魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第125話「蘇る災厄」
前書き
かくりよの門要素が相当強い章です。(独自設定もりもりですが)
一応知らなくても読めるようにはするつもりです。
=out side=
「くっ…!」
「逃がすか!」
複数の人間を、同じく複数の人間が追いかける。
「次元転送魔法に気を付けろ!ノーマークにはするなよ…!」
「了解です!」
追いかける側の一人、ティーダの指示に他の者が指示通りに動く。
何かを仕掛ける素振りを見せたら、すぐに抑える寸法だ。
「っ、そこだ!」
「ちぃっ!」
場の状況を把握するように動き、ティーダは魔力弾を放つ。
それに阻害されたかのように、男が一人飛び退く。
「(斧型のデバイス…近接タイプか…!)」
ティーダは周囲の警戒を怠らないようにしながら、相手を見る。
斧を持っている所から、少なくとも近接は得意だと分析する。
「はぁっ!」
「っ!」
振るわれる斧。発生する魔力の衝撃波。
それを跳ぶ事で躱し、反撃とばかりに魔力弾を放つ。
「何…?」
「下手な手は打たんぞ」
「…ふん」
その魔力弾は目の前の男だけでなく、今回の戦闘の原因となったロストロギアを持った男に対しても牽制として放たれていた。
「なら、これはどうだ?」
「何?……っ!」
瞬間、ティーダの仲間を相手していた数人が一斉にティーダへと襲い掛かる。
突然の事に驚くティーダだが、すぐに対処するように魔力弾を放つ。
「おらっ、てめぇらは邪魔だ!!」
「(っ…まずい…!)」
元々相手にしていた魔導師たちは、ティーダを相手にしていた男が放つ魔力の衝撃波に踏鞴を踏み、足止めされる。
男達…ロストロギアを不法所持していた犯罪組織の目的は、最初からロストロギアを管理局の目から遠ざける事だった。
例え、この後自分達が捕まってもロストロギアさえ運び出せればいいと、男達は考えていたため、こうして一人だけでも逃がす戦法に出た。
…そして、それに気づいたティーダは焦る。
本当に捕まえるべきターゲットに逃げられてしまうと。
「(牽制する暇もない。それに加え、これっ、は……!?)」
「はぁっ!」
「しまっ…!」
敵の連携攻撃に、ティーダも動揺が相まって苦戦する。
その間にもロストロギアを持つ男が次元転送魔法を発動させる。
「(っ…こうなったら…!)」
「おらっ!」
「ぐっ…!」
“逃がす訳にはいかない”と考えたティーダは相手の攻撃を喰らうと同時に狙った方向へと吹き飛ばされる。
その方向は、当然転移しようとする男。
「はぁぁああああっ!!」
「ランスター一等空尉!!」
「『すまない、後の事は任せる!!』」
銃型のデバイスから魔力の刃を展開し、一気に突貫する。
ティーダが選んだ選択。それは敵の攻撃を利用して一気に距離を詰める事。
魔力弾を放つ余裕がない状況では、最善手と呼べる手だった。
「何ッ!?」
「させるかぁっ!!」
転移しようとした男は、飛んできたティーダに動揺する。
…しかして、その転移魔法は…。
「(間に合わな―――)」
……成功、してしまった。
それも、ティーダを巻き込む形で。
―――パリン!
