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ダン梨・S
ベルが派手に活躍したりした翌日、俺は1人でギルドに来ていた。
「あら、バミューダ君!キミが自分からここに来るなんて珍しい事もあるのね。明日は矢の雨かしら?」
「あはは、ご無沙汰ですエイナさん。疲れてるところ申し訳ないんすけど頼みごとがありまして……」
目の前には笑顔のエイナさん。俺がトンズラこきまくった事に怒っているのか、それとも俺が頼りに来たことについて笑っているのか。神ならぬ俺にはその判別が付きにくいが、昨日の今日で疲れてない筈がないので申し訳なく思っているのは本当だ。当のエイナさんは「仕事なんだから気にしないで」と苦笑していた。
「あ、以前のお誘いにご同行できなくてすいませんでした。無事懸案事項は解決しましたんで」
「そうみたいね。もう、武器探しをしてるんならあの日のお誘いとも関係あったから手伝ったのに……」
「いやぁ、こういうのは自分で試行錯誤してる時が楽しいものですから」
以前の誘い、実はベルと俺をバベルでも格安で質のいい武器が売ってる隠れスポットに案内するものだったらしい。ベルはそこでプレートアーマーを買い、更にエイナさんから籠手のプレゼントまで貰ったんだという。くそう、タダで貰えるなら俺も行ったのに!………というのは嘘だ。エイナさんは俺の分も買う気だったらしいが、残念なことに俺は彼女の案内する穴場を予め知ってたので案内されても旨味はあんまりない。
どちらにしろベルから情報を聞いてしまった俺は改めてエイナさんと二人きりで同じ場所に、という展開にはならないだろう。
「もぉ……でも、プレゼントのミニ彫刻は嬉しかったな。手先が器用なのね」
「冒険者辞めたら彫り物師になりますわ」
「キミならきっといい彫刻師になれるよ!……そいうえば、用事って?」
「ええ、ベルじゃありませんがちょっとばかり気になる女の子がいまして……」
「ええっ、バミューダ君まで!?ちょっと、ギルドはお見合い斡旋所じゃないのよ!?」
「あはははは、嘘ですよ嘘。実はそろそろ次の階層に行く算段をしてるんですが、そのことで色々とね」
俺は簡単に立てた計画や収集した情報を突き合わせていい所や駄目な所を話し合い、十数分であらかたの用事を終えた。
「ありがとうございます、いろいろと計画の見直しアイデアが溜まりました。あ、ちなみに次の層の攻略はまだ先延ばしにする予定なので心配はしないでくださいね?」
「あ、もう。ベルくんと違ってそういうところでそつがないんだから……言っておくけど、今の階層だって新人冒険者にとっては危ないんでだらね?冒険者は――」
「冒険してはいけない、でしょ?」
出鼻をくじかれたエイナさんは極めて不満そうにむくれながら俺をじとっと見つめた。この人基本的に世話焼きだから、ベルと違って素直に忠告させてくれないのが不満なんだろう。お姉さんぶりたいけどなれないエイナさんかわいいです。
「バミューダ君は大人ぶっててもまだ子供なんだからね?大人を頼ることも忘れないでよね」
「いやーエイナさんは若すぎてまだ大人にカウントするには早すぎますねぇ♪」
「あっ、もう!そうやってすぐ人をからかう!」
「あはは、じゃあお願いしますね~!!」
俺はぷんすかと「私怒ってます!」と手を振り上げるエイナさんを置いてギルドからすたこら逃げ出した。
= =
「はぁ……もしかして私って頼りないのかなぁ?」
悪戯心はあるのにまるで子供っぽくないんだから……と小さなため息を吐いたエイナは、内心少しだけ若すぎると言われたことを嬉しく思ったりしながら通常業務に戻ろうとして――そこで、受付カウンターの上に一枚の折りたたまれた紙が落ちていることに気付いた。
「あら?こんなもの置いたかしら……」
と、紙を拾い上げる。すると紙に少し崩れた文字が書かれている。
