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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  巨力圧倒



今までのあらすじ


窮地ながらも敵に挑む蒔風。
母を打ち破ったスバル。


そして、明かされる戦いの結末。


戦いは激化し、そして徐々に終わりへと向かっている。


その中で、飛ばされた「EARTH」(仮)の眼前に出現した赤銅は――――――!!!



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「・・・・・もう一回言ってもらっていいか?」

クラウドが問う。

赤銅の剣撃は重く、様々な力は尋常なレベルではない。
が、ここにいるクラウドも、数々の戦いを勝ち抜いてきた歴戦の勇士。

その翼の力も相まって、赤銅の攻撃をどうにか凌ぎ、徐々に切迫する程にまで達していた。


赤銅がかつて暴れまわった際。
その時も赤銅自体の力は凄まじいものだったか、それ以上にラピュタの存在が大きな脅威だった。

一度倒し、相手がどのような存在であるかわかった今であれば、翼人同士の戦いは互角に至る。クラウドほどの実力者なら、なおさらだ。


だが、そのクラウドをして凄まじい衝撃が襲い掛かった。

とはいえ、何もダメージがあったわけではない。
血を流したわけでもなければ、身体だってまだ健在だ。


だが、赤銅のその一言はクラウドの精神に大きな衝撃を与えた。



「え・・・・・」

「いや・・・だからな。もう一度言ってもらえるか、今の言葉」

「再度?」

キョトン、と首をかしげる赤銅。
その動作だけでもおかしいがそれでもクラウドはうんうんと頷いて促した。

そして、赤銅が口を開き――――


「吾にいい案があるでござる。世界四剣をそろえてくれれば、どうにかするでござる。だからそれまで吾の相手を宜しくお願いしたいのでござるよ」

「ご・・・・ござる口調だと―――――!?」

蒔風に出会ったり、結合してからという物、クラウドはこれまで頭を抱えたくなるようなキャラクターをした人物には数多く出会ってきた。
そのおかげ、と言っていいのか。並大抵のことは驚かない自信があった。


だがこれはダメだ。
いや―――――ダメだろう。

まさかあの赤銅の口調が俗にいう「ござる口調」なのだから・・・・・!!!


「なにかおかしいことが?召喚されたサーヴァントの言語は、こちらに合わされるのでござろう。なれば、吾が言葉も現代風に―――――」

「まて、まってくれないかちょっと」



まあ、確かに、そう言えば、そうだ。

セイバー―――アルトリア出身は今のイギリスなので、日本語を話しているのはそう言うことだろうし、そもそも第五次聖杯戦争のサーヴァントの大半はそうなっている。
だが、だがしかしだからと言ってこれは


「うむ。まあそもそも吾は翼人が故に言語に不自由はせなんだ。しようと思えばこういう現代風の会話もできる。だが、そっちは気疲れしてしまって・・・・この方が楽なのでござるよ」

