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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  山嵐のジレンマ

 桜色の髪が踊る。 地は裂かれ、大気が震え、敵は塵芥へと姿を変えていく。
 蹂躙の一言が相応しいだろう光景は既に幾度も繰り返された作業になっている。 見慣れたワンシーンと言って正解だ。
 獰猛に歪んだ口角と狂笑に辟易としながらもユーリは周辺警戒に勤しんでいた。

 パズル部屋(命名アマリ)から脱出した2人だが、今度はどことも知れぬダンジョンを彷徨っていた。
 マップは全て白紙。 位置情報を参照してもどこだか全くわからない。 見覚えはもちろんない。 そんな場所に強制転移させられたのだ。
 慣れたと言えばこれも慣れてしまっている。 2人はすぐさま周囲の探索を開始し、出てきたモンスターをアマリが嬉々として消化してしまう。 ユーリの出番は殆どと言ってないのだが、警戒と言う概念をどこかに置き忘れたようなアマリに変わって索敵するのがユーリの主任務だった。
 現状、敵のレベルが低いのでどれだけ数を揃えようと鎧袖一触にアマリが吹き飛ばしてしまう。 防御をまるで考えない特攻には肝を冷やすものの、最大HPの多さと戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルによって受けたダメージが即座に回復されるため、特に問題は見受けられない。 それをアマリが計算に入れて行動しているのかは非常に微妙なラインだが。

 (いや……こいつはキチンと計算してるのか)

 声に出さずユーリは納得する。
 パズル部屋で垣間見たアマリの本性は、むしろ理知的なものだった。 そう結論を出すのは当然だ。

 「あーーーーっはぁーーーーー!」

 雄叫びなのか笑声なのか判別のつかない叫びを上げ、最後の1体を爆散させたアマリはその場で反転してユーリにピースサインを送る。 諦め気味に肩を竦めたユーリは苦笑を浮かべつつもアマリに歩み寄った。

 「ご苦労さん」
 「あっはー、楽しいですよー」
 「会話が噛み合ってないな」
 「あはー、次はどれをぶっ殺せばいいですかー?」
 「出てきた奴を叩けばいいさ」

 にゅふふと笑う桜色の珍獣に何度目かになるため息を送り、ユーリは表示させたマップに目を落とす。 それを覗き込もうとアマリが顔を寄せてくるが、可視化していないためユーリ以外に見ることはできない。
 距離感が近過ぎるアマリの頭を軽く小突いてからマップを可視化に設定した。

 「俺達が出てきたのがここ……今はここだ。 脇道らしきものはなかったから多分一本道なんだと思う。 形状は若干歪だが反時計回りの渦巻状。 だからこのまま進めばマップの中心に行くことになるはずだ」
 「うに、つまり出てくる敵を全部ぶっ殺せばいいですねー」
 「お前はそれでいい。 このクエストの意図を考えるのは俺の役目みたいだからな」
 「うー、突っ込みがないのはつまんないですー……」
 「ここに出るレベルの敵なら問題にならないだろ? 頼りにしてるぜ、《惨殺天使》」
 「その呼び方はやめて欲しいです、《舞姫》ちゃん」
 「てめえ……」

 呪詛の篭った声を上げるとアマリは笑いながらも後退する。 その動作に連動して「ユーリちゃんが怒ったですー。 きゃふー」と無駄に高いテンションを披露しているのが尚更ユーリの心を掻き乱す。

 「まあいい。 さっさと行くぞ。 お前だって旦那に会いたいだろ?」
 「今は別居中なのです。 フォラスくんが謝るなら許して上げるかもしれないこともないかもしれないのです」
 「それ、結局どっちなんだ? いや、いい。 何も考えてないのはよくわかったからそんなに首を傾げんな」

 狭い通路に入り、肩を並べて歩きながらも馬鹿話は止まらない。
 危機感がすっぽり抜け落ちているのはなにもアマリに限った話ではないようだ。 ユーリもまた、油断していた。
 繰り返される低レベルの敵との戦闘。 命の危機のない現状。 出てくるモンスターはアマリが全て平らげてしまい、戦闘らしい戦闘をしたのは砂漠でが最後で、それ以来とんとしていない。
 だから緩んでいたのだろう。 それを責めることは、きっと誰にもできない。

