| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4章:日常と非日常
  第120話「変わる考え」

 
前書き
約二名の考えが変わっていきます。
…内、片方は以前から少しずつ変わってましたが。
 

 





       =なのはside=









 ……最初に会った切欠は、一つの事件だった。
 次元犯罪者グループ“カタストロフ”。それが八束神社に現れた。
 草の神である椿ちゃんと知り合うと同時に、私はその人…兄妹と知り合った。
 その時は、一時の協力者としてだったけど、私としては妹である緋雪ちゃんと同学年だった事もあって、仲良くしようと思った。
 でも、神夜君から、彼を信用してはならないと言われ、私はそれを信じていた。

 …ううん、“信じ込ませられていた”。
 それからは、力を頼る事はあっても、決して信頼はしていなかった。
 まるで、神夜君の言う事を忠実に守るかのように。

 そして、緋雪ちゃんが死んでしまって、司さんがいなくなってしまって。
 事あるごとに、神夜君は彼を疑った。彼が原因だと、責めるように。
 司さんが帰ってきて、無事事件が解決した後も、神夜君は彼を信用しなかった。
 それにつられるように、私やフェイトちゃん達も完全に信用はしていなかった。
 …あ、でも、奏ちゃんとアリシアちゃんは信用するようになったんだっけ?
 なんでも、昔の恩人だったとか…。アリシアちゃんは助けられたらしいし。

 …今思えば、彼はとても良い人なんだと思う。
 それこそ、“お人好しすぎる”って椿ちゃんとかに言われるくらいには。
 それに、彼はとても強かった。
 “カタストロフ”の事件で、それまで一番強いとか言われていた神夜君に、ユーノ君よりも少ない魔力で勝ってしまう程だった。
 司さんを助けに行く時だって、誰も近づけない中、たった一人で突っ込んだ。
 それほどまでに彼の何かを為す時の意志は本物であり、とても固いものだった。
 それなのに、私は、私達は信用しようとしていなかった。



 ………そんな事を、今回の敗北から目を覚ました時、考えていた。
 どうしてこのタイミングかは分からない。
 でも、気絶と同時に、“何か”からも目を覚ましたような、そんな気分だった。







「……………………」

 クロノ君が解散の合図を出すと、何人かが席を立つ。
 プレシアさんやリニスさんと言った保護者にあたる人達はまだ怪我の治り切っていないフェイトちゃんの事を看てあげたり、治療の手伝いをしたりしていた。

「…………」

 ボーっと、まるで上の空のように、私は席に座り続けていた。
 思い出すのは、彼に似た男性との戦い。
 あの戦いで、私は…いや、私達はまるで歯が立たなかった。
 攻撃はすり抜け、動きは見えず、防御も役に立たなかった。
 椿ちゃん、葵ちゃん、奏ちゃん、司さんの四人が攻撃を引き付けてくれなかったら、30秒も持たせる事はできなかっただろう。

 …そして、敗北。
 気絶したから知らないけど、彼もあの後倒れたらしい。
 先ほどの話し合いで、誰かによって敵は倒されたらしいけど…。

「……私、は…」

 私は、席を立ってどこかへと歩き出す。
 どこへ、などと明確に決めてはいない。彷徨うかのように歩いた。

「………」

 私は、今回役に立てなかった。
 …ううん、広く見れば、今までも彼には迷惑を掛けてきた。
 神夜君の言う事を疑いもせずに信じ切って……。

「(せっかく、魔法の力があっても、私は―――)」

「なーのはっ!」

「にゃっ!?」

 沈み込んでいた私の背中に、衝撃が走る。
 誰かが後ろから抱き着いてきたらしい。

「あ、アリシアちゃん!?」

「うりうり~、いつものなのはらしくないぞー?」

 後ろから抱き着いた体勢のまま、アリシアちゃんは私のほっぺをつついてくる。

「まったく、あまりに様子が変だから、気になって仕方ないわね」

「ふふ、素直に心配って言えばいいのに」

「ちょっ、すずかぁっ!?」

 遠回しに心配するアリサちゃんと、そんなアリサちゃんをからかうすずかちゃん。
 …どうして私に?

