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ネフリティス・サガ

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第九話「花の都」

 西の大陸に広大な緑と美しい海の広がる国がありました。しかしここでもフォルノウスはちゃくちゃくと忍び寄っていました。

「オレアノールの国はもう終わりだ。樹海と大海のおかげで反映したが……、今や北方のニム・ニール

の大神官のおかげで草木は反逆し、大海にはニム・ニールの大艦隊がひしめいている、おちおち、貿易

にも出れぬ。この上は我らがリリー様だけは、なんとしても逃さねば」

「紅のローズマリー、オレアノールの花嫁、リリー・オルガーナ・ベル。それが私の名だった」

 その桃色の頬の娘は、城の窓から樹海の王の木を見ている。樹海の王リリアーナ・オーベリオン。そしてその象徴たる王の木 エルグランナ・オルクレスト。オーベリオン王の妻タイターニア・オルガーナ。妻は、海王リヴァイン・アルハザードの娘で、これによって樹海の王と大海の姫君は木々と大海のいさおしに刻まれる恋の物語として知られるほどの有名を得ていた。
 オレアノールはその頃が絶頂期であって翡翠の国と長い間良好な関係を気づいてきた。

 ベルのことをオレアノールの花嫁というのは、実は、アルセイユの許嫁だったからである。
 しかしこの花嫁、まったくのおてんばで、。

 だからこそ、紅のローズマリーなどと呼ばれるていだからだ。
アルセイユはかねてよりこの娘との結婚を嫌がっており、絶対にお嫁さんにしたくないなどといって森のなかを兵士五千人が探したがついにアルセイユは見つけられなかった。
それからというもの、ベルの縁談は、一向に進まないでそのままとなっていた。

「はあ、アルセイユさま……」

「ベル様――!父王さまがよんでおりますぞ―!」

「はあ、じい、乙女の部屋にはノックを……ん?顔色が悪いわよ、じい?」

「翡翠の国が……陥落……致しました」

「かん…らく?あ、アルセイユさまは?」

「残念ながら、消息不明です。おそらくお亡くなりになったものかと」

「アルセイユ様!」

 ベルはけたたましく外に出て行った。

「あのー、ベルさま?そっちは」

 ガタガタガタ、服をしまってあったタンス次々と倒れた。

「きゃあー」

「ベルさまー!?」

「なによ、このタンス、たてつけ悪くなってるわね」

「あのーもうタンスの裏にものを隠すのはやめれば……」

「いいじゃない、本棚が実は隠し扉なんて物語によくあるでしょ!?」

「だからってうちのタンスは自動しかけでは動きませんので」

「乙女の衣装ダンスを荒らす盗賊はいないっていう、私の名アイディアなのにー?」

「はいはい、じゃあ行きますよ。ベルさま、実は、森がおかしいのです」

「森が、お父様でもなんとかならないの?」

「はい、手はつくしておりますが……」

「ふーん、なにかおかしいわね、それに、森から魔物の気配、行くわよ、じい。早くしないとお父様が

あぶないかも」

 深い森に入る前、この城下町、ククルクの町では、今日、行商人たちが海からやって来ていて母王タ
イターニアはその歓迎に自ら赴いた彼女は大変な力持ちでなぜか、黄金に彩られた美しいひしゃくを木
の葉のように持ち歩き、こと水に関しての事なら何もかもを知っている。

「はあ、やはりクルルクの井戸水は上手いですなあ、我々が長い船旅をしてもここでこうやって休める

ので遠い地まで行商にいけるのです。まさにタイターニア様の御力さまさまですな」

「うふふ、ここ、クルルクは王の木ある由緒ただしき樹海から染みだした水を井戸に貯めているのです

から、これほどの飲み物はどんな錬金術士でも作れません。我が国の民はこの水によっていつでも元気

で力強いのです」

「はあ、そういえばタイターニア様は北の国の話を聞きましたか」

「北の国?ああ、あの北方の寒い地方の小国ですか?それがなにか」

「いやいや、もうあの国は小国などとは言えません。恐ろしい魔導の力で一気に周辺諸国を飲み込み、
今や北の神狼と恐れられるほどです。あの国は怪しげな術で木々を惑わし、
侵略した国には緘口令の書かれた呪われた立て札が打ち立てられ、そこで北の国の悪口を言おうものな
らみるみる間に年老いて命を落とすといいます」

