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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  フォラスの弱点。 あるいは欠点

 「初撃決着。 ルールはなんでもありでいいんだよね?」
 「うん。 アイテムも飛び道具もあり。 もちろん僕もいろいろ使うけど」
 「うわー、悪どい顔」
 「あ、でも初手は譲るよ」
 「なにそれ余裕? それとも罠なのかなー?」
 「今回のデュエルの目的は互いの力量把握だからね。 一撃で終わらせちゃったら意味ないもん」
 「……へぇ」

 あ、イラってしてる。 いやまあ当然か。 そうなるようにわかりやすく挑発したわけだし。
 一撃で終わらせたら意味がないから初手は譲ると言うことは、つまり同時に動けば一撃で終わるって言うことだ。 それを瞬時に理解して発奮してくれるシィさんのわかりやすさには感謝しかない。 こう言う素直な人は僕としては好感が持てる。 主に挑発しやすいと言う意味合いで。

 ギラギラと戦意を滾らせるシィさんに向かってニコリと笑いかけてからデュエル申請を飛ばす。 ウィンドウを叩きつけるようにして承諾され、同時にカウントダウンが開始された。
 シィさんの武装は相変わらず短槍。 メインで振り回していたものではなく投擲に使っていたうちの1本だけど、それはフェイントの可能性もある。 そのくらいの小細工は当然使ってくるだろう。 それは性格が悪いのではなく、戦術家としての策だ。
 頭軽そうだけどなんだかんだ戦闘面では策士だからなーと、そんな失礼なことを考えつつ僕も構える。

 右手にエスペーラス。
 左手にマレスペーロ。

 道中で分析した戦闘能力から推察すれば双剣の連撃で押し切れるだろうし、今回の僕は薙刀遣いではなく双剣士として戦うつもりなのだ。 デュエルのそもそもの目的を考えれば武装はこれ以外にない。

 ヒュンヒュンとシィさんの手の中で短槍が回転する。

 5

 体勢は直立で左足を前に出した半身の構え。

 4

 初手は投擲か、あるいはそうミスリードしての突撃か。

 3

 好戦的な性格を加味すれば突撃の可能性もあるけど、それだって偽装の可能性はある。

 2

 つまりはまあ、初手不明ってことだ。

 1

 だから僕は……

 0

 全力でシィさんとの距離を詰める!

 カウントダウンが終わったその瞬間、僕は一気に駆け出した。 シィさんの表情に浮かんだのが驚愕ではなく呆れだったのはこれを予期していたのだろう。
 本当に流石だ。

 マレスペーロをシィさんの左足に突き込むけど余裕の動作で回避される。 リーチの短い僕の刺突は簡単に躱され、代わりに左手1本で持った短槍による薙ぎ払いが空気を裂いて繰り出された。
 その反応速度は一級品で、しかしそれでも回避できないほどではない。 少し上体を引くだけで回避は容易だった。
 次いでダラリと下げていた左手のエスペーラスを跳ね上げようとするけど、右足の裏で手を押さえられて振り抜くことはできない。 ならばと引いて体勢を崩そうとするもののそれも予測済みだったのか、あるいは体幹がいいのか、バランスを崩すまでには至らない。 それどころかそこから右足が跳ね上がって僕の顔面に向かってくる始末だ。
 戦闘勘まで一級品だなーと呑気に考えながら左肩を突き上げて防御。 同時に足首を掴もうと手を伸ばすけど先程振り抜いていた短槍の切っ先を地面に突き立て、それを起点に後方へ跳びつつ宙返りと言うアクロバティックな方法で回避されてしまう。

 この間たったの1秒。

 「……初手は譲るんじゃなかったの?」
 「あれ? 手加減して欲しかった?」
 「うわー、平然と嘘吐きだー」
 「敵の言葉を信じるなんて甘ちゃんだね」
 「絶対泣かす!」
 「はい、頑張ってー」

 開いた距離での言葉の応酬の後、再び距離を詰めての斬り合い蹴り合い殴り合いになる。

 レベルは僕の方が間違いなく高いだろう。 だと言うのにこちらの攻撃は悉くが躱され、弾かれ、いなされる。 ステータスの差を類稀な戦闘勘で補強しているらしく、その立ち回りはかつての友を想起させた。

