世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
一撃の始動
今までのあらすじ
阿鼻叫喚、悲鳴と破壊に包まれていた街中を、彼らは駆けた。
そして、ついに蒔風の元へと届けられた十五天帝、残りの八本。
受け取る蒔風は、勝利を確信する。
その数分前―――――――
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「でやァッッ!!」
「おふぅ!?」
「うわぁ!!」
ネガ電王の一閃。
それをがんばって回避する蒔風。そして怯える響。
不動拳での攻撃は出来ない。
かといって回避に専念すればジリ貧だ。
と、なれば蒔風が取れる行動は一つ。
「っと、オらァ!!」
「ぐぉ・・・・」
紙一重で回避し、そこから響を狙う刃を、自らの翼で受け止める。
そしてカウンター気味にネガ電王へと蹴り込み、押し出すように退けさせることだけだ。
だが、言うほど簡単なことではない。
二人が手錠で繋がれてから30分~40分ほどの時間が経過している。
蒔風にとって初めての経験、状況だ。故に、この攻防に至るまでも試行錯誤だった。
だが、ここで蒔風は一つの形を作り上げた。
それがこの形だ。
紙一重過ぎず、離れ過ぎずの回避。
そして蹴りによる反撃。
体捌きからの連動した蹴りは、拳よりは隙も所作も少なく、相手を押しのけ易いと言うことから、蒔風はこれを選択した。
回避してからの、標的を響へと変えた攻撃には、彼女を翼で覆って守っている。
本来の蒔風ならば、一発入れたらそこから一気に攻め込んでいって倒せるものだが、翼の方に力を回しているため、蹴りにはどうしても押し退ける程度しかパワーがないのだ。
しかも、そこまでして翼を固くしても、ネガ電王の刃は翼を確実に傷つけていく。
目の前でハラハラと散っていく羽を目にしながら、響はしっかりと翼にしがみついていた。
「だ、大丈夫・・・・?」
「大丈夫!!」
響の心配そうな声に、蒔風が元気に答え、ニッと笑う。
どう見てもキツそうなのだが、なぜだがその言葉通り大丈夫だと思えてしまう。
「そこにいて、翼をしっかり掴んでくれ」
「それだけのお荷物を背負い込んで、良くこの短時間で対抗策を思いついたものだな」
蒔風の言葉を遮るように、ネガ電王は蒔風に語りかけた。
この短時間でこの対処法を思いつき、曲がりなりにも確立させた戦法としていることに対する称賛の言葉。
だが、どこか侮蔑の意が込められているのは言うまでもない。
「見事だが、失策だな。その分では翼は幾分も持たないだろう。結局はジリ貧。俺の勝ちだ」
その通り。
蒔風の翼は確実に傷ついている。散っていっている羽根がその証拠だ。
だが、蒔風は冷静に、そしてまた講義する様に人差し指を上げた。
「人質は本来、自ら抱えることで盾にするもの。だがそれが一人である場合、その人質は実質意味を持たない」
人質が一人の場合、実質それは犯人にとっては人質ではなく足枷になる。
移動には手間取るし、交渉と人質の監視を同時にこなさなければならない。更には犯人側は人質を守らなければならなくなる。
人質が傷つけられればもはや盾としては使えず、殺してしまおうものなら犯人はあっという間に袋小路だ。
しかも、人質をかざしたところで相手に平然と歩いて来られたら、人質を放棄するしかない。
「殺すぞ」と脅しても、実際それをすれば盾はなくなるのだから、人質は安全が約束されているということだ。
「だから、まあ基本的に「翼人に人質は効かない」んだ。大人数の人質だとまた対処法も変わってくるんだがな」
そう言う蒔風に、だから?とネガ電王は小馬鹿にしたように鼻で笑う。
それをまた、蒔風も笑う。
「まあ待てよ。偶然の産物とはいえ、ここに関しては俺はお前を評価してるんだ。まさか犯人側じゃなくてこっち側に人質を括りつけるとは思わなかったからな」
一人の人質は、犯人側にとってはお荷物だ。
ならば、その荷物が相手についたとしたら?
