ハイスクールD×D ~赤と紅と緋~
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第2章
戦闘校舎のフェニックス
第23話 もうひとつの決戦、始まります!
「・・・・・・おまえら、いい加減に休め」
俺はイッセーが眠っているベッドからいっこうに離れようとしない千秋、鶇、燕に向けて言い放つ。
現在いる場所はイッセーの自室だ。
レーティングゲームが部長の敗北で終わり、他の皆が治療を終えてピンピンしているのに対し、イッセーだけは傷が癒えても起きる気配がなく、ゲームが終了してから丸一日は眠ったままだ。
三人とアーシアを加えた四人はイッセーを必死に看病をしていた。アーシアはいまは休んでいるが、この三人は本気で不眠不休で看護していた。食事すら摂らない勢いだったが、さすがに食事だけは強引に摂らせることはできた。
だが、三人の顔には不眠不休の疲れが出始めていた。いくら鍛えているといっても、さすがに限界だった。
「はぁ、おまえらまでぶっ倒れる気か?」
「・・・・・・大丈夫、平気だから」
「・・・・・・大丈夫だよ〜」
「・・・・・・平気よ」
何を言ってもこのありさまである。
「・・・・・・はぁ、飲み物でも持ってくる」
仕方がない、せめて飲み物なんかで疲労回復を試みるしかねぇか。
そう思い、立ち上がったところで、部屋のドアが開き、誰かが入ってきた。
「お茶でしたら、私がお持ちいたしました」
入室してきたのは、メイド服を着た銀髪の女性、グレイフィアさんだった。
手には四人分の紅茶を乗せたお盆を持っていた。
「どうも」
俺は軽く会釈し、紅茶を口する。
こいつはハーブティーか? メイドをやってるだけあって、かなりうまいな。
「あなた方もどうぞ」
グレイフィアさん言われ、千秋たちは渋々紅茶を手に取る。せっかく用意してもらったものを無下にするのも気が引けたのであろう。
紅茶を口にした千秋たちの顔からさっきまでの張り詰めた感じの雰囲気が消えていった。
飲んでいて思ったが、非常にリラックスできる紅茶だったからな。
「それをお飲みになられたらお休みになったほうがよろしいかと? もし、あなた方が倒れられたら、彼は自分を責めることになりかねませんよ。ここは私と彼がお引き受けますので、お休みくださいませ」
グレイフィアさんはどこか圧力のある顔をして言った。
千秋たちはその圧力に気圧されてか、紅茶を飲み干したあと、渋々部屋から出ていった。
「ありがとうございます。おかげであいつらを休ませることができました」
「いえ」
「ところでどうしてここに?」
素直な疑問だった。部長は現在、ライザーとの婚約のことで出払っていた。どうやら、明日の夜に婚約パーティーがあるらしい。
グレモリー家のメイドである彼女も、それの準備などで忙しいと思ったのだが?
「彼女は私の付き添いだよ」
「っ!?」
突然聞こえた男の声に、まったく気配を感じなかったことに驚愕する!
声がしたほうを見ると、紅色の髪を持った高貴そうな男がいた。
おいおい、まさか!?
「おっと、名乗りが遅れたね。私の名はサーゼクス。リアスの兄であり、魔王ルシファーの名を受け継いだ者だ」
「っ!?」
俺は再び驚愕する。サーゼクス・ルシファー、部長の兄であり、魔王の一人。
突然の魔王の登場に俺は萎縮してしまう!
