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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  越えて往く一撃!!

今までのあらすじ

みんなの協力の元、十五天帝を取戻しネガ電王を撃破した蒔風。


一方、故郷の街で父と対峙する翼刀。
その圧倒的な力と技の前に、なすすべもない。

だが唯子の時間稼ぎによって救われた彼は、神剣の恩恵によってまずまずの回復を果たす。


そして、この継承式で見せる二つの内の一つ、動不動拳を今、父に放つ。

構えていた翼刀は――――



------------------------------------------------------------



深呼吸
肺いっぱいまで吸い込んだ空気を、ゆっくりと、絞り出すように口から吐き出す。

それを繰り返し二回。
三回目は、吸いきったところからさらに吸う。そして息を止め、体内が落ち着いたところでさらに時間をかけて吐き出した。



これから見せるのは、動不動拳。
しかし、正当な形ではない。

踏み込み、突き出す拳。
その動の所作から放つ不動拳という矛盾を成すのが動不動拳。


翼刀はそれをせず、自分なりと称して今から挑む。


(自分なり・・・・なるほど。別の形を見出したと言うことか)

翼刀の言葉からして、どうやら正当な形は出来ないようだ。

だがいいだろう。
技術は常に進歩するもの。認めうるものであれば、許容しよう。

(だがな、それでもし生半可なものであったら絶対に認めん)

楽しみ半分、と言った顔で、翔剣はにやりと笑う。


自らの技を持たず、ただ先代の技をできると言うだけの自分にはないものを、これから息子は見せてくれるのかもしれない。
そんな楽しみ。


「行くぞ」

「おう」

翼刀が構え、翔剣が体に力を込める。

翼刀が向けているのは、左拳。右腕は引いた状態だ。
このまま突っ込み、左拳か。それとも右腕を突き出しての攻撃か。


頭の中で推測が飛び交い。そしてそれの答えが出る前に、翼刀が動いた。


「ダッッ!!」

地面を蹴り出す、右足。
左拳が出ているから、そっちの足が後ろだ。

その一歩の踏み込みで、一気に翔剣の元へと飛び込んでくる翼刀。


そして、ここからが動不動。


「ゼッッ!!」

上半身を返し、左と右の前後が入れ替わる。

突き出される右腕。
引かれる左腕。


それと同時に、踏み込んできた足が着地した。
宙で入れ替わり、右足が前、左足が後ろ。

ダンッ!!と強く地面を踏み、右足がビタリと止まる。


そして突き出された右腕が、これ以上ないほど伸ばされた。
拳の正面は翔剣の胸にピタリと当てられ、身体が完全に止まる。


(踏み込み自体はあるが、ストップしたこの状態から放てば結局は不動拳――――そんなつまらん結果ではないよな?翼刀)

当然である。


ここからが翼刀のオリジナル。

完全に止まった翼刀の身体。
だが、それは右上半身と下半身のみ。

左上半身は、引かれた勢いをそのままに、激しく振られ荒ぶっていた。


「むっ・・・・」

(左の腕の・・・・この、動の力を!!)