「ああ、中々に悩ましい問題だった。新しい「人質」の使い方。しかも、彼女傷つけたら全国の皆さんに何を言われるか・・・・だがまあ、それも問題ない」
「・・・・なに?」
「問題ない、と言ったんだ。改めて言わせてもらおう。翼人に、人質は、効かないの」
一言一言を、念を押すように区切って語る蒔風。
その所作一つ一つに、ネガ電王はなぜだか後ずさる。
―――――なぜだ。
いまこの状況において、有利なのは自分だ。
街に投下したギガンテスは、一端は数を減らされこそしたが、その範囲を広げた今となってはその勢いを取り戻し始めている。
確実に勝利、とはいかずとも、こちらに少なくとも負ける要因は見当たらない。
仮にあったとして、この状況を覆せるようなものはない。
ならばなぜ。
(なぜこの足は―――――あの男から後退した!!!!)
その疑問を感じ取ったかのように、蒔風の銀白の翼が輝いた。
その光を、眩しそうに掌で遮るネガ電王。
「翼人とは、人の想いを司りし物――――この翼の輝きは希望の光、この銀白は願いの翼。迂闊だったな、ネガタロス。これだけ俺の勝利を願ってくれる子がそばにいて、俺が枯渇すると思ったか!!!」
背に抱えるは、我那覇響。
彼女は最初から言っていた。
「信じてるからね!?」
その一言。
ならば、この翼人に敗北はない。
戦いの中、一寸たりとも離れぬ、自らを希望だと信じてくれるものがいるのだから――――!!!
「なるほどな・・・・だが!!」
「そう。だがお前に対して俺は決定打を持っていない。御心配どうも」
瞬間、蒔風の後方で爆発が起きた。
この二人が立つ大通りの、まだまだ先の地点だが、ネガ電王は蒔風の向こう側にそれを見た。
爆煙、爆風。
その中から飛び出してくる、三つのワゴン車。
それらを狙うのは、ギガンテスたち。
各々の攻撃が、その三つをつぶそうと襲い掛かっている。
が、そこに乱入する、引きずられてきたギガンテスハデス。
ネガ電王は、そこになにかヤバいものを感じた。
(あれを来させちゃぁまずい!!!)
本能にも近い直感。
だが、それは間違っていない。
指示を出すように掌をかざし、それらにギガンテス三体を差し向けた。
しかし
ボボボッ!!!
打ち出されてきた三つは、それらの胴を易々と貫き、蒔風へと飛来する。
先につぶさんとばかりに、咄嗟に蒔風へと切りかかるネガ電王だが、もう遅い。
「キタァ!!」
ガァン!!と、アタッシュケースを受け取った蒔風が、デンガッシャーソードをそれで受け止める。
続いてやってきたひとつをネガ電王の顎の下から、蹴り上げてハンマーのように打ち付けた。上空にふっとんでいくネガ電王。
ガン、と足元に一つを落とし、両腕を広げた蒔風の後ろから、ちょうどその場に残り二つが飛来する。
キャッチした蒔風はそれを上空に放り投げ、後ろに集まった仲間へと感謝の言葉を述べた。
「お前ら、サンキュー!!」
背中越しのサムズアップ。
それに、後ろからの皆の声が応えた。
上空には、ネガ電王と三つのアタッシュケース。
蒔風は手元に残った一つを蹴り、その勢いでバカン!!とアタッシュケースが勢いよく開いた。
すると、中に入っていた「風」「林」の二刀が勢いよく真上へと飛び出していき、ネガ電王と共に蹴り上げられた一つに命中する。
まるでボーリングのスプリット。
その二刀は、中に入っていた「火」「山」に命中し、それらも左右に弾けて二つのアタッシュケースを破壊する。
「天に在りしは十五の天帝。その光の輝きよ、地上に蔓延る不浄を滅せよ!!!」
天に掌を向け、威風堂々と告げる。
突如、地上を十五の光が覆った。
十五天帝そのすべてが刀剣状態へと変化し、その切っ先が地上に向いていたのだ。
そしてその先端から放たれるのは、主の翼と同じ色をした十五の砲撃。
街の上空を飛び回り、ギガンテスの真上へと到達すると、銀白の熱線砲撃が一瞬にしてそれらを焼き尽くす。
ドン、ドドンッッ、ドンッッ!!ドンドンドンドンドン!!ドン、ドドン!!
銀白の嵐の中、宙のネガ電王は何もできない。
あの数、あの威力の、真上からの熱線砲撃。そんなもの、どう防げばいいと言うのだ―――――!!
