ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
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第百一話 ブラウンシュヴァイク公爵との決戦です。
ブラウンシュヴァイク公爵討伐軍はブラウンシュヴァイク本星まで迫っていたが、ここにきて変化が訪れつつあった。
進軍を停止した遠征軍は各所にその戦力をばらまきつつあったのである。
「敵は、我が別働部隊の存在を探知し、それを先んじて攻撃することとした模様です。」
ブラウンシュヴァイク公の参謀の一人が発言した。
「それはまことか?」
その視線はベルンシュタイン中将に向けられている。このように仕向けたのも中将の作戦だったのだ。
各個撃破――。
数において劣るブラウンシュヴァイク公側に残された手段はそれしかなかったのだ。それを実現するために、あえてこちらも戦力を集中せず、囮をばらまいていたのである。その囮とは、シュターデン、フォーゲル、エルラッハ、ブリュッヘル艦隊の残存戦力だった。
少なからず戦力を散らし、フィオーナ艦隊の本隊がとどまっていた。その数5万余隻である。対するにブラウンシュヴァイク公爵派閥の保有する戦力は8万余隻であり、敵側の戦力を凌駕していた。
「敵が大幅に戦力を散らした今、一気にこの惑星を出撃して敵を葬るべきだ!!」
という意見が沸騰したのは言うまでもない。
「ベルンシュタイン中将の意見はどうか?」
ブラウンシュヴァイク公爵の問いかけを受けたベルンシュタイン中将の心境は複雑だった。できればもう少し戦力を散らしたかったのだが、敵は用心深くここにとどまっている。だが、これこそが敵の罠がない証拠ではないかと思った。罠ならばもう少し餌を美味しく見せびらかすものだからだ。だとすれば敵の戦力は5万余隻。四方に向かった軍が反転したとしてもこちらがその前に抑え込んでしまえばよい。
「異存ありません。この際出撃して一気に敵艦隊を撃滅し、帝都進軍への足掛かりをつかむのがよろしいかと思います。」
「よし!!」
ブラウンシュヴァイク公爵は立ち上がった。
「直ちに全軍を出撃させる!この勝負こそ乾坤一擲の決戦と心得よ!!」
『応ッ!!』
貴族連合の士気は高かった。敵が10万余隻で攻め込んできたと知った時には顔色を変えた連中も、敵の半数がいなくなったと知った途端に顔色をよみがえらせたのである。現金なものだと、心ある家臣たちは思わずにいられなかったが、ともあれ勝機をつかむきっかけはあった方がいい。
ブラウンシュヴァイク軍8万余隻は衛星軌道上に集結し、密集体形のままフィオーナの元に向かって出撃した。
この報告は四方八方にまきちらされている偵察衛星及び潜航させていた駆逐艦から入電ですぐにヘルヴォールにもたらされた。
「敵の到着まで、後2時間。ただちに派遣艦隊に通信し、引き返すように命令を。」
レイン・フェリルの後を継いだ女性士官学校の卒業生であるリーネハルト・フォン・ベルトナルデ少将が信任参謀長兼副官筆頭としてまず指揮を執る。彼女は我の強いところはなく、終始落ち着いた指揮ぶりで人の意見をよく聞いた。
この時、別働部隊として派遣されていない艦隊は、前衛艦隊を除けばビッテンフェルト艦隊だけである。キルヒアイス艦隊、ティアナ艦隊、そしてバイエルン候エーバルトの艦隊は諸方に散っていた。
「ビッテンフェルト提督。敵の密集体形は私を集中的に攻撃するはずです。機を見計らって側面から突進、敵を分断してください。」
『了解した。しかし大丈夫なのか?わずか3万余隻の本隊で敵の8万隻を迎え撃つことになるぞ。』
「大丈夫です。6倍の兵力差までならなんとかやれますもの。」
にっこりしたフィオーナの顔に面食らった様子のビッテンフェルトだったが、次の瞬間大声で笑いだしていた。
『なるほど、それは頼もしいことだ。いいだろう、シュワルツランツェンレイターの本領を存分に発揮し、見事敵をぶち破って見せてやろう。』
流石に何もない宙域では6倍の戦力差は厳しいが、フィオーナの展開している宙域にはアステロイド帯が多く存在している。彼女はこれを存分に利用して敵を迎撃するつもりだった。
