ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
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第百二話 劣勢からの大転換を図ります。
ブラウンシュヴァイク公爵は旗艦ベルリンで酒杯を片手に戦況を見守っていた。フレーゲル男爵らを始めとする前衛艦隊2万余隻は、1万7000余隻の敵側と激闘を繰り返していた。
「何をしておるか!フレーゲルの奴め。あれほど大言壮語を繰り返しておきながら、まだ突破できんのか!!」
ブラウンシュヴァイクが苛立ちを見せる。
「本隊を前進させ、フレーゲル閣下らの援護をさせてはいかがでしょうか。さすれば敵も崩壊の速度を速めるかと思われますが。」
アンスバッハ准将が言った。
「やむを得んか。ぐずぐずすればあの小娘の援軍が戻ってくるやもしれぬ。手間取っていると面倒だ。全艦隊、全速前進!!」
と、ブラウンシュヴァイク公爵が指令を下したとき、変化が起こった。前衛のフレーゲル男爵らの勢いがにわかに増したのだ。
『叔父上!ついに敵の一翼を葬り去ることに成功しましたぞ!やはり敵は少数。限界点に近づいているものと思われます。』
「そうか!よし、よくやった!このまま一気に突き崩し、勝利をわが手にもたらすのだ!!」
『はいっ!!』
喜色満面のフレーゲル男爵を見たブラウンシュヴァイク公爵は別の人物の顔を思い出していた。
「ベルンシュタインは何をしておったのか。あれほど大言壮語をほざいておきながら、フレーゲルらの助けにもならんではないか。いったいどれだけの兵力を持たせたと思っておるのだ。ベルンシュタインからの報告はないか!?」
「まだありません!」
「役立たずめが。」
ブラウンシュヴァイク公爵が鼻を鳴らす。
「ベルンシュタイン中将閣下も進撃に手間取っておられたのやもしれません。敵が崩壊しだしたのもようやく背後に回ることができたからではないでしょうか。」
「フン。アンスバッハ、やけにあの者の肩を持つな。」
ブラウンシュヴァイク公爵が忌々しげに言う。ベルンシュタイン中将に対してフレーゲル男爵ともどもなんとなく薄気味悪さを感じているブラウンシュヴァイク公爵である。公の不機嫌の原因が何なのかを掴みかねているアンスバッハ准将は反論せず、黙ったままだった。
この時、前進するフレーゲル男爵以下前衛艦隊2万余隻におっつくべく、ブラウンシュヴァイク公本隊4万余隻は足を速めていた。勝利の果実がすぐそこにある。誰もがそう思っていた。
「こ、後方7時方向より大艦隊!!!」
「なに?何を寝ぼけておる。後ろに続くのはわが艦隊の後衛ではないか。」
ブラウンシュヴァイク公爵があきれ顔をする。直後、震動が旗艦ベルリンを襲い、ブラウンシュヴァイク公爵の持っていたワイングラスがすっ飛び、公の衣装に赤い染みを残した。
「う、右舷3時方向より先ほどの反応とは別の敵艦隊!!も、ものすごい速度で突っ込んできます!!」
再び震動がベルリンを襲った。同航する周りの戦艦群が自爆同然に爆発した衝撃波が襲ったのだ。
「状況を報告せよ!」
アンスバッハ准将が叫ぶ。
「う、右翼に展開する艦隊は一面黒一色です!数は1万4000隻余り!続いて後方から砲撃してくる敵艦隊は数1万5000隻余り!!」
「うろたえるな!各艦の艦列を立て直せ!右翼部隊は黒い艦隊を迎撃せよ!本隊中央は転進して後衛ともども敵を迎え撃て!!」
ブラウンシュヴァイク公爵が叫んだとき、同時にフレーゲル男爵から通信が入った。
『叔父上!!』
「なんだ!?この忙しいときに!!今我が艦隊は敵襲を受けておる!お前も引っ返して敵を挟撃するのに手をかさんか!!」
『そ、それが、こちらにも敵の反撃が及んでいま――!』
爆発四散する大音響が入ってきたのは、通信が混在してフレーゲル前衛艦隊2万余隻の他の艦の末路が偶然に入ってきたからだろう。
『援護を、掩護を!!!』
情けない声で助けを求める甥を顧みる余裕などブラウンシュヴァイク公爵にはなかった。
