ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで
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憂いの雨と陽への祈り
大きく振りかぶって
「お願いです。 どうかこの国を救ってはいただけないでしょうか?」
切り出しがそれだった。
話が飲み込めないどころか全く理解できない依頼に、シィとフォラスは沈黙してしまう。 ソファーに並んで座る2人の困惑は、しかしフォラスのほうがいち早く復帰できたらしい。 胡散臭い微笑と共に口を開こうとして、けれどすぐに噤んだ。 フォラスから数瞬遅れて現実復帰したシィに全てを押し付けるつもりなのだろう。
「どう言うこと?」
「ええ。 順を追って説明しましょう。 この国は財政危機に瀕しています。 降り続く雨によって作物は育たず、衛生状態の悪化から疫病が後を絶えません。 下層から食材や薬を輸入することで誤魔化してきましたが、それももう長くは持たないでしょう」
「財政危機、ね……」
「なにか?」
「いや、なんでもないよ。 今回の僕はただの同行者だ。 余計なことは言いません、ってね」
「そうですか。 では続けます。 幸いにして雨を止める手段は判明しています。 確証はありませんが、きっと間違いないかと」
「よくわかんないんだけどさ、方法がわかってるならこの国の人たちで対処できるんじゃないの? 国家の危機なら動くはずだし、エルちゃんの家は権力者の家系なんでしょう?」
「それは……いえ、それは無理なのです。 何故なら父上がそれをお許しにはならないからです。 現状に甘んじ、いずれ訪れる緩やかな崩壊を受け入れているのでしょう」
「でもエルちゃんはどうにかしたい」
「はい。 わたしはこの国の死を享受できません。 しかし雨を止めるためには魔物の巣食う塔に行かねばならないのです。 わたしではとてもではありませんが手を出せず、この国の兵を使うことはできない。 親しい兵達だけでは戦力が心許ないと言う他ありません」
「で、私たち?」
「ええ。 危険なお願いだとは承知しています。 身勝手なお願いだとは理解しています。 ですが、ですがどうか、この国を救うため、その力をお貸しください」
内容はそんな感じで、沈痛な表情でのお願いにシィは頷いたのだった。
義を見てせざるは勇なきなり、なんて言葉を実践しているつもりはない。 単純にクエストに従っているだけであり、もっと即物的なことを言えばクエスト報酬が目当てで正解だ。 もちろん義侠心が僅かに出ているのも確かではあるが。
そんなこんなで2人は迷宮区に来ていた。
なんでも雨を止めるためにはここのどこかしらかにある装置を破壊する必要があるとかなんとか。 攻略の時もそれ以降もそれらしい装置があったなんて話は聞かなかったけど、クエストの依頼主が言っている以上はあるのだろう。
「ねえ、フォラス。 どこら辺にあると思う? さすがに迷宮区全部を捜索とか結構大変だけど」
「ん? 多分、最上層じゃないかな。 ここを外側から観察すると、最上層が無駄に広く作られてるんだよね。 だけど、実際の最上層はそこまで広くなかった。 だから、そこに隠し扉なりがある、と思う」
「ああ、そう言えばユーリが前にそんなこと言ってたかも」
「やっぱりあの人は目敏いね」
そこでようやくフォラスはクスリと笑った。
「んじゃ、最上層にレッツゴー」
「あ、いや、その前に装備変えていい?」
「ほい?」
「さすがに2人揃って長物って言うのは危ないかなって。 ここに出る敵のレベルくらいなら問題ないかもしれないけど、なにがあるかわからないしね」
「そりゃそうだけど、フォラスも私も長物しか使わないでしょ?」
コテンと首を傾げたシィにフォラスは微妙な間を置いて口を開く。 そこにあったのは迷いと葛藤で、けれどそれも一瞬だった。
