IS~夢を追い求める者~
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最終章:夢を追い続けて
第55話「テロへの抵抗」
前書き
―――...俺がやってきた事って、一体....。
まだまだ続く学園襲撃パート。
なお、桜達には出番はない模様。
=一夏side=
「.......。」
ベッドの上で、ぼうっと天井を見上げる。
―――せいぜい、後悔しておくんだね。自分が何をしでかしたのかを。
「俺が....仕出かした事....。」
マドカに言われた事を、ふと呟く。
ここは“インフィニット・ストラトス”の世界。...ずっと、そう思ってきた。
だけど、度重なる原作との相違点。
イレギュラーな存在である桜と秋十。
...それらが、その思い込みを完膚なきまでに砕いた。
「...俺が、原因....。」
“原作”では、ISを認めさせるために束さんは全世界をハッキングした。
けど、この世界では、女性しか乗れない欠陥を直すまで発表するつもりはなかった。
...俺が、特典としてもらった洗脳を使ったから、こうなった。
「....はっ、“原作”...か。」
思わず、自分の考えていた事を鼻で笑う。
ずっと見ていなかった、気づいていなかった。...そんな“フリ”をしていた。
「...ああ、心のどこかでは分かっていたさ。この世界は、そんな“物語”の世界なんかじゃないって事ぐらい...。」
第一に、双子の妹としてマドカがいた時点違っていた。
それを、俺は都合のいいように考えていただけに過ぎない。
臨海学校での束さんの言葉で、それをしっかり自覚させられた。
「....は、はは....。」
今の自分の惨めさに、笑いが漏れる。
幸い、この部屋は防音だ。こんな自嘲的な笑いは誰にも聞こえない。
「何、が“主人公”だっ!!頭沸いてるのか畜生が!!」
まさに、“どうかしていた”。
“転生”に浮かれたからか?ネット小説の読みすぎか?
...俺が、“主人公”に憧れてたからか?
「人を“洗脳”して!家族を蹴落として!!そんなものになれる訳ねぇだろうが!!その挙句自分の思い通りに行かなくて癇癪を起す!?...ハッ!見事な“踏み台”っぷりだなぁ、おい!」
壁を殴りつけ、惨めなまでに自分を罵倒する。
...あぁ、分かっていたさ。俺なんかが“主人公”の器になれないって事ぐらい。
「...ホント、惨めだな、俺。....なんで、ここまで落ちぶれなきゃ、気が付けねぇんだよ...。....くそ....。」
企みを悉く潰されて、蹴落とした弟に負けて。ISに乗れなくなって。
姉にも妹にも見限られ、軽蔑と憐みを向けられて....ようやく...!
「気づくのが、遅すぎなんだよ!!このっ、大馬鹿野郎がぁっ!!」
今度は、壁じゃなく、自分を殴る。
...傍から見れば、気が狂ったと思える程滑稽だろう。
だけど、俺はこれぐらいやらないと気が済まなかった。
「くそっ....くそぉ....!」
...“手遅れ”。そう、手遅れなんだ。もう、何もかも。
いつも、いつもそうだ。
前世の時だって、もう取り返しのつかない所まで堕落していた。
...それを、俺はまた繰り返しただけだ...!