 「隙、あり!」
 「うげ」

 一瞬の動揺を捕まえ、シィさんの身体が地を這う蛇のような動きで迫る。 させじとバックステップからの振り下ろしで迎撃しようとした僕の眼前で急ブレーキ。 リーチの短い僕の一撃は空振り、致命的な隙となる。

 「喰☆ら☆えぇえぇぇぇぇぇ!」

 弾むような声から一転、凄まじい殺意の滲む咆哮と同時に短槍が投擲される。 まあ、予想通りに。

 顔面一直線に向かってくる短槍(殺意が高すぎないかな?)を首を傾けて回避しつつ、後方に飛んでいくそれを事前に開けていた右手で追い縋るようにしてキャッチ。 お返しとばかりに今度は僕から投擲のプレゼントだ。

 「こら勝手に使うな! 某金ピカも怒っちゃうからね!」

 とは言えそれも悠々とキャッチされて意味のわからない文句で戯けられてしまう。 いや、本当に意味がわからない。

 ここまで完全に互角。 むしろ僕の方が押されていると言っていい。
 トリッキーな戦い方をする人は何人も見たけど、シィさんは群を抜いて変則的な動きをする。 お陰で僕の行動予測がまるで役に立たない。

 「ねえ、シィさんって本当に人間?」
 「おいこらどう言うことだー」
 「いやだって、人間の身体構造的にそんなヌルヌル動けるはずないんだけど?」
 「仮想空間ならワンチャン!」
 「そりゃ確かに関節の駆動とか筋肉の動きとか現実を完全に再現しきれてなっつぅおっ」
 「ちっ、命冥加な」
 「不意打ちとか卑怯じゃないかな?」
 「お前が言うなって突っ込みはなし?」
 「じゃあありで」
 「死ねぇ!」

 頭の悪い会話をしながらの死闘である。
 跳び上がったと思ったら短槍の投擲だったり、着地点を襲撃しようとしたら裁縫で使う中では割と大型な針が飛んできたり、かと思えば周囲に短槍を放り出して投擲を繰り返して見たり、普通の人はやらないような戦法を色々と披露してくれた。
 僕個人としては実に面白い戦いだし、一部は参考になる戦法もあったりするけど脅威と言うにはまだ少し足りない。
 レベルの差が完全には埋めきれていないのか、あるいは僕が段々シィさんに慣れてきたのかはわからないけど、このままケリをつける算段はついた。 それに力量の把握と言う点ももう十分だろう。 僕は殆ど手の内を見せていないので悪い気もするけど、このまま長引かせる理由もないことだし終わりにしようかな。

 「うげ、槍が切れたー!」
 「弾数計算くらいしとこうよ」
 「うっさい! ここからがウルトラシィちゃんの本気の時間DAZE☆」
 「はいは……」

 い、とまでは言えなかった。
 思わず硬直してしまう。
 シィさんの本気。 それは主武装の開帳に他ならない。
 そうだ。 シィさんは短槍遣いではない。 短槍遣いだった、が正解だ。 彼女の本気、彼女の本当の武装。 それこそは……

 大鎌

 彼女が好んで使う真紅ではなく、漆黒と紅色の大鎌。
 全体の刀身が漆黒で刃が紅色。 柄との接合部には十字架の如き意匠が刻まれ、刃の逆側と柄の先端には更に小さな刃が付いている。 柄の長さだけでシィさんの身の丈を楽々と越すそれを、しかしまるで苦もなく構えてみせた。
 扱いの極めて難しい大鎌だけど、シィさんはそれを完全に使いこなしている。 リーナをして《アインクラッド最巧》と絶賛していた人だ。 油断なんてできるはずもないし、全力の警戒で当たらないといけない。

 いけない、のに……

 「————っ」

 視界がグラリと歪む。 息が荒くなっているのを冷静な自分が自覚し、けれど軋む頭が冷静な自分すらをも塗りつぶす。
 わかってはいるんだ。 シィさんはリーナではないし、大鎌を使っているだけで重ねるなんて失礼な話だ。 わかっている、わかっているのに……。