「――――――」

あまりの衝撃に口をパクパクさせるクラウド。
だが、相手はあの赤銅だ。気を抜いたらその瞬間にやられることだってあるのだ。



「あ、呼ぶときは気軽にシャクちゃんでよろでござる」

「フランク―――――だとッッ!?」

クラウド、完全に飲まれる。
思い返せば、蒔風に始まり一刀、理樹、観鈴。そしてコイツ――――自分以外の翼人はこんな奴らばっかりか。キャラクター濃すぎるだろ。

思わず膝をついてしまう。



「クラウドさんッッ!!!」

「アリスか!」

と、そこにアリスが到着した。
即座に目の前の赤銅に掌を構え、一切の油断なく睨み付ける。


「まさか、このタイミングで赤銅の翼を召喚するとは・・・・戦力が分散されている今を狙って、でしょうか」

「・・・・だろうな。だが、赤銅には何か考えがあるらしい」

「考え?」

「この状況を打破する、と。ただし、世界四剣を貸せだそうだ」

「なっ・・・そんなことできるわけ」

「してもらわないと困るでござる~」

「ッッ!?・・・・ござるくty」

「すまんアリス。そのくだりはやったから蒸し返さないでくれ・・・・・・」


ハァ、と、剣を握りながら、片手で頭を抱えて首を振るクラウド。
頭も痛くなるだろう。


「とまあ・・・吾が口調のことはもういいでござろう?」

「「!!」」


口調は変わらず。
だが、その言葉に込められた意気込みが一気に変わった。

斬り裂くような闘気。
まるで、森羅万象万物一切、有象無象に関わらず、総てを破壊しつくすと言わんばかりの、圧倒的な存在感。



「吾を信用しようとしまいと、今この場で吾らがすべきことは変わらないでござる」

「・・・・その通りだ」


気を抜けば意識か吹き飛んでしまいそうな闘気の中、クラウドとアリスが気を取り直して赤銅に聞く。


「ちなみに、こちらにそのような条件を提示する以上、手は抜いてもらえるんでしょうね?」

「まあ多少は。だがそれも微々たるものでござる。令呪の縛り故、この闘争心には抗えぬのでござる」

「そうですか」

「ちなみに、勢い余ってお前を倒してしまったら・・・・どうするんだ?」

「・・・ふふ。漆黒の翼人。お主、そのような冗談を抜かすキャラでござったか?」

「なに?」


吹き荒れる。
風ではない。しかし、風以上の何かだ。

それは、赤銅を中心に旋風を起こして渦を巻く。


「たとえ何兆何京と打ち合おうとも、お主ら二人のみで吾を倒そうことなど那由多の先にもござらぬよ」

気を引き締める。
どれだけ口調や本来のキャラがあんなでも、あれは間違いなく赤銅の翼だ。

破壊、破滅衝動からは逃れているらしいが、闘争衝動が残されている。


「吾が望みは、世界四剣を借り受けること・・・・・銀白も騎士王もこの場におらず、翼刀の君がここにおらぬ以上、それまで耐えるでござるよご両人―――――!!!」



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「そいじゃな・・・楽しかったぜ!!ゲイ――――ボルクッッ!!!」

「ゲブッッ!?」

冬木市中央公園。
その広場で、剣士と槍兵の決着がつく。


打ち合った剣撃は、両手の指をケタで数えても足りない。
地面に残された戦闘の跡は、何度も踏まれた個所もあるので数えきれない。

その中で、ランサーとセイバーは互いに満足そうに笑い、昂ぶり、己の得物を打ち合っていた。
惜しむらくは、柳也に宝具となりうる物がなかったことだろう。

しかし、だからこそランサーは心躍った。
武器の性能に左右されず、ただ単純に互いの技を競え合えたのだから。



「ちっ、これで終いか・・・」

「そう言うなや。お前さん、相当凄かったぜ?」

「そうじゃねーよそっちに不満はねーよ。ただ・・・・俺はあっちの嬢ちゃんとか、俺のガキとやりたかったって言ってんの」

「は、そりゃすまんな」


ばたりと倒れる柳也。
ランサーのゲイ・ボルクは、心臓を確実に穿つ魔槍だ。

心臓が急所なのは、サーヴァントも人間も変わらない。
その身体はゆっくりと魔力粒子へと変換され、今にも崩れ去りそうになっていた。


ふと、ランサーが振り返るとそっちからバゼットと観鈴が駆け寄ってきている。

何か声かけてやれば?とランサーが笑い、間に合うかね?と柳也が笑って崩れていく自分の足元を見下ろす。


と、そこで気づいた。

観鈴たちは何かを叫んでいる。
しかも、普通じゃない状況らしく・・・・・


ヴォンッッ!!!

「んなにぃ!?」

「これは・・・・!!!」


と、そこでランサーとセイバーの足元から魔法陣が浮き上がった。

偶然か、彼等が立つのは元「EARTH」の敷地内。
その裏側から浸透させ、セイルとマンはこちら側にサーヴァントを送り込んでくる――――!!


ドォンッッ!!!

