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ママライブ!

作者:ゆいろう
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第八話 祭典


 ここ音ノ木坂学院では、部活動の文化祭での講堂の使用をくじ引きによって決めている。

 部活動の数が多い音ノ木坂学院では、このようにして決めることが伝統となっている。

 輝穂たちのアイドル研究同好会も、文化祭でライブをするためにくじ引きに参加していた。

「おめでとうございます! 合唱部、午後3時から1時間の講堂の使用を許可します!」

 目の前で、合唱部の講堂の使用が決まった。

「次はアイドル研究同好会さんですね。どうぞー」

 声がかかると輝穂たちは前に進んでいき、くじ引き台の前に立つ。
 くじ引きは商店街やお祭りなどでよく目にするガラガラくじだ。

「誰が回す?」
「テルでいいんじゃない? 一応部長なんだし」
「そうね。輝穂回して」
「えぇー、私が回して外れたらどうするのさ!」

 ぶーぶーと輝穂はくじを回すことを嫌がる。そんな様子に瑞姫は困ったように言った。

「どうもしないわよ……」
「じゃあ、3人で一緒に回すっていうのはどう?」

 すると飛鳥がそう提案した。これに輝穂と瑞姫も賛同する。

「それいいね!」
「そうね。いいアイデアだわ飛鳥」

 まず輝穂がくじを回す取手を掴んで、その輝穂の手を飛鳥と瑞姫が上から掴んだ。

「それじゃあいくよ、せーのっ!」

 合図をとって3人はくじをガラガラを回していく。
 ガラガラはゆっくりと回り始め、やがて玉の出所が頂上を通り過ぎ、そして玉が出てきた。

 出てきたのは、青色の玉。

「おめでとうございます! アイドル研究同好会、午後4時から30分の講堂の使用を許可します!」



 *



 数日後。輝穂たちが屋上で練習をしていると、そこに七夕えみが現れた。

「あ、えみちゃん!」

 えみに気づいた輝穂が一旦練習をやめてえみのもとに駆け寄っていく。あとを追うようにして飛鳥と瑞姫もえみのもとにやって来た。

「どうしたの、何か用?」

 練習を中断したことで少しばかり不機嫌そうに瑞姫は尋ねた。

「あんたたち、文化祭でライブするの?」

「うん。この前の抽選で講堂を使うことができたんだ」

「そう。それで、何時から?」

「えっと、4時からだっけ?」

「そうよ、合ってるわ」

「ありがとう。それだけだから、じゃあ」

 聞きたいことを聞いて、えみはあっけなく屋上から去って行った。





 それからLyraの3人は毎日練習に励み、時間が過ぎていった。


 そして、迎えた文化祭当日。





 *





 合唱部の発表が終わると、講堂に拍手が沸き起こる。

 ステージの幕が下ろされていく中でも鳴りやまない、講堂はほぼ満員だ。

 幕が完全に下りきっても、席を立つ人はほとんどいない。講堂にいる人たちは次の演目、Lyraのステージを心待ちにしていた。

 七夕祭りでのライブで、ここ音ノ木坂学院の周辺でLyraはそこそこ有名になっており、学校外からの来客も講堂に多く居座っている。

 その中には、七夕えみの姿もあった。
 音ノ木坂の制服ではなく私服を着こなし、サングラスとマスクで変装をしている格好は明らかに浮いている。



 やがてステージからは開始を告げるブザーが鳴り、多くの観客の期待を乗せて幕がゆっくりと上がっていく。

 息を呑むようにして観客が見守る中、ステージにはLyraのメンバー、織部輝穂、琴宮飛鳥、鷲見瑞姫の3人が立っている。

 幕が上がりきったところで、輝穂が一歩前に出た。


「みなさんこんにちは! 私たちはここ音ノ木坂学院でアイドルをしている、Lyraです!」


 輝穂の声を聞いて、観客たちからは声援が沸き起こる。

 満員の観客で埋め尽くされた講堂を、Lyraの3人はステージ上からぐるりと見渡した。

