世界をめぐる、銀白の翼
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第六章 Perfect Breaker
極と暴走
これまでのあらすじ
大聖杯によってサーヴァントを召喚するセルトマン。
その従者が二人、サーヴァントも二騎消失したにもかかわらず、未だ彼は余裕の表情を崩さない。
召喚される者から、大聖杯の接続は「英霊の座」ではないことを確信する蒔風。
しかし、ならばどこに接続されているというのか。
そして激戦に揺れる「EARTH」の敷地外で、セルトマンが新たに召喚したアサシン:朝倉涼子の手が、再びキョンの命へと伸ばされた――――!!
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「コイツが宇宙人?」
「そう」
半信半疑気味に聞くユウスケ。
彼の眼には朝倉涼子は、ただの女子高生にしか見えていないのだから当然と言えば当然だ。
しかし、目の前の彼女は間違いなく情報統合思念体から遣わされた者であり、今は大聖杯によって召喚されたサーヴァント・アサシンだ。
それを表すかのように、本能が伝える目の前の脅威に対する警鐘だろうか。ユウスケの額を冷や汗が伝った。
「でもさ・・・アサシン、って言うからにはお粗末だったな」
「そうかしら?」
「ああ。舜の話だと、お前らって気配遮断が出来るんだろ?その割にはあっさり見つかったよな?」
「しょうがないでしょ?私は隠れ潜むタイプじゃないんだから」
いかにも委員長然とした態度で教えてくれる朝倉。
手に持っているエモノさえなければ、そっか~、と朗らかに返せるのだが。
「私はね?日常に溶け込んで、相手が油断したところを一気に自分のテリトリーに引き込むの」
そう言って、ナイフをポーン、と上に放る。
「変身して」
その動作と共に長門がユウスケに告げ、朝倉に向かって疾走した。
いきなりの言葉に呆気にとられるユウスケだが、コンマ5秒で変身を完了する。
長門が向かうのは、朝倉涼子――――ではなく
「あら、流石長門さん。もうわかったの?――――でも、もう遅いわ」
長門が落下してきたナイフに手を伸ばす。
しかし数センチ足りず、それが地面に突き刺さった瞬間“世界が割れた”。
ナイフを起点に周囲の背景にひびが入り、朝倉と三人を別の世界へと引きずり込んだのだ。
「なっ!?」
「またかよ・・・っ!?」
塗り替えられた世界は、明るかった。
曇天だった空はカンカン照り。
足元一面が砂であることも相まって、これだけなら「砂漠」一言で済む。
しかしこの空間には彼等を取り囲むかのように、高校で使われるような一人用の机と椅子が詰まれていた。
綺麗な詰まれ方ではなく、ガラクタを放り投げたかのような詰み方だ。いくつかは本当にガラクタにもなっている。
驚愕するクウガに、苦い顔をするキョン。
向かってきた長門を蹴り飛ばし、距離を取る朝倉。
蹴り自体は掌で受けた長門だが、再び二人の元へと戻されてしまった。
「あなたの構成プログラムはすでに知っている」
「あら、そうかしら?だったら早く攻性情報を流してこの空間から脱出してみる?」
「・・・・・・」
「出来ないでしょう?同じ過ちを二度もしないわ」
ここの空間は、朝倉による情報干渉によって作られた異空間だ。
かつてこの空間で朝倉を撃破し、消滅させた長門にはその情報が残っている。
しかし、それが効かない。
相手もバカではないのだ。昔突破されたプログラムを、そのまま使うわけがない。
「私はね、どうしてもキョン君に死んでもらいたいの」
「そんなことをしても、何も変わらない」
「どうしてそう言いきれるの?試してもないのに。そもそも、彼を殺したくないのは本当に上からの命令だからかしら?」
「関係ない」
ダゥっ!!