左腕は引かれた瞬間、完全に力が抜かれていた。
故に、これだけ荒れているのだが、それを今度は強引に治めていく。


ピィン、と張った状態へと、荒れる左腕が無理矢理に正される。

翔剣へと突き出した右腕と、正反対方向へと伸ばされる左腕。


そして、それが収まり止まった瞬間


「ぐっ!!」

それはきた。


「ぉラア!!!」

暴れる左腕の動き。
そして、更にそれを抑えようとする力。

それらを一つにまとめ上げ、右拳の動不動拳と共に一気に放つ。




「これは――――!!」

これは、動の中で放つ不動拳ではない。
これは、動と共に放つ不動拳。

とはいえ、やっていることはそう違わない。


受けている翔剣の身体を衝撃が駆けまわる。

だが、それを翔剣は全く危な気なく流動し、外に逃がした。
その顔は、実に楽しそうな表情だった。


威力、技術共に申し分なし。
ヨロリと離れた翼刀に、翔剣は語る。

「翼刀。よくぞ思いついた」

「いやぁ・・・・「EARTH」っていろんな人に会えるから、アイデアには事欠かないってゆーか。俺には唯子みたいな器用な真似はできないから」

「・・・・なんだ。唯子ちゃんは動不動拳出来るのか?」

「そだよ」

「なんでいるのかわからなかったが・・・・あ!!そう言えばさっき俺の不動爆からお前守ってたもんな!!」

「今更かあんた」


思い起こし、唯子の成長にも驚く翔剣。
あの子がなぁ・・・・とつぶやき、それから改めて言い直す。


「鉄翼刀」

「・・・・はい」

「先の動不動拳を、認める。第一奥義習得とする」


ニッ、と笑う翼刀。
だが、これで終わりなわけがない。


「さて、じゃあここからだ。翼刀」

「ああ・・・第二ラウンドだ」

ジャキ、と
ゆっくりとヴァルクヴェインを構え、翼刀が笑う。

彼の言葉通りなら、この第二ラウンドでは翼刀が勝利する――――らしい。


「さっきまで、なんの言い訳する隙もなく負けていたお前が何を言うのか」

「ああうん、確かにそう。でも言い訳になるから言わないだけであって、言わせてもらえるなら言ってもいい?」

「言うだけなら」

「出来る限り技は見るだけじゃなくてさ。喰らった方がわかるからさ・・・・出来る範囲で喰らってた」

「・・・・・・」


避けるのも、防御も全力でやった。
ただ、それは受け切れない範囲の物を。

とはいっても、結局避けきれないでダウンしたのだから言い訳のしようがない。

そう言うことらしい。


「まあ“活法”は戦闘中で使わないだろうし、“毒打”なんてされたらマジで死ぬからな」

まだ使われていない二つの奥義のことを言い、そして溜息。


「やっぱり俺には親父みたいなことはできない。第一以外の歴代奥義の一つでも修得なんてそんなことはな。でも、俺にはコイツがある」

神剣・ヴァルクヴェイン
彼に与えられた、世界四剣。

歴代当主の誰もが手にしたことのないもの。


「行くぜ、親父。これが十八代目鉄翼刀の戦い方だ―――――!!!」

翼刀がヴァルクヴェインを地面に突き刺し、鍔に足を掛け足場にするように立つ。


そして瞬間、翼刀の姿が消えた。

「何ッッ!?」

翔剣の双眸が開かれ、その影の消えた方向を見上げると――――



「焦――――――」

翼刀が、翔剣の真上上空にいた。

離れていた唯子が地面を見ると、翼刀が立っていた場所にはヴァルクヴェインの物であろう刃が一本。
刀身ではなく、放たれる刃幕の物だ。


つまり、翼刀はヴァルクヴェインに乗り、刃を射出する反動で一気に上空へと飛び出したのだ。


上空の翼刀は、ヴァルクヴェインを振り開け、一気に翔剣の方へと振り下ろす!!


「――――土!!!」

ギャォッっ!!


金属の擦れる高音が響き、翔剣へと刃幕が降って来る。


それを撃太鼓で晴らそうとする翔剣。
だが、放った撃太鼓は翼刀の振るうヴァルクヴェインによって斬り裂かれる。


「なんだと!?」

翼刀の二振り目は、連なる刃。自らつけた、この技の名は「蒼鎖」。
一直線に射出された刃は接合し、言わば物凄く長い刃渡りの剣―――しなり方からして、鞭と言った方がいいかもしれない。そんな剣となって、振るわれていたのである。

その刃は撃太鼓が刃幕に到達するよりも早くそれを斬り裂き、一切の妨害を排除する。


その手腕に驚く翔剣だが、飛来する刃に対する技はまだある。
そう、飛来してきたものを、そのままで跳ね返す第十奥義。


「弾弾き――――」

それがこの技の名だ。
読んで字の如く、跳んできたものをそのまま返すと言う至極単純な技。

しかしそれはその物体が肌に触れた瞬間にその力場を感知し、その物体を破壊することなくそのまままっすぐ同じ力かそれ以上で返すと言うもの。
やはり奥義である以上、並大抵な技のレベルではない。

それは銃弾は当然ながら、刃であろうとも同じであり、更にこの奥義は豆腐を崩さずに返すことで修得とされているのだから。


だがそれも

「ただの刃なら、な」

降り注ぐ刃は無数。
それらが宙で擦れ合い、火花を散らし、発熱し、ついには炎を上げて飛来する。


「っっな!!」

それを見て、翔剣がとっさに回避する。
如何に不動拳と言えども、無体である炎を返す術はなく、熱のダメージは流動できない。


刃は返せても、周囲が炎に包まれては脱出も困難。
故に即座に回避したのだが―――――

「なん・・・だ、これは!?」

ゴッ――――ォウッッ!!!


周囲を包む紅蓮の炎。
一瞬にして巻き上がった炎は、翔剣の行動範囲を超えてゆうに半径25メートル内を文字通り「焦土」と変えた。


「クッ・・・・」

空歩で宙へと飛び出し、熱から逃れようとする翔剣。
だが、上に行けばいくほど炎はその熱を上げていく。

しかも、そこを超えて上昇しようとすると


「刃一突き!!」

「なグゥッ!!!」

突き出されたヴァルクヴェインの先端から、マシンガンのように打ち出されてきた刃が襲いかかる。
「面」での攻撃である刃幕とは違い、「一点」を攻める連続発射。

これでは「弾弾き」としても詰まってしまう。

だが炎を抜け出し、空が見えた瞬間にそれを喰らった翔剣は、咄嗟にその「弾弾き」で受けてしまった。
当然、詰まった物量に押しつぶされて再び炎の中へ。

ユラリとその中に影も消え、二秒だけ時間がたつ。


「不動爆!!!」

ドォンッッッ!!!

