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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第60話「ようやく」

 
前書き
―――ようやく、重い腰を動かしたか。


早く、展開を進めなきゃ...。でないとサブタイトルがネタ切れになる...。
というか既にネタ切れ感が...(おい
 

 






       =秋十side=





「シッ!」

「はぁっ!」

 木刀と木刀がぶつかり合う。
 相手をしているのはマドカ。しかも俺と違って短めの木刀二振りだ。

「(動きの出が早い...!やっぱり、マドカは判断してからの動きだしが早いな...!それも、複数の攻撃や敵相手は特に...!)」

 俺の動きに慣れたためか、俺の攻撃は悉く防がれる。
 フェイントを織り交ぜても即座に反応して受け止められた。
 ...千冬姉に追随する身体能力の素質持ちだからなぁ...。

「はぁああっ!!」

「くっ...!」

 だが、俺も負けていない。身体能力自体は劣っていても、マドカとは何度もやり合った事のある仲だ。...その経験が、身についている...!

「ふっ!」

「っと...!」

 “風”、“水”を宿して肉迫し、攻撃時のみ“火”、“土”を宿す。
 とにかくマドカの判断を惑わすように立ち回る。
 そして、それにマドカが慣れてきた所で...。

「しまっ...!?」

「はっ!」

 “火”以外の全てを宿した攻撃で木刀を弾く。
 緩急を利用した単純な作戦だが...それ充分に通じる。

「そこだ!」

   ―――“四重之閃”

 弾いた隙に、俺は四撃同時に見える程の高速連撃を放つ。
 それをマドカは...。

「っ....!」

 二撃、身を捻り、もう二撃は二刀で凌いで見せた。
 マドカの咄嗟の判断と並列思考による超人的な反応。
 ...だけど...。

「はい、チェックメイト。」

「...あはは...やっぱ無理かぁ...。」

 凌いだ後が完全に無防備になっていた。
 そこへすかさず追撃を放ち、木刀を弾き飛ばして終わりだ。

「...しかし、一応ついこの間まで俺の最大の切り札だったのに...。」

「複数の対象に対しての行動は、確かに得意かもね。」

 以前、マドカが持っているであろう特技。
 それを確かめてから既にしばらく経ったのだが...これがまた凄かった。
 今のように俺の準最強の切り札を防いでしまったのだ。
 ...まぁ、その後無防備になってしまうからまだ実用には向かないが。
 ちなみに、今の俺の最大の技もまだ実用的ではない。隙だらけになるし。

「飽きないね二人も...。」

「そう言うシャルだって射撃訓練とかやっているじゃないか。」

「まぁ...あった方が良いスキルだからね。」

 シャルが俺達にタオルとスポーツドリンクを渡してくれる。
 そして、俺が言った通り、シャルも射撃訓練を欠かしていない。

「宇宙開発が目的のISに武装が付いているのは、宇宙での脅威...例えば隕石とかに対処するため。束さんはそう言っていたし、こういった武力を鍛えるのも間違いではない。」

「...間違いではないんだけど...発展のさせ方を間違えたんだよね。」

「軍事利用にスポーツ...そりゃあ、怒るよね。」

 ましてや“兵器”として扱われたからな。
 ISは束さんにとって子供のような存在。
 それが本来の用途とは違う使われた方をすれば誰だって怒るだろう。

「...っと、それは分かってる事だから別にいいか。ところで...。」

「...ようやく一段落...って所だね。博士の会見も終わって、監視の目はまだあるものの風当たりは少しマシになったかな。」

「後処理も大体終わったからなぁ...。」

 俺達も手伝って後処理系のモノは大体片付いた。
 アミタさんとキリエさんは未だに学園の方の後処理が残っているため、まだ帰って来れていない。...そういや、千冬姉も更識家に荷物を運んでからすぐに学園に戻っていったっけな。

「一段落ついたなら、私達も一端帰れるかな?」

「多分ね。ボクは帰るも何もここが家みたいなものだけど。」

 この会社には、会社となる建物のすぐ近くにマンションがある。
 一部の社員やシャル達はそこで暮らしている。
 ちなみにこのマンション、会社設立の少し前に買い取った物だ。
 基地はあっても帰る家が当時はなかった俺達も使っていた。
 ...今は帰れるようになったけどな。

