IS~夢を追い求める者~
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最終章:夢を追い続けて
第59話「ここから始めよう」
前書き
―――当てがある訳じゃない。でも、ここから始めようと思う。
進展はほぼなし...と言うか、むしろ終盤が一気に急展開になりそうです。
作者の知識が足りなさすぎる所は飛び飛びになるので...。
=秋十side=
「む...う...参った。」
「これは...どうしようもないね。」
はやて(そう呼ぶように言われた)との邂逅後、なぜか交流を深める事になった。
いや、仲良くなる事に越したことはないが...。
そして今はチェスをやって“いた”。...まぁ、惨敗だ。
「生まれてこの方ほとんど負けた事ないんよー。」
「二人掛かりで手も足も出ない...。」
別に上手い訳ではないとは言え、俺とシャルの二人掛かりで全然勝てなかった。
手はあっさり読まれるし、攻めに入る事もできずにあっさりと防戦一方に...。
「うーん、やっぱり秋十さんは頭であれこれ考えるよりも、体を動かしながら経験や直感で動く方が性に合ってるみたいやなぁ。」
「っ...そういう所、見ていたのか...。」
「これでも観察眼もある方なんやで?」
確かに、はやての言う通り俺は思考しながら何かをする事には向いていない。
才能がないから、そういうものの要領が悪いからだ。
しかし、まさかそれをチェスで見抜いてくるなんて...。
「シャルロットさんは秋十さんより全体的に器用やけど...思い切りに欠ける所があるなぁ。偶には分が悪くてもそれに賭けるって言うのをやった方がええで?」
「そ、そう...かなぁ?」
「ここぞ、という勝負所で逃してしもうてるからなぁ。」
しかも、シャルの特徴も見抜いていた。...と言うか、俺も知らなんだ。
「...まさかとは思うが、このためにチェスを...?」
「んー、チェスをチョイスしたのはほんまテキトーやけど、まぁ、そんな感じやな。何かしらで勝負して特徴を見ときたかったんや。」
「チェスだけで...。」
なんというか...俺の予感は当たっていたみたいだ。
さすがに束さんや桜さん程ではないだろうけど、はやてもスペックが高い。
「...ところで、グランツさんとの共同開発はいいのか?」
「あー、それなぁ。今は私が手伝わんくてもええ状況なんよー。...と言うよりは、私じゃなくてもええって感じかなー。今は私の代わりにシグナム達に手伝ってもらってるんよー。」
「シグナム達に...?」
何かデータでも取るのだろうか?
「私達が作ろうとしているVRゲームは、どうしても人の動きのデータが欲しくてなぁ。子供から大人まで、運動できる人できない人。色んな人のデータが欲しいんよー。私の分は既にあるから、今はあの子たちなんよ。」
「なるほど...って事は...。」
「秋十さん達も近い内にデータを取ると思うよー?もしくは、ISを通じて既にデータ取りはできてるかもなぁ。」
そういえば以前、ISのアップグレードついでにデータを取った気が...。
「これから博士達は忙しくなるから、私が秋十さん達を見る事になったんよ。秋十さん達も特殊な立ち位置だとしてもまだ学生の身。できる事は限られとるもんねぇ。」
「...まぁ、な。...って、あれ?はやては...。」
「私?私は一応飛び級で社会人になっとるよ?でも、年齢で言えばまだ中学生なんよ。研究者として一部には知られとるけど、本業は本屋やし。」
どうしてまた本屋を...と思って聞いてみると、家業を継いだだけらしい。
親戚(シグナム達)と共に研究と両立させているとの事。
「と、飛び級で社会人!?...あれ?日本ってそんな事...。」
「うん、できひんよ?やから、私は外国の学校行ってたんよ。最初は親戚の伝手からドイツの大学に行っててなぁ。そこを飛び級でって感じなんよ。」
「ドイツ...って事は、ドイツ語は?」
「ペラペラやよ。ついでに英語とかいくつかの言語は覚えといたわ。」
さ、さすが天才...。俺、ドイツ語を覚えるのにだいぶ苦労したのに...。
しかも実践形式で会話を重点的においた上でそれなりに掛かった。
「さて、私の事は置いておいて...や。桜さんを超えたいんやったら、私ぐらいは乗り越えてもらわんと困るわ。」
「っ....そうだな...。」
「まぁ、秋十さんは頭脳戦よりも肉弾戦...それも、経験や努力による大器晩成型やからな。チェスでただ勝てなんて事は言わんよ。でも....。」
そういうとはやてはチェスの駒を動かしていく。
