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IS~夢を追い求める者~

作者:かやちゃ
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最終章:夢を追い続けて
  第57話「終わる学園」

 
前書き
―――これ以上は、ダメだ。


襲撃のその後の話。
生徒の現在の精神状態はだいぶヤバイです。
ISが使えなくなった上に、男性たちによるテロですからね...。怪我人もいますし。
 

 






       =桜side=





「....へぇ...。」

 画面に映る映像を見ながら、俺は感心したように笑う。
 そこに映っているのは、IS学園襲撃の映像。

「意外だね。あんな奴にもあれぐらいする心があったんだ。」

「行動自体は悪手だがな。何があいつを変えたのやら...。」

 誰かのために動く...なんて、あいつらしくない。

「...いや、あそこまで打ちのめされたからこそ、ああなったと言うべきか。」

「それはともかく、死人が出ちゃったね。」

「ああ。...まぁ、警備に就いていたんだ。覚悟はできてただろうよ。」

 今回の襲撃で、警備員が何人か死んでしまった。
 テロリストの方も何人か死んだが...まぁ、そちらは自業自得だ。

「生徒だけでなく教師も精神的にだいぶ不安定になってるねー。」

「そりゃあ、自分たちの立場そのものが不安定だからな。いつ、自分がどうなるかもわからない状況に、不安を覚えない奴はいないだろう。」

 千冬を筆頭とした頼れる人がいるからこそ、何とか無事だったのだ。
 そこへ、テロリストの襲撃と来れば...不満は爆発するだろう。

「さー君の予想では誰が爆発させると思う?」

「そりゃあ、間違いなく女尊男卑の思想の連中だろう。...で、その中の誰なのかというなら...こいつだな。」

「...まぁ、ゆーちゃんの事もある上に拗らせてるからねぇ。」

 学園の生徒のデータ、その一つが俺達の前に映し出される。
 そこには、“ユリア・エーベルヴァイン”の名があった。

「...今までやってなかったが、叩き潰すか?」

「黒い部分を暴く程度で自滅するからいいよ。というか、潰すのに関わったらむしろゆーちゃんに迷惑だよ。」

「それもそうだな。」

 ユーリちゃんには迷惑を掛ける訳にはいかない。
 やるとしても、上手く誘導してユーリちゃんをエーベルヴァイン家の当主にした後、他の奴らを潰すべきだろう。

「じゃあ、俺達も行動を始めるか。」

「そうだね。権利団体の連中も動いてるだろうし。」

 席を立ち、俺達は部屋から移動する。
 ....学園は、そろそろ終わりを迎えるだろう。









       =秋十side=





「...さすがに、食堂にも人はいないか...。」

 テロの翌日。食堂には誰一人いなかった。食堂のおばちゃんさえも。

「生徒の半数近くが負傷。他の者も精神的に辛い状況だ。...むしろ、生徒に死人が出なかったのがおかしいと言える程だ。」

「っ.....。」

 千冬姉から告げられる事実に、俺は声を詰まらせる。
 俺は、最善を尽くしたつもりだった。士郎さん達も精一杯頑張った。
 ...だが、それでも誰かが...あいつが、傷ついた。

「...気にするな、とは言わん。だが、気に病む必要もない。人一人に守れる存在は限られている。...と言っても、お前は納得しないか。」

「...理解はできています。」

「そうか。...この場にいても意味はない。行くぞ。」

「はい。」

 誰もいない所に長々と留まっていた所で、何の意味もない。
 それに、俺はともかく千冬姉...教師にはやるべき事が山積みだ。











   ―――...また、騒ぎが起きた。



 主犯は、ユリア・エーベルヴァイン。...ユーリの元姉だ。
 そして、他にも彼女と同じ女尊男卑の連中も便乗していた。
 それは一部の教師も同じで...だからこそ、学園は崩壊した。

「これは....なんの真似だ?」

 場所はあいつが治療を受けている部屋の前。
 あいつは、目覚めた際に俺達関わってきた人間全員に対し、謝罪した。
 心変わりしたその心情は分からないが...傷が治るまで、俺は一応見舞いに来ていた。
 ...その帰りに、俺は複数の女子に囲まれたのだ。

「うるさい!男は黙って私達の言う事を聞けばいいのよ!」

「...話にならんな。」

 いやホント、マジで。完全に癇癪を起してしまっている。
 テロなどで追い詰められたのもあるだろうが、これはなぁ...。

「...この先には重傷者がいる。身内でもない限り、易々とは通せんな。」

「口答えは許さないわ!」

 そういって、全員が襲い掛かってくる。
 ...まったく、後ろ盾もいなくなった状況でそれは悪手すぎるぞ...?

