黄金の扇子
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第二章
やけに派手な、きんきらきんと言っていい絹の着物を着た猿顔の小柄な男がれいこの前にいた、そうして彼女に陽気に笑って言ってきた。
「おおこれはきれいなおなごだぎゃ」
「あの、ひょっとして貴方は」
「わしのことがわかるだがや」
「だって小柄でお猿さんみたいなお顔ですから」
「ははは、それでわかるだぎゃ」
「はい、太閤さんですよね」
「その通りだぎゃ、生きていた時は太閤だったがや」
男は自分から言ってきた、そして両手を合わせて自分の顔の右に持って来て目を瞑ってかられいこに話した。
「そして今はだぎゃ、ここで寝ているだがや」
「起きてますよね、今」
「起きている時もあるだぎゃ」
「それで今ですか」
「たまたま起きていてぎゃ」
それでというのだ。
「おみゃあさんが参拝に来たのを見てぎゃ」
「出て来られたんですね」
「わしは可愛い娘が大好きだぎゃ」
「そういえば太閤さん女好きでしたね」
「それと麦飯にひき米が大好きだぎゃ」
「麦飯もですか」
「そうだぎゃ、それでおみゃあさん今わしに大学への合格を祈願しただがや」
男はまた自分から言って来た。
「しかしわしはどうにもだがや」
「勉強のことはですか」
「専門外だがや」
腕を組んでれいこに答えた。
「というかわしは字を読むのも苦手だっただぎゃ」
「そういえばお百姓さんから出世されて」
「学問には縁がなかったぎゃ」
このことで苦労もしてきている、歴史にはそう書いてある。
「だから折角お参りをしてくれたでもぎゃ」
「私のお願いはですか」
「わしの専門外だがや」
それでというのだ。
「他の神様となるぎゃ」
「そうですか」
「しかしおみゃあさん見たところ頭がいいぎゃ」
男はれいこの表情、特に目の光を見て言った。
「わしは人を見る目はあるぎゃ」
「そのことでも天下人になられましたね」
「そうだぎゃ、頭はいいぎゃ」
「じゃあ合格は」
「いやいや、戦でも何でも勝つのは力とぎゃ」
実力だけではなく、というのだ。
「運だがや、おみゃあさんにそれもあればぎゃ」
「合格ですか」
「わしは運もいい男だったがや」
「そのことでもですね」
「天下を取れたぎゃ、だからぎゃ」
自分には学はないが運があるからとれいこに言うのだった。
「おみゃあさんに運を与えるだがや」
「参拝したからですか」
「そうだぎゃ、これを持って行くだがや」
こう言ってだ、男はれいこのすぐ前に来てだった。
金色の派手な扇子を差し出した、そうして笑顔で言うのだった。
「これを受け取るだがや」
「その扇子をですか」
「わしの扇子、天下一の果報者わしの扇子じゃ」
「だからですか」
「持っていればじゃ」
それでというのだ。
「開運、そしてその運でじゃ」
「大学合格ですね」
「そうだがや、これを持って受験に行くことじゃ」
「わかりました、それじゃあ」
れいこは男からその扇子を受け取った、そうしてだった。
扇子を自分の鞄に収めてだ、男に深々と頭を下げて礼を述べた。
「有り難うございます、それでは受験は」
「頑張って来るぎゃ」
「運も備わったからですね」
「油断は駄目でも落ち着いて受けるぎゃ、あとぎゃ」
「あと?」
「いや、スタイルもいいおなごじゃ」
ここで急にいやらしい笑みになってだ、男はれいこに言ってきた。
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