「とりあえずもう少し様子見だね。」

「落ち着いたのなら、今度は桜さん達を止めるために土台固めをしなくちゃな。」

 やる事はまだまだある。
 その分野で俺ができる事はごく限られているが、それでもやらなくちゃいけない。
 立ち止まっていては、決して天才には追いつけない。







「....久しぶりに見たが、でかいな...。」

「まぁ、あれでもお嬢様だからねー。」

 一週間後。俺達は更識家の屋敷に来ていた。
 やはりと言うべきその広さに、俺は初見ではないが少し圧倒されていた。

「....ん?戻ってきていたのか。」

 使用人に案内されていると、ある奴と出会った。

「...何してるんだ?」

「千冬姉の所にいても何もできねぇから、適当にな。」

 一夏...兄さんは頭を掻きながらそういった。
 皆を洗脳していた時のようなあくどい性格は完全になりを潜めていた。

「...すっかりやつれたね。」

「あれだけ現実叩きつけられたら思考だってまともになる。...いや、本当に後悔しているし、未だに自分を赦せない。」

「逆にのほほんとしていたら跳び蹴りをかましていたよ。」

 マドカもそんな大人しい兄さんに毒気を抜かれていた。
 ...尤も、直後に言った言葉に兄さんは思いっきりビビってたけど。

「それで、千冬姉はどこにいるんだ?」

「それなら....。」

 とりあえず、千冬姉に会っておきたいので場所を聞く。
 後、簪や楯無さん、本音や虚さんとも会っておかないとな。





「...ここか。」

「まさか冬姉が手合わせの相手をしてるなんてね...。」

 教えられた場所は、更識家にある道場。
 どうやら、更識の人間として鍛えるために、千冬姉に相手をしてもらっているらしい。

「何もできないと言っていた意味が分かったな。」

「確かに。これは割り込めないね。」

 中を覗いてみれば、暗器などを巧みに使う楯無さんの攻撃を千冬姉が木刀一本で悉くいなしていた。...と言うか、普通に反撃を与えている。
 簪は端っこの方で息を切らしていた。傍らには木製の薙刀があった。
 本音と虚さんもいたが、二人は端で見学していた。

「...織斑先生。私、これでも暗部の人間なんですが...どうしてそこまで?」

「何、私も剣術は篠ノ之家の道場でやっていたのでな。何分、その方面の才能が開花したらしくこうなった訳だ。...でなければあいつにはついて行けん。」

 手合わせが終わったらしく、木刀を受けた箇所を抑えながら楯無さんが言う。
 ...確かに、千冬姉はいくら世界で有名な存在になっても、“表”の人間だ。
 なのに、“裏”の人間として日々鍛えている楯無さんを圧倒していた。

「...入ってこないのか?」

「いや、割り込めなさそうだったし...。」

 千冬姉は俺達が見ていた事を当然のように察知していた。
 ...俺達には背を向ける立ち位置だったはずなんだが。
 まぁ、千冬姉だしおかしくはないか。

「冬姉が稽古つけてたの?」

「いや、どちらかと言うとお互い鍛えるためだな。二人は更識家としても言わずもがな。私も以前の勘を取り戻さないと、と思ってな。」

「それでか...。千冬姉が圧倒していたけど...まぁ、一対一なら仕方ないか。」

 千冬姉は身体能力に限って言えば束さんを超えている。
 ...桜さんはどうか知らないけど...。少なくとも楯無さんでも敵わない。

「いや、違うぞ?」

「え?」

「一対一ではない。二対一だ。」

「...えぇ....。」

 つまり、あれだろうか。
 簪と楯無さん二人掛かりで、途中で簪がやられてあの状況に...。
 いや、最近は見てなかったけど、千冬姉も桜さんみたいに人外染みてたっけ...。

