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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第六章 Perfect Breaker
  手錠、熾烈、結末


今までのあらすじ

各地に散ったメンバーの戦い。


父に挑む翼刀。
母に挑むスバルたち。

飛ばされた「EARTH」(仮)では、ついに召喚された赤銅が、待ち構えていたクラウドと激突する。

そのころ、蒔風は一体どうしていたのかというと・・・・・



------------------------------------------------------------


蒔風が東京某所へと飛ばされてすぐ。
ネガ電王のデンガッシャーにより吹き飛ばされた車が宙を舞う。


コンクリートの大地に叩きつけられた車は、煙と爆音と炎をまき散らして爆発し、周囲の野次馬を散り散りにさせていく。

と、蒔風の脇に、二人の人影が着地してきた。

「・・・・主」

「なんとかキャッチしたーよ!」

「サンキューだ」

その青龍と白虎は、小脇と肩にそれぞれ―――家族だろう、壮年の男女と、二人の子どもを抱えていた。
あの一瞬のうちに、二人があの車から救出していたようだ。

かすり傷がないかどうかを二人がチェックyし、早く逃げるんだと促してその場を去らせる。


「さて、こいつの相手は簡単だ」

その様子を見て良しとしたのか、表情が柔らかくなった蒔風が人差し指を上げて、レクチャーするように語り始める。

「コイツと俺の力量の差。それはこいつも知っている。しかし、こいつがそれでも勝つ要因があるとすれば?」

「この街を巻き込んだ戦い方をするってことかな」

「・・・・道理ですね」

「うむうむ。だがそんなゲス行為は絶対に俺は許さない。つまり、俺はお前らに―――――」


《full charge》

ドォッッッ!!!


完全にそちらを無視していた蒔風。
その蒔風に腹が立ったのか、それとも隙ありとして攻撃したのか。ネガ電王のネガワイルドショットの光弾が、蒔風の背中に命中した。

青龍と白虎はその場から跳び退いて回避し、一泊置いて蒔風も爆炎の中から飛び出してくる。
背中には、それで受けたのだろう。プスプスと煙を上げる獅子天麟が背負ってある。


宙の蒔風がにやりと笑ってネガ電王の方へと視線を向け、そのまま頭、というか、上半身を思い切り振った。

すると、その勢いに乗って獅子天麟の三本が鞘からすっぽ抜ける。
当然、その刃の向う先はネガ電王。回転しながら向かってくるそれを、ネガ電王は一撃目を剣で、二撃目を回避してやり過ごす。

そして三撃目が着弾するタイミングを見計らい、蒔風がビル壁を蹴って突進していった。



ネガ電王は剣を回避しようとして動くだろう。
だが、剣の着弾とネガ電王の回避。その刹那の隙間を縫って蒔風は着地し、剣を取って直接切り伏せる算段なのだ。

回避行動の直後であろうネガ電王は、防御も間に合わず直撃、というわけだ。


しかし、蒔風のその作戦は見事に破られる。
見事というには、すこし呆気なさすぎる方法で。


何が起きたのか。簡単なことである。
ネガ電王はそこから回避ではなく、こちらへと向かってきたのだから。

「ぉおう!?」

剣を紙一重で回避し、蒔風へとデンガッシャーを突き出してくるネガ電王。


(なんてこった・・・・地力が上がってやがる。だがまだ)

だが、まだ対応は間に合う。
今からならネガ電王の剣を受け、叩き落とすこともできよう。


「行けッ!!」

しかし、この相手は蒔風にとって相性が悪いのだろうか、それとも蒔風の運が悪いのか。
ネガ電王は、デンガッシャーソードモードの刃の部分を、切り離して射出してきたのだ。


「うぅえ!?」

仮面ライダー電王ソードフォームでの必殺技、エクストリームスラッシュ。通称「俺の必殺技」では、確かに刃が剣から離れて敵を斬る。
故に、同型の武器を有するこいつが、それをフルチャージ無しでそれをやれたとしても別段驚くことはない。無いのだが――――


「あっぶな!!」

蒔風にとっては不意打ちだ。

腕に天地陰陽を顕現させ、抜く暇はないので腕をクロスさせて鞘で受け止める。

チャリ、と何か鎖のような音がしたが、それを確認している暇もない。
さらには刃で服に切れ込みが入るが、それ以上に気にしなければならないのが――――


「クソッ!!」

受け止めた刃は、宙に浮く蒔風の身体を押し込んでいきそのままビルへと激突させるだけの勢いで突っ込んできているのだ。
普段ならそのまま行きそうなものだが、蒔風は必死になって身体を捻り、ビルを回避した。


僅かに軌道は逸れ、蒔風はビルの隙間を通って一本向こうの通りへと。


ドゴォ!!

