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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第四十一話 二人の結婚

 マクシミリアンとカトレアの結婚式当日。
 天気は雲がどんよりとした生憎の空模様だったが、王都トリスタニアは多くの人々でごった返していた。

 新たに王太子妃になるカトレアは、ラ・ヴァリエール公爵家族と共に新たに編成された近衛軍に守られトリスタニアに到着し、トリスタニア市内の公爵の別邸にて挙式当日を待つことになった。
 
 各国の国賓も入国しており、アルビオン王国は国王のジェームズ王が、ガリア王国は国王が老齢と言う理由で、変わりに2人の王子がやって来た。ゲルマニアからは招待状を送ったが断りの返事が届いた。密偵団改め諜報部の調べでは、次期皇帝を選出する選帝侯の間で駆け引きが続いて、位の低い者を国賓として送ればゲルマニアの威信に関わるという事で、丁重に断ったとマクシミリアンは知った。

(むしろ、使者を送らないことが、威信に関わると思うんだけど……)

 と思ったが、所詮よそ様の事だ。関わらない事にした。

 現在、マクシミリアンは、トリスタニア市内にあるトリスタニア大聖堂で結婚式の打ち合わせをしていた。
 大聖堂で式を挙げ、馬車に乗って市内をパレード、王宮でパーティーといったスケジュールになっている。パーティーに至っては三日間続けられる予定だ。
 ちなみに、トリスタニア大聖堂に赴任している大司教も、ご多聞にもれず腐っているので、妙な事をロマリア本国に報告しないように酒と女漬けにして手懐けている。

 ハルケギニア屈指の権威を誇るロマリアが居る手前、マクシミリアンは宗教改革は時期尚早と考えていた。

 別邸に滞在していたカトレアらも、大聖堂の別室でウェディングドレスに身を包んで、式が始まるのを今か今かと待っているはずだ。

 打ち合わせを終えたマクシミリアンは、カトレアが居る別室へと向かった。

「カトレア居るかい?」

「あ、マクシミリアンさま」

 別室には、カトレアの他にカリーヌ夫人と長女のエレオノールが居た。

「殿下、ご機嫌麗しゅう」

「この度は、ご結婚おめでとうございます」

「カリーヌ夫人もミス・エレオノールも、今日はありがとうございます」

 先の内乱で、エレオノールの婚約者の家が反乱軍側に組した為、婚約者の家は取り潰され婚約は解消された。
 その為、エレオノールの機嫌は悪いが妹の晴れの舞台だ、決して表に出さないように勤めた。

「所でルイズ・フランソワーズも一緒だと聞いてるんだけど」

「ルイズは、大聖堂の外でアンリエッタ姫殿下と、遊んでいると思われますわ」

「そうか、結局仲良くなったんだな」

 マクシミリアンたちが、どうこうと頭を悩ませる必要も無くアンリエッタとルイズは友達になった。

「私達は部屋の外に出てますので、時間までカトレアと一緒に居てあげてください」

「ありがとう、カリーヌ夫人」

 カリーヌ夫人とエレオノールは部屋を出て行った。

「マクシミリアンさま、如何でしょうか、綺麗ですか?」

「カトレア、とっても綺麗だよ」

「ありがとうございます、マクシミリアンさま」

 カトレアは、ウェディングドレス姿で椅子に座り嬉しそうにはにかんだ。
 このウェディングドレスは、アントワッペンのマダム・ド・ブランの新作で、上等なシルクがふんだんに使われている。

