IS~夢を追い求める者~
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最終章:夢を追い続けて
第56話「意味を遺したい」
前書き
―――この無意味だった人生に、せめてもの輝きを...。
場面を同時展開しすぎてまとめられない病←
敵の描写が少ないため、いまいち危機的状況を表現できていないです(´・ω・`)
=out side=
「がっ....!?」
銃弾を避け続けていたマドカだが、突然敵の一人が手を押さえて銃を落とす。
そこにはクナイのようなものが刺さっていた。
「何...!?」
「(援軍!?)」
マドカからは見えない方向から誰か来ているのか、男はそちらに銃を向ける。
だが、この状況で戦力を割くのは愚策であり...。
「(今!)」
「はぁっ!!」
マドカと、駆け付けた恭也によってあっという間に男たちは制圧された。
「貴方は....。」
「む、君は...。」
「あら、マドカちゃん。戦ってたのは貴女だったのね。」
男を倒し、改めてマドカと恭也は対面し、後ろから走ってきた楯無が声を掛ける。
「...秋兄は一緒じゃないんですか?」
「秋十は正面で陽動を行っている。ISを使ってでの陽動だから、死ぬことはまずないと思っているが...。」
「...秋兄が進んでやっているのなら、文句はないです。」
大好きな兄である秋十が危険な役目を担っている。
それはマドカとしてはあまり賛同できない事だが、兄ならきっと自分からその役目を請け負ったのだと思ったマドカは、特に文句は言わなかった。
「マドカちゃん、もしかして貴女一人だけ?」
「あ、えっと後二人...。」
本音とシグナムの事を伝えようとするマドカ。
その瞬間、二人がいる方向から銃声が聞こえる。
「っ!?」
「何!?」
何発か銃声が聞こえ、シグナムと本音が姿を現す。
「本音!?それに...。」
「ごめ~ん!別グループが来たみたい~!」
「くっ...!」
角を利用して飛んできた銃弾から身を隠す。
その際に本音は投げナイフも投げていたが...効果は薄かったらしい。
「あれ?お嬢様~いつの間に~?」
「ついさっきよ...。それで、何人かしら?」
「八人だよ~。二人は何とかしたけど~。」
「六人...行けるのかしら...?」
「敵の力量にもよるが、行けるだろう。」
そういって、恭也が一人で向かおうとする。
「...え、まさか、桜さんみたいに...。」
「御神の剣士を捉えたければ、爆弾でも持ってくる事だな。」
恭也がそういうや否や、姿が掻き消えるように敵へと駆ける。
御神流の奥義の一つ、“神速”だ。
知覚速度を上げ、知覚外の速度で動く事で相手が認識する間もなく肉迫する。
「っ....!?(見えなかった....!)」
壁や天井さえ足場のように飛び交い、一瞬で男の銃を弾き飛ばす。
接近する間にもクナイやワイヤーを繰り出しており、一気に六人を無力化した。
その一連の動きは、マドカでさえまともに捉えられなかった。
「...よし。」
「...これ、あたし達戦力外じゃないの?」
あまりに圧倒的な動きの差。
それを見て同行した内の一人である鈴が呟く。
「頭数は多い方がいいのよ。...特に、今回のような大人数が相手だとね。」
「そう言う事。...相手もさすがにプロばかりではないからね。」
いくら御神の剣士や、更識家の者でも多勢に無勢。
今は猫の手も借りたい状況なのだと、楯無とマドカが言う。
「とりあえず、あちらと合流しましょう。貴女達がいたという事は、もう一方はおそらく...。」
「...織斑先生となのは...かな?」
「そうね。織斑先生は捕まってるのが想像できないし、彼らの身内であるなのはちゃんも黙っている訳でもなさそうだし...ね。」
危機は脱したため、マドカ達を含めて楯無達は合流に向かう。
後に無事合流し、改めてアリーナへと向かう事になった。
―――時は少し遡り...
