世界をめぐる、銀白の翼
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第七章 C.D.の計略
理解されない苦悩
正午から、時間もそこそこ過ぎたころ。
昼飯には遅く、しかし晩飯には少し早いくらいの時間だ。
応急処置をしたものの、病院で検査をして出てきた海堂と、それに付き添う三原。
また仮面ライダーですかと話す看護師さんにちょっかいを出しながら、外に出てきた彼だがサイドバッシャーのところまで来てガンッ!と拳を叩き付けた。
「あー、くそ。あのクソガキ一発ぶん殴ってやる」
「でも、ライダーズギアで変身したってことはオルフェノクですよね?」
「ああ。おおかた、自分の力に酔ったバカ野郎なんだろうよ」
「おぉ。海堂さん、さすが」
「どゆ意味だコラぁ」
苦い顔してそんな反論をする海堂だが、かつては彼もオルフェノクの力に酔っていろいろしてきた人間だ。
おそらく、相手の男の気持ちの片鱗ぐらいはわかるのだろう。
そんなことを放していると、バイクが一台駐車場に入ってきた。
おっとっと、とその場を軽く退く二人だが、そのバイクは彼らの前に来て止まった。
そして、降りてきた青年を見てその来訪に驚いた。
「翼刀じゃねーか」
「どうしたんだい?」
バイクから降り、ヘルメットを外したのは二人もよく知る人物だった。
鉄翼刀。
その彼が取り出したのは、何らかのデータのようだ。
「多分、二人が追っているのはこの人だと思います」
「ん?知ってんのか?」
「ええ。たぶん、間違いないかと。今、巧さんも走り回ってると思いますよ」
そう言って端末に映し出されたのは、ある男の情報だった。
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蒔風から見せてもらったあの映像を元に警察などで照合してもらった結果、男の身元が判明した。
男の名は、呉木田浩司。
歳は19歳。
高校の時からバイクに乗っており、いわゆる「暴走族」の一員だったこともあるそうだ。
不良生徒、という肩書が一番しっくりくる。
現在は無職。
日々のアルバイトをするか、親からの仕送りで生活しているらしい。
現在彼のバイク仲間は連絡は取れない。
ただ、あのコンビニに映っていた映像からして、無事でいるかどうかは定かではない。
だが、オルフェノクであるという報告は来ていない。
生まれながらに少なからずその因子を持っていたのか、それとも申告のないオルフェノクだったのか。
「とにかく、今俺らはこいつを捕まえようとしています」
「なんだ?「EARTH」が動くほどヤバいのか?」
「うーん・・・なんていうかですね・・・こいつ、そんなにヤバい考えを持ってるやつではないんですよ」
「それはわかる」
「ああ。ただのバカ餓鬼だった」
翼刀の言葉に、うんうんと頷く二人。
だが、それこそがやばいんですと、翼刀が指を上げて指摘する。
「何らかの考えもなく、ただ強大な力を使っていくだけの奴って、ヤバくないすか?」
「あー・・・たしかに」
「んだ?どーいうこった?」
「つまりですね・・・・拳銃を、小学生に持たせて引き金引かれたらヤバいっしょ?」
「おぉ、なるほど」
「ってことで、今このナンバーを元に、いろんなとこで探してもらってます」
聞いた話では、警察が主導となってバイクのナンバーを元に東京中を探してもらっているそうだ。
更には検問も設置し、現在は主な大通りを巧が見て回っている現状である。
「にしても、またライダーっすか」
「ああ。名前も何も付けてないみたいだけどな」
「ふーん。勝手につけたらキレますかね?そいつ」
「多分な。自分でつけるだろ、勝手に」
そんなことを言いながら、身体の調子を最後まで治してもらう海堂。
終わり次第、探しに行こう。
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「うおお。これみたいなのってまだまだいんのなぁー」
一方そのころ。
書店で雑誌を手に立ち読みしているのは、件の青年・呉木田浩司。
手にしているのは、「EARTH」に関する記事の載った本だ。
「EARTH」は様々な力を持つものが所属し、その戦士や局員も様々なので、時折特集を組まれたりもする。
中には「月刊「EARTH」」のような感じで、毎月刊行している雑誌もあるほどだ。
そして彼が今、目を通しているのもそんな雑誌である。
「はぁーん。朝喧嘩したのはカイザっつーのか。んでんで?ほかにはデルタと、ファイズゥ?」
そんなことを言いながら、雑誌を見勝る呉木田。
自分のベルトはスマートブレイン製。
雑誌の中を探して、同じようなライダーを探していたのだ。
とりあえずこいつの名前でもきめねーとな、と考えるも、さっぱり浮かんで気もしない。
彼らはどうやらモチーフになったギリシャ文字から名前をつけているらしい。
(だったら俺はガンマ(Γ)だからァー・・・っとぉ、ガンガル?ガマン?ガンダム?)