召喚されたサーヴァント。
そいつは召喚と同時、その翼から衝撃波を発しその場にいた二人を吹き飛ばしにかかる。


「ランサー!!!」

それを見て叫ぶバゼット。
その後には何も残らず、唯一セイバーの着物だけがバサバサと宙を揺らめいていた。


「そんな・・・・」

「―――――ォォォおおおお、っとぉ!!何泣きそうな顔してんだ、バゼット!!」

「ィひゃぅ!?ら、ランサー!!無事なら無事と・・・・」

と、そこに飛び降りて・・・というよりは、跳び落ちてきたランサーが着地してきた。
ビックリするバゼットだが、彼が無事で嬉しそうに顔を赤らめた。


あの瞬間。
その攻撃をランサーよりも早く悟った柳也は、ランサーの身体を掴んで投げ放ったのだ。

当然、柳也は逃れる術はない。
そもそもの話、彼は消える定めなのだから何を言ってもしょうがないのだが――――



一方、召喚されたサーヴァント――――バーサーカーは、悲しみの顔で理性もなく周囲を見渡す。
そして、頭に何かがバサリと掛かる。

邪魔だと手をかけて降ろしたそれ。
それは、柳也の着物。バーサーカーはビクン、と動きを止め、それを強く握りしめる。

だが、それで限界が来てしまったのか。
柳也の着物は粒子となって崩壊し、完全にこの世界から消え去ってしまった。


セイバー、完全に脱落。
しかし、目の前の狂戦士は


「ウ・・・ゥウ・・・・ゥゥゥウウウウウウウううぁぁぁアアアアアアアアアアアアアアああああ!!!」

叫んだ。
それは、主にバーサーカーというクラスに見られる「怒り」や「雄叫び」とは異なる咆哮。
その咆哮に込められた想いは、何かというと「悲しみ」を連想させた。

慟哭。


バーサーカーは何を感じる心もない狂気の中、涙を流して咆哮する。
それは胸を打つ悲しみからか、身体を蝕む苦痛からか。

ビリビリと大気を震わせるその咆哮に、三人は思わず耳を抑えた。


「な、何じゃこの声!?」

「ただの大声ではないみたいです・・・こちらにスタンが掛かる程の・・・!?」

「た、多分、咆哮の振動に衝撃波も一緒に練り込んで撒き散らしてるんじゃないかなぁ・・・って」

三人が口にするが、この中で通じるわけでもない。
奇跡的に会話は成立していたが。

その中で、観鈴はこの相手は私がしなければならないと決心していた。


翼から放つ衝撃。
経緯はともかく、柳也を失い哭く。

そして、自分と同色の翼――――!!!



耳から手を放し、前に出る観鈴。
自身の翼から衝撃波を発し、咆哮波を中和させながら進む。

そして



バチィッ!!!

「アぁぁアアアアアアア――――ガッッ!?」


恐らく、それは可憐な少女なのだろう。
だが、今の彼女にその面影は微塵もない。

悲しみと、苦痛と、そして新たに加えられた感情。
目の前で消えた着物。その意味を狂戦士しながらも理解しえたのは、やはり生前からのつながりからか。


自身に一撃を加えた観鈴に対し、敵意と憎しみの視線を送るバーサーカー。

二つの感情に、新たに怒りと憎悪が加えられる。
柳也が消えた。その原因はお前かと睨み付け。


説明できるなら、いくらでも出来る。

柳也は戦いの末敗れた。
消え逝く彼を一気に吹き飛ばしたのはお前だ。

だが、その一切は耳に届くまい。


バーサーカーはその時その場に生まれた感情を爆発させ、それがなんであろうと暴れまわる。

「ア――――ぁッッ!!!」

バーサーカーの翼から放たれる衝撃波の塊が、観鈴に向けて放たれる。
しかし、それを羽撃き一つで打ち消し霧散させる観鈴。


「うん・・・わかってる」

そう言って、純白の翼は輝く。
同じ翼をもつ彼女に向かって、慈悲に満ちた顔で、悲しみをこらえて。

「あなたを助けるために、あなたを私は倒すよ!!」


同じ翼。
同じ魂。

バーサーカー・神奈備命。純白の翼。
過去未来現在において、翼人に同色は存在しない。

その法則と異なる、唯一の存在同士が今、ぶつかり合う。


1000年の呪い。
その始まりと終わりが、ここで。


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「不動拳ッッ!!」

「墳ッッ!!」

バチィッ!!