「はは...ははは......!」
もう、笑うしかない。
二次小説的に言えば、俺は“踏み台”にしかなれなかった愚か者だ。
それほどまでに、俺は無意味な事しかしていなかった。
「.....くそ.....。」
―――....もう、疲れた...。
=out side=
「...キリエ...。」
「...分かってるわ。...でも、隙が見つけられない...。」
第三アリーナ。そこに生徒と教師たちは集められていた。
「せ、先輩...。」
「...あまり騒がない方がいい。大人しくしてるのが吉だ。」
「は、はいッス...。」
冷静に状況を見ている者も、迂闊に動く事はできなかった。
生徒と教師を囲む男達は、皆銃を手にしている。
下手に動けば、誰かが殺されかねないからだ。
「....ちっ、またやられたか...。」
「ISもない癖に、流石はブリュンヒルデと言った所か...。」
「っ、織斑先生...。」
近くの男たちの会話から、千冬はまだ捕まっていないと、山田先生は考える。
しかし、同時に自分ではどうする事もできないと理解する。
「(...お嬢様とはこれ以上連絡は取れてませんが...見た所捕まっていませんね...。他にも何人か見当たらない事を見るに...チャンスは潰えた訳ではない、と。)」
人質として紛れ込んでいる虚は、状況をとにかく把握していた。
外でまだ誰かが動き回っている事から、隙が生まれる可能性があると考えていた。
「....は?何!?ISだと!?馬鹿な!?」
「ぇ....?」
そこへ、突然リーダー格らしき男が通信機に向かって怒鳴りつけた。
その時聞こえた単語に、その場にいた全員が騒めく。
ダァアン!!
「うるせぇ!静かにしろ!!」
その瞬間、男の一人が銃を空に向かって撃ち、脅す。
「ちっ...おい!C班とD班は他の班に連絡を取りつつ対処に向かえ!...くそが、ISは乗れなくなったんじゃないのかよ...!」
「(IS...もしかして、秋十君?)」
「(その可能性は高そうね~。彼、高町家に行ってたんだし。)」
動揺している男たちを見て、アミタとキリエは秋十だろうと予想する。
果たして、その予想は当たっていた。
=秋十side=
「.....ありがとな、夢追。力を貸してくれて。」
モノレールから降りた瞬間、俺はISを纏った。
命の危機に晒される人たちを助ける。...そのためならと、夢追は応えてくれた。
「じゃあ、陽動は頼んだぞ。」
「任せてください。...そちらこそ、頼みます。」
「ああ。」
士郎さん、恭也さん、美由希さんがすぐに移動を開始する。
俺の役目は注目を引き付ける事。その間に彼らに人質を解放してもらうのだ。
「さて....。」
展開する武器は、まるで木刀のような見た目のブレード。
“無殺”。文字通り、殺さないための武装だ。
人間を殺しかねない威力は、エネルギーを使って緩和するという代物である。
...まぁ、これでも死んでしまう時はあるがな。
「...派手に暴れてやろうか。」
俺が担う役割は陽動。
ただ正面から挑みかかるだけでは少し足りない。
かと言って、力を見せつけすぎると人質に手を出されるだろう。
絶妙な手加減で動いて引き付けないとな。
「..........。」
...視界の端には、誰かの死体があった。
おそらくは、警備員の誰かだったのだろう。
士郎さん達の言う通り、既に死人が出ている。
「...容赦は、なしだ。」
殺しはしない。俺にはまだ複数人を殺すという覚悟はできないからな。
だけど、死なない範囲ではやりすぎるかもしれない。
...誰かを理不尽に殺すなど、俺は許せないからだ。
「行くぞ!!」
軽く夢追の機動性を使い、銃を撃ってくる奴らとの間合いを詰める。
そして、死なない程度に腕を足を振り回し、吹き飛ばす。
「くそっ....!」
「.....。」
何度も銃で撃たれるが、その全てがISのシールドによって弾かれる。