「女尊男卑の風潮があったのは、ISが女性にしか動かせないという前提があったからだ。今、それがなくなった状況では、ISが生まれる前と同じで対等な立場でしかない。...それは権力に限らず、物理的なものでも、だ。」

「ぐ、ぅ...!?」

 一人一人丁寧に捌く。素人の...それも女性が相手だ。俺でもできる。
 残ったのは主犯格であるユーリの元姉。

「くっ...動きなさい...!動きなさいって言ってるのよ!どうして言う事を聞かないの!?」

「当たり前だ。...そんな、自分勝手な事ばかり考えるお前に....ユーリを捨てたお前に、そのISが応えるはずがない。」

 必死に自身の専用機であるゴルト・シュメッターリングに呼びかけるユリア。
 しかし、ISはそれに応えない。あまりに自分勝手だったから。

「変わっていく...いや、歪みが戻っていく様を見ながら、今一度自分の在り方を見直す方がいい。...尤も、早く決断しなければ、家ごと桜さん達に叩き潰されるだろうがな。」

「ひっ....!?」

 一気に間合いを詰め、一撃で気絶させる。
 ...一般人にはできても、桜さん相手じゃこれも役に立たないんだよな..。

「...終わったか。」

「千冬姉。...って、その人達は...。」

「お前を影から狙ってた馬鹿者どもだ。」

 千冬姉が姿を現したと思ったら、何人かの教師を引きずっていた。
 どうやら、彼女らも女尊男卑の思想に染まっており、隙を伺っていたらしい。

「ついに内部でこうなったか...。どうするんだ千冬姉。」

「しばらくは隔離しておこう。...何、時が来れば皆実家へ帰る。」

「え....?」

 少し疲れた様子で、千冬姉はそういった。
 実家へ帰る...。それは、つまり...。

「....これ以上は、ダメだ。」

「...学園に留まるよりも、家に帰った方が安全と言う訳か...。」

「ああ。今回の事でそれが決定された。怪我をした者には然るべき対応をし、速やかに各国へ送り返す手筈になっている。」

 生徒達が部屋に籠っている間、教師陣はずっとその準備をしていたのだろう。

「夏休み中に全てを済ませる。」

「けど、高校生としての学習過程が終わってないんじゃ...。」

「それも手配してある。このままIS学園の生徒としてありたいのならば、卒業までの授業内容を課題として渡し、そうでなければ祖国にある高校に転校という扱いになる。」

 生徒に伝えるのは夏休み前の終業式になる予定だった日らしい。
 それにしても、生徒のために色々準備している裏で、今回の事を企んでいた教師って...。

「言いたい事は分かる。...こいつらは私達が動き回っている中、何かコソコソしていたからな。逆にわかりやすかった。」

「...馬鹿なんじゃないのか?」

「うむ。」

 あー、もう馬鹿扱いなのか。まぁ、この時期、この状況下でだからな...。

「...それで、あいつの様子はどうだ?」

「以前までが嘘かの如く大人しいよ。ただ、逆に今にも壊れそうなほど脆くなっているようにも見えるって所かな。」

「そうか...。」

 あいつは...兄さんは、この上なく反省しているようで、とても大人しかった。
 ...どちらかと言えば、罪悪感故に俺達に対して弱気になっている感じだが。

「...それで、IS学園がなくなった際、ここはどうなるんだ?」

「学園として機能はしなくても、別の用途がある。...それも、私達の目的にはちょうどいい類のな。」

「目的...そうか、拠点としてはまだ使えるのか。」

 桜さん達を見つけ出すのに、どうしても拠点は必要だ。
 それも、それなりに規模のある施設でないと。
 そういった点では、このIS学園は持ってこいなのだろう。

