| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

コラボ
~Cross over~
  Invitation;挑戦

相手の思惑は分かった。

その傲慢とも捉えられかねない余裕を支えるに値する、圧倒的な実力も。

―――ならば、乗ってやろうじゃないか。

密やかに闘志を高まらせつつ、こちらを見つけて近寄って来ようとするニコを手で制する。

その手で自分の体力バーから、対戦に関するあらゆる設定を司る《インスト・メニュー》を呼び出す。軌跡すら見えそうな速度で素早く操作。

直後、鋭い警告音とともに、その場にいる全員の目の前に小さなウインドウが現れた。

英文のメッセージは、《バトルロイヤル・モードに招待されました イエス/ノー》と読める。このフィールドを一対一の《通常対戦》から、観戦者を含めた《バトルロイヤル》モードへとチェンジするという確認ダイアログだ。

弾かれたようにこちらを見る紅いアバターの姿が視界の端に映ったが、こればかりはいちいち説明している時間はない。無言で頷いた黒雪姫の意志を感じ取ったように、少女もまた首を縦に振ってイエスボタンを押してくれた。

あとは少年のほうだけだが、と意識を前に向けたが、こちらは全てを内包したような底知れない笑みを浮かべながらボタンを押そうとしているところだった。文字のほうも理解できるような形になっているかどうかは窺えないが、どういう趣旨のものかは感じ取ったようだ。

小さな指先が宙空の一点に触れる。

静寂に満ちた数秒に続き、いきなり視界のあらゆるデータ表示が消失した。直後、視界左上に全回復した自分の体力ゲージが金属音とともに降りてくる。他の二人のゲージは、右上に縮小して表示される。そして残り時間も四〇〇秒となり、ラストに【FIGHT!!】の炎文字が浮かび、爆散した。

これでこの場は、誰も彼もが戦いあう闘争の場となったのだ。

だが、紅衣の少年は動かない。こちらの動向を見るというよりは、しばしの時間をこちらへ与えるようなものなのだろうか。端から一対一対一ではなく、一対二を定義しているところがどこまでも舐めている。

だが互いの実力差をかんがえみると、それも仕方がない。大人しくここはニコと合流する方向性がいいだろう。

素早く戦況を見据えた黒雪姫は、ホバーで移動を開始する。真っ赤なデュエルアバターも同じ結論に至ったのか、相手に気を配りつつもこちらへ駆け寄ってきた。

「おい……、おい、ロータス!どーなってんだコレ?どーゆー状況だよっ?アイツが相手か?なんだあの姿?」

エメラルドのアイレンズを不審げに歪ませ、ニコは小声で矢継ぎ早に詰問する。校舎が消え去るまで相手の姿を見てもいなかった身としては仕方がないのかもしれない。

混乱する彼女に向け、まずは落ち着けと手で制しながら、

「手身近に言うぞ。私と協力してアイツを倒せ……というのが、アレのオーダーだ。さっきの事から考えると、心意込みで、というな」

「はぁ!?ウソだろおい!こっちゃレベル9だぜ??その二人がかりをあんなダミーアバターで――――」

そこで。

喚いていた少女のアバターの口がバチンと閉じた。

そこから連想したのだろう驚愕の事実を。黒雪姫がそんな傲岸で傲慢な方針に拘泥していない事実に。

「まさか……そこまで、なのか?」

喘ぐようなその言葉に、明確な答えは必要ない。その代わりのように黒雪姫は積み重ねるように淡々と事実を上塗りしていく。

「今のところ、武器を出していない。完全な近距離物理型。だが三次元機動と踏破力、そして真に瞠目する敏捷性でそれをカバーしている。ノーモーションからいきなりブッちぎるから、目で追うのもキツい。おそらくはそれが彼奴のウリだろう。スタイルはあの手のヤツに典型的なヒット&アウェイ。あの速さと合わさっているから、油断していると瞬く間に削り取られるぞ」

「ま、待て待て。素手格闘(ステゴロ)だと?近接特化のお前にか?」

露骨に四肢剣を見ながら訝しむニコに頷きを返す。

「動体視力がズバ抜けている。まるで()()()()()()()()()()()かのようだ。反撃の太刀の全てを紙一重で回避(イベイド)されるか、軌道を狂わされた。弾幕での物量で圧し潰す貴様のような戦法(スタイル)なら別だが、狙撃手(スナイパー)にとっては天敵に近い。瞬間的に時速数百キロを出せる小柄な人間など、当たる方が事故だぞ」

「マジかよ……」

信じがたいように首を振るニコ。実際、黒雪姫も明確な言葉にして、今まで戦っていた相手がどれだけ常識から逸脱しているか分かるような気持だった。悪夢以外の何物でもない。