 だが、世の中にはこの状況にぴったりの言葉がある。

 油断大敵。

 「ユーリちゃん!」

 突然、アマリが切羽詰まった悲鳴のような声で名を叫ぶ。 索敵のアラートは鳴らず、けれどユーリ目掛けて針のような何かが飛んできていた。
 視界に入った時には既に遅い。 気がつけば回避不能のタイミング。
 それでも反射的に左手で顔を庇い、その瞬間軽い衝撃と共に全身の力が抜けていった。

 「なっ……」

 麻痺毒。

 地に倒れ伏すまでの刹那でユーリはそう理解した。

 ユーリはソロ、あるいはコンビでの狩りを主としている。 周囲の助けがない状況での麻痺などは致命的で、故にタンク職でもないのに耐毒スキルを相当に鍛えていた。 加えてユーリが保有する人狼スキルの『戦闘系スキル全般のレベル向上』と言う破格の効果がほぼ常時発動しているため、ちょっとやそっとの毒は麻痺に限らず高確率でキャンセルできるはずだった。 フェイスチェンジを使って獣耳や尾を隠している状態ではその効果も望めないが、今はそれを発動してはいない。

 だが、だがしかし、だ。

 耐毒スキルは確かに便利なスキルで、低レベルの毒であれば高確率で防げるものだが、しかしその確率はどれだけスキルレベルを上げようと100%にはならない。 99.99%の確率で毒を無効化するのが上限であり、それはつまり0.01%の確率で毒を被ってしまうと言うことだ。

 そして今。 0と言ってもいいはずの0.01%をユーリは引き当てた。 引き当ててしまった。

 「逃げ……」

 ろ、とは続かない。
 いっそ暴力的と言っていいほどの乱暴さで手が掴まれ、そして引かれる。 力の抜けた身体は面白いように地を転がり、けれど相棒が仕立ててくれた高性能な服装備のおかけでノーダメージで終わった。

 「ばっ……」

 かやろう、とも続かなかった。
 通路の奥から飛来する銀色の何かと地に転がるユーリとの間に、毒々しい紫紺の両手斧と桜色が立ち塞がった。
 その光景を見れば何が起こったのか容易に想像がつく。

 麻痺毒に侵され、身動きが取れなくなったユーリを庇い、自身の後ろに放り投げたアマリがその身を盾にしようとしているのだ。

 ギギギ、と続く高音の響き。
 ドドド、と続く低音の響き。
 それが針のような銀色の何かが地面に突き立てた両手斧とアマリの身を穿つ音であることは明白だった。 アマリのHPはギリギリ視認できるほど緩慢なペースで減少し、それもすぐさま回復する。 肉壁としてこれ以上ない性能を発揮しているアマリは、普段の壊れようからは想像もつかないほど悲壮な顔で、ユーリに振り返った。

 「あ、はー、無事です……かー?」
 「おまっ、馬鹿か⁉ 逃げろ!」

 目に涙を溜め、悲壮な顔を更に歪め、けれどアマリは動かない。
 自身の武器を盾に、自身の身を盾に、他人と言ってもいいユーリを守るため不動の壁となっている。
 元より両手斧に身体を預ける算段だったのだろう。 既にその身は麻痺毒に侵されているはずなのに、それでも倒れることはない。 麻痺になりながらも緩慢に動く右手で頭を押さえ、溜めた涙が溢れるのを拭いもせず、アマリは小さな声で囁いた。

 もう誰も死なせたくないです、と。

 ユーリは頭が沸騰するような感覚に襲われる。
 その言葉の意味を、余さず理解してしまったから。

 アマリの過去は知っている。 全てを、とは言わないが、それでも表面的なことはユーリも知っているのだ。
 親友を亡くしていることを、無二の仲間を亡くしていることを、ユーリは——否、SAOに囚われているプレイヤーの殆どは知っている。 《慈悲の歌姫》と呼ばれた彼女の死は、プレイヤーの多くにとって悲報だった。