「うプ―――ッは!!」

背中からタイル張りの歩道へと落ち、一瞬呼吸困難になりながらも起き上がろうと地面に手を着く。

頭を振って正面を見据えようとした瞬間、そこにネガ電王の追撃が。


離れた刃は剣の柄へ。
しかし飛んで行ったのは刃ではなく、逆にネガ電王の方からこっちへと突っ込んでくる。


「あー・・・・(こりゃぁモモじゃやれそうもない芸当だな)」

相手のやり方に、ほんの少し感心しながら蒔風がその場から跳ね起きて、大車輪のように離れていく。
その瞬間、蒔風は自分の右手首を見た。


「あ?」

手錠だった。しかもよく見るとこれは「EARTH」や時空管理局で使われるような強力なものだ。
強力、とはいっても本当に重犯罪人に使われるような「肘から先をガッチリホールド」するタイプではなく、普通に輪っかと鎖で構築された、見た目はなんの変哲もないものだが。

だが見た目に騙されることなかれ。

この手錠、結合によって能力者などが増えたこの世界での治安維持のために警察や時空管理局、「EARTH」が共同開発した超特製手錠なのだ。

恐らくネガ電王は「EARTH」内部から失敬してきたのだろう。
それを剣に引っ掛けて飛ばし、蒔風の手首に掛けたのだ。


と、そこに

「ハム蔵~~~~~!!!」

「んなぁ!?」

「あ、あんたは「EARTH」の・・・・・」


側転の回避から、一気に距離を取った蒔風のもとに、曲がり角の向こうからなんと――――我那覇響が現れたのだ。
どうやら彼女たちの事務所は近くらしい。そこからハムスターのハム蔵が、この戦いを察知したのか、逃走、そのまま外へと出て行ってしまったらしい。


「なんでだよ。外の方が危ないだろ・・・・・」

そう悪態をついても、相手はハムスターだ。言ってもしょうがない。
ハムスターは見つけたら必ず捕まえるから避難してろと伝え、後から来る数名の少女たちにも怒号を上げて「こっちくんな」と手を振る。


「ちょ、「EARTH」の人?!」

「後からドンドンくるなよ!!玄武、朱雀!!連れてってくれ!!」

だが、好奇心は猫をも殺すと言う。
行けと言われて素直に行くほど人間は賢くもなければ、曲がり角の向こうにうある脅威にも気づかない。


当然、その隙にネガ電王が蒔風の背に銃口を向けて発砲してきた。
蒔風はとっさに曲がり角の向こうに玄武と朱雀を乱暴に押し込み、こちらに半分身体が出ている響の右手を左手で引いた。


「こっち!!」

「うわぁ!?」

ネガ電王の凶弾を回避し、そのまま左手で響を引いてビル影に隠れる。
後はこっちに青龍あたりでも呼んで、彼女を託せばいいだけだ。


「な、なにが起きてんだ!?」

「落ち着いて。建物の中にいれば安心だ。すぐに事務所の方に返すから・・・・」

そう言いながら、蒔風は右腕を隠すように後ろに回す。
当然、そっちに手錠が引っ掛かる場所はない。


「?右手、どうしたさ」

「ん?いや、手錠を中途半端に掛けられてね。これで右手出して見ろ。これ絶対どっかに引っかかって苦戦するパターンじゃん?フラグじゃん?」

ほれ、と蒔風が注意しながら右手と、その手首にぶら下がる手錠を見せる。
それを聞いて、響は


「漫画の読みすぎだゾ・・・・」

「いやいや、こういうのは案外バカにできないもので・・・・ん?」

「ヂュッ!!」

「あ」

そこで、右手の上に何かが飛び乗ってきた。
大きさは手のひらサイズ。色は白と黄金色。ハムスター、と言われれば想像するであろう姿のそのものだ。


「・・・・・これ?」

「これ!!」

いきなりの闖入者に唖然、思考、そしてこれがさっき言ってたハムスターかと思い、来てみたらズバリそうだった。

響は「どこに行ってたんだハム蔵!!」という勢いで、逃がさないようにガシッ!!と掴んだ。
隙間があると逃げられるので、半ば蒔風の手も掴むように。

その勢いは、蒔風の手を揺らし、手錠の鎖を大きく揺らさせるだけのものがあり―――――

カチャリ



「うえィッ!?」

「え・・・あれ・・・・嘘でしょ!?」

「俺が言いたいわそんなもん!!」


「見つけたぜ、逃がすかよッッ!!」

ドンッッッ!!!