「どうしてって顔してるわね」

「そこまで深刻な顔されたら、誰だって心配になるよー」

「いつものなのはちゃんらしくないから、皆心配だったの」

「…そっか…」

 最近は魔法関連で会わなくなってたけど…やっぱり心配だったんだ。
 それとも、そんなにも今の私は心配されるような状態なのかな?

「それで、どうしたの?」

「…………」

 背中から降りたアリシアちゃんが、私の顔を覗き込むようにしながら聞いてくる。

「…んー、後悔してるの?」

「っ…どうして…」

「あはは、椿の特訓を受けて、色々鋭くなってるのかもねー。表情や雰囲気でなんとなく読み取れたんだよ。あ、具体的には分からないよ?」

 少し気まずそうに視線を逸らしながら、アリシアちゃんはそういう。

   ―――…最後に、我慢をするな
   ―――辛い気持ちがあれば、家族や親しい人にしっかり打ち明けろ
   ―――そうすれば、そういった思いはしなくなる
   ―――……決して一人で抱え込むな

「っ…………」

 心の内を言おうか悩んでいると、ふと以前彼に言われた事を思い出す。
 …そうだ。我慢、しなくていいんだ。

「なのは?」

「あの、私―――」

 彼に対して迷惑を掛けていた事、神夜君の言う事をおかしい程忠実に聞いてた事。
 胸の内にある後悔、罪悪感、疑念、その他色々な事を打ち明けようとして……。

「なのは!」

「っ!」

 そこに、神夜君がやってきた。

「相当落ち込んでるように見えて追いかけてきたけど…大丈夫か?」

「ぇ………ぁ……」

 まともに神夜君の顔を見れない。
 それは、以前までと違って“好き”と言う感情からではなく…。

 …これはきっと、私の“怯え”が原因なのだろう。

「顔色悪いぞ?どうしたんだ?」

 思い出されるのは、神夜君との記憶。
 何事も、神夜君が正しいと思って、傍に寄り添おうとしていた。
 それはまるで、思考そのものが“そうなるように”されていたみたいで…。

「(今までの思い出は…嘘だったの…?)」

 自分が、まるで自分じゃない。
 そんな感覚に陥った瞬間、私は吐きたくなる程の嫌悪感に襲われた。

「なのは…?」

「っ……!」

 気が付けば、神夜君が私に手を伸ばしていた。
 咄嗟に、私はその手を振り払う。

     パシン!

「来ないで!」

「っ……!?なのは……!?」

 突然拒絶された事に、神夜君は戸惑う。……でも。

「……ごめん、なさい…。もう、神夜君の事、信用できない…!」

「………え?」

 全部、嘘だった。彼に抱いていた感情も。思い出も。
 その全てが、偽物だった。本当の気持ちじゃなかった。
 そう考えただけで、目の前の彼が………嫌になった。

「ちょ、なのは!?急にどうしたのよ!?」

「アリサ、ちゃん…!」

 隠れるように、アリサちゃんの後ろに逃げる。
 アリサちゃんごめん…こんな盾みたいな扱いしちゃって。

「ど、どうしたんだよなのは…」

「っ…………」

 体の震えが止まらない。
 今の気持ちと、これまでの気持ちの違いに、嫌悪感が治まらない。
 そんな私を思ってか、アリサちゃん達が庇うように前に出た。

「……あんた、なのはに何をしたの?」

「お、俺が?誤解だ!」

 今までのアリサちゃんからは感じた事のない、気迫が感じられた。
 …きっと、今の私を見て、怒ってくれてるのだと思う。

「アリサ、なのはのこの怯えよう…もしかして…」

「…ええ。多分ね」

 アリシアちゃんとアリサちゃんが何かを話している。
 けど、私は神夜君に対する嫌悪感でそれどころじゃなかった。

「…どうして…」

「なのは…?」

「どうしてこんな…!こんな人の心を弄ぶような事を!」

 そう。今までの私は、まるで心が弄ばれたかのように、おかしかった。
 なんでもかんでも神夜君の言葉に従って…自分の本当の気持ちなんてなかった。
 …それが、たまらなく嫌だった。