もちろん、ただで受けてやる訳もないので、ブレードでも弾いている。
「(夢追の力で借りるのは、機動性と防御性のみ。攻撃は自分の力のみでやるのが無難だな...。)」
ISは、基本的に力などに補正がかかる。桜さんという例外もいるが。
なので、蹴りなどでも簡単に人を殺せてしまうため、その補正を切っている。
...それでも、質量の問題で十分強力だけどな。
「次!」
「このっ...!ISは使えなくなったんじゃないのか!?」
「乗れない奴はただ単に“兵器”としてしか見ていないだけだ。...その気になれば、男だって乗れる。尤も、自分勝手な奴らにはIS達は応えないがな....!」
次の奴の銃を夢追の腕で握り潰し、ブレードで小突く。
目の前の奴を気絶させるとまた次の男が銃を撃ってくる。
「くそが!同じ男なら俺達の邪魔をするな!」
「人の命を軽々しく奪うような奴らを、見逃せる訳がないだろう!」
「黙れ!これは正当な復讐だ!俺達男性がどれだけ惨めに踏み躙られてきたから、知らないはずがないだろう!」
...やっぱりだ。こいつらは、自分たちが正義だと思っている。
あの時街中で偶然遭遇した男性と同じで、復讐と称した暴虐を行っている。
その事に、こいつらは気づいていない。
「...だからどうした?」
「なに...!?」
「それで人を殺す免罪符にでもするつもりか?自分が苦しめられたからと、それを無関係な人に課して、正しいと言うのか!」
俺も、最初はあいつを見返そうと...同じ目に遭わせてやろうと思っていた。
多分、桜さんが傍に居続けなかったらそうしていただろう。
だけど、それはあまりにも無意味で、空しくて、罪深い。
自分が苦しんだから同じ目に遭わせるのは、間違っている。
ましてや、それが“正義”などと...“正当”などと言えるはずがない。
「お前達は今、逃れようのない罪を犯しているに過ぎない。邪魔をするしない以前に、お前たちは間違っている...!」
「っ...!ふざけるな!俺が...俺達が、何もかもを踏み躙られて、黙っていろと!?ああそうさ!ISに乗れるお前には分からんだろうな!何も踏み躙られずに済んだ、お前には!!」
「........。」
何も踏み躙られずに済んだ....か。
それを聞いた瞬間、俺はブレードで銃を切り刻み、腕を部分解除して胸倉を掴む。
「...不幸自慢は、それで終わりか!」
「なっ...ぐぅっ!?」
部分解除した腕で、さらに殴りつける。
「踏み躙られた?だから復讐する?そんな苦しみを知っているのなら、なぜそれを振り撒いた!踏み躙られる辛さは、お前らが一番知っているはずだろう!」
「っ...てめぇ...!」
「お前らがやっているのはただの繰り返しだ!誰かに踏み躙られたから、誰かを踏み躙る。そんな子供でもやらないような馬鹿な事なんだよ!」
他の奴らが違う場所から出てくる。
だが、俺は足元にライフルを放ち威嚇するだけで無視する。
「っ...綺麗事ばかり言いやがって...!ぬくぬくと暮らしてきた癖に...!」
「教えてやろうか...!この場で最も踏み躙られてきたなんて言えるのはな、俺なんだよ...!お前らこそ、俺がどんな目に遭ってきたか知らないだろう...!」
自分の過去を見せびらかすなんて真似、本当はしたくない。
だけど、こいつらに対しては...我慢ならなかった。
「女尊男卑で女性に踏み躙られた?はっ、大した事ないな!俺は、女性だけじゃない。家族を含めた全ての人間に何もかもを踏み躙られたんだよ...!助けてくれた人も奪われた上でなぁ!」
「っ....何を、戯言を...!」
「信じられないなら、一度調べてみる事だな。“織斑秋十”と言う人間を...!未だに世間一般には“出来損ない”として知られている、一度全てを奪われた人間を...!」
「がっ....!?」
もう一度殴りつけ、気絶させる。
「....邪魔だ。」
「っ....!?」
まだ残っていた奴らに肉迫し、一人一人ブレードで気絶させていく。