「っ……!?…お兄ちゃん……?」
そのほぼ同時刻。ティーダの自宅にて。
置いてあったティーダのコップが落ちて割れた。
「……………」
それは、まさに不吉の予兆を表すかのようで...。
妹であるティアナは、底知れぬ不安に襲われた。
「っ……!」
「く、くそ…!」
転移が完了し、ティーダと男は投げ出される。
すぐさま体勢を立て直し、対峙する。
「(俺の乱入で、転送先がずれたのか…?森の中、人気はないようだが…)」
「……!」
「動くな!」
動き出そうとした男に対し、ティーダはデバイスを突きつける。
だが、若干距離が遠い。膠着状態に陥る。
「(バインド…魔力弾…ダメだ。正面からだと気づかれる上に躱される可能性が高い…!後手に回るか…いや、しかし…!)」
どうでるべきか思考する。…それがいけなかった。
本来ならば、相手に考える暇を与えずに捕縛に掛かるべきだった。
「こうなったら…!」
「っ、やめろ!」
男は破れかぶれに手に持っていた黒い立方体のロストロギアを掲げる。
咄嗟に魔力弾を放ち、バインドを仕掛けるが…一歩遅かった。
「(ロストロギアの効果の詳細は不明…。何が起きると言うんだ…!?)」
効果がわからないロストロギア。
それが発動したため、ティーダは警戒を最大まで高める。
―――ズンッ……!
「っ………!?」
地響きかと勘違いするような重圧が駆け抜ける。
魂から震えるかと思えるその重圧に、ティーダもロストロギアを発動させた男すらも震えあがり、同時に後悔した。この状況になった事に。
「何…が……!?」
平静を保とうとしたティーダが状況を確認しようと視線を巡らせる。
そして、原因であろう存在を見つける。
「…なんだ、これは……?」
それは、黒と紫が混ざったような色合いの“穴”だった。
そこから瘴気らしきものが大量に漏れ出ている。
…そして………。
「っ………!?」
その“穴”の前に降り立つように、“ソレ”は現れた。
見た目からは想像できない悪寒がティーダを襲う。
「っ、ぁああ……ああああ……!?」
いつの間にかバインドが解けて自由になっていた男は、その場にへたり込む。
当然だ。その“穴”と“ソレ”は、男の目の前に現れたのだから。
「ひっ!?ッ――――」
ザンッ!
「っ……!」
“ソレ”は男へ近づき……一閃。
男の首が、ずるりと落ちた。
「ぁ………ぁ………!?」
完全な即死。それを目の当たりにしたティーダは、逃げられないと悟った。
震える手を抑え、デバイスを力強く握る。
「(…“死ぬ”。間違いなく。アレには…勝てない…!)」
どう足掻いても自分が助かるビジョンが浮かばない。
見た目は大した事がないように見えても…目の当たりにしたティーダは理解した。
だから、せめてこの事を管理局に伝えるために、念話を飛ばす事にした。
―――…その日、かつて日本にあった“災厄”が、蘇った。
=優輝side=
「――――」
目が覚める。底知れない悪寒と共に。
「…ティーダ、さん……?」
夢で、ティーダさんが殺されるのを見た…気がした。
ふと、リヒトとシャルに通信が入ってないか確認する。
「っ……!」
無差別な広範囲の通信。それを受信していた。
…内容は、ロストロギア封印のための、管理局への援軍要請。
発信者は…リヒトとシャルにも登録されおり、僕も知っている人物。
…つまり、ティーダさんだった。
「何が……」
一体何があったのか。そう思った時、気づく。
どこか、周囲の雰囲気が変わっているように思えた。
そう、具体的に言えば、空気中の霊力が増えているような…。
「(平和ボケ…していたのかもな。寝ていたとはいえ、こんな異変に気づく事ができなかったとは……)」
とにかく、何かがあった事は確かだ。
今日も学校があるが…場合によっては休むべきかもしれない。
とりあえず、椿と葵にも聞くために僕はリビングへと下りた。
