ガンダム00 SS
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ep17 憎悪に塗れる
前書き
ティエレン高機動B型を主役に、無名パイロットの活躍を描きました。敵はまたまたソレスタルビーイングのセカンドチーム・トリニティです。
基地に第一種戦闘態勢のアナウンスと警報が流れ、俺はMS格納庫に向けて走り出した。すでに基地の一部が敵の遠距離攻撃を受けて爆破し、黒煙を上げている。
まさか補給先でガンダムの襲撃を受けるとは思っていなかった。
『敵はソレスタルビーイングのガンダムと判明!繰り返す、敵は……』
司令室からの無線が途切れる。ガンダムが発する粒子による電波障害だ。
同僚のクレゴル曹長が嫌味っぽく呟いた。
「俺たちにはマトモな休息なんてない。それどころか今は生死をさまよう現実だ」
誰も彼の言葉を戒めることはなかった。
俺たちは本来この基地の所属ではない。大陸に点々と隠れているテロ組織を潰して歩く特殊部隊だ。それなのに、自分たちの経路を確保するために基地を守らなければならない。しかも相手はガンダムだ。
隊長がバカでかい声で俺たちに向かって言った。
「戦闘中、連絡が取れないことを忘れるな!後から増援がくる!それまで持ち堪えろ!」
増援到着まで何分戦えば良いのか、それは分からなかった。
格納庫にある我が部隊のMSは計8機で、全てがメンテナンス中だった。しかし、これを起動させずに敵の餌食にするわけにはいかなかった。
俺は階段を上がってMSデッキを駆け、コクピットに入った。上部分のハッチを閉めると、やはり棺桶に入ったような感覚を覚える。
ティエレン高機動B型。防塵された関節部とホバー走行で砂漠戦を可能にした高機動タイプだ。こいつとのつき合いもわりと長い。
俺は身体に染み込んだ動作で機体を起動させる。
「ティエレン2番機、出ます」
電波障害によって俺の言葉は誰にも届かず、応答はない。その代わり、すぐ近くから大きな爆発音が聞こえた。
それは俺たちのいる格納庫を狙ったものだった。
俺はすぐに機体を操作し、基地の外壁を無理やり壊して外に出た。直近からのビーム攻撃でセンサーの一部がやられている。
外に出たのは8機のうち6機だった。4番機と5番機がいない。
「マル、カフスキー!」
俺は脱出できなかった仲間の名を叫ぶ。無論、返事はない。
メインカメラが浮遊する敵を捉える。赤い粒子を発する3機のガンダム。先日の3国家群合同軍事演習で現れた奴らだった。
彼らのうち、右肩に大型砲塔を構えた機体がこちらを向く。こげ茶色をしたガンダムは俺たちに向けてその砲身と手持ちのライフルを掲げた。
俺は咄嗟にティエレンを加速させる。敵の波状攻撃が後方から迫っていた。連携が取れない以上、仲間のことを考えることはできなかった。
機体がガンダムのほぼ真下に移動した。俺は主武装の中距離滑空砲を頭上に構える。照準が敵に定まったのを見た瞬間、俺はトリガーを引こうと指に力を込めたがーー。
「クソッ!」
センサーが急接近する敵を伝える。俺は敵のいる方向に機体を転回し、シールドを構えた。その途端、ガンダムの大型剣が振り下ろされ、ティエレンの左腕が左右に斬り落とされる。危うく胴体を真っ二つにされるところだった。
俺は滑空砲に装備されたブレードをガンダムに向けて叩きつけようとするが、その攻撃は躱される。
ガンダムはそのまま後退すると上昇した。俺は滑空砲を敵に向け、再び弾を撃とうとするが、それは叶わなかった。
「何だ!?」
後ろから急に機体を突き飛ばされたのだ。俺は生きているサブモニターで原因を確認する。
そこにいたのは、左腕と両足を被弾して戦闘不能になった友軍機だった。また、右側に赤いガンダムがおり、ハンドガンを構えている。その絵面を見て、俺は仲間に庇ってもらったのだと気づく。
味方機の識別番号を参照し、俺は歯を食い縛った。
「6番機?クレゴル曹長!」
『……あんた、まだ無傷じゃん。こんなところで、直撃コース食らっちゃ、ダメなんだって……』
大破した機体との『お肌の触れ合い』会話で、俺はクレゴル曹長の蚊のような声を聞いた。だが、ここにいると爆発に巻き込まれる。
「済まない、ありがとう」
『退けっての。助けた意味、なくなるから』
俺は顔の見えない仲間の言葉に頷き返し、機体を急加速させる。そのすぐ後に、6番機が爆発した。
飛び出した先では、3機の友軍機がいた。我が部隊は僅か数分で残り半分に減ってしまっていた。
上空にいるガンダムは長距離ビーム攻撃の最中だった。その邪悪な赤い輝きは基地へと吸い込まれていく。
そのとき、先ほどのオレンジ色のガンダムがこちらに気づき、接近してくる。どうやら、この基地に残っているのは俺たちだけらしい。
だが、俺は不思議と恐怖を感じなかった。くるところまできてしまった、という思いが強い。
ガンダムが最初の獲物として捉えたのは俺のティエレンだった。大型剣が真正面から突っ込んでくる。
「やってやる。かかってこいよ、ガンダム」
操縦レバーを握りしめ、俺は呟いた。ガンダム相手にどこまで戦えるか、俺は未知数な世界へと飛び込んでいく。
終
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