魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第5章:幽世と魔導師
第126話「妖からの防衛」
前書き
実は優輝達のように霊力を持つ者がいなければ警察だけでも割と対処できます。
尤も、霊術が使えないと門を封印できないので意味がないですが。
霊術使いなし→妖は弱体化するものの、根本的な解決ができない。(ジリ貧)
霊術使いあり→解決可能だが、その分妖が強くなる。(難易度ルナティック)
なんというジレンマ……。
=out side=
「先生!伏せて!!」
突然後ろから聞こえた声に、目の前の異形と対峙していた二人の教師は振り返る。
同時に、その異形…妖は声の方向に反応して飛び掛かった。
パァン!!
「シッ!」
空気が弾けるような音と共に妖は弾き飛ばされる。
声の主…優輝が事前に投げていた御札による衝撃波だ。
弾かれた妖に対し、優輝は一歩強く踏み込み、剣に変えたリヒトで一閃する。
「っ!(手応えあり。どうだ……?)」
着地と同時に即座に飛び退くように跳び、二人の教師を庇うように構えなおす。
相手は初見の相手。何があるか分からないが為の警戒だ。
「……消えた…。そこまで強い訳じゃない、のか」
「し、志導……?」
だが、妖はそのままあっさりと黒い靄のようになって消えた。
妖が消えた事で、教師の一人…榊先生が優輝に話しかける。
「今のは…それに、お前、その剣は……」
「……説明は後です。今は皆の安全確保に動いてください」
「だ、だが……」
「早く!!校舎からはできるだけ出さないように!無闇に逃げ回る方が危険です!……まだ、さっきのような奴は、やってきます……!」
何故剣を持っているのか、さっきのは一体何なのか。
二人は聞きたい事があったが、優輝はそれを押し込めて校舎の方へ追いやる。
「志導、お前はどうす―――っ!?」
ギィイイン!
もう一人の教師、近郷先生が優輝はどうするのか尋ねようとして、言葉を詰まらせる。
同時に響く金属音。また違う妖が、優輝を襲っていた。
「志導!」
「僕は大丈夫です!…ここは、言う事を聞いて守る事に専念してください」
「だが…!」
「榊先生、戻りましょう…!」
食い下がる榊先生を、近郷先生は引き留める。
「志導の言う通りなら、俺達は邪魔になります。…ここは戻るべきです」
「っ…無茶は……するなよ…!」
「分かってます…!」
そういって、二人の教師は校舎の方へと戻る。
それを視界に入れた優輝は、抑えていた妖の横に回り込み、掌底で吹き飛ばした。
「…え、優輝…?」
少し時間は戻り、優輝が飛び出した直後。
高速で飛び出したのを、聡は辛うじて優輝だと認識した。
「え、あ…斬っ…殺し、た…?」
「き、消えた…?」
そしてすぐさま斬られ、消滅した妖を見てさらに困惑する生徒達。
「皆落ち着いて!」
そこで、司が一喝するように言う。
通るような大声に、全員が司の方を見る。
「…今は、大人しく待ってて。安全が確保できるまで」
「司さん…何か、知ってるのか…?」
「一部分だけ…ね。とにかく、無闇に逃げ回らない事!」
全員を落ち着かせようとする司だが、当然不安は残る。
「(どう動くべきかな…。優輝君は次の妖を相手してるし、あれだけとは限らない…。裏門とかからもやってくるだろうし……)」
そこまで考えて、結論を出す。
優輝は既に隠す事を諦め、護る事を優先した。
ならばと、司もそれに倣う事にしたのだ。
「『なのはちゃん、奏ちゃん、帝君、聞こえる?』」
『…ああ、聞こえるぞ』
『つ、司さん!?あ、あの、今優輝さんが飛び出して……』
「『知ってるよ。…なのはちゃんは他の皆と共に今すぐ警戒態勢に移って。奏ちゃんは率先してさっきの…妖を倒すように。今すぐだよ!』」
まず念話でなのはと奏、帝に繋げ、指示を出す。
『で、でも……』
『…わかったわ。魔法や霊術の秘匿はもう不可能なのね…』