「ここまで来るのに色々あったけど。ようやく、ここまで漕ぎつけたよ」

「わたし、もう……幸せすぎて、涙が出そうです」

「絶対に幸せにしてみせるよ」

「はい、幸せにして下さい」

 そう言って、軽くキスをした。

 そして、式の内容などスケジュールをカトレアと話していると、ノックと共に神官が入ってきた。いよいよ、二人の結婚式が始まる。
 







                      ☆        ☆        ☆







 厳かな雰囲気で結婚式は始まった。

 大聖堂には、エドゥアール王とマリアンヌ王妃のトリステイン国王夫妻と、アルビオン国王ジェームズ1世、ガリア王国の2人の王子を始め、多くの貴族が参列した。
 先の内乱で、大幅にその数を減らしたトリステイン貴族だったが、未だ多くの貴族が居た。
 もっとも、生き残った貴族のほぼ全ては、この結婚式に欠席して王家の不興を買いたくない一心で、この結婚式に参加した者ばかりだった。
 一方、国賓の者たちは、傾いた財政を復活させ、しかも大胆な改革を成功させ、先の内乱で雷名を轟かせたマクシミリアン『賢王子』に興味を示して、どういう人物は見定めようという目的で乗り込んできた。
 ちなみに『賢王子』とは、マクシミリアンに付いた二つ名だ。

 アンリエッタとルイズは、席を隣にして結婚式に参加していた。

「悔しいけど綺麗だわ」

「当たり前よ。何てったって、わたしのちいねえさまだからね」

 ルイズは、自分の事の様にフフンと無い胸を張り上げた。

「何よ、お兄様だってすごくカッコいいわよ!」

 とルイズの左右の頬を掴み横へと引っ張った。

「はいふうの!」

 何するの、と言いたかった様だ。
 アンリエッタとルイズは、ポカポカと可愛い殴り合いと始めた。

『いい加減になさい!』

 後ろに控えていたカリーヌ夫人が、二人の頭を掴み声を抑えながら少量の殺気を放ち二人を諌めた。

「ひい!」

「ごめんなさいお母様、ごめんなさいお母様、ごめんなさいお母様」

 生まれて初めて殺気という物を受けたアンリエッタは涙目で黙り込み、ルイズは念仏を唱えるように、ごめんなさいを言い続けた。

「ルイズ。カトレアの、貴女の姉の晴れ姿ですよ、無様な真似は止めなさい」

「ごめんな……は、はひ、お母様」

 ルイズは涙目ながらも復活し、結婚式は恙無く進行した。

「それでは、指輪の交換を……」

 アル中だったが無理矢理正常に戻された大司教は、長い口上を終えると、二人に指輪の交換を指示し、マクシミリアンはカトレアは言われたとおりに、それぞれの薬指に指輪をはめた。

「では最後に誓いのくちづけを……」

 マクシミリアンは、カトレアに顔を近づけ……

「この日を夢見てきてきたよ」

「わたしもです」

 周りに聞こえないように、ボソボソッとしゃべった後、二人はキスをした。

 ……

 式が終わると次は王宮までのパレードだ。
 沿道にはトリステイン各地から新しい王太子妃を一目見ようと多くの人々が詰め掛けて交通整理をする衛兵達を困らせていた。
 内乱の混乱は経済に打撃を与える事も無く、むしろ内乱を長引かせず、手早く老廃物の除去を行った事で、トリステインの経済は右肩上がりだった。
 その為、王都トリスタニアのメインストリートなどは、常に人でごった返していて大変不便で、新たな都市計画が求められた。

『トリステイン王国万歳!』

『マクシミリアン王太子殿下万歳!』

『カトレア王太子妃殿下万歳!』

 歓声が上がり、馬車に乗ったマクシミリアンとカトレアは、沿道の市民達に手を振って返した。

「カトレア大丈夫? 緊張してない?」

「わたしは大丈夫です」

「見世物になるのも王家の仕事だから」

「それは……うふふ、望むところですわ」

 そう言って、ニッコリ笑い沿道の市民へ手を振り返した。

(頼もしいねぇ)