炎が中心から吹き飛んだ。
不動爆を持って地面ごと吹き飛ばした翔剣が、間髪入れずに飛び出していく。

一方、空中移動などできない翼刀は焦土を放ってから落下していくのみ。
この数秒ですでに着地しつつあるが、その地点に向かって翔剣がやって来る。


「ラァッ!!」

「撃太鼓!!」


迫る翔剣を止めようと、翼刀が刃幕を一気に放つ。
それを駆けながら、全く勢いを落さずに撃太鼓で払う翔剣。

着地まで後2秒もない。
その数秒稼げばいいのだが、この男が来るのにあと1秒。


十分間に合い、そして着地の瞬間という最高のタイミングで双拳を打ち出そうと拳をぶつけて増幅しだす。


「へっ」

だが、それを見て翼刀は笑った。

そしてその視線に気付き、翔剣が振り返ると

「バカな」


語尾を強調する暇もなく、腕をクロスして顔と胴を守る。
飛来してきたのは、数十本の刃。その内二、三本の刃が突き刺さった。


衝撃と痛みはあるが、それ以上に翔剣の頭は混乱していく。

(確かに撃太鼓で俺はすべて払ったはずだ。なぜこの刃は背後からやってきた!?)


翔剣になく、翼刀にある力はもう一つ。
全ての始まり。彼がこの因果に引き込まれた要因。

渡航力。


翼刀はその膨大な刃幕の中から、数十本を「外」に送り、翔剣の背後へと送り込んだのだ。
この世界からこの世界への、地点を変えた渡航。

そして脚の止まった翔剣に、翼刀の拳が突き刺さる。


「うらァ!!」

「ぐゥ・・・・」

背中への一撃。
背面は正面よりも耐久力が高い。不動拳ではないただの拳なら、十分に耐えられる。
それどころか、非打手によって返されることだってある。

しかし、呻き声を上げたのは翔剣だった。


「なん・・・だ!!」

聞く翔剣だが、翼刀は答えない。

世界を渡る力は、転じて「歪ませる力」にも使うことができる。
そしてそれを纏った拳は、通常とは違った力の流れ方をしている。

通常の拳と思って対処すれば、当然それが効くはずもない。

そして、そこからさらに不動拳を放とうものなら―――――



「不動!!」

「グォッ!!!」

ドンッ!!

返した左拳での不動拳。
底からの翼刀の蹴り、手刀、掌底、不動拳、蹴り上げ、回り蹴り、後ろ回し蹴り、不動拳、不動脚。

更に最後には両拳を左右のこめかみに当て、不動拳を叩き込む。



未知の力による攻撃に、今度は翔剣がなすすべもなく打ちつけられていく。

しかしこめかみに食らったその一撃が、逆に翔剣の飛びかけていた意識を痛みによって引き戻させた。


「カァッッ!!」

「!?・・・・ごェえッ!!」


ギンッッ!!と見開かれた目は血走り、とても人とは思えない形相。
「ただの拳」が翼刀の腹にめり込み、体内の空気の一切を吐き出して翼刀の身体が翔剣から引き剥がされた。


その拳の一撃は翼刀を吹き飛ばすようなものではなく、翼刀の身体は脚が浮いて身体がくの字になった程度しか動いていない。

だが、それでいい。
距離を取られては、翔剣の方が不利なのだから。


「不動爆!!」

「閃駆ッッ!!!」

ドンッッ!!!


二度目の不動爆。
至近距離から喰らっては、その撒き散らされる衝撃波に腕の一本は千切れてもおかしくのない威力。

それを翼刀はヴァルクヴェインを翔剣に振るうことで、軽減させる。
刃の攻撃は効かなくとも、翔剣がその場から動かなければ逆に翼刀の方から離れていく、ということだ。

更には、翼刀の剣は電火を帯びていた。

放たれた刃は、それぞれが平行に飛ぶ。
「焦土」の応用で、その摩擦から「電気」を発生させていたのだ。

そして、もしそこに電磁の力場を形成することが出来たら。
もうわかるだろう。即ち、翼刀は簡単なリニアモーターカーとなったヴァルクヴェインで、この場を脱したのである。


だがその爆発範囲から逃げきれ無かったのか、工具で殴られたかのように脳内がグラグラと揺れた。



距離は取れても、安心などできない。

翼刀は即座に立ち上がり、両拳を構えて突き出し、目を凝らして揺れる視界の先を見る。


「大槍!!」

「不動拳ッッ!!」

ドドンッッ!!