翼刀の放った拳。
数十手に及ぶ攻防の末に、ようやく当てられた拳から放つ不動拳。

だが、翔剣の腹に撃ったはずのその一撃は、そのまま翼刀の全く同じ部位にそれ以上の衝撃でたたき込まれていた。


「ゲふ・・・ッッ」

「こういった組手の合間に、十分な振り幅や挙動がなくとも、拳が身体に触れていれば放てるのが不動拳の優位なところ。だが初代の動不動拳は、飛び込んでくる」


腹に手を押さえ、転がりながらも翔剣の攻撃を回避して距離を取る翼刀。
一方、翔剣は攻撃をしながら、淡々と先を語る。

「飛び込まれては、ピタリと当てることも叶わない。同時に動不動を放とうとも、あちらが開祖だ。敵わない。故に、二代目はこの非打手を編み出した」

第二奥義・非打手
この三文字で「打ち手いらず」と読むらしい。

完全なるカウンター攻撃。
相手の一撃が強ければそれだけ強くなる。


「さて、翼刀。お前はそれを知ってるにも関わらず、なぜ挑んでくる?」

「さあね・・・答える必要はねェだろッ!?」

ヴァルクヴェインを構え、一気に駆け出してくる翼刀。
駆けながら横薙ぎ、袈裟切り、振り上げと三撃放ち、その軌道上に刃が雨のように翔剣へと一気に飛来していく。


それを、翔剣は拳一発で弾き飛ばす。

第五奥義・撃太鼓
大気そのものを殴り飛ばし、その衝撃で一気に鎮圧する、いわば「拳砲」ともいえる技。

バラバラと刃だった鉄片が散り落ち、消えていく中。
その中で翼刀はさっきも何度かやったように、翔剣の背後へと回って剣を振り上げた。


それを察知してか、翔剣はしゃがんで横薙ぎのそれを回避する。
そのまま振り返り、降り降ろされたヴァルクヴェインを左手刀で落としながら右手で翼刀の顎へと掌底を伸ばす。

それを翼刀は仰け反って回避し、バク転で下がりながら距離を取る。





「答える必要はない、か」

ドンッッ!!!

「いかにも」

相手はあの鉄翔剣。
50メートルという距離を一気にとったはずの翼刀に、翔剣からの一撃がぶち込まれた。

先ほどの動きから、急に不自然な回転をしてからバタンッ!!と地面に倒れる翼刀。
翔剣の位置は変わっていない。この50メートル離れた位置に、あの男は一撃を放ってきたのだ。

その技は、第九奥義・大槍。
その名の通り、只々遠距離の不動拳。この男の前に、近中遠という距離の概念は存在しない。



そして、翔剣はそこらの石を拾い上げる。
ギュッと握ってから、それを翼刀に向かって投げ放つ。

「いかにもだが・・・・父に対してその口調はいかがなものか」

「ッ・・・!!!」

それを、満身創痍ながらも翼刀がとっさに横っ飛びで回避する。
回避しながらも、身体を丸め、顔を腕で覆っていた。

そう、まるで――――投げられたそれが、爆弾か何かのように。


ドォンッッ!!!


「ガッッ!!!」

そして、その通りになった。
投げ込まれた石は爆発―――――爆発としか言いようのない衝撃を発し、霧散したのだ。

正確には、込められた不動拳が、あのタイミングで発揮、結果として爆発したのだ。

これが第八奥義・不動送。
同時は弓に込め、そして着弾と同時に爆発だったらしいが、着弾せずとも爆破させられるあたり、やはり翔剣は「怪物」の名にふさわしい。


ゴロゴロと転がり、膝で立って止まろうとする翼刀。
だが、脚に力が入らずそのままズシャァと地面を滑って行ってしまった。

「どうした翼刀」

「!!!」

頭の上から、声がした。
瞬間、翼刀は一切の動作もなく飛び上がった。

身体を捻り、回転しながら浮き上がった翼刀は翔剣の肩に蹴りをブチ込み、そのままそこを軸に翔剣の背後に回る。

蹴りの一撃に、翔剣の上半身は若干ながらも崩れた。
大槍を警戒しながら、距離を一旦とらねば―――――


ガシッッ!!

