Re:童話姫たちの殺し合いゲーム
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(現代語訳)竹取物語(口語訳)5
<燕の子安貝>
中納言石上の麻呂たり(ちゅうなごんいそのかみのまろたり)は自分の家で働いている家来たちに向かい 『燕が巣を作ったら教えてね』と言った。
家来たちは『どうしてですか』と訊ねた。中納言は答えた。『燕が持っているという子安貝をゲットするためだよ』
それを聞いて、ある男が進み出て言った。
『私は何回か燕を殺して腹の中をさぐってみたことがあるのですが、何もありませんでした。おそらく体内には持っていないと思われます。しかし子どもを産むさい、どこからともなく出すと聞いたことがあります。人間が近づくと隠してしまうといううわさもあります』
またある家来はこう言った。
『ご飯を作るところの建物に、いっぱい燕が来て巣をつくっているようです。そこに足場を組んで、観察のために何人か置いてみたらいかがでしょう。燕が子どもを産むときになったら、子安貝を取ればよいのです』
中納言は『いい案だねえ。僕はちっとも気づかなかったよ』と喜び、まじめな男たちを二十人ほど選んで、足場とともに待機させた。
彼はまだかまだかという気持ちで、ひっきりなしに屋敷から使いの者を送ったが、そうそう簡単に見つかるものではない。燕たちのほうも、人がわらわら集まっているので、巣にも帰りづらく、ましてや出産するどころではなかった。
そんな状況を使いの者が報告すると、『どうしたもんかねえ』と中納言は周りの顔を見回した。
倉津麻呂という倉の管理をしているじいさんが『よい作戦がありますぞ』と手を挙げた。中納言は『ちょっと教えてよ』と近くへまねいた。
『まず、今やっている作戦は、だめです。こんなことをしていては、いつになっても子安貝を手に入れることはできません。あんなにぞろぞろ大勢の人が上ったり下りたりしていては、燕も怖がって寄ってきません。だから私の作戦としましては、まず人数を減らします。巣の近くにはひとりだけを配置するのです。そして上り下りするとき物音をたてないように、かごに乗せて遠くからロープで引っ張ったりゆるめたりするのです。という風に、燕が子どもを産んでいるすきに、さっと子安貝を取るのがよいでしょう』
『それ、良さそうだね!』と中納言はアドバイスどおり、ひとりを残して家来を引きあげさせた。倉にはひとりを。離れたところにロープ係を数人置いた。
ふと疑問に思ったので、中納言は倉のじいさんに訊ねた。『ところでさ、燕って、子どもを産むときに出すサインみたいなものってあるのかな。"こうなったら出産しますよ”みたいな』
『あります。燕は子どもを産む前に、必ず尻尾を高く上げて七回転するのです。そのときがチャンスです』
またまた中納言は大喜びして、家来たちに知らせを出した。
『それにしても、あなたは僕の部下でもないのにいろいろ教えてくれて嬉しいですよ。ほんとうにありがとうございます』と倉のじいさんに衣服をプレゼントして礼をのべた。『さらにお願いなんですが、夜になったらまた来てくれませんか。指示とか、出してほしいし』
そして日が暮れた。中納言は倉まで様子を見に行った。たくさん燕の巣があった。
倉のじいさんが教えてくれた通り、何羽かが尻尾を高く上げて七回転していた。
さっそくかごを吊り上げて探らせるが『ありません』とのこと。
中納言はいらいらしてきた。『ええい、探し方がわるいんだ。誰か見つけてくれそうな人はいないか。いないな。じゃあ僕が自分でやるしかないな』とかごに乗り、例の回転をしている燕のいる巣に手をつっこんだ。
平たい感触がしたのでそれを握り『とったぞ。下ろしてくれ。じいさん、僕やったよ!』とはしゃいだ。
中納言は『早く下ろせ』と興奮した様子。ロープを握る者たちはあせって操作をまちがえた。そして不運なことに、かごはまっさかさまに落ちてしまった。
その場にいた人びとは『大変だ』とあわてて地面にたたきつけられた中納言の元にかけつけた。白目をむいて意識がない。
水を飲ませるなどして看病をした結果、中納言は目を覚ました。しかしまだもうろうとしている。