朝倉の言葉を掻き消すかのように、長門が朝倉へと駆けた。
それに応じて朝倉がナイフを突きだし、それを長門が腕で受け流す。
硬化した腕に刃は通らず、長門の拳が朝倉の胸部のど真ん中にめり込んでいった。
まるで体重の乗った体勢ではないのだが、その拳にはかなりの威力が込められていたのだろう。
朝倉の身体は錐揉みにすっ飛び、ガラクタの中へと突っ込んだ。
バガァッッ!!と衝突音の後に、ガランガランとガラクタの崩れる音。
しかし、どれだけ分厚いのか、それとも最初から向こう側などないのか、彼等を囲む円形を少し歪ませただけの結果となった。
だがその時、長門は朝倉をすでに見ていなかった。
長門は、殴った瞬間に小さな拳銃を構築し、それをクウガへと投げていた。
それを見て、一瞬で理解してペガサスフォームへと超変身するクウガ。
拳銃は瞬時にペガサスボウガンへと姿を変え、その超感覚が朝倉の位置を探し出す。
「そこだ!!!」
下に向けられたペガサスボウガンの先端から圧縮されたエネルギーが射出され、それがキョンの足元の砂を吹き飛ばした。
爆発の瞬間、キョンは長門に引っ張られてその爆発から逃れたがその標的はそうもいかない。
「くっ・・・?」
爆発で吹き上がった砂の中から、朝倉が飛び出してきた。
ここは彼女が作り出した空間。長門に殴られた瞬間、すでにその場から地中へと消えていることなど容易なことだろう。
それを証明するかのように、塗りつぶされるかのように空中から消える朝倉。
その瞬間クウガは彼女を見失い、直後にどこにいるかを察知した。
ドゴォッッ!!
「なっ・・・!?」
「・・・・・・」
そちらを振り返ると、長門が背後の朝倉に裏拳をブチかましているところだった。
位置を特定された事に、朝倉が驚愕の表情を浮かべる。
対して、長門の表情は無表情そのものだ。
しかし、眼差しには明らかな敵意。
目の前で行われる超人的な戦いに、目を奪われるどころか何が起こっていることすらわからないキョンは只々頭を抱えてしゃがみ込むばかりだ。
「ちょ、なにが起こってんのかすらわかんないんですけど・・・・!?」
「起き上がらないで」
「んが!?」
首を上げて抗議しようとするキョンの頭を上から押し込み、さらに下げさせる長門。
クウガが55秒の制限時間ぎりぎりでペガサスボウガンを放ち、朝倉へと牽制しながらマイティフォームへと戻って行った。
その弾丸を軽く弾きながら、忌々しそうな顔をして朝倉が問う。
「なぜわかるんですか?」
「・・・・・・」
「俺は超感覚でわかるだけだけど」
「長門さんは?後学のためにお聞きしたいですねぇ~?」
思い通りにいかないのがそんなにも気にくわないのか。
いまこの場において圧倒的優位にあるはずの朝倉涼子は、この二人を前に攻めあぐねていた。
実力的に見て、この二人を相手にすれば確実に朝倉に勝ち目はない。
しかしここは朝倉が自ら作り出し、そして引き込んだ異空間だ。その中ならば互角以上に戦える計算だったし、勝ることも可能という算段だった。
だが、現実ではこの通りだ。
朝倉の居場所はクウガに見つかり、その出現場所をなぜか長門は反応してくる。
「いくらあなたのスペックが優秀だからと言って、今の私を捕える程ではないでしょう?」
「そう。私は、あなたの居場所を特定できない」
長門は今、この空間には干渉することができない。
無論、様々な方法を試みているのだろうが、今の朝倉はこの空間内ということもあり、隙がない。
易々とできるわけもがないのだ。
だと言うのに、何故・・・・・
「でも、あなたというデータにかわりはない」
違う?と、じっくり見ないとわからないくらいの角度で小首をかしげる長門。
そう。
いくら空間のプログラムを変えても、攻撃に使うプログラムを強化しても、それを扱うのは「朝倉涼子」であることにかわりはないのだ。
そして、朝倉涼子という人格のデータは、すでに知りつくされている。長門ならば、相手の行動パターンを読み切ることは容易であろう。
「・・・・・くっ!!!」
ビダァン!!ビュォッッ!!