「そんなに固くならなくていい。楽にしてくれたまえ」
「・・・・・・そうは言いますがね・・・・・・」
とりあえず、言われる通りに体の力を抜かせてもらった。
「友人のことはすまなかったね。我々の事情に巻き込まれたばかりに」
「・・・・・・いえ。・・・・・・それよりも、なぜここに?」
グレイフィアさんのとき以上に疑問だった。
「キミの友人に興味があってね。是非ともこの目で見に来たのだよ」
「興味?」
「うむ。彼のような真っ直ぐにひた走る悪魔は初めて見てね。非常に面白いと思ったのだよ」
「・・・・・・本当にそれだけですか?」
正直、そんな理由だけで魔王が訪れるとは思えなかった。
「もちろん、目的は他にもあるよ。明日の夜、私の妹の婚約パーティーがあるのは知っているね?」
「・・・・・・ええ、まぁ」
そのパーティーには多くの関係者が招待されており、部長の眷属である木場たちはもちろん、一応、俺たちにも招待状が渡されていた。
「ふふ、実はだね、かわいい妹の婚約パーティーを兄として盛り上げたいと思ってね。ひとつ余興を行おうと思っているのだよ」
「余興?」
「ああ。是非とも彼とキミとで、ひとつ会場を盛り上げてほしいのだよ」
「っ!?」
おいおい、それって、まさか・・・・・・。
「・・・・・・それはつまり・・・・・・派手に盛り上げろと?」
「ふふ。是非とも頼むよ」
やはり、派手ってのは、俺の想像通りのことのようだな。
だが、解せないな。
「・・・・・・なぜ魔王のあなたがこんなことを?」
この婚約は悪魔の未来のためと、半ば強引に推し進めたことは、このヒトも一枚噛んでいるはずなのにだ。
「言っただろう? かわいい妹の婚約パーティーを兄として盛り上げたい、とね」
兄、という部分だけをさりげなく強調する魔王。
なるほどな。つまり、そういうわけか。
「では、そろそろ失礼するよ。彼が起きたら、グレイフィアから招待状をもらいたまえ」
そう言い、魔王は魔方陣の転移でこの場をあとにした。
「では、後ほど」
グレイフィアさんもあとに続くように、部屋から退室していった。
二人が退室したところで、全身から力が抜けてしまい、俺は床に尻もちをついてしまった。
・・・・・・圧倒的な実力差のある存在を前にすると、ここまで緊張しちまうんだな。
「・・・・・・はは・・・・・・やれやれだぜ・・・・・・」
静寂なイッセーの部屋に俺の乾いた笑い声が流れる。
とはいえ、いつまでも腑抜けてられねぇな!
「あとはおまえ次第なんだぞ? いつまでも寝てるんじゃねぇよ」
―○●○―
赤い夢を見ていた。
真っ黒な空間で、赤い閃光が走っており、周りでは炎が立ち上っていた。
俺はそんな空間の中を漂っていた。
──誰だ?
そんな俺に語りかける者がいた。
『いま揮っている力は本来のものではない』
──その声、どこかで?
『そんなんじゃおまえはいつまで経っても強くなれない』
──そうかおまえ・・・・・・前にも夢で・・・・・・。
『おまえはドラゴンを身に宿した異常なる存在。無様な姿を見せるなよ。「白い奴」に笑われるぜ』
──『白い奴』って誰だよ!?
『いずれおまえの前に現れる。そうさ、あいつとは戦う運命にあるからな。その日のために強くなれ。俺はいつでも力を分け与える。なに、犠牲を払うだけの価値を与えてやるさ。ドラゴンの存在を見せつけてやればいい』
ドラゴン! おまえ!?
目の前に、以前夢に出てきた赤いドラゴンが現れた!
『「赤い龍の帝王」、ドライグ』
ドライグ!?
『お前の左手にいる者だ』
―○●○―
目を覚ますと、そこは俺の部屋の天井だった。
──俺の部屋だ。
・・・・・・あれ、俺、どうして・・・・・・。
上半身だけを起こし、ボヤける記憶を必死にたたき起こす。
確か、部長とライザーのレーティングゲームで俺は戦っていたはずだ。
小猫ちゃんが、朱乃さんが、木場が倒されて、そして──。
段々と意識がハッキリしてきたところで、誰かに声をかけられる。
「起きたか、イッセー」
「・・・・・・明日夏・・・・・・」
声がしたほうにに視線を向けると、壁に背中を預けながら腕組みをしている明日夏がいた。
「目覚めたようですね」
さらに、俺が起きるタイミングを狙ったかのように、グレイフィアさんが現れた。
「グレイフィアさん! あっ、勝負は? 部長はどうなったんですか!?」
そうだ、皆が倒されて、そして、俺だけが部長のもとに駆けつけた!
その後、どうなったんだ!?
「ゲームはライザーさまの勝利に終わりました」
「・・・・・・負けた・・・・・・」
部長が負けたという事実に俺は絶句してしまう。
「部長が投了を宣言したんだ」
「そんな!?」
部長が、降参した!?
明日夏が告げた言葉を信じられなかった俺は明日夏に詰め寄った!