「尤も、あいつらにはバレバレだろうがな。どうせ、先日のテロもあいつらは知っているだろう。その上でIS学園がなくなり、私達が拠点にするのも予想しているはずだ。」

「...桜さんと束さんだからなぁ。」

 しかし、だからといって別の手段はとれない。
 桜さん達が分かっているのを踏まえても、ここ以上の拠点はない。

「とにかく、生徒にはもう少し大人しく待っているように伝えるつもりだ。それまでは、御神の者や更識家が警護に協力してくれる。...もちろん、対価は払っているが。」

「対価...。」

「普通に金だ。一応、IS学園にはまだ金が残っていたからな。」

 皆が帰国するための手配などしても、まだ雇うだけの金があったのか...。
 まぁ、政府から援助されていたのだからおかしくはないが...。

「拠点にするという事は、マドカ達に伝えておけ。」

「分かった。」

「それと....だ。」

 話が終わったと思った瞬間、千冬姉から軽く手刀を落とされる。

「いてっ。」

「今はまだ教師と生徒の立場だ。“織斑先生”と呼べ。」

「...そういう織斑先生だって明らかに生徒に対する接し方ではありませんでしたけどね。マドカも名前で呼びましたし。」

「ふっ、そんな事は知らんな。」

 久しぶりに千冬姉の横暴っぷりを見た気がする。
 まぁ、冗談めかしているから横暴と言える程ひどいものでもないけどな。

「テロの被害や他の生徒の心配で気を病んでいる暇はないぞ。...あいつらを止めるのならば、ここで立ち止まってられん。」

「....はい...!」

 千冬姉の言葉に、俺は力強く返事を返す。
 そしてそのまま背を向けて別れる。気絶させた生徒とかは千冬姉に任せよう。
 ...そこまで深く親しんだ訳ではないけど、お別れ会ぐらいは開くべきだろうな。
 たった半年。されど半年だ。お世話になった人もいるしな。









「...教師を代表して、私から言わせてもらう。....皆、すまなかった...!私が...私達が不甲斐ないばかりに、生徒を危険に晒すどころか、学園そのものがなくなってしまう事を、防ぐ事ができなかった!」

 数日後。本来であれば一学期終業式の日。生徒達に全てが伝えられた。
 皆が皆、少なからず衝撃を受けていた。中には泣く者も当然いた。
 一部の聡い人は予想はしていたみたいで、納得した表情だったりもした。

 その一週間後に、今度は食堂に生徒達は集まっていた。
 この学園に通う者が集うのは、今日が最後だとしてパーティーを開くためだ。
 そして、そのパーティーを始める前に、千冬姉が皆に対して頭を下げた。

「今日を最後に、IS学園はなくなる。皆も順を追って本国へ帰るだろう。....最後の思い出として、今は楽しんでくれると嬉しい。」

 そう締め括り、千冬姉は用意していた檀上から降りる。
 あの千冬姉が謝った事に、やはり驚いたのだろう。周りが少しざわついていた。
 次に、学園長が出てくる。そして、皆に労わりの言葉を掛けていった。
 皆も、その話を聞いている内に、涙を流していた。

「最後になりましたが....皆さん、どうかこのパーティーだけでも楽しんでください。」

 頭を下げ、学園長は壇から降りてグラスを掲げ、“乾杯”といった。
 それがパーティー開始の合図。皆もそれを理解していたので、各々楽しむことになった。

「秋兄。」

「マドカ。それに簪となのはもか。」

 パーティー開始してすぐにマドカが二人を連れて合流しにきた。
 一体この人混みの中どうやって見つけたのだろうか。
 いくら男子生徒が二人しかいないからって...。
 ...アホ毛がピコピコ動いている。まさか...な?