「なにやら、ただごとではないようですわね。そういえば、今日は私の夫が忙しく森に出かけて行きました。まずいことになったとぶつぶつ言ってらしたわ、少し胸騒ぎがします」

「ああ、あくまで噂ですからお気に病む事はありません」

 商人は、王妃の機嫌を損ねまいとそう言い足した。

そこにベルがじいを連れてやってくる。

「姫様のおなり!道を開けよ!」数人の兵士がビシッとを道に整列してベルが現れる。

「ベル、あなたどうしたのですか?また山賊退治ですか、いいですか、山賊だってあなたに何度も痛い
目に合わされては可哀想でしょう。このへんの山賊はみんな、お前を恐れているというのに」

「母上は山賊の肩を持つのですの?」

「あなたには私の血が流れているのです。平民相手に力を震えばただではすまないのです。
いつもはペンより重いものは持ったことのないような顔をして、もうあなたくらいの年になれば、大岩
くらい軽々と持ち上げられるのですよ?」

「お母様は大海の水をひとすくいでさらってしまうくせに、お母様には言われたくありませんわ、山賊
どころか海賊にまで恐れられて、お母様を恐れない海賊はお母様の愛しの海賊王くらいのものですわ」

「私の若いころはもう海王の一人娘としての自覚がありました、いいですか恋と愛は別物です。確かに
いっときは海賊王などとうつつを抜かしていました。だがそれも昔の話。今は今です。私には愛すべき夫がいますもの」

