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ネフリティス・サガ

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第八話「賢者の塔」

 その夜は、嫌に西の空が血のように赤く燃えていた。月の塔と呼ばれるアルテミナスの塔からその月

のように明るいローブを羽織った女性は
 これから起こる災厄と自分の宿命を思っていた。

「どこかで大乱があったのかしら、プラーナ様はこのことを言っていたのね、うっ、風に機械の油と鉄の焼ける匂いが、これは北の国ノア・ニールの鉄甲騎士団、それも空軍、陸軍、海軍の三軍の同時攻撃……」

「アルテミナス様―いるうー?」
 
 突然、緊迫した空気を台無しにする女の子の声。その、かわいい花のような声はアルテミナス様を慕ってるティナという女の子だった。

「ティナ、私は行かなくては、戦争の匂いがします、この月の塔のアルテミナスとして禍々しいものを

許しておくわけにはまいりません。それに西の方角は、プラーナ様が私にとっての宿命が深く結びつく

方角と呼んでいた。わたしもいったい自分は何者なのか知っておかなければ」

「ねえ、でもアルテミナス様がいなくなったらカタルーナの町はどうなるの?」

「おまえには魔法の使い方を教えてやったでしょう、敵が来たら幻術でも使って混乱させてその間に町

の剣士団で一気に勝負を決めるとか…」

「う~ん」

「おまえは、そういうところが弱いのよね、魔法をいくら教えたって単純なものしか使わないし魔法使

いよりも剣士の方が向いてるのよね。ん?魔法?剣?そうか魔法剣があったわ!」

「魔法剣?」

「ええ、簡単に言うと魔法の力を剣に載せて打ち出すの、えーとここらへんに入門書が」

 アルテミナス様が慌ただしく探していると、机にはモンブランのケーキと煎れたての紅茶がある。テ

ィナはぱああと顔を明るくしてがっついた。遠慮なしに。

「けほっ、けほっ。あったあった魔法剣の書。

ん?あれ?ねえ、ティナ?なんでお口にクリームがついてるのかなあ」

「え?えっと多分、今日のおやつがケーキだったかなっと」

「じゃあ、なんでこのテーブルのモンブランが皿だけ残して跡形もなくなくなっているのかな?」

「いやあ、たぶんもう食べちゃったんじゃないですか?それをど忘れしてるんじゃ」

「私はこれでも賢者よ?そんな大事なこと忘れるわけないでしょ、別にいいのよ?嘘ついてて

も魔法で証拠を浮かび上がらせれば良い訳だし」

「分かりました、私がやりました。ごめんなさい……」

「素直でよろしい、では修行の間へ行って魔法剣を教えるわ。もしかしたら数年後にはものすごい剣士

になれるかもしれないわね」

 二人を螺旋状の階段を下り一室に入った。

そこには剣が山ほど置いてある。

「さ、構えて、剣はそこのどれでも好きなの使って」

 アルテミナス様も一本手に取る。そしてピシっと構えた。アルテミナスでも剣の扱いは心得てる、他

に弓矢や短刀なども使える。

「私の動きを真似をして?細かいところは流しながら教えるわ」

 そうしてものの三日間でティナは真空波を剣に載せて打ち出す旋風剣と命名された剣を納めた。

そして外にでてみると時計は一分も進んでない。ティナは、いつもそれが不思議なのだ。

「まあ、今は風の魔法しか剣に載せて打ち出せないね。それでも魔力に体が呼応してまるで風のように

動かせるようになってるよ。それがどんな進化をあなたに与えるか分からないけど剣を持って体感する

ものと経験があなたの力を数倍にするでしょう」

「ねえ、なんで部屋では三日間も過ぎたのに外では一秒もたってないの?」

「ああ、それはティナが修行しやすいように中の時間を操ってるからよ」

「へええ」

「それより、さっき言ったことは覚えた?」

「う、うん!わたし、絶対に世界一の剣士になる」

「世界一か大きく出たわね。それならその名に相応しい技を使いこなせるようになるのよ」

「大丈夫だよ、私、魔法剣?はまだ分からないけど魔法はいっぱい知ってるし剣だってこの街では負け

たことないもの」

「子供でも剣を持たされる、これが本当にいいことなのかしら、でもこの不穏な情勢では已む終えない

のがとても辛い」

「どうしたの?」

「な、なんでもないわ、じゃあ、私はいくわ」

「う、うんもしよければまたカタルーナに遊びに来て?」

「ええ、必ず!」

 ティナが帰るとボロボロの着慣れたローブに着替え、月の塔の最上階へ行き杖を掲げた。すると月の

塔は霧に包まれ、霧が晴れると西の空が赤く燃える場所へ着く。

 このあたりは、翡翠の国の領土だけど?