「ずっと…ずっと信じさせられていた!フェイトちゃんもはやてちゃんも…皆、皆!こんなの…こんなのってないよ…!」

「な、なに言ってるんだ?そんな事がある訳…」

 言いたい事を言うために前に出ていたけど、神夜君がこちらに一歩踏み出した瞬間、またアリサちゃんの後ろに隠れる。

「…なのは……」

「…ごめんなさい…」

「まぁ、いいのだけどね…さて」

 さすがにアリサちゃんを呆れさせてしまったらしく、溜め息を吐かれた。
 そして、改めて神夜君と向き直った。

「なのはが思いっきり言っちゃったから言わせてもらうけどね…洗脳だの騙してるだの、そう言う事言っているあんたが、一番そう言う事やってるのよ」

「あ、アリサ?そんな事、してる訳…」

「じゃあ、このなのはの怯えようは何?それに、あたし達もあんたに魅了を受けてた事、恨んでない訳じゃないからね?」

 真正面からアリサちゃんは神夜君と言いあう。
 アリサちゃんの押しが強いから神夜君はタジタジだけど…。

「っ…まさか、またあいつが…!」

「ほら!またそうやって優輝のせいにする!いい加減、やめて欲しいよ!なんでいっつも優輝を目の敵にするの!?」

 彼の事を言おうとした瞬間、アリシアちゃんが声を荒げる。
 いつも明るいアリシアちゃんがこんなに怒りを露わにするなんて…。

「優輝君が洗脳?ふふ…おかしな事を言うね。彼はむしろ逆…私達の恩人ですらあるのに。それに、あの帝君すら更生させる程なんだよ?」

「す、すずかまで…」

 しばらく静かだったすずかちゃんが、口を挟む。
 …あの帝君を…凄いなぁ…。

 …それよりも、すずかちゃんが直視できない程恐ろしく見えるんだけど…。

「皆あいつに騙されてる!あいつは自分の妹を騙してた挙句、見殺しに―――ッ!?」

「……それ以上、口にするな」

「それは、優輝へだけじゃない。…緋雪に対する侮辱にもなるわ」

「以前は帝君に人の気持ちを考えろとか言ってた癖に、一番考えてないね」

 剣が、刀が、槍が、神夜君へと向けられる。
 それらは多分、彼が作った霊力用のデバイスなんだろう。
 アリシアちゃんは知っていたけど、二人にも…。

「な、なんで……」

「あら、ここにいるのがあたし達で良かったわね。あたし達では、あんたに中々傷付けられないし。でも、司さんや奏、優輝が聞いていたら…これでは済まないわよ」

 底冷えするような殺気が、神夜君へと向けられる。
 魔法が使えなかった三人が、いつの間に…。

「ふん。一度、自分の考えを客観的に見つめ直す事ね。あんたの考えは、その根底からして全くの見当違いだって事、自覚しなさい」

「お、俺は……!っ…!?」

「…少し、頭を冷やしてね?」

「え、すずか怖い。…っと、なのは、ちょっと離れようか」

 しつこく食い下がろうとした神夜君に対し、すずかちゃんが笑顔のまま氷の霊術?を使って全身を氷漬けにする。
 神夜君自身には効いてないだろうけど、足止めのつもりらしい。
 後アリシアちゃん。その呟きには私やアリサちゃんも同意だよ。







