千雨の幻想
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4時間目
子供先生VS吸血鬼&ロボットという奇妙な戦いがあった次の日。
ネギ・スプリングフィールドは放課後まで元気がなく、つねにエヴァンジェリンにおびえていた。
それもそのはず、いくら教師をやっているとはいえ彼はたった10歳の子供に過ぎない。いくら知識や魔法を上手に扱えようとも、その精神は10歳の子供そのものでしかないのだ。
そのような子供が相手も見た目は幼い子供とはいえ自身の何十倍もを生きる吸血鬼に襲われ、死の恐怖というものを初めて味わったのだ。彼が恐怖するのも無理はないといえよう。
そんなネギ先生を慰め、また彼がパートナー(結婚相手)を探しているという噂を聞きつけた3-Aの生徒たちはネギ先生を拉致、『ネギ先生を元気づける会』という名の逆セクハラ大会を行った。
3-Aの明るさに少し元気を取り戻したネギのもとに、ネギの故郷であるウェールズにて下着泥棒の容疑であわや逮捕・収監されかけたアルベール・カモミールが駆け付けたのであった。
正直なところ前科が前科なので頼りないとも思われたが、彼がもたらした『仮契約』という儀式はエヴァンジェリンに対抗する切り札となりえるものであった。
そんなネギ一向に心強い?仲間が加わったころ、千雨は幻想郷にいた。
「よお」
「……やあ、こんな夜遅くに何か入り用かい?」
香霖堂。そこは幻想郷の外、内問わず様々なマジックアイテムやがらくたなどが集まる何でも屋。
店の中央にいた男性は手に持っていた古本を机に置き、千雨に向き直る。
彼はこの店の店主、”知足不辱の古道具屋”森近霖之助。
「ああちょっと……近いうちにあっちで色々する予定があってなぁ、最悪私自身が出向かなきゃならんかもしれない」
「へえ、それでどんな品をご所望で?」
店主は問いかける。
「そうだな、できれば正体をわからなくするマジックアイテムみたいなものないか?」
ふむ、と店主は考え込むそぶりをし。
「どの程度正体を隠したいかにもよるが、ちょうどかぶった人の姿かたちに関する記憶をあいまいにさせるお面なその棚に飾ってあるよ」
と指さす。
つられて千雨はその方向を目で追うと、その先にあったものは白地に青の紋様が描かれた古い狐の面だった。
「しかし、わざわざそんなものに頼らなくったて、君なら正体を隠すことくらいできそうなものだがね」
怪訝そうに店主が言う。
「ああできるっちゃできるが、そっちに集中しちまうとほかの動きが疎かになっちまう、それに事故や不意打ちなんかあったら能力を解いちまうかもしれんしな」
そういいながら彼女は仮面を手に取る。
それは思っていたよりも軽く、この仮面をつけたままで戦ったとしても何の問題もないように思えた。
「まあ君にも考えがあるようだし詮索はしないさ、じゃあとりあえず」
「はいよ」
と千雨は鞄からいくつか物を取り出し、机に並べる。
それは古い携帯電話、ポケベル、古びたラジオ、スライム、懐中電灯やブリキのロボットなど共通点は皆無なガラクタを並べていく。
「毎度悪いな、こんなものしか持ってこれなくて」
「いいや十分さ、外の世界のものは貴重だからね、君や宇佐見君が持ってきてくれるようになってから外の品に困ることはなくなったさ」
そう言って店主は笑う。
「じゃあ、ありがたくもらってくわ」
千雨はそう言い残し、香霖堂から立ち去る。
彼女が次に向かったのは霧の湖のそばに建てられた深紅の館。
紅魔館であった。
「こんばんわ、レミリアさんに会いたいんだけど」
「あら珍しい、貴方がレミリアお嬢様に会いに来るなんて初めてじゃない?」
”華人小娘”紅美鈴。
紅魔館の門番である彼女は千雨を中へと招き入れる。
「ああ、ちょっと外で吸血鬼に会ったんでな、レミリアさんなら何か知ってるんじゃないかと思って」
「なるほど、確かにお嬢様ならご存知かもしれませんね」
そこから二人、世間話に花を咲かせながら真っ赤に彩られた廊下歩くこと数分、とある扉の前に到着した。
「お嬢様、お客様がお見えになりました」
「通しなさい」
幼い少女の声が聞こえると美鈴は扉をゆっくりと開ける。
応接間の奥、広めのソファーに腰を掛け優雅にこちらを見つめる少女が一人。
彼女こそが”永遠に幼い紅い月”レミリア・スカーレットである。
幼い見た目に反しその実齢500を超えるその吸血鬼は片手をソファーに向け、千雨に腰かけるように促す。
千雨はそれに従い、ゆっくりと腰かける。
「久しぶりね千雨、前会ったのはいつだったかしら?」
「ちょっと前の宴会以来ですね、私はすぐに帰っちゃいましたけど」
次の日テストだったし、と補足する。
「それで、千雨は何を知りたいのかしら?」
「レミリアさんはエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルという吸血鬼を知っていますか?」