エリーセル遠征軍がアステロイド帯を背後にして布陣を完了したのは、ブラウンシュヴァイク陣営が接近してくる1時間前の事だった。
帝国暦487年12月28日――。
ブラウンシュヴァイク公陣営とエリーセル遠征軍とはブラウンシュヴァイク星系本星よりやや離れたアステロイド帯付近で対峙した。
ブラウンシュヴァイク公爵の総数はおよそ8万余隻。
ブラウンシュヴァイク公爵率いる本軍は4万余隻、前衛にフレーゲル男爵ら血気にはやる若手貴族らの2万余隻を備え、吶喊陣形を構築している。さらに、ベルンシュタイン中将の2万余隻を別働部隊とし、迂回して遠征軍をあぶりだすこととした。
他方、遠征軍の総数はおよそ5万余隻。
フィオーナの直卒する本隊1万5000余隻、前衛にアレット・ディーティリア少将、ロワール・ルークレティア少将の合わせて1万7000余隻を備え、ビッテンフェルト艦隊1万4000余隻が友軍として脇備えを固める。
エリーセル遠征軍とブラウンシュヴァイク陣営の戦いは、まず先鋒同士の衝突で幕を開けた。両軍が激しく激突したが、交戦30分で遠征軍は予定の行動に移った。
「そのまま敵を引き付け、アステロイド帯の中に退却よ。」
「艦の距離を保ち、整然と隊列を組んだまま、全艦隊後退。」
アレット・ディーティリア少将とロワール・ルークレティア少将の2名が退却を始めた。
「逃がすな!追え!!」
「一気に距離を詰め、敵を打ち砕け!!」
貴族連合軍の先鋒は勢いを得て速度を上げて追いすがった。
「わずか30分足らずで退却とは、脆くはありませんか?」
アンスバッハ准将がブラウンシュヴァイク公に尋ねる。ブラウンシュヴァイク公爵自身も暗愚ではなかったため、敵の不自然な動向を見て顎に手を当てた。
「うむ・・・・。少し速度を落とし、様子を見させるように伝えるか。」
ブラウンシュヴァイク公爵からの伝令は貴族連合軍の前衛に伝わった。血気にはやる彼らだったが、盟主の命令には逆らえない。いったん速度を落として隊列を整えようとした。
これを見ていた両将二人はすぐに反応した。前衛艦隊艦橋上でロワールは無言で右手を振り下ろし、アレットは「全艦、進撃!!」を麾下に伝え、両隊は全速前進をもって敵に肉薄し、一瞬の隙をついて前衛を痛打した。
『やはり!敵はこれを狙っていたのです!叔父上!!このような小細工を仕掛けてくること自体、敵に戦力がなく、時間稼ぎの腹積もりがあるのは明白でしょう!!』
フレーゲル男爵の憤怒の顔がディスプレイ上に浮かび上がる。
『フレーゲル男爵のおっしゃるとおり!』
『敵の前衛ごとき、我らの勢いで粉砕して見せる!』
『ブラウンシュヴァイク公、どうか前進命令を!!』
貴族連中が口々に騒ぎ立てる。
「いや、いけません。敵の全容が明らかでない以上、ここは慎重に動くべきです。」
「アンスバッハ准将の言う通りです。隊列を整え、大軍をもって重厚な布陣で迫ることこそ、肝要。今ここで急迫すれば、味方の一部が突出する可能性があります。」
シュトライト准将も言う。
『ならば、本隊も可能な限りの速度をもって前衛に続けばよい。敵はわずか5万なのだぞ。』
「よし!」
アンスバッハ准将とシュトライト准将が共に異議を唱えようとした時、ブラウンシュヴァイク公爵が立ち上がっていた。目は輝き、頬は紅潮している。
「フレーゲル、前衛を率いてあの小癪な艦隊を討て!!血祭りにあげて、あの小娘もろとも葬り去ってやれ!!」
『叔父上!!・・・・もちろんですとも!!』
大役を命じられて喜びを隠し切れないフレーゲル男爵は通信を切るのももどかしく、艦隊に前進を命じた。それに伴い、次鋒、第三陣、本隊、後衛と、ブラウンシュヴァイク陣営8万余隻は次々に進発を開始したのである。
「あの、アステロイド帯に、ただ遮二無二に突っ込もうというの・・・・・?」
フィオーナは唖然とした。猪突猛進を通り越して、無謀きわまる作戦だと思ったが、
「エリーセル閣下、敵は数を頼んでやってきたのです。この方法が一番正統的ではないでしょうか?」
