緋弾のアリア ~とある武偵の活動録~
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~The hijack BUTEIkiller true criminal~
ぎり……と推理のニガテなアリアが歯ぎしりした、その時に―
ポポーンポポポン。ポポーン。ポポーンポポーンポーン…………
「「和文モールス…………」」
俺とアリアが、揃って呟く。
直後に俺は、その点滅を解読しようと試みる。
オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ
オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ
「…………誘ってるのか」
「上等よ。行ってやるわ」
と言って、2丁拳銃を抜く。
じゃあ、俺もだな。
チャキッ……と懐から、ベレッタ・DEを抜いた。
「それじゃあ―」
「―いきますか」
床に点々と灯る非常灯に従いながら、俺たちは慎重に1階のバーへと向かう。
そこは豪奢に飾り立てられたバーで、そのシャンデリアの下。そこには……
足を組んで座っている女がいた。さっきのCAだ。
「…………!」
拳銃を向けつつ、俺は眉を寄せる。
そのCAは、武偵高の制服を着ていた。それもヒラヒラな改造制服で、バニエで膨らませたそのスカートは―さっきのクラブ・エステーラで理子が着ていたもの。
「今回も、見事に引っ掛かってくれやがりましたねぇ」
そう言いながらソイツは、顔に被せていた薄いマスクを自ら剥いだ。中から出てきたのは―
「―理子!?」
アリアが、驚愕の声を上げる。
「Bon soir(こんばんは)」
くいっ。と手にしたカクテルを飲み、パチン。俺にウインクをしてきたのは―やはり、理子だ。
俺と台場のクラブで別れてから、あの改造ベスパでこの飛行機を追ったというのか?そしてCAに化けて、武偵徽章を使い―潜り込んだ?
「アタマとカラダで戦う系の才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にも、お前たちみたいな遺伝系の天才がけっこういる。でも…………お前の一族は特別だよ、『オルメス』」
「―!」
その言葉を聞いたとたん、アリアの体が硬直する。
『オルメス』……?
それがアリアの『H』家の名前か?
「あんた……いったい…………!?」
ビカッ!と光った稲光をバックに、理子がニヤァ、っと笑う。
「理子・峰・リュパン4世。それが理子の本当の名前」
リュパン………アルセーヌ・リュパン。
世界を又に駆ける、有名なフランスの大怪盗だ。
理子はアルセーヌ・リュパンの……曾孫だというのか!?
「でも……家の人間は、みんな理子を『理子』って呼んでくれなかった。お母さまがつけてくれた、このかっわいい名前を。呼び方がおかしいんだよ、みんな」
「おかしい…………?」
アリアが、呟く。
「4世、4世、4世さまぁー。どいつもこいつも、使用人どもまで……理子をそう呼んでたんだよ。ひっどいよねぇー」
「な、何よ…………4世の何が悪いって言うのよ」
なぜかハッキリとそう言ったアリアに、理子は目玉をひん剥く。
「―悪いに決まってんだろ!!あたしは数字か!?ただの、DNAかよ!?あたしは理子だ!数字じゃない!!」
突如、キレた理子は―俺たちじゃない誰かに向かって、叫び、怒っていた。
「曾お爺さまを越えなければ、あたしはただの『リュパン家の曾孫』として扱われる。だからイ・ウーに入って、この力を得た―この力で、あたしはもぎ取るんだ―あたしを!」
……何だ?何を言っているのか、微塵も分からない。
ただ、アリアだけは―理子の話を、深刻な面持ちで聞いていた。
「……1つ聞くぞ、理子。武偵殺しは―お前の仕業だったのか?」
「武偵殺し……?ああ、あんなの」
じろ、とアリアを見て―
「プロローグを兼ねたお遊びよ。本命はオルメス4世―アリア、お前だ」
その眼は最早、いつもの理子の眼ではなく……獲物を狙う獣のよう。
「100年前、曾お爺さま同士の対決は引き分けだった。つまりオルメス4世を倒せば、あたしは曾お爺さまを越えたことを証明できる。……彩斗、お前もちゃんと役割を果たせよ? 」
役割……H家のパートナーとしての、役割、か。
いいだろう、やってやる。もちろんESSで、な。
じわ……と脳内伝達物質βエンドルフィンを分泌させ、脳波をγ波に移行させていく。
ただ、自分で分泌させるとなると少し時間がいる。
…話を、出来るだけ引き伸ばそう。
「オルメスの一族にはパートナーが必要なんだ。曾お爺さまと戦った初代オルメスにも、優秀なパートナーがいた。条件を合わせるために、お前とアリアをくっ付けたんだよ」
「お前が…………?」
全て、計算通りだったってわけか。
ナメられたもんだな…俺も。
「そっ」
理子はいつもの軽い調子に戻り、くふっ、と笑う。
このバカ理子を―演じてたのか。今まで。
「あっくんのチャリに爆弾を仕掛けて、わっかりやすぅーい電波を出してあげてたの」
「……あたしが武偵殺しの電波を追ってることに、気付いてたのね…………!」
「そりゃー、気付くよー?あんなに頻繁に情報科に出入りしてればねー」
「……理子、お前が武偵殺しだってことは―浦賀沖海難事故、シージャックもお前の仕業だな 」
「そ、理子がやったよ。ついでに―キーくんのお兄さんもね」
やっぱり、理子が金一さんを……!