「……レイン、貴様はあまり心意技は使うな」

「役不足とでも?」

「違う。私と貴様が連携などできる訳がなかろう。かといって、呑気にリズムを確かめ合うような練習時間を戦闘の中で見出せる相手でもない。ならば役割を単純明快に線引きしたほうが、いっそのことこんがらからないだろう?幸い、近接の私に対するような遠距離最大火力(キサマ)だ」

「前向きなのか後ろ向きなんだか分かんねぇ分析だなぁ、おい。だが、いいんだな?あたしのスコープは小綺麗にお前だけを避けちゃくれねぇぜ?」

ブレイン・バーストにおけるチーム戦――――タッグマッチでも、フレンドリーファイアは存在する。しかも、今のモードはバトルロイヤルだ。タッグを組んでもいないスカーレット・レインの攻撃に当たれば、体力バーは容赦なく吹っ飛ぶだろう。

そして、ニコの言葉の端々に隠しきれない緊張が滲んでいるのには、他にも理由がある。

すなわち、レベル9同士の対戦にしか適用されない特殊条件(サドンデスルール)

例え事故だろうとも、レベル9であるスカーレット・レインの攻撃を受けて、同じくレベル9であるブラック・ロータスの体力ゲージがなくなれば、その時点で黒雪姫のニューロリンカーからBBプログラムが強制アンインストールされる。そうすれば自分は二度とこの加速世界へ足を踏み入れることなどできなくなる。

だが。

ふふんと底意地の悪い笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。

「なんだ心配しちゃったのか?つい先日、私をレーザーで焼き焦がしただろう。熱かったぞ、アレ」

「チッ、まだ根に持ってんのかよ。もともと黒いから焦げ目がついてもわかりゃしねぇっての」

ほんの数日前の《災禍の鎧》討伐戦のことを引き合いに出しながら茶化すと、ニコも苦笑交じりに会話にのった。

「……ミサイル一斉射、信管は抜け。それでルートを縛る」

「あいよ」

緩めた糸を、引き絞る。

凛と響く声に、深紅のアバターも炎のような闘志を漲らせた。

「行くぞ……ゴー!」

「着装!《インビンシブル》ッ!!」

鋭いボイスコマンドが、月光に蒼くライトアップされた梅郷中の校庭に轟いた。

次の瞬間。

夜闇を引き裂く重低音が、戦場の場に開始の合図となって鳴り響いた。










「着装!《インビンシブル》ッ!!」

まだあどけなさが残る少女の声が減衰して消える前に、黒雪姫はもう走り出していた。

後ろからは、ごごがががガゥンンン!!という金属質な鈍い音が連続して追ってくる。今頃、あのミニマムサイズな少女型アバターの周りには、次々と巨大なポリゴンブロックが現れているはずだ。

赤の王にして《不動要塞(イモービルフォートレス)》と呼ばれ、畏れられる彼女の代名詞にしてその存在定義。

本質。

大型エネミーに比肩しうるほどの巨躯を包むのは、機銃やミサイルポッドなどの遠距離火器。側面にそれぞれ据えられている長大な二門の主砲が放つプレッシャーは壮絶だろう。

見るからに弱そうだったレインの予想外の変形に、少年のマフラーに隠された口元が、さらなる笑みに歪むのがはっきりと見える。

―――せいぜい見下していろッ!

アバターとしては珍しいホバー移動の恩恵で、本来ブラック・ロータスに足音というものは存在しない。しかし、限界まで身体を沈めさせ、脚部にかかる力が尋常ならざるものになっている今、脚剣の切っ先から飛行機雲のような煙と、虫の羽音のような擦過音が鳴る。

相手の心意に対しての躊躇は一切ない。こちらが王クラスだからかは知らないが、少なくともあそこまでの大規模な破壊の心意をほぼノータイムで放てるのであれば、広域ではなく限定域下における心意技はどれほどの威力になるのだろうか。

「……………せッッ!!」

キン!と。

思いっきり振りかぶった右腕ではなく、左手の刀身から鋭い金属音が響く。

己の《剣》という属性から、『斬り刻む』という属性だけを抽出したノーモーションの心意。正当な心意技ではないので威力は劣るが、相撲でいう猫騙しのように不意を突くにはぴったりだ。

だが。

キンッッ!!