 マクシミリアンも内心呟いて手を振り返した。王宮に到着するまで、市民の列は途絶える事はなく、多くの市民が二人を沿道から祝福した。





                      ☆        ☆        ☆







 その日の夜、王宮にて大々的なパーティーが開かれた。

 国賓の他にも、多くのトリステイン貴族がそれぞれ着飾り参加していた。

 その国賓の中で一際騒がしい男が居た。

「いや、めでたい。実にめでたい!」

 ガリア王家特有の青い髪の偉丈夫が、ワインを飲みながらでかい声で騒いでいた。
 ガリア王国第一王子ジョゼフ・ド・ガリアは、魔法が全く使えない事から、巷では『無能王子』と呼ばれガリア貴族から侮蔑の眼差しを受けていた。

「マクシミリアン王子、結婚おめでとう!」

「ありがとうございます、ジョゼフ王子」

「カトレア殿もおめでとう!」

「ありがとうございます」

 パーティーが始まって、マクシミリアンとカトレアは、アルビオンのジェームズ王など国賓に礼を言って回っていたが、途中ジョゼフに捕まり、子一時間ジョゼフのおしゃべりに付き合わされていた。

「先の戦いでの、マクシミリアン王子の電光石火の用兵には、このジョゼフ関心いたしましたぞ!」

「あはは、ありがとうございます」

「是非、この『無能王子』めに『賢王子』の成功の秘訣をご教授願いたいのだが」

「それは……」

 次から次へと尽きる事のない話題に、辟易し始めたが、マクシミリアンに助け舟をした者がいた。ガリア王国第二王子のオルレアン公シャルルだった。

「兄上、マクシミリアン王子が困っています。そろそろこの辺りにしては如何でしょう?」

「おお、シャルルか! これはマクシミリアン王子の事も考えずに失礼した。何しろ『無能王子』ゆえに、その辺の事が分からなかったのだ。マクシミリアン王子、申し訳なかった! ハハハハハハ!」

「いえ、お気になさらずに。大変面白いお話でした」

 何かにつけ自分の事を『無能王子』と卑下するジョゼフに違和感を感じながらも、当たり障りの無い返事を返した。

 ジョゼフは、ガハハと笑いながら去っていった。

「すまなかったね、マクシミリアン王子」

「オルレアン公」

「兄上は、先のトリステインの内乱でのマクシミリアン王子の活躍を聞いてから、何かと気にかけるようになってね」

 そう言ってジョゼフの方を見た。
 ジョゼフは、エドゥアール王やアルビオンのジェームズ王達と何やら楽しそうに話していたが、その一挙手一投足に王家としての教養は感じられず、周りにいた貴族達はジョゼフの行動を卑しそうに見ていた。

「……」

 マクシミリアンは、またも違和感を感じた。まるでサーカスのピエロの様に笑われることを目的としているように思えたからだ。
 そこから導き出された一つの人物像。若い頃は『うつけ』と言われ、後に大勢力までのし上がり、天下統一まで、あと一歩まで近づいたが部下の裏切りで非業の死を遂げた、マクシミリアンが大好き男。マクシミリアンはジョゼフが若い頃の織田信長の姿にダブって見えた。

