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緋弾のアリア ~とある武偵の活動録~

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over Tokyo Bay―

「アリアの双剣双銃は本物じゃない。お前はまだ知らない。この力の事を―!」

しゅるっ………しゅるるっ。

不敵な笑みをたてながら、ツーサイドアップのツインテールの片方が―神話のメドゥーサのように、動いて―

シャッ!

背後に隠していたと思われるナイフを握り、アリアに斬りかかった。

「!」

1発目は驚きながらも避けたアリアだが―

「あはっ。次はどうかなー?」

ヒュッ!

ESSの反射神経と視力で捉えたその髪は―アリアの側頭動脈を狙っている。

「っ!」

俺はすかさず理子の髪を斬ろうと、剣を振るう。
―が、一瞬遅かった。

ザシュッ!

ヒュンッ!

刹那、聞こえたのは―1つにも聞こえそうな2つの音。
理子の髪の毛がアリアを斬りつける音と俺の剣が空ぶった音だ。

「うぁっ!」

アリアが真後ろにのけ反る。

…ちっ、側頭部をやられた。だいぶ深いぞ―!

「はは……曾お爺さま……108年の歳月は、こんなにも子孫に差を作っちゃうもんなんだね。勝負にならない。コイツ―自分の力すら使えてない!」

ザッ!

追い討ちをかけるように、その髪でアリアを突き飛ばす。 かなりの怪力なのか―アリアはいとも簡単に突き飛ばされてしまった。

「アリアっ…………!!」

俺はアリアを守るように胸元へ抱き抱える。
その頭からは、血がじわ……と流れてくる。

「勝てる……勝てるよ!理子は今日、理子になれる!」

またしても意味の分からないことを叫びながら、ナイフに付いた血を、ペロッ。美味しそうに舐める。

―ありえん。アイツは……バケモノだ。
早くアリアを連れて逃げないと………!

「きゃはははっ!ねえねえ、この狭い飛行機の中―どこへ行こうっていうの―?」

背後から聞こえてくる理子の声。

そんなのを気にしているヒマはない。
今は一刻も早く―アリアを助けなければ……!

お姫様抱っこで抱えたアリアは、驚くほど軽かった。
…人間というものは、暴れてたりこわばってたりすると実際より重く感じられる。
今のアリアは意識が途切れかけているのか、脱力しきっている。

さっきのスィートルーム…アリアの部屋に逃げ込んだ俺は、アリアをベッドに横たわせた。
血まみれの顔面と頭を、備え付けてあったタオルで拭ってやる。

「う…………っ」

うめくアリアのこめかみの上、側頭動脈には深い切り傷がついている。
頸動脈ほどの急所ではないが、すぐさま止血しないと―

「アリア、しっかりしろ……傷は浅い!」

武偵手帳に挟んであった止血テープで、アリアの傷を塞ぐ。だが……止血テープとはワセリンで強引に血を止めるだけの、その場しのぎにしかならないモノ。
アリアもそれが分かっているのだろう。俺の嘘を力なく、笑って流した。

―次だ。
思いっきり武偵手帳のペンホルダーに指を突っ込み、中から『Razzo(ラッツォ)』と書かれた小型注射器を取り出す。

「アリア、ラッツォ―行くぞ!アレルギーは無いな?」

「な…………い……」

とても弱々しい声で、返してきた。

ラッツォ。アドレナリンとモルヒネを凝縮したような―気付け薬と鎮痛剤を合わせた、要は復活薬だ。

「ラッツォは心臓に直接打つ薬だ。―いいか、これは必要悪だからな」

「ヘ、ヘンなことしたら…………風…穴……」

「ああ―俺に風穴空けられるくらいに、元気になってくれよ―!」

ジジッ……とブラウスのファスナーを下ろし、ラッツォを打つ場所を探す。

胸骨から指2本分……ここだ。
ちょうどここのフロントホックの辺り。

「う……こ、怖い…………」

「アリア……聞こえるか!打つぞ―」

アリアは何も、答えない。ピクリとも動かない。

心臓の鼓動が……止まってる―!

ピンっ。とキャップを口で外し、思いっきり注射針を突き立てた。そして、ギュッ。薬剤を投入する。

「―戻れっ!」

ビクッ!とアリアの体が痙攣し、それに合わせて顔も赤くなっていく。

「―~っはあっ!」

「!」

「って…えっ!?な……何これ…む、胸っ!?」

「自分の胸元見てみろ、そうすれば分かる」

アリアの胸元には、ぷら~と突き立ててある注射器―ラッツォがある。

「ギャーッ!!」

JKとは思えない声を出し、注射器を乱暴に引っこ抜く。

「そ……そうだ。お前は理子にやられて、俺がラッツォで―」

「―理子………理子ーッ!」

ガシャッとガバメントを取り、乱暴に服を整え、扉に向かって走り出してしまう。

―ラッツォは復活薬と同時に興奮剤でもある。
アリアはクスリが効きやすい体質なのか―正気を失っているようだ。

自分と理子の戦力優劣が理解できていない―!