「なっ」

左の剣から放たれた、陽炎のような不可視の刃。しかしそれは自然体で佇む少年のコートに触れる前に、鋭い金属音を響かせて消えてしまった。

否、消えたのではない。

両断された。

その証拠に、少年のはるか後方。グラウンドの隅に建つ尖塔――――防球フェンスが音を立てて崩落した。ド真ん中から綺麗に断絶された片割れが本来辿るべき軌道を逸れ、塔の側面に致命的な斬撃痕を刻んだのだろう。

崩落する瓦礫が足元を不気味に蠕動させる。それは普通ならば二本足歩行のアバターに少なからずの影響を与えたはずだ。しかし四肢が剣という関係上、常に低空で浮いている状態の黒雪姫には効果はない。

「おおおおオオオォォッッ!!」

気勢とともに、ギリギリまで溜めていた右腕の《槍》を突き出した。

響き渡るのは、ジェットエンジンにも似た低周波音。その音を聞き、微かに少年の表情が動いたような気がするが、その心の底は見通せない。

ブラック・ロータスの心意技。

第二象限。

射程距離拡張。

「《奪命撃(ヴォーパルストライク)》!!」

相手の着るフードコートの血色より、スカーレット・レインの半透過アーマーよりなお赤い深紅の閃光が右手の剣から迸る。

空気を引き裂く音さえ呑み込まれた。

極限まで研ぎ澄まされた精神が、心意の刃を最大射程の百メートル以上まで持っていく。本来ならば近接特化である黒雪姫は一方的に遠距離(あか)系に撃たれるような距離。専門職の特色を食い潰すようなルール違反を、心意はすべて踏み越える。

紅の槍が、直近から爆進した。

だがそれは直後、四散する。無造作に突き出された掌が、発動寸前の切っ先を優しく包み込んだのだ。それによってジェンガのように積み上げられた集中力が吹き散らされる。

「っ!」

眼前の敵にとって、この程度は反撃ですらないのだろう。

――――だが、そこまで想定内だ!

「放てッ!レイン!!」

「っしゃぁ!」

黒雪姫が上げた、鋭い声。そこを起点として後方に控える要塞のミサイルポッドが開き、そこから轟音とともに次々と噴射炎を後部に貼り付けた円筒形の物体――――ミサイルが飛び出した。

その数、優に四十以上。

さすがは遠距離火力最強の赤。先の《災禍の鎧》討伐戦の時も垣間見たが、素晴らしい火力だ。純粋なレッドであった先代の赤の王よりも、攻撃力でいえば上かもしれない。

―――とはいえ、少し景気が良すぎるんじゃないか!?

月光をオレンジ色に引き裂きながら飛んでくるミサイル群に、重なっていた両者は否が応にも互いから意識を引き剥がす。これで少なくとも数秒の間、対処に追われるはずだ。

―――ミサイルに信管はない。私はただ両断すればいいが、それが分からない彼奴に同じ対処は取れまい。先刻の大規模心意を出そうとするならば、その僅かな隙に首を取る!

脳裏をアドレナリンのように巡る闘志を反映してか、左右の腕の剣がギラリと剣呑な輝きを放つ。

最悪当たっても、起爆しないミサイルなど打撃ダメージ―――しかも正規のものではないためダメージは低い―――くらいしかならない。レベル9の装甲と体力の前では、一、二発くらいは無視しても構わないくらいの余裕はある。

だが。

迫る子弾に向ける少年の表情に、黒雪姫は違和感を覚えた。対処を焦る、というような素人じみた余地はないと思っていたが、それにしても自分から意識を外しすぎている。

―――舐めて……いや、これは。

まるで、もっと面白い玩具に興味が移った子供のような。

「――――まさかッ!」

慌ててミサイルから切っ先を外し、突き刺すようなスラストを放ったが、その時には既に姿はない。

上空。

たたんッ!たん!と軽やかなステップの音が、月光ステージの夜空に響く。それがどんな意味を為しているのか理解した時、戦慄した。

―――まさか……。いや、まさか、まさかまさかまさか!

空を切るミサイル群。

()()()

「嘘……、だろう」

横薙ぎの豪雨のようなミサイルの弾幕。だがその弾雨の合間を飛び回る人影を視認し、思わず声が上ずった。

《レンホウ》は、飛ぶミサイルの円筒形の外殻――――その側面を足場に弾幕を掻い潜っていた。

―――正気じゃない!!信管が作動したら木端微塵になるんだぞ!!!

まるで信管が抜いてあるのを知っていたような、そんな確信めいた動き。そして、揺るぎないその爪先が向かう先は――――

「くそッ!そちらから潰す気か!!」

スカーレット・レイン。

その巨大な要塞型武装だった。 
 

 
後書き
王二人を相手取るというのは、AW10巻のVS編を見た時から考えていたことでした。
というのも、どう考えてもカラス君は役不足かなぁ、とw
AGI特化で三次元機動力のあるレン君相手では、相性的にカラス君はフツーに撃墜される未来しか見えないんですよねぇ。ワイヤーという武器をGGO編で失い、オープンスペースでの火力は著しく下がったとはいえ、足の速さは健在です。それを相手に王二人はどう立ち向かうのか、こうご期待。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