奇妙な暗殺教室
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狙撃の時間
俺の通り名は『レッドアイ』狙撃を専門とするプロと殺し屋だ。今回のターゲットは月を爆破した最高速度マッハ20の怪物…先程は八つ橋で弾丸を止められたが今回そこはレッドアイの名にかけて必ず殺してやる。
「さて、事前に打ち合わせした通りに行動していたらターゲットが生徒達4人と殺陣を見ようとしている筈だが…」
そう言い手元にあった双眼鏡で殺陣のイベントが行われる場所付近を覗いて見ると忘れもしない身長2メートルはあるターゲットと4人組の男女がいた。
「ベネ!…予定通りだ。しかもこの班は下準備もプロ並みに念入りに行なっている。これでやれなきゃプロ失格だ。」
撮影が始まり、主役の俳優さんであろう人が着物が豪快にはだけた。
「この桜吹雪、散らせるもんなら散らしてみろぃ!」
「えぇい!者共このうつけ者を刀の錆にしてしまえ!」
「「「「「「おぅ!!!」」」」」」
アクターである役者さんたちが一斉に抜刀し、派手に動き、観客の方へといく・・・しかも殆どのアクターは国が用意した防衛省の人間である。彼らと俳優には派手に立ち回るように頼んである。
(手筈通りだ。ショーに奴の気が向いている隙に…ん?)
手筈通りだったターゲットの殺せんせーがいつの間にかいなくなっていた。
(どこいった?って、何してんだてめぇ!!いつの間にアクターに回ってんだよ!)
事前に容易でしていたのか定かではないが武士の衣装とちょんまげのカツラを被った殺せんせーが
「助太刀いたす。悪党どもに咲く仇花は血桜のみぞ」
「決めゼリフも完璧だ!って、役者と一緒だと、流石に狙いずれぇ!!」
しかも少しドヤ顔なのが腹立つ・・・
「奴はとにかく速い。常識はずれの動きをするが、惑わされるな」
そう言った烏間先生の言葉をレッドアイは思い出していた
(常識外れすぎるだろ!だが、まだ狙撃のチャンスある…落ち着け俺)
そんな苛立ちを感んじぜすにはいられなかったレッドアイなど知る余地もなく、殺せんせーは模造刀を振るう。
(ヌルフフフ…やはり時代劇の殺陣は漢のロマンですね〜ついつい酔いしれてしまいます。)
縦横無尽に舞台を駆け回る殺せんせー流石に2班のメンバーは驚いたがそれは想定内であって想定外ではなかった。
だからこそ、この状況を放って置く理由は無い。何故なら想定内ということはそのシチュエーションが起こりうるという前提でこの計画を立てられているのだから
(ヌルフフフ…このまま撮影が終わるまで時代を駆け抜けた漢のロマンに酔いしれてま…っ!)
殺せんせーは背後から忍び装束を纏った男が殺せんせーめがけて屋根から落ちて来ることに気がつき、後ろに振り向き刀を構える。
ガキッーン!
という金属音と共に2人が交差し男は受け身を取りながら距離を取る。あのジャッキー◯ェンに匹敵するパフォーマンスに観客の拍手喝采が湧き踊る
(刃直前まで気づけなかった……野生の獣の様な気配の消し方ですねぇ…)
「我らに刃を向けた罰だ。恨みは無いがお命頂戴いたす!」
忍び装束の男が右手に持った竹刀を右からの袈裟懸けに斬ると殺せんせーは持っていた模造刀で防ぎ、受け流す。
返す刀で殺せんせーは左側から胴斬りを放つが黒装束の男はバックステップで下がり、それを避ける。だが、男は直ぐに体制を立て直し殺せんせーを追い詰める為に殺せんせーに肉迫し、正面から斬り掛かる。
殺せんせーは模造刀を横に構え男の刃を受け止めた。
「その体格と身のこなし…成る程、丈一郎君ですか」