「(テロ....そうか、確かISは使えなくなった。なら、それに乗じて女性に恨みのある男性がそう言う事をしてもおかしくはない...か。)」
他の生徒達と同じように人質にされている一夏は、冷静に状況を判断していた。
「(...よし、馬鹿みたいな考えをしなくて良かった。さすがにあそこまで打ちのめされればこれぐらいにはなるか...。)」
今まででは考えられないくらい適格に状況を見れている事に安堵する一夏。
桜に、秋十に、束に、マドカに、散々打ちのめされたからこその思考だった。
「(“原作”がもう当てにならないとはいえ、何かできそうな人物は....さすがに、いないか。俺も利用価値はあると考えられているのか、見張りが多いし。)」
数少ない“元”男性操縦者。
それだけでも相手には利用価値があると思われ、一夏の近くは見張りが多かった。
「(...俺の知ってるあいつらが、じっとしてるとは思えない。という事は、ここには連れてこられていないという事か。...くそ、何もできやしねぇ。)」
主人公に憧れて、主人公の立場に転生させてもらった。
だというのに、何もできない自分に一夏は情けなく思っていた。
「(...せめて、目的でも聞き出せたら....。)」
迂闊な行動は取れない。しかし、それでも少しの情報を得たいと一夏は考える。
同時に、こんな適格な判断を今までできなかった事に反吐が出る思いだった。
ちなみに、生徒の一部は連れてこられる際に気絶させられ、起きている者もほとんどが恐慌状態に陥っていた。また、男たちも秋十達などの陽動や反抗に人員を割いているため、男たちからはまだ目的を聞かされていない。
「......。」
交渉に長けてる訳でもない。元より前世ではコミュ障だった。
それでも、話すだけなら早々殺される事はないと踏み、口を開こうとして...。
「な、なんなの貴方達!?私にこんな事してタダで済むと思ってるのかしら!」
「(...刺激を与えるとか、俺でも馬鹿かと思うぞ。)」
気絶していた生徒の一人が、そんな声を上げながら喚き始めた。
「男風情が寄ってたかって...奴隷のような分際でこんな事を...!」
「(...気絶させられていた理由はこれか。というか、あいつユーリに似て....いや、似てるとか言ったら本人が可哀想だ。)」
そう。喚いているのはユリア・エーベルヴァイン。ユーリの“元”姉だ。
典型的な女尊男卑の思考に染まっており、この状況においてなお喚いていた。
「そうよ!後悔しても知らないわよ!」
「早く解放しなさい!」
「(...自分が人質になっているのになんだアレ...。それよりも以前までの俺の馬鹿さの焼き増しみたいだからマジでやめてくれ...。)」
本来なら犯人を刺激せずに大人しくしているべき。
それなのにユリアや同じように女尊男卑の思想の女生徒は口々に喚いていた。
「......。」
「っ....!」
男たちの内、何人かが合図を送り合い、内一人がその女生徒たちに近づく。
一夏はこの後何が起こるか想像してしまい、止めようと思いつつも体が硬直する。
自分にも見張りが付いていて、不用意な行動はできないからだ。
「な、なによ...!」
「...ふん。」
ガッ!