「『そう言う事。私は安全確保のための結界を張るのに動けなくなるから、よろしくね』」
奏が理解してくれたため、司は念話を切る。
なのはは渋っていたが、奏が説得してくれると思ったため、次に移る。
「『アリサちゃん、すずかちゃん、アリシアちゃん』」
『…妖…なんだよね?』
今度は念をアリシア達に繋げる。
アリシアは既に理解していたのか、尋ねてくる。
「『そうだよ。…三人は皆の援護を頼むよ。学校の皆を守る感じでいいから』」
『…大仕事ね』
『うん。…気を付けて司さん』
「『…うん』」
念も切り、これで連絡は行き届いた。
そして、すぐにシュラインを展開し、柄を教室の床につける。
「つ、司さん!?」
「…まだ状況把握もしきれていないだろうけど、我慢して」
周りが驚き、どうすればいいかわからない中、司は“祈る”。
「(本来、リンカーコアによる魔力は、霊力の産物とは相性が悪い。…けど、私の天巫女の力だけは別)」
リンカーコアによる魔力は、地球で扱われる魔力や霊力に破られやすい。
専用の器官によるエネルギーと、生命力を用いたエネルギーでは後者の方が“質”などが高いのだから当然である。
しかし、天巫女の力は霊術などに近く、例えリンカーコアの魔力で発動させても霊力で発動させた時とあまり変わりない。
「(…でも、この状況は長期戦になる。消耗は避けたい。…だから)」
魔力にしても、霊力にしても、安全確保のために張る結界は消耗が大きい。
そのための対策として、司は…。
「……来て、ジュエルシード」
天巫女一族の秘宝。ロストロギアでもあるジュエルシードを呼んだ。
管理局にて保管されているはずのジュエルシードは、司の“祈り”に答えるように、管理局に気づかれる事なく司の傍に現れた。
「…………………」
準備は整った。司はそのまま膝を付き、祈りの体勢に入る。
防護服は天巫女仕様となり、その姿に周囲の生徒達は息を呑んだ。
「…………」
一方、念話で状況を理解した奏は、廊下に出ていた。
「天使さん?一応、授業中だから廊下には……」
「……来た」
廊下に出ている事に気づいた教師が声を掛けた所で、奏は妖の気配を感じ取る。
優輝が張っていた霊力によるレーダー。それを奏は利用していたのだ。
「先生、校舎からは出ないようにお願いします」
「え、で、でも…」
「奏!」
そこへ、アリサとすずかがやってくる。
「バニングスさんと月村さん…どうしてここに…」
「すみません、説明している暇はないんです!…奏、妖は…」
「裏門から来ているわ。私が迎撃してくる」
「そう…じゃあ、あたしとすずかは屋上から見ておくわ」
先生に構っている暇はないと、アリサは奏と短く会話を済ませる。
「奏ちゃん、なのはちゃん達は……」
「フェイト達への説明はなのはに任せてる。…じゃあ、行くわよ」
「分かったわ!」
そういって、奏達は窓を開けて飛び出していく。
奏は裏門へと、アリサとすずかは屋上へと跳んでいった。
「…なんなの、一体…」
残された教師は茫然とそう呟いた。
ちなみにここは三階。教師が驚いたのは言うまでもない。
「『フェイトちゃん、はやてちゃん!』」
『なのは、どうしたの?』
なのはは念話でフェイトとはやてに連絡を取る。
なお、神夜はナチュラルにハブられていた。
「『司さんから通達。すぐに警戒態勢に移ってって!』」
『了解や。でも、魔法とかがばれるで?』
「『もう隠す事はできないから……』」
『…それもそうやな』
『わかった。まずは屋上に行こう』
フェイトの言葉に従い、なのは達もそれぞれ屋上へと向かった。
ちなみに、この直後に神夜から念話が来て彼も来たのは言うまでもない。
「さて、と。私も行きますか」
一階にて、アリシアもそう呟いて窓に手を掛けていた。
「アリシアさん?一体どこへ……」
「ごめん藍華。ちょーっと説明してる暇はないや。大人しく待っててくれると助かるよ」
「…そうですの…」
「じゃあ、行ってくる」
友人の藍華にそういって、アリシアは屋上に向かって跳んでいった。
