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水の国の王は転生者

作者:Dellas
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第四十話 結婚前

 内乱鎮圧から数ヵ月後、14歳になったマクシミリアンは、1週間後いよいよカトレアと結婚を迎える。

 王都トリスタニアは、内乱の影響もなんのその、次代の王妃の誕生にお祭り騒ぎだった。

 一方、マクシミリアンはというと、妹のアンリエッタの機嫌を直す事に全神経を注いでいた。
 原因は、新宮殿に遊びに来る事を週に一回に制限された事と、カトレアにマクシミリアンを取られると勘違いし嫉妬したのだろう。

「私、カトレアって人嫌いよ。お兄様を独り占めするつもりなんだもの」

 とアンリエッタは、頬を膨らませてプリプリと怒っている。

「そう怒らないでよアンリエッタ。カトレアはとっても優しい娘だからアンリエッタとも仲良く出来るよ」

「知らない! お兄様なんて嫌いよ!!」

「今日はアンリエッタをずっと一緒に居るから、機嫌を直してよ」

「むぅ~」

「ね?」

 これ以上無いほど頬を膨らませて

「それじゃ、ドムやって」

「ドム?」

「足から、ゴーゴーするやつ」

「ゴーゴー? ……ああ『エア・ジェット』の事か」

 『エア・ジェット』とは、マクシミリアンが『フライ』より速く飛ぶ方法を研究していたときに、試しに足の裏に空気の塊を発生させて、それを噴射して空を飛ぶ魔法の事だ。。
 最初は上手く飛べずに、ホバー走行みたいな感じになっていた時に『ドムみたいだ』と呟いたのがアンリエッタの耳に入ったのだろう。

「でも、『エア・ジェット』を使った後だと靴が駄目になるんだ」

「ヤダ! ヤダヤダ! ドムやって! ドムやって! ドムやって!」

 アンリエッタは床に倒れこんで手足をジタバタしだした。

「アンリエッタ……ドロワが丸見えだ」

 アンリエッタを諌めたが、聞く耳を持たない。

「ヤーダ! ヤーダ!」

「まいったなぁ」

 どうしたものか、と顔に手を当て改めてアンリエッタの方を見ると、アンリエッタをジタバタしながら、一瞬マクシミリアンをチラッと見た。

(……ん?)

 そしてもう一度、チラッとマクシミリアンを見た。明らかに様子を伺っている。

(コイツもしかして……)

 子供ゆえのしたたかさかアンリエッタは、演技で我侭に振舞うことでマクシミリアンに何らかの譲歩を引き出そうしている事に気付いた。

「アンリエッタ! 知らない間にずる賢くなったな!」

 マクシミリアンはアンリエッタの頭を掴むと『ウメボシ』をした。

「いやいや!  お兄様何するの!?」

「小賢しいぞ、アンリエッタ!」

 軽めだがグリグリと米神を責めると。

「うわーん! お兄様ごめんなさい!」

 と泣いて謝って来た。

 ……

 アンリエッタを『教育』したものの、身内に甘いマクシミリアンは結局アンリエッタに『エア・ジェット』の魔法で遊んでやる事にした。
 遊ぶと言ってもアンリエッタを肩車してホバー走行するだけなのだが。

 2人して新宮殿を出て練兵場向かう途中、軍服姿のアニエスに出くわした。

「あ! アニエスだ! おーいアニエスぅ~!」

 アンリエッタがアニエスを呼び止めた。

「これは、アンリエッタ姫殿下、それに王太子殿下も……」

 アニエスは敵討ちを遂げた後、コマンド隊に残り訓練の傍ら、礼儀作法など色々叩き込まれていた。

「アニエスも訓練ご苦労様」

「また、アニエスと一緒にお勉強できるの? お兄様?」

「それは、ちょっと難しいな」

「えー」

 王族と平民、その辺のケジメを曖昧にしてしまい、内乱を発生させてしまった事から、マクシミリアンは大いに反省し勉強会は中止ということになった。

「悪いねアニエス。色々としがらみって物があってね」

「気になさらないで下さい。私は気にしていません」

「そう言ってもらえると助かるよ」

「アンリエッタ姫殿下も、私のことなど忘れて勉強をがんばって下さい」

「つまんないわ。せっかくアニエスとお友達になれたのに、お兄様何とかならないの?」

「さっきも言ったように、しがらみとか色々あるんだよ。先の内乱で僕たちが勝っても、貴族と平民の確執が一掃された訳ではないんだ、人間、そう簡単に変わらないって事で、王族、貴族と平民が一つ屋根の下で勉強するようになるのは、もう少し時間が掛かると思う」