そして、放たれてきたのは“大槍”だ。
最低距離800メートルのこの長距離不動拳がある以上、無事な間合いなどありはしない。

それを、着弾と同時に放った不動拳で相殺する翼刀。



数十メートル先の翔剣を睨み付け、翔剣もまた、翼刀を睨む。



その視線をそらさずに、翼刀はヴァルクヴェインを地面に突き刺した。
そして、それに足を掛け刃射出の反動で一気に


「ゴゥッッ!!」

飛び出す。
その速度は、初速からして残影が残る程のもの。



そして剣を手にし、振りかぶり、剣に力を込めて行き―――――


「ッッ!!?」

バラバラとばら撒かれてきた小石に戦慄した。
思い切り投げられてきたものもあれば、放り投げるように山なりに来るものもある。

そして当然、それらには不動が込められており―――――


「構 う か ぁぁあああああ!!!!」

翼刀の周囲で、爆発が起きていく。
小石に込められた不動が爆発―――不動送によって翼刀のすぐ脇、行き先で爆発が起こるが、ここまでくればもはや強引だ。

勢いを殺さず、このまま一気に突っ走る!!!



「終わりだ!!」

その翼刀に、翔剣は拳大の石をブン投げた。

これまでの小石よりは、全然デカい。
その分込められた不動は一体どれだけの物か。

左右周辺の爆発で、回避を封じられた翼刀は、これを正面から喰らうことになって


「フゥ―――――」

ジャキ

「槍薙巳!!!」


その爆発は、あっさりと飲まれて消えた。

時空破断技である槍薙巳は、無論切り裂くことも強力だが、そのことよりも、斬り裂かれた「世界」の力場による捩じれでの攻撃が主だ。


そして翔剣の投げた石は翼刀の眼前で爆発、爆ぜた瞬間、その切り裂かれた時空の狭間に飲まれて消えた。
ヒュポッ、と、あっけない音と呆けたような、驚愕するような翔剣。


その翔剣を過ぎ去り、すぐ後ろで着地して振り返る翼刀。
振り返りながら、ヴァルクヴェインを振り上げた。

それに一瞬遅れて、翔剣も“双拳”の構えで振り返った。
たとえ一撃を喰らっても、彼にはそれを反射、もしくは反射するだけの技術がある。


「この刃は、受け継いだ物。刀は武器。振るうは人。それが合わさり、技となる―――――」

ザァッっ!!と、背中にくっつくまでに振り上げられたヴァルクヴェインから、そのエネルギーを表すかのように刃が展開されていた。


「見てくれ、これがこの完成形。本当に大切なこと、その「一つ」を以って是と為す!!!」

そしてその刃は左右に開き、まるでそれは、彼が翼を背負っているかのよう――――


「これが俺の歩んだ道。その果てに得た、かけがえのない誓い!!俺の未来は――――この翼で切り開く。翼―――――」

そして、その「翼」が、彼の技と共に、亜音速で振り下ろされる!!!


「―――――刃!!!」


鉄流不動拳剣術「翼刃」

これこそ、彼だからこそできる技。
ヴァルクヴェインと、不動の技を万遍なく合わせた一撃。

その翼を構成する刃一つ一つに不動が込められており、それらが通過するごとに送り込まれる斬撃は「一撃ずつ」では済まない。


「ゴッ!?―――ブァッ!!」

ドンッッッ!!!と、袈裟切りにされた翔剣が、電気ショックを受けたかのように身体をビクンと撥ねさせる。
ズシャリと膝から崩れ、致命傷を負ったブレイカーは地に伏せる。



「翼刀・・・それがお前の奥義・・・か」

「・・・・・・」


倒れる翔剣は、翼刀へと送る言葉を呟き、倒れた。


その場へと唯子は駆け寄り、翼刀は倒れた父を抱え起こした。
すでにその身体は死に体だ。だが、彼は何かを伝えるために必死にその身体を押しとどめていた。


「神剣ヴァルクヴェイン・・・それとともに奥義は、間違いなくお前のみの技」

「ああ・・・この技は確かに、これを持ってる俺にしかできない」


語る親子。
その様子を、少し離れてさやかやマミ、杏子たちは眺めていた。


そしてふと、何かを感じる。

それと同時に

「でもごめん、親父。それ違うんだわ」

「・・・・は?」


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「むむ!!!」

「どうしたんで?」

「送ったバーサーカーがやられた!!!ライダーもいなくなっちゃったし」

「余裕ぶってる暇があんのかァ!!!」


ドォッッッ!!!