「…優輝も、感じているのね」
「やっぱり、何か違うのか…?」
リビングに下り、朝食を準備していると椿がそういった。
「状況としては、江戸時代に近い…つまり、霊力が増えているの。今の時代、それは異常よ。…私と葵も、起きるまで気づけなかったわ」
「それだけじゃない。ティーダさんからの管理局に対する要請があった。それも、無差別に広範囲で。これは、そうせざるを得ない状況が起きていたという事になる」
椿の言う事に僕は補足する。
「…私と葵で調べるわ。優輝は普通に学校に行きなさい」
「…いいのか?」
「何も原因を突き止めて解決まではしないわ。これは下調べよ。管理局に要請が送られ、今は霊力が満ちている…。地球で何かが起こったのは確かよ」
確かに、下調べは重要だ。
不用意に原因まで辿り着いてやられたら意味がない。
「……ねぇ、優ちゃん、かやちゃん。このニュース…」
「ん?………っ!」
会話に入ってなかった葵が、テレビを指しながら言ってくる。
促されるように僕らもニュースの内容を見て、言葉を詰まらせる。
「これは…」
「………」
内容は、一言で言うなら“深夜に各地で謎の影の目撃情報”と言った所だろう。
日本各地で夜中に怪しい…それも人間ではないモノを見たという情報が入り、警察が各地で調査をしているというニュースが流れていた。
「椿、葵。…これは、もしかして…」
「…下調べする事に、変更はないわ」
「そうだね。…でも、優ちゃんも気を付けて」
情報の中には、目撃情報と共に撮影をしたのか写真も送られてきたらしい。
その写真には、確かに異形と言える存在が見切れてはいたものの写っていた。
そして、その姿は、おそらく……。
「…妖…なんだな?」
「…確信はないけどね」
そう。椿や葵が言っていた、江戸時代に跋扈した妖怪。
種類までは分からないものの、それが写真に写っていたのだ。
「今の所被害は出ていないのか…?」
「妖は、一般人には基本的に無闇に害を出さないよ。…江戸の時はね」
「基本…それに江戸の時は…。つまり、例外もあるし、今回もそうだとは限らないのか」
「うん。どの道、被害が出ていないのなら今の内に行動するべきだね」
どこか、椿と葵の声が強張っているように聞こえた。
…過去の、江戸の時を思い出しているのだろう。
「とりあえず、下調べは任せた。僕は学校へ行って、司達にも伝えておく」
「ええ。…気を付けなさい。襲われないのは飽くまで一般人。霊術を扱える優輝やアリシア達は、引き寄せられるかの如く襲ってくるわ」
「…わかった」
学校に行く支度を済ませ、椿の言葉を受けて僕は家を出る。
…嫌な予感は収まらない。むしろ、どんどん強くなる。
今朝から、一体何が起きているのか…。
「………」
「よう、優輝。…って、どうした?」
学校に着くと、朝練が終わったらしい聡に話しかけられる。
隣には玲菜もいた。
「ん、いや、悪い。おはよう、聡、玲菜」
「おはよう。…何かあったの?」
「いや、そういう訳では……」
どうやら、顔に出ていたようだ。…それほど深刻だろうからな。
「そうか?…っと、そういや、今朝のニュース見たか?」
「ニュース…もしかして、各地で変なものの目撃情報が挙がってる事?」
「それそれ。なんだろうなアレ」
僕を気遣ってか、別の話題へと切り替える聡。
…残念ながら、切り替わった訳じゃないんだよな…。
「明らかに人間じゃなかったわよね…?」
「…もしかして、妖怪だったり?」
「まさか。そんなオカルトありえないって」
魔法も霊術も知らない二人にとって、そこまで大したものではないのだろう。
「なぁ、優輝はどう思う?」
「……そうだな…。案外、いるんじゃないか?」
「おおう…優輝ってそういうの信じるんだな」
「いや、お前の僕に対するイメージってどうなってるんだよ」
なんでもそつなくこなすから、不明瞭な存在は信じてないと思われてるのか?