「四組の方にいなくてもいいのか?」

「すぐに戻るよ。最後の交流会みたいなものだし、色んな所を巡ろうと思ってね。」

「私はお父さんたちに差し入れを持って行こうかなって。」

 士郎さん達は現在、更識家の人と協力して警護に当たっている。
 以前いた警備員は半分ぐらい殉職してしまったからな...。
 また襲撃されるかもしれないので、千冬姉自ら依頼したらしい。

「私は本音と巡ろうと思って...。」

「かんちゃん呼んだ~?」

 簪はどうしてこちらに来たのか聞こうとすると、先に答えられる。
 そして、すぐに名前を呼ばれた本音が現れた。
 ...って、ケーキ頬張りながら来た...。

「もう食べてる...。その、一緒に巡ろう?」

「お~かんちゃんが私相手とはいえ自分から誘った~!」

「....本音?」

「ぅぁ~、いふぁいよかんちゃ~ん。」

 言外にコミュ障だと言っている本音の頬を引っ張る簪。
 簪もユーリを通して色々変わったと思うんだけどな...。

「っと、そうだ。俺もマドカについて行っていいか?」

「え?どうして?」

「ちょっとアミタさんとキリエさんに聞いておきたい事があってな。」

 二人に...というよりは、会社にって感じだけどな。

「...そういう事。」

「理解が早くて助かるよ。」

「秋兄の考えてる事は大体わかるもん。」

 マドカは偶に俺関連で少し怖い事がある。
 ...洗脳されてた時の反動か?シスコンを拗らせたみたいになってるが...。

「じゃあ、行こうか。なのは達も各々楽しんでねー。」

 マドカに手を引かれ、四組の方へと移動する。
 アミタさんとキリエさんは生徒と会話しながら食事を楽しんでいた。

「アミタ先生、キリエ先生。」

「あ、秋十君。どうしましたか?」

「ちょっと聞きたい事が...。」

 ごく自然に近寄り、他の人に聞こえないように尋ねる。
 ...と言っても、少しぐらいなら他に聞かれてもいい内容だけどな。

「...会社の方はどうなってますか?」

「...混乱の真っ只中...ですね。桜さん達だけでなく、ジェイルさん達までいなくなってしまったので、立て直すのに精一杯です。」

「...やっぱり...。」

 最近は会社から連絡がない。元々桜さんが連絡を取ってたのもあるが。
 いくら桜さん達がいなくなっても成り立つようにはしておいたとはいえ、混乱するのも当然だ。...と言うか、ジェイルさん達までついて行ったのか。あの人ならおかしくはないが。

「現在は父さんとハインリヒさんが中心となって立て直しています。」

「一度会社にも行かないと...。」

「あ、それと、言い忘れていましたが会社の周りや上空には桜さん達の監視の目があるようです。おそらく、あの放送で言っていたものかと。」

 今の所会社には手出しされていないらしい。
 あの人達の事だし、手を出したら本当に報復してくるからな...。

「ありがとうございます。」

「いえ。秋十君も、せっかくなんですからパーティーを楽しんでください。」

「...はい。」

 聞きたい事も聞いたので、俺は俺で楽しむことにしよう。
 マドカはクラスメイトと談笑しているようだし、俺も一組の方へと戻る。

「あら、秋十さん。四組の方へ行ってましたの?」

「セシリア。...まぁ、会社の事で少し聞きたい事があったからな。」

「そうですの。」

 セシリアはクラスメイトと談笑していた所で俺に気づいて声を掛けてくる。
 こういうパーティーになるとセシリアが淑女らしいのが実感できるな。

「学園としての方針で一度実家に帰る事になっているが...セシリアはどうするんだ?」

「確かに一度家に帰りますが...支度を済ませたらまたこちらへ連絡を寄越しますわ。桜さん達の居場所を突き止めるには、オルコット家だけではどうしようもありませんから。」

「なるほど...。」

 セシリアは...と言うか、鈴やラウラもだが、桜さん達を止めるために皆で手を合わせると明言しているから、実家に戻ってもすぐに集まるつもりのようだ。

「秋十さんは?」

「俺も一度家に帰るな。その後、一度会社の方を見てからこっちに来るつもりだ。」

「会社....大変な事になっていますものね。」

 会社として考えれば一方的に利用された感じなのだが...。
 やはり、繋がりを疑っている連中はいるし、何よりも今まで桜さんや束さんがいた事を隠していたのではないかと言われてたりもする。
 ...まぁ、実際知っていたのは会社設立に関わった者と、シャルやハインリヒさんのように深く関わった人だけで、大半の人は知らなかったんだけどな。

