逆襲のアムロ
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46話 サイアム・ビストの最期
* ゼウス 17番通路
このゼウスという要塞は通常のコロニーの半分ほどの体積を持つ。
その構造・骨組みがサイコフレームを使用し、装甲はガンダリウム類を使用している。
内部構造は何百層ものの区画に分かれている。そして幾十もののエレベーターが存在している。
そうなるとそれ以外でも広大な規模での要塞維持の為に稼働させる人員も多く必要なはずなのだが・・・
「まるで・・・廃墟だな」
そう壁づたいで隠密行動を取っていたジュドーが感想を漏らした。
「中身がしっかりしているのにまるで生気が感じられんとは」
次いでハマーンもそう述べた。
ある程度のところまではモビルスーツで入って来たが、人の身でしか通れないスペースに出たため、
降りて行動していた。
どの通路も通過するに人が一人もいない。人の気配がなかった。それに2人とも嫌気が差してきた。
ジュドーは壁陰に隠れながらも動いていたことが段々馬鹿らしくなってきた。
ジュドーは思い切って真っすぐ立ち上がり、通路に身を乗り出した。
案の定誰もいなくシーンと静まっていた。それを見たハマーンもため息を付いてジュドーに倣った。
「はあ、確かに潜む意味がないな」
「だろ?こんなに静かだ。誰もいない」
手を広げてジュドーがハマーンにアピールした。敵の根拠地であろうと考えるこの要塞に
警備体制というものが存在しない理由がハマーンを考えさせた。
「(一体何故だ・・・)」
ジュドーは勝手に先に歩み進んだのでハマーンも付いて行った。
この様に潜入されて内部から侵略される危惧はあって然るべきだ。どの組織でもそれぐらいの対策マニュアルをもっている。
ということは、対策する必要がない。せずとも守りきることができるとこの要塞の持ち主は考えている。ハマーンはそう自分に説いた。
「(私らが侵入した目的はこの要塞の破壊・・・)」
動力あるもの必ずはその心臓部がある。それを臨界させれば破壊が可能だ、そうハマーンは考える。
だからそれを守る守備隊が必ずは必要不可欠。
「(守備隊を、人を置かずとも守り切れる動力システム?・・・そう考えるべきか)」
その核たる部分を破壊できないと自信がある。要は通常の思考では思いつかない動力源があるか、絶対に破壊困難な動力源の防壁があるか、いずれかだとハマーンは考えていた。
すると目の前が真っ暗になった。ジュドー、ハマーンともに顔を上げた。
両者にしても暗闇で見えない。
「なんだ!」
「・・・気付かれているな」
そう2人とも感想を漏らす。すると目の前の通路だけが照明が灯る。
ハマーンは後ろを振り返る。そこは照明が落ちて暗闇だった。
ジュドー、ハマーンともに見つめ合って頷く。そして2人は照明が灯る通路を歩いた。
十字の角に差し掛かるが3方のうち1方だけが照明が付いていた。
2人共そのガイドに従うことにした。ジュドーが鼻を鳴らす。
「フン、バレてやがる」
ハマーンはこの状況にそんなに悲観はしなかった。その向かう先に殺意や絶望などの負の要因を感じ得なかったからだった。恐らくはジュドーも同じように感じているだろうと思った。
ジュドーは多分面白くないだけだろう。それでそんな態度を取ったに違いない。
この要塞に生気が感じられない為、意思が読み取れない。それが不安材料ではあるが。。。
ジュドーらは導かれるままある大きい空間に出た。そこは周囲に幾つもの大型なモニターがあり、外の様子を映し出している。そしてそこもあまり照明が灯っていないところだった。
その中央に大柄な老人が立っていて、傍に遺体を入れるショーケースが置いてあった。
ジュドーとハマーンは無言でその老人へ歩み寄った。すると老人の方が語り掛けてきた。
「君たちは運が良い」
2人とも無言だった。老人は気にせず話続けた。
「私の気まぐれだ。君らみたいな若者と行く末を鑑賞したいと思うてな」
ハマーンがその言に質問を投げた。
「私らがここに居る事が貴方のきまぐれなのか?」
老人は頷きもせず、ゆっくりと体を回してジュドーとハマーンを見た。