「嘘だろ! 自分から負けを認めるなんて! そんなの部長にかぎって!?」
「ライザーがおまえを殺そうとしたからだ」
「──え?」
「おまえ、何も覚えてないのか?」
「・・・・・・あのときのこと・・・・・・俺、よく覚えてなくて・・・・・・」
明日夏に言われ、俺は記憶を呼び起こすけど、やっぱり、部長のもとに駆けつけたところからの先が思い出せなかった。
ただ──。
『イッセー、よくやったわ。もう、いいわ、よくやったわ。お疲れさま、イッセー』
涙を流している部長とその部長の言葉だけはうっすらとだけ覚えていた。
「おまえは何度もライザーに挑み掛かり、そして、それに業を煮やしたライザーはおまえを殺そうとし、部長はそれを止めるために──」
じゃあ、部長のあれはそういうことだったのか・・・・・・。
俺のせいだ! あれだけ部長に大見得切っておきながら、目の前で無様にぶっ倒れて!
あっ、そうだ、他の皆は!?
「明日夏、他の、他の皆は!?」
「アーシア、千秋、鶇、燕、俺はおまえの看護に残り、他は部長の付き添いで冥界にいる」
「付き添い?」
「婚約パーティーです。ライザーさまと──リアスさまの」
「っ!?」
グレイフィアさんの言葉に膝が崩れ落ちた。
・・・・・・·すみません、部長・・・・・・! ・・・・・・俺、強くなれませんでした・・・・・・!
涙が止まらなかった。悔しくて、情けなくて。
・・・・・・弱ぇ、なんで俺はこんなに弱ぇんだ・・・・・・!
「納得できないか?」
自分の情けなさに打ちひしがれていると、明日夏が訊いてきた。
「・・・・・・頭じゃわかかってるよ。部長が自ら家の決まりに従っているのは。勝負の結果は部長が望んだことだってのは。・・・・・・それでも、俺はそれに嫌々従うしかない部長なんか見たくない・・・・・・! 何よりも──」
「ライザーなんかに部長を渡したくない、か?」
「・・・・・・これが嫉妬だってわかってるさ。笑いたきゃ笑えよ・・・・・・」
けど、明日夏は笑わず、俺の目の前に立ち、俺を真っ直ぐ見据えていた。
「おまえはいま、何をしたい?」
「え?」
「ここで泣くことか? 部長をお祝いすることか? どうなんだ?」
そんなこと──。
「・・・・・・決まってるだろ! 部長を助けたい! どんなことをしてでも、部長を助けたいに決まってんだろ!」
俺は心の中にあることを大声で告白した。
「ふっ」
「ふふふ」
「え?」
突然、明日夏とグレイフィアさんが小さく笑った。
「あなたは本当におもしろい方です。長年いろいろな悪魔を見てきましたが、あなたのように思ったことをそのまま顔に出して、思ったように駆け回る方は初めてです。サーゼクスさまもあなたをおもしろいと仰ていましたよ」
そう言うと、グレイフィアさんは懐から一枚の紙切れを取り出した。そこには魔方陣が描かれていた。
グレイフィアさんはその紙を俺に差し出してきた。
「これは?」
「招待状だそうだ。婚約パーティーへのな」
「俺も部長に付き添えと!」
明日夏の言葉に、思わずキツく言ってしまう。
「話は最後まで聞け。なんでも、パーティー会場を派手に盛り上げてほしいらしい」
「え? それって?」
「『妹を取り戻したいのなら殴り込んできなさい』。これを私に託したサーゼクスさまからのお言葉です」
グレイフィアさんの言葉に、どう返したらいいのかわからないまま、俺は魔法陣が描かれた紙を受け取った。
よく見ると、裏にも別の魔方陣が描かれていた。
「そちらは、お嬢さまを奪還した際にお役に立つでしょう」
それだけ残すと、グレイフィアさんはこの部屋から魔法陣で転移していった。
俺は再び、魔法陣が描かれた紙を見る。
考える必要なんてない!
