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そうだ、つまらない話をしてあげよう

作者:猫丸
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鳥籠のお姫様

 昔――昔々のお話。まだ私達なんて生まれてきてない遥か昔の事。
辺境の古城にとても美しい姫が住んでいると、辺りに住む町民たちの間で噂になっていたのよ。
その美病はクレオパトラも嫉妬する程とかなんとか言われていたようだけどね……。

「はあ……今日も退屈な日が終わったわね」

 そんな噂話、当の本人にはとても興味の無い話だったわ。すっごくどうでもいい話だったの。

 とゆうよりも、

「またこんな沢山、求婚を迫る手紙が……」

 机の上に山積みとなった手紙の束を見るたびにうんざりだわと、大きな溜息を吐く毎日。

 鉄格子が取り付けられた窓の外から見える、入口に我先に行かんと鬼気迫った表情で群がって来る男共見るたびに、大きな溜息が出る毎日だわ。

「ねえ――そうでしょう? ムジル?」

 窓の傍にいる彼に話しかければいつもと同じ返事が返ってくるわ。

「ピヨッピヨピヨッ」

 錆びた金色の鳥籠で暮らしているのは、幸せの青い鳥のような綺麗な羽根を持つムジルリツグミのムジル。
数年前からずっと一緒にお友達。何も無い退屈な牢獄に囚われた者同士。

「貴方は鳥籠の中にずっと居て楽しい?」

 そう聞いてもいつもムジルは同じ反応をするばかり。首を傾げるだけなの。まるで言葉の意味がわかっているみたいに答えをはぐらかすんだから、困った鳥さんよね。

――私は楽しくなんてなかったわ。

 生まれてからずっとこの部屋の中で暮らしているの。注射針の穴だらけの身体には沢山のチューブが繋がれているし、顔には沢山のメスで切られ縫われた跡が沢山残っているの。

「"これ"の何処がクレオパトラを超える絶世の美女だと言うの?
 どう考えたってこんな顔面兵器、怪獣映画に出て来る化け物そのものじゃない……」

 そう、自嘲するお姫様。眉間に悔しそうにしわを寄せ、細い紫色の眉をハの字に曲げ、猫のようにつりあがった紫色の瞳からは大粒の雫が滴り落ちたわ。

 雫は彼女が着ていた紫色のふりるが可愛らしいドレスに染み込み、薄いピンク色の唇は噛みしめている所為ね、切れて血がぽたぽた……と、ドレスを真っ赤に汚しているの。

「姫様ー!! 見合いのお時間ですよー!!」

 ドアを力いっぱいノックする年老いた魔女のような濁声が聞こえるわ。
本当に五月蠅いお婆さんね。もう八十は超えているのに未だ現役で、お姫様のお世話係をしているのよ? ……うざいの他に何が残るのかしら。

 うざいという感想しか出て来ないのだけど、一応準備しなければいけないわね。……だってお婿さんになるかもしれない殿方と今から合わなければならないのだから。

 全身をうつす鏡でお姫様は今の自分の姿を確認してみたわ。涙と血でぐしゃぐしゃになった顔、染み込んだ跡と血の跡で少し汚れてしまったドレス……ええ、特に問題はないようね。

「……どんなに着飾ったって元が化け物であることは関係ないのだから」

 ぽつりと吐いた独り言は自分でも驚く程に暗く冷たいものだったわ……。

 ムジルに行って来るわ。と、伝えて彼の綺麗なさえずりを聞きながら部屋を後にした。婆やには服装の事で色々文句を言われたけど、そんんな事一々気にしないわ。だって婆やとの喧嘩なんて、顔を合わせればいつもやっていることなのですもの。

 今回のお見合い相手はドバイの貴族様ですって。まあ……玉の輿かしら? なんてつまらない冗談を言うのはやめましょう。

 言ったも通り顔面兵器、身体も手術だらけでボロボロ、もうあまり永くは生きられないと医者から匙が投げられてしまった、可愛そうなお姫様。
彼女の両親は、跡継ぎが産めないのなら有益な組織との癒着するための贄となれ、王族・貴族誰でもいいから政略結婚をしろとのことらしいわ。
血のつながらない育ての親だからこそ言える台詞なのね。きっと。

 辺境の古城に住む、クレオパトラをも嫉妬させるような絶世の美女。
絶世の美女と言われたら誰だって食いつくわ。だって人間という生き物は馬鹿な人ばかりだから。
そんな人この世界の何処を探したっていないのに、いるのは退屈に殺された化け物だけなのに……今日も騙された馬鹿とお見合いをするの。

 でも化け物と結婚してくれって言われて誰が結婚するかしら?

「化け物!!! ひゃああああああああああ!! 助けてくれ! 金はいくらでも払うから、命だけはっ! 僕様の命だけは助けてくれぇえええええ!!」

 結果はいつもわかりきっている事。向かい合い顔を上げた瞬間、鼻たれ貴族のお坊ちゃまは腰を抜かして逃げてしまわれるの。

 そして家には口封じや色々とね、黒いお金が従者を使わして持って来させるのよ。前に見たのはいくらだったかしら。百万が一つの束になったものでピラミッドが建てられていたわ。

――本当につまらない世界。つまらない人達ね。

 本日のお仕事は終了。さあ、醜い化け物は全てが白い何もない牢獄へ閉じ込めてしまいましょう。大丈夫、話し合いてに鳥を入れておけば化け物は何も言い返さない。さあ、入った、入った。
自分の部屋に入る時にいつも流れる音楽。ちょっとした退屈しのぎにはなるのかもしれないわね。

 いつものように罵られ、お見合い相手からお断りされて、大金が持ち寄られ、化け物は牢獄に囚われ、帰って来た化け物を青い鳥が出迎え――

「…………」

 る、はずなのよ。いつもだったらね。

「ひ、姫様! ムジルが、ムジルの姿が何処にもありません!!」
「ああ、そんな大きな声で叫ばないで。がらんとなった鳥籠を見れば誰だってすぐにわかるわよ」

 慌てふためく婆やに蔑むような視線を送る。やっとその視線に気が付いてくれた婆やは、キッと鳥籠を睨み付け

「なんて恩知らずの鳥だろうね!
 怪我して飛べなくなったあんたを介抱して飛べるまでにしてやったのは姫様だってのにっ! なんて恩知らずな罰当たりな鳥なんだろう!」

 ぼそりと最後に「……鳥籠に囚われてんのは姫様も同じだってのに」と、言っていたように聞こえたのは空耳かしら。

 がみがみとまだムジルに悪態つく婆や。高々鳥一匹に何をそんなに怒っているのかしら。もしかして窓を閉め忘れた私への当て付けかしら。
なんてことを思いながら、冷たい北風が入る窓を閉めた。

「ピヨッピヨピヨッ」
「……ぁ」

 窓を閉める一瞬、彼の綺麗な歌声が聞こえたような気がした。
そう、貴方は自由の世界に帰ったのね。……私を置いて。

「ふっ、冗談よ」
「姫様?」

 くすりと笑ったのがそんなに変だったかしら? 婆やは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして固まっているわ。

「そうね、次に飼うのは鳩でもいいかもしれないわね――」









                          *鳥籠のお姫様*fan 
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