…逆に思いっきり関わっているんだけどな。
「じゃあ、俺は着替えてくるから先に行っててくれ」
「分かった」
聡と玲菜は更衣室に向かい、僕は一足先に教室に行く。
「優輝君、何か今日…いつもと違わない?なんていうか、違和感があるって言うか…。今朝やってたニュースも怪しいし…」
「その事についてなんだが……」
教室にて、僕より少し遅れてやってきた司は僕に尋ねてきた。
僕は司に椿たちとも話した事を伝える。
大気中の霊力が増えている事。管理局に要請が送られていた事。
そして、目撃された存在は妖の可能性があり、異変が起きているかもしれない事。
それらを簡潔に説明した。
「……………」
「現在、椿と葵が調べてくれている。何が起こるか分からないから、アリシア達にも伝えておくつもりだ。なのは達魔導師組にも、管理局へ応援要請があった事は伝えておくべきだな」
「そう、だね……」
ただ事ではないと、司も理解したのだろう。
どこか恐れているような表情をしている。
「…大丈夫だ。司はもう十分に強いし、いざと言う時は僕が何とかする」
「優輝君…?」
「不安なのは、僕も一緒だ。…だから、乗り越えよう」
司は、元はただの一般人だ。
魔法に関しては前世の時点でアニメなどで知っていたからまだ向き合えた。
だけど、今度は知らなかった力……霊力に関する事だ。
僕らから霊術を習っているとはいえ、魔法とは勝手が違う。
それに加え、先日のあの男の襲撃。
為す術なく負けた事で、司は未知の相手に対して不安になっているのだ。
……もしくは、改めて命のやり取りだと理解したからか。
今まで大丈夫だったのは、心に余裕がなかったからだろう。
「う、うん……」
「怖いか?」
「…それも、あるけど…。感じるの」
「……何?」
どうやら、司が不安そうなのは恐怖だけではないようだ。
思わず聞き返すと、司は重そうに口を開いてくれた。
「…何か、強大な力が…そんな予感がして……」
「強大な力…?」
確かに今回の異変にも原因となる存在がいるだろう。
だけど、だからといって司が怯える理由にはならない。
「天巫女だから…祈りを扱うからだと思うけど…空気中の霊力に乗って何かの思念が感じれたの。…でも、それは虚ろで、空っぽで………っ……!」
「落ち着け…!」
霊力で司を包み込む。
思念を感じてしまうと言うのなら、それを遮ればいい。
「っ、ごめん……」
「気を落ち着けるんだ。司は天巫女の力をコントロールできない訳じゃないんだろう?落ち着いて思念をカットするんだ。」
「…………すー……はー……」
そういうと、司は深呼吸し、何らかの力が体を覆ったのが見えた。
「ん…大丈夫、もう解いていいよ」
「分かった。…どうだ?」
「うん、平気。…ごめんね、心配かけて」
申し訳なさそうにする司。別に迷惑してないからいいんだが…。
……それよりも…。
「虚ろで、空っぽな思念か…」
「…うん。私も良く分からないんだけどね……。なんというか、中身がなくて器だけがあるみたいな……。でも、途轍もなく“危険”だった」
「…………」
力だけの存在…という事か?
まずいな、謎ばかりが増える。
「とにかく、警戒するに越した事はないな…。…SHRまで時間がない。とりあえず、今は戻って皆にも異変を伝えておこう」
「……うん」
椿と葵から報告が来れば、僕も動き出す。
どの道、解決に向かう事には変わりないからな。
「……伝え終わったか?」
「うん。プレシアさん達にはリニスから、なのはちゃん達には奏ちゃんから伝えてもらうように頼んでおいたよ」
「よし、これですぐに動く事はできるな。…できれば、そんな事態にはなってほしくないものなんだけどな…」
僕もアリサとすずか、アリシアに念で説明しておいた。
椿の言う通り、妖だった場合、三人も襲われるだろうからな。
例えそうでなかったとしても、こんな事態だと誰だって襲われるだろうし。