「秘密にしておいてもらえると助かるんだけど、実はそれ以外にも手札はあってね」
「奥の手ってやつ?」
「そこまでじゃないよ。 隠し球、くらいかな。 でも広まるのはちょっと避けたいから使いたくはないんだけど」
「じゃあ使わなきゃいいんじゃない?」
「万が一のことを考えるとそうもいかないからね。 手の内を隠して危険に陥るなんて笑えないしさ」
やれやれだよ、とでも言いたげに首を振るフォラスにシィは疑問を感じた。
フォラスは攻略組の中でも上位に位置するプレイヤーだ。 ステータスバランスはシィの知る限りAGI特化。 故に危険な状況に陥ろうと逃げに専念すれば危険に追いつかれることはないはずなのだ。 ここが最前線より遥かに下である31層であることを加味すれば尚更。
だと言うのにまだ見ぬ危険のために隠しておきたい手札を晒すなんて、シィの中のフォラス像からは大きく離れている。
——あ、そっか
違う。
フォラスが心配しているのはフォラス自身のことではないと、少し悩んで気がついた。
フォラスが心配しているのはシィのことだ。
元攻略組であるシィ。 最前線に出なくなったシィの現在の実力をフォラスは知らない。 だから、フォラス自身が知る限りのシィのレベルに合わせて心配しているのだろう。
余計なお世話だと思う。 舐めるなとも思う。 だが、それを言葉にしないで気遣ってみせたフォラスの優しさに嬉しくもなった。
「と言うわけで他言無用で……って、なに笑ってるの?」
「フォラスってばお人好しだなーって」
「……そんなんじゃないよ。 僕の勝手だから」
ムスッとふてくされたように視線を逸らすフォラスについつい笑いがこみ上げてしまう。
以前のフォラスはもっと冷めていたし、周りに気を遣うことなんてしなかった。 自身に降りかかる火の粉は全力で払うが、自身から火中に飛び込むことはなく、徹底して周囲に壁を作り続けていたのがシィの知るフォラス像だ。
シィが攻略組から退いてから、きっと成長したのだろう。 それが本人の望む理由からでないにしろ、僅かでも接点があった身からすればそれが少しだけ嬉しかった。
「さあ、ピッチャー第1球、振りかぶって————投げたぁ!」
滅茶苦茶いいフォームで投げられた短槍がモンスターの腹部を抉りとる。 SAOではあまり見ない光景に愕然としつつも怯んだ隙に肉薄して双剣を振るう。 ネームドボスでさえ僕とシィさんの2人がかりであれば大した障害とはなり得ず、その身体を青いポリゴン片に変えた。
なんだかよくわからないテンションのシィさんに対してのツッコミは意地でもしない。
これならわざわざ双剣にする必要もなかったかな、と微妙な後悔は置いておくとしよう。 口止めはしたけど、それも実際に効果があるのかは微妙だ。 僕としては信じるしかない。
「んー、ちょっと拍子抜けだよねー。 もしかしてシィちゃんが強すぎるのかな? かなー?」
「だろうね。 まさか攻略組から外れておいて攻略組と大差ないレベルを維持してるなんて思わなかったよ。 最前線には出てないんでしょ?」
「実はたまに最前線に行っているのだよ。 そっちの方が素材美味しいからね」
「へえ、全然知らなかった。 ああ、でもちょっと前から噂はあったっけ。 最前線に現れる神出鬼没のプレイヤーがいるとかなんとか。 フードを深く被ってるから身元が割れてないらしいけど、あれってシィさんのこと?」
「えっへん」
「噂のプレイヤーの武器は刀だったって話だけどね。 あれ? そう言えばシィさんの相方さんも確か刀使いだったよね?」
「ナ、ナンノコトダネ」
「はいはい、詮索するなってことね」
そんな心温まるやりとりをしつつ、僕は双剣を鞘に落とし込む。
ここは迷宮区最上層。 予想通りボス部屋の近くに隠し扉があって、その先がここだった。