...これは...。
「....俺が劣勢な状態...?」
「ここから35手、凌ぎきってや。」
「え、ちょ...。」
俺が劣勢な状態から、指定された手数凌ぐ。
そんなお題を、唐突にやらされることとなった。
「22手...それも逃げに徹してか...。」
「初っ端からちょーっと飛ばしすぎたかなぁ?」
できる限り逃げ続けたのだが、22手でチェックメイト。
お題をクリアする事もできずに終わってしまった。
「変則的だったのもあってか、思ったように動かせなかった...。」
「まだまだ序の口やでー。これから何パターンもやって、どんな複雑な状況にも対応できるようにしてもらおうと思ってるからなー。」
はやての意図は分かっている。
チェスを通して俺の対応力を磨こうとしているのだろう。
俺自身、どう動くか分かっていればやりやすいからな...。
「だからと言って...まだ序の口か...。」
「私ができるサポートは専ら頭脳分野や。しかも、例え鍛えた所で私もあの天才二人には敵わん。飽くまで秋十さん達の経験を積ませるものやと思ってな。」
「...わかってる。」
待ち時間など、合間合間の時間にできるこの特訓は、新鮮で面白い。
だけど、これを含めて様々なものを吸収しないと桜さんには勝てない。
「さて、秋十さんは桜さんを超えるために色々するみたいやし、微力ながら私も協力しようか。」
「それは助かるが...一体、どうやって?」
はやてが手合わせの相手をするとは思えないし...。
「私が協力するのはさっきもゆうた通り頭脳分野や。...秋十さんには、これからありとあらゆる局面を想定して動いてもらうわ。頭で覚えるんやのうて、体で覚える形やな。その方が秋十さんに合ってるやろ?」
「...まぁ、そうだが。」
「シャルロットさんも付きおうてな。全体的に器用にこなせるっちゅーのは、秋十さんと似たような特訓で磨けるものやし。」
そういって、もう一度チェスの駒を並べるはやて。
...なるほど。チェスを使って経験を積ませる。
それがはやてがサポートする部分か。
「まだシグナム達も時間かかるみたいやし、もう何戦かしよか?」
「...受けよう。何事も経験だしな。」
まだまだ惨敗以外の結果を残せていないが、これが桜さんを超える事に繋がるのであれば、やらない手はない。
「さて...じゃあ、次はこれや。」
「主、ただいま戻りました。」
「おー、お疲れやー。」
しばらくして、シグナム達が戻ってきた。
ちなみに、俺達はと言うと...。
「うーん...。」
「あはは...頭使いすぎて少し痛いや。」
結局一度もノルマ達成できず、頭を抱えていた。
シャルの言う通り、頭を使いすぎて少し頭痛がする...。
「げっ...はやてのこれやってたのか...なんつーか、ご愁傷様だな...。」
「...なぁ、これって一般的に見たらどれぐらいのものなんだ?」
八神家で三番目に小さいヴィータがチェスを見てそう言ったので、ちょっと気になってはやてに尋ねてみる。
ちなみに、二番目と末っ子は今はドイツの学校に行っているらしい。
もしかしたらラウラと会う事も...って、軍人だしさすがに無理か。
「んー...なんでこないな事やってんのや?って思うぐらいかなぁ?」
「それは...なかなかだな...。」
ヴィータがチェスの配置をしばらく見た後、“ゔー”とか言いながら逃げるように離れていった。...まぁ、見ても良く分からないからな。
「さて、皆も戻ってきた事やし、ここいらでチェスはやめにしよか。」
「...ああ。そうするよ...。」
「うーん、甘いものが食べたいや。」
頭を使いすぎたからか、糖分を欲している。
シグナム達の茶菓子を用意するついでに俺達の分も取ってくるか。
「へー、秋十さんが話題の男性操縦者だったのか。」
「...って、分かってなかったのか...。」
「だってあたし小学生だし、興味ねぇんだもん。」
ヴィータは俺が男性操縦者だった事を知らなかったらしく、少し驚いていた。
「興味なかったんだ。」
「ISも体動かすだろうけど、あたしは実際に自分の体を動かす方が楽しめるから、あまり知ろうと思わねーんだ。...まぁ、ロボットモノみたいでカッコいいとは思うけど。」
「ちなみにフルダイブ型は疑似的とはいえ動かしている内に入るみたいやから楽しみにしてるんやでー。まぁ、ヴィータは運動好きに加えてゲームも好きやからな。ISのゲームならやってるし。」
今のご時勢、なんでもかんでもISだというのに珍しいな。
「...と、もうこんな時間か。ほな、そろそろお暇するわ。」
「あ、いつの間に...。」