「お兄様の話は難しすぎるわ」

「ごめんなアニエス。いくらミラン家の養女でも、アニエスだけを特別扱いする訳にはいかないんだ」

「気になさらないで下さい。今の生活はとても充実しています。今のままで十分です」

 その後、アニエスは『訓練がありますので』と、一礼して去っていった。
 アニエスの背中を二人で眺めながら、アンリエッタがマクシミリアンを責める様に言い出した。

「お兄様の意気地無し。どうせならアニエスも一緒にお嫁にもらっちゃえば良かったのよ」

「人を物みたいに言うな。それにアニエスにも選ぶ権利もあるだろう」

「最近読んだ本だと、こういうの『忍ぶ恋』って言うのかしら」

「何を言ってるんだ?」

 7歳になったアンリエッタは、様々な本を読んできた結果、少々マセてきた。

「まぁいいか。行くぞアンリエッタ」

「はーい」

 マクシミリアンとアンリエッタは手をつないで練兵場へと向かった。







                      ☆        ☆        ☆






 所変わって、ここはラ・ヴァリエール公爵の館。

 屋敷ではメイドや召使いといった屋敷の住人が、総出で一人の少女の名前を呼んでいた。

「ルイズ、ルイズ、何処へ隠れたのです。いい加減に出てきなさい!」

 カリーヌ夫人もラ・ヴァリエール公爵の三女、ルイズ・フランソワーズの名を叫んだ。

 6歳になったルイズは、カリーヌ夫人らの英才教育を受けたが魔法に関しては、全く効果が見られず爆発ばかり起こして、その度に叱られるといった事を何度も繰り返していた。
 そして今回の様に度々姿をくらまし、ラ・ヴァリエール公爵家の人々を困らせていた。

「ルイズ様にも困ったものだ」

「本当に……カトレア様が来週には結婚式だというのに」

「そのルイズ様だが、最後までご結婚に反対されていたそうな」

「困ったお方だ。魔法も上手く行かず、爆発させては部屋や庭園を滅茶苦茶するお陰で仕事が増えるばかりだ」

「今日の仕事が残っているというのに、仕事そっちのけで探さなければならないとは」

「こうしていられん、早く探さなければ仕事に戻れないぞ」

「仕事が遅れれば旦那様に叱られる……」

 家人達が愚痴を言いながらもルイズを探していた。

 そのルイズはというと……
 ルイズは『秘密の場所』と呼んでいる中庭の池に浮かぶ一艘の小船の上で涙に濡れていた。

「うううっ、嫌い嫌いみんな嫌いよ」

 ルイズは悲しかった。毎日毎日、魔法の練習をしても失敗ばかりでその度、母に叱られ召使達には陰口を叩かれる。そんなルイズを優しく慰めてくれたのは姉のカトレアだけだった。
 その、大好きなカトレアが……『ちいねえさま』が、結婚して屋敷を出ると聞きルイズは絶望した。

(ちいねえさまが居なくなったら。一人ぼっちになっちゃう!)

 そして、一人になったルイズは、肉親からも家人からも嫌われ見捨てられ、暗い部屋の中で一人寂しく老いて死ぬのよ! ……と妄想するようになった。

 小船の上でグスグスと鼻をすすっていると、ルイズに影が差した。

「やっぱりここだったのねルイズ」

「……ちいねえさま」

 カトレアは『レビテーション』で空中に浮き、小船のルイズを見下ろしていた。

「ちいねえさま、どうして……」

「トリスタニアに行く前に、ゆっくりルイズとお話がしたかったのよ」

「ちいねえさま……」

「ルイズ、一緒に乗っていいかしら?」

「あ、はい、ちいねえさま!」

 ルイズは、グシグシと涙にまみれた顔を、服の裾でぬぐった。

「っと」

 カトレアの魔法のコントロールは相変わらずだが、今回は綺麗に小船に乗れた。

「ちいねえさま、わたし……」

「ルイズ。何が悲しくて泣いていたの? お母様に怒られたから?」

「ううっ、ちいねえさま!」

 ルイズは泣きながらカトレアの胸に飛び込んだ。

「ルイズ……」

「ちいねえさま! 行かないで! 結婚しないで! 一人にしないで!」

 ルイズは一気にまくし立てた。

「わたしがお嫁に行ってもお母様やお父様、エレオノール姉様もいらっしゃるわ。決して一人じゃないわ」

「嘘よ! 嘘嘘! きっと嘘! みんな私のこと嫌いなのよ! 魔法も失敗ばかりで痩せっぽちな私なんて! みんな影で馬鹿にして! 魔法が出来ない落ちこぼれって思ってるのよ! うわぁぁぁぁ~~ん!!」

 ルイズは、カトレアの胸の中で一気にまくし立て遂に大声で泣き出した。

 カトレアは迷った。マクシミリアンからの手紙ではルイズが伝説の虚無の系統かも知れないと書かれていたが、事が事だけに誰にも相談できずにいた。
 ルイズに虚無の可能性があることを伝えるべきか。
 マクシミリアンは、知らせずにフォローしてくれと言ったがそれに従うか否か。

「聞いてルイズ。ルイズはまだ自分の本当の系統に目覚めていないだけなの。ルイズが大きくなれば、わたしよりも凄いメイジに成れるわ。」

 カトレアはキュッとルイズを抱きしめた。

「ちいねえさまより、凄いメイジに? 私が?」

「そうよ、だからお願い絶望しないで」

「……ちいねえさま」

 ルイズはカトレア胸により強く顔を押し付けた。
 カトレアの甘い香りを肺一杯に吸い、ルイズに少しだけゆとりが出来き、いつの間にか涙は止まっていた。

「……ちいねえさま。わたしの我侭聞いて下さい」

「なぁに?」

「わたし、一杯一杯、勉強して手紙を書きます。ですから、ちいねえさまもお返事ください」

「もちろんよルイズ、約束よ。さ、お母様の所へ行きましょう、一緒に叱られてあげるわ」

「……はい。ちいねえさま、さっきはごめんなさい」

「気にしてないわ」

「幸せになって下さい、ちいねえさま」

「ありがとう、ルイズ」

「きっと手紙書きます。勉強もします!」

「応援してるわ。でも無理はしないでね」

 カトレアは妖精すら見とれる笑顔でルイズに頬ずりした。
 
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