「....くそ、我ながら熱くなりすぎた。」
大方片づけ、俺は溜め息を吐く。
...同族嫌悪って奴か?たったあれだけで怒りが抑えられなくなるとは。
「とにかく、大きく目立つことはできたか...?」
校舎の方から、また別の連中が出てくる。
...本当、大規模だな。いくらセキュリティが固い学園でもあの人数は無理か。
「(俺自身、助けに入りたいものだが...。)」
俺は人質がいた際の立ち回り方を知らない。
下手に動いて犠牲を増やすのなら、ベテランである士郎さん達に任せるべきだろう。
「(突破は容易い。けど、人質を利用される訳にもいかない。だからと言って露骨な時間稼ぎは感付かれる。なら....。)」
上手い具合に時間を掛けて引き付ける...か。
=out side=
「急げ!他の部隊はもう戦ってるぞ!」
「くそ!なんでISが動かせるんだよ!止まったはずだろ!」
「知るか!一部の代表候補生も捕まえていないというのにくそが...!」
校舎の中を一つの部隊が駆ける。
IS学園を襲った集団の一味なのだが、ISが現れた事で焦っているようだ。
...そこへ、さらに追い打ちが掛けられる。
「っ.....!?」
「...ん?おい、あいつはどうした?」
一つの通路を横切った瞬間、最後尾の男の姿が消える。
それに気づいた他の男も振り返り、先程の通路を確認しようとして...。
「なっ...!?」
「はっ!」
「ぐぁっ!?」
廊下の角から恭也が飛び出し、クナイを投擲。
手を狙った事で銃を使われるのを遅らせ、その間に士郎と美由希が肉迫する。
峰打ちによる強打とワイヤーを使った首絞めで確実に気絶させる。
「....よし。」
「他の敵は見当たらないね。」
「なら、今の内だ。」
手早く片づけ、その男たちを通路の方へと運ぶ。
そこには最後尾にいた男もおり、見てわかる通り恭也達が先に仕留めていた。
「思った以上に厄介だな。ここの構造は。」
「ダクトなどは使えないから、必然的に見つかる可能性が高くなるな。」
「文句は言ってられないよ。急がないと。」
「それもそうだな。」
そう言って、三人は再び駆ける。
そのまま、一つの廊下に差し掛かった瞬間。
「っ!」
「.....!」
戦闘を走っていた士郎が二人を手で制する。
曲がった先から複数の気配がしたからだ。
「......。」
「....。」
周囲に隠れる所がないため、手で合図を送りすぐに仕留める事にする。
相手が曲がってくるタイミングを見計らい...。
「(今...!)」
恭也と士郎が飛び出し、手に持つ小太刀を振るった。
「っ...!?」
「なっ...!?」
ギィイイン!!
だが、その一撃は戦闘を走っていた二人に止められた。
「近接...!?」
「気を付けろ!他の奴とは違う!」
止めた二人...ラウラと楯無は受け止めたナイフと扇子で振り払い、構える。
「(女性!?しかも、あの服装は...!)」
「っ....。」
しばらく睨み合い、ラウラ達の服装を見た士郎と恭也は両手を上げた。
「待った。俺達は敵じゃない。」
「何を....!」
「御神の者...そういえばわかるか?更識家現当主。」
「...御神...なるほどね。」
“御神”の名を聞いて、楯無も構えを解く。
その会話を聞いてか、美由希も物陰から出てくる。
「御神?」
「御神流。詳しい説明は省くけど、“裏”では有名な一族よ。護衛では“御神”、暗殺では“不破”と呼びわけられているわ。」
「(退魔の“神影”は...さすがに知られていないか。)」
宗家の“御神”、裏の“不破”、影の“神影”の総称として“御神三家”と呼ぶ。
中でも“神影”は“裏”の人間にも知られていないので、楯無も知らなかった。
「しかし、なぜその御神の者がここに...。」
「...そっか!家族が通ってるんだったわね。」
「生徒会長なのもあって、知られていたようだな。話が早い。」
楯無が軽く説明し、ラウラ達も士郎達がいるのに納得する。