 「リーナ……」

 ズキズキと軋む頭は鉛のように重い。 手足が動く気配はなく、霞む視界に黒い影を幻視した。

 「違う……あれはリーナじゃ、ない……」
 「フォラス! ちょ、大丈夫⁉」
 「ん……大丈、夫」
 「あー、あ……これ?」
 「ううん、気にしないで。 続けよう。 動いてれば考えられなくなるから」
 「でも……」
 「いいから」
 「……そ」

 やれやれだぜー、と肩を竦めたシィさんの手の中で大鎌が翻る。
 僕の説得を諦めたのか、あるいは気遣うことをやめたのか、どちらにせよ僕に対するのならそれで正解だろう。 余計な気遣いは無用だ。

 「じゃあ、いっくよー!」

 軽やかなステップ音と同時にシィさんの身体が駆ける。 短槍を使っていた頃よりも武器の重量の関係か若干遅いけど、それでも今の僕では追いつける気がしない。 だから、追いつくことは諦めた。

 「ぜい、やぁ!」

 うねりをあげて振るわれる大鎌の一閃。 他の武器にはあまり見られない完全円弧であり視覚から襲い来る斬撃を初見で回避することは困難だろう。 そう。 初見であれば、だ。
 首を落とそうと迫る一撃を身を屈めて回避。 同時に振り抜いてガラ空きになっているシィさんの腹部を逆手に持った左の剣で横に薙ぐ。
 とは言えさすがは最巧。 その斬撃は柄を立てることで完全に防がれ、逆に返す腕で下方から大鎌の刃が振り上げられる。

 「っ!」
 「死に晒せぇ!」

 迫る凶刃はバックステップで射程範囲外に逃げ——

 「甘ーーーーーーーーーい!」

 ——ようとした瞬間、僕が跳んだタイミングを見計らって腕を捻りつつの突きが放たれる。 それでも重量の関係でそこまで圧倒的な速さではなく、着地がギリギリ間に合い、転がってなんとか躱……頭スレスレを通過した大鎌に肝を冷やし、直後自身の失策を悟った。

 「甘ーーーーーーーーーいTake2!」

 右手で掴んでいた大鎌の柄が全力で引かれる。 連動して僕の背後に回っていた大鎌の刃が迫る。 ギロチンに処されている気分だと呑気に思いつつ、大鎌の刃と背中との間に右手に持ったマレスペーロを捩じ込んだ。

 「どう? ねぇ今どんな気持ち? ねぇ、ねぇねぇ!」
 「……最悪一歩手前な気持ち、かな?」
 「こんな状況なのに冷静だねー」
 「まだ負けてないからね。 っと、うん、もう大丈夫。 シィさんはやっぱりリーナじゃないや」
 「当然っしょー? だってシィちゃんはシィちゃんだからね! だから、リーナちゃんはリーナちゃん。 あの子の代わりは誰にもできないんだよ。 ……アマリちゃんにもね」
 「————っ」
 「別に私には関係ないけどさー、っと隙あり」

 ガツンと頭を殴られた。 二重の意味で。

 「揺さぶりのつもりが結構効いたねー。 もしかして図星だったのかな? かなー?」

 鳴り響くファンファーレに乗せてシィさんは言う。 僕は聞こえないふりで無視した。 
 

 
後書き
 トラウマスイッチは押されてしまいました。
 と言うわけでどうも、迷い猫です。 普段の言動からは想像もつかないくらいメンタル豆腐なフォラスくんは精神的に無事死亡(合掌)

 いやね、本当はもっと長かったんですよ? シィちゃんがもっと執拗にフォラスくんのトラウマスイッチをポチポチするはずだったんですよ? でも推敲してたら「シィちゃんは人を弄るの大好きだけど人を虐めたりはしないよな」と言うことで路線変更。 それでも盛大に極太の釘を打ち付けていましたね、パイルバンカーは男のロマン! むせる←
 と言うか、今回のコラボでは2人揃って地雷原に特攻しすぎじゃないですかね? まあ、これが迷い猫クオリティ。

 次は地雷原に特攻したユーリちゃんの安否確認death。 合掌の準備をどうぞ。

 ではでは迷い猫でしたー。 
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