はるか遠方でのサーヴァントの消滅を感じ取ったセルトマンに、ショウの一撃が振るわれていく。

オフィナとフォンを完全に置いてけぼりにしながら、最初から最後までセルトマンを狙って攻め続けているショウ。
だが、にもかかわらずいまだに一撃を入れていない。


というよりは、入ってはいるが一撃と言えないものばかりだ。

特に体捌きで、とくには魔力障壁で。
それらを使って、セルトマンはショウの攻撃を軽々と防御、回避しているのだ。


だが、逆に言えばそれしかしていない、というのも事実。


「ハッ!!大したもんだが、それだけで勝てるのか?あぁ、セルトマン!!!」

「そうがなるなっての・・・そんなことは解ってるって」

ここまで来て、やはり蒔風ショウという男は規格外だった。
確かにセルトマンに攻撃は入れられていないものの、それでも「セルトマンばかり」を狙えているのだから。


つまり――――この場にいるオフィナもフォンも、まったくショウについていけていないと言うことだ。


「お前らに勝つのはそりゃ至難の業だ。だがな、無視するなんてことはいくらでもできるんだぜ?」

首をかしげながら、パチパチと指を鳴らし、挑発するように笑って言い放つショウ。

それを言い返そうにも、事実オフィナとフォンはショウがセルトマンを攻めるのを、止められていないのだからしょうがない。

たとえオフィナがどれだけの攻撃力を持っていても、ショウは捉えきれない速度で動く。
たとえフォンがショウの動きを見極めようとも、それに対処できるかどうかは別問題なのだ。

それらが自分へと向けば話は別。
しかし、自分ではない第三者を守るとなると、この二人は圧倒的な不利になる。というか向いていないのだ。



「おうおうおうセルトマン。結局のところ、全部サーヴァント任せか?昔の俺の方が、もっと積極的だったぜ?」

その話を持ち出すのもどうかと思うが、兎に角ショウの考えでは「セルトマンの戦力を知る」ということを念頭に置かれている。

挑発も攻撃もそのためだ。
セルトマンの“保有する戦力”は知れていても、セルトマン“本人の戦闘能力”はいまだに皆無なのだから。



そして、そこまで言われてセルトマンが笑う。
企むように。そして、やっと動けると解放感に満ち満ちて。邪悪な顔で、笑って見せる。

「クックック・・・世界破壊の先達者に、そこまで言われてはこちらも力を見せないわけにはいかないなぁ?」


そう言って、ピッと指を上げる。

「だがそうなればそっちにも全力を出してもらいたいな。小手調べの実力じゃあつまらないから。これ、なんだかわかる?」

そう言って、セルトマンは指先の光を見る。
どう見てもそれはサーヴァント召喚の際の光の物だ。


「これから召喚するサーヴァント、止めて見な。ああ、ちなみにこいつを召喚してどうなるかは俺も知らん。まあそこで終わってるわけじゃないから「描写」されてないだけでドッカで倒されるだろ」