うぁー、と考えてが頭を掻く呉木田だが、どうにもしっくりこない。
(っつーかよォー。こいつらのと同じとかダメじゃねェーのかぁ?あんな時代遅れ性能の、正義ぶったヤローと一緒なのは、どォも気に食わねぇぜ)
一緒なのはヤダ、という、なんともガキくさい理由で考えるのを放棄する呉木田。
ヤメダヤメダとマンガ雑誌のほうのコーナーへと向かい、見回していると「お?」と何かに気付いた。
そして「これって確かよぉ。四角、ってことだったよなぁ?」と思い当り
「これだ!!!」
と叫んで、書店から飛び出した。
そこで
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ピーピーピーピーピー
「来た!!!」
海堂の治療をし終わり、じゃあ巡回行きますかとバイクに跨ろうとしたところで通信機が鳴った。
向こうから聞こえる声は、パトロール中の警察官のもの。
バイクを探して、商店街などの駐車場や駐輪場を探していたところ、同じナンバーのバイクを発見したのだそうだ。
その商店街の場所を聞き、近くだということですぐに向かう三人。
と、その時
『おいおいおいこらおいコラァ!!何俺のバイクに勝手に触ってんだこのサツ公!!』
『え、ぐワッ!?』
『お前!!』
『ハッハー!!そろそろよォー。銃とか本気で強えぇのと喧嘩してぇーなぁーとか、思ってたわけだぜ!!例えるなら、ゲームで難易度上げてくみてェーにな!!』
通信機から聞こえてくる声に、一人混じった。
そして、警察官のものだと思われる声と、それらがぶつかり合う声がしてきた。
「あいつだ!!」
「急げ!!こっから遠くはねぇ!!」
そう言って、バイクに乗ってその場を飛び出していく三人。
目的地までは、このバイクなら3分ほど。
それまでに、とんでもないことにならなければいいが。
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「はははっ!!おりゃ!!」
「グォッ!!」
「俺はキングだぜ?地面這いつくばってよォー、俺を見上げてりゃぁいーんだよォー!!」
パキパキと拳を鳴らし、その場にいた警官二人を殴り飛ばしてしまう呉木田。
商店街の共通駐車場は、店の並ぶ場所からは離れており、なかなか人の目にはとまらない。
テンションが上がったのか、呉木田の顔にオルフェノクの紋様が現れる。
彼は、やはりオルフェノクだった。
オルフェノクは、変身はしなくともすでに身体能力は人間よりは高い。
とはいえ、ここまで大の大人、それも警官を二人相手にして軽く伸すというのは、かなり異常な光景ではあるが。
「お前、オルフェノクか!!」
「あん?だからどうだってんだよ?」
「だったらこっちも、それ相応の対処をとるぞ!!」
呉木田の顔を見て、警官の一人が立ち上がって警告する。
見ると、彼の顔にもまた、オルフェノクの紋様が浮かび上がっていた。
「お、おい!!」
「お前は応援を呼んでくれ!!こいつが暴れたら、一般人に被害が広がる!!」
「わかった。無茶すんなよ!!」
そう言って、人間だったのであろう警官はその場を後にし、オルフェノクだった警官は呉木田の前に立つ。
「そこらへんで大人しくするんだ!!お前は今、逮捕されてもしょうがない立場なんだぞ!?」
「ウっせぇーなァー。そもそも何?人間守るとか、バカみてぇだなァー!!」
ヒュッ!!と一瞬のうちに警官のそばにまで近寄り、その首を抱えて地面に落ちる呉木田。
とっさにオルフェノク形態へと変身する警官だが、それでもなかなか変身することはないのか、対応などはできなかった。