『エイナさんへ。これを見たら何も言わずに懐にしまい、なるべく一人で内容を読んでください。バミューダより』
「―――」
流石と言っていいだろう。エイナは一瞬目を見開いて停止したが、すぐにそれをポケットの中にしまいこんで通常業務に戻った。
――先日の騒ぎの折、俺は不思議な出会いをしました。
――魔物に囲まれた山羊人の少女。しかし彼女は抵抗もせずにのんきでした。
――助けてみると、彼女は俺の事をルーと呼び、自らはコルヌーと名乗ってその場を去りました。
――調べて欲しいのはこのコルヌーという少女と、ついでにルーという名前もです。
――あの時、彼女は数Mの高さを跳躍してその場を去っていきました。
――つまるところ、彼女はその気になればいつでも逃げられたのです。
――冒険者である可能性が高い。下手をすれば戦って倒すのも楽勝だったかもしれません。
――そして俺がバミューダと名乗っても、彼女は俺をルーと呼びました。
――どうにも不自然です。作為的なものを感じざるを得ません。
――彼女はあそこで何かを、或いは俺を待っていたのかもしれない。
――これがそのような性質を持つ出会いなら、その背後関係を洗いたいのです。
――ただ、彼女が俺をルーと呼んだように、彼女の名前が本当にコルヌーであるかは不明です。
――なので、探して見つからなかったらそれでも構いません。
――どこに監視の目があるか不明なので念のために手紙に記させていただきました。
――こんな時ばかり頼るのは申し訳ない気もしますが、お願い申し上げます。
「………本当、いったいどこでこんなスパイみたいなやり方を覚えてきたんだろう」
休憩室でこっそり手紙を開けて読んだエイナは、知らないうちに厄介ごとに巻き込まれそうになり、しかもそれに対抗するために情報収集を秘密裏に始めようとしている子供冒険者を憂うと同時に呆れ果てた。
本当に、性格から世話のかかり方、心配の方向性までベルとは似ても似つかない。
だからこそ、余計にエイナとしては心配になるのである。
(こういう頼り方をされたい訳じゃないのに……どうして君はこんなにも子供っぽくなれないの?)
エイナにはどうしても、バミューダという存在が理解できなかった。
今、この街で良くも悪くも彼の事を理解できているのはベル・クラネルのみである。
= =
「神様ー、俺には新武器ないんっすかー?ベルだけ特別優遇は酷いと思いまーす!」
「いや、しょうがないんだって。主力武器が鞭だって言ったら『流石に作ったことない』って言われたし。絶対に埋め合わせするからさぁ……ねぇ機嫌直してよぉ!」
「つーん」
「バミューダくぅん!!」
「神様、遊ばれてますよー。バミューダの事だから欠片も気にしてないですよー」
いじけるふりしてベッドでふて寝するバミューダの服を掴んで涙目になる女神ヘスティアの方を見向きもせず、ベルはじゃが丸くんを齧って本を読みながら興味なさげに忠告した。バミューダがよくやる手口である。ベルも7回ほど引っかかった。またやるタイミングが具体的で嫌らしい罠なのである。
「でもやっぱ魔導書で、しかも割と使い勝手のいい品が僕の手元にピンポイントで回ってくるっておかしいよね?何さファイアボルトって。電気の速さで炎を出すの?メチャ強いじゃん」
豊穣の女主人で発見され、シルに手渡されたその本を読んだベルは、念願の魔法を使えるようになっている。しかしベルは降って湧いた幸運に喜ぶ半面、結構な割合で訝しんでいた。そもそもに於いて、こんな貴重品を置きっぱなしなのがおかしい。あとシルさんがそれを「折角だから読んじゃえ!」とノッて来たのもどうかと思う。
魔法の話になると、騙されたと気付いた女神ヘスティアに「ばかばかー!」と胸をぽかぽか叩かれているバミューダがベッドから足を下ろしてこちらを向いた。
