魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第119話「残された謎」
前書き
当然ですが、結界は敵がやられた時点で消えています。
まぁ、林の中なので、誰かに見つかるという事はなかったという設定です。
=優輝side=
「……っづ、ぅ……」
体中に走る痛みに身をよじらせながら、僕は目を覚ます。
目を開け、視界に入ってきたのは…見た事のある天井だった。
「ここは……アースラの医療室か…」
「…目を覚ましたみたいだな」
「クロノか…」
すぐ傍に、クロノがいた。
どうやら、人手が足りないらしく、クロノも治療の手伝いをしていたようだ。
「……くっそ、無理しすぎたか……」
「君は一体何をしたんだ…。体がこれ以上ないぐらいに酷使されていたぞ…。それこそ、以前のなのはを数段悪くしたように。」
「文字通りの無理をしたんだ…。結果、この有様だが…」
さて、クロノの呆れた溜め息を聞いた所で、気になる事を聞いて行こうか。
「…どうなった?それと、そっちは何があったか把握できているか?」
「順を追って説明していこう」
痛む体を何とか起こし、クロノの説明を聞く。
「先に目を覚ましていた帝、椿、葵に話はある程度聞いた。事の発端は帝が君との特訓に少々遅れ、急いで移動していた時に、例の男が現れたとの事だ」
「そこから交戦し…王牙は敗北した…と」
「ああ。聞けば、どんな攻撃や魔法、霊術も通用せずにすり抜けるとか…。そのせいで、帝は最大の攻撃を放ったにも関わらず、敗北したと…」
「その通りだ。…で、そこへ僕らが駆け付けた」
王牙は一番最初に戦闘不能に、椿と葵は頑丈だったから僕より先に目を覚ましたか。
他はどうやらまだ眠っているらしいが。
「こちらはアリシア達に聞いたんだが、君と椿、葵、司、奏の五人で駆け付け、アリシア達になのはや僕ら管理局に連絡を取らせたようだな」
「ああ。何せ、その時は王牙の攻撃がなければ気づけない程の結界を張れる手練れだと思っていたからな。僕らだけでは倒せないと思った」
「…結果から言えば、それでも全滅したようだが…」
「耳が痛い話だ」
結局どうなったか聞きたいが…少し後回しだ。
「その結界は魔力に似せた未知のエネルギーで張られており、内側に入る事はできても、外部からは完全に遮断。脱出する事も叶わず、使い魔契約による魔力供給なども途切れると聞いたが…」
「ああ。ついでに言えば、結界に解析魔法の類は効かず、神降しも不可能だ」
「……聞くだけでも厄介なものだな」
実際に遭遇すれば厄介なんてものじゃないけどな…。
「そして、例の男…優輝にそっくりと聞いたが…」
「ああ。細部は違ったが、僕と見た目がそっくりだった。僕をもう少し成長させた感じだな。…中身は全然違うが。」
「みたいだな。帝のエアに記録映像を見せてもらったが確かに違った。…で、話を戻すが、例の男と交戦した結果、君達は全滅した…と」
「大雑把に言えばそうだな」
最後は確かに奴に攻撃を当てれる程に“格”を上げた。
だが、先に限界が来たのは間違いない。
「…最後に気絶したのは僕だが、あの後どうなった」
「僕らが駆け付けた時には、既に結界はなく、例の男の姿はなかった。立ち去ったのか、誰かが倒したのか…。全員のデバイスが損傷していたから、確かめようがない」
「………そう、か……」
僕のリヒトとシャルも負荷で機能停止していたからな…。
「優輝、君の見解はどうなんだ?最後まで立っていたようだが…」
「…奴に攻撃が通じないタネ…僕や椿は存在そのものの“格”が違うからと判断していたんだが、最後の最後で、奴に攻撃を当てる事はできた。……けど、二回カウンターを当てた所で意識を失ったから、どうにも…」
「…どうも気になる事を言った気がするが…そのカウンターで倒したとは考えられないのか?姿はなかったが…」
「手応え的にそれはない。…でも、あるとしたら…」
考えを巡らせる。神降ししても通じなかった程“格”が違った相手…。
