国木田花丸と幼馴染
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班分けは辛いよ
学校生活において、交友関係が広いということはスクールカーストにおいて上の立場であることと直結する。そういった人物がいつだってクラスの中心にいて、いわゆる人気者となっていることが多い。
俺の幼馴染――国木田花丸の交友関係は、お世辞にも広いとは言えない。マルの交友関係といえばせいぜい幼馴染である俺と、唯一の友達である黒澤ルビィぐらいだ。クラスでのマルはとりわけ目立つような存在ではない。俺が話しかけなければマルはいつも自分の席で本を読んでいるか、黒澤と話しているぐらいだ。
マルの友達――黒澤ルビィも、端的に言うとマルと同じぐらいの交友関係である。黒澤も教室ではいつもマルと一緒にいて、それ以外の人と話しているところは見たことがない。黒澤の場合、話しかけられたところで持ち前の人見知りを発揮して、会話にならないだろう。
中学三年生になって早くも二ヶ月。マルと黒澤に他の友達ができた様子はなく、いつも二人一緒にいることが大半であった。二ヶ月前、俺は黒澤に握手を求めた際に悲鳴をあげられてしまった。それ以来、黒澤との距離を縮めようにもなかなか会話に応じてもらえず、上手くいかない日々が続いたまま二ヶ月が過ぎ去った。
六月になってしばらく経ったこの日、最後の時間割にあてられたホームルームの時間。クラスでは、交友関係が試されるイベントが行われていた。
「えーそれでは、修学旅行の班分けを行いたいと思います。男女三人ずつの六人グループを作ってください」
黒板の前に立っている女子のクラス委員長の声と同時に、クラスメイト達は一斉に席を立ってそれぞれ友達同士で集まりだした。ちなみにこの委員長、去年も俺やマルと同じクラスで、その時もクラス委員長を務めていた。
それはさておき、修学旅行。中学生の間で一度きりのイベントであり、これが楽しみでないという生徒はいないだろう。かく言う俺も修学旅行が楽しみである。
その修学旅行において多くの行動を共にするグループを決める、それが今行われている班分けなのだ。基本的にはまず同性同士で三人のグループを作り、それから異性の三人グループと合併するという形になるだろう。現に教室を見渡してみても、まずは同性同士で集まっているのが殆どだ。
「よう、ハル」
「一緒の班になろうぜ!」
俺のところにも早速、二人の男友達がやって来た。俺は二人をタナケンとメガ島とそれぞれ呼んでいる。タナケンは野球部に入っている坊主頭が特徴的なバカであり、メガ島はメガネを掛けていて一見頭が良さそうだが実はバカである。
二人とも去年も同じクラスで、教室ではよく会話をしていた。ちなみにこのタナケンとメガ島、俺とマルのような幼馴染という関係らしい。
「ああ、いいぜ」
特に誰と一緒の班になるという約束もしていないので、俺はその申し出をすぐに了承した。この二人と一緒の班なら、修学旅行は楽しめそうだ。
男子での三人グループができたところで、次は女子のグループと合流しなければならない。女子といえば幼馴染のマルが真っ先に浮かんだ俺は、教室を見渡してマルを見つける。
マルは黒澤と一緒にいるが、周囲をキョロキョロと眺めてどこか落ち着かない様子だった。まずは同性で三人のグループを作らなければならないので、おそらくあと一人に困っているのだろう。
同じ班に先にマルと黒澤を誘っておくべきだろうか。悩んでいると、俺達のもとへ三人の女子がやって来た。
「ねぇハル、私達と一緒の班にしない?」
俺にそう声をかけたのは、かなり派手な見た目をしたギャル系の女の子、名前は確かサヤカだったと思う。他の二人も似たような見た目をしていて、この三人はクラスの中心的な存在である。俺は彼女達とそこそこ話すことがあるが、正直言うと少し苦手だ。
俺の中の女の子のイメージとしては、一番よく知っている幼馴染のマルが強い。だからマルとは正反対のサヤカ達のことを少し苦手に思っているのかもしれない。
「ぜひぜひ! よろしくな!」
「本当!? やったー、ハルと同じ班だ!」
するとタナケンがサヤカの申し出を勝手に了承してしまう。おいなに勝手に決めてるんだよ。思わずタナケンを睨みつけてしまうが、その横ではサヤカ達が大はしゃぎで喜びを表に出していた。もう諦めて彼女達と同じ班になるしかないのか。
「ハル、修学旅行楽しみだね!」
「あ、ああ、そうだな……」
俺と同じ班になれて嬉しいのか、サヤカは眩しい笑顔を見せる。その笑顔から俺は視線を逸らすと、視界はいつも一緒にいる幼馴染を捉えていた。
相変わらずマルは黒澤と二人で、教室の隅っこの方で困り顔で立ち尽くしている。まだあとひとり同じ班になる女子を見つけられていないのか。マルも黒澤も交友関係が狭いので、なかなか自分から同じ班になろうと誘いにくいのだろう。
女子のグループも半分は出来上がっている。マルはまだ決まっていなさそうな女の子に近づいていくが、結局声をかけることができずに肩を落としてしまう。