 大切な者を守れなかった苦痛はトラウマとなり、手の届く命を助けることを強制する。 お気に入りの玩具程度にしか認識していないだろうユーリを守るため、その身すらも犠牲にしてしまえる。

 なんと歪んだ価値観か。
 なんと壊れた死生観か。

 この程度の攻撃であれば死なないとタカを括っている?
 違う。 それは違う。
 アマリは、そしてアマリの伴侶であるあの少年は、自身が本当に死んでしまう状況だろうと、きっとその身を盾にしてしまえるだろう。

 ふざけるなと、ユーリは歯噛みする。
 そんなもの善性でも善意でもないと、ユーリは否定する。
 それは醜い我意でありエゴだ。 誰かを守って死ねるなら本望などと言うのは死の理由を他者に求めた自殺衝動だ。

 だからこそ、ユーリは叫ぶ。

 「ふ、ざけんな!」

 そしてユーリは駆け出した。
 耐毒スキルは毒を防ぐためだけのスキルではない。 身を侵す毒を通常より早く解除することもできる。 0.01%を射抜いた麻痺毒は極めて高度な耐毒スキルにより解除され、その瞬間にユーリは走り出していた。

 アマリの横を通り過ぎ、飛来する針を右手に握る刀で全て斬り落として走る。 後ろから聞こえるドサリと言う音はアマリが倒れた音だろう。 それでも振り返ることなく走る。
 斬り、砕き、走る。 走る、走る、走る。

 やがて視界に映ったのは、背に大量の針を生やしたヤマアラシのようなモンスターだった。

 「てめえか!」

 叫び、一足で刀の間合いへとそれを収める。 耳と尾を隠すために纏っていたローブは払いきれなかった針によって耐久値を削られ、青い粒子となって消えた。 忌避する耳と尾が外気に触れたことさえ意識せず、銀色の髪は燦然と煌めく。
 いつの間にやら鞘へと納めていた刀の柄に手を添え、滑り込むように深く身を沈めた。 モンスターもユーリを排除しようとその双眸をグルリと動かすが既に遅い。

 深い蒼のライトエフェクトを帯びた刀が振り抜かれる。 空振りでもしたのか、刀はなんの衝撃もダメージもモンスターには与えていない。

 しかし

 刹那の後に幾重もの斬撃が連なる。 軌跡は蒼の燐光を散らし、敵の身を、針を、耳を、頭を、口を、足を、その全てを余さず飲み込み、斬り刻む。

 ()()()10連撃ソードスキル、《真蒼》

 ユーリの切り札にして奥の手は、ヤマアラシのHPを喰らい尽くし、爆散させた。

 「————っ」

 成果を確かめるでもなく、硬直が解けるや否や反転。 来た道を必死の形相で駆け戻ったユーリは地に倒れ伏すアマリと、その背中にツルハシ状の武器を突き立てているモンスターを視認した。

 「あはー、ユーリちゃんぐっじょぶですー」

 麻痺の解けていないアマリから気の抜けた労いが飛ぶが無視して、ユーリは狭い通路内を跳んだ。 動けないアマリを執拗に攻撃しているゴーレム型モンスターの顔面にユーリの飛び蹴りが炸裂するが、ソードスキルでもない、まして筋力値がそこまで高くないユーリの一撃では満足なダメージは与えられない。
 それでもアマリに向いていたヘイトがユーリに向けられ、その手に持つツルハシが緩慢な動作で振り上げられる。 しかし、それは彼の前では致命的に遅かった。

 ユーリの身が空中で翻る。 刀が纏う光は髪と同色の涼やかな銀。
 回転の勢いを乗せた一刀が振り下ろされ、ゴーレムの右腕を斬り落とす落とす。 着地と同時に振り上げられた一刀がゴーレムの左腕を斬り落とす。 敵のHPが僅かに残り、本来であれば技後硬直に縛られるはずのユーリの右脚が輝き、直後後方宙返りと共にゴーレムの顎へと爪先が突き刺さった。

 刀2連撃ソードスキル、《窮寄》並びに体術ソードスキル《弦月》

 異なる武器種によるソードスキルの連携により、ゴーレムもまた爆散した。






 「馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、お前、本当に馬鹿だな」
 「唐突な罵倒にショックを隠せないです」
 「笑いながら言うな馬鹿」