「大丈夫簪?」

「な、何とか...。強すぎる....。」

「二人掛かりなのに全部凌がれたわ...。もう、自信失くしちゃう。」

 マドカに声を掛けられ、簪は薙刀を支えに立ち上がる。
 怪我しない程度とはいえ、良い一撃を喰らったのだろう。
 楯無さんもやれやれと力を抜いて溜め息を吐いていた。

「秋十、構えろ。」

「えっ、俺?」

「私も不完全燃焼でな。」

 木刀を渡され、いきなりそう言われる。
 ...二人相手にして不完全燃焼か...。いや、千冬姉ならおかしくないけど。

「...分かった。」

「...ほう....。」

 千冬姉とやり合うのはいつ以来だろうか。
 おそらく、洗脳される前以来だろう。
 洗脳されてからは試合と言うか一方的な蹂躙だったし。

「やはり、見違えたな。」

「研鑽を積み続けてきたからな...。行くぞ!」

「来い...!」

 千冬姉は俺の積み上げてきた努力の“厚み”を見抜いてきた。
 おそらく、それを想定した上で、俺を上回る反応をしてくるだろう。

「......!」

「っ...!」

 一息の下に千冬姉に肉迫し、横薙ぎに一閃。
 全力ではないが、相当な早さで振るったが...あっさりと防がれる。

「はぁっ!」

「っ...!」

 防いだ所からの斬り返しが迫る。
 俺は上体を反らしてギリギリで避け、そのままバク転して間合いを取る。
 当然の如くバク転直後を狙って攻撃を仕掛けられる。

「(だけど、それはマドカとの手合わせで何度も見た...!)」

 やはり姉妹と言うべきか。
 細部は色々違うとしても、似たような戦法を使ってくる。

「ぜぁああっ!」

「むっ...!」

 攻撃を防ぎ、一度後退する。
 一歩二歩と後退し、三歩目で下がると同時に強く踏み込み、逆に肉迫する。

「ふむ...。」

「ぐぅっ...!」

 しかし、その渾身の一撃はあっさりと凌がれ、反撃でまた後退させられる。

「では、こちらから行くぞ。」

「っ....!」

 そして、そこで千冬姉が攻勢に出た。
 ...そう。何気に今まで千冬姉は自分からは動いていなかったのだ。

「(望む所だ...!)」

 元より、千冬姉にあっさり負けているようでは、桜さん達に勝つなど夢のまた夢。
 例え今勝つのは無理でも....!





「うぐぅ....。」

「うむ、中々良かったぞ。」

 ...千冬姉には、勝てなかったよ...。
 いやまぁ、わかっていたけどさ。思った以上に適わなかった。
 悉く攻撃は防がれ、逆にこちらの防御は貫いてくる。
 俺も経験を積んで動きは分かっていた。
 ...だが、その上を行くようにまるで無意味だった。

「まともに攻撃も当てられなかった...。」

「いや、あの技はひやっとしたぞ。」

「放つ瞬間に半分ほど潰して良く言うぜ...。」

 せめて一矢報いようとして四重之閃を放とうとしたのだが、その寸前に千冬姉に肉迫され、本来四連撃な所を二連撃に減らされた。
 おまけに、その二連撃もあっさり回避と防御で凌がれた。
 そしてその後の反撃を俺は防げずに喰らって終了だった。

「桜に使っていた技だからな。初見であればやられていた。」

「まともに見た事ってなかったはずじゃ...あっても記録だけのはず...。」

 なのに、たったそれだけで対処か...。千冬姉ならおかしくないか(思考放棄)。
 桜さんも二重之閃であっさり相殺してきたからな...。

「うーん、冬姉には敵わないなぁ....。」

「私に勝とうなど、まだまだ早い。」

 マドカも今のを見て、まだまだだと思ったようだ。

「簪ちゃん...。」

「...何?」

「私達、まだまだね...。」

「...うん。」

 端っこでは、同じく見ていた楯無さんと簪が遠い目になっていた。
 ...とりあえず、暗部の当主としては俺達を基準にしない方がいいかと...。
 まぁ、“裏”の人間ですらない人に劣っている事に思う所があるかもしれないけど。

「かんちゃんもお嬢様も皆もお疲れさま~。飲み物とタオル持ってきたよ~。」

「いつの間に...。」

「秋兄と冬姉が試合してる最中だよ。」

 本音はいつの間にか席を外しており、飲み物とタオルを人数分持ってきていた。
 ...うん。運んでいる時凄くふらふらしてるから見てて不安になる。
 いや、実際はちゃんとバランスを保っているようだけどさ。

「いやぁ、久しぶりだね~。会社は忙しかったのー?」

「俺達に回される分は相当少なかったが...それでも忙しかったな。」

 グランツさんやハインリヒさんは目に隈が出来ていた。
 ...ちゃんと寝てるのだろうか...?