「お母様はやはりお父様と結ばれた。今わたしも同じ立場にあるのです。わたしの婚約者に身に危険が
生じているのです」

「ベル?何を言っているの?翡翠の国がそう簡単に落とされるはずがないでしょう?」

「それが王妃様」

「じいや、どういうことなのです」

「それが、翡翠の国は陥落いたしました?」

「な、な、何ですって!?どういうことなのです、詳しく話しなさい!なぜ、私に言わないのです
か!」

「はあ、もう街中その噂でいっぱいです。たぶん、知らない者は王妃様だけかと……」」

「なら、朝早く夫が森に出かけたのも」

「そうでしょう、北の国です、王妃様、七百年前の災厄は復活したのです。フォルノウスが牢を打ち破

り、七百年の封印を破ったのです」

「フォルノウス!誰か、わたしの鎧をもて、いや、あれはわたしにしか扱えぬ、ええい、ベル、お父様

のところへ行きなさい。私は城に戻って戦装束に着替えてまいります」

「お父様は王の木に剣を受け取るためにいったのです、全ての木々を守りしグリーンフィールドの大剣
を!」

「分かりました。お母様、森でなにやら変な気配がします、城の衛兵には、指示を出しておきました。

わたしがジョリー・ロジャーを持っていきますからお父様のことは安心なさって」

「あの代物には少し不安がありますが、まあ、あれも伝説の武器。お前には時が来れば相応しい武器を

やりますが、まあ、今は使い慣れた獲物を信じてお征きなさい」

「はい、お母様」

「じいや!ベルを頼みましたよ、我が国の懐刀の知恵をお見せ!」

「は、かしこまりました。このじい、命に代えましても」

「はあ、じいよ、あなたはいつも自分の命を軽く見るからいけないのですわ、じい、命令よ。絶対に死

んではいけませんよ」

「しかし王妃様、わたしももう年ですので」

「ああ、もうこういう時くらい大人らしくしなさい。しゃんとして!頼りがいがない男ね」

「すみません、王妃様」

 森へいくと、やはり瘴気が漂っている。王の樹海がこんなふうになるなどベルは聞いたことがない。

「ジョリー・ロジャーよ、あなたが不吉に笑う時が来ましたわ、さあ、その力を振るいなさい!」

 ジョリー・ロジャー。リリー・オルガーナ・ベルの愛銃、その銃の名のもとには富と悪名が尽きない

という。六発のリボルバーで、ベルはこれをどんな剣士よりも早くぬくという。

 握りにはドクロが不気味に笑う、それを抜けば、相手には死が見えるという。

森のかげになにやら不穏な輩が潜んでいるのがわかる。

「気をつけて、じい。森の獣がみな、いきり立っているよほど恐ろしいものが森のなかを荒らしまわっ
てるのよ」

「はい、お姫様、このただならぬ空気にわたしも昔の勘を取り戻しました」

 そこにはいつも細目でボケたことをいう、お目付け役の老人はいなかった、細い目が刃のように鋭く
見開き、周囲を一分の隙もなく見定めている。

魔獣は突然、襲ってきた。恐ろしい稲妻が閃光とともにまっすぐ飛んで、二人を襲う、しかしリリー
は跳躍して樹の枝に飛び乗り、じいは、いつもどこかに忍ばせている二刀の短刀を閃かせ、いかずちの出処に一瞬にして姿を消していた。

「さすがじいだわ、老いぼれても、元、王族配下の黒忍び衆の頭ね。わたしがジョリー・ロジャーを抜

く前に事を終わらせるなんて。ベルは構えた愛銃をホルスタ―に収めて、魔獣のところへ行くと血を払

って短刀を鞘に納めるじいがいた。

「ベルさまこれは、魔導の兵器でございます。それもかなり高度な代物です。かの古の大戦で使用され

た兵器でしょう。

 そこには明らかに熊よりも大きくまた強大な生物ならぬ生物が横たわっていた。形態からして頭は
狼、腕は熊、足は、虎で二本足でたつようだ。世界中のどんな生物よりもさらに巨大で禍々しい。