せいぜい、ダメージが少なくなるくらいだ。
それを見て、呉木田は愉快そうに笑う。
「おうおうどしたよセンセ?守ってみせんだろー?オルフェノクのくせによ、弱っちい奴らとつるんでんじゃねぇーよ!!」
ドフッ!!と、一撃蹴りを叩き込む。
ゴロゴロと転がる警官が、ショックですぐに人間へと戻ってしまった。
「あん?その程度なの?んだよせめて銃撃つくらいはしろよなー」
そんなことを言って、呆れる呉木田。
だが、そこに三台のバイクがやってきて彼の名前を叫んだ。
「そこまでだ呉木田!!」
「あん?・・・・っておー!!あんた確か朝にボコッた奴じゃん?なになに?仲間連れてきたん?」
「その人を放せ!!」
「はぁ?知らねーよ。勝手に連れてけよほれ」
ドサッ、と、警官の身体を放り投げてよこす呉木田。
その彼を抱えて、戻ってきたもう一人の警官に預けてから翼刀が拳を握りしめる。
「いい加減にしろよクソガキ」
「あ?人のことガキ扱いしてんじゃねーぞ」
すでに半分キレかけている翼刀。
それはそうだろう。
こんな理不尽に暴力を振るわれるのが、彼にとってはすでに我慢できないことなのだから。
「何度でもいうけどな。お前はただ単に力手に入れてはしゃいでるだけの低俗なガキだっての」
「はぁ?はぁー!?何言ってんのあんた?んなえらそーなこと言ってよ、どーせ俺には勝てねーんだろ?あぁ?」
「・・・・・・」
あまりにも低俗すぎて、もはや言葉も出ない翼刀。
その呆れた表情や余裕な態度に、呉木田はいともたやすく沸点を超えた。
「そこのヤローも、調子乗ったこと言って結局ぼこぼこにしてやったしよ!!オメーなんか、いちころだっての!!」
そう言って、ベルトを巻いてスマホをいじる。
そしてそれを突き刺して、かかってこいよと煽っていった。
「どーよ!!これで俺も、仮面ライダースクエア、ってもんだぜ!!」
変身し、スクエア、と名乗るライダー。
それを前にして、もはや翼刀は言葉も出なかった。
だが、代わりにゆっくりと前に出て、男の目の前に歩み寄っていた。
「いい加減にしろ」
「掛かってこいよ」
ゴバンッ!!と、凄まじい音がした。
生身の三原が感じたのは、それだけだった。
吹き飛んだ翼刀が停められた自転車に突っ込んだのも、スクエアが拳を突き出しているのも、その彼らの姿勢からそうなったのだと判断するしかないほどだった。
「はっはー!!やっぱすげぇやこれ!!」
バッ、ビシッ!!と動くスクエア。
それに対し、翼刀はペッと血の混ざった唾を吐いてゆっくりと再び近づいていく。
スクエアはその隙に陣を張る。
四点にマーカーを打ち込み、自分のエリアを確保した。
そして、入陣。
バガンッ!!と殴られる翼刀。
それを見て、三原も助太刀しようと変身の構えをとるが、それを海堂がとめる。
「待てよ。今はしっかり見とこうぜ」
「え?」
殴られ、しかし翼刀は再び前に出る。
足を踏み入れ、スクエアの一撃。
だが、今度はそれに対応して受けた。
突き出された腕を横から押しのけ、しかし今度は小爆発で弾かれて飛ぶ。
ザォッ!!と、吹き飛ばされながらも持ちこたえ、自分のバイクに肘を乗せてよろける翼刀。
それを見て、ますますスクエアは気を良くしたのか大笑いを仕出す。
「あっはっはっは!!最高だぜ!!まあ当然だよなァ。なんたって俺は、オルフェノクの王の力を受け継いでんだし!!」
「・・・・・なに?」
スクエアの言葉に、疑問を挟む翼刀。
三原と海堂も同様だ。
まさか、かつて敵にしたオルフェノクの王・アークオルフェノクの再来なのか?