と、エステル・フォン・グリンメルスハウゼンに言われてしまった。うなずき返した彼女は顔を引き締めた。6倍までの戦力なら支え切れるとビッテンフェルトには言ったが、だからと言って楽観はしていなかった。
「作戦第二次に移行。本隊前衛は前衛艦隊を支援すべく、作戦プランBを発動してください。」
本隊前衛7000隻が前衛艦隊を支援すべく、動き始めた。後退してくる前衛と別に、いったん整然と敵艦隊の前面に展開したのである。フレーゲル男爵以下ブラウンシュヴァイク陣営前衛はほとんど鎧袖一触の勢いでこれに接触してきた。
「斉射!!!」
前衛指揮官が叫んだ。正確に打ち出された青い閃光は次々にフレーゲルら前衛をうちぬく。だが、前衛だけで2万隻近い戦力を有しているブラウンシュヴァイク陣営の足は止まらない。そこに、体勢を立て直したアレット、ロワールの2艦隊が側面から攻撃を仕掛ける。本隊前衛は巧みに2艦隊にブラウンシュヴァイク前衛の照準を向けさせると、本隊に合流すべく後退していった。
エリーセル遠征軍前衛は1万7000隻、ブラウンシュヴァイク陣営前衛は2万隻、数の上ではほぼ互角だった。
「・・・・・・・・。」
前衛同士の戦闘を中止しつつ、フィオーナはなおも宙域全体を見まわす注意を怠らなかった。前衛同士の決着が長引けば、敵は苛立ち、次なる手をうってくるだろう。あるいは――。
「四時方向からあらたな艦影多数!!識別信号は味方の物ではありません!敵です!!」
オペレーターの叫びが、フィオーナの耳を打った。
「数、2万隻余り!」
「旗艦は標準型であり、敵の指揮官は不明!!」
『フロイレイン・フィオーナ!挟撃されているぞ!このままでよいのか!?』
ビッテンフェルトからの通信が飛び込んできた。
「後方の敵は私が抑えますから、ビッテンフェルト提督はそのまま待機してください。」
『だが――!』
「このまま作戦を遂行します。大丈夫。そうでなくては、犠牲は増える一方です。」
ビッテンフェルトは不満顔をしたが、
『いいだろう。どのみち力押しでは数に劣るわが軍が不利なのだからな。フロイレイン・フィオーナのプラン通りに動く。だが、仮に戦局全体が不利だと判断したら、俺は俺で動くことにするぞ。』
「それで大丈夫です。」
『気を付けろよ。』
大将が上級大将に言う言葉とも思えなかったが、それはビッテンフェルトの気遣いに他ならなかった。それをありがたく受け取って、フィオーナは後方の敵に注意を向けた。予備隊を残し、後方の敵に対峙した本隊は1万5000隻余り、対するに敵は2万隻余りである。2万隻余りの艦隊はアステロイド帯を警戒して防衛を意識した双頭の散開体形で進んできたが、安全距離を取ったところでその動きは止まった。
「敵の足が止まりました。どういうことですか?」
サビーネがエステルに尋ねた。
「こちらを警戒しているのだと思いますわ。でも、どのみち動かざるを得なくなると思います。」
「???」
「ブラウンシュヴァイク公爵、あるいはその取まきの血気にはやる貴族が許さないという事よ。『自分たちが突入しているのに艦隊を動かさないとは何事か!?』などと言うと思うから。」
フィオーナが説明した。
「ですが、陽動という事はありませんか?」
「陽動ならば、最初から攻めかかっているでしょうし、逆にあちらの前衛が陽動ならば、こちらは勢いを殺さずに攻め込んでくると思うの。」
フィオーナの予言は間もなく当たった。いったん足を止めていた敵は不意に動き始めたのである。
* * * * *
「・・・・・・・・。」
ベルンシュタイン中将は別働部隊2万余隻の指揮を任されて、後方から敵を襲おうとしている。彼にしてみれば、アステロイド帯の中の様相もわからないし、慎重に行きたいところだったのだが、ブラウンシュヴァイク陣営から叱咤を受けて、やむなく前進を開始したところだった。
(敵は数で劣っている。やがて前線を支え切れなくなって、後退する。そのタイミングで攻め込めば崩壊することは明らかではないか。)
彼は、そう思ったが、それを口に出すことはしなかった。代わりに、
「ここが、正念場か。」
という言葉が出てきたのみだった。