「なに、獣?肉が変だわ?それに獣のくせに鎧を着てる、こんなものを古の民はつかったの?」

「ベルさま、それが戦争というものです。これが元は何だったのかは分かりませぬが、多分、何かの獣

の肉を古の技で変異させ、鎧をつけ、火を吐くまじないを覚えさせ、兵器にしたのです。普通の人間な

ら腕の一撃で即死です」

「獣をなんだと思ってるの!?森を守る気高い種族を愚弄して、こんな無道が許されるならフォルノウ

スは天下の大悪党だわ!」

「しかし姫様、あれを侮ってはなりませぬ、あれは我々よりも七百年前から生きているのです、もはや

その知恵は人外のものです。決してあやつの罵倒を安易にするものではありません。呪いにかかります

ゆえ」

「そうね、古のまじない師は言葉にすら呪いをかけるというのを知ってるわ」

「王の木へ急ぐわよ、お父様が本気で心配だわ」

「はい!」

 森は魔獣であふれていた。もともと住んでる獣たちは歯が立たずにやられて散り散りになり、みな、

生き物は怯えている。

「あれが何千も!これは手に負えないわ、見て、森を焼いてる。神聖な聖木を何だと思ってるのこの地

を何百年も守ってきた木なのに」「獣たちが怖がっています、オーベリオン様はいずこに」

「ここじゃ」

「オーベリオン様!」

「王の木にフォルノウスめ、王の木は死んだその生命と引き換えに剣を残していった。

 王の木は最後に言った。彼の者に一房の実も与えてやらぬといくら木々を惑わし森を殺したとて我ら

の怒りがやつの腹を空腹で殺すまでわしらの怒りはとどまらぬとな。あの懸命な王の木が、死に際に憎

しみで我を失う様を私は見たくなかった。フォルノウス!お前だけは許せん。行くぞ。あの魔獣を全て

斬って捨ててやる」

 城では三万人の兵士が弓に縄を張り、剣を研いでいた。みな、もう火のようになって戦いの準備をし
ている。

 海王の娘タイターニアは、戦装束に着替えた。鎧に、女性らしく羽衣を着て、鎧の継ぎ目を見せないようにしている。

誰の眼にも天使が降り立ったように見えたろう、さよう、タイターニアは海王の娘、海の一族の姫な

のだ。その日の内にうみねこに暗号文をもたせ、海王に援軍を求めた。深海の神殿に住まう、海王はポ

セイドンを崇めており三叉の矛トライデントの達人、そしてその娘、タイターニアは賢人、プラトゥー

ンの黄金のひしゃくの使い手、このひしゃくは美しくてそしてものすごい重く、力の神が3日かかって

やっと持ち上げたという、そのひしゃくをタイターニアは木の葉のように扱う。

いわく、ひしゃくは海の水をまるごとすくいとり、地上を洪水で全てを押し流してしまうという。神話

の時代からの神器なのだ。

 ベルの持つジョリー・ロジャーも伝説的な武器だ。元は海賊王の持ち物で、それがいろんな船長をて

んてんとした。当時、海賊王は、海王の鼻先を悠然と駆けていった。彼はすべての海を航海して、ジョ

リー・ロジャーの銃によってどんな敵とも渡り合った。もちろん剣の腕前だって超一流だ。海賊王の船

にのっていた片目のアルジャーノという男が港の酒場で今は昔話を子供に聞かせながらいう、あいつに

かかっていった奴で生き残った奴はいねえし、あいつの怒りを買って、そいつがどうなったか知る奴はだれもいねえのさ、世界中の海を我が物顔でいくあいつにはそれくらいの伝説はおまけ程度なものだがな。
 それをどうしてベルが持っているのか、彼女は小さいころ、海賊船にさらわれたことがあった、なのに持ち前の度胸ですぐに海賊と仲良くなった、それで船長がベルに惚れて大事なジョリー・ロジャーを
あげてしまった。ベルはすぐに一人前のガンマンになってしまった。オーべリオンは、剣を学ばせたかった。タイターニアは、もっと相応しい武器を用意していた。しかしベルの心にはだれにも侵すことのできない海賊の自由な心がある。