「そんな敵は捨て置いてこっちに戻ってこんか!!」
『しかし、こちらも支えきれません!!どうか、叔父上――。』
「帝国貴族の意地を見せつけるのだ!!泣き言はきかん!!自分で何とかしろ!!」
ブラウンシュヴァイク公爵は一方的に通信を切るように命じると、語気荒く叫んだ。
「ベルンシュタインはどうしたか!?いたずらに戦力を弄びおって!!至急こちらにこいと、ベルンシュタインに連絡せいッ!!」
「しかし、閣下。今ベルンシュタイン中将がフレーゲル男爵閣下らと敵を挟撃すれば、敵は崩れ去ります。しかる後にこちらの援護を行ってもよろしいのではないでしょうか。」
シュトライト准将が言う。
「馬鹿なことを申すな!!今敵はこちらを襲っておるのだぞ!!」
「敵は合わせても3万足らず、一方でわが本隊は4万余隻です。こちらが冷静に迎撃に徹すれば、敵の勢いは削がれます。」
またしても旗艦ベルリンを震動が襲った。それだけではなく漆黒の艦隊の姿がベルリンの硬質ガラスを通して見えだしたのである。
「貴様はあれを見てもまだそうほざくか!!!!」
ブラウンシュヴァイク公爵が度を越した狂乱の叫びをぶち上げると、手当たり次第に味方の艦隊に指令しまくった。
「ワシの旗艦に敵を近づけるな!!刺し違えてでも敵を倒せ!倒せ!!」
ブラウンシュヴァイク公爵の叫び続ける姿は、アンスバッハ、シュトライト両准将をしてもある種の寒気を覚えさせるほどのものだった。
* * * * *
「進め進め!我がシュワルツランツェンレイターの破壊力を、存分に見せつけてやるのだ!!なまっちろい顔をした青白い貴族連中共を片っ端からなぎ倒してやれ!!!」
ビッテンフェルトが艦橋で豪快に叫びまくる。
シュワルツランツェンレイターは絶好の位置に陣取り、その破壊力を存分に駆使して、暴風のごとく暴れまわった。1万4000余隻の艦隊が、3倍近い兵力差の相手を翻弄しているのである。シュワルツランツェンレイターの行くところ、その進路上に無数の光球が明滅し、さながらパレードのごとく艦隊はブラウンシュヴァイク公爵本隊の間を練り歩いていく。
「艦列を整え、応戦体制を構築せよ!!」
ブラウンシュヴァイク公爵が叫びまくっているが、指揮官は四分五裂した部隊をまとめるだけで手いっぱいだ。一つには後方に展開するフィオーナ本隊が正確な狙撃を仕掛けてきており、応戦しようと集結するところをバタバタとやられてしまうためであった。
さらに、間断なくアースグリム改級から放たれる――もちろんビッテンフェルト艦隊に当たらないように配慮していたが――波動砲がブラウンシュヴァイク公爵本隊の戦力を削り取る。
「わが軍の艦艇残存数およそ3万1000!!既に1万隻近くが撃破され、撃沈しております!!」
「ブルコヴィッツ侯爵戦死!!」
「フローテン子爵の旗艦、爆発四散!!」
「ネルケン男爵の旗艦、通信途絶しました!!」
という、刻々と戦況不利の報告が入り続けていた。
「敵の黒色艦隊、いったんわが軍を突破して抜けていきます!」
ブラウンシュヴァイク公爵がほっとしたのも束の間だった。これで反撃の糸口をつかめると思ったのも数秒だった。
「敵のアースグリム級波動砲砲撃、来ます!!」
待っていたかのように、ブラウンシュヴァイク公爵本隊後衛を襲っている艦隊から波動砲の斉射が起こった。光の奔流が次々とブラウンシュヴァイク公爵本隊を襲い、貫き、数千隻の艦隊が一気に爆沈していった。
「おのれ、反乱軍用兵器を、まさか、我々に向けてくるとは・・・・!」
ブラウンシュヴァイク公爵や貴族たちは歯噛みした。アースグリム級超波動砲といい、イゼルローン要塞のトールハンマーといい、虫けらどもを殺虫剤で退治するような所業である。平民にふさわしい無残な死よ、と貴族連中はそう言いあってけなしていた。
リッテンハイム侯爵討伐戦において、超兵器の使用を許可したのも、リッテンハイム陣営を貴族からの脱落者だとみなしたからである。だからこそ、平民共の反乱軍に対して使用した兵器の使用許可を与えたのだったが、それが他ならぬ自分たちに向けられるとなると、話は違う。