一連の攻防で殺せんせーは丈一郎である事に納得したのかヌルフフフと笑みを浮かべる。
「チィッ!…やっぱり簡単に気付くよなぁ!」
対して忍者……もとい丈一郎はこのままではキリがないと感じたのか一旦距離を取り獲物を小太刀から別の獲物に変える。
「ほう…アメリカンクラッカーですか」
アメリカンクラッカー
長さ20~30cm程度の紐の先に直径数cmのボールが付いたおもちゃ。紐の中心にはリングがある。
リングを持ち上下に動かすことでボール同士をぶつけてカチカチ音を鳴らして楽しむ。
上手く音を鳴らすにはある程度のコツがいる。
「しかも素材は全て対先生物質で作るとは徹底してますね…とは言っても所詮はオモチャで拙者を殺すことができませんよ」
殺せんせーの言っている事は最もで、はたから見ればただのオモチャだ。しかも相手は模造刀とは言え、武装し相当手加減しているとはマッハ20の怪物である殺せんせー相手にそんなオモチャで挑むなど愚行とも言えるだろう。
だが、そのオモチャを武器として扱おうとしているこの忍者も普通ではない。
「コォォォォォォォォォ………」
独特の呼吸と共に丈一郎はアメリカンクラッカーをまるで、達人が扱うヌンチャクの様に複雑にかつ華麗に振り回す
「喰らいな…ジジイが発案したクラッカーヴォレイの妙技を!」
丈一郎は遠心力を利用して威力を高めたアメリカンクラッカーを投げつけると同時に殺せんせーに肉薄し懐にしまっていた対先生ナイフを取り出し斬りかかるが、当然の如く殺せんせーはこれらの攻撃を喰らわない様に避ける。
「ヌルフフフ…狙いは良いですが攻撃が単調すぎます。もっと工夫しないと当りませんよ」
だが、殺せんせーが避ける事は最初から分かりきっている事だ。
「と思うじゃん?」
ニヤリとあくどい笑みを浮かべるのとほぼ同時に丈一郎が立っている場所以外の全ての方向から複雑に絡み合った対先生用のBB弾がぎっしりと着いた糸の網が殺せんせーめがけて覆いかぶさろうとする。
「にゅにゃ!」
下手をすれば死にかねない絶対絶命のピンチ周りには無関係のお客様だけでなく自分の生徒達もいる中ではこの状況を確実に抜け出せる自奥の手は使えず、月一で使える脱皮も下手に使って脱出を試みても目の前にいる忍者が自分の急所にナイフを当てる可能性が高い以上脱出をするタイミングで使えば更に死ぬリスクが上がりかねない。なら今殺せんせーがとる行動は1つ
(網が私を覆い私を殺す前に唯一逃げられる退路を塞いでいる彼を殺陣で倒し退路をこじ開ける!)
殺せんせーは刀を構え即座に丈一郎に肉薄し丈一郎に斬りかかる為の一歩を踏み込もうとする。
だが、既に神がかった戦略と殺せんせーの思考をここまで読み切った丈一郎達がそう考える事を配慮していないと思うだろうか?いや、ありえない。
「にょわ!」
殺せんせーが踏み込んだ瞬間足が溶け出した。それもその筈網が殺せんせー目掛けて発射され忍者から目を離した一瞬の隙を突いて彼は対先生BB弾がばら撒いたのだから
(不味い!これが狙いか!)
当然態勢が崩れてしまい身がよろけ動きが一瞬だけ止まる
「貰った!」
レットアイはその一瞬を見逃さない。予想がつかない動きでチョロチョロと動き回る標的には当てられないが一瞬でも止まってしまえば彼の土俵…当てられない訳がない。
「ラァ!」
更に、丈一郎の懐にしまってあった対先生ナイフを烏間先生との模擬戦で披露したズームパンチを突き出しだそうとしている。これならばレットアイの弾丸を仮に避けたとしても波紋を帯びた対先生ナイフが殺せんせーの衣服ごと切り裂きにかかる。正に究極の2段構えである!