俺が立ち上がると、明日夏が声をかけてきた。
「行くのか?」
「ああ。止めたって無駄だからな。俺の心はさっき言った通りだ」
「だろうな」
明日夏は笑みを浮かべたまま、肩をすくめる。
「止めねぇよ。つか、俺も行くぞ」
「え?」
その言葉に、思わず呆気に取られてしまう。
「い、いや、ちょっと待ってくれ! これは俺の問題──」
「アーシアのときもそうだが、水くさいんだよ。部長を助けたいのは、俺も同じだ。あのゲームに参加できなかった歯痒さ、参加してたおまえにわかるか?」
明日夏は真剣な眼差し言う。
そっか、明日夏は俺と違って戦えなかった。もしも俺がその立場だったら、本当に歯痒かったろうな。
「ああ、わかったよ。力を貸してくれ、明日夏」
「頼まれなくても行くつもりだ。そもそも、その招待状は俺の分も兼用してるんだからな」
えっ、そうだったのか。
まぁ、とにかく、俺も明日夏も覚悟はもう決まっている。迷う必要はない!
ふと、机の上を見ると、新品の制服が置かれていた。
どうやら、初めから俺が迷わず乗り込むだろうと確信していた明日夏が用意してくれたらしい。ありがたいぜ、親友!
着ている服を脱ぎ、制服の袖に手を通したときだった。部屋のドアが開き、アーシアや千秋、鶫さんに燕ちゃんが入ってきた。
「イッセーさん?」
「イッセー兄?」
「イッセーくん」
「イッセー?」
アーシアたちが俺の名を口にした次の瞬間、涙を流し始め、手に持っていた水の入った洗面器やタオルなどを落として、俺に向かって飛び込んできた!
「おわっ!?」
四人分のダイブなんて、当然受け止められるはずもなく、俺はそのまま後方に倒れ込んでしまう。
「よかった! 本当によかったです!」
「イッセー兄! イッセー兄っ!」
「よかったよ~! イッセーく~ん!」
「心配させないでよ! このバカ!」
アーシアたちは俺の胸で泣きだしてしまった。
「治療は済んでいるのに、二日間も眠ったままで······」
「もう目を覚ましてくれないんじゃないかって······!」
「うえ〜ん! 起きてくれてよかったよ〜!」
「まったくもー!」
あー、また千秋とアーシアを泣かしちまった。しかも、今回は鶫さんや燕ちゃんまで。
順番に頭をなでなでしながら、なんとか落ち着かせる。
なだめたところで、俺はアーシアたちに言う。
「聞いてくれ、四人とも。これから俺と明日夏は部長のもとへ行く」
「「「「っ!?」」」」
四人とも、俺の言葉にひどく驚いていた。
「・・・・・・お祝い・・・・・・じゃ、ありませんよね?」
「・・・・・・部長を取り戻しに行くんだよね?」
「ああ」
アーシアと千秋の言葉に静かに頷く。
「私も行く!」
間髪入れずに千秋が言う。表情は真剣そのものだ。見ると、アーシアや鶫さん、燕ちゃんも同じ表情をしていた。
「ダメだ。皆はここに残れ」
千秋なら大丈夫かもしれないが、それでもやっぱり危険だ。アーシアや鶫さん、燕ちゃんならなおさらだ。
「私は戦える! イッセー兄と一緒に戦えるよ!」
「私だってイッセーさんと一緒に戦えます! 魔力だって使えるようになりました! 守られるだけじゃいやです!」
「大丈夫。軽くライザーをぶん殴って、倒して──」
「大丈夫なんかじゃないよー!」
「ッ!?」
鶫さんの怒声に思わずたじろいでしまう。
「ゲーム中、あたしたちがどれだけ心配したと思ってるのよ!? あんたが傷つく姿を見るのが、あたしや姉さんにとってどれほど辛いか、あんた、わかってんの!?」
燕ちゃんは再び泣きだしながら訴えてくる。
あー、そういえば。鶫さんと燕ちゃんをいじめから庇ったときに、よく俺が傷ついて、そして、そのたびにいまみたいに二人は泣いてたっけ。だから、俺が傷つくところなんて見たくないんだろうな。
「ゲームのときも、本当に死にかけたんだよ! あのとき、本当に怖かった! また、大好きなヒトが死ぬんじゃないかって!」
ライザーは俺を殺そうとしたらしい。その光景は、千秋にとっては本当に怖かったんだろうな。
「また血だらけでぼろぼろになって、ぐしゃぐしゃになって、いっぱい痛い思いをするんですか? もう、そんなイッセーさんを見たくありません!」
