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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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コラボ
~Cross over~
  Determination;決意

風が唸る。

強化外装《インビンシブル》は、二門の主砲レーザーや機銃などを分厚い装甲版やホバースラスターで包み込んだ、複数の武装コンテナを連結するように組んだ巨大要塞だ。その持ち主、スカーレット・レインに献ぜられた異名《不動要塞(イモービルフォートレス)》は、動かないのではなく、動く必要がないほど圧倒的な火力を初めから持っているから、というのがその由来だ。

一見攻略不能の、通り名通りの要塞のように見えるが、ブレイン・バーストが格闘ゲームである以上、そこにも付け入る隙はシステム的にきちんと設けられてある。

それが、召喚した全ての武装コンテナを統括、管理、運用できるコックピットブロックだ。インビンシブルは各種兵装コンテナを、コックピットブロックを中心として接続するアタッチメント型強化外装なので、逆を言えばコックピットさえ制圧すれば、この要塞の攻略は可能という訳だ。

―――だが、ここまで真正直に向かってくるヤツぁ久しぶりだぜ!!

ミサイルポッドから放たれた数十の弾雨。その隙間を縫うように、空中を奔るミサイルの側面を足場にこちらへ猛然と向かってくる小さな人影をコックピットから見上げつつ、上月(コウヅキ)由仁子(ユニコ)はそう思った。

いきなり観戦者(ギャラリー)として戦闘区域から弾き飛ばされ、直接の両者の激突を見ていない彼女は、相手の力にいまいちピンと来ていない節があった。

だが、かつて見たこともないほど大規模な心意技や、何より数瞬前にブラック・ロータスと打ち合ったあの動きは相当イカれていた。黒雪姫の過剰な評価は何も間違っていない。

そして今も。

―――ミサイル足場にするなんざ、考えても普通実行しようとは思わねぇ。先端のボタンが触れたら起爆すると思われがちだが、近接(VT)信管はその限りじゃない。あのガキ爆散してぇのかよ!

無論、事前に立てた作戦で、大量のミサイル群から信管は抜いてある。しかし、それを知らない相手がああも大胆な行動に出るとはにわかには信じがたいところだ。

―――レーザーで撃墜……いや、あのアシなら難なく避けられかねねぇ!

普通のゲームでいうところの《装備》や《武装》である強化外装は、えてしてその攻撃性能しか見られないことが多い。だが加速世界でも最強種たる強化外装を繰るニコは、その真価を知っている。

それは、強化外装自体に耐久度があるということ。単純なようだが、このアドバンテージは対戦の場においてかなり大きい。回復職(ヒーラー)もシステムによる自動回復もないガチンコ勝負、といったら後は察せられるだろう。

だが。

―――いくらインビンシブルの耐久性能がケタ違いだろうと、それはあくまで正規のプログラムの中ではの話だ。そこから外れた心意で攻撃されたならどうしようもない!まとめて串刺しにされるのが早え!

実際、敵は心意を躊躇なく放っている。加速世界では心意は秘匿されるものだが、それも心意による攻撃を受けた今ならば、その限りではない。

遠慮躊躇なく、反撃できる。

がしょん!とニコは己が強化外装に指示を出す円筒形の接続部から片腕を離す。その腕はそのまま、左腰に装着されている小さなハンドガンを神速で引き抜く。

ゴウッ!と仮想の炎が空気を食らい尽くすような音が、小さなコックピットの中に響いた。

「《紅の炸裂弾(スカーレット・エクスプローダー)》!!」

高らかに宣言された技名発声に後押しされるように、鮮やかな赤に彩られた光弾が甲高い唸り声のような残響を残しながら飛ぶ。

だが、その行方を一々少女は見届けない。いっそ可愛らしいとさえ思えるデザインの小銃、そのキャッチーに膨らんだ銃身部分を、まるでリボルバーの回転弾倉(シリンダー)のように勢いよく回転させた後、もといた腰に吊るし直す。

そして再び接続部に手を伸ばした少女型アバターは、再度インビンシブルに号令を出した。

敵対者に死を。

主の意向を汲み取った鋼鉄の獣は、先刻のミサイル一斉射とはまた違う咆哮をあげた。

今度は機銃。

要塞という圧倒的重量に固定されているため、反動など銃手を考慮していない作りをした長大な銃口が、ミサイルの弾雨を掻い潜り、もはやしっかりとした足場もなく大空を舞う人影に向く。

ばあああああああああ!!!!