そして、男がユリアを思いっきり殴った。
「これ以上暴れんじゃねぇよクソ女共。ここで殺してもいいんだぞ?」
「ヒッ....!?」
倒れた所に、銃口をぐりぐりと押し当てながら男が言う。
さすがに死の恐怖を感じたのか、騒いでいた女生徒全員が黙る。
「やっぱり見せしめに一人ぐらい殺した方がいいんじゃねぇか?」
「そんな簡単に殺しちゃ意味ねぇだろうが。こいつらには俺達と同じように人間の尊厳を踏み躙ってやらないとな。」
「.....。」
騒いでいた女生徒を見下すように見ながら、二人の男がそんな会話をする。
それを一夏や、冷静に状況を見ている者はじっと聞く。
「(“見せしめ”、“俺達と同じように”...。)」
「(態々IS学園を襲撃し、生徒を敢えて殺さない所を見るに...。)」
「(なるほどな、女尊男卑で追いやられた連中って訳か...。)」
「(...これは、女性が無闇に交渉に応じる訳にはいかないですね...。)」
アミタ、キリエ、ダリル、虚がそれぞれ同じような事を考える。
そしてまた、一夏も同じように考えており...。
「(...交渉するなら、俺から...か。まるで無意味だった俺が、こんな所で...。)」
女性だとちょっとした事で刺激を与えかねない。
だからこそ一夏だけが目的などを聞き出せる立場だった。
しかし、こんな所で大役を担わせられる事に、一夏は震える。
以前までなら、嬉々として請け負っていただろうが、今までの自分がまるで無意味だと知った今では、その役を上手くこなせる自信など皆無だったからだ。
「(そんな大役こなせるかよ...!目的だけを聞くならともかく、こんな奴らを相手に、俺がそんな事を...!)」
今までの事件は、調子に乗っていたのと、“原作”に沿っていたからこそ前線に出ようと思っていた。しかし、今はそのどちらにも当て嵌まらない状況な上、先程の事で男たちも気が立っていると思った一夏は、一歩踏み出せずにいた。
「(....でも、だからと言ってこのまま待ち続ける訳にも....。)」
ふと周りを見れば、皆怯えたように俯いている。
それを見て、一夏は思う。“自分はあまりにも無力なのだ”と。
「(....いいのかよ。そんな、“無意味”なままだなんて...。)」
落ち込むと同時に、一夏はそんな問いを自身にかける。
「(何もできないまま終わるなんて...二度目の人生を得ておきながら、何も変わっちゃいない....。...それだけは、嫌だ。)」
自分勝手な行動ばかり取り、人に迷惑を掛けてきた。
それは前世も今世も変わらない。
だからこそ、少しでも贖罪をしようと、一夏は覚悟を決めた。
「....一つ。」
「...あん?」
意を決して、一夏は一番近くの男に声を掛ける。
「...一つ聞きたい。...あんたら、どうしてこんな事を?」
慎重に、刺激を与えないように、普通聞くであろう言葉を選んで問う。
「はっ、男であるてめぇが聞くのかよ。考えればわかる事だろうが。」
「......。」
一夏の問いに、男は鼻で笑いながらそう返した。
その返答から、一夏は推測し、一つの答えに行き着く。
「....“復讐”...か。」
「ああそうさ!世界最強サマの庇護下にいたお前にはわからん事だろうがなぁ!」
「.....。」
その言葉に、一夏は言い返せない。
まさにその通りだったからだ。千冬の影響があったから、一夏は普通に過ごせていた。
“ぬくぬくと育っていた”...まさにこの言葉が当て嵌まっていたのだ。
「ISが使えなくなった今、IS学園の戦力はあまりない。そこに付け込んで襲撃か...。こうして敢えて殺さずにいるって事は、何かしら利用するつもりなんだな?」
「おーおー、さすがは世界最強サマの弟だ。そこまでわかるとは....なっ!」
「ぐっ...!?」
感心したように男は言い、そのまま一夏を銃で小突くように殴る。
「お前はいいよなぁ~?世界最強が身内にいるんだ。さぞ勝ち組な人生を送っていたんだろう?なぁ?」
「くっ...っつ....。」
痛さに耐えつつ、一夏は起き上がる。
今まで自分がやってきた非道な事に比べればどうって事ないと言い聞かせながら。
「(勝ち組...か。俺なんか、勝ち組どころか負け組ですらねぇよ。文字通り“無意味”だったんだからよ...。でもまぁ、打ちのめされた意味では負け組ではあるか...。)」
自虐しながらも、聞き出したい事のために会話を続けようとする。
「...お前らは...ISを恨んでいるのか?」
「はぁ?...あったり前だろうが!何が女性しか乗れないだ!それのせいで俺達がどれだけ虐げられたと思っている!」
「ぐっ...!?」
八つ当たりのように一夏を殴りながら、男は言う。
理不尽に殴られる一夏は、それでも決して反発しようとはしない。