「最初はゴミ魔法でスロット埋められた上に『勝手に使うな』って高額請求される新手の詐欺とか考えたんだけどなー、俺は」
「バミューダはよくそんな人間の屑みたいな発想をポンポン思いつくよね。でもまぁ、普通そんぐらいしか魔導書置いていく理由ってないのも確かだし……」
「まぁ奇特な魔法使いか、或いはメンヘラヤンデレビッチな神様がプレゼントしてくれたんじゃね?」
「前者がいいな。一生に一度の願い使ってもいいから前者がいいな」
何故かと言うと後者の方が可能性高そうな上に身の危険しか感じないからである。
前者であれ、世界よ。この手の願いが通じたことがあんまりないけど。
「バミューダも謎の電波少女に目をつけられたっていうし、もしかしてヘスティア・ファミリアって早くも前途多難じゃない?」
「んん、否定できないかな……色々と」
「否定できねーかなぁ、マジで」
神様とバミューダがそれぞれ明後日の方向を向きながら遠回しに肯定する。どうにも二人とも別方面に心当たりがありまくりらしい。英雄になりたいとは願ったけどこういうのはなんかイメージと違うわぁ、と少し落ち込む。しかし落ち込むだけならサルでも出来るから反省の次は行動だ。
まずは緊急事態に対する備えが急務だろうか。自分たちのような零細ファミリアは、ファミリアの数が少数で実力が低い程に底辺に落ち、周囲に対抗できなくなっていく……らしい。神様もそんな事を言っていた。
「うーん、でも新しい武器と魔法でちょっとは手に届く範囲が広まったかな……バミューダ、これからの方針はどうする?戦法とか新しいの探っていけると思うんだけど」
「それはやるけど、やっぱ大筋の指針としてファミリアの数がもう少し欲しいよなぁ。個人的にはあと2人……いや、3人。増やしすぎると生活費とか響いてくるけど、5人いると相当変わると思うんだ。あと即欲しいのが荷物持。最悪ヨソのファミリアから引っこ抜くのも手だと思う」
「数増やして質を上げて……でもタケミカヅチ・ファミリアも数はいるけど貧乏だよね?」
「武器費用のせいと、多分インファイター多すぎて稼ぎの効率が悪いんだろ。俺は中・遠距離ギリで行けるから欲しいのは獲物の違うインファイターか、もしくはパワーのあるのがいい。ただ、新入り入れるにはウチが新参過ぎるから募集かけてもしばらくは無理だろうな」
「こればっかりは地道にコツコツ実力つけてくしかないかぁ………人が増えたら本拠地の改築とかも考えないといけないし。あ、神様的にはどうですか?何か要望とか……」
いつもこの手の話はバミューダと二人で勝手に盛り上がってしまうが、ファミリア指針は主神が決めることだ。そう思って話を振ったのだが、神様は困り顔だった。
「なんというか、ボクより君らの方がよほどしっかりしてる気がしてきたよ……」
「まぁ神様って浪費癖あるし手綱握ってないとってのはあるわなー!」
「フグッ!?」
「大丈夫だよバミューダ!神様だって流石にこの状況で借金背負うようなことしないって!」
「アグゥッ!?」
神様のあからさまな反応に、僕はちらっとバミューダにアイコンタクトを送った。
――え、この反応まさか?
――ベル、お前のナイフ特注で高そうだよなぁ。
――あっ(察し)。
当人はまだ隠しきれてるつもりの新事実に項垂れるベルに、バミューダは今日の分の梨をそっと差し出した。
神様がポンコツでつらい。でも可愛いから許しちゃう。
後書き
S=借金で家計簿が火の車なんですわ、のS。
ぶっちゃけダンまちの女性キャラって滅茶苦茶書くの苦手です。神様系はまだいいですが、リューさんとかエイナさんとかシルとか、何も面白いこと思いつかないからキャラ勝手に変えるしかないというか。
ちなみにバミューダ君はそのうちエイナさんにものすごく酷い事言う予定です。
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