「私はドイツに戻った後、しばらく連絡は取れないかもしれん。」

「...そうか、軍として動かなければならないからか...。」

「無駄に終わると思うんだがな...。」

 学園に来る前の時点でドイツは桜さんの手玉に取られていた。
 それなのに今更捕まえようと動いても読まれているだろう。

「ボクも秋十についていく感じで会社に行く感じかな。...ボクにとっては今の家は会社みたいなものだし。」

「ひとまず、会社を何とか安定させるのが最優先か...。」

 メディア関連は色々情報をかき集めてるからな...。
 その対処のためにも、桜さんを止めるための行動は後回しになりそうだ。

「箒はどうなんだ?」

「私は....。」

 セシリアと話している内に、一組でのいつもの面子が集まっていた。
 そんな中、俺は箒にも尋ねる。

「...どうなるかがわからない。保護プログラムはまだ残っているのだろうが、今となってはそれを逆に利用されそうでな...。」

「...そうか、その可能性もあったな...。」

 今までは一応危険が及ばないようにするためだったが、ISを失い、桜さん達が“テロリスト”としての立場となれば...今度は利用されかねない。

「...とはいえ、姉さんがこれを予測していないはずがない。“最悪の事態”は回避できるようになっているとは思うのだが...。」

「油断はできないだろうな...。」

 とにかく、しばらくは政府の預かりになるだろう。
 そこで政府が利用する素振りなんて見せたら....うん、想像するのはやめよう。

「とりあえず、協力すると言ったんだ。必ず私も駆け付ける。」

「ああ。待っているぞ。」

 どれくらい先になるかは分からない。
 それでも、俺は桜さん達を止めるのを諦めない。
 ...それを、誰よりも桜さんが望んでいるからだ。

「秋十!あたしの事も忘れないでよね!」

「鈴。そっちから来たのか...。」

「ええ。それと...。」

「チヴィットと白まで...。」

 鈴は人混みの間を抜けるようにやってきた。
 その腕にシュテル達を抱え、頭に白を乗せた状態で。

「揉みくちゃにされていたからね。」

「この前のテロの事もあったからなぁ...。」

 チヴィット達は人質になっていた皆を助けると同時に大規模の攻撃をするという、一際目立つ活躍をしていた。その事もあって、色々集まられるようだ。
 ...中には、難癖付ける奴もいるようだが。怪我したから不満があるのは仕方ないが、あれがあの場での最善だと思うしかない。

「そ、揃いも揃って我らを弄びおって...。」

「一応ボクらってマスコット的な存在としてボディが作られたんだよね?なのにこの仕打ちはおかしいよー。」

「.......。」

 近くの空いているテーブルに降ろされたチヴィット達は各々ぐったりとしていた。
 ユーリのめ~ちゅの時もこんな感じだったな...。

「...ふと思ったのだけど、チヴィット...シュテル達はユーリのエグザミアについてたAIで、自立型の...言うなればブルーティアーズに似た部類の武装扱いなのよね?」

「まぁ、便宜上はな。」

「.....ISに通じ得る存在として、狙われないかしら?」

「........。」

 正直に言えば、失念していた。
 桜さん達なら予想して対策を既に立ててあるだろうけど...俺達でも対策を立てておかないとな...。シュテル達に何かあればユーリに申し訳ない。