「1曲目は、私たちの始まりの曲です。それでは――」



「「「ミュージック、スタート!!」」」



 穏やかなピアノ音のイントロが流れ出し、講堂は一瞬の静寂に包まれる。

 その中でLyraの3人はゆっくりとステージ上で動き始めた。

 静かなイントロからポップな曲調へと変わっていく。それに合わせてLyraの動きも速く大きくなって、会場のボルテージが一気に高まった。

 この曲をこの講堂で披露したのはLyraがまだ結成して1ヶ月ほどの頃。

 その時は数名しかいなかった観客が、今では講堂を埋め尽くすほどに入っている。


 見てくれる人がたくさんいる。

 そんな幸せに満たされながら、Lyraは歌い、踊った。



 そしてLyraは1曲目を歌い終える。

 満員の観客からは割れんばかりの拍手と歓声が、彼女たちに送られる。



「えー次の曲は、七夕祭りで歌った曲です。それでは皆さんもご一緒に――」



「「「ミュージック、スタート!!」」」



 観客と一緒にした合図とともに、音楽が流れ始める。

 最初からアップテンポな曲調が会場のボルテージをさらに高める。その熱気に乗せられるようにしてLyraのダンスは激しさを増していった。


 Lyraは歌う。見に来てくれた人が楽しんでくれるよう、精一杯。


 最初のサビが終わって間奏に入ると、講堂全体から曲のリズムに合わせて手拍子が響きだす。

 楽しんでもらえている。

 各々そう感じたLyraのメンバーは胸に感動が広がっていくのを覚えながら踊り続ける。
 
 曲が終わる。

 観客たちはLyraを拍手で讃えた。

「ありがとうございます! 次がこのステージで歌う最後の曲です。今日の為に新しく作ったものです。楽しんでいって下さい!」

 新しい曲。輝穂のMCに観客席からはどよめきが起こる。

「それでは皆さん、ご一緒に――」



「「「ミュージック、スタート!!」」」



 合図があって、講堂の大きなスピーカーからピアノの音が流れ出す。

 軽快なリズムのようで、どこか寂しさを孕んだ音の旋律。それが繰り返されると、瑞姫が最初のフレーズを歌い出した。

 次のフレーズに飛鳥が加わる。瑞姫と飛鳥の二重奏が、切なげなピアノのメロディーラインと調和している。

 次のフレーズ。輝穂も歌い出して、Lyraの三重奏となる。

 星を見に行こう。

 その歌詞を歌うと、切なげなメロディーにドラム、ギター、ベース音が混じり、軽快なリズムを刻んでいく。

 その変化に、観客が沸き立つ。

 歓声を一身に受けながら、Lyraはステージを舞う。

 華麗に踏むステップ、ピンと伸びる細い腕。全身でその曲を表現しながら彼女たちは歌い続ける。


 曲は最後のサビへと突入する。今まで見続けていた観客もそれが分かるようで、声援がいっそう大きくなった。

 負けじと輝穂、飛鳥、瑞姫は声を大にして歌う。この歌声が、見てくれている人たちに届くようにと。


 歌うパートは全て歌い切り、あとは最後まで踊るだけとなった。

 踊りながら少しずつ、飛鳥、瑞姫がステージ中央で踊り続ける輝穂に寄っていく。

 いよいよ曲が終わる。タイミングを揃えて、Lyraは最後のポーズをとった。

 ワッと会場が沸いた。観客の全員が立ち上がって、舞台上の彼女たちに惜しみない賞賛の拍手を送っていた。



「「「ありがとうございました!!」」」



 整列をして拍手に応えるLyraの3人。彼女たちはそれぞれ達成感、幸福感に満たされていた。


 3人の真ん中にいる輝穂が、飛鳥、瑞姫に意味ありげな目配せをする。

 輝穂の視線を受けた飛鳥と瑞姫は、輝穂の意図を理解した。

 小さく頷く飛鳥と瑞姫。すると輝穂がスッと息を吸い込んだ。



「せーのっ!」










「「「アイ、ラブ、ライブーーッ!!」」」

 

  
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