ギガンテスヘルはいい的だ。
ハデスもヘブンも逃げ回るが、それらしかいなくなると十五の剣は陣を汲み、網目状になって上下から挟み込んでいく。
そうしているうちに、ついに
「いまだ!!」
「行くぞ!!」
「せーのっ!!」
デンライナー、ゼロライナーの背に当たる部分に、キャッスルドランが着地する。
そして眼前に現れたキバの紋章にエネルギーがチャージされ、そこからはなられた黄金の熱線がネガデンライナーを大破させる。
「グッ――――!!!」
デンライナー、ゼロライナー相手ならば圧勝するネガデンライナーも、三つ揃えばこの通りだ。
揃わないように配置していたギガンテスがいなくなれば、こうなるのは当然であった。
そして、そうしているうちにネガ電王の高度が下がっていく。
雲を抜け、眼下に再び街が広がる。
そしてそのど真ん中に、蒔風がこちらを見上げて笑ってきた――――
「上等・・・・」
バッ!!と身を翻し、剣を構えて突撃していくネガ電王。
「この身は、すでに元の記憶も形も残されねど、そうであれと願われたモノがある―――――」
落ちながら、その言葉は風に散らされて誰にも届かない。
「生き残った者が正義。そうして歴史は作られてきた。ならば、弱者とは悪なのか!!!」
《full charge》
「ただ数が少ない、少数だと言うだけで「悪」であると言われるのであれば。そのような理不尽がこの世にあると言うならば、いいぜ。俺こそ「悪」だ」
刃が、送られてくるエネルギーに紫電を携える。
「悪」とは、敗北者に送られる言葉。
人が何を思おうと、それは人の歴史が証明してきた事実だ。
中には至極「悪」として決定づけられた者もいるだろう。
大量虐殺
独裁政治
侵略戦争
だが「悪」と言われた者の中には、少数派というだけで迫害され、拒絶されてきた者もいる。
この鬼はその体現者。
だから彼は「悪」であると叫ぶのだ。
「「負けた者」が悪であると言うならば、この俺は「絶対に負けない悪」になる!!!」
その言葉は誰にも届かない。
聞こえるはずがない。風に散らされ、消えていく。
だが、蒔風は上空を見上げてそれに応える。
「来いよ、その在り方を示す者よ。「赤鬼、青鬼」の体現者よ!!!」
「おォォおおおお!!」
蒔風が、手首に力を込めて天地陰陽を収納する。
そちらの方が硬度は上(というか絶対に壊れない)ので、手錠はいともたやすく破壊される。
獅子天麟の大剣を右肩に背負い込み、その切っ先を左肩に。
その刃に、曲刀状態の青龍、白虎、朱雀、玄武が落下してきて、そのまま合体する。
そしてそこから右に薙ぐと、落下してきた「風」「林」「火」「山」が連なって合体した。
11刀剣のそれを放り上げ、天地陰陽を組み上げる。
デジタル数字の「8」のような形になったそれを手にし、そこに落下してくる11刀剣。
天地陰陽の四
風林火山の四
龍虎雀武の四
獅子天麟の三
それぞれ合わせて、十五天帝。その真の姿―――――
「天・地・陰・陽、世の総て。風林火山の理よ。四方守護せし神獣よ。天・地・人の霊獣よ!!!」
「天とは、是即ち空に非ず。世の総てをして天と成る。これが天帝、その姿」
「聖剣が勝ち、神剣が癒し、鍵剣が開く。ならば天剣が成すは秩序の光!!!」
「天を統べるは十五の天帝。万人が仰ぐ四剣の一。悪よ、目に焼き付けるがいい。これこそがまさに、威光の光!!!」
「―――――――十五天帝!!!!」
放たれるは十五の刃。
それらは連なり、ネガ電王の元へと飛来し
「ぐァォッッ!!!」
一刃目が、彼の刃と衝突した。
しかし、次に第二刃が彼の腕を吹き飛ばす。
そうして飛来する十五の刃。
その光のなか、ネガ電王――――ネガタロスは
「チッ・・・・負け、か」
小さくつぶやき、そして果てた。
ドォォンッッッッ!!!