「ちょっ、待てアリア!」

俺はアリアの細っそい腕を鷲掴みにする。

「マトモに戦っても、今の理子には勝てないぞ!」

「そんなの関係ない!は・な・せ!!」

俺に手を鷲掴みにされたまま、鋭い犬歯をむいて喚く。

「少し静かにしろ!このままだと、同じ部屋にいて、俺とお前のチームワークが働いていないことがバレる!」

「そんなの別に構わない!」

っ……どうすれば黙ってくれるんだよ!

「理子はあたし1人で片付ける!だからチームワークなんてどうでもいい!」

俺の腕を振りほどいて扉に行こうとするアリアを、必死に押さえつける。

この両手は離せない。絶対に。
両手を離さずに、アリアを止める方法は―

―刹那、ある映像が頭の中でフラッシュバックされる。

(恋愛なんて…そんな時間の無駄、どうでもいい!)

アリアは…恋愛関係の話をすると、事あるごとにキョドったり、恥ずかしさで硬直したりしていた。
これにはちょっと抵抗があったが……事件解決のためだ。背に腹は変えられない。

決断した俺は、足を一歩踏み出し…アリアの唇へと、顔を近付ける。

「―~っ!?」

「ぷはぁっ!」

思った通り―固まってくれたか。
それに…今のでESSもかなり強化されただろう。

「か……か………かざ…………あにゃ……」

「悪かった、アリア。こうするしかなくてな」

「バ……バカッ!あんた、こんなときに…なんてことすんのよっ!ファ…ファ…ファーストキスだったのに…!」

「……安心しろ。俺もだ」

「そーゆー問題じゃなくてっ!せ……責任…………!」

「責任はとってやる、が。…今は―仕事が先だ」

「……あんた、なったのね?」

口調から悟ったのか…冷静な声で、言ってくる。

「ああ。……さて、武偵憲章1条。協力して、武偵殺しを逮捕するぞ」



「バッドエンドのお時間ですよー?くふっ、くふふっ」

理子はどこからか持ってきた鍵で、部屋の扉を開け、ナイフを握っている髪の毛を、手のようにして扉を押さえながら―両手には、ワルサーp99を構えて笑い掛けてきた。

「もしかしたら仲間割れして自滅しちゃうかなー、なんて思ってたんだけど。そうでもなかったみたいなんで、ここで理子りんの登場でぇーす」

そして…俺の変化に気付いたのか、嬉しそうに銃をカチンカチンと鳴らした。

「あはっ。アリアと何かしたんだ?よく出来たねぇ、こんな状況下で」

まるで俺のESSの発動条件―βエンドルフィンの分泌方法を知っているみたいな言い方だな。

「で、アリアは?死んじゃった?」

理子がベッドを指差す。
あれはダミーだ。枕と毛布を詰めて、人がいる風に見せているだけ。

「さあな、どうだと思う?」

チラッ、とシャワールームを見ると、理子は目ざとくその視線を追った。

「ああ………そういうの、ステキ。勢い余って殺しちゃうかも」

「こっちとしては殺さないで欲しいんだが…まぁ、殺すつもりで来た方がいい。じゃないとそっちが殺られるぞ?」

「さいっこー―見せて、オルメスのパートナーの力」

ワルサーの引き金を引こうとした理子に、俺はベッドの脇に隠しておいた酸素ボンベを盾にするように掲げる。

「―!」

撃てば、爆発する。理子ごと、そして俺ごと。
理子の手が、一瞬止まる。一瞬あれば十分だ。ゼロ距離ならば―体格で圧倒出来るだろう。

シャンッ!と背中の西洋剣を抜き、ベレッタを構える。

「―!」

理子が眉を寄せた、その瞬間。
再び、ぐらり。と機体が斜めに揺れる。
斜めに傾いた部屋の中で―ワルサーの銃口がこっちに向いているのが見えた。

狙いは―俺の額。 そして―

―パァンっ!

銃弾が発射される。
これは…避けられない。正面に銃弾、仮に避けても、側面にはナイフが投擲されるだろう。

ならば―

ギィィィィンッ!!

―剣を縦に構え、銃弾を切る。

…本当に、自分のやったことに驚いた。
『弾丸切り(スプリット)』今回のESSは、かなりの力だな。

すぐさま理子のワルサーを撃ち、両方とも手から落とさせる。

「ッ!」

「動くな!」

理子の動きを数瞬止めた後―

「アリア!」

―がたんっ!

天井のキャビネットに潜んでいたアリアが、日本刀を2本、抜刀すると同時に―理子のツインテールを切り落とす。

「理子・峰・リュパン4世…」

「…殺人未遂の現行犯で―」

「―逮捕する!!」


~Please to the next time!
















 
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