思い切り狼狽し、やり場のない咆哮をウガーーー!!と叫びまくる二人。
そこに、ついにこちらを見つけたネガ電王が、白虎と青龍を振り切って突っ込んできた。


それを蒔風が響を庇うように抱え、背を向けて跳躍する。
ビルの中へといったん入り、壁を蹴って反転、ネガ電王の脇を通って何とか外へと脱出に成功した。



「ブハァッ!!!」

「う、うわわわわわ」

溜めこんでいた空気を一気に吐き出し、ジト目に汗だくになって「ど~しよこれ」と力なくつぶやく。

その隣に、青龍と白虎が短く謝りながら着地する。
それは良いからと手をひらひらさせ、ハム蔵を青龍に預ける。


蒔風は、焦りながらもこの状況を冷静に推考していた。

青龍たちでも、ネガ電王を倒すことはできるだろう。
だが、それではこの街が無事に済むかどうかの保証はきかない。

青龍たちがどうのこうの、ではなく、ネガ電王が。こいつがそれこそ滅茶苦茶に暴れたら、いくら彼等でもカバーしきれないだろう。

ならば、配役を限定させなければ。
というか、そもそもそれで考えていたのだが、ここにきて負担が大きく――――


(いやぁ・・・・そう言う考えはやめよっか)

そこまで考えて、響をちらりと見て蒔風はいったん思考を打ち切る。
確かに戦いの場においては負担だろうが、そうは考えたくない。

無論、甘い考えだ。
普通なら邪魔だと考えてもいいものだが、人がいいと言うかなんというか。

知り合いを「邪魔だ」なんて、一瞬でも考えた自分に嫌気がさして少し気落ちしてしまう。


「ま、頑張るだけさね・・・・」

「ん?どうしたんだ?」

蒔風は響に向き合う。

以前のライブでこういったことに巻き込まれたからか、彼女は存外ケロッとしている。
それとも、まだ危険度の大きさを理解していないだけか。


「ん~、でもそっちの近くにいた方が安全だと思うし」

「さいですか」

存外、アイドルの胆って据わってんのな。
その感想を胸に秘め「はは・・・」と笑う蒔風。



「集合!!!」

ザッッ!!