...なにせ、そんな事になったのは、自分が原因でもあるからだ。
「てめぇらも何被害者ぶってやがる!これは因果応報だ!てめぇらが散々俺達を好き勝手してきたからこうなっているんだ!」
「っ.....。」
“自分のせいだ”と一夏は思った。
自分の欲望を満たしたいがために人を洗脳したから...。
束に未完成のままISを発表するように仕向けたからこうなった。
そんな後悔が一夏の中を渦巻く。
「(...くそっ。何か、出来ないか...?)」
償いなんて、とてもじゃないけど成し遂げられない。
そう思った一夏は、せめてもの手助けが出来ないか探る。
すると、その時...。
「くそっ!」
「どうした?」
一人の男が通信機を地面に叩きつけながら悪態をついた。
「既に半分以上やられた。」
「なっ!?...くそが...忌々しいISめ...!」
「(IS...?あいつらの誰かか?)」
その声を聞いて、一夏は何か隙ができるかもしれないと考える。
「いや、それだけじゃない。表の方に向かう途中で通信が途切れた奴もいる。」
「は?...そうか、織斑千冬...!」
「他にも何人か逃げ回っている奴らがいるようだ。くそ、大人しく捕まればいいってものを...!」
仲間が半数以上やられた事に、男たちにも動揺が走る。
だが、それは決してチャンスではなかった。むしろ...。
「...しゃあねぇ。何人か殺して、放送で知らせてやれ。」
「っ....!?」
その指示を間近で聞いた一夏は、息を呑んだ。
このままでは、死人が出る。それを感じ取ったからだ。
「せ、生徒は撃たせません!」
「先生!?」
銃口を向けられた生徒を庇うように、山田先生が前に出る。
そして、そのまま....。
ダァン!!
「っ.....!」
銃声が響き、ほとんどの者が目を瞑る。
しかし、その音は男の方から聞こえたのではなく...。
「あ、当たった...!」
「お姉ちゃん!?何を...!」
アミタの持つ、銃剣のような武器、ヴァリアントザッパーからだった。
ISと同じように小型化できるため、今まで隠し持っていたのだ。
「この...クソアマ...!」
手を撃たれ、銃を取り落とした男を見て、他の男は容赦なく銃を放とうとする。
「シュテルは我と共に撃て!レヴィは取りこぼしを!」
「了解です。」
「任せて!」
その時、上空から声が響き...。
「剣兵召喚、最大展開...滅ぼせ!」
「炎弾、最大展開...!」
―――“レギオンオブドゥームブリンガー”
―――“パイロシューター・フルドライブ”
多数の剣と炎弾が、男たちの銃を狙って降り注いだ。
「(あれは...ユーリの...!)」
上空を見て、一夏は誰がやったのか理解する。
チヴィットにはISと同じくエネルギーが内蔵されている。
それを利用し、ディアーチェ達は攻撃を行ったのだ。
「ちぃ...!この、くそが...!」
「きゃぁぁあああああああ!!」
銃を狙ったからとは言え、威力も弱く、半分ほどの男はすぐに動こうとした。
また、剣と炎弾が降り注いだため、生徒のほとんどが慌てふためいていた。
「(混乱...!まずい、これは...!)」
「させないよー!」
逃げ惑う生徒と、それを撃とうとする男。
それらの間を小さな影が駆けまわり、銃を切り裂いていく。
「くっ、数が多い...!やはりチヴィットの体では限界があるか...!」
「...ですが、援軍も来ました。」
二人の弾幕と、レヴィの攪乱。しかし、それでも足りなかった。
だが、アリーナの一つの入り口から呻き声が聞こえた後、何人かが飛び出してくる。
「こっちよ!」
「っ!お嬢様!」
そこには、倒れた何名かの男と、楯無達がいた。
それを見た虚はすぐさま他の生徒をそちらへと誘導していく。
「(やば...!展開が早すぎて追いつけない...!)」
混乱に混乱が重なるような事態に、一夏はついて行けない。
恭也達が暴れまわるように男たちを押さえに掛かっているのを見て、ハッとする。
「っ!(これを...!)」
近くの倒れた男から銃を奪い、行動を始めた。
この状況では、誰かが撃たれる可能性が高い。
...だから、せめて―――
「(俺が、引き付ける!!)」
そう考えた一夏は、男たちに向けて銃を放つ。
彼には、人を殺す覚悟などできていなかった。
だけど、それでも初めて“誰かを助けるため”に行動した。
「ぉぁあああああああああ!!!!」
雄叫びを上げながら、一夏は銃を撃った。
時には、暴れまわるように、時には、逃げ遅れた誰かを庇うように。
それが本能か、考えてかは分からないが、ただ“そういう風”に動いた。
ただ、“無意味”だった自分でも、誰かに役に立つように、そう思いながら。
カチッカチッ!