「今の一撃はいい。だが、俺はまだお前に何も見せてもらってないぞ?」

翼刀の足が掴まれる。

翔剣は自分に背を向けたままだ。
その両腕も、怯んだようになったまま。


ならば、自分の足を掴んでいるのは―――――


「怪腕!!!」

「その通り」

翔剣の肩から、何かが出ていた。
それは、何度も言うようでしつこいが「衝撃」と言えるものだ。力場、と言ってもいいかもしれない。

だが、それは明確な形を持っていた。
まるで骨と皮かと疑うほどの細さだが、そこには明らかに第三の腕が、翔剣の左肩から翼刀の足へと伸びていたのだ。

第七奥義・怪腕。
歴代当主の中で、唯一の隻腕であった男の編み出した奥義である。



「墳ッッ!!」

「おァッッ!?」

その怪腕に掴まれた翼刀は、一回転されてから上空へと放り投げられた。
その後を追って空を駆ける翔剣。

脚から放つ衝撃は、反動で彼を空へと押し上げる。



「第六奥義・空歩。からの!!」

「!?」

「第三・第五、複合奥義―――――!!」


ドドドッッッ!!!

宙で自由の利かない翼刀に、翔剣の頭と両腕が叩き込まれる。

その三点から撃ち込まれた衝撃は、体内を駆けまわって一点で合流。凄まじい一撃を以って敵を沈める。
それこそが第三奥義・撃頭。

しかし、これは翔剣のみが行える複合奥義。

組み合わせたのは、第五奥義。その技の名は「五体壊体」
本来ならば一撃を以って人体の五か所以上を打ち、破壊する奥義。

それがこの「撃頭」と共に放たれたとすれば―――――!!!



「あ、やべ・・・・・」

ドドドドドドンッッッン!!!

「うごォアグゥッッッ!!!」


空中で奇妙な回転をしたのち、力なく落下して行く翼刀。
先に着地した翔剣の後方の民家に、翼刀の身体が落下、屋根を突き破って室内へと落ちた。


「全く手間を・・・・」

バキン、と玄関の取っ手を取り、鍵を破壊しながら中へと入っていく翔剣。
その様子を、唯子たちは黙って見ていた。

というか、結果的に黙っているしかなかった。


今にも飛び出しそうになるさやか、杏子、マミの三人を、背中から腕で抱えて止めていたのだから。

三人はまだ中学生だ。
救えるのなら、そんなしきたりなんか無視して乱入しても構わないという意気込みだ。

唯子も、行けるものなら行ってやりたかった。
がんばってと、そう言うだけでもしてやりたい。

だが、この場から行くわけにはいかない。
まだ翼刀は戦っている。戦いと言えるかは疑問だが、それでも戦っているのだ。

戦えてしまっているのだ。


唯子は翼刀の勝利を信じたい。
そしてその為に、彼女たちを止めている。

さやかたちを止めている唯子は、逆に彼女たちのおかげでこの場に止められている立場でもあるのだ。


勝ちを信じながらも、彼が倒れないと助けに行けない、と思うが故に「早く倒れて」と思ってしまう。

だから、彼女は歯を食いしばって口を閉ざす。
もし開けてしまえば、何を言い出してしまうかわからない。

そして、そうしながら徐々に、ゆっくりと、心の中から不浄を消す。

「早く倒れて。これ以上はもういい」
そんな感情を殺していき、「翼刀は絶対に勝つ」という意思で満たしていく。


とはいえ、それ以外にも理由はある。
この口を放したら――――

「ちょ、唯子さん!?なんで私はマント噛まれてるんです!?」

さやかが駆け出してしまうから、というのもあるが。



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「オラァ!!」

「ちょ」

「主!!!」

「手ェ出すなっての!!」

ビギィ!!


ネガ電王VS蒔風(with 我那覇響)


蒔風はこの戦闘に限り、決して自分の援護に七獣を使うことはなかった。

答えは単純。
街の人を守るためと、街そのものを守るためだ。



「おいおい、ちょっと拍子抜けじゃねェのか?」

「言ったろ、妥当なハンデだ!!」


突っ込んできた刃――――ネガエクストリームスラッシュの刃を、蒔風がバックステップで回避してから蹴り返す。

今の蒔風は、背中の翼の中に響を庇っている状態だ。
そこに放たれた、ネガ電王の必殺技。

刃が離脱し、振り下ろされた先は蒔風の真上ではなく響の真上に向かってだった。

いつもならば、前に飛び込み刃を回避できる。
そのまま武装を失った本体を叩けば終了だ。


しかし、今背中には響がいる。
もしも背後からあの刃が飛来してきたら、自分一人はともかく響が危険すぎる。

故に、回避はその刃よりも距離を取るためのバックステップしかないのだ。


ネガ電王は蹴り返された刃をデンガッシャーで受け止め、そのまま一回転。その間に得物をソードからガンへと変形させ、こちらを向くと同時に引き金を引いてきた。


その弾丸を畳返しで受ける蒔風だが、それは同時に、彼の視界を塞ぐことになる。
再び振るわれてきたエクストリームスラッシュは、きわどいラインで畳返しを回避し、その裏側にいる蒔風へと横に振るわれていった。