「久しぶりな所悪いけど、私はこれから着替えて当主としての仕事をしてくるわ。」

「あ、お姉ちゃん、私も手伝うよ。」

 楯無さんはそういって持っていた武器などを戻す。

「それじゃあ織斑先生、失礼します。」

「ああ。...もう、教師ではないのだがな。」

「こちらの方が呼び慣れているので。」

 楯無さんが道場から出ていき、それに簪や本音、虚さんがついて行く。

「当主としての仕事...なんだ?」

「更識家は暗部としての仕事もあるが...現在は主に情報収集だ。世界のな。」

「世界の...って...。」

「情勢が乱れているからな。様々な場所から情報を集めて整理。それを各国...更識家の場合は日本とロシアに伝えているな。」

 今は知っていなければ不味い知識もあるからな。
 ...って、更識家の場合?

「各国のお抱えの暗部も協力している。」

「...俺、そんな分かりやすいかな...?」

「分かりやすく気にする言葉を混ぜたからな。むしろ気づいていなければまだまだだ。」

 別に俺がわかりやすい訳じゃないらしい。...よかった。

「奴はこうして戦闘力の強さを鍛えながら当主としての仕事をこなしている。...もちろん、妹や従者の手助けもあるがな。」

「...忙しそうだな...。」

「ISや国関連の会社や組織は全部そうだろう。」

「まぁな...。」

 対暗部のボディーガードとしての強さを磨きつつ、情報処理も行う...。
 俺達が会社で経験してきた忙しさを軽く上回るだろうな。

「冬姉は何かしたりしないの?」

「束関連の情報を貰って動きを推測している。...あいつが私の予想通りに行くとは思わないが、あいつを一番知っているのは私だからな。」

「暗部関連の仕事は冬姉には合わないもんね。」

「こそこそとした動きは得意ではなくてな...。」

 確かに、千冬姉はどちらかと言うと正面から行くタイプだ。
 だから情報収集にはあまり向いていなかったりする。

「...そういや、暗部で思い出したけどなのはの所は...。」

「高町の所は既に更識家と交渉していてな...現在は互いに深く干渉はしないようになっている。」

「普段は喫茶店やってるからね。なのはの所は。」

 IS学園が襲撃された後、俺は気にしていなかったが、士郎さん達と楯無さんはお互い“裏”の人間であり、普段はあまり関わりのない者同士だ。
 “護衛”と言う点においてはどちらも一致しているが...やっぱり、協力はすれど過度な接触は禁物なのだろう。