そう無責任に言うと、翼刀の故郷と裏返った地点に、指先を向ける。


「何のサーヴァントかって顔してんな?蒔風ショウ。君にはこういえば分るだろう―――――救済の魔女だ」

「―――――ッッッ!!!止せ!!!」

「おっと、じゃあ全力で来い」

「オオオォォォオ!!!魔導八天、フルバーストォォォオオッッ!!!」


八つの刃が光を放ち、一つの大きな西洋剣と合身する。
それは太陽の様に力強い輝きでありながら、月の様な美しさを兼ね備えた至高の光。

青白い稲妻を発し、天から落ちる筈の雷は切っ先から天を突く。


「世に一神、地に二極。三千世界に在りしは四の大元素、五行の理。輪廻に六道、大罪は七。そしてこれはその先の一撃。八天の雷、ゼロへと至らん!!!」

雷は、雲があって底から放たれるもの。
だがこれはそれを逆転させる。

雷が空を突き、そしてそこに暗雲が広がる。

暗がるその場を、照らし出すのは一つの雷。
その叫びはまさしく「神の雄叫び」

ショウの満身の攻撃に、セルトマンは嗤い――――――



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「ん?」

「なんだ?どうしたさやか」

「いや、なんか嫌な感じがして・・・・うわっっ!!!」

「これは・・・・!!」

「うそっ!?」


父に何かを告げようとした翼刀の言葉は、それを告げきるよりも早く途切れた。
さやかたちの方を見ると、彼女らの足元には魔法陣――――サーヴァント出現の兆しが。


「早くこっちに!!!」

「は、はい!!!」


召喚に時間がかかっているのか、結構余裕でその上から翼刀の方へと掻けてくる三人。
翔剣は撃破されたとはいえ、まだ現界している。なぜ新たなサーヴァントが来るのか。


「多分、他の所でやられたんだと思う。それで新しいサーヴァントを」

「じゃあまた来るって言うの?」

「一体何が・・・・」



飛び交う憶測。
だが、それの答えを待たずにサーヴァントは現界した。

そこに現れたのは―――――

「まど・・・か?」

彼女たちの親友、鹿目まどかであった。
だが様子がおかしい。目は虚ろだし、こちらを向いているのにその瞳には何も映っていないようだった。


しかも、彼女に対して魔法陣がデカすぎる。
チョコン、と言うのが正しいほどに、彼女と魔法陣の大きさはマッチしていない。

と、そこで何かを取り出してきた。
それを見せつけるかのように、こちらに向ける。


そこにあったのは―――――

「ソウルジェム!?」

「なんで!?だってあれは全部戻ったはず――――」

そして、それが一気に濁った。


「はぁ!?」

ドクン、と大気が胎動する。
ガクガクと彼女の身体が揺れ始め、そしてソウルジェムから「呪い」が噴き出した。





その様子を見ていた彼等は、これは過去にあったであろう中まどかの結末の一つ、というのは解った。
そして「これが魔女化である」というのもわかった。

だが、それがどういうことかはわかっていない。


それがわかっていたのは、二人だけ。



「あ、あれは・・・・」

「そんな・・・そんな、まどか!!!」

「EARTH」(仮)内で身体を休めていたまどかと、それに付き添っていたほむらだけだ。


「あれは・・・私が魔女になったやつの・・・・」

「救済の魔女・・・・!!そんな、あれは!!!」


最強の魔法少女。
ワルプルギスの夜を一撃で消し去る程の力を持った魔法少女となったまどかは、当然魔女に堕ちれば最強の魔女となる。それこそ、ワルプルギスを越えるだけの魔女に。

その力は途方もないものだ。

救済の魔女。
その性質は慈悲。

この星の全ての生命を強制的に吸い上げ彼女の作った新しい天国(結界)へと導いていく。
かつてキュゥべえが語ったことが確かならば「地球の生物を10日程度で滅ぼせる存在」だ。

それはワルプルギスの夜のステータスを、総てにおいて上回る。
サーヴァントである以上は、霊核を破壊すれば消滅するだろうがこれの破壊には「この世の不幸を失くす」程の一撃が必要だ。

だが、この星の不幸を消す力など在るわけないし、それを単純な「威力」にしたときなど一体どれだけの力が必要になるのか。



その話を聞いて、翼刀は携帯電話に返す。

「大丈夫。何とかする」

『なんとかって・・・・翼刀さん、そんなものじゃないのよ。あれは!!』

『セルトマンさんを止めないと止まりません!!とにかく、その場から避難を』

「行けるって。じゃあ、見てな」


そう言って、翼刀は携帯を切って唯子に放る。
その唯子はというと、まだ踏ん張っている翔剣を支えていた。

あれだけのダメージならば、並みのサーヴァントなら消滅だ。
それをこらえているとは、流石は怪物。


そして、翼刀は現れた救済の魔女―――Kriemhild Gretchen。仮に振り仮名をつけるとしてクリームヒルト・グレートヒェンへと歩いていく。


「親父、話の続き。実はあれ、俺の中じゃ奥義じゃないんだ」

「なに?・・・だったら」

「ああ、今からそれを、見せてやる。あとさ・・・・親父は自分の奥義がないって言ってたけど、それ違うと思うよ」

「?」

「親父はさ、鉄流その物だった。親父そのものが、すでに鉄流十七奥義だったんじゃないか?」

「俺自身が、か?」

「だって、それだって「鉄翔剣」にしかできない技だろ?十七奥義・翔剣。カッコいいじゃないか」

「・・・・・そうか・・・おれが、か」

「さて、てなわけで、俺も見せなきゃな―――――十八奥義!!!」



そしてグッ、と親指を上げて、救済の魔女へと歩を進める。

繊維状の身体が束になり、巨大な山のようにそびえ立つ巨体。
そしてその頂上部分で、天を仰ぐ腕が開かれている。


束になった繊維状の身体は、とてもではないがヴァルクヴェインの槍薙巳でも斬り裂けるものではない。



しかも接近していれば、それだけで命を吸われる。
長居すれば、それだけで死ぬ。


その「山」の足元まで翼刀は歩いていき、そしてスゥ、と目を細め息を吐く。




不動拳は

先にも書いたが、その真骨頂は「衝撃の流動」だ。
振れていれば、その威力を一点に流し込んで叩き込む技法。

故に今日、止まって放つ、というだけが「不動」ではない。

それは他の奥義でも明らかにされている。
中には動不動の技術で拳を放っている者もあるが、そうではない物もある。


そして、翼刀がするのは―――――





ドォオンッッッ!!!