『中納言殿、大丈夫ですか』と声をかけると、かろうじて声をしぼりだした。
『気持ちは少しはっきりしてきたけれども、腰がだめだ。まったく感覚がない。僕はもう歩けないかもしれない。でも、子安貝を手に入れたんだ。こんなに嬉しいことはない。ろうそくを持ってきてくれ。よく見たい』
満足そうな顔をして中納言が手のひらを広げると、握っていたのは燕の乾いたフンだった。
『貝ではなかったのか』
このときの中納言のセリフは『苦労したけどほとんど意味がなかった』という意味の言葉、【かいがない】【かいなし】の語源になったという話である。
さてその後の中納言であるが、自分の握っていたのが子安貝ではなかったと知り、とても悲しいどん底の気分であった。プレゼントするときに使おうと思っていたきれいな箱もむだになり、さらに腰が骨折していたことがわかった。
彼は自分の子どもっぽい行動で身体を壊したことを恥ずかしく思い、人に言えないでいた。ただ『病気になりました』と言って家で寝てばかりいた。気分はますます落ち込むばかり。
そのうちかぐや姫がうわさを聞きつけてお見舞いに和歌をおくった。
<最近こちらにいらっしゃいませんけど、貝がなく、待つのはむだだと聞きました。ほんとうでしょうか>
中納言はすっかり気が弱っていたけれども、なんとか身を起こして、苦しみながらも返事を詠んだ。
<貝はありませんでしたが、あなたから和歌をいただいてとてもうれしいです。これで結婚までしていただけたら最高なのですけれど>
最後まで書き終わると、筆を置く間もなく、中納言は息をひきとった。
これを知ったかぐや姫は、かわいそうな気持ちになった。だから、中納言のがんばりを『やっただけのかいはあった』と言う人もいたそうな。
<御狩の御行>
かぐや姫の美しさは、ミカドというとても偉い人の耳にも入ったそうな。
ミカドは側近のふさ子に『いろんな人が身を滅ぼすほど恋焦がれたかぐや姫はどんな女なのだろうか。ちょっとその目で見てきてくれないか』と頼んだ。
ふさ子はかぐや姫の家を訪れた。爺さまの妻である、嫗が出迎えた。
『かぐや姫はとても美しいといううわさです。ミカドが気にしてらしたので、私が代わりに見に来たというわけです』
『そうなんですか。では、ちょっとお待ちくださいね』
嫗はかぐや姫に部屋から出てくるように言った。しかしかぐや姫は「私はぜんぜんきれいじゃありませんわ。お目にかかるなんて、恥ずかしい」と気の進まない様子だ。
『そうは言ってもね、ミカドの使いの方なんですから。このまま帰れとも言えないでしょう』
「ミカドなんて、私、怖くもなんともないわ」
嫗は、そう強気になることもできず、ふさ子のところへ戻ってきた。
『すみません。がんこな娘なのです。お会いできそうにないです』
これを聞いてふさ子は強い調子で言った。
『見て来いと言われて私はここまで参ったのです。どうしてこのまま帰ることができるでしょうか。ミカドはこの国の王さまのようなお方ですよ。あなた方はこの国に住んでいるのでしょう。平和に暮らせているのは、誰のおかげだと思っているのですか!』
とても激しくどなっていたので、かぐや姫の部屋まで声は届いた。
「そんなに見たいのなら、殺してからひきずりだせばよろしいのですわ」 誰に言うでもなく彼女はつぶやいた。
結局ふさ子はこのまま帰り、ミカドに報告をした。
『そうか。仕方がない。深入りすると、今までの人びとのように命を落としかねないし。あきらめようか』
そう言っていったんは納得したが、時間が経つと、やはりまた気になってくる。
悪女だとしても、私は負けんぞと思って爺さまを呼び出した。
『お前の家のかぐや姫を、私の近くに仕えさせたい。スカウトの使者を送ったが、そのかいなくただ帰ってきただけだ。どういう風に育てたら、私ミカドの命令を断るようになるのだ』
爺さまは背筋を正して答えた。
『わが娘は、とてもミカドのおそばにいられるような性格ではありません。わがままで、やんちゃで、私も妻も困っているほどです。しかし、せっかくのお話なのですから、帰ってまた私から話してみましょう』
『頼むぞ。もし仕えることになったのなら、お前にすごい地位を与えてやろう』