クエスト開放と共に出現する仕組みだったのだろう。 あるいはインスタンスマップかだ。 そう言えばクエストを開始してからプレイヤーに遭遇していないし、それを考慮に入れれば騎士団が現れる直前で切り替わったのかもしれない。 圏内にいながらコードが解除されたタイミングが個人的に怪しいとは思っているけど、真偽のほどはどうなのやら。
それにしてもシィさんの戦力は正直なところ予想外だった。
さっきみたいに後方から短槍をバンバン投げつける固定砲台の真似事をしたかと思えば、短槍片手に敵陣に突撃して暴風の如く暴れ、体術を織り交ぜて縦横無尽変幻自在に戦場を駆け回るのだ。 しかもどうやらまだまだ余裕があるらしい。
「さて、安置になったみたいだしちょっと休憩しよっか」
「おやおやー? まさかお疲れですかー?」
「まさか。 でもさすがにネームドボス連戦だったからね。 それに相談したいこともあるしさ」
ふーん、と返しながらシィさんはヒュンと投げ放った短槍の回収に勤しんでいる。 通常の投剣とは違ってコストが凄いことになるし、拾って使い回さないとやっていられないのだろう。 お財布にも敵にも優しくない戦法だけど、遠距離から一定のダメージソースが得られることの利点は相当に大きい。
このクエストが終わったら僕も試してみようかな。
「でさ、ものは相談なんだけど」
「うぃー?」
「ちょっとデュエルしない?」
「はいぃ?」
こいつ頭大丈夫か? と言う心の声が幻聴できるほどに訝しむシィさん。
いやまあ、大丈夫ではないから正解だけど、それでもこの相談は割と真剣なものだ。
「手の内を隠しすぎだと思うんだよね。 あ、お互いにね。 そりゃ完全に信頼できる関係でもないし仕方ないんだけど、それだといざという時の連携に響くでしょ?」
「一理ある……かも」
「だから実際に戦ってみればハッキリするんじゃないかなーって。 もちろん初撃決着でやるし、危険はないと思うけど……どうかな?」
「んー……んんー」
「嫌なら断ってもらってもいいよ。 この先ももしかしたら大したことないかもしれないし、わざわざお互いに手の内を晒す必要もないのかもしれない。 でも、懸案事項は1つでも潰しておかないと落ち着かない性分でさ」
心配のしすぎだとは思う。 でも、万が一の可能性は考慮しておかないといけない。
僕とシィさんとの突発コンビプレイは互いに知られても痛くない範囲内のみ、その手の内を明かしている。 それだけではどうにもならない事態にならないと、約束は誰もしてくれないのだ。
悩むこと数十秒。 シィさんはようやく決断したらしい。
僕をまっすぐに見つめ、その口角をあらん限り歪め、そして首を振る。 縦に、だ。
「いいよ、やろう。 手加減しない全力全開のシィちゃんを見せて進ぜよう」
「……全力全壊ね」
「字が違う!」
「どうしてわかったのさ……」
「そんな顔してたから。 って言うか、全壊はそっちこそじゃん」
「否定はしないでおくよ」
僕とシィさんとの間に流れていた緊張はすぐに霧散する。 互いの性格からか、どうやらシリアスに傾けないらしい。
「さて。 じゃあ、やろっか?」
もちろん全力全壊で、ね
後書き
さあ、ピッチャー第1球、振りかぶって……投げたぁ!
楽しい←おい
と言うわけで、どうも、迷い猫です。
シィちゃんがピッチャーです。 考えるな、感じるんだ。
以前のコラボで薙刀を投擲していたフォラスくんにシィちゃんをとやかく言う権利はないですね。 おまいう。
予定調和とは言えないコラボ中盤にして始まるタイマンは次々回に持ち越し。 次はユーリちゃんがユーリちゃんでユーリちゃんします。
ではでは、迷い猫でしたー
PS.このタイトルが誰かに届くと信じて
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