「敵に会う事が少ないのは、もしかして貴方達が?」
「いや、それは秋十君のおかげだ。彼が正面の方で引き付けてくれている。」
「それは本当なのか!?」
秋十が引き付けているという事に、全員が驚く。
「いくら秋十でも、一人じゃ...。」
「...もしかして、ISを...?」
「ああ。秋十君から聞いたが、ISと“対話”して認めてもらえれば乗れるそうだな。」
「なるほど。“ISに乗れる”と言う事実だけでも、奴らの注目を集められる。その隙に侵入と言う訳か...。」
お互いに軽く状況を説明し、一緒に行動する事にする。
その時、遠くから聞こえる音に気づく。
「...銃声?」
「外から...じゃない。これは、校舎内からか...!」
「近いわね...。向かうべきかしら?」
「誰かがいる事は間違いないだろう。...行こう。」
銃声の鳴った方へと、士郎達を筆頭に向かう。
「...!待ってくれ。」
「どうした?」
「...もう一か所だ。」
「っ....!」
ラウラの言葉に足を止め、耳を澄ますと確かに銃声が別の場所から聞こえた。
今から向かう方向とは反対だった。
「父さん、どうする?」
「...危険だが、二手に分かれるか....。しかし....。」
「生徒会長としても誰かを見捨てると言うのはしたくないのだけど...。」
この状況において、二手に分かれるというのは悪手とも取れる。
しかし、助けに行動している身としては、危険を冒してでも向かうべきである。
「仕方ない。危険が伴うが時間もないから二手に別れよう。」
「ありがとう。こちらはこちらで分けるわ。」
すぐに二手に分かれ、それぞれの場所に向かう事にする。
「恭也、そっちは任せたぞ。」
「ああ。父さんと美由希も油断しないように。」
「恭ちゃんこそ。」
軽くお互いを激励し、駆け出した。
「ん~、人が案外少ないねー。」
「私達以外にも、動き回っている人がいるからじゃない?」
「だが、相手は学園のほとんどの人間を一つの場所に追いやる程の人数だぞ?さすがに多勢に無勢な気がするが...。」
学生寮から脱出し、校舎に入ったマドカ達。
しかし、思ったよりも敵が少ない事に、警戒が強くなる。
「気を引き締めて。罠の可能性もあるから。」
「それにしても、まどっちは動きが手慣れてるね~。」
「...まぁ、ね。」
亡国企業にいた時の経験から、自然と手慣れた動きをするマドカ。
今更亡国企業に所属していたなどと言えないマドカは、本音の言葉に少し口ごもる。
「っ....!いる。」
「ひぃ、ふぅ、みぃ...うーん、いっぱいいるね~...。」
廊下の曲がり角の先を覗き、その先にいる敵を見つける。
「あれぐらいの数なら何とか...。先手必勝で片づければ...。」
「殺さずに...って言うのは無理だよ?」
「...やむなし...かな。覚悟はしてたけど。」
角に隠れながら、マドカは覚悟を決め...躍り出ると同時に発砲した。
「本音!シグナム!とにかく撃って!」
「っ...そうしなければ、ならない...か!」
「私あまり銃の腕前は良くないけど~...まぁ、数撃てば当たるよね~。」
敵たちから奪った銃を撃ちまくる。
しかし、距離が離れている事もあり仕留めきれず、反撃として向こうも撃ってくる。
「角に!」
「っ!」
すぐさまマドカ達は角に隠れ、隙を見て何度か撃つ。
カチッ、カチッ
「(っ、弾切れ...!)」
しかし、そこでアサルトライフルの弾が切れてしまう。
元々敵から奪ったものなので、弾数はそこまで多くなかったのだ。
「五人仕留め損ねた...!」
「こっちも弾切れだよ~。」
「どうするんだ....?時間を掛ければ、こちらが不利だぞ?」
銃撃戦の音を聞きつけ、敵に援軍が来るかもしれない。
そうなると長期戦は不利だとマドカは判断する。
「(ハンドガンの弾はあまり使いたくない。ここは...。)」
マドカ達が弾を切らした事に男たちも気づき、足音が近づいてくる。