「……もう皆集まってたみたいだね」
「アリシアちゃん…」
「状況はどうなってるの?」
アリシアが屋上へ着くと、既になのは達が揃っていた。
すぐに状況がどうなっているのか、裏門の方を見ているすずかに尋ねた。
「裏門は奏ちゃんが行ってるから平気だよ。正門は…優輝君が倒してくれたんだけど、今は発生源を探しに行って不在」
「そっか……。なら、私達は正門を中心に防衛すればいいんだね」
「そう言う事よ。……ところで、司さんは?」
「司さんは結界を張るって。時間がかかるみたいだけど……」
状況を確認し合い、どう動くべきかを判断する。
「あいつ、こんな時に勝手にどっか行きやがって…!」
「……裏門のフォローは俺とアリサが担当。すずかが指示を出してくれ。他は正門だ。アリシアとなのは、はやてが場の把握と援護。フェイトと織崎が抑えるように」
神夜の優輝に対する文句を無視しながら、帝が的確に指示を出す。
「…驚いた。最近は意気消沈してたのに、復帰してからさらに変わったね」
「ほっとけ。…ヴォルケンリッターや、椿や葵とかはどうした?」
アリシアの驚きの声も受け流し、帝ははやてやアリサ達に尋ねる。
「皆は、まだ気づいてないんやと思う…。魔力やなくて霊力やし…。プレシアさん所も同じやと思う」
「…一応、下調べに遠出してるって聞いてるわ。でも、今はどうしているかは分からない」
はやてとアリサの返答に帝は少し思考する。
「おい王牙!何勝手に仕切って……!」
「はやてとフェイトは先に念話で連絡を入れてくれ。少しでも戦力は多い方がいい」
「聞けよ!」
「うるさいなぁ……」
無視し続ける帝に神夜は怒りの声を上げ、アリシアがイラついたように呟く。
「あ、あの、落ち着いて…」
「落ち着きなさい!」
なのはが落ち着かせようとして、それを遮るようにアリサが一喝する。
遮られたなのはは若干涙目である。
「今は学校の皆を守る事に専念しなさい。緊急事態だというのに、余計な思考を混ぜすぎよ」
「あ、アリサ…俺は別にそんな…」
「だったら大人しく守りに就きなさい!」
それだけを言って、アリサは視線を戻す。
「時間を食ったわね。帝の言う通りの配置で行くわよ」
「屋上からの指示なら任せて」
「こっちは何とかするから、そっちも頑張って」
会話もほどほどに、アリサ達は裏門側の棟の屋上へと跳ぶ。
そしてアリシアも配置に就く。
「敵って…魔力を持ってないんだよね?だったら、サーチにも……」
「引っかからないよ。でも、幸い優輝が広げた霊力で私が察知できるから、討ち漏らした奴を倒すだけでいいよ」
「……わかった」
アリシアの言葉に、なのはいつでも魔力弾を放てるように準備しておく。
「(……来た)」
そして、妖がやってくる。
校門に現れたものとは違い、蝙蝠のような姿で飛んでいた。
「空中……ここから撃ち落とせるかな」
「えっ?」
「……穿て、“弓技・氷血の矢”」
フォーチュンドロップを弓に変え、アリシアは霊力の矢を番える。
そのままそれを妖に向けて放ち、命中させる。
矢の効果で当たった所から凍り付き、妖はそのまま落下した。
「仕留めきれてない……。なのは、トドメは任せたよ」
「え、あ、うん……」
あまりに淡々と、そしてあっさりと撃ち落としたアリシアに驚きを抱きながらも、なのはは魔力弾で妖にトドメを刺す。
「よ、容赦ないなぁ、アリシアちゃん……」
「相手は妖。人どころか動物ですらない相手だよ。油断も容赦もできない」
はやての言葉に、アリシアは冷静に言い返す。
尤も、アリシアは冷徹になっている訳ではない。
初めての実戦且つ、何か間違えれば誰かが傷つく状況。
その事に、アリシアは緊張と恐怖を押し込めようと冷静になり切っていた。
実際は体も強張っており、冷や汗も流れている。
「連絡は終わった?なら、いつでも動けるようにしてて。……まだ、やってくるから」
努めて冷静を保ちつつ、アリシアは正門の方へ視線を戻した。
「シッ……!」
ザンッ!