どうやらもう帰る時間になったようで、はやて達は返る支度を始めた。
「ほな、またなー。」
「...また手合わせできる機会があれば、してくれないか?」
「ああ。」
手を振って帰りの車に乗るはやて。
シグナムはあまり会話に混じっていなかったが、帰り際にそう言って車に乗った。
「さて...と。」
「ボクらはボクらでまだ仕事があるんだよね...。」
そう。はやて達と交流していた時は大丈夫だったが、本来はやる事が多い。
直接請け負うものはなくても、手伝う分だけでも相当な量だ。
「うーん...もうひと踏ん張りだな。」
「そうだね...。」
まぁ、チェスのように頭を使う訳ではないからマシだろう。
「秋兄ー!!」
「おぐ...。いきなりだなマドカ...。」
翌日。今度はマドカがやってきた。
まぁ、元々来る予定だったけどさ。
ここに来るまでにやっていたのは、俺とマドカの戸籍を織斑に戻す事だ。
俺の分は先に手続きをある程度済ませ、俺がいなくてもできるようになっていたが、マドカはまだだったらしく、それでこっちに来るのが遅くなったらしい。
「とりあえず鳩尾に入ったから退いてくれ...。」
「あっ、ごめんごめん...。」
突撃された際にマドカの頭が思いっきり腹に入っていた。
...飛び込む形だったとはいえ、割と身長差あったんだな...。
「私が来るまでに何かあった?」
「特には...まぁ、強いて言うならシグナムとその家族が来ていたな。」
「シグナムの?どうしてまた...。」
俺ははやて達の事を簡潔に説明する。
「VRゲームねぇ...。」
「マドカはどう思う?俺は中々面白そうだと思うが。」
「ゲームとしては革命的だよね。でも、このご時勢にどこまで通じるか...。」
「やっぱそこか...。」
今はIS関連の事でてんやわんやだ。
そんな状況下でVRゲームを出した所でなぁ...。
「世間の気を紛らわす...って言うのが、第一の目的なんじゃないかな?」
「シャル。...そうか、その可能性もあるか。」
何も、VRゲームをソフトと共に出す必要はない。
所謂、体験ゲームとして店に置いたりして、徐々に世間に認知されるようにしていけば少なくとも情勢に流される事はないだろう。
その後に本命のゲームを出せばいい。
「...そっか、そうしなきゃならない...か。」
「マドカ?」
「...秋兄、決して焦る必要はないよ。」
「え?お、おう...。」
何か一人で納得したと思ったら、いきなりそう言われた。
一体、どう言う事だ...?
「シャルの言葉を聞いて大体の流れを予想したの。VRゲームを出すのはゲーム的革命の他にもう一つ、人々の関心をISから逸らすという目的があると思うの。」
「...まぁ、確かにな。」
状況から考えても、今の時期に開発を進めるのはそういう目的があるのも頷ける。
「でも、ISと言う存在から関心を逸らすのは、一朝一夕で出来るようなものではない。....だから、必然的に長丁場になる。」
「当然だね。世界中に広まり、有名になったISだもん。いくらVRゲームが革命的と言っても、ゲーム業界での話。関心を逸らすのは一筋縄ではいかないよ。」
むしろ逸らせれるだけ御の字と言える程でもある。
けど、どうして逸らす必要が....。
「...宇宙開発に持って行くには、ある程度違う事に意識を向けて貰わないと、いつまでも過去に囚われてしまうからね。」
「...顔に出てたか?」
「秋兄の考えてる事なら大体は予想できるよ!」
そんなきっぱりと言われてもな...。まあ、マドカだし仕方ないか。
「今、世間はISの事で大混乱に陥ってる。だからこの状況で動こうにも動けない。その状況を打開するために、人々の意識をISからできるだけ逸らすの。」
「状況を落ち着けるための緩衝材にする訳か。」
「そう言う事。...となると、時間がかかるから長丁場になるの。だから、焦って間違った行動をしないようにって。」
「さすがにそこまでせっかちじゃないって...。」
むしろ我慢するのは慣れている。
確かに早く何とかしないとと言う気持ちはあるが、それで失敗したら...な。
「焦る必要なんてない。...と言うか、今の俺じゃ桜さんには勝てないからな。」
「そっか...よかった。わかってたみたいで。」
「実質俺に出来る事なんて限られてるしなぁ。」
積み重ねがないとそれを得意分野としている人にはまず勝てない。
全てを努力で補っていると言っても過言ではないからな。俺は。
狙撃においてセシリアには勝てないし、数ある武器を上手く使いこなすというのもシャルや簪には劣る。特殊兵装に至っては夢追に積んですらいない。