 あの後、モンスターを退けたユーリはアマリの口に有無を言わさず解毒ポーションを押し込んだ。 半ば以上無理矢理だったためにアマリは抗議の声を上げたがそれも無視。
 麻痺が解け次第、来た道を引き返して直近の安全地帯へとアマリを連行した。 こちらも有無を言わさずだったが、反省しているのかそもそも先に進むことへの興味が薄いのか、アマリからの抗議はなく、安全地帯へと到着してすぐのやりとりがこれである。

 「庇うにしても自分の身を盾にする馬鹿がどこにいる、この馬鹿。 お前まで麻痺喰らって、もし俺がすぐに回復しなかったらどうするつもりだったんだよ馬鹿。 あれであのMobがもっと強かったら最悪共倒れだったじゃねえか馬鹿。 ああ言う時はもう片方が敵を排除するか、あるいは撤退するかが基本だろうが馬鹿」
 「馬鹿馬鹿言いすぎですよー」
 「うるせえ馬鹿」
 「あはー」

 渋い顔でなおも言い募るユーリの罵倒を聞きながら、アマリは安置の壁を背に座り込んだ。 言いたいことは山ほどあるが、ユーリもようやくそれに倣いアマリの隣に腰を落とす。

 そして無言。
 知っている顔に対しては口数の多いアマリも無言になり、ユーリもまた無言になる。
 その沈黙を破ったのはユーリだった。

 「……悪かったな」

 それは謝罪。
 あの時、ユーリの油断によってあれは起こったのだ。 危機感がないと思われたアマリが真っ先に気づき、忠告を投げてくれたにも関わらずユーリは反応できなかった。
 あのモンスターが最前線クラスだった場合、間違いなく共倒れになっていただろう。 もちろんアマリが身を盾にして共に麻痺したことによって状況が悪化したのも確かだが、それでも発端がユーリであったことは純然たる事実だ。

 油断。
 暴れ回るの役目をアマリに任せ、索敵は自身の役目だとしていたと言うのに、その自分が油断してしまうとは何事か。
 道中の敵が弱かったなんて言い訳にならない。 明確すぎるほど明確な落ち度だった。

 故にユーリは謝罪する。
 しかし、アマリはユルリと首を横に振った。

 「ユーリさんはなにも悪くないですよ。 索敵範囲外からの奇襲だったから仕方ありません」
 「けど……」
 「仕方なかったのです。 次謝ったら怒りますよ?」
 「…………」
 「ユーリさんも私も生きています。 だからハッピーエンドですね」
 「……まだなにも終わってないけどな」

 言いつつアマリの横顔を覗く。
 そこに邪気はなく、不満の色も見えなかった。 危険な状況を脱した安堵も、見えなかった。

 「なあ、アマリ」
 「はい?」
 「お前は……」

 言いかけた言葉を飲み込む。
 歪んだ光彩を放つ目が、これ以上踏み込むなと語っていた。 その瞳が言葉よりもわかりやすく拒絶を突きつけていた。
 友情は望むべくもなく、親愛は一毫たりとも存在しない。 触れるなと言う意思表示だけが映り、ユーリをひたすらに突き離す。

 だが、それに従ってやるほどユーリは優しくはなかった。
 それに従えないほど、ユーリは甘く、お人好しだった。

 「お前はいつまでキャラを演じるつもりなんだ?」

 答えは、歪に歪んだ笑みだった。 
 

 
後書き
 ユーリちゃんは強い(確信

 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 またもやコラボで重い話題が出てますね。 反省しない迷い猫クオリティです、どうも。

 さてさて、今回はユーリちゃんのかっこいい戦闘シーンが書きたかったわけですが、敵のレベルがかなり低いことも手伝って瞬殺と相成りました。 人狼スキルによってブーストされているステータスとソードスキルを使えば瞬殺もやむなしでしょう。 それでも0.01%を引き当てちゃうユーリちゃん……主人公補正とか甘い幻想はうちにはないのです←

 最後の最後で地雷原に特攻したユーリちゃんの未来はどっちだ⁉︎

 ではでは、迷い猫でしたー 
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