号令と共に、動き回っていた七人が蒔風の元へと集まる。
攻撃よりも街の守りや避難に力を割いていたからか、多少の傷が見られるがまだまだ全員五体満足だ。


「龍、虎、雀、武は俺とネガ電王を中心に、一定距離で四方に散ってろ。街の建物から道路の舗装まで、何一つとして破壊させるなよ!!」

「「「「応!!」」」」

「獅子、天、麟の三人は、俺たちが向かう先での避難誘導!!内、天馬、麒麟は先行、獅子を殿にして進め!!」

「「「御意!!」」」

「自分の持ち場で間に合いそうになかったら臨機応変に場所回してローテーション!!!コイツの相手は―――――俺がやる」


蒔風の指示通りに、七人の従者が動き出す。
そしてバサァ、と開翼し、蒔風が右手を後ろに回す。


「翼の中に。掴まってな」

「な、なんくるないさ~!!」


「右手の使えない状態で、一体何ができるってんだ?なぁ」

「何を言うか。お前にはこれくらいでちょうどいいハンデだ」

「ハンデにしちゃあ、なかなかのお荷物」

クックと笑いながら、響を指して笑うネガ電王。
だが、それに対して蒔風も笑う。


「マジお前嫉妬乙だわ」

「あ?」

「手錠二つでも良かったんよ?両手に花になったのにさ」

「ふざけてんのか」

「前向きなだけ」

「ああそうかよ!!!」


イラついた口調で、一気に突っ込んでくるネガ電王。

デンガッシャーはロッドモード。
肩に引っ掛けて、脇の下を通し回し、その先端を蒔風に向けてくる。

対し、蒔風は徒手空拳。
右手を後ろに回した状態で、掌を盾にし、斜めに向けてそれに応える。


「絶対に勝つ、悪ってのを教えてやるよ!!」

「おっと残念・・・・「悪」よ、そりゃ無理な話だぜ・・・・!!!」



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ズシャァ・・・・・

「クッ・・・・強くなったわね、ギンガ、スバル・・・・・他の子たちも、大したものよ」

「そりゃそうよ・・・・ッ、スバルってば「エースオブエース」が師匠なんだから・・・・」

「そう・・・管理局のエース中のエースに・・・」

「しかもその時にとんでもない人にも教えてもらっちゃってて・・・」

「さっきの振動拳ね。体の芯から壊されるかと思ったわよ」

「私もその時のスバルに負けちゃって・・・ホントに強くなったんだ、この子も、私たち・・・・も・・・」


ガシャンと、ディエチのイノーメスカノンが落ちる。
その砲身は、まるで重機に叩かれたかのようにひしゃげていた。

ガラリと、ウェンディのライディングボードが崩れた。
一枚は粉々に、もう一枚は遠くの方で、左右に真っ二つに裂かれていた。

バチバチと、ノーヴェのジェットエッジが火花を上げる。
ブースターが振りきってしまったのか、もうそれが稼働することはない。

バラバラと、チンクのスティンガーが散らばる。
本来なら敵の眼前で爆発するはずのそれが、彼女のマントの中から落ちた。

ゥウウン・・・とスバルのリボルバーナックルが、悔しそうに回転音を鳴らしてから沈黙する。
マッハキャリバーのローラーは、左二個、右三個がひしゃげるなり破損するなりで使い物にならない。

それら些細な機械音を除き、ナカジマ家の姉妹の中では唯一。ゼェゼェと、ギンガの荒い呼吸だけがしていた。


掛け値なしの全力一斉攻撃。
その中を、臆することなく突撃してきたクイント。

チンクやノーヴェ達は、かつて地下道で蒔風と対峙した時のことを思い出す。
なんであろうと「本物」を前にして、自分たちの経験の浅はかなことを。

その武装の、なんとちんけなことか。
五体を武器と化した達人の前に、握った武器は鉄細工と何も変わらないことを実感した。

スバル、ギンガも、大して変わらない。
彼女たちもその修練と経験によって、確かに並大抵の強さではなくなっている。

だが、相手の力量はそれを上回った。



五分前。

初めて見た攻撃を、その場の判断で回避してきたクイント。
嵐のような砲撃、爆破、砲弾の中を、一切の怯みも躊躇もなく、身体を低くして一気に駆け抜けてきたクイント・ナカジマは、即座にイノーメスカノンを掌拳にて破壊。

そのままディエチを蹴り飛ばし、脚が地につくと同時、チンクへと反対の足で後ろ回し蹴り。
チンクの身体では受け切れないと、彼女の前に投げ込まれたライディングボード。しかしそれを粉々に砕き、チンクもろとも吹き飛ばした。

直後、ジェットエッジのブースターで一気に駆け抜けてきたノーヴェと正面からぶつかった。
手四つで組み合い、挑戦的な顔でそれを受ける両者。

その隙に背後からライディングボードに乗ったウェンディが襲い掛かる。「バカやめろ」とノーヴェの口が動くが、間に合わない。
クイントは腕の力を一瞬で爆発させ押し込み、ノーヴェの足―――ジェットエッジのブースターを一発で押し潰した。

トンっ、と軽くノーヴェを押し退け、その一瞬を利用して振り返りながらその勢いで手刀一閃。
縦に振り下ろされたそれは、ライディングボードを易々と割り、ウェンディの肩と首の付け根の間にめり込んだ。

メキメキと彼女の身体を地面に沈め、そのまま一回転。
振り抜いた手刀は、押し退かされ再び向かってきたノーヴェの横腹にめり込み、吐血と共に吹き飛ばす。


「全力全開――――!!!」

「!?」

「IS発動―――振動拳!!!」

「ガッ・・・・・ァ!!!」

ズンッッ!!!


世界が、二重三重にブレた。
その一撃にクイントが苦悶の表情を浮かべ、歯を食いしばってそれに耐える。

だが、彼女の振動拳はそれだけではない。
体内の衝撃を残したまま、更にクイントの身体を吹き飛ばしていく。


「グッ・・・ぁあああ!!」

一瞬だけフッ、と身体が浮き上がり、その後に身体が一気に吹き飛んでいく。
まるで重力がイカれてしまったかのように、物凄い勢いで。


そして、スバルの額からブシュッ!!と血飛沫が。

振動拳の一撃の刹那。
あの一撃の内に、クイントの四肢はスバルの正中線三点。そこにそれぞれ三発ずつ叩き込んでいたのだ。

なんという手の速さと重さだろうか。
しかも、クイントにはIS振動破砕が流し込まれていた。

それはスバルの身体にも浸透し、戦闘機人である彼女には本来以上のダメージが襲い掛かったのだ。

正真正銘痛み分け。
ズシャリと膝から崩れて倒れるスバル。


一方、吹き飛んだクイントは民家には激突しなかった。
上へと湾曲させたウイングロードを自分の背後に向かって展開し、その上を滑って行ったのだ。

だがそれだけで、この場は精いっぱいだったのか、その後の足場の形成はまだされていない。
ポーンと宙に投げ出された彼女の身体は、今度は本来の重力に従って落下して行く。