怒りのためか、グリップを握る手に力を込めたその時―!
「おーらら♪」
飛行機がまた、ぐらり、と揺れた。
次の瞬間、左手からDEが消えていて―がしゃん、がしゃ……と音を立て、落っこちていく。
それと同時に、ESSも発動した。
見えたのは、こっちにワルサーP99を向けた理子の笑顔。
「ノン、ノン。ダメだよ彩斗。オルメスのパートナーは戦うパートナーじゃないの。パンピーの視点からヒントを与えて、オルメスの能力を引き出す。そういう活躍をしなきゃ」
うっとりとご高説をぶった理子を見て―その隙に、アリアが床を蹴って動く。
バンッ、と床を蹴った後、2丁拳銃を構えて襲いかかる。いける、と判断したのだろう。理子のワルサーを見て。
常に防弾制服を着用している武偵同士の戦いでは、拳銃は一撃必殺の刺突武器にはなりえない。打撃武器だ。
となると物を言うのは、総弾数だが―あのスカートの中に、20発でも30発でも入るUZIを隠し持たれてたらこっちが不利だ。だが通常、ワルサーP99には16発までしか入らない。
対するアリアのガバメントは―7発。エジェクションポートに手で1発入れておくか、チェンバーに予め入れておく必要がある。そうすれば8発、互角だ。
「アリアー、2丁拳銃が自分だけとか思っちゃダメだよ?」
バッ、とカクテルグラスを投げ捨て、その手で―スカートからもう1丁、ワルサーを出してきた。
「―!」
だが、アリアはもう止まるわけにはいかない。
バリバリバリッ!という音を立てて、至近距離から理子をガバメントで撃ち始めた。
「くっ………このっ!」
「あはっ!あははははっ!」
お互いがお互いを撃とうとせめぎあう。
……武偵法9条。武偵は如何なる状況であっても、人を射殺してはならない。
アリアはそれをキチンと守り、理子の頭は狙わない。
理子も合わせているのか、アリアの頭を狙うようなことはしない。
まるで格闘技のように、2人の手が交差する。
武偵同士の近接拳銃戦(アル・カタ)戦は、射撃線を避け、躱し、或いは相手の腕を自分の手で弾き…の戦いだ。
―ガキンガキンッ!!
全く同じ瞬間に、互いの銃が弾切れを起こす。
その瞬間、アリアは両腕で理子の両腕を抱えた。
「―はっ!」
2人は抱き合っているような姿勢になり、理子の銃撃も止む。
―近接格闘技なら、アリアの方に分がありそうだ!
「彩斗!」
アリアに言われるまでもない。
―シャンッ!
背中の西洋剣を抜き、ベレッタを構える。
銃1、剣1の―ガン・エッジという構え方だ。
非常灯の下で、剣の刀身が銀色に光る。
「そこまでだ、理子。もう降参したらどうだ?」
アリアの背後に突き出ているワルサーに注意しつつ、近付こうとした時―
「双剣双銃―奇遇よね、アリア」
「奇遇……?」
「理子とアリアはいろんなところが似てる。キュートなところとか、髪型とか…………二つ名とか」
「……?」
「あたしも同じ名前を持ってるのよ。『双剣双銃の理子』でもね、アリア」
踏み出そうとした俺の足が、止まる。
止まらざるを得ない。その、不気味な光景に。
「なっ……!」
「アリアの双剣双銃は本物じゃない。お前はまだ知らない。この力の事を―!」
しゅるっ………しゅるるっ。
不敵な笑みをたてながら、ツーサイドアップのツインテールの片方が―神話のメドゥーサのように、動いて―
シャッ!
背後に隠していたと思われるナイフを握り、アリアに斬りかかった。
「!」
1発目は驚きながらも避けたアリアだが―
「あはっ。次はどうかなー?」
ヒュッ!
ESSの反射神経と視力で捉えたその髪は―アリアの側頭動脈を狙っている。
「っ!」
俺はすかさず理子の髪を斬ろうと、剣を振るう。
―が、一瞬遅かった。
ザシュッ!
ヒュンッ!
刹那、聞こえたのは―1つにも聞こえそうな2つの音。
理子の髪の毛がアリアを斬りつける音と俺の剣が空ぶった音だ。
「うぁっ!」
アリアが真後ろにのけ反る。
…ちっ、側頭部をやられた。だいぶ深いぞ―!
ここは逃げの一手か……!
~Please to the next time!
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