 だから、剣の腕前が絶対のこの世の中で銃を使うのだ。まあ、剣を取らせてもかなり強いのだが。

三万人の兵士が城の広場に整然と列をなしている。長方形の隊列を乱すことなく、王妃の言葉を待っていた。

「戦支度はすんだ、あとは我が夫、オーベリオンの帰還を待つのみだが、聞けば、森を熊ともつかぬ、

魔獣たちが海岸から攻め寄せているという、その海岸はマングローブの群生地だ、この森の生態系を壊

されては、この国の破滅につながる。今から軍をあげて掃討に向かう。気をつけろ、分厚い体毛の上に

は鎧がつけられ、そして獣の腕力に恐ろしい威力の炎。相手は強大。だがここは我らの庭。勝手な真似

はさせん。ゆくぞ!海岸を奴らの血で汚したくはないが手加減はするな。殲滅する!」

 するとまるで置物のように静かだった、兵たちが、剣を抜き、王妃に捧げ持つように三万本の剣が天

を突き刺す、そしてまた、剣をおろして鞘に納める、これを三万人全てが一糸乱れず行うのだ。これだ

けでこの軍がどれだけ精強かわかると思う。

かかるに魔獣といえる、その者共は海岸を黒い群れになって疾駆する。

群れになって海岸に張られた堤防は大量の屍を築きながらも群れの勢いは止まらず、そのまま堤防を

屍の上を乗り越えて進んでくる。まるで洪水のようにとめることの出来ない荒々しさにオレアノール軍

はとどめられずにほうほうで突き破られ、四散している。

「なんじゃあの化け物は、くそう。皆の者!集合せよ!一塊になってこちらも仕掛けるぞ、わたしが一

撃を放つ!その隙をついて一気に攻めあがれ!」

 タイターニアは、海王の娘。その娘はその怪力で扱えるある武器を海王からもらっている。プラトゥ

ーンのひしゃくだ、一掬いで大地を丸呑みにするほどの海の水をさらってしまうのだ。タイターニアは

片手でそのひしゃくを軽々と持ち上げて海のそこにまでひしゃくを沈ませ、くんと持ち上げると海の水

の大変な量がまるで海が膨張するように持ち上がる。

そしてそのまま、海の水が空中に大空いっぱいに持ち上がっている光景を皆は見た。タイターニアは

怒っていた。それはあの黒い魔獣たちの油やおかしな匂いの血が海を染めて魚や生き物がばたばたと死

んでいった。そしてその次に町の井戸がにごっていくのを見た。タイターニアは怒ると毛髪は、総毛立

ちまるで巨人のような威圧感を放ちだす、それはタイターニアの血の中に伝説の巨人たちの血があるためだ。

「わたしの海を汚し、水を汚し我が眷属を死なすとは、愚かな傀儡どもが死ね!死んで詫びろ!」

 タイターニアはひしゃくをひっくり返すとものすごい水がうねりとなって海岸の魔獣の群れを押し流

していった。それらがどれほどの数がいてもその洪水のような力には勝てなかった。そしてうねりが収

まり海面に魔獣たちが力尽きた様子で浮かび上がった。

ベルは思った。

これだからお母様は怖いのよ、魔獣だろうがなんだろうが海の王の血筋の正統な跡継ぎ、本気になれ

ば世界を水で押し流すこともわけはない。

しかし、ベルは次の瞬間のことを忘れない。

タイターニアは、怒りを沈めひしゃくをもつ腕を下ろした。それいじょうやればこの大陸を水中に没す
ることになる。

 だが魔獣どもは死んでなどいなかった。まるで蟻の群れに水をかけておぼれさせてみるだけど蟻は次
の日には復活している。

魔獣もそうだった。水くらいで死ぬような生命体ではない。あれは、海岸から出てきたつまり、この大陸まで海を泳ぎきって侵入してきたのだ。熊のような毛があるのに魚のようなえらも実はあったのだ。

こいつらは、フォルノウスが造った魔導の生命である。いろんな生物の機能を備えてある。そいつらは海に流されてはじめはショックで伸びていたがまた目が覚めると起き上がったそして、タイターニアを見て、怒りに咆哮してあの炎を吐いた。この炎は水なんかで弱らない、まるで、水にふれると逆に燃え出すような炎でとても異質だ。

だからタイターニアは怒ったのだ。

しかしタイターニアは油断した。自分の実力に絶対の自信があった。古来タイターニアに勝てたもの
はいなかったからだ。そして魔獣の炎はタイターニアの胸を貫いた。

くらっと立ちくらみを起こしふらふらと体をゆらし、大地に横たわった母の姿を見てベルは怒った。気が付くと疾風のような速さで魔獣の軍勢に体当たりしてその怪力で魔獣どもをぶん回してさんざんに敗走させた。

オーベリオンはタイターニアに寄り添い、その身から鼓動が感じられなくなるのを見て泣き叫んだ。 
「おのれ、フォルノウス、おまえはわが国に戦をしかけた。そして我が妻を手にかけ、あの汚らしい生

き物で森を脅かし、汚した。おのれえ、おのれえ」
 そのとき、空中に声が聞こえた。

おろかなり、森の王オーベリオン、我が主は古からの実りの番人。お前ごときの知恵で森や海を友とし

その王などとははなはな片腹痛い、この地は我が国の食料を生産するために我が主が長年狙っていた地

だ。王の木が死んだいま、森の木々はわが国の従僕。いずれフォルノウス様の天下がくる。この大地な

どはフォルノウス様の崇高なるお志の先駆けに過ぎぬ、我が主には見える。おまえたち、神の後継たち

が未来、おまえたちには死んでもらう。オーベリオンよ、この世のありとあらゆる王族はフォルノウス

の名のもとに死ぬべきなのだ。あの方の崇高なお考えの下には神の後継や神話の英雄の血族など無用なのだ!

「バカな、いくら人間が愚鈍とはいえ、お前はその力で神でも気取るつもりか、我々でさえそれをせぬ

のに、おまえなどが神になればそのうち、いや、まさに今、間違いをたらふく犯しているではないか。

それでも己が正しいとのたわるるか、恥を知れ!貴様を誰も崇めはせぬぞ!?」

 くはは、神?神だと?この世のどんな王よりも素晴らしい大いなる賢者。それが、フォルノウス様なのだ!それに、さっきから我の気配を探っておるなオーベリオン?

 我は、主の影にして分身だ。おまえごときには気配さえも分からぬわ。

 ははは、今日のところは一旦退こう、だがもう北の国から主力の第三飛行船団がこちらにむかってお

るわ。明日の暁にはこの海をお前らの焦げた血で黒く染めるだろう。后の葬儀でもして、ひっそりと過

ごせ。どうせ明日には皆死ぬのだからな!

 時はもう夜だった。

 魔王使いの高笑いが闇夜に響いていた。 
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