「っ....!」
銃弾を撃ち尽くした。そう理解した時には、辺りは砂埃で見えなかった。
男だけでなく女生徒の呻き声も聞こえる。
これだけ乱戦気味になったのだから、怪我人がいてもおかしくはない。
例え御神の剣士がいた所で、護り切れる訳ではなかったのだ。
幸いと言えるのは、生徒に死人はいなかったという事だろう。
「はぁ....はぁ....。」
「織斑君!」
「っ...!?」
いつの間にか皆が避難した出入り口に近づいていたらしい。
山田先生に呼ばれた一夏は、驚いて振り返る。
...と、同時に、視界に男が銃を構えているのを捉えた。
「っ....!!」
「え、きゃっ!?」
手に持っていた銃を放り出し、全力で山田先生へと駆ける。
飛び込むように山田先生を突き飛ばし....銃声が響いた。
「っ....ぁ....!?」
「ぇ....?」
それを見ていたほとんどの人間が、何が起きたか理解できなかった。
腹から血を流し倒れる一夏。それを見て、撃った男は笑った。
「へ、へへ...ざまぁみろ...がっ!?」
「....ちっ...!」
すぐさまその男は恭也によって気絶させられた。
しかし、既に行動した後と言う事で、恭也は舌打ちした。
「ぐぅ...ぁ....!?」
「織斑君!...そんな、私を庇ったせいで...。」
燃えるような痛みに、叫ぶ事もできない程に悶える。
山田先生が申し訳なさそうに駆け寄ってくるが、それも一夏の耳には入らない。
「(まだ...だ....。)」
「そんな...立ち上がったら...!」
「(ずっと、迷惑を掛けてきた...なら、最後くらい、役に立たないと...!)」
まだ敵は残っている、と一夏は無理矢理立ち上がる。
恭也や士郎が奮闘しているとはいえ、ノーマークの相手はいる。
その相手が、砂埃の合間からこちらを狙っているのが見えた。
「(役立たずな俺でも、盾くらいにはなれるんだよぉっ!!)」
痛む体に鞭を打ち、一夏は仁王立ちする。
恐怖で体は震えている。死が怖くないはずがない。
...だが、それでも、もう現実から逃げるのは嫌だったから。
だから、一夏はその場から動こうとしなかった。
―――...ふぅん。ちょっとは、見直したかな。
キィイイン!