そんなマルを見ていると、俺が付いていなくて修学旅行は大丈夫なんだろうかと、無性に心配になってきた。
「……悪いサヤカ。俺、マルと一緒の班になる約束してたんだった!」
「えーやだ! 私はハルと一緒がいい!」
俺がそう言うとサヤカは駄々をこね始める。ここから納得させるのは面倒だなと思っていると、タナケンの横にいたメガ島が何か思い出したように手を叩いた。
「そうだった! ハルは国木田さんと一緒の班になる約束してたんだった! 悪い悪い、俺すっかり忘れてたわ! ごめん!」
「え、してたっけ?」
「してただろバカかお前は!」
「あーそういえばそうだったな」
メガ島に合わせてタナケンも俺の話に合わせてくれる。マルと一緒の班になる約束はしていないので、俺の嘘に咄嗟に付き合ってくれた二人には感謝しなければ。バカだけどいい奴らだよホント。
「むぅー……わかった」
「ごめんなサヤカ! 他の男子と班組んでくれ!」
随分と簡単に納得してくれたような印象を受けたが、あっさりと引き下がってくれたことに今はホッとする。俺は席を立って、今もなお困り顔でオロオロとしているマルのもとへと向かった。
「マル、一緒の班になろうぜ」
「ハルくん? でもマル達、まだ女の子をあとひとり探していて……」
「そんなの余った奴をあとで入れればいいだろ。いいから一緒の班になるぞ、黒澤もそれでいいか?」
「ピギィ!? る、ルビィは、いいと思う……」
「よし決まりだな!」
かなり強引ではあるがこれでマルと同じ班になることができた。正直、俺が見ていないとこの幼馴染は心配で仕方がない。
「でもハルくん、さっき別の女の子達に一緒の班になろうって……」
「……見てたのか?」
「た、たまたま目に入ってきただけずら!」
「そうなのか? まぁいいか。そっちは断ってきたから安心していいぞ」
「よ、よかったずらぁ……」
マルは安心したようにホッと胸をなで下ろす。どうやらこれでマルと同じ班になることが決まりそうだ。
「じゃあ、一緒の班でいいな?」
「ずら! ありがとうハルくん!」
「どういたしまして」
こうして俺の修学旅行は、マルと黒澤、そしてタナケンとメガ島と同じ班で行動することに決まった。……あと一人女子を見つけないといけないんだった。
「なぁ、どこか一人余ってる女子いないのか?」
「分かってたらこんなに苦労してないずら」
なぜか開き直って偉そうに言う俺の幼馴染。言っておくが、マルや黒澤にあと一人友達がいればこんな事態にはなってないんだぞ。言ってないけど。
あと一人が足りない俺達五人のグループは、どこかにひとり余っている女子がいないかキョロキョロと教室を見渡した。しかし教室の中はもう全ての班が決まっている様子で、どこにも一人でいる女子の姿は見当たらない。
「なぁ、今日誰か女子休んでたっけ?」
「いや、たぶん全員来てると思うずら」
マルは今日の欠席者はいないと言う。このクラスは全部で36人。男女は丁度半々の比率なので、三人グループを作ったときに一人足りなくなるなんて事態にはならない。
ならなぜ、他の班が決まっているのに俺達の班だけ女子が一人足りないのか。そう疑問に思っていると、一人の女の子が俺達のもとへ近づいてきた。
「女子が一人足りないみたいね、私が入ってあげてもいいわよ?」
「委員長!?」
それは、先ほどまで黒板の前に立ってクラスの指揮を執っていたクラス委員長の女の子。なぜ一人足りないのかと疑問に思っていたのは、俺達が委員長の存在を見落としていたからだった。
「他のグループはもう決まってるみたいだし、委員長に入ってもらうしか無さそうだな」
「ずら」
口癖と共にマルが首肯する。周りを見ると黒澤も小さく頷いていた。タナケンとメガ島はなぜか顔面蒼白になって委員長を見つめている。
「タナケンとメガ島も、いいわよね?」
「お、おう、もちろん!」
「こ、この三人ってのも懐かしくていいよなぁ!」
委員長が二人に尋ねると、二人とも豪快に委員長と同じ班になることを望んでくれた。その中でメガ島の言葉に、俺は少し引っかかった。
「委員長と二人って知り合い?」
「ええ、幼馴染なの」
「そうだったのか! めちゃくちゃ意外!」
普段はあまり接点がない委員長と男二人が、実は幼馴染だと知って俺は今日一番驚いた。幼馴染って俺とマルみたいに大体一緒にいるものだと思っていたのだけれど、委員長のように教室ではあまり接点が無い幼馴染というものもあるみたいだ。
多種多様な幼馴染の形態に驚かされながらも、これでようやく修学旅行での班が決まったことになる。
「幼馴染が一緒なら委員長も安心だよな。よろしく、委員長」
「そうね、とっても嬉しいわ。よろしくね、榎本くん」
俺と委員長は固く握手を交わす。こうして、俺が修学旅行で行動を共にする班が決まった。
決める過程で様々な出来事があった。そのなかで改めて思ったのは、マルは俺が付いていないと心配だということであった。
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