舌打ちと共に、朝倉が両腕を光の鞭(というには太すぎるが)へと変え、地面に打ちつけ、まっすぐに突き出してきた。
かつて長門を貫いた実績を持つそれは、その当時と同じように伸びて行き、そしてクウガタイタンフォームの装甲に打ち砕かれた。
堅牢な装甲と拳に弾かれた二槍は、振るわれたタイタンソードによって切り落とされて消滅してしまう。
「あきらめろ!!」
「この場におけるあなたの勝率は、3.7%。あなたの敗北は、まず確実」
万事休す。
いくらサーヴァントと言え、いくらアサシンとして現界したとは言え、やはりもともとのスペックが違う。
もはや朝倉涼子に、打つ手はない。
長門が言う勝率も、こうしているうちに対抗策が練られて減少しているのだろう。
いっそこの空間ごと捩じり曲げてやろうかとも思ったが、それに至るまでに自分が砕かれるほうが早いと悟る。
「・・・・・はぁ。やっぱり手の内が知られている相手じゃ、分が悪いですね」
自分を睨み付ける二人に、観念した、と言わんばかりにヒラヒラと両手を上げて降参のポーズをとる朝倉。
「降参でもするのか?」
クウガの言葉が掛けられ、被害を出すことなく戦いを終えられるかと安堵した瞬間。
朝倉が、意地悪そうに笑った。
「まさか!!!」
ブシュゥ!!と周囲を煙幕が覆い、異空間が砕けた。
長門は朝倉の発言の瞬間に駆けだしたが、すでにそこに朝倉の姿はなかった。
またどこかから狙ってくるのかと、キョンのそばで周囲を警戒するクウガ。
一方長門は、視界を閉ざされた煙の中でも、朝倉の向った先を見据えていた。
そして朝倉を確実に仕留める為に、その方向に向かって飛び出そうとし――――
「オラァ!!」
「グハッ、がッ!!!」
ガ、っシャァ!!!
何者かの攻撃の雄叫びと、それを喰らった別の何者かのものと思われる嗚咽声。
そしてその何者かが柵に当たり、止まることなく柵を破って何かが素っ飛んできた。
「・・・・っ!!」
「ゴゥ・・・・っは・・・あれ、長門ちゃん・・・?」
柵を破って飛んできたのは、バーニングフォームの仮面ライダーアギト。
自分を受け止めた長門に、息絶え絶えながらもいつも通りの口調で語りかけるあたりはさすがなところだ。
肩を借り、何とか立ち上がるアギト。
それを追って、朝倉の残した煙を払いながら、向こう側から彼を吹き飛ばした巨漢が現れた。
「フゥゥゥウウウ・・・・・なんだぁ・・・・まだその程度かァ!!!」
―――――――――――雄ォ雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!
空に向け咆哮を上げるのは、攻撃の完全・オフィナ。
二人のそばにクウガも駆けより、アギトの胸をチラリと見た。
先ほどの一撃だろう。
オフィナの拳の形に、グッポリと窪んでいた。
深さは二センチほどだろうが、この準最強フォームと言われるバーニングフォームの装甲をここまで窪ませるオフィナの攻撃力に、クウガは戦慄を覚えた。
「大丈夫ですか?」
「あれ、その声は小野寺さんですか。いやぁ――――正直、まずいです」
気の抜けたような声だが、そこに込められた意味は重い。
そもそも、アギトはオフィナと力比べに近い戦いを繰り広げていた。
しかし、クラウドの勇気集束と同じだけの出力を持つオフィナが「その程度の攻防に落ち着いていた」ことがおかしかったのだ。
「そいつ、炎とか紋章とか出すとすっげー力上がるから面白かったけどよ、そろそろ飽きちまったんだよな」
だから、ちょっと全力出した。
そういって、拳を二、三回開いて握り、力加減を確かめるオフィナ。
そして、そこにクウガを見つけると期待していたものが見つかったかのようにうれしそうな声を上げる。
「おぉ!!そこにいるのはクウガか!!たしか、バカみてーなスペックだったよな?」
「バカとはなんだ!」
「他の奴はあらかた試したし、聞いた中でほかにスペック高そうなのお前くらいなんだわ」
オフィナは、セルトマンから「試しがいのある」メンバーを数人聞いていた。
その中でショウを筆頭にクラウドや蒔風を聞いたのだろう。
そして恐らく、オフィナが言っているのはアルティメットフォームのクウガだ。
だが、そう簡単になれたら苦労はない。
アルティメットフォーム、そしてそれを越えるライジングアルティメットフォームには幾度か変身したことがあるユウスケだが、肉体疲労が激しすぎるのだ。
戦いはおそらく、ここだけでは終わらない。
今は引っ込めと言われて外門で見回りをしていたが、必ずその時が来るはず。
それだけでなく、心がドス黒い感情に包まれていくのを実感するのだ。
ディケイドの補助があっての変身ならともかく、できることなら単独変身は避けたいところ。
しかし、それを読み取ったかのようにオフィナが笑った。
「おいおいおい!!まさかほかの奴との戦いだとか、あの人との戦いにとっとくつもりじゃないだろうな!?やめとけやめとけ!!無駄だから!!」
「なに!!?」
無駄だ、と言われたことに腹を立てるクウガだが、まあ聞けよとオフィナが言葉を続ける。
「あー、なんだ。だってよ、今を越えようとしないのに――――その先にある何と戦うって言うんだ?」
「ッ・・・・!!」
「ほれ、解ったら変身してみろ!!俺はな、まだ自分の限界を試してみてないんだよ!!!」
いかにも正論。
その言葉にどうにか言い返そうと拳を握るユウスケだが、言葉が見つからなかったのか力が抜けていく。
そして、変身を解く。
それに長門がチラリと振り返り、アギトが驚くが、大丈夫だと呟くユウスケ。
「わかったよ」
短く告げる。
その覚悟に応じて、腰のアークルが金の光を放つ。
いつもとる変身のポーズとは違う。
右手を左前に、そこから右へとスライドさせていく。
「だけど、一つだけ言っとく――――驚くなよ?」
そして、腰に構えていた左手を、右上へと。
それと同時に、黒い煙と黄金の雷が迸り、荒れ狂う力が一つの力へと収束されていく――――!!!
