたんだ」
ようやくアスカが追いついてきた。
キャロとエリオが怪我した事で頭にきているのか、ルーテシアに向かって凄む。
ルーテシアは観念したかのように目を瞑った。
「よーし、おとなしく……?」
ゾクリ
言い掛けたアスカの背中に悪寒が走る。考えている間はなかった。
「伏せろ!」
そう言うが早いか、アスカはティアナを押し倒してその上に覆い被さった。
「えぇ!?」
ティアナが抵抗するよりも早く、呪文を発動させる声が響いた。
「スターレンゲホイル!」
凄まじい爆音と閃光、衝撃がルーテシアを中心とした場所からアスカ達に襲いかかる。
攻撃対象を指定できるのか、ルーテシアは何事もないようにその場を離れる。
「くそっ!ティアナ、動けるか!」
衝撃をまともに喰らい、動けないアスカ。
「アスカのおかげでね!」
そう答えたティアナは、アスカの下から這い出てクロスミラージュをルーテシアに向ける。
だが、
「きゃあぁぁぁ!」
それまで動かなかった強襲者が素早く起きあがり、ティアナを蹴り飛ばした。
「ティアナ!」
スターレンゲホイルの衝撃が抜けきれないアスカは、それでも何とか立ち上がる。
「くっ!」
蹴り飛ばされたティアナは、空中で体勢を立て直してクロスミラージュを強襲者に向ける。
だがすぐにルーテシアに向けて引鉄を引いた。
バシィッ!
「えっ!」
ティアナの撃った魔力弾はルーテシアには届かなかった。
強襲者が身を呈してルーテシアを守ったのだ。
左腕の外骨格が崩れ落ちる。
「あの黒鎧、召喚獣の類いだな?って事は、あの女の子が召喚士か!」
人とは思えない身体能力に、少女を守ろうとする行動力。
それを見てアスカはそう判断した。
その時、第三者の声がルーテシアに近づいた。
「ったくもう~。アタシ達に向かって勝手に出かけちゃったりするからだぞ!ルールーもガリューも」
(三人目?)
アスカは何とか動くようになった身体を、ルーテシア達に向ける。
「アギト」
ルーテシアが頭上を飛ぶ小さな人影に話しかけた。
「あれは……融合騎?」
ティアナが敵の増援が思わぬ形で現れた事に驚いた。
リイン以外の融合騎を見た事が無かったからだ。
融合騎はマスターのリンカーコアから生み出すのが通常であり、リインもそうやって生まれた。
だが、それには大量の魔力が必要になる為に、SSランクの魔導師でなければ生み出すのは不可能な事だった。
管理局でもSSランク魔導師の人数は限られている。
融合騎は名前は知られていても、珍しい存在なのだ。
(ルールー、ガリュー、アギト)
アスカは三人の名前を記憶する。
アギトと呼ばれた融合騎は、腰に手を当ててルーテシアを見る。
「本当に心配したんだからな?ま、もう大丈夫だぞ、ルールー!」
アギトはルーテシアに向かってニカッと笑う。
「何しろ、このアタシ!烈火の剣精、アギト様がきたからな!」
パパン!
アギトの周囲に小さな花火が咲く。
ルーテシア達がそんなやりとりをしている内に、スバルとギンガはエリオとキャロの側まで移動する。
キャロは完全に気を失っていた。
『アスカ、動ける?』
ルーテシア達に悟られないように、ティアナがアスカに念話を飛ばす。
『ああ、問題ない。エリオ達と合流か?』
『うん。今の内に体勢を立て直すわよ。キャロが動けないみたいだから、アスカの防御が頼りよ』
『おう、頼られた』
そして、気づかれないようにそっと移動しようとした時だった。
ばっちりアギトと目が合ってしまうアスカ。
その小さな手に炎を宿してアギトが吼える。
「オラオラ!お前らまとめて掛かってこいや!」
後書き
またもや10000文字行ってしまいました。
アニメであったシーンを丸々無くせば良かったかな?
無駄に長い下手な文章を読んでいただき、いつもありがとうございます。
めまぐるしくシーンが入れ替わっているので、今回は三人称のままです。
個人的には三人称の方がやり易いのですが、下手な文章なのでチョコチョコ一人称を
混ぜてごまかしているんですけどね。
さて、今回はガジェット襲来とルールー一味の襲撃ですね。
ようやくアスカが一撃で敵を倒すシーンを書けました。チョコットだけですけどね。
機動六課のある休日編はここまでで、次回からはナンバーズ編になります。
実はこの襲撃編で一番書きたいのはディエチなんですけどね。
ナンバーズ編も下書きで30000文字あるし、大丈夫かな~?
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