「何やってんだ?」
「聡か……。いや、なんでもないよ」
SHR前にも人気のない場所に行っていたからか、聡がやってきた。
まぁ、移動するのは見られているから、気になるよな普通は。
「いや、司さんと二人でいる時点で何かあるだろ」
「言い方が悪かったな…。怪しい事はないぞ。ちょっと共通した話題があっただけだ。それと、こんな所にいるのは、司と話してるだけで皆が聞き耳立てるからな」
「……一理あるが…まぁ、いいや。お前の事だからやばい事ではないだろうし」
どうやら上手い事はぐらかせたようだ。
ちなみに、聡は最近司を名前で呼ぶようになった。その時玲菜が妬いてたので飽くまでさん付けはそのままになっている。呼び捨てした瞬間足を踏まれてたからな。
「そろそろ一時間目が始まるし、戻ろうぜ」
「ああ」
「そうだね」
聡の言葉に、僕らは頷いて教室に戻る。
……悪いな聡。やばい事ではないと思ったんだろうが…ある意味やばいんだよ。
「……なんだ、あれ…?」
「ん……?」
そして授業中。ふと隣の窓際にいた奴が校門の方を見て呟いた。
「っ―――――!」
少し気になって何を見ているか見た瞬間…息を呑んだ。
「(あれ…は……)」
“それ”は、全体的に朱色の色合いをしており、背中がおろし金のようだった。
腹のあたりは若干白く、遠目だが腕辺りに赤い模様もあった。
骨格としては、ハリネズミとかそこら辺が近いだろう。
だが、明らかにその姿は“異形”と分かる存在だった。
世界中のどこを探してもあんな動物はいないだろう。
「『優輝君、もしかしてあれって……』」
「『…多分、ニュースでもやってた奴だ』」
僕が窓の方を向いているのに司も気づき、そして“あれ”を見たのだろう。
同じように息を呑みながら、僕に尋ねてきた。
「おーい、そんな窓を見ている暇があるのなら、これも答えられるんだろうな?」
「(あ、やべっ)」
視線が窓の方に向いていたのか、隣の奴と共に僕は当てられた。
……が、“窓の方を見ている”で他の人も見たのか、ざわめきが広がる。
「なんか校門にいる!」
「なんだあれ?」
「…え?なにあれ」
窓際の奴らがそういって、皆が校門の方に注目する。
先生もそれに気づいたのか、随分と間の抜けた声を上げていた。
「動物じゃないよな?」
「……もしかして、今朝ニュースでやってた奴?」
「え、嘘!?あれが!?」
「ね、ねぇ、なんだか校門を壊そうとしてない?」
ざわめきがどんどん大きくなる。
よく聞いてみると、どうやら隣のクラスや一年、三年もあれに気づいたらしい。
「『ま、まずいよ優輝君…』」
「『ああ。…先生も出てきたな…』」
体育科の榊先生と近郷先生が刺又を持って校門に向かっていった。
「『…いざとなれば、変身魔法辺りを使って仕留めるか……』」
秘匿すべき部分はもう露呈してしまっている。
ならば、せめて正体だけでもばれないように行動する事にする。
『優輝!』
「っ、ごめん。椿から連絡が入った」
「もしかして、下調べの……」
司の言葉に頷いて、僕も椿に応えるように繋げる。
「『どうした?』」
『大変よ。今朝言っていた通り、異形の正体は妖だったわ。しかも、一体倒した時に葵が気づいたのだけど、極々僅かに地球のものではない魔力が混じっていたらしいわ。それこそ気にならない程に』
「『は……?』」
妖は他の次元世界の魔法なんて関わっていない存在だ。
それなのに、魔力が混じっていた……?
『それだけじゃないわ。今、違う県にいるのだけど…“幽世の門”を見つけたわ。江戸の時、全て閉じられ、封印されたはずの門が…!』
「『っ……!』」
“幽世の門”…霊術や、妖について教えてもらった時、ついでに教えられたもの。
それは幽世とこの世界…現世を繋ぐ門となるもので、妖が現れる原因。
それが、現代で見つかった……?