「退屈しのぎだ。気にせんで欲しい」
ジュドーは当然の質問を老人に投げかけた。
「あんた一体何者だ!」
老人は漠然と正体を明かした。
「私はサイアム・ビスト。ビスト財団の総帥で現状をもたらした本人だ」
ジュドーとハマーンは眉を潜めた。ハマーンが話す。
「現状とは?この要塞にも、何か関わりがあるのか?」
「あるも何もこれは私の仕掛けの一つだ」
サイアムが答える。ジュドーも聞きたいことを質問する。
「フル・フロンタルも知っているな!」
「アレは私の仕掛けのひとつだ。ほれ、私はこの様な老体だ。代わりに動いてもらうものがいないと何もできない」
ジュドーは息を飲んだ。真実味がいまいちながらもジュドーらを不幸に至らしめた根源が目の前にいる。そこに戦慄を覚えた。
ハマーンはジュドーの様子を見て、サイアムという老人の価値が薄々と理解してきた。
そしてサイアムに尋ねた。高圧的に。
「きまぐれな貴方にこの状況の打開策を聞きたい。要塞動力部はどこにある!」
ハマーンは銃口をサイアムに向けた。ジュドーはそれを眺めていた。
サイアムはつまらなそうな顔をした。
「真、読める展開でつまらんな」
「どうやらこの要塞で意思のあるものはお前しかいないようだ。ならば、聞き出すかこの場で始末するかだ」
サイアムは堂々とハマーンに体を向けて手を広げた。
「撃ってみるといい」
挑戦的だった。ハマーンは躊躇わずサイアムの胸をブラスターで撃ち抜いた。
ジュドーはその光景を見て、狼狽えた。サイアムは平然とその場に立っていたからだった。
「・・・最早体は必要としないのだ。生きるという上ではな。いや、死ぬということではなのか・・・」
サイアムは自問自答していた。ハマーンはもう2発サイアムを撃ち抜く。しかし、サイアムに変化はなかった。
「なったこともない、見たこともないものへの渇望の果てだ。この歳で欲求不満が多くてな。全ては無駄に長く生きてしまったせいでもある」
ハマーンはブラスターを下ろした。この老人には意味をなさないことと理解したからだった。
ジュドーもサイアムをどうにかしたい気持ちをどうにもならない諦めで混在しながらも抑えつけていた。そしてジュドーはサイアムに話し掛けた。
「ご老体は・・・何をしている」
サイアムは目を細めてジュドーを見た。この中でサイアムがずば抜けて長身だった。見下ろされる感じが2人の体を強張らさせた。世界を蹂躙する当人のプレッシャーを2人が知らずとも体からにじみ出ていた。
「全てを手にしたものの末路ということかな。全てを手にしてみないとわからんものだ。ある程度はコントロールできようが全体は中々難しい。特別金に困らんような状態で向上心がなまじ残ってしまったことがこの世の不幸だったのかもしれんな・・・」
「その傲慢さで・・・オレたちの仲間が死んだというのか!」
ジュドーは抑えきれない想いを少し出した。サイアムは答えた。
「謝罪しようとは思わん。そうでなくては全てを手にしようとも思わん。その重圧は如何なる恨みすらも受け止める。それを気にする良心を戒めて鍛えてきた」
その言にハマーンは笑った。
「フッ・・・良心を鍛えるとは可笑しい話だ。全てを手に入れたと言った。良心などとうに捨て去っているように私は思うのだが」
サイアムは首を振る。
「いや・・・、人の心は残ってる。大抵のものはその恨みに潰されてリタイヤしてしまう。若しくは暴走するだろう。それぐらいのストレスを私は感じてきた。共に歩んできた者は皆倒れていき私しか残らなかった。人の心が残っている理由は今まで世界が存在したことにある」
その言にジュドーが答える。
「残っていなければ?」
「世界は滅んでいただろう」
突如ジュドーは叫んだ。
「つまりは・・・お前は人である前に人でなしだ!皆死んで逝った者は各々の信念を持って生きていて、お前みたいに人の温かみを知らない者はいない!それを踏みにじってまでお前の野望を達成する権利なんてない!」
するとサイアムのプレッシャーが物理的にジュドーらに襲い掛かった。それに2人とも膝をついた。
「くっ!」
「うっ!」
2人とも嗚咽を漏らす。そしてサイアムは断言した。