アルテミナスは徒歩でまるで軽業師のように森を抜け翡翠の町に入った。

そしてものすごい光景を目にする。

廃墟とかした翡翠の国を我が物顔で蹂躙する機械兵たち、遊んでいるのかそこらじゅうのガレキを大

砲で破壊して楽しんでいる。

空には、飛行戦艦が何十隻も、そこから卵のように射出される飛行機械が翡翠の国の城壁を越えて絶

え間なく絨毯爆撃を加えている。

あまりのことに絶句するアルテミナスだが、不思議なことにこの国の人を見つけられない。もちろん

死体はあるが、それ以上に翡翠の国ほどの大国、まだ生きてる人がいても良いはず。

ここに着いてから思ったのだができることなら生き残った人々を一人でも多く助けたい。

だけどそれは見当違いだったようだ。たぶんもうあらかたの民は逃げているのだろう。

しかしあの機械共には少し腹が立つ。まるで破壊を楽しむように。

胸糞が悪い。

機械兵の一人がこちらに気づく、砲弾を打ってくる、だがアルテミナスの杖が一瞬、光に包まれ砲弾

を打ち消した。爆炎のなかで平気で立っているアルテミナスに機械兵は少なからず恐れを抱いたそのね

じ巻き式の心臓に。

だがアルテミナスは殺生が嫌いだ。だから、杖で威嚇の炎を見せて追っ払った。

「さあ、もう翡翠の国は滅びてしまった、あれだけ深い精神性を持つ国が、くっ、北の都

ニム・イールめ、タダではおかない!」

「だ…れか」

 かすかだが人の声が見ればガレキに埋もれた人が、鎖カタピラに立派な鎧、さぞ名のある王宮騎士だ
ろう。

「大丈夫?はっ!……申し訳ないけどあなたはもう手遅れだわ、下半身がなくなっているもの」

「け、剣を私の剣を」

 よく気がつくアルテミナスはそこらを一周り見て
キラリと光る剣を見つける、その騎士の鎧と作りが似ているので間違いない。

「あなたの剣よ、握りしめて、ねえ翡翠の民はどうしたのです?まさか皆殺しに?」

「いえ、王宮騎士三人に守られて迷いの森からぬけたと思いまする。国王、女王のお二方があの暗黒の

司祭フォルノウスから民を守ったのです。自分の命をかけて国の王たるものが民のために尽くそうする

私はいい国に生まれました。翡翠の国は終われどもその魂は不滅です。いや、まだ分からない、王子が

アルセイユ様が命からがらお逃げになったとか今は小さい子供ですがあの子ならば……」

 騎士は目に希望の光を蘇らせてそのまま、逝ってしまわれた。

「騎士殿?騎士殿!くっ、フォルノウスめっ!これまでの太平の世をかき乱さんとする大敵!許さな

い。しかし王子は生きているとは、

ならばゆくべきは迷いの森、それにしてもこのローブと杖は目立つ」

 杖をかがげると、一瞬、強く白い光が瞬いて気づけば、アルテミナスは旅人のマントを羽織ってい

る。杖も剣に変えて腰に下げた。むろん目立たないように魔法で隠している。

そして、そのまま、家の影から影へ伝って
いく。
 空は炎で赤く焼け、火事で家屋は炭に、廃墟となった国は燃え続ける消えない火に包まれている。

ニム・イール、たった一晩で世界で最大の国をこうも破壊するとは恐ろしい。

機械兵も飛行機械ももはや探すべき人間を見つけられず飛行船に回収されていく。

退却か、そして補給を終えれば領地を占領と来るのだろうな。

アルテミナスはそのまま、どんどんとガレキと化した廃墟を進む。その足運びは昔の唄に残されるエルフのようだった。

金色の髪に青い目、この世のものとは思えない美しさ、肌は透き通るように白く、森を駆ければまるでそよ風のごとく、痕跡は一切残さない、積もった雪に足は沈まず、枯れ葉を踏んでも音は立たない。
賢明にして大知あり、西の方からやって来た最も古き良き魔法の種族。

そんなふうに吟遊詩人は歌う。

アルテミナスはエルフではないがエルフに会ったことはある。そしてエルフにいろいろな技と知恵を教えてもらっている。

エルフは気難しいが、アルテミナスを相手にする時は別なのだ。

 その時だった風のに乗って声がした。

「アルテミナス、王を探して王を」

 それはエルフだった。

「私達はこの地を去る。恐ろしい北の魔王が来るから、私達は滅びゆく種族、これからのこの地の未来

はこの地の者が決める。貴方はこの地にふさわしい王を探してそれが我々のせめてもの手向け」

「エルフよ、その王はどこにいるのです。翡翠の国は滅びました。翡翠の盟約の加護ももはやないでしょう。」

「今はまだ小さな星だが夜空にひときわ輝く星がある。星を読み歩みなさいアルテミナス」

「アスレイユ王子のことですね」

「いいえ、それは貴方の目で確かめるのです、まことの王とは万民の中から現れいづるからです」
 
 彼らは知恵を持っている者を重んじる。同じだけ武勇に飛んでるものも軽んじはしない。
さてこれはアルテミナスという少女の隠れた一面あの森に迷って、怖くて泣いていた、か弱い少女は、賢者の顔を持っていた。
 しかし迷いの森に迷い、そして怖がっていたのも彼女である。アルテミナスは月のアルテミナスだが、月は得てして不安を同居させる。賢者として知恵あるアルテミナスだが少女としてのあどけなさもあり、彼女の弱いところでもあるのだ。

杖持ちその道を示すにもまだアルテミナスとしての人生は浅く、彼女は宇宙のアルテミナスであるプラーナにその器を見ぬかれ、早くに月の枠へ収まったが実際は、か弱い少女であるのだ。

さてアルテミナスはアルセイユにとってどんな変化をもたらすだろうか。 
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