「うなぁ!?」

それをどうにかして、右上腕で受け止めてから上方へと弾く蒔風。
後ろに回していた右腕が、露出されてしまう。


ボコォ!!と言う瓦解音。
目の前の壁が破壊され、その向こうからロッドモードのデンガッシャーが突き貫かれてきたのだ。

それを掴み取り、目の前真正面ギリギリで停止させる蒔風。


「ギッ・・・つぅ」

「チッ、まだ死なねぇのか」

「それは御免こうむるっての!!」


突き出してきたデンガッシャーを引き、舌打ちと共に蒔風へと蹴りを放つネガ電王。
それを蒔風が左掌で受け止める。


ジャリ

「!?」

「貰ったァ!!!」

「しまッッ!!」

が、そこでネガ電王は左手で蒔風の手錠の鎖部分を握りしめていた。
そのまま身体をうねらせ、真上へとブン投げにかかるネガ電王。

瞬間


「ちょっとすまん!!」

「ぇっ!?」

声にならない声で、響が驚く。
蒔風は響の手をしっかりと握り、更に反対の手で鎖部分を握りしめていたのだ。


鎖を引っ張れる、ということは、蒔風だけでなく響の手首も引かれると言うことだ。
そしてその衝撃に、彼女の手首は耐えられない。

それを防ぐためには、彼女自身と、そして鎖にたるみを持たせるためにそこをも掴まねばならない、ということ。


「オラァ!!」

よって、なんの抵抗もなく宙へと放り出される蒔風。
ネガ電王は青龍たちへの牽制のため、周囲の建物へと破壊目的で無茶苦茶に銃弾を放ちながら、次の攻撃のためにライダーパスをセタッチする。



「手首、大丈夫か!?」

「は、はい!!大丈夫だゾ!!」

《full charge》


確認する蒔風。
しかしその体勢を整える前に、目の前に回転しながらデンガッシャーアックスモードが放り投げられてきた。


「やば」

パシィ!!

そして直後、それを掴みに跳躍してきたネガ電王が。
掴んだ瞬間、それを一気にエネルギーの迸りと共に蒔風へ―――――

「な!?」

「じ、自分か!?」

ではなく、響の方へと振り下ろした。

それを、蒔風が手首を引いて響を寄せた。
しかしそれを知っていたかのように、ネガ電王は軌道を逸らして今度こそ蒔風の方へ――――


「っと!?」

では、再びなかった。
今度は、二人をつなぐ鎖そのものへとその一撃を振り下ろす。


(ッッ!!果たしてこの衝撃に、この鎖は耐えられるのかどうかが問題!!耐えきれないならそれでいい。ブチ切れるだけ。だが、もし耐えたらどうする!?)

もしそうなれば猛烈な一撃で手錠は引かれ、最悪二人の手首が飛ぶことになる。

(それに仮に鎖が切れるとして、生半可なキレ方ではなく一発でズバンと行かなければ、結果的に鎖が切れたとしても手首は飛ぶ!!)

ならば、取る方法はただ一つしかない。


「ごめん!!」

「ひゃう!?」

蒔風は響を抱き寄せ、背中をネガ電王へと向けた。
そこに向かって当然、ネガ電王のネガダイナミックチョップがぶち込まれた。

翼を硬質化し、それに耐えようとする蒔風だが、その一撃は彼の神経に響き渡った。

「ギィ―――――ッッ!!」

だがそれでも何とか表面で滑らせ、直撃だけは避けた。
そのまま落ちて行ったネガ電王は、着地点を青龍たちに狙われては大変と、再び銃弾を周囲と、逃げ惑う人々と向けて発砲しながら着地した。