「あるのだよ。ある地位まで上り詰めては実行に移し、現在がある。実現させたものに権限がない?可笑しな話だ」
しかしそのプレッシャーをサイアムは早くも解いた。2人共体が自由になり、不思議な顔をして見合った。そしてジュドーがサイアムに話し掛けた。
「・・・なぜ?」
サイアムはため息を付き、ジュドーに答えた。
「お前らがどうしようとも余り問題ではないのだよ。私は既に物語の観覧席に座っているのだ。それを見届けて終いな存在。ただ、誰も知るものがいないのも面白くはないのでな」
ハマーンが腕を組む。
「だから私らをここに呼んだのか」
サイアムは無言で頷く。その回答にジュドーが頭を掻きむしる。
「ええーい!この老人が諸悪の根源だと言うのに倒せやしない。そしてそいつ自身がオレらを始末しようともしない。どうすればいいんだ!!」
ジュドーの動揺にハマーンが宥めた。
「落ち着けジュドー、それがあの老人の思う所なんだ。見ろあの顔を」
ハマーンが指差すサイアムの表情が少し綻んでいた。ジュドーがグッと堪えた。
そしてジュドーが辺りを見回すと一つ奇妙なケースを見つけた。そこには大柄な男が横たわっていた。
それにジュドーが近づくと息を呑んだ。
「こ・・これは!ギレン・ザビ!」
ジュドーの声にハマーンも反応し、ケースに近寄る。
「確かにな・・・。どういうことだ?」
ハマーンはそれをサイアムに尋ねた。サイアムはゆっくりと質問形式で答えた。
「人の死は何だと思うか?」
ハマーンは首を傾げた。
「人の死?・・・まあ、医学的には生命活動の停止だな。内臓が機能しない、脳が機能しないなどだ」
サイアムは首を振る。
「何故、生命が地に足を付いて活動できるかと言う話だ。それは多角的に身体の部分を互いに補っているからだ。それは補完しながらという話だが、それぞれが独立した生命維持ではない」
ハマーンは手を広げた。
「独立した生命維持ねえ・・・、お手上げだ。何が言いたいか夢想ごとの様な気がして私の範疇でない気がする」
サイアムはハマーンはとても勘が鋭いと察した。
「老人にジョークをいうもんじゃない。言いたいことがわかるだろう?」
「・・・何となくな」
ジュドーが2人のやり取りに複雑な顔をした。
「なんなんだ、一体!」
ジュドーがハマーンに詰め寄る。ハマーンは手でジュドーを払う。
「落ち着け。この老人はいわばサイコミュの話をしたいみたいだ」
「サイコミュ?なんで!」
サイアムはやはり鋭いとハマーンを胸の内で褒めた。
「ハマーン・カーンよ」
サイアムの言葉にハマーンは驚くがサイアムは微笑した。その反応にハマーンは呆れた。
「迂闊だった。この老人に知らないことはほぼ無いんだ」
ハマーンの思ったことに付いて行っていないジュドーはハマーンにその言の真意を聞いた。
「どう言う話だ」
「この老人、サイアム・ビストは世界のフィクサーだ。私らが名乗らずにも私らの事をよく知っている。しかし・・・」
ハマーンは一息置いて、ジュドーを目を配ってから再びサイアムを見た。
「私らはこの老人のことはあまり知らなんだ。とてもアンフェアな話だ」
ハマーンは話を元に戻した。
「さて、あまりに抽象的だが、人の死の話だな」
ハマーンがそう言うとサイアムは長い髭を触り、頷く。
「生きる意思、それだけだ。精神が肉体を凌駕するという話は昔から伝え聞いていた。病魔に襲われて健常者よりも内臓が足りずともそれに体が適合し、生き続ける。医療では臨床で常識とされてきている」
ジュドーは黙ってハマーンの話を聞いていた。サイアムも同じくだ。
「自殺にしてもそうだ。たとえ健常者と同等な身体状態であれ、心が死んで首を吊る。そういうことにしては生きる意思が無くなる事が死と同等に思える」
「ふむ、良き答えだ。続けてもらいたい」
サイアムは満足そうにハマーンへ話を促した。
「サイコミュは人の意思を汲み取る機械だ。私は詳しくは知らんが、操る側としても真奇妙な機械だとは感じていた。しかしそれを自然に使いこなすとあまりメカニズムを気にしなくなるのは今までの先端技術に倣う」
ジュドーは自分なりの意見をハマーンに話した。
「オレらがオーブントースターの仕組みを知らずにおいしいパンが焼ける機械なんだと思って使っているってことか?」