それが意外な方向に作用した。
「あの小癪な兵器を使用する艦隊を、撃滅せよ!!!}
という命令は期せずして同時に貴族連合艦隊の各指揮官から発せられ、フィオーナ本隊にブラウンシュヴァイク公爵本隊が殺到することとなったのである。
「距離を保ちます!!」
遠征軍総司令は素早く、迅速に命令を下した。1万5000隻は一糸乱れぬ行動をとり、アースグリム改級を支援するように激しい砲撃を叩きつけながら、収容し、後退を開始した。
「逃がすな!!」
「追え!!」
貴族連合艦隊は後退するフィオーナ本隊に追いすがった。前衛艦隊と敵の追撃艦隊との間で激しい砲撃が展開された。フィオーナの緩急自在な指揮ぶりによって、追撃する貴族連合艦隊は追撃しようとする都度、側面から飛び出してきた掩護艦隊に叩かれ、怯むところを距離を開けられ、追尾しようと行動を起こそうとすると飛来してくるミサイルに阻まれ、排除しようとした際に放たれた機雷に接触して大打撃を受けるなど、翻弄され続けている。
正面からの敵は抑えられるか、と誰もが思った時だった。
「後方より別働部隊が接近中!!」
ヘルヴォールの艦橋に緊迫した声が響く。
「もう、来たの!?」
サビーネが後ろを振り向く。見えない敵を見定めようというかのように。
「後方の敵との距離は?」
「もう、いくらもありません!!こちらの電波妨害を逆手に取って、索敵網の盲点を突いてきた模様です!!」
フィオーナは10秒ほど考えていたが、
「ビッテンフェルト艦隊の位置は?」
「敵本隊の後尾に食らいついて、これを叩き続けています。」
「ビッテンフェルト艦隊にはその姿勢のまま砲撃を継続するように指示、本隊はなおも後退を続けます。」
「それでは、挟撃されてしまいますわ!」
エステルが叫ぶ。それにフィオーナは強くうなずき返す。
「大丈夫、挟撃体制には絶対させない。・・・・本隊は後退を継続!!」
フィオーナの眼前には正確な敵味方の配置図が構築されている。前衛艦隊のアレットとロワールはフレーゲル前衛艦隊をアステロイド帯で迎え撃ち、これをくぎ付けにしている。ブラウンシュヴァイク公本隊はフィオーナ本隊を追撃し、その背後をビッテンフェルト艦隊が追尾している。そしてフィオーナ艦隊の背後にはベルンシュタイン率いる別働部隊が接触しつつある。
「後方の味方が別働部隊からの砲撃を受けつつあります!」
「前方の敵も速度を上げて追尾してきます!」
「後方の部隊はシールド効率を最大展開!前衛艦隊は砲撃を倍加!!」
フィオーナがすかさず指令を下す。
「閣下!!」
サビーネが思わず叫ぶ。敵の砲撃は前衛の反撃に誘われるように倍加してヘルヴォールの周囲にも砲撃が及び始めていた。旗艦が一度ならず砲撃による衝撃で震動する。シールドで跳ね返しているものの、このままでは旗艦にすら被害が及ぶ。前衛艦隊からも、ビッテンフェルト艦隊からも本隊を危惧する確認の通信が届いている。このままでは――。
「サビーネ。」
突如、フィオーナがサビーネを見た。澄んだ穏やかな声でこういったのである。
「全艦隊に通信、フォーメーションXを指令。」
あれこれ考えるより先にサビーネは指令を下していた。反問する暇は今はなかったし、副官を続けていてそのような習慣がついてしまっていたのだ。
「全艦隊、フォーメーションXを!!」
ヘルヴォールから強力な通信が四方八方に届き、艦隊はそれを受け取り起動させた瞬間、機関がただちに始動した。
「後方、前方の敵ともども距離を詰めてきています!!」
と、オペレーターが狼狽した声があがったが、
「これは・・・・!!」
と、自分自身の眼を疑う声に代わっていた。フィオーナ艦隊は急激な運動を起こしていた。上下左右に散開し、ブラウンシュヴァイク公爵を通す格好になったのである。同時に後方から接近し続けるベルンシュタインの別働部隊も。
その絶妙なタイミングは一秒でも間違えば一気に全軍崩壊をもたらす危険なものだった。
