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ダン梨・K
前書き
没会話 ヘスティア&ヘファイストス
「このままだと、彼はいずれグノーシスになる」
「反宇宙的二元論。生きる世界が悪で、永遠の停滞こそが真であると?」
「そうじゃない……彼にとっては僕たち神の世界も含めての悪だ。もう一つの道へと魂が向かった時、破綻が始まる。彼はもう人間に戻れなくなる」
「………ヘスティア?」
彼が投げて渡した紙に描かれた一つの神話、「ウ・ドゥ」。そこにグノーシスという記述があった。グノーシスとはすなわちグノーシス主義、つまりヘファイストスの言った反宇宙的二元論を根底に置く、今の人類は持っていない筈の思想だ。しかし彼の記したグノーシスとはそうではなかった。
「絶対的な終焉、破綻。人類最古の恐怖たる死を前に、魂は輪廻を拒絶し、世界は崩壊を始める。彼はそれを知っていたんだ」
「………冗談では済まない事を言っている自覚はあるの、ヘスティア。それを知る存在が人間である筈がない。それは神の理、神の理解を超えた領域の絵空事よ?それを神が信じるというの?」
「――ないと言い切れるかい、ヘファイストス?ボクはね、波動存在には勝てない。勝つ負けるですらない。そしてボクたちには、その理論が間違いであることを証明する手段がないんだよ……」
唐突にゼノサーガとクロスさせ始めるスタイル。本筋からズレすぎだろう。
怪物祭、嗚呼怪物祭、怪物祭。
どうも、常時魔の海域ことバミューダです。ベルの新武器イベントについて俺に出来ることは正直何一つとして存在しないと思われるので「勝手に回って後で合流しようぜ!」と適当な事言ってベルと堂々と別れました。そして一人で普通に祭りのモンスターを見て回ってます。
「ねーお兄さんや、こいつ弱点は?」
「あー、そいつな。牙が目立つから噛み付きが怖いって言われがちなんだけど、実際には全身で突っ込んで爪で引っ掻かれるのが一番マズい。飛び掛かる寸前に腰が低くなるから、それを躱して攻撃だね。確か24層くらいから出るね」
「ふんふん成程。横の羽生えた奴は?」
「降下しながら襲ってくるからタイミング合わせて迎撃するだけだよ。耐久も攻撃力も低いんだけど、他の魔物と同時に出てくると詠唱とか潰されて激ウザだよ。19層限定で魔石的な稼ぎも悪いけど、倒さないと余計に面倒なんだよなぁ」
「手早く処理してーな。メモメモっと」
現在俺は、ガネーシャ・ファミリアの人と思われる黒いコートに金色のガネーシャ仮面を付けた死神みたいな気配を放つ親切なのっぽのお兄さんに魔物の解説をしてもらっている。お兄さんの外見情報と提供量がパない。博識な仮面お兄さんは魔物の要点を押さえて登場する階層まで適切に教えてくれる。おかげで次の層の予習もばっちりだ。
「さて、今日登場する魔物は大体見たかな。少年よ、これからも冒険に励みたまえよ!」
などと勇ましい事をいう仮面さんだが、肝心の笑顔がまるで緊張感のない柔らかいものである為にミスマッチである。
「どもっす。出世したらメシ奢りますね!とはいっても、俺の周りの大人たちは『冒険者は冒険してはいけない』って口を酸っぱくして言ってましたけどねー」
「それは職業としての冒険者だね。本当に冒険する冒険者ってのは、未知の世界に好奇心を膨らませる命知らずな馬鹿の事だよ」
「馬鹿の冒険者はお嫌いっすか?」
「馬鹿な冒険者は嫌いだけど、馬鹿の冒険者は好きだよ。俺もそーだし」
にへら、と笑う親切なお兄さんの言いたいことが、なんとなく分かる。前者は屑で、後者はベルみたいなのだ。そして未知への探求とは常に危険と隣り合わせにある。死んでほしくないのは他人の事情でしかない。
冒険者とはつまり、広義において態々死に近づく馬鹿なのだ。だからこそ、そこに楽しさがある。考えてみれば俺は、ダンジョンで魔物研究するのもベルと計画練るのも、イタズラっ子が仕込みをするような高揚感をいつも覚えていた。第二の人生で何しようかと思っていたが、案外一番楽しいものは近くにあったのではなかろうか。
「……じゃ、俺は用事があるからもういくねー。大通りの屋台美味いのいっぱいあるから行ってみなよ~」
「あっ、ちょい待って!名前聞いていいっすか!?」
「名前?名前……ごめん、俺も俺の名前知らねー。次に会った時に君が名付けてくれよぉ~!」
「はい?」
最後にとんでもない話を投げつけられて唖然とするなか、優しいお兄さんは人混みに紛れて消え……消え……。
(身長高い上に金色の仮面が目立ちすぎて微妙に視界から消えてくれねーだとッ!?)