バサッ!!と翼を広げ、よろめきながらも宙に滞空する蒔風。
背中に響を回し、肩で上下させ荒く呼吸をしながら、眼下の敵を睨み付ける。


「テメェ―――――」

「おいおい、怒るのは筋違いだぜ?俺は言ったよなァ。悪には悪の戦い方があるってよ」

そう言いながら、街中を逃げる人々に向かってさも当然そうに銃弾を放つネガ電王。
それ自体は七獣によって防がれるが、だからと言って安心できる光景でもない。


「俺はお前だけを攻撃しねぇぜ。この街、この無力な人間ども。そのすべてが標的だ。その中で、お前を特別に相手をしてやるって言ってんだよ」

蒔風の顔が、より一層硬くなる。
しかし、その一枚めくれた先にはいったいどんな形相があるのか。


「ははは!!逃げ惑え無力な人間ども!!男も女も、ジジイもガキも、誰一人として安全だなんさ言わせねぇぜ!!」

パンパン!!ヴォンッッ!!

「これが悪の力だ!!いくっらお前らが正義の味方だヒーローだなんだ言ったところで、護れるものに限度がある!!悪にはそう言うものが一切ないからな!!」

銃弾だけでなく、指先から閃光、さらには刃を周囲へと振り回しながら、気分よさそうに叫ぶネガ電王。


「これが「悪」だ!!無事な野郎など一人もいない、安息も安寧もない、これが悪の世界よ!!」

街中を闊歩しながら、その範囲を広げていく。
その飛来する斬撃、銃撃を、龍虎雀武の四人は必至にガードしていき、獅子天麟の三人は先行して人々を避難させていた。

そのネガ電王の言葉に、蒔風が拳を握りしめ、歯を食いしばり睨みつける。
だが、何を思いついたのかいきなりプッ!と噴き出してい仕舞った。


「あ?」

「ふっ、いやぁ・・・なかなかにクズな理論だ。御高説どうも。だがネガタロス、最初にも言ったが悪だけの世界。そりゃ無理だよ、うん」

「・・・・なに?」

蒔風の言葉に、視線を上げて睨み付けるネガ電王。

それに対し、蒔風は再び人差し指を上げ、講師のように話し始める。


「さて、悪とは何か。悪とはすなわち「社会を脅かすもの」である。では、総てが悪に染まったら?我那覇君」

「えっ?えっと・・・・あ、悪い奴らが基準になるから、社会を脅かさない・・・か?」

「その通り。彼の言うシステムがまかり通る社会において、「悪」とは「良し」とされるんだ。つまり」

「もうそれは「悪」じゃない・・・ってことか?」

「ビンゴ」

そう言ってパチン、と指を鳴らして響を指す。

そしてどうだ?と言わんばかりに腕を広げてネガ電王へと不敵に笑った。


「悪の支配する世界。そりゃどうにも反吐が出るが、以外にも安定した世界だ。だけど、それはもう「悪」じゃないっての」

「・・・・・なるほど」

なにか反論があるか。
そう思っていた蒔風は、ネガ電王のあっさりとした納得の言葉に訝しげな表情をした。


「確かにそうだ。悪だけ、という世界はないな。ならば俺はお前だけ残そう」

「・・・・なに?」

「お前以外の全てを脅威にさらす!!お前以外の者を、物を、モノを!!総てを破壊し、蹂躙し、奪い尽くす!!!さて、先ほどまで頑張って守ってたみたいだが、ここらで俺も本気と行こうか――――!!!」

ネガ電王の宣言。

お前は正義として在るがいい。
ならば、お前の他の全てを悪の力でつぶして見せよう。

そう言って、ネガ電王は号令のように手を軽く上げた。
すると、その後方上空に時間の穴が現れる。


「まさか・・・・・」

「蹂躙するぞ。なに、おまえはとことん抵抗しろ。これが俺の、絶対に負けない悪の戦いだ!!!」


穴から飛び出す、ネガデンライナー。

戦闘車両が展開され、そこから現れるのは暴走したイマジン・ギカンテス。

牛型のギガンテスヘル
龍型のギガンテスハデス
飛行型のギガンテスヘブン

そこから出てきたギガンテス等は、本来そこから攻撃してくるユニットに過ぎない。
だが、今回は違う。


「お前らァ!!全方向全力展開!!!一体たりとも地上に降ろすなァ!!!」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」