一つ一つの発射音が重なりすぎて、もはや一塊の轟音にしか聞こえなくなった叫びが溢れだす。

曳光弾のようなエフェクトさえ見える大口径弾は、それぞれが対物ライフルの一撃と同等。マトモに直撃しなくとも、掠っただけで部位を丸ごと抉り飛ばすエネルギーを含んでいる。ミサイルと違い、触れた時点で脚が消し飛ばされるだろう。

―――その前に、その状況からあたしの心意弾からどうやって避ける!?

今度こそコックピットからその趨勢を見守るニコは、そこで見た。

ぞろり、と空に浮く少年の周囲の空間が炎天下のアスファルトのように捻じ曲がるのを。あまりに高密度のエネルギーが空間に与える不安定さを。

「――――ちィッ、クソッ!あくまで正面突破か舐めやがって!!」

青白い月光の夜空。それを侵食するかのような暗色の濁った過剰光が放出された。

びりびりと肌で感じるプレッシャー。あの前では機銃の掃射も、自分の放った心意技も等しく薙ぎ払われるだろう。

だからこそ。

「ロータス!!」

「ぜあああぁぁッ!!」

鋭い叫び声と、凛とした気勢はほぼ同時だった。

レベル9の圧倒的なステータスをもって大跳躍した漆黒のアバターが、地上十数メートルを落下する紅衣の少年を背後から斬りかかっていた。

もはや隠すまでもないのか、その剣身からは眩いばかりの燐光が迸っている。

王クラス二人の心意。

その挟撃。

だが、迫りくる凶刃と凶弾の両方にさらされた相手の口元には――――いっそ爽やかとすらとれる笑みがあった。

―――うそ、だろ?

ガシィ!と不安定どころか足場すらない空中で少年はまず黒雪姫のほうに手を伸ばし、振り下ろす前の二の腕を強引につかみ取る。そしてそれをそのまま、振り下ろす黒雪姫自身の力も利用し、背後から迫る心意弾に向けて剣身を差し出した。

爆音が、響き渡る。

ニコが放った心意技《紅の炸裂弾(スカーレット・エクスプローダー)》は、その名の通り敵の内部で爆発する榴弾だ。機構も何もないエネルギー体である心意で構成されているため、爆裂するタイミングは使用者本人が判断しなければならないところが玉に瑕だが。

だが、今は黒雪姫がいる関係上、ニコ自身は爆発するように仕向けていない。

―――つーこたァ……!

爆炎が広がる宙空に、さらにダメ押しとばかりに機銃の掃射が突き刺さる。

そしてコンマ何秒後、球形の赤褐色の爆炎が薄れるのを待たず、その下部から二つの人影が吐き出された。

一人は対戦相手である紅衣の少年。その派手なコートの裾が破れ、首元に巻くロングマフラーはその半ばから切り取られているが、本体に目立った外傷はない。実際視界左上に据えられた体力バーも一割ほどしか減っていない。

しかし、その僅か後に続いて爆炎から落下したアバターはそうでもなかった。

絶対切断(ワールドエンド)》の代名詞と言うべき四肢の剣のうち、右脚は遠目でもわかるほどの大きな亀裂が走り、何より空中で敵に対して振り下ろそうとしていた左腕が半ばから爆散している。そして、その破片だろうか。アバター本体の黒水晶(モリオン)のような半透過アーマーに幾多の黒い破片が突き刺さっていた。体力ゲージは残り六割ほど。欠損部分があるのを加味すれば、かなりのダメージだ。

しかも、爆発の影響で三半規管にモロにダメージが入ったのか、受け身も取らずに地面に激突した。落下ダメージが入り、さらに体力バーが目減りする。

「あのヤロッ!ロータスを盾にしやがったのか!?」

背後のスラスターを使い、インビンシブルの位置を微調整していくニコは叫ぶ。

先に着弾した心意弾はロータスの手刀を利用しつつ防いだのだろうが、おそらくその後に続く機銃の弾幕はそのままの流れでロータスを己の前に投げ出したのだろう。平時ならば体躯の差から黒の王が振り回されることなどないのだろう。しかし戦場は踏ん張る足場もない空中だ。ただでさえアバターフォルムから体幹が弱そうなブラック・ロータスならばさもありなん、というところだろう。

―――いや、そこじゃねぇだろう問題なのは!足場がないのは向こうも同じだ!いくら体幹が弱いとはいえ、そんな明確な弱点を王クラスが放置してるワケがねぇだろうが!!