『今、葵と共に封印してるわ。この門は私達に反応して開いたものだけど……この事からわかった事があるの。むしろ、こっちが本題よ』
「『…………』」
嫌な予感が膨れ上がる。
夜中に多数目撃された異形…妖。その出現と門の存在。
大気中に増えた霊力。司が言った“強大な力”。
…そして、ティーダさんの通信。
『…妖と、幽世の門が存在する。この現象を、私と葵……式姫はかつて見た…いえ、経験してきたわ。これは明らかに海鳴市やその周辺だけの現象じゃない。……日本全国に起きている現象よ』
「『――――』」
自然と、体が強張り力が籠る。
僕のこの癖は、いつも嫌な予感が当たった時。つまり……。
『………間違いなく、開かれたわ』
「『まさか、以前話していた……』」
『……ええ。“幽世の大門”……江戸時代、妖が日本各地に溢れた元凶。かつて、私と葵の主がその身を賭して封印したはずの災厄…それが、開かれたのよ』
念でさえ、声が出なかった。
司が訳も分からず怯えるのも分かる。
僕の勘が言っている。……これは、アンラ・マンユに匹敵する危険性があると。
『今すぐ学校を早退してでも動かないといけないわ』
「『……悪い椿。もう手遅れだ』」
『え……?』
「『……学校にその妖が来ている。妖は霊力を持つ者に惹かれるんだろ?……だとすれば、今この学校は囲まれているかもしれない』」
『っ……!?』
霊力によるレーダーを広げてみる。……あぁ、やっぱりか…。
多数の反応が引っかかった。まだ距離はあるが…こちらに向かっている。
「『…魔法と霊術。秘匿するのは不可能だろう。…隠す余裕はない』」
『……どうやら、そのようね』
念に混じり、椿が戦闘する時の息遣いが聞こえる。
向こうは戦闘中のようだ。
『……そっちでの判断は、任せるわ。後で合流しましょう』
「『……わかった』」
念が切れる。…さて……。
「……優輝君」
「最悪の事態になった。かつて江戸時代に起きた災厄……幽世の大門が開かれたらしい」
「幽世の…大門……?」
「……ああ」
説明している暇はない。
このままだと、学校の皆が巻き込まれてしまう。
「それらについては後で説明する。…ただ、一つだけ言えるとすれば…魔法や霊術、正体を隠す余裕は存在しない」
「優輝君、何を…!」
「司、皆を無闇に逃げないように誘導してくれ。下手に逃げるより、ここに留まってもらった方が守りやすい」
机の上に乗り、足場となる魔法陣を廊下側の天井近くの窓辺りに設置する。
幸い、皆は校門の方を身を乗り出すように見ているため、窓は開いている。
だから……。
「っ……!!」
その上を通るように、魔法陣を足場に僕は校門へと飛び出した。
頭上を一気に僕が通った事に皆は驚くだろう。だけど、今は気にしている暇ない。
…まずは、学校の安全を確保する……!
後書き
校門の異形…“やまおろし”という妖。おろし金のような背中を丸めて襲ってくる。その表皮はとても堅く、その隙間に攻撃を通せなければ苦戦するだろう。かくりよの門では斬属性が弱点となっている。本来は人を襲わない(が騒音や通った後の被害はある)が、今回は優輝達の霊力に誘われて来たらしく、理性はない。
幽世の門…霊力を持つ者(正確には陰陽師)の実力に応じて開く。妖が現れる原因。門には必ず守護者となる妖がおり、それを倒さないと門は閉じれない。
幽世の大門…全ての元凶。江戸時代に幽世の門が現れるようになった原因であり、椿と葵の前の主によって閉じられ、封印されたはずの災厄。当然、この門にも守護者はいる。
もう隠し通せないぐらいに妖は現れています。
退魔士の人達も既に裏で動いており、那美さんや久遠も別の場所で動いています。
優輝が感じ取った通り、危険性ではアンラ・マンユに匹敵します。
規模で言えばアンラ・マンユの方が上ですが…今回あったロストロギアの効果は、その内日本以外どころか他の次元世界にも影響を及ぼすので、結局とんでもない事になります。
かくりよの門をある程度進めている人なら、もうこの章でのラスボスは大体予想がつくかと思います。まぁ、ネタバレなので言う訳にはいきませんが。
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