「簡単に言えばそうだ。そしてこのゼウスとかいう要塞」
ハマーンは周囲を見渡す。
「サイコフレームで構築された巨大建造物。これをサイコフレームで作った理由が現段階での最強硬度を誇る建造物でそれを維持する為の人の意思がここにある」
サイアムはニンマリと微笑んだ。
「大体、完答だ。このゼウスは人の意思によって保たれている。サイコミュの優位性はむしろそれしかない。それを維持するにサーバーが必要だった」
ハマーンはサイアムの話に予測で答えた。
「それがパンドラボックスなのか?」
「ご名答。凄いな君は」
サイアムは感心していた。
「想いの拠り所を集約する機械、それがパンドラボックス。それを持つ者はフル・フロンタルだ。そしてこのゼウスにもそのコピーがあるのだ」
「コピー?」
ジュドーが首を傾げて言った。サイアムはギレンを見下ろしていた。
「そうだ。この天才はそれを肌で気が付いた。フル・フロンタルをマークして、その細胞を培養し、クローンを作ろうとしていた。無駄だとは知らずにな」
次いでハマーンが質問する。
「無駄とは?なぜクローンを?」
「フル・フロンタルは私が造りだした、調整した人形だ。生きる意思を持たない。その分尋常ならざる感覚を備え、生命維持のタイムリミットもあった。言わば既にある者のクローンだった。ギレンはそれがオリジナルでないと気が付くのに多少は時間が掛かっただろうが」
「クローンからクローンを作れない?」
「現状の技術ではな。生きる明確な意思とはつくづく大事なものだ。フロンタルは私がそれを備え植え付けさせた。その任をこなす為に投薬により超人化させた。そしてパンドラボックスを彼に託した」
サイアムは想い耽って話続けた。
「当初は彼がパンドラボックスを持つに適合が難しく、暫くは私の手元に置いていた。彼が時限がありながらもできる努力を最大限にして箱を持つ力を得た。それも私の計算の内だった。人は究極的立場からの巻き返しが尋常ならざる得ない程だと私自身が身をもって体験しているからな」
サイアムはこの地位に辿り着くまでの無茶を振り返っていた。そして自嘲もした。
「計算といっても、打算だがな。何事も結果を見ずに計算が正しかったという証拠にならん」
ジュドー、ハマーンともそんな気持ちなどどうでも良かった。彼らの目的はこの要塞の無力化にあったからだ。
「君らが捜しているものは機関動力部だろ?」
サイアムの指摘にジュドーは胸をドキリとさせた。
「安心したまえ、この要塞にもそれがある。・・・が、物理的な破壊は不可能だ。この船の感応頭脳が全ての守備を司っているからな」
ハマーンがサイアムに質問した。どうやらこの老人はあまり出し惜しみをしないらしいと思ったからだった。
「それはコピーとその感応頭脳の件を教えていただこうか?」
「まず、コピーだがこのケースだ」
サイアムは見下ろしたギレンを見て言った。ジュドーとハマーンは怪訝な顔をした。
「当初は有能な人材を依り代にしようと思ったがまさか木乃伊取りが木乃伊になるとは露にも思わなかっただろう」
サイアムはケース内に横たわるギレンがこの要塞のパンドラボックスのコピーだと言った。
「そして、この船の感応頭脳でもある」
そうサイアムが言うとハマーンは躊躇いもなく、ギレンに向けてブラスターを放った。しかし、その弾はギレンの前で偏光して宙に四散した。
「これで分かっただろう。このギレンのケース自体も、むしろこのケースがこの要塞内で一番強固だ。これを解くには彼が持つ力以上の念が必要となる」
ハマーンは暫く考えてから、サイアムに質問した。
「動力部の操作自身に何も干渉は無いんだな」
「それについての干渉は私がしよう。この場所が私が居たい場所だからな」
サイアムが言葉での圧力を掛けてきた。ジュドー、ハマーンともに身構えた。
「くっそー、ここにZZが有れば吹き飛ばしてやるのに・・・」
ジュドーが舌打ちした。ハマーンは確かになと考えた。この老人に風穴を開けることが出来ても物理的に存在する限り静止できない。
「火力か・・・」
ハマーンは思考を己の深いところへ落とした。ジュドー、サイアム共にハマーンのひしひしと伝わってくる緊張感に魅入っていた。