だが、どう見ても違う。
なんというか、当zんと言えば当然かもしれないが・・・・こいつには、それだけのものを感じさせる何かがない。
ただ、強力で膨大な力を得ただけの「巨大な暴力」にしか見えない。
「あの女が言うにはよ、俺にはそいつの力が宿ってんだってよ!!」
「・・・・・・おめぇ、アークか?」
「は?俺はスワローオルフェノクだけど?」
「・・・・なるほど、話は見えてきた」
はぁ、とため息交じりに翼刀が、自分の推測を話し出す。
確か、アークオルフェノクの因子とやらは昔、ショウが「奴」だったころに利用したという話を聞いたことがある。
急激な進化で肉体が持たず、いずれ滅ぶとされていたオルフェノク達は、その爆散によって散った「アークオルフェノクの因子」ともいえるモノでその生存を可能にしている。
おそらく、この男が言いたいのは「その因子が一番強く出ている」ということなのだろう。
ともなれば、このような男にライダーズギアが渡されたのもわかるし、それの力を扱えるのもわかる。
このライダーズギアは、相当の力を持ったものだ。果たして上級ともいえないだろうこの男が、その変身や使用に耐えているのはそれゆえだろう。
更に呉木田が調子に乗ってしゃべったことだが、彼はここ二、三年前に、バイクから放り出されて頭を打ち、オルフェノクになったのだそうだ。
と、すれば、オルフェノク因子が入り込んだのは人間の時。
というか、それのおかげでオルフェノクとして転生したと考えていい。
ただの巨大な力ほど、余計にたちが悪い典型のような男だ。
「はっはっはっは!!要は、オメーらとは出来がちげーってことだ!!」
そう言って大笑いするまでに、翼刀は実に五回ほどさらに吹き飛ばされている。
だが、それでもゴキゴキと首を鳴らして立ち上がる姿にスクエアは次第に苛立ってきていた。
最初こそはいくらでも殴れるサンドバッグ君、としか思っていなかったが、もはやここまで来ると面倒なだけだ。
「はぁ・・・テメェ、もう壊れていいぜ!?」
ゴゥッ!!と、ついにスクエアから勢いよく動いた。
狙うは顔面。
翼刀のそこへ向かって、弾かれた用に突っ込んでいくその拳は、いともたやすくそのエリアを飛び越えて。
ガシッ、ドンッ!!!
翼刀に掴まれて、爆発した。
ブシュゥ・・・と煙を上げる翼刀の手。
そのままズルリ、と倒れ込むかと思われたがしかし、スクエアの拳を、さらに強い力で握りしめていくのを、確かに感じていた。
「あぁ!?こいつどこにそんな力、ッていてぇ!!いてぇだろうがこの!!」
バシュシュシュシュ!と、再び自分を中心に四点打ち込むスクエア。
それによって、さらに攻撃を加えようというのか。
だが、それよりも早く、その陣の中に入った者がいて
「へっ?」
ガションッ!!!
「グッ!!!」
スクエアの背後に向かって、左拳が思い切り振られた。
瞬間、攻撃の当たった首を中心に回転して宙に舞うライダーの姿があった。
ファイズだ。
それも、アクセルフォーム。
おそらくはここまで一気に疾走してきたところを、この陣のセンサーに察知されて自動反撃されたのだ。
そのままファイズを蹴り飛ばし、翼刀を放り投げ陣から出すスクエア。
おぉ、ファイズじゃねーか!!と、新しいおもちゃが来たかのように笑う。
ググッ、と立ち上がろうとするファイズだが、その途中でアクセルフォームは解除された。
そして、ビッと右手を払い、翼刀に聞く。
「こいつか?」
「そうっすね・・・・」
そう言って、翼刀はクルリと踵を返した。
その態度がまた気に食わず、スクエアは中指を指して挑発していく。
「おいおい、それで終わりかよ?殴られて逃げんのか?このチキンが!!」
その言葉に、実に煩そうな顔をして翼刀が静かに答えた。
もう必要ない、と。
「お前、バカだろ」
「はぁ?」
「あれだけ動きと手の内見せて、攻略されてないとでも思ってんのかウスラトンカチ」
「ンだとこら!?」
文句を垂れるスクエアだが、翼刀はまったく耳を貸さずに海堂の肩を叩いた。
「海堂さん。い っ ぱ つ・・・・ぶん殴ってやってください」
「おっしゃ。任せとけ!変身!!」
翼刀からのバトンタッチ。
それを受けて、カイザに変身する海堂。
ここにきて、なぜだか知らないが翼刀は余裕を見せ始めていた。
海堂も、三原もである。
それどころか、先ほど殴り(蹴り)飛ばしたファイズすら、静観の様子だ。
何故だ。
自分は、この中で最強の力を持っているはず。
現に、こいつらは俺に手も足も出ない。
だというのに、こいつらの落ち着き払った態度は何だ。
気に食わねぇ、気に食わねぇ!!!