凄まじい、音がした。
一瞬、翼刀が攻撃した音かと思ったほどだ。

だがよく見ると、それは違う。



翼刀の左足。
その足元が、大きくクレーターの様に窪んでいる。

そしてその窪みは、救済の魔女の身体をわずかに傾けさせるほどのものだった。



つまり、これは踏み込み。
ただの踏み込みで、まるで震脚―――というか、それどころではない威力を持っているのだ。


それを見て、翔剣は驚き、感嘆し、同時に恐怖を感じた。


「翼刀・・・まさかお前は!!」

恐怖を感じるしかないだろう。
それは、この先の翼刀だとかそうではなく「なんてとんでもないことを考えるんだお前は」という類の、一種の尊敬の念。



「ァァァァアアアア――――――――――――――     !!!!」

翼刀が叫んだ。
だが、その口の動きが見えただけで何も聞こえない。


左足の踏み込みから、翼刀が放ったのは右の中段回し蹴り。
その一撃の威力は、蹴りの音と衝撃に周囲の音が消滅する程のものだった。


そしてそれ以上に、何が恐ろしいかというと



ゴブッッッ!!!ブギ――――バキバキバキバキバキ、ブチィッッッッ!!!!

その「山」の繊維を、麓部分の三分の二に至るまで引き裂き、切れ込みを入れたことだろう。




「ぉォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオおお――――――――――!!!!」

唸るような声か、もしくはその巨躯が倒れ込む空気の流れの音か。
どちらとも取れない音を発しながら、救済の魔女はまるで伐採される巨木のように揺らいで倒れ込む。


そして、その倒れていく先に、翼刀が回り込む。




「な・・・・」

「あの魔女を、一撃の蹴りで倒した!?」

「というか転ばせた!?」

「何あの蹴り!!!だって・・・・あれは救済の魔女、最強の魔女なんでしょ!?」

さやかや唯子。そして「EARTH」(仮)から様子を見ていたほむらやまどかが驚くのも無理はない。
ワルプルギスですら、誰も手が出せなかった。傷一つ付けられなかった。

この救済の魔女はそれ以上の代物。
だと言うのに、この青年はそれを一撃でその麓と言える「脚部」を、蹴りの一撃で破壊したのだ!!!



「当然だ・・・・あの一撃では、俺ですら何もできない」

出来ると言えば、空歩で逃げるくらいか。
とにかく、翼刀の攻撃範囲内に入ったら終わる。

翔剣はすでに翼刀の力に見当がついているのか、冷や汗を垂らしながら解説する。


「ど、どういうことですか?」

「あの魔女とやらは、10日で世界を滅ぼすんだって?だったら問題ない。翼刀ならば倒せるだろう」

「それって・・・・」




そうしているうちに、翼刀へと魔女が倒れ込む。

翼刀がいるのは、ちょうど魔女の胸元が飛び込んでくる位置だ。
そこで真上を見据え、狙いを澄まし、拳を引いて構えて睨む。




「言わないはずだ。そうだろうよ。あの一撃に比べたら、今までの翼刀の攻撃も、それどころか俺の奥義の全ても塵芥のようなものだ」


翼刀が、脚を踏みしめる。
突き出す拳は、右拳。その為にまず、右足を踏み出した。

先ほどと同様、地面が陥没する。


それだけでも十二分な威力だが、これは余波だ。
この攻撃には踏み込みが不可欠。これはその先の一撃のための、いわば副産物に過ぎない。



「そうだろうよ、そうだろうよ。確かにそんな技があったんじゃ、俺との戦いで使うわけにはいかないな!!!」


倒れてくる救済の魔女。
その胸元に、翼刀が迎え撃つ。

突き出す拳は、斜め上空へ。
真正面から突き出した拳は、絶対的な“星の一撃”!!!!


「不動拳の理を以って、大地を踏みしめる。そしてそれがもし“この星”を捉えたとしたらどうだ?その拳に“この星の動き”そのものの勢いを乗せることができたとしたら、どうだ!!!!」


踏みしめた脚で感じる、確かな感触。

地表を越え、地殻を越え、核を越え。
そうしてこの星そのものの動きを捉え、その回転の力、重みを拳より放つ、この一撃。


確かに、この魔女では勝てるはずがない。

10日程度でこの星を滅ぼす?
何を言うか。この一撃は、今この一瞬に星総てを背負った一撃だ。



ズッ―――――

翼刀の拳が、魔女の胸元にめり込む。


ゴポッ

その正反対側の背中が裂け、何かが中から溢れ出す。


ギュォォォオオオオオオオオ!!!!