あそこまでの“格”となると…もしかしたら…。
「……“神”が、消滅させたか…」
「…また、ぶっ飛んだ事を言い出すな君は…。しかも、その神の力を使う神降しが通じなかった事から、ありえないと切って捨てる事もできないし…」
「これは後で考えよう。とにかく、クロノ達が来た時には僕らが倒れているだけだった…という事でいいんだな?」
この事に関しては、皆が目を覚ました後で考える方がいいだろう。
そう考え、話を終わらせに向かう。
「ああ。…正直、危なかった。中には重傷を負っている人もいたからな…」
「後遺症とかは?」
「全員、完治できるとの事だ。その点は安心していい」
なるほどね…。
「…っつ……」
「もう立つのか?いくら何でも早すぎる気が…」
「魔力と霊力は残っているから、それを回復に回しておくさ。それより、目を覚ました椿たちはどこに?」
「ああ、それなら……」
クロノに場所を聞き、いると言われた食堂へと向かう。
椿たちとも意見を交わしておきたいからな。
「あ、優輝!」
食堂に入り、見回していると、アリシアが手を振っていた。
皆で固まっていると聞いたので、あそこに皆がいるのだろう。
「もう立てるのね」
「体は痛いがな」
「あの場で治癒魔法を受けていない人はまだ痛いだろうねー」
戦闘中、奏や一部の人はシャマルさんに応急処置を受けていた。
その差が今こうして出ているのだろう。
まぁ、僕の場合は完治する前に目を覚ましたからなんだけどさ。
「それで…アリサとすずかも来てたんだな」
「ええ。あのまま待つだけなんて性に合わないわ」
「あの後どうなったのかも気になったし……」
アリサとすずかもアリシアと共に来ていたようだ。
まぁ、戦力外通告されたとはいえ、事の顛末は気になるだろうしな。
「王牙も災難だったな。いきなり襲われるとは」
「…ああ…。そうだな…」
王牙にも声を掛けるが、何故かどこか歯切れが悪い。
「…何かあったのか?」
「分からないわ。私達が目を覚ました時にはずっとこれよ」
「帝、一番最初に目を覚ましたらしいんだけど…何か思う事でもあったのかな?」
見れば、隠そうとはしているものの、何か思い詰めていた。
これは…無闇に聞く事ではなさそうだな…。
「そう言えば、今回の相手って裏に何かいるって聞いたけど…」
「ああ。奴は自身の事を“作られた”と言っていた。他にも、背後に誰かがいるような発言をしていたし、何か別の目的があると見て間違いないだろう」
「…そっか。心当たりは…」
「ないな。なぜ僕と似た見た目だったのかすら分からん」
わかるとすれば、先程クロノにも言ったような“神”が関わっている可能性があると言った事ぐらいだな。
「(…奴は、僕や僕の仲間を殺す事を目的としていた。…なぜ、僕なんだ?何を目的として、僕を狙った?………判断材料が少なすぎるな…)」
考えても無駄のようだ。警戒はするが、推測するにはまだ早い。
「…あーくそ、とりあえず食べよう。考えるのは皆が目を覚ましてからだ」
「優輝が考えるのを放棄するなんて珍しいわね」
「判断材料が少なすぎる。憶測に憶測を重ねる事すらできん」
それに腹が減ってるから思考能力も低下気味だしな。
「……まぁ、一つだけ分かっている事はある」
「…何かしら?」
「今回の相手の背後にいる存在。…そいつは、確実に僕らの想像の遥か上を行く存在だろう。…分かりやすく言えば、地球にある神話上の神…それすら凌駕するかもしれない程の存在だ。……と言っても、これも憶測だけどな」
「「「っ……!?」」」
アリシア達三人が息を呑む。
まさか、そこまでとんでもない存在だとは思わなったのだろう。
……神降しからの全力の一撃が“すり抜けた”んだ。
無傷とかならともかく、すり抜けるという事は…それほどの相手って事だ。
…まぁ、詳しい事は皆が集まってからだな。
「さて、まだ治療が済んでない者もいるから、ここで話をしようか」
しばらくして、クロノが医療室に皆を集めてそう切り出した。