一方、裏門の方では奏が刀を振るっていた。
ハンドソニックでもいいのだが、常時展開しているのとではやはり消費が違う。
「……あたし達、必要あったかしら?」
「……うーん、案外必要みたいだよ。奏ちゃんの両サイドから来てる」
正門と裏門以外にも、普通に塀を超えてくる妖もいる。
すずかはそれを見つけ、すぐにどう動くか考える。
「私が足場を作るから、アリサちゃんは東側を。帝君は反対側をよろしくね」
「任せなさい」
「相応の働きは見せてやる」
すずかの指示にアリサと帝は返事する。
それを聞いてすずかは氷の霊術を発動させ、空中に足場を作る。
「調子に乗らないようにね!」
「今までの俺とは違うから安心しろ!そっちこそしくじるなよ!」
それを利用してアリサが、反対側へは帝が向かっていく。
すずかは二人を少し眺めてから、やってくる妖を観察する。
「(相手は妖……初見且つ生態がわからない……。なら、一挙一動見逃さないようにしなきゃ。アリシアちゃんや椿さんと違って、私はそこまで遠距離攻撃はできないんだから)」
戦局を見るのに長けていると、すずかは椿に言われていた。
あまり自覚はないが、アリサや帝と比べると優れているとは思っている。
だからこそ、二人…そして奏の援護ができるように、すずかは妖を見逃さないようにした。
「(……学校全体のざわめきが大きくなってきた)」
そして、司は未だに“祈り”を続けていた。
25個のジュエルシードの内、1個が淡い光を放ちながら司の周りを回っている。
「(…これ以上悠長に“祈り”は込めてられない)」
祈りの体勢を変えずに、司はようやく口を開く。
「……守護の力よ、我が想い、我が祈りに応え給え…。祈りを現に、願いをここに成就させよ。……天巫女の名において命ずる…!」
ヒィイイイン……!
司の言葉に呼応するように、周りを回っていたジュエルシードが輝く。
その様子に、同じ教室にいる者は息を呑んで黙ってみているしか出来なかった。
「守れ、護れ、守護れ……。我が祈りは破邪の祈り。邪悪なるものを寄せ付けぬ光の加護。………皆を包む、清き光よ……!」
紡がれる言葉に、輝きは増していく。
足元の魔法陣は広がっていき、やがては校舎が丸ごと入る程になる。
「顕現せよ、破邪の護り……!」
〈“Sanctuaire Avalon”〉
暖かな光が、校舎を包み込んだ。
「これって……」
「……魔を祓う力が感じられる…。霊力じゃないって事は、司の魔法だね」
その光は屋上にいるアリシア達をも包み込んでいた。
「……やっぱり天巫女って反則じゃない…?こんな大人数をきっちり守れる結界を張るなんてさ…。しかも、ちゃんと妖に対応しているっていうね……」
「そ、そうなの……?でも、こんな結界、相当魔力を……」
アリシアですらパッと見て凄まじい結界だと即座に悟った。
しかし、なのはは魔力の消費が大きいだろうと心配する。
「……そうだね。でも、あの司がなんの考えもなしに大きく消耗するとは思えない」
「……そっか、魔力結晶…」
「それもあるだろうけど……この規模となると……まさか、ジュエルシード?」
ハッと気づいたようにアリシアは呟く。
それを聞いて、なのは達は驚愕する。
「じゅ、ジュエルシードって管理局にあるはずじゃ……?」
「例えあったとしても無断使用だ。司、なんで犯罪を犯してまで……」
「……はぁ。ジュエルシードは元々天巫女一族の所有物。その気になれば次元を隔てても呼び出せるそうだよ。…無断使用については、全く問題ない。今言ったように持ち主なんだから、緊急時は使ってもいいと管理局から許可も出てるって」
そう。ジュエルシードは元々天巫女一族の秘宝。
例えロストロギアとはいえ、一族の秘宝を勝手に管理する程管理局も横暴ではない。