爺さまは喜んで家に帰った。かぐや姫に言います。
『こんな風にミカドがおっしゃってくださったのだ。どうしてもお仕えする気にはなれないか」
「もしそうなったとしても、私はきっと逃げ出してしまうでしょう。そんなに位が欲しいのですか。それならば、私はお仕えしますけど、すぐに消えるか死ぬかしますわ」
かぐや姫の真剣な目つきに、爺さまはあわてた。
『そんなことを言わないでくれ。たとえりっぱな地位をいただいたとしても、自分の娘を失っては、生きる意味がない。そこまでして、位など欲しくはないのだ』
爺さまは必死に否定した。
『それにしても、どうしてそんなに嫌がるのだ。死ぬような苦しみを味わう仕事でもないだろうに』
「そもそも男の方のそばにいるというのが、いやなのです。これまでたくさんの人のご好意を断ってきたので、それはおわかりでしょう」
『それはそうだ』
「それに、ミカドのお話はついこの間持ちかけられたばかり。ここで『はいミカドなので喜んで』とほいほい行ってしまっては、いままでのお方に申し訳がありません。恥ずかしさで、私は死ぬより苦しむでしょう』
爺さまは納得した。『わかった。私としては、あなたが生きていることが一番なのだ。世間にはどう言われてもかまわない。では、ミカドにお断りしに行ってくる』
ミカドの元に参上してこう述べた。
『おおせのままに、わが娘を説得しようといろいろ手を尽くしましたが、"お仕えしたら私はきっと死ぬ”とのこと。そのそも彼女は、私が竹の中から見つけた女の子。ふつうの人とは考え方が違うことをお許しください』
ミカドはウムとうなった。
『そこまで言うなら仕方がない。それでは別の頼みごとをしてもよろしいか』
『なんでしょう』
『お前の家は山のふもとだったな。そのあたりで狩りをするふりをして、ちらっとかぐや姫の姿を見てみたいのだが』
『はい』 爺さまは頷いた。『あの娘がぼーっとしている時にでもいらっしゃったらよいでしょう』
二人はその場で、細かいところまで相談をした。
後日、ミカドは計画どおり外出し、家の近くまでやって来た。
門のところからちらっとのぞくと、身体じゅうから光があふれているような、たいへん美しい人が座っていた。
『あの人に違いない』とミカドは気分が高まって、かぐや姫に近づいた。もちろんかぐや姫は逃げる。そでを捕まえたが、顔だけはしっかり隠してじっとしている。
『放しはしない』
ミカドはすっかり興奮して、連れて帰ろうとぐいぐい引っ張った。かぐや姫は抵抗する。
「私はこの国に生まれた人間ではありません。ご一緒できませんわ」
ミカドにはそんな言葉も耳に入らない様子で、『おい、乗り物を持ってこい』と家来に言ったりなどしている。
ここでふと、かぐや姫の姿が消えてしまった。
着物をつかんでいたはずなのに、急に目の前からいなくなったので、ミカドはびっくりした。
『やはりただものではなかった』となぜか感心している。
そして頭が冷えたようで『悪いことをした。もう連れて帰ろうとはおもわない。どうか最後にまた姿を現してくれないか。ひと目見たらすぐ帰る』と辺りに呼びかけた。かぐや姫はふたたび現れた。
ミカド爺さまにお礼をのべて帰った。
帰り道でミカドは和歌を詠んだ。かぐや姫を残してきたことがなごり惜しかったのだろう。
<帰りながら、ついつい後ろを振り返ってしまうのは、私に背を向けて留まった、あなたのことが気になるからだろう>
かぐや姫も返事の和歌を詠んだ。
<草木が生いしげる家で育った私が、今さらどうして豪華な家で暮らすことができるでしょうか>
これを読んでミカドはいっそう恋の炎が燃え上がった。
このまま帰りたくないと思うけれども、お供がたくさんいるので、そんなわがままも言っていられない。大人しく宮中に帰った。
さて、ふだんミカドの周りにいる女性たちは、美人ばかりのはずであるが、あらためて見てみると、かぐや姫の美しさにはとうてい及ばない。
ミカドはかぐや姫のことばかりを考えて毎日を過ごした。何度か手紙のやり取りもしたそうな。
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