「……よし、ここなら邪魔は入らないわね」

「…皆、凄いね。私なんか…」

 場所を移し、アースラの個室で先程の話の続きをする事になる。
 でも、私が知らない間に皆がここまで凄くなってた事に、私は塞ぎ込んでいた。

「……まったく」

「はにゃ?」

「あんたも、いつまでそううじうじしてるのよ!」

 そんな私に呆れたのか、アリサちゃんは私の左右のほっぺを摘まんで上下左右に動かし始めた。

「うにゃ、や、やめてよアリサちゃん…!」

「あんたのそういう所、フェイトの事で悩んでた時みたいで見てるとイライラするわ!いい加減、あたし達を頼る事を覚えなさい!」

 少し強く引っ張ってから手を放し、アリサちゃんははっきりとそういった。
 …うぅ、絶対赤くなってるよ…。

「…うん、ありがとう。アリサちゃん」

「まったく…それで?さっき言い損ねた事は何かしら?あいつに対する態度からどういったものか大体は想像がついてるけど」

「えっと、実は―――」

 先ほど言い損ねた事を改めて説明する。
 今までの私が、まるで私じゃなかった事。
 神夜君への感情が、全部そう仕向けられたものだったという事。
 目を覚ましてから感じた事を全部話した。

「―――だから、怖くなって…」

「…まぁ、それまでの自分が、自分からみてもおかしいと思えたらね…。仕方ないでしょうね。あたし達も同じだったし」

「え……?」

 アリサちゃん達も、同じだった…?

「あたしとすずかがしばらく付き合いが悪くなった時があったでしょ?」

「えっと確か…椿ちゃん達と出会う少し前あたりだったっけ…?」

「あの時、あたし達も今のなのはと同じ気持ちだったわよ」

 …そっか、アリサちゃんとすずかちゃんも、私と同じで…。

「私は校庭で優輝の偽物が出現した時だねー。ちなみに、奏は大体なのは達が優輝の偽物と交戦してる時、つまりジュエルシードと交戦中の時だね」

「皆も、私と同じ……」

「優輝曰く、あたし達はあいつに“魅了”されてたのよ。尤も、あいつは自覚していないけどね。余計に質が悪いけど」

 “魅了”…それを聞いて、私は納得する。
 それなら私が神夜君を慕い、言う事をあっさりと信じるのもおかしくない。

「じゃあ、フェイトちゃんやはやてちゃん達も…!」

「優輝君が言ってたけど、“好きな人がいる”もしくは耐性を持っている人以外の女性は、無条件に魅了されるらしいね。…だから、私達は…」

 女性限定…そういえば、ユーノ君やクロノ君はおかしくなかったっけ…?
 それに、司さんやプレシアさん、リンディさんとかも大丈夫だった。

「司は耐性持ち且つ、今では優輝が好きで、桃子さんやママ、リンディさんは人妻だから対象外。エイミィも神夜と会った時点でクロノが好きだったんじゃないかな?リニスは司の使い魔になったから耐性を持ったらしいよ。」

「忍さんはお兄ちゃんの彼女さんだったから…」

 …納得がいった気がする。緋雪ちゃんは彼が好きだったから…かな?
 そういえば、お兄ちゃんはもうすぐ忍さんと結婚するんだっけ?確か来年の6月に。
 …今はどうでもいい事だね。

「…どうして、神夜君が魅了してるって…」

「優輝、以前は人の能力とかが見えるレアスキルみたいなのを持ってたんだって。今は使えないらしいけど。それで知ったって言ってたよ」

「ちなみに、先に言っておくけど、あたし達のように優輝に魅了を解いてもらうのは難しいわよ。何でも、魔力が多い程魅了は根深く効いてるらしいの」

 フェイトちゃん達も解いてもらえると思ったけど…そうはいかないらしい。
 …そうだよね。彼の事だもん。解けるならもう解いてるだろうし。

「…そういえば、どうしてなのはの魅了は解けてるの?タイミングからして、今回の戦いで解けたのよね?優輝になのはの魅了を解く余裕はなかったと思うけど…」

「…確かに。どうして私の魅了は…」

 あの戦いで何かがあったのは確かだと思う。
 …私が気絶する時、私は彼の傍に飛ばされた。
 何かの副次効果で、魅了が解けた?