ベルンシュタイン中将の別働部隊2万余隻は敵の伏兵を警戒しつつ、慎重に進んでいく。
「前方に機雷多数!!」
「熱反応型の自動機雷です。」
幕僚からの報告にベルンシュタイン中将は顔をしかめた。
「マル・アデッタの再現というわけか。」
「は?」
「いや、何でもない。全艦停止!!」
全艦隊が一斉に停止を試みようとする。指向性機雷が触れる前に全艦隊停止することができた。ほっとする空気が艦橋に流れた。
「ミサイル群、接近!!十字砲火です!!」
突如オペレーターが悲鳴のような声を上げる。
「迎撃ミサイルを出せ!!いや、待て!!」
ベルンシュタイン中将がぞっと顔色を変えた。
「全艦隊、退避!!今迎撃ミサイルで撃ち落とせば、機雷群が飛んでくるぞ!!!」
「ですが、それでは!!我が艦隊は一方的にやられるだけです!!」
「やむを得ん・・・・ある程度の犠牲は仕方がないか・・・・全艦迎撃に徹しながら、この宙域を離脱せよ!!」
飛翔したミサイル群が迎撃ミサイルに撃ち落とされ、派手に爆発する。それに反応した指向性機雷が一斉に飛翔し、次々と別働部隊2万余隻に命中する。うろたえ騒ぐ艦橋から硬質ガラス越しに青い驟雨が見えた。
「敵の砲撃です!!仰角59度、4時方向から!!」
「違います!!俯角25度、8時方向からです!!」
「いや、正面からだ!!」
「違う、後方7時方向、仰角87度からも!!!」
オペレーターたちが慌てふためいて立て続けに違う報告を出す。だが、それらはすべて正しかった。ベルンシュタイン艦隊は360度から砲撃を受けていたのである。
「迎撃に徹しつつ、アステロイド帯を離脱することに専念せよ!!」
ベルンシュタイン中将はそう叫ぶしかなかった。全艦隊が翻弄されながらも応戦し、アステロイド帯を離脱しようと焦っている。同士討ちはなかったが、接近しすぎて衝突し、そこに爆発が起こると、指向性機雷が飛んできて被害を拡大させる事象が頻発した。
「こ、後方に急激なエネルギー充填反応!!」
「何!?」
ベルンシュタイン中将が振り向いた。彼の眼には漆黒の宇宙が硬質ガラスを通じて見えるのみだったが、機器は正確に襲撃者の位置を示していた。
「アースグリム級の波動砲反応です!!」
「全艦隊、散開体形を取れ!!・・・・敵は幾重の備えをしているのだ!?」
ベルンシュタイン中将は歯噛みした。これほどまでに一方的に翻弄されるとは思わなかった。こちらは転生者、それなりの知識はあるはずなのだ。それなのに!!
「砲撃、来ます!!」
後方から幾筋もの青い閃光が宇宙に照射された。その進路上にいた数千隻は蒸発あるいは爆散する運命をたどり、宇宙のアステロイド帯の仲間入りを果たしたのである。
「さらに、砲撃、来ます!!」
第二の斉射はベルンシュタイン中将の旗艦付近にまで達していた。衝撃が艦橋を揺らす中、ベルンシュタイン中将にできることは、司令席にしがみつくことだけだった。
* * * * *
「別働部隊に対する封鎖は、上手くいったようですわ。」
エステルが報告した。
「全艦隊、全速前進!!!」
フィオーナの指令一下、1万5000余隻の艦隊は動き出した。アステロイド帯を離脱して、ブラウンシュヴァイク公爵の本営を突くためだ。
「私たちの本隊よりも数の多い敵が総崩れするなんて・・・。いったいどれだけの艦隊を潜ませていたのですか?」
艦隊進撃の合間に、サビーネが尋ねる。
「えっ?80隻程度だけれど。」
「え!?」
フィオーナの答えにサビーネが驚く。
「アステロイド帯にはかねてから自動制御システムを搭載したミサイル発射装置や艦砲を取り付けた発射装置を仕掛けておいたのです。そして、機雷群を要所要所に設置し、後方にアースグリム級を潜ませておいたのですわ。もっとも、その数だけは一個艦隊級ですけれど。」
エステルが種明かしをした。感心しているサビーネをちらっとみたフィオーナは二人の意識を戦闘に戻させた。
「別働部隊が手間取っている間に、一気にブラウンシュヴァイク本隊をビッテンフェルト艦隊と共に強襲します。全艦隊戦闘配備!!」
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