さらには、危険物とされる要因である“願いを歪める機能”はとっくになくなっているため、悪用されない限り大丈夫なのだ。
そのため、管理局からは天巫女である司ならば、緊急時であれば使用してもいいと許可が出ていたのだ。
「でも、なんだってこんな大袈裟に……」
「あのね、司は先を見通してこの結界を張ったんだよ?下手に切り札や力を温存して、中途半端な結界を張ってみなよ。それで皆に被害が出たら目も当てられないよ?魔力結晶だって有限だし、あれはブーストに使うべきなの。それならジュエルシードを使った方が効果も質も高くつく。……さすがにここまで理解しろとは言わないけど、温存する意味がないくらい理解しなよ」
「うぐ……」
アリシアの言葉にタジタジになる神夜。
その通りだと言えるその言葉に、何も言い返せない。
「……帝は呼ぶように言ってたけど、街中にはまだ一般人がいるんだよね…」
「っ…じゃあ、早く助けないと妖…?って言うのに……!」
「はやて、フェイト。ママ達やヴォルケンリッターに助けるように言っておいて。……魔法の秘匿は諦めて。この状況は日本全土に広がっているみたいだから」
「わ、わかった……」
再び念話で連絡を取るはやてとフェイト。
それを流し見して、アリシアは街を眺めるように見る。
「(……そう。これは日本全土に広がっている。……しかも、広範囲の応援要請の通信があった事から、魔法も無関係じゃない可能性が高い…。…ホント、日常って言うのは唐突に崩れ去るものだね…)」
弓に変えていたフォーチュンドロップを握る力が、自然と強くなる。
あまりに突発的で、大規模。そんな状況で危機感を感じずにはいられなかった。
「っ……!皆、構えて!妖が大量にこっちに来る…!」
「えっ…!?嘘……」
「…そっか…!司の結界!天巫女の力は魔力と言えど霊術と質が似ている…!引き寄せられてもおかしくはない…!」
遠目でもわかる妖の数。それが全方向から学校へ集まってきていた。
「神夜は下りて校門付近に陣取って。フェイトはそれを後方から援護。スピードでフォローしてあげて。はやては空から来る妖の撃墜。なのはは討ち漏らしを重点的に撃ち抜いて」
「アリシアちゃんはどないするんや?」
「椿になんでもできるように仕込まれてるから、状況に応じてどのポジションもこなすよ。問題は裏門側なんだけど……」
ちらりと裏門の方を見るアリシア。
「……大丈夫だね。今の帝なら、きっちりやる事は把握できてるし」
「…変わったね」
「そうだねぇ」
感心するようにしみじみとアリシアは頷く。
「はい、さっさと今言った通りに動くよ!相手は待ってくれないんだから!」
「うん!」
「っ…いけない……!」
一方、すずかも妖が大量に接近しているのが見えた。
「(東側より西側の方が若干広い…。帝君はそのままで、アリサちゃんを奏ちゃんと合流させて守った方がいいね……)」
状況に対処するために配置を変えようと、すずかは考える。
「(…しまった…!帝君との連絡手段がない…!)」
そしてふと気づく。帝は霊術を扱えない。
……つまり、念による会話ができないという事だ。
「とりあえず、アリサちゃんと奏ちゃんに伝えて……奏ちゃんに帝君へ伝えてもらおう」
すぐに切り替え、実行する。
アリサと奏に妖が大量に接近している事を伝え、奏から帝へと伝える。
「(…優輝君達がスパルタだった理由って、こういう時のためだったのかな…?)」
終わりそうにない今の状況に、すずかは何となくそう思えた。
「……凄い……」
司の魔法を見て、誰かが代表するようにそう呟いた。
その声を聞いて、ようやく司は閉じていた目を開く。
「…ちょっと、判断を間違えたかな…」
「え……?」
冷や汗を流しながら司は呟く。
