Re:童話姫たちの殺し合いゲーム
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(現代語訳)竹取物語(口語訳)4
<火鼠の皮衣>
火鼠の皮衣をリクエストされた右大臣阿部のみむらじはお金持ちで、豪邸に住んでいたそうな。
中国の知り合いである王慶に『火鼠の皮衣というものが必要なのです。そちらで手に入れて送っていただけませんか』という手紙を書きました。
それを家来の小野に渡し、代金と一緒に届けさせたそうな。王慶はすぐさま返事をよこしたそうな。
<火鼠の皮衣は、この国にはありません。うわさでは聞いたことがあるのですが、見たことはありません。もしもどこかにあるならば、私のところへ誰かが持ってきているはずです。どうやら手に入れるのは難しいようですよ。もしかしたらインドの富豪が持っているかもしれません。ちょっと探してみます。もし見つけられませんでしたら、お金は後日お返しします。>
月日は経ち、中国の船が来たとの連絡を受け、小野は馬を走らせました。
右大臣阿部は一刻も早く届いたものを知りたかったので、とても速い馬を貸したそうな。
箱と手紙が届けられた。手紙にはこう書いてあったそうな。
<苦労しましたが、火鼠の皮衣、手に入りました。めったにない品物です。その昔、インドのお坊さんがわが国に持ってきたようです。西のほうのお寺に保存されていたのを買い取ってきました。少しお金が足りなかったので、こちらで立て替えておきました。その分は、こちらに帰る船の誰かに渡しておいて下さい。もし必要でなくなったのであれば、返品してくださってけっこうです。>
これを見て右大臣阿部は
何をおっしゃる。お金ならいくらでも払いますよ。私はたいへんうれしい!
と中国のほうを向いて感謝をささげた。
さて、火鼠の皮衣が入っているという箱を見てみると、さまざまな色の宝石で彩られた作りである。箱を開け皮衣を取り出します。深い紺色だ。それぞれの毛先は金色にきらきらと輝いている。
右大臣阿部はこれはすばらしい宝だと思いました。これにおよぶ美しいものを彼は見たことが無かった。火をつけても燃えないということだったが、見た目だけでもその珍しさがわかる品物です。
右大臣阿部は『なるほど。これほどすばらしい物であるならば、かぐや姫が欲しがるのもわかる。あぁ、これは良いものだなぁ』と言い、ていねいに箱にしまいました。
今夜はかぐや姫の部屋に泊まるのだからな、と彼は身じたくをし、和歌を詠み、それを花の付いた枝にくくりつけて箱に添えました。
<かぎりなく恋に燃えていた私の心も、焼けることのない皮衣を手に入れ、涙で濡れたそでを乾かし役目を終えました。おかげで、はればれとした気分で着物を着てうかがうことができます>
かぐや姫の家の門まで来ると、爺さまが箱を受けとりかぐや姫に見せた。
「美しい皮でできたものですね。でも、これが本物の皮衣だとは限りませんわ」という感想だった。
爺さまは『まぁとにかく客間にでもあがってもらいましょう。見たこともない皮衣です。いちおう本物だと思って扱いましょう』と言って、門まで行って右大臣阿部を中へ招き入れた。
かぐや姫は爺さまに提案したそうな。
「火鼠の皮衣というものは、火にかけても焼けないと聞きます。もしこの箱に入っているものがそうでしたら、私は右大臣と結婚いたしましょう。おじいさんは『本物だと思って扱いましょう』と言いました。ならば焼いてみることも問題はないでしょう」
爺さまは『その通りだ。右大臣に許可をもらってくる』と彼に訊きにいきました。
右大臣阿部は『私は中国にもないと言われたものを、苦労して手に入れたのです。何の疑いも持っていません』と自信満々に答えた。
そして皮衣は火にかけられた。めらめらとよく燃えたそうな。
『やはり、偽物でしたか』爺さまがつぶやいた。右大臣阿部は顔を青くするばかりだった。かぐや姫は「あぁうれしいわ」と喜んだ。せいせいした気分で返事の和歌を詠みました。