「後もう一つ、箒は?」

「あいつについては大丈夫だ。何でも、政府の一部が利用しようと素振りを見せた瞬間、束が直接やってきて釘を刺したらしいしな。」

「おおう...。」

 箒も元に戻ってから束さんのシスコンっぷりが出てきたからなぁ...。
 しかも、一番利用されやすい立場だからか俺達以上に監視の目が強かったのだろう。

「...今晩にも新しい情報が入るだろう。とりあえず、荷物の整理をしておけ。」

「分かった。」

「じゃあ冬姉、また後でね。」

 千冬姉と別れ、改めて宛がわれている部屋へと向かう。





「...同じ部屋なのか。」

「あ、でも一応襖で区切れるみたいだね。」

 着いた部屋は二人にしては広めの部屋だった。
 マドカの言う通り、襖で区切れば一人部屋になるようだ。

「...まぁ、別に兄妹だから同じ部屋でもおかしくはないか。」

「私はむしろ嬉しいけどねー。」

 さて、粗方荷物の整理も終わらせたし...。

「...どうするか。」

「会社にいた時は手伝う事が多かったけど、こっちではどうしよっか。」

「千冬姉を見つけて聞いてみるか?」

 下手に楯無さん達の仕事を手伝う訳にもいかない。
 ...そういや、兄さんも適当に歩きまわってたっけ。

「まぁ、それが無難かなぁ。」

「よし、じゃあ早速...。」

「探しに行く必要はないぞ。」

「ぅえっ!?」

 さっき別れたばかりの千冬姉を探しに行こうと立ち上がった瞬間、閉まっていた襖が開き、そこから千冬姉が出てきた。
 ...変な声が出ちまった...。

「び、びっくりした...冬姉、隣にいたんだ...。」

「ああ。実は大広間にもなるんだ。この四つの部屋は。」

「...ん?四つ?」

 区切りを見る限り、俺とマドカと千冬姉で三つ...後一つは...。

「...俺もいるんだよ。」

「あー、そう言う事。」

「四人共固めておいたって訳か。」

 兄さんが残り一つの部屋にいたようで、襖を開けてそういった。

「二人の部屋の分の襖は向かいの部屋にある。必要な場合は使うように。」

「了解、冬姉。」

「必要な場合って言っても...あぁ、着替えがあるか。」

 これは基本的に使う事になるな。

「さて、整理は終わったな?では、更識家での基本的な暮らしを説明しておこう。」

 そういって、千冬姉は俺達のここでの暮らし方を説明し始めた。
 ...と言っても、そこまで堅苦しいものではない。
 基本的に縛られるような事はないし、不用意に外を出歩かなければいいだけだ。
 ちなみに、昼食は基本的に部屋に運んでもらえるようだ。

「普段は迷惑にならない程度なら自由に歩き回ってもいい。とりあえず家の配置がどうなっているか把握ぐらいはしてもらいたいが...まずは昼食のようだな。」

 千冬姉がそういうと、部屋の外から使用人の声がした。
 俺もマドカも気配を察知してたから予期していても驚く事ではない。
 兄さんも自身はできなくとも慣れているようだ。





「先生、少しいいですか?」

「構わんぞ。」

 運ばれた昼食を食べ終わってしばらく千冬姉たちと適当な話をしていた時、楯無さんが部屋に訪ねてきた。

「あ、秋十君達もいたのね。」

「...そうだな、ちょうどいいからこいつらにも聞かせてやれ。」

 入った所で楯無さんは俺達に気づき、千冬姉はそういう。

「千冬姉、一体何を聞くんだ?」

「束関連の情報は私も聞いていると言っただろう?その過程で、世界の情勢も聞いておく必要がある。...要は、ほとんど情報を共有している訳だ。」

「今回もそのために?」

「そうね。...今回は、少し動きがあったから割りと有用な情報です。」

 楯無さんは千冬姉と向き直り、手に入れた情報を話し始めた。
 そして、一通り聞き終わり...。

「...ようやく、重い腰を動かしたか。」

 千冬姉は、待ちくたびれたと言わんばかりにそう言った。
 ...話の内容を簡潔に纏めれば、いくらかの国がISを宇宙開発に用い始めたのだ。

「元々そういう用途なのだから、さっさとそちらへ方向転換すれば良かったものを、過去に囚われ続けおって...。」

「上の人は皆頭が固いですからねぇ。目の前の損を何とかしてなくそうと躍起になりすぎてるんですよ。ワールド・レボリューションのように、先の事を考えたりしないと。」

 呆れたように話す二人。...いきなり会社の名前が出て少し驚いたのは内緒だ。

「幸い、ISに使っていた技術は他にも活かせる。...ワールド・レボリューションもAIの技術やPICの技術を活かしたゲームを作っているからな。」

「VRゲームでしたね。...ちなみに、そこの所どうなの秋十君。」

「お、俺!?...あまり詳しくはないけど、大人も子供も楽しめるようなものらしいです。PICの技術から仮想世界での飛行プログラムを組み込んで、AI...チヴィットのデータも使って相当大きい規模になるらしいです。」

 メディアからは学習型AIやフルダイブ型のVRは危なくないのかなどと色々言われているが、ひとまずそういった方針で行く事は聞いている。
 詳細は知らないけど、大体こうだったはず...。