アーシアも涙で顔をグシャグシャにしながら言う。
「・・・・・・俺は死なない。ほら、アーシアを助けたときだって、俺、生きてただろ? って、そんときは鶫さんと燕ちゃんはいなかったっけ・・・・・・。とにかく、俺は死なない。生きて、皆と一緒にこれからも過ごすよ」
俺は笑いながら、真っ直ぐに言ってやった。
「・・・・・・それなら、約束してください」
「約束?」
「・・・・・・必ず・・・・・・部長さんと帰ってきてください!」
「もちろん!」
そう強く答えてやると、ようやくアーシアたちが笑顔になってくれた。
「わかりました。ここでイッセーさんの帰りを待っています」
「ああ。千秋たちも──」
「私は行くよ」
俺の言葉を遮り、千秋は真っ直ぐに俺を見据えながら言う。その眼差しは先ほどよりも強いものだった。
「諦めろ、イッセー。こうなった千秋の頑固さは筋金入りだ」
明日夏の言葉に俺は仕方なく折れるのだった。
「でも、鶫さんや燕ちゃんは──」
「私たちなら大丈夫だよ〜」
「余計な心配はいらないわよ」
俺の言葉を遮り、鶫さんと燕ちゃんは微笑んで言う。
「あたしも姉さんも、兄さんから風間流の忍の技を習得しているわ。言っておくけど、そこいらのはぐれ悪魔ぐらいなら打倒できるくらいの実力はあるわ」
えっ、そうなの!
「もう、守られてばかりのあのころのあたしじゃないわ」
「私たちの心配は大丈夫だよ〜」
鶫さんと燕ちゃんも、千秋と同じくらいの真っ直ぐな眼差しで言う。
結局、その真っ直ぐな眼差しと言葉に折れてしまうのだった。
「話はまとまったな?」
「ああ」
結局、アーシア以外の全員がついてくることになっちまったか。
その後、千秋、鶫さん、燕ちゃんは準備のためにいったん部屋に戻っていった。
あっ、そうだ──。
「アーシア、協力してほしいことがあるんだ」
「えっ?」
俺はアーシアにあることを頼む。
「これはアーシアにしか頼めないことなんだ。頼む」
「わかりました。イッセーさんがそう仰るのでしたら」
アーシアは訝しげになりながらも、すぐに了承してくれ、部屋に頼んだものを取りに戻ってくれた。
「一体どうするつもりなんだ? あんなものを頼んで?」
明日夏の疑問はもっともだろうな。使い道は予想できてはいるんだろうが、それ以前に俺には扱えない代物だからな。
「ああ、すぐにわかるよ」
俺は目を瞑り、俺の中にいる存在に語りかける。
「おい、聞こえてるんだろ? お前に話がある。出てこい! 赤龍帝ドライグ!」
呼びかけて間もなく、そいつは応えた。
『なんだ小僧? 俺になんの話がある?』
「あんたと──取り引きしたい」
―○●○―
イッセーがグレイフィアさんからもらった魔方陣による転移の光が止み、周囲を見渡してみると、そこは広い廊下であった。壁には蝋燭らしきものが奥まで並んでおり、巨大な肖像画がかけられていた。
廊下の先を見渡すと、かなり大きい扉が見えた。扉の前には衛兵と思しき男が三人いた。
「あの扉の先だな」
「らしいな」
扉に向かって歩いている中、俺は隣にいるイッセーに言う。
「イッセー。邪魔する奴らは俺たちが引き受ける。だからおまえは、余計なことは考えず、あの焼き鳥をぶっ飛ばしてこい。そして、部長を奪い返してやれ」
「ああ! 頼むぜ、親友!」
イッセーが拳を差し出してきたので、俺は自身の拳を当てた。
そのタイミングで扉の前にいた衛兵の一人が尋ねてきた。
「招待客の方ですか? でしたら、招待状を──」
ドゴンッ!
「がはぁぁっ!?」
衛兵が言い切る前に、鳩尾に八極拳を叩き込んでやった。
「これが招待状だ」
「おいおい・・・・・・」
俺の行いにイッセーは苦笑いを浮かべていた。
「何者だ貴様らは!?」
「返答次第では!?」
衛兵達が手持ちの得物を構え、その切っ先をこちらに向けてきた。
「お勤めご苦労さま」
「俺たちは特別ゲストですよ」
とくに打ち合わせもしていないにも関わらず、俺とイッセーは息の合った言葉を告げる。
「「パーティーを派手に盛り上げるためのな!」」
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