ブラウンシュヴァイク陣営は狼狽した。フィオーナ艦隊がいなくなったと思えば、目の前には友軍が出現していたのである。互いに衝突を回避しようとして必死に衝突回避装置を作動させたが、数万隻規模の艦隊が同時に回避運動を起こすことは危険極まりない事だった。装置の稼働もむなしく、それを越えたところで限界が生じ、あちこちで衝突が起こったのである。
「ビッテンフェルト提督!!」
フィオーナの声がケーニス・ティーゲルに飛んだ。
「これが、狙いだったのか・・・・!おう!!全艦隊、砲撃を叩き付けろ!!敵は交錯して混乱に陥っているぞ!!」
シュワルツランツェンレイターからの砲撃はすさまじかった。正確かつ凶悪な砲撃がブラウンシュヴァイク本隊を襲った。散開したフィオーナ艦隊も今度は上下方向から密集するブラウンシュヴァイク艦隊に向かって驟雨のごとき砲撃を浴びせかけた。
これらの火と嵐は猛烈な宇宙気流のごとく、ブラウンシュヴァイク艦隊を翻弄し続けたのである。
* * * * *
「何をしておるか!?」
ブラウンシュヴァイク公爵は狼狽した声を上げた。本隊を追撃態勢に入り、追い詰めたと思ったのもつかの間、一瞬の後には鮮やかにかわされ、激烈な砲撃を受けることになったのである。4万余隻あったブラウンシュヴァイク公爵本隊と2万余隻あったベルンシュタイン中将の別働部隊は徹底的に打ち減らされ、半数以下に激減している。
「閣下、ここは敵に完全包囲される前に撤退すべきでしょう。このままでは損害が増すばかりです。」
アンスバッハ准将が言った。
「何を言うか!?あのような数で劣る敵に、我が方が撤退など――。」
アースグリム改級から放たれた波動砲の青い閃光がベルリンの左舷をかすめ、左側の盾艦を蒸発させた。ベルリンの側面部にも被害は及び、装甲剥離が始まっていた。ブラウンシュヴァイク公爵は衝撃で椅子から転落し、弾き飛ばされた。
艦内にアラームが鳴り響く。艦橋にも少なからず被害が及び、負傷者が続出した。
「・・・・・・・・。」
ブラウンシュヴァイク公爵は家臣たちに助けられ、顔を上げた。あちこちでうめき声が響き、医師たちが鞄を片手に走り回っている。血を流した者たちは白布を当てられたが、それもみるみるうちに血に染まっていく。
『お、叔父上!!』
乱れ切った声が聞こえた。ブラウンシュヴァイク公爵が顔を上げると、髪を振り乱したフレーゲル男爵がディスプレイ上に写っていた。
『も、もはや我が方の前衛は四散し、敵に包、包囲されつつあります!ど、どうか、どうか救援を――!!』
「・・・・・・・・。」
呆然と見つめるブラウンシュヴァイク公爵の眼にはフレーゲル男爵の後ろでうめいている幾人もの人間の姿、そして回り始めている火の手が見えていた。
『叔父上、叔父上、叔父上!!!』
狂ったように叫び続けるフレーゲル男爵。その姿には往時常日頃自分の側に仕え、大貴族の縁者として振る舞っていた姿は微塵も感じられなかった。そこにいたのはほこりにまみれ、汚れ、ただ叫び続ける人間の姿だった。
『どうか、どうか救援を、どうか――。』
「見苦しいわ!!!」
ブラウンシュヴァイク公爵が家臣の手を振り離して立ち上がった。何かが公爵の身体に火をつけていた。
「お前も大貴族の端くれならば、そして、儂の縁者であるならば、少しは貴族らしい振る舞いをせよ!!」
『・・・・・・!!』
フレーゲル男爵は叫ぶのをやめた。口がОの字になったまま呆けた様に固まってしまっている。
「大貴族が平民に負けるなどというたわけたことをしてみよ。即刻お前を貴族階級から蹴落とし、農奴にしてくれるわ!!何の為に大艦隊を与えたのか、わかっておるのか!?」
『・・・・・・!!!』
「貴族というものは、ただ上に立つだけが貴族ではないのだぞ。平民共の上を行くのが我々貴族なのだ!平民共よりも優っているのが貴族なのだ!!それにふさわしい振る舞いを求められるのもまた貴族なのだ!!!貴様は貴族の面汚しになるか!?!?」