人の壁が邪魔で追いかけても追いつくのは無理だったが、消えるのに1分かかった。
世の中いろんな人がいるものだ。原作じゃあんな目立つ人見たことなかった奇人を前に、俺は思わずいつもよりちょっぴり高級な洋梨を齧りながら「名前何にしよう。トンヌラ?ああああ?ンパカパポコルペヌ?……ブチギレられたら困るから真面目に考えよう」と思うのであった。
= =
暫く街をぶらつきながら新しい梨を買って屋根の上で下を眺めていると、騒ぎが始まっていた。
湧き上がる悲鳴と戦闘音、怒声や雄叫び。知性の感じられない獣たちの声。
「闘技場の気配に便乗して反対方向からも気配が出てきてるねぇ……闘技場の方なら多少は俺も力になれるが、便乗犯は今の体では無理か」
あっちはロキ・ファミリアがどうにかしてくれる筈である。もう片方もまぁ、みんなが勝手に何とかするだろう。依然として、俺がこの世界ででしゃばる必要性は皆無だ。
しかし、実際問題どうなのだろうとも思う。原作じゃ死者はゼロだったっぽいけど、俺という存在によるバタフライエフェクトの可能性は否定できない訳で。かといって、俺までトマト事件の巻き添えになったことを鑑みるに、なんやかんやで原作の流れになるのではないかとも思える。
ただ、その原作の流れというのが問題だ。俺はベルと同じ目に遭ったのである。という事は、今回もまた同じ目に遭ってしまう可能性はある。これだけ距離が離れれば流石に因果関係までは繋がらないだろうが、俺のところにも何か来る可能性はある。フレイヤがベルに魔物をけしかけるついでに、鬱陶しい蠅を一匹潰してみるとか。あれ、それってハードモードじゃないですかね?
……そういえば、怪物祭の際にベルはシルさんの財布を預かっていたが、結局のところシルさんを見つけないままに争いに巻き込まれた。ネットじゃ確かそれのせいでシル=フレイヤ説や、フレイヤと繋がっている説が出ていた筈だ。
あの人、今頃何してんだろう。シルさんって特に精神の内側ヤバそうだし、知的好奇心が働かないでもない。思い立ったが吉日か、と俺は立ち上がって家から家へと屋根を伝って飛ぶ。パルクールと言いたいところだが、きっとこの世界にパルクールなんぞと言う洒落た言葉はないだろう。途中ギルドの人もちらっと見かけたが、無視した。
(怪しいのは豊穣の女主人周辺、或いはバベル。というかそれ以外に心当たりないな。何と言うガバガバ探索……)
というわけで飛んで回っみたが、特に何も見つからない。まぁ、この程度で見つかる関係なら原作で誰か気付いてんだろって話なので俺は特になにも気にせず事の成り行きを見守る――筈だったのだけれども。俺はいい加減おうち帰ろうと帰路に就く途中で嫌なモノを見つけてしまった。
「グルルルルルルル……」
「ガウッ!グガアアアアアアッ!!」
猛き遠吠えを上げる数匹の獣たち。その獣たちは、ある人を囲ってしきりに吠えている。
のだが、囲まれている人は別段それに反撃もせず、さりとて怯えもせず、呑気にお祈りをしている。
「だいじょーぶだいじょーぶ。運命の行きつくままに何とかなる♪」
(うわぁ……もう関わりたくない感全開でうわぁ……)
少女は頭部から角が生えており、見たところ山羊っぽいので 山羊人と思われる。ピンチの少女を颯爽と救うヒーローになって吊り橋効果を狙えと言わんばかりのテンプレートな展開にドン引きを禁じ得ない。というかコレ吊り橋効果あるか?当人平気そうだし、見なかったことにしても宜しいのではないだろうか。
しかし、呑気にお祈りされながら目の前で魔物に食われる少女とか普通にSAN値減るから見たくないし、見なかったことにした結果少女の遺体が発見されましたになっても後味が悪い。何より囲んでいるのは雑魚魔物だが、一応倒せば経験値になる。
「なんか、大宇宙の法則というか大いなる意思に誘導されてる気がするけど……」