先日のチェスもそうだ。...あれははやてが天才なのもあるけど。
「のんびりする訳じゃないけど、やれる事はやってじっくりとタイミングを窺うつもりだ。焦った所で何も変わらないと思うしな。」
「うん。私の懸念も杞憂に終わって何より。ところで、私の荷物を置きに行きたいんだけど...。」
「あ、ボクが案内するよ。」
「よろしくねー。」
マドカとシャルはそういって行ってしまったので、俺は別の事をしに行く。
...と言っても、間接的にグランツさんを手伝う程度の事だ。
すると、ずっと頭の上にいた白が声を掛けてきた。
【...焦る必要はなく、長丁場になると言っても、猶予がある訳じゃないよ。】
「それも分かっている。限られた時間で、出来る限りその時間を有効活用する。...グランツさんもそれは分かっているはずさ。」
時間にして3年程が限界と俺は見ている。
大体高校卒業の時期。その時には決着が着くはずだ。
【...最初はてんでダメな才能なしだったのに、今は見違えたね。】
「なんだよ藪から棒に...って、なんで白が知って....あぁ、聞いたりしててもおかしくはなかったな。」
【自己完結しちゃった...。まぁ、その通りだよ。お母さんもお父さんも嬉しそうに話してた。“見違えるように成長した”って。】
「まぁ、確かになぁ...。」
俺でも驚く程に成長したと思っている。
努力の仕方が間違ってたのか、ようやく努力が実ったからかは分からないけど。
「でもまだまだ足りない。」
【当然。お父さんの全力を片鱗しか出せてないんだから。】
「.....。」
桜さんが全力に近い力を出したのはおそらく二回だけ。
エグザミアの暴走を止める時と、この前の襲撃の時。
元よりセカンドシフトしていたから出力が段違いだったが、手も足も出なかった。
動きを知られていたというのも大きいだろう。
「...最後の課題、みたいなものか。」
俺は桜さんに色々教えてもらった。だからここまで来た。
...だけど、それでは“その先”へは行けない。
“自力で切り開け”...そう、桜さんは俺に伝えたいのだろう。
「...とりあえず、“いつもの”行くか。」
【じゃあ、私は見ておくね。】
待機状態の夢追に軽く触れ、俺はIS用のトレーニングルームへ向かった。
夢追を渡された時からやっている日課だ。
やっている事の半分は生身でもできる事だけど、単一仕様のためにもな。
「...でも、これも桜さんに言われてやっている事だしなぁ...。」
【生身ならともかく、夢追と一緒にやるのはそうだね。】
どれだけ成長するかなども容易に予想されてしまっているだろう。
それだといつまでも勝てない。何か、必勝といかなくても布石になる手は...。
「...って、俺だといくら考えても予想されてそうだな。」
どうするべきかまで考えて、ふと気づく。
いかなる手を考えた所で予想される。意表を突く事はできないのだと。
「....なら―――」
【っ......!】
あらゆる手を用意しても無意味なら、既知を未知に変えるしかない。
既に知られている手を、さらに昇華させるしかない。
...元より、俺の才能では新しく覚えても意味をなさないのだから。
...そう、極めよう。俺の努力を。
全ての手が予想されると言うのなら...。
―――その上で、回避不可能の一撃を与えればいい。
「今日も今日とてマスコミか...。」
「これ以上探られてもねぇ...。」
立場が不安定であり、疑われているからか、マスコミが会社前に来ている。
だが、いくら聞かれた所で不審な点は見つからないだろう。
そういった点がある者...桜さん達に関わりがある者は俺達を除いて軒並みいなくなってしまったのだから。
「害を与えようとしたら、桜さん達から報復が来るのわかっているのか...?」
「分かってなさそうだね。」
「もう何度目って感じだよ...。その処理関係の事で仕事も増えるしね。」
正直双方に利益が発生しないのでやめてほしい。
と言うか、グランツさんは近々それ関連で会見を開くんだから、それまで我慢するくらいの器量は持ち合わせて欲しいな。
「一段落つくまで結構かかりそうだな...。」
「皆も各々の国でやる事が多いから、再び集まるのは時間がかかるだろうね。」
「うーん、この手詰まり感...。」
あまりできる事が少ないと言うのは何とももどかしい。
「あー、ダメダメ。何か大きな組織ならともかく、一会社にいるだけの学生の身じゃ、出来る事なんてほとんどない。これなら自分磨きしてる方が有意義だよ。」
「あはは...確かに。」