その名を告げると、レミリアは少し驚いたように言う。
「へぇ、あいつの名前を聞くことになるとは思わなかったわ、どこであったの?」
「……私のクラスメイトです」
「…………はい?」
~少女事情説明中~
「あははははははははは!!」
事情を聴き終えたレミリアはおなかを抱えて大笑いし始める。
「そうそう簡単に死ぬようなやつじゃないとは思ってたけど! まさかそんなことになってるなんて!」
そう言っては再び笑い始める彼女が落ち着くまで数分かかったという。
「あはは、は……、あー笑ったり笑った、こんなに笑ったのは久しぶりかしら」
瞳に涙を浮かべ、楽しそうに言う。
「確かにあいつのことは知ってるわ、ここ数十年会ってはいなかったけど私とあいつは友達よ」
パチェほどじゃないけどね、と補足する。
「あいつの吸血鬼としての力はそれほどじゃないけど、再生能力や魔法使いとしての力は目を見張るものがあるわ、あいつ不死だからなかなか殺せないし、それ以前に並大抵の人間は氷漬けにされるわね」
そもそも吸血鬼だからというより彼女だから恐れられてるのよね、とレミリアは言う。
「一回あってみるのも面白そうだけど、あそこって邪魔な結界があるのよねえ」
結界、そう聞いて千雨の手に思わず力が入る。
麻帆良すべてを覆う巨大な結界。これには外部からの侵入者の感知、特定の人物・魔物・妖怪の能力低下などの効果を持つが、その中でも常に行使され続けているものがある。
それが、思考誘導である。
といってもそう効果のあるものではなく、せいぜいが明らかに不自然な物を自然であると思い込ませる程度である。
これは魔法の存在や世界樹の存在を隠蔽するために行使されている。
麻帆良に住む魔法使いたちは常に魔法が世界に知られるようになるような事態を未然に防いできた、この結界もその行動の一環であると考えられるが、不幸なことに千雨には一切効果を及ぼすことはなかった。
故に彼女は真実を見続け話続け、孤立した。
魔法をじかに見たものには思考誘導効果の限界を超えるため、魔法を認識してしまう。
そのため魔法使いたちは目撃者の記憶を消すことが多いが、千雨は魔法を見たわけではなかった。
ただ普通に暮らし、普通に考え、普通に発見してしまった。
そこに魔法使いたちのミスや油断はなく、原因は千雨本人にあるのだが、それはまた別の話。
もちろん、千雨のことは魔法使いたちの知れ渡ることとなった。
しかしただ普通に暮らしているだけの女の子に記憶消去という荒業を使うことにためらいがあり、またここで記憶を消しても再び異常を認識してしまうのではないかという懸念も挙げられた。
そうした会議が重ねられた結果、彼らが下した結論は『傍観』であった。
このまま異常を見ないふりして生きていくのもよし、こちら側を探りだしたら招き入れるもよし、……最悪彼女が異常に耐えられず麻帆良を去るのも傍観するつもりだった。
最初のうちは監視が付いていたが、何も行動を起こさない千雨に安心したのか三年もすると監視もつかなくなった。
彼女が、幻想郷に出入りしているとも知らずに。
閑話休題。
つまり、千雨にとってその結界は幼き頃のトラウマを作った元凶である。
今の千雨にはそれが必要なものであったことは理解はしているが、自身が経験した恐怖や怒り、くやしさがなくなるわけではない。
理性で理解しても、彼女の感情がそれを許さない。
彼女の魔法使いたちに対する第一印象はとてつもなく悪いといえるだろう。
「まあ、今のあいつなら千雨でも勝てるでしょうけど、全盛期なら無理ね、私でもあれなしだと手こずるもの」
そうね、と彼女は続ける。
「何もしなければあちらも何もしないだろうけど、ちょっかいをだすなら覚悟した方がいいかもしれないわね、……咲夜ー!」
「ここに」
レミリアが声を上げて名前を呼ぶと、彼女のすぐそば、今まで誰もいなかった空間に一人の女性が現れた。
”電光石火のメイド”十六夜咲夜。
紅魔館においてメイド長という地位に就く彼女には時を操る能力をもつ。
その力をもってすれば魔法のように急に現れたり消えたりするのも造作もないことだった。
「紙とペンを持ってきて、あと封筒も」
「どうぞ」
とレミリアに言われたものすべてをその場に差し出す。
「今から手紙を書くからあいつに渡しておいて、いつ渡すかわ千雨に任せるわ」
そう言って紙に羽ペンを走らせる。
「その間長谷川様は、こちらでも」
彼女は千雨の前に紅茶の入ったティーカップを差し出す。
「ああ、ありがたくいただくわ」
そのあと、レミリアが手紙を書き終わるまで紅茶を楽しみ。それでも書き終わらなかったため地下の大図書館へ足を運んだのであった。
後書き
二次創作お馴染みの認識阻害結界。
あれって実際どうなのでしょうね。
ちなみにお嬢様に若干強化入ってます。
主に門番のせいで。
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