『・・・・・・・・。』
「甘いところばかりを吸い続けおって。救援はできぬ。貴様も大貴族の端くれと自覚するならば、少しは己の力で努力して見せよ。」
『・・・・・・・・。』
「わかったな?」
フレーゲル男爵は最後まで何も言わず、通信を切った。悄然とうなだれ、そしてどこか呆けたような表情で。
「・・・・・フレーゲル男爵様の旗艦リューゲル、撃沈されました。離脱したシャトルはないとのことです。」
オペレーターが恐る恐る報告をシュトライト准将に持ってきたのは、それから4分後の事だった。その声はブラウンシュヴァイク公爵の耳にも届いていた。
シュトライト准将が言上しようとするのを、ブラウンシュヴァイク公爵は片手を上げて制した。今にもた蹴り狂うかと思ったが、ブラウンシュヴァイク公爵は瞑目しているのみだった。
* * * * *
数を減らす一方のブラウンシュヴァイク公爵陣営に対して、遠征軍の方は続々と増援が
集結しだしていた。この頃からフィオーナは繰り返しブラウンシュヴァイク公爵サイドに降伏勧告を発信し続けているが、応答はない。
キルヒアイス艦隊1万3000余隻が、ベルンシュタイン中将別働部隊の側面に出現し、退路を断って組織的な砲撃を仕掛け、バイエルン候エーバルトの艦隊1万余もブラウンシュヴァイク公爵側面に展開、ブラウンシュヴァイク公爵とベルンシュタイン艦隊は完全包囲の下に置かれた。
さらに、遅れて来たティアナ艦隊1万5000余隻は密集体形のままフレーゲル男爵らの前衛艦隊残存部隊に突撃し、アレットとロワールの支援に入った。
2時間後、ティアナ艦隊の援護のもと、フレーゲル男爵らの前衛艦隊を撃破することに成功したアレットとロワールも戦場に到着し、戦力差は完全にひっくり返った。
ヘルヴォールの艦橋では総司令官以下がディスプレイ上で戦況を見守っている。敢えて指示をしなくとも、完全包囲下に置かれた敵はその数を減らし続けている。幾度か強硬突破しようとする動きを見せたが、その都度フィオーナが部隊を動かしてそれを阻んだ。最後には敵の威力は減衰して、ただ撃たれるだけになってしまっていた。
「・・・・・・・。」
幾度目かの降伏勧告にも応じない敵側にフィオーナは内心と息を吐いた。だが、攻撃の手を休めれば、反撃は攻撃側に来る。その分だけ将兵が犠牲になる。だから手を休めるわけにはいかなかった。
フィオーナはサビーネを見た。青ざめた顔色だったが、それでもディスプレイから目をそらさない。恐らく先のリッテンハイム討伐戦における父親の姿を重ねているのだろう。
「・・・・敵の総数は?」
「およそ、2万隻余りです。」
当初ブラウンシュヴァイク公爵4万余隻、ベルンシュタイン中将2万余隻から、わずか3分の1になってしまっている。
「アースグリム改級全艦隊波動砲斉射、用意。」
フィオーナの指令に皆が愕然となった。
「同時に最後の勧告を試みます。それを拒むようであれば・・・・。」
ヘルヴォールの艦内のざわめきはもっともだった。ブラウンシュヴァイク公爵陣営の中には、少なからず女性士官学校の卒業生がいるのである。同胞相打つことになるのは、心苦しい。彼女たちの思いは痛いほどよくわかっていた。
だが、この戦いをやめることはできない。
「閣下!!」
突如狼狽した声が艦橋に上がった。
「そんな!?」
「そんな声を上げていちゃわからないでしょ?ホラ、ちゃんと状況報告をする!」
ヴェラ・ニール艦長が女性オペレーターをしかりつけた。
「ブラウンシュヴァイク公爵陣営で、同士討ちが起こっています!!」
思わず進み出たフィオーナ、エステル、そしてサビーネが互いに顔を見合わせる。
「通信を傍受しました!『裏切り者』という声があちこちで起こっています!!」
通信士官が声を上げた。
「誰!?」
数秒後、
「・・・・ベルンシュタイン中将!!」
と、返ってきた問いかけの答えにフィオーナは愕然となった。
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