聞いていた。

理解していたつもりだった。

だが改めて、先刻黒雪姫から説明された敵の三次元機動の凄まじさ、その片鱗が背筋を不気味に湿らせる。

ガン!と要塞の足元で何かが鳴った。

思わず眼をやると、爆散したロータスの腕剣と思しき大き目の破片が真っ白なタイル張りの校庭に突き刺さっていた。艶やかだったその表面は幾多の傷にくすみ、青白い地面に黒々とした影を描き出す。

「闣膁臦겡꿣芭鿣膮ꫣ膠」

理解不能な言語。だが、その真意は伝わらずとも、その口元からどうしても拭い去れない三日月が何となく傲岸不遜なものだと伝えていた。

「チッ!おい、ロータス!起きろ、聞こえてんのか!!起きねぇとまとめてブッとばすぞゴラァ!!」

半ば本気の怒気とともに、ニコは腕部に接続したコントロールツールで手足のようにインビンシブルに指示を出す。途端、ガォン!という音とともに要塞の各所が唸りを上げる。だが、その中に明らかな異音が混じっていることにニコは気が付いた。

眉を顰め、視線だけ動かしてコックピットの切り取られた世界から強化外装の各所を素早くチェックする。すると、己の半透過アーマーの色と同じ紅色の装甲版に隠された駆動部に細かく突き刺さった怜悧な輝きが辛うじて見えた。

月のない夜の色。

その色に嫌な予感が背筋を駆け抜け、

「――――ッまさか、ロータスの砕けた破片か!?あの一瞬でそこまで!?」

幸いにも、投擲された破片の数は少なく、大事な油圧系も傷つけてはいない。しかし、空中でのあの交錯一回で、挟撃した両者それぞれにきっちり反撃を加えたとなると、いよいよもって桁が違う。まるでこの加速世界におていもなお加速しているような判断力と状況即応力だ。

思わず生唾を呑み込む。

ことここに至り、明確な怯えが顔を覗かせたのをはっきりと自覚でき、少女は唇を噛みしめる。

自分が他の王達と違うのはここだ。圧倒的な経験値不足を言い訳に、いつも勝手な劣等感を生み出して自分自身を悪循環の渦に落とし込む。この大きな要塞は、外部を拒むハリネズミの針だ。潜在的に自分は、自分より小さくて弱い者をいたぶって満足しているだけ。黒雪姫のようなハングリー精神はまるで持っていない。

その怯えが届いたかどうかは分からない。

だが、こちらに向かってゆっくりと歩を進める少年の向こう――――大気を焼き焦がさんばかりの心意の揺らぎを放ちながら、剣鬼がゆっくりと立ち上がる。

「ロータス!」

「……ォオ…オ!オーバー……イブ……ード、レ……ド……!」

囁くように発音されたことでところどころ聞こえなかったが、何らかの技名発生だったのか、ブラック・ロータスの装甲のパーティクルラインが鮮やかなレッドに染まる。視界右端の必殺技ゲージが減少していないということは、あれも心意技の一種なのだろうか。

離れたここまで漂う鬼気。

それに当てられたように、萎えていた戦意に炎が灯る。

「…………ハッ!ンな体たらくじゃ、クロウのヤツに笑われちまうぜ!」

にっ、と快活な笑みを浮かべた少女は、次いでインビンシブルを離装させた。

強化外装は持ち主の意思次第で脱着可能ではあるが、一度しまうと再度展開するまでに冷却時間(クールタイム)が必要となる。青系や緑系がよく使う盾や刀剣類などの、比較的小さな強化外装ならばそこまででもないが、ニコのような要塞クラスになると通常対戦クラスの制限時間内ではもう再展開は望めないだろう。

だが、少女の顔に後悔の文字はなかった。むしろふてぶてしいまでの笑みを口元に宿しながら、

―――ああそうさ、あたしは弱い。チェリーも救えず、あいつらも傷つけた。だけどなぁ……。

ゴウッ!!という音が、小さな少女型アバターを包む。

立ち昇る過剰光は、まるで紅蓮の炎のように収斂し、スカーレット・レインの脚部に宿る。

その輝きが、その熱さが閾値を超えた時、ニコはどこか得意げに宣言するようにこう言った。

「だからって、いつまでもそれにかまけるワケにはいかねぇだろ!」

炎膜現象(パイロプレーニング)

心意の技名発声とともに、システム外の力に押されたアバターが加速する。 
 

 
後書き
なんかニコちゃんが主人公してきてますが、とはいえ今回を見ていておや?と思った方がいたら幸いです。
そこを皮切りとして、待て待てそもそもこのレン君、どこのだ??という疑問まで昇華させてみてはいかがでしょう。この無邪気ワールドの深淵まで繋がっているかもしれませんよ? 
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