蒔風の咆哮。
それに重なって、ネガ電王の高笑いが響き渡る。


ギガンテス等はネガデンライナーから飛び降り、地上へと向かってやってくる。

しかも一体飛び出したら、その後から控えていたかのように次から次に飛び出してくるのだ。


「ネガ電王の召喚はこれが目的か――――!!」

アーカイヴからサーヴァントとして、そこの人物を召喚するとしても元が英霊でない限り実力は知れている。
セルトマンによってステータスが上がっていたり地力が上がっている者もいるが、それでも勝てない相手ではない。

どれだけマスターとして優秀でも、セルトマンが自身に課したのは「召喚できるサーヴァントは一度に七騎」。
自身と、残ったオフィナ、フォンを加えても最大10人の勢力だ。


だが、このネガ電王の召喚ですべてが変わる。

イマジン暴走体・ギカンテス。
一体ならばまだしも、これだけ大量に、しかも一斉に呼び出されては、今の戦力では太刀打ちできるかどうか――――!!!



「さあ、焼き尽くせ、捻り潰せ、叩き壊せ!!護って見せろよ、その正義とやらの力でな!!」


巨大な体躯が、街に降り立つ。
青龍たちでは到底止められぬ、荒れ狂う力の嵐。

街が、真の脅威にさらされていく。




to be continued
 
 

 
後書き

・赤銅、まさかのござる。
・美鈴、バーサーカー・神奈備命との戦闘開始
・翼刀、フルボッコ
・蒔風、街を守りきれるのか!?


蒔風
「勘弁しろよ。無制限ギガンテス召喚とかもうムリゲーだろ!?」

無制限じゃないよ。
一種につき10~15体くらいじゃない?

まあ倒した分補充されていくだろうけど。

蒔風
「無制限と変わらないじゃないか!!」



クラウド
「アイエエ!?ござる!?ござるナンデ!?」

赤銅がござる口調。
これは最初から決めてました。たしかどっかのあとがきでもござる口調にしてたはず。
世界四剣で何する気でしょうかね?

ちなみに、彼女がもともと持っていた「破壊衝動」はなくなってます。
まあセルトマンによって「戦闘衝動」はありますが。



今回出てきたのも含め、これまで出てきた鉄流不動拳奥義一覧。

第一奥義・動不動拳
動不動の飛翔
動から放つ不動拳

第二奥義・非打手
非打手の翼
カウンター技・受けた攻撃の衝撃を相手に流す(撃ち込まれた同箇所へ、同時に六連撃以上を返すことで修得とする)

第三奥義・激頭
三手の風丸
脚から放った不動により飛び出し、頭・両手から放つ衝撃を心臓の一点に合わせる

第四奥義・五体壊体
五体壊体の飛走
送り込んだ衝撃を関節に的確に送る(五か所以上を同時破壊にて修得完了)

第五奥義・撃太鼓
空砲の大空
大気を打ち出す

第六奥義・空歩
空歩きの早雲
衝撃で空を歩く(100歩を越えて修得完了とする)

第七奥義・怪腕
隻腕・怪腕の空隻
肩から放つ衝撃を腕の形にして操る

第八奥義・不動送
不動送の山風
飛び道具(当時は弓)に不動拳を込め、着弾と同時に爆発

第九奥義・大槍
大槍の飛鳥
超ロングレンジの不動拳(800メートルを超えることで修得完了)

第十一奥義・流打
挟撃の鳥久
柔法。相手の攻撃を流し、後ろから襲わせると同時に自らも攻撃(三発以上を流し、背後に回り込ませることで修得完了)



修得、とか書いておきながら当代当主しか使えないと言う罠。
本人たちにしてみれば、受け継いでくれる人がいたらいいな程度だったんでしょうけどね。

まさか一人が全部修得するなんて考えもしなかったでしょう。


翼刀
「どうしてこうなった」

対して翼刀は動不動すらまだ打ってません。
そんな不動拳で大丈夫か?

翼刀
「大丈夫だ、問題ない」

まあ彼なりの考えもあるのでしょう。
ちなみに彼の技もすでに考えてあります。

ド派手に行きますよ、ド派手に。



唯子
「さやかちゃんのマント、噛んでたらなんかダシ出てきた・・・・」

さやか
「!?」

流石は人魚です。
マミのリボンは甘そう。



観鈴
「次回、純白同士の戦い!!」

ではまた次回 
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