…医療室と言っても、人数が人数だから広めの部屋に移してるんだけどな。
「既に話は聞いてあるが、正体不明の魔導師…いや、それすら不明の男と交戦した…というのが大まかな認識で構わないな?」
「……ああ」
本当に大まかだが、それで合っている。
「話を聞いた限り、優輝の容姿に似ていた。…この事に何か心当たりがいる者はいるか?」
「……………」
当然、誰も何も言わない。心当たりがあるはずないからな。
「…分かっている事…と言うか、予測がつく事はある。奴は僕を…正確には、今いる面子を知っていたという事だ」
「言動を思い出せば、確かにそうね。あの男は、援軍が駆け付けても、その面子がまるで分かっていたかのようだったわ」
奴は、なのは達が来た時も、“また仲間が来たか”と言うより、“やはりこいつらが来たか”と言ったような表情だった。笑ってたから分かりにくかったが。
おまけに“ようやく揃ったか”とか言っていたしな。
「…おい」
「…なんだ、織崎」
すると、織崎が僕を睨むように見ていた。
「しらばっくれるな。あの男がお前と似ている時点で、お前に関係があるのは明白だろうが!さっさと知っている事を言え!」
「関係があるって言われてもね…。何かしらの意図があるとは思っているが、僕は奴の事を知らないし、なんで似た姿なのかもわからん。変な因縁をつけるな」
疑いたくなるのは分かるが、相変わらず目の敵にするな。
「そう言えば、優輝君、最後…どうなったの?」
「……何とかカウンターを二発当てた…が、それ以降は分からない。しかも、手応え的に倒したとは到底思えないから、見逃されたか、或いは…」
「起きた時にも言っていた、“神”が消滅させたか……だな?」
クロノが続けた言葉に、僕は頷く。
「“神”……やと?」
「それは伝説上の存在では?」
「ここまで規格外の相手だと、そう考えるのも妥当だと思える程だ。それに、伝説上の存在ではないだろう。現に椿が神だし」
「分霊だけれどね。まぁ、神降しは本体の力だけど」
アインスさんの言葉に、僕はそう返す。
いきなり“神”を話題に出されたが、今の回答で納得したようだ。
「…って神話上の神じゃなくて……そうだな…例えるなら、物語で言う作者のような立ち位置の“神”の事だ」
「へ?それって…」
「一言で言えば創造神。またはそれに類する“神”。そんな存在が介入したって考えてる訳。まぁ、我ながらぶっ飛んだ考えだけどね」
でも、奴は見逃すつもりは一切なかった。
それなのに生きているという事は…何者かが介入した事に間違いはない。
「…先ほどからスルーしていたが、優輝…君は何気に件の男に攻撃を当てたみたいだな。…一体どうやって?“格”や“法則”が違うから攻撃はすり抜けるとの事だが…」
「以前、司の命を繋いだ…僕は宝具って呼んでいるけど、それがあっただろう?」
「…ああ」
「あれの効果は、使用者の望んだ事象に“導く”んだ。それを利用して、僕の“格”を一時的に底上げした。もちろん、今は元に戻ってるがな」
僕の説明に、クロノは少し頭を抱える。
いつもの滅茶苦茶さに呆れているのだろう。
「呆れるのもわかる。…実際、僕の体はその状態に導いた時点で、壊れかけていた。もし万全だったのなら、おそらく仕留めれていただろう」
「いや、理屈が分かっていない事を無理矢理やってのける事の方がおかしいだろう。……まぁ、いい。それで悩んでも仕方ない」
僕の宝具…言うか、宝具全般の効果は理屈では分からないのばっかだし…。
とにかく、論点はそこではないので、クロノは話を戻す。
「件の男が言っていた事によると、その男の背後にはまだ何者かが存在しているようだ。少なくとも、優輝達を殺そうとした時点で碌な事を考えていないだろう。…そこで、対策を立てたい」
「対策って言われても……」
「優輝さんの宝具でないと通じなかったのに、どうやって……」
皆は黙り込む。…当然だよな…。
ありとあらゆる攻撃が通じない相手に、どうやって対策をしろと…。
「……今ここで決める必要はないわよ」
「どういうことだ椿?」