その音を聞いて、マドカはナイフを取り出し...。
「...いざと言う時の援護は頼んだよ。」
「マドカ...?まさか...!」
一気に駆け出した。
「っ....!」
「撃て!」
「くっ....!」
飛び出し、一気に距離を詰めてくるマドカに、男たちは僅かながら動揺する。
しかし、すぐに銃を構え、マドカを射殺しようと撃ってくる。
「なっ....!」
「(行ける...!)」
だが、マドカは壁を使って跳躍し、射線上に留まらないようにする。
そのスピードは姉譲りの人外っぷりで、銃弾で捉える事はできなかった。
「(でも、近づけない...!)」
「...まどっち、さすがだね~...。まさか、銃弾を躱すなんて...。」
「ああ...だが、あれでは近づけない....。」
何とか銃弾を躱し続けているマドカだが、さすがに近づきづらい。
おまけに、男達の方も状況に合わせて後退しているため、距離が縮まらない。
「...まずいね~。このままだと、動きを先読みされちゃうよ。」
「どうにかならないか...?」
「手持ちの武器だと~...流れ弾が怖いね~。」
ハンドガンで援護しようにも、流れ弾やマドカに当てる危険がある。
マドカもハンドガンを持っているが、撃つ隙がない。
「(ジリ貧...かな。多少の危険は冒さないと、無理かも...。)」
冷や汗を流しながら、マドカは銃弾を避け続ける。
何とかして、隙を見つけようとするが...それは、まだ先の事だった。
【こっちだよ。】
「わっぷ。埃が...けほっ。」
「レヴィ!あまり動きすぎると我らにも...ぬぅ!?」
「煙たいです...。」
校舎内にあるダクトの中に、一つと三人の小さな影があった。
「ごめーん王様、シュテるーん!」
「まったく、なぜ我らがこんなコソコソとせねばならん。」
「これが最善手ですから。」
チヴィットの体で活動するエグザミアに搭載されたAIである、シュテル、レヴィ、ディアーチェが声を潜めながら移動を続ける。
案内するのは、球体に羽が生えたような機械...白式の意志である“白”だ。
「それよりも、アリーナに近づいているのか?」
【データによるとちゃんと近づいてるよ。でも、直接アリーナに出る訳じゃなくて、近くの通路から出る事になるから、そこは注意してね。】
「バレる可能性も大いにあるという訳ですか。」
向かう先は人質が囚われているであろうアリーナ。
襲撃に気づいたシュテル達は、白の誘導の下、こうしてダクトに逃れていたのだ。
「学生寮から校舎に移動する時に見たけど、結構な人数だったよね?」
「生徒や教師を人質にする奴らだ。それなりの人数でないと話にならん。」
「...その分、人質の救出は困難となります。」
その小ささから、傍目で見れば可愛らしく見えるシュテル達だが、その表情は真剣そのもの。それもそのはず。学園が襲撃されたのだから。
白もそれを傍観するつもりはなかったため、こうして三人を導いていた。
「通路に出てからはどうするつもりですか?」
「とりあえず、敵に見つからぬよう上空や高台に向かう。奴らも我らより空で優位に立てるとは思えんからな。」
【お姉ちゃん達が協力する意思を見せない今、一番状況に影響を与えれるのは三人だからね。...まぁ、お父さんと関わってきた皆なら、考え次第で協力してくれるけど。】
「とにかく、急ぎましょう。」
そういって、シュテル達と白はダクト内を急いで進む。
今ある危機的状況を打破するために。
後書き
前書きのセリフが本編にあまり関連性がなくなってきた...。
とりあえず一夏の独白を。反省よりも後悔が強く出てる感じです。
ちなみに、敵は大体は人質として利用するつもりですが、ある程度強い相手は危険だと判断して殺そうとしてきます。
二話に分けるとか言いながらさらに続いてしまった...。
と言う訳でさらに次回に続きます。
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