「....え...?」
山田先生の驚いた声が一夏の耳に届く。
既に自分は、撃たれたはず。なのに、なぜ声が聞こえるのか。
そう思い、目を開けると...。
【SE...このボディでも使えるんだよね。】
「お前...は...ぐ...!?」
【あー、無理しすぎだよまったく...。というか、チヴィットの子たちももうちょっと考えて欲しかったな。エネルギーの残量を気にせずにぶっ放すなんて。】
力が抜け、倒れていく一夏の視線は球体に羽が生えた“ソレ”に釘付けだった。
少女のような声が聞こえる“ソレ”は、一夏も知っている存在だ。
「...白、式....?」
【...どん底まで叩き落されて、ようやくまともに...って事かな。...後は任せなよ。防ぐだけなら私にもできるし...。それに、あの人も来たから。】
白がそういった直後、空から一機のISが降り立つ。...秋十だ。
「...夢追、悪いけどここからはSEの防御だけでいい。他の人を巻き込んでしまうからな...。」
倒れている生徒...そして一夏を一瞥して、秋十はそういった。
その目には、確かな怒りが宿っていた。
「...覚悟しろ、自分勝手なテロリスト共。」
そして、IS学園を対象としたテロ事件は解決した。
秋十が介入した直後に更識家の者が到着、瞬く間にテロリストを制圧した。
死者は警備をしていた何名かのみで、生徒や教師には解決時にはいなかった。
テロを起こした男達は、然るべき裁きを受けた。
学園とテロリスト、互いに死者は何名か出たものの、ほぼ最善となる解決だった。
「撃たれた女子生徒は幸いな事に軽傷。後遺症も残らん。だが...。」
「出血が多いのもあって、どうなるか分からない...という訳です。」
だが、唯一。一夏だけは、その枠に当て嵌まらなかった。
一夏は山田先生を庇ってアサルトライフルの銃撃を受けた。
当たったのは数発とはいえ、出血も多く、応急処置では助からない程だった。
今は学園内の緊急治療室で命を繋いでいる。
「...馬鹿者が...。今更手遅れだと言うのに、なぜ今になって...。」
拳に力を込めながら、千冬はそう呟く。
その言葉には、死を顧みない行動を取った一夏を心配する思いが込められていた。
「........。」
「秋兄?」
「....いや、なんでもない。」
複雑な表情をする秋十にマドカが尋ねるが、秋十は誤魔化すように頭を振る。
現在の秋十の胸の内は、様々な思いが鬩ぎ合っていた。
なぜ、今になって人を助けようと動いたのか。なぜ、死ぬ可能性があると分かっていたのに、そこまで無茶をしたのか。なぜ、なぜ...。
「....秋兄がなのはの家の道場に通い始めてから、私はあいつの世話役になったの。あいつがあんな行動を取ったのは、その時の私の言葉がトドメになったから...だと思うよ。」
「マドカの言葉が...?」
「うん...。」
殺したい程憎いと思った事もあった。いや、ほとんどの時がそうだった。
だが、実際に、しかも誰かを庇って死にかけるのを見ると、やるせない。
そう思いながら、マドカは以前一夏に言い放った事を秋十に話す。
「―――そうか....。」
「秋兄?」
「悪い、少し席を外す。」
複雑な感情が渦巻く思考を何とか抑え、秋十は一度皆から離れる。
そして、誰もいない所で、無意識の内に壁を殴りつけていた。
「っ......!」
確かに、一度自身を貶めた一夏を恨んでいた。
だが、実際に誰かを庇い、傷ついたとなれば...弟として、心配になった。
憎んでいた感情と、心配する感情が鬩ぎ合い、気が気でなかったのだ。
だから、他の皆に迷惑を掛けないようにと、その場から離れた。
「なんで...なんだよ...。なんで、今更...。」
言い表しようがない思いで秋十は呟く。
「....はぁ...。」
溜め息を吐き、気を落ち着ける。
「...とりあえず、早く目を覚ましてもらいたいな。」
例え全てを奪った相手でも、元は家族なのには変わりない。
その事から、人を庇う行動を取った一夏を、秋十はもう憎めなかった。
本当に反省しているのか確かめるためにも、目覚めるのを待つのだった。
後書き
レギオンオブドゥームブリンガー…リリなのinnocentの漫画に登場。剣を大量に召喚し、一斉に放つ。この小説ではエネルギーを剣の形にしている。
パイロシューター・フルドライブ…シュテルの扱うパイロシューターの全力展開。大量の炎の弾が襲い掛かる。
一夏の出番を増やそうと思ったけど、なんかコレジャナイ感...。
とりあえず後悔や罪悪感その他諸々で振り切れちゃってる状態です。
色々行動としては愚策な所があるけれど、それでも誰かのために動こうとしたという訳です。
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