「あの男の背後にいるのが組織にしろ、何にしろ、すぐに仕掛けてくる事はないという事よ。無視していいって程でもないけど、慌てる程でもないわ」
そう言い切る椿。一体、どこにそんな根拠が…。
「あの男の言動を見る限り、その背後にいる存在があの男を作り出した。…あんな存在を作り出せる程の存在なら、直接手を下せばすぐ終わる話だわ」
「…そうか!それなのに手を出してこないという事は、少なくとも猶予はある…!」
「ええ。…尤も、これは後回しにしているだけだけどもね。それに、気休めにしかならない誤魔化しでしかない」
時間がないという訳ではない。
その部分だけでも、椿は安心させようと今の発言をしたのだろう。
「奏の言った通り、優輝の宝具でなければ攻撃は通用しないわ。…けど、裏を返せば攻撃を通用させる方法はしっかり存在しているという事」
「…そうだな。あの宝具は、別に僕だけを対象にする訳ではない。宝具を使うだけの魔力があれば、この場にいる全員に同じ効果を与える事ができる。……器である体が耐えきれるかは別としてな」
「そして、その宝具と同じような効果を出せる者もいるわ。…司、貴女よ」
椿はそう言って司を名指しする。
「わ、私…?」
「天巫女の能力。祈りを実現する力。その力なら、優輝の宝具に似た効果を引き出せるはずよ。……後は、その“力”に耐えうるように“器”を鍛えるのよ」
サラッと今僕らができる事を言う椿。
「……決まり、だな。現時点で僕らができる事など、結局の所限られている。…今回のような事を起こさないために、今より力を磨く…それだけだ」
「司はそれに加えて天巫女としての力も磨かないといけないけどね。そこは私の方が教えるのに適しているかしら?」
「概念的な分野になるから…そっか、椿の方が適任だね」
アリシアが納得した通り、天巫女としての力は椿の方が鍛えやすい。
そこは椿に任せるとして…。
「方針はそれでいいとして…結局、件の男は…」
「…消滅したぞ」
ふと、また気になったのか、クロノがそう呟く。
その呟きに返したのは…まさかの王牙だった。
「あの男なら、跡形もなく消滅させられた」
「帝…知っていたのか?なぜ、それを早く……」
「頭の中で整理がついてないんだ。とにかく、あの野郎は消えた。あいつが再び襲ってくる心配は一切ない。…俺が言いてぇのはそれだけだ」
それだけ言って、王牙は俯くように黙り込んだ。
「……王牙……お前、“何か”知っているな?」
「…言えねぇ。言えねぇよ…」
おそらく、王牙は何かを“見てしまった”のだろう。
その真実を受け止めて切れてないから、先程から様子がおかしかった訳だ。
「………」
「…皆、帝に聞きたい気持ちは分かるが、そっとしてやれ。多分、帝自身が一番精神的にきつい状態だ」
「っ……だけど…!」
目でクロノに伝え、王牙に深入りしないように釘を刺してもらう。
……落ち着いた後で、また聞いてみようか。無理のない範囲でな。
「整理がついてないって言ってるだろ。信じられないモノを見たのか、知ったのかは知らんが、無闇に聞いても王牙を追い詰めるだけだ」
「なんだと!?」
…だから、なんで織崎は突っかかってくるんだよ…。
いつもの事ながら、鬱陶しいぐらいだ。今回は僕が口を挟んだのもあるが。
「考えてみろ、例えば、見た存在が“見てはいけないモノ”だったらどうするんだ?口外したら消される可能性もあるだろう。実際、王牙が何を見たのか、僕は知らない。でもな、踏み込んではいけないって事ぐらいは分かっているんだよ」
「…優輝もようやく学習したのね」
「今まで割と踏み込んでたよね?司ちゃんの時は親友だからこそなんだろけど」
椿と葵に茶々を入れられるが……まぁ、いいや。
「優輝!!」
「っ、王牙?」
「……わりぃ、今はそういった優しさも辛い。クロノ、空いてる部屋は?」
「大体は空いているから、適当に使ってくれ」
王牙は立ち上がり、そのまま休むためか去っていった。
…優しさも辛い…か。そこまで信じられないモノを見たのか…?