そこに、ギンガが突っ込んでくる。
ウイングロードを伸ばし、ブリッツキャリバーを駆り、一気に。

ドリル状のように回転させた手首を振りかぶり、ISと共に閃光のような速度で放つ。
それはスバルの物と比べれば、練度は粗削りだが、その分の威力は十二分。

クイントがウイングロードに落下するのと、自分の到達時間は同時。
その相手は受けることも躱すこともできない―――――


「ッッハァ!!」

はずだった。
クイントは身を翻して、ウイングロードスレスレで体勢を整えて着地。

突き出されてきたギンガの拳を真正面から握りしめた。

流し込まれるISに腕の中の血が荒ぶり、筋肉の筋が断裂しながらも、決してそれを離さない。
するとどうか。回転している者を掴み、それが止まった瞬間、何が起きるか。

その回転はギンガ本人へと作用する。
脚が浮き、瞬間、手首の回転速度と同等の速度で回転する視界。


クイントがパッ、と手を離すと、そのままギンガは地面に向かって勝手に突っ込んでいった。
ウイングロードは消え、五メートル下の地面へと着地するクイント。


「・・・・セット」

ガォン!!と、クイントの足の下に敷かれる青き道。

着地した彼女の足の下に、ウイングロードが走り込んできた。

振り返ると、そこには再び立ち上がって来たスバルがいた。
足場形成のこの固有魔法を、地面に敷いて意味があるのかと一瞬疑問に思うクイント。


ギッ、ギッとアームブル(胸の前で腕をクロスさせるストレッチ)をしながら、クイントへと向き合うスバル。

その顔は若干うつむき気味。表情は伺えない。
だが流れてきた血を掌で拭き、その手を上げて行って髪をかき上げるように顔も上がった。

そして、指の隙間から――――


ドクンッッ!!

「!?」

クイントは、その視線にある種の狂気を感じた。

今ここには、親子の情などは存在しない。
あるのはただ「目の前の敵を倒す」という、ただそれだけの行動原理のみ――――!!!


黄色に輝く瞳が、まるで魔眼であるかのようにクイントの身体を射抜いている。
そして、クイントもまたそれに中てられてボルテージが最高潮に上がった。

ここにあるのは、親子の対決というよりも、そう

ただ「どちらが強いか」を競うだけの、純粋な格闘者がいるだけだ。


「来なさい、スバルッッ!!」

「ウオオぉォォォオオオオオオ!!!」

ダンッッ!!と、スバルの右掌が、ウイングロードに叩きつけられるように降ろされる。
リボルバーナックルからカートリッジが二発排出され、ウイングロード上の魔法陣が、一つの指向性を持った形に変わってく。

リボルバーナックルのシリンダーが煙を上げて解放され、まだ魔力の残った四発のカートリッジをも落とす。
そして六発のカートリッジセットを取り出し、そこに装填して準備が整う。


「ウイングロード・ベクトルスターター――――往くよ、マッハキャリバー!!!」

《OK,my buddy.Ready》

ガシュガシュガシュガシュガシュガシュゥッッ!!!

「《GOォッッ!!!》」


ドンッッッ!!!


一気に駆け出していく―――――否、あれは駆けだすと言うよりは、そう、まさに

「砲弾―――――!!!」

スタート地点足元の、山折りされたかのようなウイングロード。
そこから敷かれた、速度強化のベクトル魔法。

そして、この一撃にすべてを込める、最大限の六連カートリッジ!!!


相手はすでに、少女ではない。

一つの砲弾。
一つの拳。

敵を倒すことのみを目的とした、ただ一つの力の塊!!!