役目を終えた十五天帝は、蒔風の手から離れると勝手にバラけてそれぞれの場所に収まっていく。
そして蒔風は仲間の元へと進み、一人一人に飛びついて行った。
「お前らマジありがとう!!!」
そうしている間に、蒔風の頭に何かがコツン、と落ちてきた。
それは抓む程度の大きさの金属片。
デンガッシャーソードの、切っ先部分。
そんな程度では怪我どころか痛みもない。
しかしそれでも、蒔風は笑う。
「悪よ―――――見事」
手の平からそれが消失する。
十五天帝、帰還。
この戦いは、蒔風の勝利だ。
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所変わって
鉄翼刀と翔剣の戦いは
鉄流不動拳。
その十七代目から十八代目の継承式。
しかし、未だに翼刀は決定打の一つも入れていない。
それどころか、継承式内で見せるべきものは、何一つとして。
「翼刀。お前舐めてるのか」
「は・・・はは」
立ち上がろうとする翼刀に、翔剣が怒りの形相で睨み付ける。
それを翼刀は抜けた笑いで応えるが、翔剣は笑顔どころかますますイラついた表情になっていく。
「新奥義どころか、動不動拳の一発すら撃ち込まない。なるほど、確かにこれまでの攻防、お前の成長はしかと分かった。だがな、これは継承式。それを何だと心得る!!!」
もしも、これがこのエリアのどこかで始まった戦いならば、翔剣もこんなことは言うまい。
だが、翔剣は道場に向かい、翼刀はそこにいた。
つまり、最初からこの継承の儀を行うつもりで翼刀は道場にいたことになる。
だと言うのにもかかわらず、彼は全くその力を見せようとしない。
戦闘技能だとかではない。
この儀式内で見せるべきもの。「第一奥義・動不動拳」と、自らの「第十八奥義」だ。
「もしそれもなしにこの形での戦いを挑んだとなれば―――――もはや息子とて」
翔剣の、言葉が止まる。
ユラリと立ち上がった翼刀。
その口元に、わずかな。それでいて挑みかかるかのような――――笑みを見たからだ。
「容赦せんッッ!!!」
問うつもりだった語尾が、断言へと変わった。
打ち付ける拳は、地面へと。
その衝撃は地盤へと浸透し、崩す。
それはもはや地震で済む話ではない。
「これかよ・・・・!!」
第十五奥義・地滑り
翔剣の祖父が編み出したものだ。
地滑り、という名から、確かに足場崩しの技。
だが、崩れる程度ならばまだマシだ。
「あ、足場が!?」
「やば!!離れるよ!!」
狼狽えるさやかたちを、唯子が抱えてさらに距離を取る。
見ると、翼刀を中心とした地面が崩れていた。流砂のように。
ガラガラとは崩れない。
バキバキと音もならない。
ただ、一瞬にして地面が砂上へと変わり、さらにアリジゴクのように陥没する。
その経過は一瞬。
故に、翼刀の足は浮き、身体は宙に浮かんだ。
「やばい―――!!!」
このままでは、流砂に飲まれて生き埋めだ。
ヴァルクヴェインを振るおうとする翼刀だが、そうはさせないと翔剣が彼の前に躍り出た。
「空歩・・・・・!!」
翼刀と違い、翔剣には空を歩く術がある。
そして、その両拳が打ち合わされる。
「・・・・マジかよ」
翔剣の左右の拳。
打ち合わされて閉じられているが、その内部ではとんでもないことが起こっている。
左拳の衝撃を右拳で、そしてその衝撃に右拳の衝撃を乗せて左拳へ。
そしてその左拳に来た衝撃に、更に左拳の衝撃を乗せる―――――
その繰り返し。
繰り返すたびに、その威力は上がっていく。
その使用者は、あの鉄翔剣。
一回のやり取りで、一体どれほど威力が上がっているのか。
「ちょま」
「双拳ンッッッ!!!」
ゴゥンッッ!!
凄まじい威力。
その一撃に大気が震え、円盤状に空を覆う。
翼刀は胸の奥でグジュゥ、と何かが潰れるような音を感じたし、翔剣は砕ける肉の感触を確かに感じた。
ドォンッッッ!!!