「この俺の「クウガ」は、最強じゃない」
装甲に包まれながら、ユウスケが断言する。
そんなことを言えば、狙われるのはもう一人―――五代だ。
だが、オフィナはその場を動かない。
そして
バグォッッ!!!
クウガのパンチが、オフィナの顔面にぶち込まれた。
その一撃は、拳から放たれた雷と炎による爆発で、更に威力を高められている。
100tのパンチに、爆発が上乗せられたのだ。
頭からブッ飛び、後頭部を激しく柵の基部に打ち付けて破壊するオフィナに、仮面ライダークウガはこう宣言するのだった。
「お前なんかに、あの人のクウガなんて――――もったいないからな!!」
五代雄介。
伝説を塗り替え、新たなる伝説を打ち立てた男。
彼に比べたら自分の「クウガ」など、まだまだ若輩もいいところだ。
あの人にこの男の相手をさせるなんて、そんな失礼なことはさせられない。
一方
ともあれ、攻撃の完全・オフィナに入った初めての「まともな一撃」。
今まではその攻撃と同じか、もしくはそれ以上の攻撃で打ち消されていたのが、初めて通ったのだ。
不意打ちだからか、オフィナが油断でもしていたのか。
しかし、あまりダメージにはなっていないらしい。
柵の基部を破壊した体勢のまま、肘をついて頭を上げ、オフィナが「へぇ・・・」と、挑みかかるように口角を上げた。
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「おいおい・・・・マジか」
ガラガラと、崩れる音がする。
それは蒔風が放った雷旺砲で抉れた地面の崩れる音だ。
そして、その中には不自然な、まったく無事のエリアが存在していた。
「ふぅァ・・・・・・」
口から煙を吐きだし、パチパチとまだ少し爆ぜる電気を払う男。
その中心に、立つその男―――アライアは、蒔風の雷旺砲ですら真正面から受けて耐えていたのだ。
「おいおいおい・・・・効いてねェのか?」
「いや?最初は本当に効いたぞ。だが簡単な話、内部からの攻撃ならば「内部も強化すればいい」ということ」
単純な打撃、斬撃ではアライアに通る攻撃を、蒔風は持ち合わせていない。
絶対に破壊されない世界四剣とは言え、下手に打ち合えば弾かれてしまうのは目に見えているし、一点に押し当てて削ろうにもそうしているうちに殴り飛ばされては意味がない。
そこで蒔風は、数手前から攻撃を能力の一手に定めていた。
蒔風の持つ能力の六つ。
出会い頭に土惺を放ち、獄炎、圧水で攻撃した。
だが、硬化したアライアにはいずれも効かず、そこで今度は内部から爆ぜさせることも可能な雷旺を以って攻撃を実行したのだ。
最初こそ、内部に電撃は浸透し、効いていたのだろう。
しかしアライアは体内部までをも硬化し、防御力を上げたのだ。
そうなれば、雷旺ですら効かなくなる。
もはや万事休す。
蒔風に残された力は、後二つだ。
「真人、謙吾。大丈夫か」
「おうよ・・・・」
「だが、俺達もあと一回が限度だぞ」
蒔風が二人に声をかける。
これまで、二人には時間稼ぎを行ってもらっていた。
ただ放つだけでは意味がないことは最初からわかっていた。
放つ以上、全力だ。しかし、蒔風の能力は溜めるのに時間がかかる。
その為の時間稼ぎを、この二人に頼んでいたのだ。
獄炎弾、圧水掌、雷旺砲と、三回立て続けの攻撃のために、二人は十分なほどの働きを見せてくれた。そのおかげで、掛け値なしの全力攻撃が出来たのだ。
しかし、このアライア相手にこれ以上は危険すぎる。次の攻撃で決定打がなければ、蒔風は二人を下げさせなければならない。そして、最後の一つは自力でどうにか撃ち込まねばならないのだ。
冷や汗が流れる。
本来プレッシャーに弱い蒔風が、ここにきて焦りを見せた。口元は笑っているが、半ばヤケの笑いだ。こうしてないと、やってられない。