「(…立ち去る間際、視線を向けた先…)」
王牙は立ち去る時に、ふと視線をどこかに逸らしていた。
その先にいたのは………。
「(………二人に、何かがあったというのか…?)」
確信はない。ただ視線が偶然向いただけかもしれない。
…けど、その二人は今までと“何か”が違うと…なぜか、そう思えた。
「……これ以上は、埒が明かないな。今決めておきたい事は決まったから、これで解散とする。一応、傷が治り切っていない者は安静にしておくように」
王牙が去り、皆が沈黙した所で、クロノがそう締め括る。
確かに、これ以上何か話そうにも埒が明かない。むしろ話が逸れるばかりだろう。
クロノの判断は正解だったと言える。
「…椿、葵。後…司と奏も来てくれるか?」
「何かしら?」
「ちょっとな…」
各々が傷の治療に専念したり、それに付き添ったりする中、僕は四人を呼んで空いている部屋へと向かう。
「僕が今回、神降しを使ったのは知ってるだろう?」
「うん。それでも通じなかったのには驚いたけど…。それがどうか………って、あ…」
「気づいた?…まぁ、その通りなんだ」
神降しを使った事に関して、司は何かに気づいたように声を漏らす。
…そう。神降しには、デメリットと言うか…副作用が一つある。
「…いつ、なるのかしら?」
「前回は寝てる間にだったけど…既になんとなく自分の体に違和感があるんだよね」
「気絶中じゃなくて良かったねー」
神職者ではない僕の神降しは、椿の本体の因子が流れ込んでしまう。
その影響で、性別が変わる。前回もあったソレが、今回も起こるのだ。
「……もうあんな事はしないわよ」
「反省してるから安心してくれ。まぁ、アレ自体は霊術と演技で誤魔化すとして、皆には事前にこの事を知らせておこうと思ってね」
椿の釘差しに、苦笑いしながら答える。
さすがにあんな事は……思考が変わってもしないよな…?
「僅か3秒とはいえ、だいぶ本体と同期させたから……今度は一日では戻らないかもしれないわよ?」
「分かってる。…何人かにはばれそうだよなぁ…」
「ずっと霊術で姿を誤魔化す訳にもいかないからね」
まぁ、伝えたい事はこれで伝えた。
「……優輝君は、あの敵について何も分からないの?」
「…まぁ、な。検討もつかない。判断材料も少ないし。でも、悩んだ所で仕方ない。倒し方は分かっているんだし、後はそれを実践できるように鍛えるだけだ」
「…そっか」
あの男の謎は、まだまだ残っている。
結局どういった存在なのか、背後に何がいるのか。全然分かっていない。
―――…そう。謎は、残されたままなんだ…。それを忘れてはいけない。
パシン!
「来ないで!」
「っ……!?なのは……!?」
「……ごめん、なさい…。もう、神夜君の事、信用できない…!」
―――そして、もう一つの謎と共に……“不屈の心”が、再燃した。
=out side=
「………何とか、一件落着…かの」
「見た感じは…ですけどね」
白く、白く何もない空間。その中心で、レンズのようなものを男女が覗いていた。
「まさか、封印内で動きがあるとは…」
「盲点じゃったな…。これからは、そこも注意しておこう」
「はい。これからは、見逃さないようにします」
話している内容。それは、優輝達を襲った男の、その背後の存在についてだった。
「干渉を全て打ち消す事は…不可能となってしまったな…」
「あの人形が降り立ったのが原因で、この下界は私達の世界に近づいてしまいましたからね…。…今度、力を蓄えた状態で干渉してきた場合は、阻止できません」
「……その時は、おそらく封印も…」
「はい…」
深刻な様子で、二人は今回の影響を話し合う。
優輝達を襲った男の影響で、優輝達のいる世界と、二人のいる世界の位相が近付いてしまい、干渉を受けやすくなってしまったのだ。
「それにしても、この二人…」
「…まったく気づけませんでしたね…」
レンズにある場面が映し出される。
それは、あの男が天使のような容姿に変化した二人に消滅させられる場面だった。
「えっ、お二方共本当に気づいてなかったんですか?」
「…そういうお主は気づいておったのか?」
突然後ろから、もう一人女性が声を掛ける。
その声に対し、老年の男性はまるで気づいていたかのように聞き返す。
「まぁ、私も元天使ですし」
「…元同族だからこそ気づける…という事かの」
「そんな感じです。私も偶然気づいた感じですし」
男性の問い、女性は答える。
「とにかく、今回は何とかなったが、次もそうとは限らん。なるべく、こちらで処理するように心掛けねばな」
「そうですね」
そういって、三人はそれぞれの持ち場へと戻っていった。
―――封印が解けるまで…後………
後書き
何か色々解決せず、モヤモヤが残った感じ…。それを狙った感じの話です。
結局正体不明の敵は正体不明のまま、辛うじて王牙の証言で倒された事が分かっただけとなり、その裏にいるであろう存在は後回しにされました。
本当にできる事がありませんからね。
ちなみに、最後の三人は以前にあった閑話で既に登場しています。
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