 マクシミリアンは、ジョゼフへの警戒を一段階引き上げる。
 急に黙ったマクシミリアンに、心配そうな顔をしたカトレアが話しかけてきた。

「マクシミリアンさま?」

「ああ、ごめんカトレア」

「兄上がどうかしたのかな?」

「オルレアン公。ジョゼフ王子は、いつもああいう感じなのですか?」

「四六時中……という訳ではないけどね。けど勘違いしないで欲しいな。兄上は魔法こそ使えないが、皆が言うような『無能王子』などでは無いよ」

「そうなのですか?」

「ああ、本当は兄上は凄い人なんだよ」

「……そうなんですか」

「兄上が、いつの日か認められると確信しているよ。では、僕はこの辺で……」

「はい、パーティーを楽しんで下さい」

「ありがとう、二人ともお幸せに」

 そう言ってシャルルは、貴族達の中に消えた。

 暫く二人はパーティーを愉しんでいると、会場に流れていた音楽が変わった。
 これはダンスの合図だ、貴族の、取り分け男達は貴婦人らにダンスの申し込みをし始めた。

 このパーティーの主役であるマクシミリアンとカトレアは、次から次へと挨拶に来る貴族達の相手をしていた為かヘトヘトだった。

「カトレア、いつぞやの約束を果たそうか」

 マクシミリアンは仰々しくカトレアの前に立ち、

「僕とダンスを踊ってくれませんか?」

 と言った。

「喜んで……お受けいたしますわ」

 カトレアの目が少し潤んだ。

「泣くなよ」

「ごめんなさい、でも嬉しくて」

(結婚式では泣かなかったのに)

 そんなカトレアをマクシミリアンは、ますます好きになった。

「行こうカトレア。これから、もっと幸せになろう」

「はい、マクシミリアンさま」

 カトレアは差し出されたマクシミリアンの手をとった。

 ……

 ザワッ

 マクシミリアンが、カトレアの手を引いてダンスの輪に加わると場内の雰囲気が変わった。

 二人のダンスは完璧で、他の貴族達のダンスが霞むほどだった。

「上手いなカトレア」

「マクシミリアンさまこそ、大変お上手ですわ」

 ダンスを踊る二人を、周りの人々は羨む様に眺めた。

「仲の良い事だな」

 エドゥアール王は、遠巻きに見ながら言った。

「エドワード様、私達も二人の結婚を祝って、ダンスに参加しましょうか」

 隣のマリアンヌ王妃がダンスに誘った。

「うん……そうだな、久々に踊ろうか」

 ワッ、と貴族達から驚きの声が上がった。国王夫妻がダンスに参加したからだ。

「父上!?」

「マクシミリアン。我々も混ざろう」

「マリアンヌ王妃殿下!?」

「お養母様と呼んでもいいのよ?」

 他の貴族達は、4人の見事なダンスに拍手喝采だった。
 その後もパーティーが終わるまで4人は踊り続けた。
 







                      ☆        ☆        ☆







 パーティーが終わり、新居となる新宮殿へ戻ったマクシミリアンとカトレアの二人は、ダンスによる疲労とワインの酔いでフラフラになりながらも4階の自室へ戻った。
 自室のすみには、カトレアの嫁入り用に豪華な鏡台が新しく置かれていた

「いやはや、しこたま飲まされた上に子一時間のダンスは流石に無理があった。カトレア、疲れてない?」

「すごく疲れましたけど、とても楽しいひと時でした」

「そうか、良かった」

 着替えるのも億劫だった二人は、何とか服を脱ぐと、全裸に近い姿で巨大なベッドの上に寝転んだ。
 火照った身体にひんやりとしたシーツの冷たさが気持ちいい。

「よっと」

 マクシミリアンはカトレアの側まで近づくと、カトレアのピンクブロンドの髪に触れて指の間にからめて弄んだ。

「すごく綺麗な髪だよ」

「マクシミリアンさまも……」

 カトレアもお返しとばかりに、マクシミリアンの紫色の髪に触れた。

「汗で濡れてないかな」

「気にしませんよ」

 そして二人は合図が合ったわけでもなく、自然に抱き合った。

 胸と胸が重なり合いお互いの心音が感じられた。

「この心臓のお陰で、わたしは今も生きていられるんです」

「うん」

 その後も、二人は胸と胸とを重ねあい、お互いの心臓の鼓動を確かめ合った。
 例えれば子供の事、横断歩道の白い部分を踏まないように歩く遊戯的なものだったが、二人にとっては神聖な儀式の様に感じられた。
 二つの鼓動は違うリズムを刻んでいたが、いつしか同じリズムへと変化していった。

 やがて、二人から寝息が漏れ聞こえた。
 初夜にしては色気が無かったが、仲睦まじく二人は抱き合って寝た。

 
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