<燃えてなくなってしまうと知っていたら、恋心も皮衣もそっとしておいたほうがよかったですね>
和歌を受けとり、右大臣阿部はしおしおと帰っていったそうな。
彼のこの行動は「あへなし」と言われることになった。
「あえない」つまり会う=結婚することができなかったことと、「あへ」と「阿部」をかけた言葉であるそうです。
<竜の首の珠>
大納言大伴の御行(だいなごんおおとものみゆき)は竜の首の珠を頼まれた人だ。
彼は屋敷じゅうの人間を集めてこう言ったそうな。
『竜の首には五色に輝く珠があると聞く。それを持ってきたものには、どんなほうびも与えてやろう』
家来たちはそれを聞いてざわざわ口々に言い合いいました。
『おっしゃる通りに探してみようと思いますが、竜の首にある珠なんて、どうやって探せばいいのでしょうか。とても難しいことですよ』
大納言はいらいらした。
『お前たちは私に仕えているのだろう。家来というものは、たとえ命を捨ててでも、主君の願いをかなえようとするものである。
竜は日本にいないわけではない。わが国でも海や山で目撃されたという話は聞く。決して中国やインドにのみ住んでいるものではないのだ。やれないことはないと思うが』
こう聞いて家来たちは『やってみましょう。たとえ難しいことですが、おっしゃる通りに出発いたします』と宣言をした。大納言は大いに満足。
『そうだ。お前たちは勇敢だと評判の、大伴家の家来なのだ。立派に主君の望みを果たしてくれ』
大納言は衣類や食料、資金などを屋敷にある限りたっぷり与えて出発させました。
『私だってただ待っているだけではないぞ。身を清めて家にこもり、神様に祈りをささげて毎日を過ごそうと思う。お前たち、竜の首の珠を得るまでは決して帰ってくるではないぞ』
家来たちは準備ができた者から出て行った。ところが『"珠を得るまでは帰るな”って言われたら、逆にやる気をなくすなあ。あるかどうかわからない物を探させるなんて、まったくわが主人も物好きだよ』などと言って、好き勝手なことをしはじめました。
ある者は自分の家でのんびり過ごし、またある者はずっと前から行きたかったところへ旅行に向かった。お金などはたっぷりあるのだ。
『ほんと、俺らの主君はムチャクチャを言うね』 大納言の悪口を言いあって過ごしたそうな。
さて大納言のほうはというと、『かぐや姫と結婚するとなれば、この家も豪華にしておかねばならんな』などと言い出し、職人たちを呼び集めたそうな。
家を建て直し、きれいに塗った壁に金色や銀色で描いた絵をかけ、屋根を花で飾り、室内にも美しい模様の上質な布を張りました。
(一夫多妻制だったので)奥さんたちを実家にみんな帰してしまって、かぐや姫を迎える準備をしながら、大納言は独り暮らした。
いくら待っても、家来たちは戻ってこない。一年経ったが何の連絡もない。
大納言はじれったくなって、手下を二人だけ連れて、こっそりなんばの港まで行ってみた。そこで船員をつかまえて訊ねてみた。
『あの、すみません。大伴の大納言の家来の人たちが、船に乗って竜の元へ行って、殺したあとでその首から珠を取ってきたという話を聞いたことはありませんか』
船員は『おもしろいことを言う人ですね』と笑った。『そんなことをするために船を出す人なんていませんよ』
大納言は怒った。
『ふざけたやつだ。私は大伴の大納言だぞ。ばかにしやがって。私の弓は竜を殺すほどの腕前だ。こうなったら私みずからが出て行って、珠をとってきてやる。ぐずぐずしたのろまな家来には任せておけぬ』
さっそく出航し、さまざまな海をめぐった。そして都からだいぶ離れた筑紫(つくし)というあたりへたどり着いた。
どこから来たのか、風が強く吹いている。あたりは暗くなり、船はがたがた音を立てる。
よくわからない力が船を海の中へ引きずり込もうとしている。波は高く、つぎつぎと襲いかかってくる。雷がきらめいた。大納言はおどおどした。
『ひどい状況だ。どうしてこうなったのか』
船乗りは泣き出した。
『あっしが今まで海で遭ったなかで最悪ですわ。船が沈まないとしても、雷が落ちてこっぱみじんですよ。