「リボルバーナックル、フルドライブ!!!」

AIを搭載しないクイントの両拳のそれは、一言たりとも返事をしない。
その変わり、主の命に忠実に従う。

右に六、左に六。
左右合わせて計十と二発。

搭載されたカートリッジ。その全てを吐き出して、回る廻る魔力の渦。

「ォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

駆け出すクイント。
戦闘機人を相手に六人。しかして彼女は「たかが生身の」陸戦魔導師。

それを圧倒し足らしめるのは、数え切れぬ鍛錬か、フロントアタッカーとしての矜持か。それとも、ブレイカーとしての能力か。

しかしそれをして、この一撃を間違えばクイントは間違いなく粉砕されよう。


だからこその両拳。だからこその全力。
娘相手に、この拳は向けられない。

そこにいるのは、困難、障害をブチ破り、先へと進もうとする人の意志。
だとすれば、娘だと言って手を抜くにはあまりに無礼。全身全霊で当たるが礼儀―――――!!!!


「行 く ぞ ぉォォォオオオオオオオオ!!!!」

「ッッッ!!!」

スバルの雄叫びに、クイントがついに仕掛けに出る。

右と左の拳を渦巻く魔力の渦を、拳を合わせて一つにまとめる。
左右合わせて一つとし、スバルの拳を真正面から打ち砕く。

右拳、左拳をそのまままっすぐに揃え、唸る双拳は少女に向かい――――


ガクンッッ!!!

「な!?」

だが


それは止まった。
一瞬だが、確かにとまる。拳ではない。彼女の身体がその場で止まる。

「あなたたちは・・・・・!!!」

「へっ、最初に言ったろ。あたし「たち」が相手だってよ!!」


クイントの足に、腕に、胴に、首に。
しがみつくのは、すでに地に伏せていたノーヴェ達。

腕にチンクが、脚をノーヴェが、胴をウェンディが。

そして首には

「ハァッ!!」

ゴキィッ!!!

「ンごっ・・・・!?」

しがみついて、だけでは止まらない。
ギンガの飛び廻し蹴りが、クイントの後頭部に振るわれる。

一瞬だけ、クイントの身体が止まった。


しかし、良くある話―――――
傍から見た光景とは裏腹に、一瞬の攻防にも当事者たちはそれよりも長く時間を感じる。

そう。
当人たちにとっては一瞬でも実際の時間は“もっと短かった”


バンッッ!!

「ウゥッ!!」

「アガッ・・・・」

「はゥ――――ッ!!」

しがみついた彼女たちは、一瞬どころか刹那の時ですら彼女を止められなかった。
おそらく、はたから見てこれによってスバルの一撃が入りやすくなった、なんてことは絶対にありえないだろう。


だが、それでいい。
実際に刹那の時であろうとも、彼女たちにとっては十分すぎる一瞬だった――――――


「スバル!!!」

蹴りを放ったはずのギンガの方が吹き飛ばされると言う、あまりにもデタラメなパワー。
だが彼女は一瞬のうちに、スバルへとそれを投げることに成功していた。


ガシッッ!!

「そ、れは・・・・・」

ガシュガシュガシュガシュガシュゥッ!!

再び装填され、“左手から”弾き出されるカートリッジ。

「リボルバーナックル―――――!!!」


ギンガから託された、左手用のリボルバーナックル。

すでにこちらに突き出されていた右手を左手が追いかける。
その最中にカートリッジは装填され、スバルの双手が左右揃う。


ここにきて、両者とも条件は全く互角。


両者共、両拳にはリボルバーナックル。
両者共、その身に一度の振動破砕。
両者共、双手合わせて十二発。
両者共、構えるは両椀合わせて一つ。

そして両者共――――同じ血を持つ親子。


その両者にして、一つの違いと言えば―――――


「これは――――!?」


クイントの双拳。左右に揃え、構えられた両拳。
対してスバルは、掌を合わせた合掌の型。

寸分の違いも許さず、正面から衝突する両者。
突き出されたクイントの双拳は、自身の速度と相手の速度の相乗効果をまともに喰らう。

一つにされたはずの拳は、その綻びから左右へと分け裂かれていく。
左拳も、右拳も、その猛烈な唸りを上げる魔力の竜巻ですらも。一切の傷をこれ以上与えることなく素通りしていく。


双拳を引き裂いた合掌は、そのままクイントの胸へと飛び込んでいく。
そして指先がたどりついた瞬間、拳へと形状を変えていった。

叩き込まれる双手振動拳。
ドォッッッ!!!という凄まじい音がした。


―――――両者は止まる。

クイントもスバルも、そのままに。
この光景一枚だけならば、腕を広げて胸に迎え入れる母と、そこに飛び込む娘にしか見えない。

そして、先にスバルが崩れる。


膝から落ち、フッと意識を失って、他の姉妹と同様に、地面に。

それをクイントの掌が受け止めた。
そのままクイントも膝からぺたんと座り込んでしまい、膝の上にスバルの頭を置いて手を乗せた。


唯一意識の残ったギンガが、ヨロリと立ち上がって母へと語る。



それを見た者は、それを「激闘だった」と語るだろう。
それを聞いた者は、それを「死闘だ」と言うだろう。
この場を後になって訪れた者は、それを「熾烈だった」と推察するだろう。