その呟きを聞いた聡は、どういう事かと声を漏らした。
「皆は校舎から絶対出ないでね。結界を張ったからだいぶ安全にはなったけど……そのせいで、妖がおびき寄せられる事になっちゃったから」
「ど、どういう事なの…?」
「…ごめんね。これから学校にやってくる奴らは、私達の力に引き寄せられて来たの。…詳しい事は後。私も行かなくちゃ」
ジュエルシードをシュラインに仕舞い、司はクラスメイトの間を縫って窓から出る。
ふわりと浮き上がった事にまたざわめきが起きる。
「本当にごめんね。原因が何かは分からないけど、皆を巻き込む形になって」
「司さん……?」
「…絶対に、護るから」
いつも何気なく会って挨拶している相手。
そんな相手に傷ついてほしくないと、司は強く想う。
「……雷の刃となりて、撃ち落とせ」
―――“Tonnerre pluie”
刹那、雷の刃が降り注ぎ、空を飛んでいた妖と、地上を跋扈していた妖を貫く。
居場所を把握していた妖を一掃したが、すぐに他の妖が出てくる。
「(……やっぱり、私達の霊力に引き寄せられてる。…優輝君は今、どこにいるの…?)」
それを見て、司は念話を優輝に繋げる。
「『優輝君!』」
『司か?随分大規模な結界を張ったみたいだけど、大丈夫なのか?』
「『うん。それよりも、優輝君は今どこに……』」
『海鳴市を散策中だ。妖が現れる原因である“幽世の門”を探している。……っと。結界を張った途端妖の量と強さが増したから、早く閉じないとな』
戦闘をこなしながら言う優輝の言葉に、司は申し訳なく思う。
“幽世の門”については、司も霊術を教わる時に少し聞いているので知っていた。
だからこそ、状況を悪化させた事に責任を感じていた。
「『ごめん、私のせいで……』」
『いや、安全確保という意味では司の判断は合っている。…椿と葵も今そっちに向かっている。僕が閉じるまで持ち堪えてくれ』
「『……わかった』」
念話を切り、目の前の事に集中する。
優輝を信じているからこそ、今この場を持ち堪えなければならないと思ったのだ。
「司!」
「アリシアちゃん!もう少し持ち堪えるよ!妖の量と強さに注意して!」
「了解!」
屋上まで飛んでいき、アリシア達と協力して防衛を続ける。
全体を見回し、司は満遍なくフォローしていった。
―――……戦いと災厄はまだ始まったばかり……。
後書き
地球の魔力…リンカーコアの魔力とは違い、霊力を術者に合わせて変質させたもの。便宜上魔力となっているが、実質霊力とあまり変わらない。
蝙蝠のような妖…野衾と呼ばれる妖。火のように揺らめく尻尾のようなものを持っている蝙蝠みたいな姿。茶色と青色があり、青色の方が強い。(青色はかくりよの門では猛火野衾と呼ばれている。)
弓技・氷血の矢…水+突属性の弓の技。かくりよの門では割と下位の技なのであまり威力は高くない。命中した相手を凍らせる矢を放つ。
Sanctuaire Avalon…天巫女が扱う最大級の結界魔法。祈りを込めれば込める程強度や効果が増し、さらにいくつもの効果を付ける事が可能。展開まで時間を要するものの、相応の強さを持つ。サンクチュエールは聖域のフランス語。
Tonnerre pluie…フランス語で“雷の雨”。文字通り雷の刃の雨を降らす魔法。非常に広範囲まで広げられるが、数を増やした分威力は落ちる。
学校の構造は正門側に棟に教室、裏門側の棟に職員室や音楽室などがあります。
そして、一年が三階、二年が二階にいる形となっています。
霊術を習っていた5人と帝は、齧った程度には妖と幽世の門は知っています。
尤も、ないよりはマシな付け焼刃ですが。優輝も付け焼刃の域を出ません。
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