「何だテメェら、調子に乗んな!!」
「俺らは調子に乗っちゃないぜ」
カチリ、とカイザブレイガンのブレードを展開し、一気に駆け出していくカイザ。
エクシードチャージの音声と共にポインターを撃ちこみ、スクエアの身体を拘束した。
「はぁ!?なんだこれ!?」
「調子に乗ってたのは俺らじゃなくて、オメーの方だ。バカ」
そう言って、剣を構えて突っ込んでいく。
カイザの全身がエネルギー光を纏い、敵へと突撃し切り裂くゼノクラッシュが炸裂―――――
「うがぁ!!!」
―――しなかった。
スクエアのフォトンブラッドが輝き、グレーだったそれが一気に銀色の光を放っていく。
そしてその膨大なパワーは、カイザの拘束を解き放ち、自らの意思と自動反撃の、二つの勢いでそのカイザへとカウンターをブチ当てに行く。
結果、カイザの身体はパンチの直撃と共に発生した小爆発に包まれ、その姿は煙の向こうへと消えてしまった。
「はは!!なんだなんだァ!?結局テメェ」
《Exceed Charge》
「その程度しかなかっブガァッ!?」
「ふぃー・・・一発、確かにぶち込んだぜ」
盛大に吹き飛ぶスクエア。
見ると、そこにはカイザショットを手にして、グランインパクトを叩き付けたカイザが立っていた。
あのカウンターの瞬間、カイザはすぐに身体を引っ込めていたのだ。
爆発の衝撃は体を襲ったものの、直撃でなければやはり小爆発は小爆発。大したダメージにはならない。
その爆発はもともとスクエアの全身を走るフォトンブラッドが、そのライン上で角にぶつかる衝撃を溜めこんだものだ。
構造上の欠陥ともいえるそれを、反撃の爆発として使えるようにした技術は素晴らしいが、完全にそれを呉木田本人が潰しているのだ。
その爆発は、一回起こると少しの間は不発になる。
それはそうだ。連続であんなものが全身いたるところから発生したら、それこそ今度は使用者の身が危険にさらされる。
翼刀の数度の交戦は、これらの事実を明るみにさせていた。
爆発は一回ごとに、短いもののインターバルがいる。
爆発は、連続して起こせばだんだん弱くなる。
そして、この男は爆発による手ごたえを、一切感じ取っていない。
もしそれができれば、カイザに拳がしっかりと当ったかどうかがわかっていたはずだ。
殴り飛ばされるスクエア。
頬を抑えて「いてぇなコラァ!!」と叫んでカイザに突っかかろうとする。
だが、今度は小石を投げつけられて、それを爆破。
直後に足払いで転がされて赤っ恥をかかされる。
「今の小石程度でその反撃するのかよ・・・」
「はっきり言ってやる。お前はそれを使いこなせていない」
翼刀の言葉を聞いていると、カイザはいつの間にか変身していたデルタとバトンタッチしていた。
そして、次に襲い掛かるデルタの銃撃。
連続した攻撃にスクエアは自動防御に任せてそれを軽々と弾いた。
それによって多少なりとも彼の自尊心は回復したのか、段々と大笑いをしていくようになり
「ちょ、おい!!待てゴラ、くっそ!!」
次第にその連射に引っ張られていく腕に痛みを感じ、ついには自動防御をやめて十字にくんだ腕でガードしてしまった。
「ッ!!なんだよおめえら!!なんなんだよ!?」
訳が分からなくなり、そんなことを叫ぶスクエア。
だが、彼も哀れなものである。
あの夜にあの女からこんなものを手渡されなければ、彼はただのバイクバカでしかなかったというのに。
「ハァ・・・・ハァ・・・・!!」
一通り体力を消耗させたところで、デルタの銃撃が終わる。
四つん這いになるスクエアを見て、翼刀が「じゃあ御用な」と手錠を取り出して近づいていく。
「ふざけんな・・・この力もらってよぉ・・・それを楽しんでてよぉ・・・それでこんなにボコされちゃあ、たまんねぇだろうがよ!!」
ぐワッ!!と起き上がり、寄ってきた翼刀に殴りかかるスクエア。
まず間違いなく、命中する。
しかもこの至近距離だ。問題なく命中するはず―――――
パッ
「え」
ドンッ
「は?」
バギィ!!