「白、そこの所、どうなんだ?桜さん達が対策を立てていたりは...。」

【いざという時は、シュテル達を介してお父さん達が会話できるようになってるよ。もちろん、GPSみたいに座標も分かってる。...手を出した途端粛清されるね。】

「...言い換えれば、チヴィットと一緒にいる限り俺達の場所もバレバレなのか。ぶっちゃけ、ばれてなくてもあまり関係ない気がするけど。」

 ...と、思考がずれて行ってた。
 せっかく最後のパーティーなんだから少しでも楽しまないと。

「色々考えるのは後でもいいだろう。今はパーティーを楽しもう。」

「そうね。...あ、それと、あたしも一度中国に戻るけど、すぐにこっちに戻ってくるつもりよ。大人しく帰れだなんて、あたしの性に合わないわ。」

「ははは、鈴らしい。」

 そういって、俺達はパーティーを楽しむ事にした。
 他の生徒も、それぞれ友人と写真を撮ったり色々しているようだ。

「...ところで、チヴィットの皆は食事できるのか?」

「.....見てるだけって辛いよねー...。」

「できないのか...。いや、仕方ないと言えば仕方ないんだが...。」

 なんというか、三大欲求の一つを満たせないのは不便だな...。







       =out side=





「........。」

 食堂の隅の方。誰も寄り付かないような位置に、ただ一人そこにいた。

「....混ざらないんだな。」

「...まぁ、な。」

 そこに、秋十がやってきてそう話しかける。
 話しかけられた者...一夏は、静かに返事を返した。

「傷はいいのか?」

「もう動けるぐらいには回復している。...IS学園の技術様様だ。」

「...そうか。」

 現在一夏は車椅子を使っている。普通に歩くとなると、傷が痛むからだ。

「...なぁ、お前はさ、浮かれた事とかあるか?」

「なんだ?藪から棒に。....そうだな.....ない、な。身近に桜さんとかがいたから、浮かれるような事なんてなかった。いつも上回られるからな。」

「...そうか。羨ましいな。常に上を目指し続けられる意志を持てて。」

 疲れ切ったように、一夏は嘆息する。
 今までの自分を振り返って、今更ながら後悔していたのだ。

「...俺は、前世も、お前に成り代わった今でも、俺は堕落し続けた。...少し考えれば、“原作”に沿うなんて無理なのは分かっていたはずなのに。」

 秋十が生まれ、桜やマドカがいる。
 この時点で、“原作”と違う事から、一夏は目を逸らしていた。
 その結果が、今である。

「俺は...ただの馬鹿な人間だった...。大した努力もしない癖に思い通りにならなかったら癇癪を起して...そのままずるずると堕落するだけだった。...今世でもそうだ。“洗脳”なんて外道な能力を望んで、そこまでして思い通りにして....こんな最低な人間、裁かれるのが当然だってのに...。」

「...後悔、してるんだな。」

「ああ、してるさ...!死んでしまいたいぐらいにな...。でも、それじゃあダメだ。犯した罪は償わないといけない...。」

 ただただ後悔し、涙を流す一夏に対し、秋十は上手く言葉を出せない。

「俺は...いつも気づくのが遅すぎる...。人生が詰んでから気づくなんて、馬鹿だろう...。どん底にまで落ちないと気づけないなんて...。」

「........。」

 一夏は、目の前に広がる光景がどこか遠くのものに見えた。
 もう後戻りはできない所まで来たのだと自覚したからだ。

「...千冬姉から聞いたが、しばらくは更識家の者が護衛に就くらしい。あんたも、元がつくとはいえ男性操縦者だ。無防備に置いておくと利用される。」

「....そうか。」

「....まだ、詰んだ訳じゃないぞ。」

「え....?」

 秋十の言葉に、一夏は思わず顔を上げる。

「これからの行動で希望が見えるかどうかは....あんた次第だ。過ちに気づいたというのなら、もう間違えるなよ。」

「.......。」

 そういって、秋十は皆のいる場所へ戻っていく。

「....お前は、あんな事をした俺に、“まだ終わってない”と...そういってくれるのか....。...はは...やっぱり、“主人公”には敵わないなぁ....。」

 乾いた笑いを漏らした一夏は、やはり泣いていた。
 ...だが、今度はしっかりと前を見据えていた。













   ―――そして、その日IS学園はなくなった。











 
 

 
後書き
お別れ会的な感じだったのに全然描写できなかった。←
IS学園がなくなったと言っても、建物や生徒はしばらく残ります。順に国に帰っていく感じで、それまでは寮などで生活します。

一夏は過ちに気づいてとんでもない罪悪感に苛まれています。そしてそれを救った秋十。
これから一夏の活躍は(描写的な意味で)多分ないですが、いつかは普通の人生は歩めるようになります。 
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