確かに。
ここで起こった事は、それに相違ない。

しかし、その前と後。
そのわずかな時間が、こんなにも穏やかな親子の時間だと思うものは、この場にいる者を除いて誰一人としていないだろう。


ギンガ、と母は娘を呼んだ。
なに?と娘はそれに答える。

「お母さん、スバルがいるから動けないんだ・・・・だから」

「―――――――・・・・うん、うん・・・・わかったよ、お母さん」



そして




「ん・・・・」

スバルは意識を取り戻した。身体を起こす。身体が痛むが、休んだおかげか一応動く。

とても懐かしい夢を見ていた気がする。もう思い出せはしないのだが。


あの戦いからどれだけ時間がたったのかはわからないが、腹の具合からして一時間もたっていないだろう。

そこで、ハッと思い出す。
母は、一体どうなったのか。

座ったままの彼女は振り返った。


そこにいたのは、自分の姉や妹達。

たしか、あの攻防の中で吹き飛ばされて皆バラバラに倒れていたはず。
その少女たちが、頭を中心に向け、まるで“そこにいた誰か”を囲むように眠っていた。

“そこにいた誰か”の膝や身体に頭を当て、枕にして寝ていたかのような。


唯一、ギンガだけが座っていた。
少女たちの中心から、ちょうど一人分横にずれたところで、座り込んで眠っている。
さっきまで、何かに寄りかかっていたかのように。


「――――――」

声が出せなかった。
出せば、全部――――なくなってしまう気がした。


でも、そんなことはない。

頭を触れる。
そこに、あるはずのない体温を感じた。自分の物ではない、別の熱を感じた。


確かに、ここにあの人はいた。
そして最後に、自分と一緒に――――――

「ありがとう。お母さん―――――」

雫がこぼれる。
音もなく。

いまこの時間を、光景を、一瞬でも長く留めていたいから。
少女は音を出さずに涙をこぼした。




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ハァ・・・・・・



感動だ。
感動的だ!!これを感動と言わず何を言うか!!

嗚呼、やはり知るだけでは物足りない。


この目で見てこそ、真の情景
この耳で聴いての、真の音響
この肌で感じての、真の実感

そうだ、これは感動的でなければならない。

お前の最期も、実に感動的だ!蒔風舜!!
思わずその場面に手を伸ばしてしまいそうだ・・・・・

その光景を見たいがために、私は自らを犠牲にしたい!!


だがダメだな。
そればかりは望めない。

私は順序良く、正しい道順で進むとしよう。
何を仕損じて失敗するかわからないからな、これ。



次の召喚はバーサーカーだな・・・・



残念だ、蒔風。
俺は最期を読んだぞ。


お前の最期は―――――――




「悦に入っているところ悪いが、お前のキャラじゃないだろ、それ」

「・・・・・・・・・」

「EARTH」ビル前。

右手を胸に当て、左手を上へとかざしているセルトマンの背中に、ショウが呆れながら突っ込んだ。

ピタッ、と止まるセルトマン。
フッ、と笑ってから顔を真っ赤にして


「わかっていても恥ずかしい・・・・」

「旦那!!」

「わー!!だいじょぶ!?」

膝から崩れた。


アホなことを、とため息をつくショウだが、魔導八天の二振りを左右それぞれに握ると、オフィナとフォンが意識をこちらへと向け構えた。
この臨戦態勢への入りの速さは恐ろしい。だが、ショウが悪魔で睨み付けるのは、アーヴ・セルトマンただ一人。