そう呟きながら、回すのは懐に忍ばせたウェポンホイール。俺の魔力を多量に吸い取ったそれはが手元に顕現させたのは、スリケン・チャクラムだ。最初は使いにくさ全開だと思っていたが、器用値の上がりが良すぎるせいで使いこなせてしまったそれを構えた俺は、全身を回転させながらチャクラムを投擲した。
「イヤーッ!!」
ゴウランガ!カラテ・シャウトと共に高い技量によって投擲された刃は愚かな獣たちの首をしめやかに刈り取り、俺の下に戻ってきた。一撃で敵は全滅である。
「ワザマエ!」
「……え?アイエエエ!?俺にチャクラムくれた似非忍者おじさんナンデ!?」
「後はチャドーの心を学ぶべし。オタッシャデー!!」
忍者おじさんは突然俺の現れ、突然去っていった。え、監視されてんの俺?というか俺の言動まで微妙に忍殺語っぽくなったのは何故だ。やっぱりあのおっさん転生者なのでは。
「っとと、それより女の子の方は……」
「車輪だ!ルー!」
「どぉぉぉおおおッ!?」
鼻先三寸に、少女の顔があった。
真正面から聞こえた無邪気な声に俺は思わず尻餅をつくほどビビった。一体いつのまに屋根の上に登ってきたというのか、先ほどまで下にいた筈のお祈りは興味津々といった様子で俺の顔を覗き込みにくる。というか馬乗り状態だ。俺が乗られる方だけど。
少女はωみたいな口の形で至近距離から俺を覗き込む。垂れてかかる少女の青白い髪がくすぐったい。
「車輪の回る音、不確定性の波。浮いて沈んで跳ねて回って、君はルーだね!」
「いえ、俺はバミューダですけど!?」
「じゃあバミューダのルーだ!お祈りはしたけどまさか今日現れるなんて、これって運命?」
「すいません、意味が分かりません」
これが電波少女ですか。顔は可愛いけど正直意味が分からなくてちょっと怖いですわ。
「うーん、ルーって冒険者だよね?どこファミリアなの?」
「え?あーと、ヘスティア・ファミリアですが……」
「ヘスティア様のファミリアか~。うん、わかった!じゃあね、ルー!」
「いやだから俺はバミューダであって……」
「バミューダのルーだね!分かってるよ!」
そんなフェイのキムみたいな言い方されましても。まぁ確かにフェイはキムだったけど、俺の前世はルーじゃないし大柴でもない訳ですよ。しかし人の話を聞いてくれない角生えてる系少女は笑顔でぴょんと跳ねて対向側の家の屋根に飛び乗った。
「わたしコルヌー!次に会ったらもっと君の事知りたいな!」
一方的にそれだけ告げた少女は、そのまま屋根の上を走り去っていった。
シルさんを探している途中に発見した少女を助けたら背後に忍者が現れた上に助けた少女に変な名前をつけられた挙句現場に取り残された。何を言っているか分からねーと思うが俺も何があったのか分からねー。取り合えず思ったのは、素直にベルと一緒に行った方がもっとスッキリした結末を迎えられたのではなかろうかということ。
俺の手元に残ったのは謎と3、4つの小さな魔石と謎の虚脱感だけであった。
なお、その日の晩に今日起きた出来事を聞かれて素直に「女の子助けたら変なあだ名付けられました」って言ったらヘスティアに「ボクという主神がいながらこの浮気者っ!」ってビンタを喰らい、ベルには「僕と神様が死にそうになってる時にそんなうらやまけしからんことしてこの裏切者っ!」って腹パン喰らった。
冤罪だと言いたい気持ちもあったが、二人を放置していたのは事実。これも天罰かと考えることにした俺は、本日二つ目の梨をカットして二人に振舞うのであった。
本日は実に他人に振り回される日であった。
願わくば明日から、俺は振り回す側でいたいものである。
後書き
K=今日は特にいい感じのサブタイトル思いつかなかったでござるのK。
なお、主神の部分に無限上昇バグ発生中。ぜひお楽しみください。
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