それを感じたのか、謙吾が余裕そうに言う。
「大丈夫だ。次で決めればいいのだろ?」
「そうだぜ・・・・二つに一つ。決めちまえばいいだけだ」
「はは・・・そんな単純じゃないけどねぇ―――」
二人に励まされ、蒔風が口に溜まった唾を飲み干した。
そして、グッと腹に力を籠め、指先を伸ばしその先端に力を収縮させる。
「頼む!!!」
「「ああ!!!」」
謙吾、真人がアライアへと向かい、その間に蒔風が絶光の力を指先へと集めていく。
放つのは、絶光尖。
それを究極にまで小さく射出する絶交尖・極である。
その貫通力は、敵の攻撃ですらをも「破壊することなく貫通」し、その向こうの敵を貫く。
そのあまりの貫通力の高さ故、本来は相撃ち覚悟の技なのだが、たとえそうなってでも撃たねばならない。
(狙いは頭――――他を貫いても、この小さな穴では奴らは回復する・・・・)
蒔風の双眸が、アライアの眉間を見据える。
しかし
(―――とでも思っているのだろう。あのエネルギーの集め方では広範囲ではなく極めて一点集中型――――!!)
ならば、アライアは頭部の硬化を高めていく。
とはいっても、硬くなるのは頭部のみではない。それは全身への硬化であり、そんな局所的効果は出来ないのだ。
(しかし関係ない。俺があの攻撃をものともしなかったとき、俺は完全に奴を越える!!)
アライアは確かにとんでもない硬度を誇っているが、瞬間的に硬化することは出来ない。
現時点の彼では、そんなことをすれば急な硬度に身体が砕け、バラバラになってしまうからだ。
(とはいえ、いずれは至る領域だがな)
ゆえに完全。
そう、彼らが追い詰められ、そのステータスを与えられた「完全」に全振りさせない限り、決して暴走せず、そして成長する能力。
だが今はまだその領域に至っていない。
というわけで、全身硬化に力を費やすアライア。
蒔風の溜める方が先か、アライアの硬度が先か。
(だろうが・・・・実はそんなの関係ない)
蒔風が内心笑う。
この絶光は、もはや理論で語るような常識的な貫通力ではない――――!!
「行くぞ!!真人、謙吾!!」
「よっしゃ!!」「やれ!!」
「かかって来い!!」
「極!!!絶・・・・光!!!―――――尖!!」
揃えた指先を前につきだし、蒔風の中指先端から絹糸程度の細さで絶光尖が放たれた。
しかし、その細さとは裏腹に、放った蒔風への反動は凄まじいものがある。
肩は外れそうになるし、伸びきった肘関節ではガコッ!!と骨がぶつかり合う音がした。
放たれた瞬間にその場の空気がはじけ飛び、翼力でガードしなければ蒔風自身も真空にダメージを喰らっていただろう。
それを真っ向から受け止めようとする、アライア。
絶光尖は、その名の通りの速さを誇る。
故に、アライアがそれを感じたのは蒔風が放つ一瞬前。かかって来いと豪語した直後だ。
(何かマズイ・・・・!!)
自分からあれだけの言葉を放ち、一秒しないで撤回の思考という情けないとも思われるような判断だが、アライアは即座に首を振った。
しかし、正しい判断だ。
心象的には情けなくはある物の、アライアの判断は大正解だった。
必死になって身体を反らす。
それに反応して蒔風も指先を動かすも、もう遅い。
僅かな軌道修正はアライアの肩を貫く程度しか修正できず、その頭部には一切の傷を負わせることが出来なかった。
だが、肩を貫かれたアライアは激痛に顔をしかめ、あとからやってきた衝撃に右肩を押されて回転して地面に落ちる。
それを見て、肩で息をして荒い息を吐く蒔風。
そして、拳を握る真人と謙吾。
「や、やった!!」
「効いたぜ!!」
「ハァッ・・・ハァッ・・・・・ハァッ・・・・・」
初めて攻撃が効いたと喜ぶ二人だが、蒔風の内心は苦々しい思いでいっぱいだった。
(仕留め――――られなかったか・・・・!!!)