そして、その一撃が魔女の体内を一気に突き抜ける!!!!




「これが俺の――――鉄流第十八奥義!!!星の(ゴッド)――――――」

ドンッッッッ!!!!

息吹(ブレス)!!!!」


ボゴンッッ!!と、鼓膜が破れたかのような重く、そして弾けた音がして救済の魔女の身体に大穴があいた。

その一撃で、倒れていた魔女の身体は再び真っ直ぐに正された。

しかしその身体の重みに耐えられないのか、まずブチブチと肩が千切れて両腕が支えを失って落ちる。
同時に、胴体を失った胸元から上がベシャリと落ち、人間で言えば股関節の上に落下した。


拳を突きだし、残心と共に拳を引いて行く翼刀に、翔剣は満足そうに叫んだ。


「見事・・・見事だ!!鉄流十八代目継承者、鉄翼刀!!!お前の拳は星の一撃。故に、これからお前はこの名を名乗れ―――――十八代目当主。お前は“星拳の翼刀”と名乗るがいい!!!!」


そして、翔剣はやりきったと、その場で消滅した。


此処に、鉄流不動拳第十八代目の当主が誕生した。

その名は、鉄翼刀。
冠する名は“星拳の翼刀”
奥義名は「星の息吹」


最強とされた父を越え、そして申し分ないほどの強敵を沈め、若き当主はそれを受け継いだ。



「親父・・・ありがとな」





to be continued
 
 

 
後書き
翼刀、圧勝!
翼刀の奥義を「星の動き、重さを乗せた一撃」というのにするのは決まっていました。

だってあんな親父を「越えた!!」なんて言える攻撃、これしか思いつかない・・・

更に今回、ヴァルクヴェインに渡航力も大活躍。
にしても、翼刀もショウもあれですね。

大技のセリフが完全にゲームですね。蒔風の書いてて楽しくなったんです!!

ショウのほうはそれっぽく言ってるだけで意味ないです
とりあえず数字並べて、それらを超える一撃、みたいな感じで。



ちなみに召喚されたまどか―――というより救済の魔女はそのままキャスターです。
バーサーカーでも面白いと思ったんですが、ああなったらどっちでも変わらないよね。

そしてセルトマンの召喚するサーヴァントもここで変化してきました。
過去の人物そのまま、というよりは「別の本人」を連れてきたと言うか。



さて、一方でショウ対セルトマンは?

ショウ
「次回、ガラを倒そうと、「EARTH」へと向かっていた彼等はというと?」

ではまた次回


ではここで「鉄流不動拳 奥義一覧」です。
二つほど中では描写しなかったですが、まあ翼刀の言うとおりだったので。


鉄流不動拳

第一奥義・動不動拳
動不動の飛翔
動から放つ不動拳

第二奥義・非打手
非打手の翼
カウンター技・受けた攻撃の衝撃を相手に流す

第三奥義・激頭
三手の風丸
脚から放った不動により飛び出し、頭・両手から放つ衝撃を心臓の一点に合わせる

第四奥義・五体壊体
五体壊体の飛走
送り込んだ衝撃を関節に的確に送る

第五奥義・撃太鼓
撃太鼓の大空
大気を打ち出す

第六奥義・空歩
空歩きの早雲
衝撃で空を歩く

第七奥義・怪腕
隻腕・怪腕の空隻
肩から放つ衝撃を腕の形にして操る

第八奥義・不動送
不動送の山風
飛び道具(当時は弓)に不動拳を込め、着弾と同時に爆発

第九奥義・大槍
大槍の飛鳥
超ロングレンジの不動拳

第十奥義・弾弾き
弾弾きの天馬
飛んできたものを弾き返す

第十一奥義・流打
挟撃の鳥久
柔法。相手の攻撃を流し、後ろから襲わせると同時に自らも攻撃

第十二奥義・双拳
双拳の飛丸
拳を合わせ、それを倍々にしながら打ち合わせ続けそれを叩き込む。

第十三奥義・毒打
毒打の天海
打ちこんだ衝撃は体内に残り、相手の身体を徐々に蝕む。

第十四奥義・活法 乱れ打
活法の如月
数打のみで全身の壺をついて活性化させる

第十五奥義・地滑り
足場崩しの空光
大地に打ち込んだ衝撃で、地盤を崩して相手を呑みこむ

第十六奥義・不動爆
人間爆弾の飛影
全身から放つ衝撃爆発

第十七奥義・翔剣
怪物・鉄翔剣
鉄流の既存歴代奥義の習得

New!
第十八奥義・星の息吹(ゴッドブレス)
星拳の翼刀
星の自転(若しくは公転、又その両方)の動きを捉え、その一撃を拳に乗せて放つ。


翼刀
「いや、New!じゃねーよ」 
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