「バハッ!?」
しかし、スクエアの目論見は熟練された翼刀の動きによって粉砕された。
拳はいともたやすく弾かれ、それによっておこった爆発は、直後に捕まれた頭部へと、不動拳で威力だけをぶち込まれる。
掴まれただけだというのに、爆発の衝撃を喰らったスクエアはもう何が何だかわからないまま、自身のバイクまで吹っ飛んだ。
「が・・げぇええ!!くそ、くそォ!!」
「大人しくしとけって。もうお前には何もできねぇから」
バイクに手をかけ、這い上がるように体を起こすスクエア。
しかし、その最中で変身が解けてしまいいよいよ万事休すとなってしまう。
だが
『お前には何もできねぇから』
その一言が、彼の過去の記憶を呼び覚ます。
お前はだめだと言われ続けた。
何もできない奴だと言われた。
素行も悪い、頭も悪い。お前はほんとに駄目な奴だと言われた。
それが、このベルトをもらってからは見違えたようだった。
とても楽しかった。
あなたは素晴らしい力を持った人だと言われた。
何でも好きなことができるようになった。
180度転換した俺の人生を、またお前らはどん底に落とすのか。
俺だって頑張った。
中学だって、高校の最初の2年だって、俺は必死に頑張ったんだ。
だけど、何もできなかった。
屑だと言われた。莫迦だと言われた。ゴミだともいわれた。
ついには親にも出て行けと言われた。
金だけ出してやるから、どっかで暮せと言ってきた。
ああそうかい。
アンタらがそういうのならよ、そうなってやろうじゃねーか!!!
そう言って突っ走ったこの2年。
ついに光が見えたと思ったのに、またこれかよ。
ふざけんな
ふざけんなふざけんなふざけんな!!!
「ま、待ってくれよ!!あんたらだってオルフェノクだろ?なんでそんな人間の味方してんだよ!!」
そう言って、バイクのエンジンをかけて即座にその場を後にする呉木田。
その後を目で追い、即座に通信機をつなげる。
「呉木田が逃亡した!!検問は引き続き実施。見つけても手は出さず、現在位置を知らせてください!!」
「まずいな。あいつ、何しだすかわかんぜぇぜ?」
「ああいう手合いが厄介だからな・・・乾君は、どうする?」
「・・・・俺はあいつを探す」
「そりゃそうだけど」
「あいつ、世の中諦めた目ェしてやがった」
「・・・・?」
「それが、俺には気に食わねぇ」
巧はというと、それだけ言ってやってきたオートバジンに跨った。
あの眼には見覚えがある。あんな感じの奴を、俺は知っている。
だったら、あいつを止めるのなら俺しかいないだろ。
関わりは、あまりにも薄い。
なにせ、話に聞き、そしてやってきたらラリアット気味に殴られただけなのだから。
だが、それでも巧は何かを感じていた。
妙なイラつきだ。
そう、これはきっと「同族嫌悪」に近いのだろう。
何せ自分も、結構昔はあんな感じだったから。
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もう空は暗く、街の街灯が輝きだす。
その路地裏で、呉木田はよくわからないまま逃げ続けていた。
ちくしょうちくしょう。
みんなしてやっぱ俺のこと莫迦にしやがって。
見てろよ。
俺だって出来ることを見せつけてやる・・・・あいつら度肝抜いてやる・・・・
よろよろとバイクを押して、公園のベンチに腰掛ける呉木田。
そしてふと、目に留まった夜景。
その中で、くっきりと光る一つの明かり。
「・・・・そうだ・・・・やってやる・・・・!!」
それを見て、何を思い至ったというのか。
エンジンを回し、一気にアクセルを捻る。
クラッチを通して動力が回り、呉木田はその場を後にした。
彼が向かうは、東京タワー。
この街の象徴といえるそこで、彼は一体何をしでかすつもりなのか。
呉木田の、長く大変な1日が、終わりに向かおうとしていた。
to be continued
後書き
なんだか後付ですが、呉木田は呉木田でかわいそうな奴になってしまったなァ・・・・
自分にもありました。
がんばっても頑張っても、それが結果に現れない地獄のような時が。
そして周囲の言葉に呉木田はグレてしまったんですねぇ・・・・・
ファイズ編は次回で終わりそうです。
にしても巧なかなか出てこないなー・・・・
翼刀
「次回。東京タワーが・・・・銀に・・・!?」
ではまた次回
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