◆◇◆◇◆◇◆◇
「さて、班長直々に作戦を練って来いと言われたので作戦を考えたがその作戦を言う前に1つ聞くが、お前らは疲労破壊…という現象を知ってるか?」
出発の5日前、前日に映画村で狙撃をする事を決め班長である中村に班長特権とか言うもので参謀に任命された俺はそ殺せんせーが居なくなったのを確認し、収集した2班のメンバーを前に1つの問題を問いかけた。
聞きなれない…いや、普段生活する中で聞くことがないであろう何かの分野の専門用語を前に2班のメンバーはキョトンとしている。
「……その疲労破壊って暗殺に関係あるの?それに見ての通りみんな分からないからさっさと答えを教えてくれない」
流石にこの状況が続くのは不味いと思ったのか速水が代表して丈一郎にギブアップを告げる
「あぁ…大いにある。疲労破壊とは物作りの世界ではよく使われる言葉で、材料が長期間に渡って繰り返し応力を受けると、応力の大きさが材料の引張強さよりかなり小さい応力でも亀裂が発生し、最終的に割れに至る現象であり、この現象は」
「まてまて!何言ってるのか全く分からないからもっと分かりやすく教えてくれないか?」
聞きなれない呪文の様な専門用語をマシンガントークで教えるのは無理があったのか、流石の千葉も理解が追いついていない。不破と三村に至っては理解のキャパが一気に埋まってしまったのか気のせいか頭から煙が出そうな勢いだ。
「すまない。まぁいきなり小難しい話をしても分からなねーか。そうだな簡単な例を挙げるとすれば…
① 例えば自分が全力で力を加えてなんとか曲げられる位頑丈なスプーンを用意する。
② そのスプーンを自分の力で曲げる。
③ 曲げたスプーンをなんとかして元の形状に戻す。
④ ②に戻る。
これを繰り返し続けるとどうなるのと思う?千葉」
丈一郎の問いかけに千葉はしばらく考えた後こう答えた。
「そうだな……最初は大きな力を加えないとスプーンは曲がらない。しかしこの行為を繰り返し続けると小さな力でも簡単にスプーンを曲げる事が出来る様になり、最終的には壊れる…かな?」
「正解だ。それが疲労破壊という現象だ。まぁ早い話何が言いたいのかと言うと、どんなに壊す事が容易でない物でも力を与え続ければ簡単に壊れると言う事だ。そして、それは金属に限った話では無く例え最高速度マッハ20で動く怪物だろうが追い詰めて削り続ければ殺せる可能性もグッと上がる。」
そしてここまでの説明で感のいい中村は丈一郎の言いたい真意にが気がついた。
「成る程…つまり相手の集中力を削ぎ、俺達に圧倒的な有利なステージで殺せんせーがこちらの策に対応する前に殺す…そんなとこ?」
「そうだ。それが今回の暗殺のテーマだ。」
◆◇◆◇◆◇◆◇
放たれた弾丸が脳天に当たる3秒前…丈一郎が感じる時が急激に遅くなり始める
(三村が調べあげた情報を元に中村が殺せんせーの気力を削り、千葉と不破を中心に殺せんせーの逃げ道を塞ぐネットを作製し、そのネットを使った罠を速水の機動力を活かし素早く設置…最後に俺が確実に殺せんせーを殺せるであろう瞬間まで誘導する……ここまで緻密に練った策で殺せねぇ訳がねーだろうがぁ!)
弾丸が脳天に当たる2秒前…既に丈一郎の腕の関節は外れ始めズームパンチが発動しかけている中殺せんせーは溶けた触手の再生を開始し始める
(殺った!俺達はこの怪物を殺せた…殺せたんだ!)
弾丸が当たる1秒前……僅か1秒足らずで殺せんせーは溶けた触手の再生を完了させる。
(触手が再生した!?…だが、無駄無駄そんな見苦しい足掻きは辞めて派手に逝けや!殺せんせー)
弾丸が脳天に当たる0.5秒前…殺せんせーの脳天めがけて飛んでくる弾丸を紙一重で躱す。だが、既に対先生ナイフは殺せんせーの目前に迫っていた。
(((((当たれぇぇぇぇぇええええええええええ!))))
この時、物陰に隠れていた速水を含めて、2班のメンバーは勝利を確信していた。だが、丈一郎だけは仰天していた。
(おいおいおい…ふつう足をすくわれたらころぶまいとする!弾丸から逃れようとするならばなおさらころべない!!俺はその体制の崩れに攻撃をしかけるはずだった!)
しかし!殺せんせーは…残っている脚に力を込め逆におもいっきり錐揉み状に飛んで脳天めがけて飛んでくる弾丸を躱し丈一郎目掛けて突進したのだッ!
(不味い!ガーd…)
丈一郎はズームパンチを繰り出した腕を引き交そうと身を引こうとする…だが、既に全力の攻撃を繰り出してしまった丈一郎の動きをガードに変えるなど不可能であり、それは目の前にいる最高速度マッハ20の怪物との戦闘中に犯すミスとしては致命的である。即ち…
「ヌルフフフ…詰めが甘いですよ丈一郎君」
模造刀が丈一郎の体を掠めながら振り抜かれるのは必然だった。
「チィ…完敗かよ…」
そう呟きながら仰向けに倒れた俺には一寸の曇りもない青い空とハリウッドさながらのアクションを演じた殺せんせーに送られる拍手喝采が聞こえていた。
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