黄金の扇子
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第一章
黄金の扇子
南巽れいこはこの時不安を感じていた、それはどうしてかというと。
「推薦ね」
「大学の推薦ね」
「あんた今度受けるのよね」
「ええ、けれどね」
それでもと言うれいこだった。
「合格出来るかどうか」
「不安で仕方ない」
「そう言うのね」
「確かに受験勉強はしてるけれど」
真面目でそうしたことは欠かしていない、受験を意識した頃からその大学のことを念頭において夜遅くまで勉強してきている。
「それでも合格するかはね」
「成績だけじゃないからね」
「あと運もね」
「この運の要素が大事よね」
「実際のところ」
「その運が不安なのよ」
それでというのだ。
「私としても」
「それじゃあね」
友人の一人がここでれいこに言った。
「豊國神社行ってきたら?」
「豊國神社?」
「そう、あそこにね」
大阪城の正門のところにある豊臣家の面々を祀った神社である。
「行って合格祈願してきたら?」
「あそこ学業成就の神社だったの?」
れいこは友人の提案に怪訝な顔で返した。
「そうだったの?」
「さあ」
「さあって」
友人の今の返事には咎める様に返した。
「それはないでしょ」
「だってあそこ太閤さんをお祀りしてるでしょ」
「それは知ってるけれど」
「大阪の守り神でしょ、太閤さんは」
「あの人元々は名古屋の人でしょ」
尾張出身だったことを言うれいこだった。
「元は」
「それでも大阪城を築いたし」
「大阪の発展のはじまりの人だから」
「大阪の守り神だしね」
大阪が今の繁栄に至るきっかけを作った人物だからだというのだ。
「大阪人皆太閤さん好きだし」
「まあ大阪で嫌いな人はいないわね」
「だからよ。太閤さんにお願いしてきたら?」
「合格させて下さいって」
「そうしてきたら?」
「そうね、大阪城ならね」
大阪の象徴の一つであるこの城についてはだ、れいこもこう言った。
「私も何度も行ってるしね」
「好きでしょ」
「だからだっていうのね」
「そう、行ってきてね」
「神社でお願いして来る」
「合格のね」
そこに祀られている秀吉にというのだ。
「そうてしてきたら?天守閣にも登ってあの辺りの屋台でたこ焼きも食べて」
「たこ焼きは受験に関係ないでしょ」
「いや、あそこのたこ焼き美味しいから」
「それでっていうのね」
「あれも食べてきてね」
そうしてというのだ。
「受験頑張ればいいわよ」
「太閤さんにお願いね」
「ええ、そうしてきてね」
「じゃあ今日の学校帰りに行って来るわ」
早速とだ、れいこはその友人に答えた。
「環状線使ってるしね、私」
「じゃあ丁度いいわね」
「大阪城公園の駅で降りてね」
大阪城の最寄の駅である。
「あそこで降りてね」
「そうしてきてね、そのうえでね」
「受験ね」
「頑張ってね」
この言葉は他の友人達も話した、そしてだった。
れいこはこの日の授業の後家にはすぐに帰らずに大阪城まで行った、そしてまずは大阪城の天守閣に登って最上階から大阪の市街を見渡してだ。
それから神社に参拝して賽銭を入れてから自分の受験のことを願った、そのうえで帰ろうとするとだった。
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