「まぁ、手伝える事ぐらいはあると思うが...。」
無理して何かするのやめようと、頭を振るマドカ。
...まぁ、確かに俺達にできる事なんて限られている。
以前は色々できたけど、それは桜さん達や亡国企業の穏便派が会社にいたからだ。
「秋兄は桜さんを超えるって豪語しちゃったけどさー、これじゃ厳しいよ?」
「厳しいなんて当然じゃないか。」
「いや、確かにそうだけど...。」
マドカの言わんとしている事は分かる。
当ても何もないような状態で桜さんを超えるなんて到底無理だろう。
「...だけど、それでも超えるつもりだ。」
「何か当てがあるの?」
「...いや、当てがある訳じゃない。でも、ここから始めようと思う。」
俺の始めの一歩なんて、小さいものだ。
当てがないのは当たり前。俺は愚直に努力し続けるしかないのだから。
「...そうだね。何もできないからって、じっとしてる訳にはいかないもんね。」
「ああ。」
最終目標は桜さんを超えてあの二人を止める事。
だけど、目下の目標は...まず、会社を一段落着けさせる事だな。
「前途多難だねぇ...。」
「そうだな。....でも...。」
一度これ以上の苦難を乗り越え、心に余裕ができたからだろうか...。
前途多難な今の状況において、俺は...非常に燃えていた。
「時間も空いてるし、相手してもいいよ?」
「マドカ...良く分かったな。」
「そりゃあ、妹だし。」
“にひひ”と笑うマドカ。
一人で鍛えるには限界があるから相手がいるのは助かる。
「場所は...ISの試運転に使ってた部屋でいいよね?」
「そうだな。」
「じゃあ、ボクが使用許可貰ってくるよ。」
マドカと手合わせをするためにトレーニングルームへと向かう。
シャルは許可を貰ってくるために一端別行動となった。
千冬姉程ではないけど、マドカも身体能力は並外れている。
IS程でないにしろ、俺とマドカの戦績は負け越している。
そりゃあ、基礎能力と才能の差があるから当然だが....。
ちなみに、俺はそれを経験で補っているため、偶に勝てる。
「秋兄は桜さんの相手をする予定なんだよね?」
「一応、そのつもりだが...。」
「じゃあ、私は...束さん?」
「スコールやオータムかもしれんぞ?」
束さんの相手はやっぱり千冬姉じゃないだろうか?
でも、四季さんと春華さんがいるしな...。
「...って、別にそこまで相手にこだわらなくても...。」
「いやぁ、皆格上だから、想定して鍛えないと相手できないって。」
「それもそうだが...。」
予想が外れた時が厳しそうだな。それ。
「...特化させるのも分かるが、その方向性は変えた方がいいぞ?」
「方向性?」
「そう。相手に合わせるんじゃなく、自身の強い部分を鍛えるんだ。」
俺が桜さんに予想された上で勝ちうる手段がこれだ。
俺の手の内は知られている。かと言って未知となる技を身に着けても付け焼刃だ。
それならば、既存の技を昇華させる方が通じる確率が高い。
「私の優れている部分を...。」
「マドカの場合は...頭の回転が速かったよな。」
「まぁ、遅くはないと自負はしてるね。でも、突出してる訳じゃないよ?」
千冬姉に似て身体能力も並外れているマドカ。
それに加え、頭の回転が速い...のも千冬姉と同じか。
「うわぁ、考えてみれば、私って冬姉と色々似てるんだよね...。」
「でも、マドカの場合は射撃も...あれ?そういえば...。」
ふと思い出す。
射撃訓練の際に、マドカは周囲からの複数の射撃に反応して見せていた。
さらには、同時に射撃を繰り出す事で反撃もしていた。
「...マドカって、並列思考ってできるか?」
「え?うーん、どうだろ?」
二つ以上の事を同時に思考する。それが並列思考。
俺は全然出来ないが、もしかしたら...。
「ちょっと後で試してみるか...。マドカ、利き手じゃなくても文字は書けるか?」
「一応は...雑にはなっちゃうけどね。」
「よし、手合せした後に試してみるか。」
とりあえずは悩んでいる暇があれば体を動かそう。
小難しい事はそっち方面の人に任せた方がいい。
後書き
最終決戦の相手は一応決まってます。(桜VS秋十は確定)
束さんと対等に渡り合えると言えば千冬ですが、今回ばかりは違います。...対等かどうか以前に、束を止めるにふさわしい人物がいるので。
サイレント・ゼフィルスを使っていないのでマドカの長所が良く分かってなかった秋十。まぁ、この小説で盗む訳にはいきませんでしたからね。
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