「どんなにアホなことだろうと、どんなに愚かなことだろうと、お前はそのレールを踏み外せない」

ピク、と
ショウの言葉に、セルトマンがわずかに反応する。


「アーカイヴに接続ってとこから、考えてはいた。なにもアーカイヴに連なる原典の時間軸は、現在と同じとは限らない」

「・・・・・・・・」

「どこまで見た?どこまで見れる?そんな質問に意味はないだろうな。アーカイヴを見れる男が、“敗北の結末”を知って挑んでくるわけがない」

「賢しいな、先駆者」

「あ?」


ゆら、と立ち上がるセルトマン。
振り返る彼の表情は、つまらないものを見る目だった。


「・・・・・まあそんな目にもなるのは解るそりゃぁ」

「「すでに何度も見た物語を、無理矢理見せられているんだからな」かな?」

「ッ!――――なるほど、これも予定調和ってわけかよ」

ショウのセリフに、完璧にかぶせてくるセルトマン。
ヒラヒラと手を振って、実にめんどくさそうに口を動かす。


『あなたのことは先輩として非常に尊敬していますよ』

『先輩とはどういうことだ』

『世界を破壊し、それでなお消えぬ自己。おお、それこそ俺が証明したい完全じゃないか!!?』


自分とショウの、二人分のセリフを吐くセルトマン。
ショウは驚く。まさしく、彼のセリフの後に言おうとした言葉を丸々言われてしまったのだから。


「だけどね、あまり細かい描写はされてないんだ、これが」

「なに?」

「セルトマンが何々を召喚、だとか、どうなったのはあるんだけどね。その詳細な内容はないのだ、これが。困ったことに」

「・・・・・なるほど。つまりそこに書かれているのは、所々の描写はあれども、端的な内容しかないわけか」


そう。
セルトマンは確かにアーカイヴに接続し、その内容を把握している。

しかし、アーカイヴにもしも筆者というべき存在がいるのならばそれはそれはヘタクソの三流筆者なのだろう。


文章は全部「何々と何々が戦って、何々が勝った」「こうなった」「ああなった」という形ばかり。
台詞はあるが、気が向いた時に時どき書いているだけ、という程度。



だが、そこにあるのは紛れもなく

「そこにあるのは真実だ。ショウ。君がここに来るのも、この戦いのこの状況も」

「それはまずい。それでもお前が出てきたってことは、俺達は負けるのか?」

アーカイヴにある以上、それは運命と言ってもいい。
しかし、それを知ってなお「知ったことか」と挑発的な笑みをして聞き返すショウ。まるで「やってみろよ」と言わんばかりだ。


だが、それに対してセルトマンは表情を暗くする。
思っていたのよ異なる反応に、ショウが若干顔をしかめた。


「残念だけど、俺は蒔風に勝ててはいないんだ」

「・・・・・・なんだ、じゃあ」

「だが蒔風も俺には勝っていない」

「なに?」



セルトマンは語る。
その物語の、この戦いの結末を。

「俺と蒔風は、最後まで凌ぎを削り合った。それは物凄い戦いらしい。てか「物凄い戦いだ」ってしか書いてないんだけど」

話を、ショウは黙って聞く。
そして、最後の一文。


まだそこに至る前に、セルトマンはそれを告白《ネタばれ》した。





アーカイヴより抜粋


アーヴ・セルトマンと蒔風舜は、この世界から姿を消した。
そして、彼らが帰って来ることは、もう二度とありはしなかった




to be continued
 
 

 
後書き

まさかの第六章相撃ちエンドと判明!!

蒔風
「マジかよ」

マジマジ。
セルトマンの力の大元がわからない以上、お前に彼は倒せないよ。

セルトマンを巻き込んで、蒔風は何処かへと消えてしまう。
そんなエンドです。


ですが――――
それは本当に未来なのか、という。

アリス
「アーカイヴにあるなら・・・・」

原典はあくまでも原典ですよ。ふふ。


アリス
「うわ、悪い顔」

伏線は張ってある。
さあ、気にせず戦うがよい!!

ショウ
「ってか前回の次回予告の内容、回収しきれてないぞ?」

アリス
「舜のは開示されてますが、赤銅のとフルボッコ、って言うのが全然ですね」


ああ、それですか。
武闘鬼人にはよくあることです。


というか、クイントさんのシーンが思ったより長くなった。

プレシアさんみたいに気付いたら終わってた戦闘にするつもりが、ガッツリ書いてしまっていたんだ!!!な、何を言っているかわからないかもしれんが、俺にもわからん。その場の気分だとか、そう言うのじゃない、もっと恐ろしい何かを感じたぜ・・・・・


ハッ!!これが世界からの情報受信!!
じゃあしょうがないな。


次回こそは、赤銅のシーンを!!!
書くぞォォォおおおお!!!

そして翼刀の方もチョイチョイですね。



時に――――こうやって各場所を切り取って、バラバラに描写するのと、一か所の戦闘ずつを、一つずつ一気に描き切って言った方がいいんでしょうかね?

まだまだ学ぶことは多いなぁ。


では、また次回 
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