めり込んだ拳は、その場で翼刀の身体をバラバラにはせずに吹き飛ばした。
地面に突っ込む翼刀だが、そんなダメージなど気にしていられない。
それ以上の痛みが、衝撃が、彼の胸中を蝕んでいるのだ。
「オッ・・・ゴ・・げブふバァッッ!!!」
「ふむ・・・・カウンターで俺の腹に蹴りを当て、更に全不動で緩和か」
翼刀のもとに着地した翔剣が、多少感心しながら地面でもがく翼刀を見下ろす。
確かに、それならば多少は威力が殺せよう。
だがそれもたかが知れている。バズーカを前にして、ベニヤ板を設置したようなものだ。
「だがお前の全不動、悪くはない。あれは親父の技か?」
語りかける翔剣だが、翼刀には届いていない。
胸を押さえ、唾液を垂らし、目を見開いて、痛みにもがいて悶えるだけだ。
「ま、俺が奥義もってなかったからな。当然お前は親父―――じいちゃんの技を見てきたわけだが」
そう言って、翔剣が掌を合わせる。
そして腰を落とし、全身に力を込めはじめる。
「だが、お前のはまだ完全じゃないな。その域まで行ったのはいいが、な」
そう言って、翔剣が発動させるのも全不動。
全身に不動拳を掛ける体技。
触れれば弾かれ、攻撃にも転用できる。
一端発動すれば、容易に手が出せなくなるこの技。
だが、彼はその先――――第十六奥義を放ってきた。
「第十六奥義・・・・不動爆」
ドンッッッ!!!!
一瞬で巻き上がる土煙。
誰がどう見ても爆発としか見えないそれは、モクモクとキノコ雲を上げながらその威力を主張する。
第十六奥義・不動爆。
完成させたのは翔剣の父、即ち翼刀の祖父である鉄飛影。冠した異名は「人間爆弾」
全身から不動の衝撃を一気に放出していくと言う、ただそれだけの一撃。
だがそれはやはり、簡単なことではないのだ。
蒔風がやって、その失敗からわかることだがこの不動はコントロールが難しい。
体得してからの発展は容易とはいえ、やはりこの域になると才能に近い。
なにせヘタをすれば、この技の発動の瞬間自分の身体がバラバラに吹き飛ぶのだ。
しかも、衝撃はうまく飛べばいいが、そうでなければ相手にはダメージの一つもない。
ただ相手の前で吹っ飛ぶだけの、実にバカバカしい死に方をすることになる。
翼刀は全不動までだが、この技を完全体得すると衝撃波全方向へと撒き散らされ、そこに無事な者は術者本人しか残らない。
だが、その中でいまだに息をする者がほかに二人。
「グぐッ・・・・げばっ、ウゲァ・・・・・」
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・ハァ・・・・・」
いまだに苦しむ翼刀と、それを守るようにしゃがむ唯子だ。
膝立ち状態で翔剣へと向いている彼女は、冷や汗を垂らしながら彼を睨み付ける。
何か一言言ってやらねば。
自分の息子を殺す気かと。
そうして口を開き――――
「なぜ決闘に割り込んだ」
「じぅ・・・・・」
まともに言えたのは、最初の一文字だけだった。
(こっ・・・・)
(((怖・・・・・・)))
覗き見る魔法少女三人に、唯子も同じ感想を抱いていた。
あたふたとしはじめる唯子。
どうした、答えないのか?と翔剣は首をかしげるが、その動作があまりにも怖い。
ギラリと光った目が特に。
そうして何か言わねばと慌てる唯子。
そして見つけたのが―――――
「・・・・携帯?」
「はっ、はい!!あ、あの、その・・・・傷ついた男の子って、なんかイイですよね!?」
「・・・・・それで写真?」
「そッ、そうです!!」
「では邪魔をしたのはコッチダト?」
「いぅ・・・・・」
何かわからないことをのたまい始める唯子。
自分でも「何言ってんだ私!!何かほかにあったろバカか!!」と心で叫ぶが、もう遅い。
それから数秒ジーーーーと時間が止まったようにお互いの顔を見て
「そ、そうか・・・・趣味趣向は人それぞれだからな」
「でッ、ですよねー!!!」
(((納得すんのかよッッッ!!?)))