(バカ・・・な!!この私が、貫かれただと!?)
一方、冗談にもできないような貫通力で穴を開けられたアライアは、久々に感じる激痛に顔を歪めて転がっていた。
(グッ・・・つ・・・し、しかし、私の完全に限界はない。このまましっかりと硬度を上げれば、いずれはあれも効かなくなる)
暴走が生む結果は、予測は出来る物の、実際には彼等も知らない。
ただ、それが破滅へと向かうことは確実だ。
しかし、そうやって追い詰められる必要などないのだ。
そもそも、強い生命力は基本スペックに組み込まれている。
だったら焦らず、少しずつでも完全の出力を上げればいいだけだ。暴走など、する必要はない。
肩口を押さえ、ヨロリと立ち上がるアライア。
痛みにまだ顔が歪むが、いずれは問題もなくなるだろう。
しかし、アライアは大きな失敗を犯していた。
硬度の完全を得て以来、彼は攻撃を喰らっても意味がなくなっていた。
簡単に言って、長らく「外部からの痛み」の経験がなかったのだ。
そこに、それを突破してきた「痛み」だ。
久々の感覚に、アライアにとっては激痛以上の物だろう。
それが彼の思考を弛緩させ、蒔風に二発目の絶光線を放たせるだけの猶予を与えてしまったのだ。
「ハァッ!!」
「デッ!?ガァッ!?」
バチィン!!と、アライアの額で何かがはじけた。
それは再び放たれた絶光尖だが、アライアの表情は痛みを耐えるべきだったのにも関わらず、それを恐れてしまったのだ。
(し、しまった・・・・・!!!)
アライアの完全は、上がり続けているとはいえまだ絶光尖を弾くまでギリギリ足りない。
しかし放たれた絶光尖。そして、弛緩した思考。
眉間に放たれたという生命の危機が本能に訴えかけ、瞬間的には彼はそれを弾く硬度まで完全を押し上げた。押し上げられるスペックにしたのだ。
そう。
押し上げて、しまったのだ。
(まず・・・暴走する・・・・・?)
ガクッ、と、膝をついてわなわなとふるえるアライア。
冷静に自分の完全を見つめ直し、そして完全にスペックが硬度の完全へと振られていることを確認した。
「あ・・・あぁ・・・・・そんな・・・・こんなことが!!!」
「やっと・・・・暴走したか・・・・」
ドサッ、と蒔風が腰を落とし、地面に倒れそうになる上半身を腕で支える。
厄介な完全も、あと二人か、と空を仰いでため息をつく。
しかし
「・・・・・・・あれ?」
アライアの気の抜けた声がした。
ガバリと、崩れた上体を起こす蒔風。
そこには、未だに身体を崩壊させないアライア。
ムクリと立ち上がり、点検する様に身体を動かす。
「むう?・・・・・硬度が暴走し、身体が砕けるかと思ったのだが・・・・」
それはこっちのセリフだよ。
そう言いたかったが、蒔風の口は半開きになって動かない。
真人、謙吾も同様だ。
まさか、暴走したと言うのに、身体が崩壊しないなど思いもよらなかったからだ―――――!!!
「ふ・・・フはは!!これは、我が硬度の完全は――――真の意味で完全なるものだったということか!!!」
硬度の完全は確実に暴走状態と言える段階にある。
スペックの全てが、硬度に振られているのだ。
しかし硬度、暴走せず。
「さて・・・・あとはどうしてくれようか・・・・・」
完全なる硬度が、蒔風へと迫る。
すでに三人とも満身創痍。その中で、蒔風ができることは――――――
to be continued
後書き
アライア、暴走。
しかしてそれは破滅にならず!?
絶光尖の貫通力はもはや冗談にするにはたちの悪いレベルですね
ただ、効果範囲が狭いのが短所です。
一方、逃げるアサシン。
そしてそこに乱入するオフィナ。
攻撃の完全VS究極の闇たる力
軍配が上がるのはどっちだ!?
そして、忘れていたことが一つ――――――
そう言えば、オフィナを最初に押しとどめた翼刀はどこ行ったんだ?
翼刀
「オォ!!なにか活躍の場が・・・・・」
やっべ、完全に忘れてアギトに振っちゃってた。
翼刀
「このクソ作者ァァァァアアアアアアアア!!!」
ではまた次回
ちょ、翼刀さん!?ヴァルクヴェイン乱れ撃ちはマジでシャレに・・・・ギャぁー!!
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