サイアムもこの状況でハマーンが何をしようかと興味があった。その為、彼の判断がこの世で最期の過ちだったと消える直前で知った。
サイアム自身、肉体的にフロンタルと同じように精神が凌駕し、存在自身が虚ろ現世に居る。
全ては結果でしかないが、パンドラボックスの仕業だった。
言い方が悪ければ、怨念として肉体が在ってこの世にとどまっていた。彼らの撃つ穴が微小ならば支障は無い。それをハマーンは感じ取っていた。
その驕りがジュドー、ハマーンを招き入れた。最も、彼ら位の力が無いとこの要塞に入ることすらできないフィールドを張っていたが。
ジュドーが最初に高鳴りを聞いた。
「何の音だ」
サイアムもそれを思った。自身ジュドーとハマーンを興味持つことにより他が疎かになり過ぎた。
よって、へやに入って来た3つの飛行物体の存在に気が付かなかった。
サイアムは目を丸くした。そして微笑を浮かべた。
「成程・・・。窮鼠猫を噛むとはこのことか・・・」
そしてその飛行物にサイアムは集中砲火で消し飛ばされた。
そのエネルギー余波に2人とも派手に壁に叩き付けられた。
「ぐおっ!」
「キャッ!」
そして3つのファンネルはズシリと床に落下した。しかし床や周囲に傷一つもなかった。
ハマーンは腰をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。
「・・・恐ろしいまでの強度だな。この要塞は・・・」
ジュドーは頭をさすりながらハマーンへ言った。
「ったく、この老人のしたかったことって何だったんだ?」
「彼は快楽主義者だ。そこに理由などないし、世界を救いたかったのかもしれないし、滅んでも良かったかもしれない」
「だが、フロンタルっていうのもこれでここに駆け付けてくるんじゃないか?」
ハマーンはモニターに近寄り、すぐ外の様子を見た。辺り一面が花火大会だった。
「そうはならないらしい。ロンド・ベル、ネオジオン本隊とカラバ、全ての連合がフロンタルに圧力をかけている。そんな余裕はないさ」
「でも、オレらにこの要塞をどうにかする術はないぞ。機関部や様々なところが破壊できない。このファンネルですらギレンのケースに傷1つも追わせられない」
ジュドーの問いにハマーンはモニターに映る青い星を見ていた。
「私は現実主義者だ。これでフロンタルに一泡吹かせられるならやるしかない」
ハマーンは人の想い、意思などの曰く付きな与太話を嫌悪していた。生きているひとだからこそできること、できないことがある。死んだものには何もできやしない。
ハマーンはコンソールパネルと格闘して、要塞の動かし方だけを覚えた。
「これで・・・十分だ」
そして要塞を地球に向けて発進させた。ジュドーがその行動に反発した。
「おいおい!この要塞が地球の摩擦熱で焼け切る保障はないぞ!隕石と同じく地球を汚染させるつもりか!」
ハマーンはその心配の無用をジュドーに説いた。
「この要塞がそれで壊れるとは思わんよ。ただ、相手は流石に機械だ。意味はわかるな?」
「・・・水浸しにする気か」
「そうだ。こいつを母なる海へ沈める」
ジュドーは取りあえず納得して、ハマーンの操縦を見守っていた。
これがどんな代物かは互いに知らない。だが、サイアムの言う通りでフロンタルにプラスになるものならばそれが一番良いだろうと思った。
ハマーンはふと思った。完璧に安心なほど油断することに。敵もそうだったようだ。余りに詰めが甘すぎる。サイアムは打算だと言っていたが、正に真を得ていた。
「彼らは油断だと思わなかったのだろうよ」
ハマーンがそう言うとジュドーが少し首を傾げた。
「何の話だ」
「彼らには危機感がないんだ。絶対安全安心と計算し、予想外に対応できない。それは私ら現場で現実を体験してきたものの専売特許だったというわけさ。だからたとえ世界の黒幕と言えども、私らにやられる」
「・・・なるほどねえ。絶体絶命なオレらだと思った奴らの油断か。余りにバカだな」
「そう、意外とバカだった」
身も蓋もない言い方で2人はサイアムを評した。
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