やはりこの人は、翼刀の父親で間違いないらしい。
「唯・・・子」
「翼刀!!!」
そこで、翼刀がやっと回復する。
唯子の肩を掴み、下がらせてから彼は言う。
「ありがと。楽になった。あとは任せろ・・・・」
「でも」
言葉を続ける唯子に、翼刀は大丈夫、と言って立ち上がる。
回復の理由は、ヴァルクヴェイン。
胸元のシャツは血でびしょ濡れ。顔色もいいとは言えないが、それでも翼刀は立った。
「ああ親父・・・続きだ」
「・・・・そうか」
そう言って、翔剣が構える。
翼刀は唯子に下がってもらい、フラリと立つ。
「翼刀!!帰ったら心配させた分、おごってもらうからね!!」
「・・・りょーかい」
そうして再び対峙する二人。
だが翼刀は構えない。
代わりに、口が動く。
「すげえ」
単純。だが、素直で、そして的を得た感想だった。
「いや、ほんとにすげえよ親父。俺も読んでたから技の内容は知ってたけど、出来る気がしなかった。見ればもしかしたら、喰らえばひょっとして・・・・そんなことも考えたけど、やっぱ俺には親父みたいな才能はないみたいだ」
自分はあの翔剣の息子。
ならば、自分ももしかしたら。歴代奥義を、少しでも盗めるのではないか。
そう考えることは、何もおかしくはない。
だが、無理なものは無理だった。
祖父の代――――第十五奥義までならば、見たことがあるからと納得できるが、それ以前の総てを体得した翔剣はやはり「怪物」と言うのにふさわしい。
それを聞き、翔剣は不機嫌そうな顔をする。
「では、今までは本気ではなかったと?」
「ンなわけねー。手を抜いたら死ぬから、全力で避けたし、全力で打った。その中で盗めればいいとは思ったけど、それも無理」
つまり、負けていたのは本当だった。
そこには何一つとして言い逃れできる要因はない。
「だけど、俺はまだ見せてない」
ゴォ・・・・・
翼刀が構える。
左拳を出し、右拳を引く。
上半身を右斜めに向け、腰を落とす。
「親父。これが俺の動不動拳になる。それを―――――受けてくれるか?」
「二回戦、ということか?」
「いや。これは継承のための一つ。セレモニーみたいなもん。だから」
「良いだろう」
そこまで言われ、翔剣は承諾する。
翔剣ならば、喰らってもその衝撃を任意の方向へと飛ばせる。
そこにおごりも何もない。
ただの事実だけがあった。
そして翼刀も、この一撃で彼を倒せるとなど思っていない。
ただ、この技法の体得は必要だから。
それを、見せなければならない。
フゥッ、と息を吐き出す翼刀。
その翼刀に、翔剣は聞く。
「なぜさっきまでの戦いで出さなかった?」
「・・・・これは体得したレベルであって、実戦で使うにはまだ練度が足りないから」
「・・・・まあいいだろう」
儀の内容はあくまでも第一と自身の奥義の体得。
それを戦闘内で見せるものだが、翼刀の戦闘技法はすでに分かっている。そこに口は挟むまい。
「後一つの理由は」
「もう一つ?」
だが、翼刀の理由はそれだけではない。
そこで、彼は挑戦的に、というよりは、悪戯をする時の子どもの様な笑顔でこういった。
「今のうちにしとかないと、第二ラウンドで親父いなくなっちゃうから」
「ほう」
その言葉を、楽しみを見つけたような顔をして笑う翔剣。
どうやら、息子は腑抜けではないようだ。
「行くぜ!!これが俺なりの動不動拳!!」
「おお、来い!!・・・・俺なり?」
戦闘では惨敗。
しかしともあれ、とりあえず第一関門に挑戦する翼刀。
振るわれる拳。
放たれるは動不動拳。
果たして、結果は―――――
to be continued
後書き
蒔風のソラウス・キング・フィフティーンのシーンは、完全にゲームの必殺技シーンです。
もっと言うと、Fate/EXTRAの宝具発動シーンとか、スキル発動シーンとか。
蒔風
「どんだけ好きなんだあんた」
合体していく十五天帝とか、こういう所作が大好き。
合体するごとに「青龍」とか「火」とか、それぞれの文字がエフェクトみたいに現れてたり。
あのシーンのイメージBGMは電王の「俺 参上」からのディケイドの「フォームライド」です。
今回出てきた鉄流奥義~
第十二奥義・双拳
双拳の飛丸
拳を合わせ、それを倍々にしながら内部で打ち合わせ続けそれを叩き込む
第十五奥義・地滑り
足場崩しの空光
大地に打ち込んだ衝撃で、地盤を崩して相手を呑みこむ
第十六奥義・不動爆
人間爆弾の飛影
全身から放つ衝撃爆発
なんかこっちはナァナァに終わった。
だけど、翼刀もまだがんばります。
ヴァルクヴェイン治癒力強すぎだろう
翼刀
「次回。俺の動不動拳。そして、第十八奥義」
では、また次回
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