もし運良く神様が助けてくださるとしたら、南のほうになんとかたどり着けるかもしれませんが。
あぁ、とんだ客を乗せちまった。こんな死に方なんて、ばかばかしいや』
『お前の腕を見こんで私は命を預けているのだ。しっかりしてくれ。情けないことを言わないでくれ』と大納言は叫んだが、胃の中のものを吐きながらだったのでなんともかっこうが悪い。
『あっしは神じゃありませんので、もうどうすることもできやしません。
たぶんこれは、大納言さまが竜を殺そうとしたことのバチなのではないかと思いますぜ。海も空も荒れているのはきっと竜の仕業です。
ここは反省して、おわびに祈るしかないと思うんです』
船乗りの提案に大納言は『わかった』と言いいました。
『海の神様、申し訳ございません。おろかな私は何も考えず、竜を殺そうとしてしまいました。これからは心を入れ替えて、竜の毛一本ほども動かそうとは思いません。許してください』
大納言は祈りの言葉を、立ちあがって空に叫んだり、ひざまずいて海に呼びかけたりした。それを千回ほど繰りかえした。効果があったのか、雷は鳴り止んだ。遠くのほうでわずかに光るばかりである。風は変わらず激しく吹いていた。
船乗りは『やはり竜のしわざでしたわ。今の風はさっきよりもずっといい風です。これならうまく進めそうですぜ』と大納言に言ったが、彼は震えるばかりで何も耳に入らない様子であった。
数日後、ある浜にたどり着いた。確認してみると明石(あかし)である。大納言は『南の、よくわからない島に来てしまったようだな』とうずくまりながらあたりを眺めた。
船乗りの連絡によってすぐに役人たちが来たけれども、大納言は突っ伏したままである。仕方がないのでかついで船から降ろし、近くの松林に布を敷いてそこへ運んだ。
そこでやっと大納言は『ここは南の島ではない』と気づいてよろよろと身を起こした。
どうやら何かの病気にかかってしまったらしく、腹と両目がはれていた。特にまぶたのところがひどく、スモモを2つくっつけたようにふくれ上がっていました。そばにいた役人は、それを見て笑ってしまうのを抑えられませんでした。
大納言は自分が乗るためのかごをわざわざ作らせ、それに乗って京都の家まで帰った。体調はまだ良くなく、うんうんうめきながらの帰り道でした。
彼が帰ってきたと知り、家来たちも戻ってきた。
『私たちは竜の首の珠を取ってくることができませんでした。ご自身でも行かれたようですが、だめだったと聞いています。
珠を取ってくることがどんなに難しいかご理解されたと思いまして、これならおしかりは受けますまい、と考えて帰ってまいりました』
大納言は起き上がってこう言った。
『お前たち、珠をよく持ってこなかった。ほめてつかわす。竜はきっと雷の仲間だ。珠を取ろうとしただけでひどい目にあった。もし竜を捕まえていたら、私たちは殺されていただろう。よく捕らえないで帰ってきたなあ』
『おそれいります』
『そもそも珠を取ってこいなどと頼んだのはかぐや姫である。とんだ大悪党だ。人を殺そうとした悪女なのだからな。あの家に近づくことさえ恐ろしい。お前たちもあの辺りをうろつくのはやめよ』
そう言って大納言は家に残っていたわずかな宝物を、竜の首の珠を取ってこなかった家来たちにみんなあげてしまった。
この話を聞いて、実家に帰らされていた妻たちは大笑いしたそうな。
かぐや姫のために新築した家は、屋根が鳥の巣になって古びていったそうな。
『大伴の大納言は、竜の首の珠を取って帰ってきたそうじゃないか』
『違うぜ。両目の上にふたつ珠をつけて戻ってきたけれども、たぶんあれはスモモだ。食べられないけどな』
世間では笑いの種になったそうな。
「恥ずかしいこと」を意味する「たえがたい」という言葉は「(スモモが)食べられない」がちょっと変化して「食え難い(たえがたい)」になり生まれたそうです。
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