「っと、話が逸れたな。話を戻そう。...ISが宇宙開発に使うとなれば、どのような影響が出てくると思う。」

「まず第一に、これは方針を変えなくても起こる事ですが...ISに認められる人が増えるでしょう。それも男女問わず。この事で、いくつかの機関がなぜ動かせるのか調査に出るでしょう。」

「そうだな。事実、既にISに認められた者がいる国は、躍起になって原因を調査している。主にアメリカとドイツだな。」

 ラウラがいるドイツと...なんでアメリカが?
 ...って、そういえば銀の福音のパイロットがアメリカ所属...。
 認められていたのか。

「折角宇宙開発に向けた方針がぶれ、またしばらく膠着状態...ですかね。」

「おそらくな。...まぁ、その方が私達も動きやすいが。」

 そんな執着した思想だからISに認められないんだがな。
 ISは空を翔ける意志でなくとも、純粋たる想いがあれば認めてくれる。
 “誰かを助けたい”、“共に歩みたい”などと言ったものでもいいらしい。
 ...白の受け売りだけどな。

「私としては早いこと秩序を安定させて欲しいですけどね...。暗部となると、秩序を保つための仕事が増えるので...。」

「この前の襲撃してきた連中のような奴が増えると考えると...その方がいいな。」

 “上”が不安定だと、治安も悪くなってしまう。
 その事を考えれば、やっぱり早い事方針を固めて欲しいものだ。
 ...というか、さっきから千冬姉しか会話してないな。

「ともかく、未だ多忙な状況。私達が本格的に動くにはまだ時間がかかるな。」

「そうですね...。各国に戻った人達も、国でのやる事が多いでしょうし...。」

 鈴はともかく、セシリアやラウラは相当忙しいだろう。
 片やお嬢様、片や軍人だ。家の事や軍の事で他に手が付けられなくなっているはずだ。

「...未だままならんな。」

「しかし、着実に状況は変わっています。」

「そうだな。...さて、少し束達の動きを予想してみようと思う。助かったぞ。」

「いえ、では。」

 そういって楯無さんは出て行った。

「...俺達がいた意味あったのか?」

「いつもの事だ。...俺は会話に入るのは諦めた。」

 どうやらいつもの事だったらしい。
 そして兄さんは何度か意味もなく同席していたようだ。

「それにしても、ようやく国が方針を変えたのかぁ。」

「あいつらを探すのは変わっていないがな。...これでも判断が遅い方だ。」

「何か不祥事を起こしたら中々解決しない連中なんだ。仕方ないだろう。」

 いや、改善するべきだろうけどさ。
 ...と、言うだけなら簡単だが実際に俺とかがなったらどうなるかって感じだが。

「これからどうして行こうか...。最終的に桜さん達を止めるのは分かってるけど、その過程でどうすればいいのか...。」

「今の私達には大した影響力はない私にある称号も、過去のものだからな。」

「個人で組織を作ろうにも、烏合の衆にしかなりませんからね。」

 第一、そんな事すればあの襲撃者たちと同じだ。
 ...となると...。

「正式に捜索のための組織を作ってもらわねばな...。」

「そこかぁ...。」

「....今更だけど、そういう組織の作り方ってどんなのなんだ...?」

 桜さん達の場合は会社の設立だが、こういうのはまた違う気がする。
 ...どの道、ある程度の影響力がないと無理か。

「政府が本格的に動けばそれに乗ずる事はできる...が、やはり前途多難だな。」

「分かっていた事だけど....。」

 ...でも、そうだとしても、諦める事はない。
 それはマドカも千冬姉も変わらない。









 絶対に、あの人たちを止める...!









 
 

 
後書き
本編には描写されていない(描けない)世界の状況ですが、今もまだ一言で言えば阿鼻叫喚の様子です。ほぼ主軸になっていたISが乗れなくなった事で大変な状態ですからね...。上層部でまともな人程胃を痛めています。

...そろそろ親友二名を描写しなければ...。(忘れてたなんて言えない...)
何気にISを貰っている二人(+妹一名)ですが、まだ動かせません。と言うか動かしていません。
ちなみにチヴィット達はワールド・レボリューションにいます。(白はついて来てる) 
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