「…………」

「……つんつん」

「にゃっ!?アリシアちゃん!?」

「いやぁ、見事に赤くなってたから……」

 考えていたら、アリサちゃんに引っ張られて赤くなったほっぺを突っつかれた。

「今回の事は、今考えてもあまり意味ないよ。多分、優輝達も判断材料が少なすぎて色々と考えあぐねてると思うから」

「…そうね。とりあえず、なのはは一旦落ち着いて頭の中を整理しておいた方がいいわよ。あんたも中学生なんだから、あたし達の時のように付き合いが悪くならないようにね。あいつはともかく、フェイト達と友達なのは変わらないんだから」

「……うん」

 アリサちゃんの言う通りだ。
 …今は、落ち着こう。そして、余裕があったら彼に謝ろう。
 それに、私が撃墜された時も気に掛けてくれたお礼も言わなきゃ。



   ―――だから、ありがとう。優輝さん。











       =帝side=





「……………」

 一つの個室の中。その中で俺は気絶から目を覚ました時の光景を思い出す。

〈……マスター〉

「…おう、目が覚めたのか」

 エアの声に、スリープモードから目を覚ましたのだと気づく。

〈…あの敵は、どうなりましたか?〉

「倒されたよ。天使らしき二人にな」

〈天使…?〉

 …そう。天使だ。俺があの時見たのは、間違いなく天使だった。
 それも、“知っている二人”が天使になっていた。
 覚えていないのか、俺が見ていた事を仄めかしても無反応だったが。

「…とんでもない“世界”に転生させられたよな、俺…」

 それこそ、転生すると聞いた時は喜んだものだ。
 大好きな“リリカルなのは”の世界に転生できる。しかも特典のおまけ付きだ。
 前世とは違う人生を歩みたいからと、ハーレムを作ろうとすら思った。
 …思えば、浮かれすぎてたんだよな。俺。

 転生して、馬鹿みたいに暴れまわって。
 根拠のない強がりを言って、周りを困らせて。
 …そして、あいつに止められた。

「何のための特典だよ…。ファンタジー要素があるんだから、死ぬ危険性だってゴロゴロあるだろ。“死なないため”の特典な事ぐらい、気づけっての…」

 所詮アニメの世界だからと、アホみたいに…。
 “原作”にない展開なんて、当たり前にあったし、その度に俺は負けていた。
 司の…アンラ・マンユの時に至っては、本当に現実を思い知らされたさ。
 あいつがいなければ、俺はこの場にいないと断言すらできたかもしれない。

「なぁ、エア。…“主人公”ってすげぇよな」

〈…どうしたのですか?マスター〉

「いや、どんな強大な敵が現れても、挫けない主人公が羨ましくてな…。…俺には、無理だ…」

 あの男との戦いを思い出すだけで、手が震えてやがる。
 …あぁ、今思えば俺が転生に喜んだ理由って、“主人公”に憧れたからなんだな。

「あいつとの特訓で強くなったつもりだけど、“心”においては、未だに“原作”でのなのはに大きく劣ってらぁ。…はっ、精神年齢はとっくに成人してる癖に、子供に負けるとかなっさけね」

〈……………〉

 アホな事をしていた自分が羨ましいぜ。
 どんなに打ちのめされても馬鹿みたいに立ち直ってるんだからよ。

「なぁ、エア。もしかしたら、俺は…この世界の人達は、とんでもない事に巻き込まれたかもしれん。あの敵に、そいつを消滅させた存在。…そして、その背後の存在。…絶対、これだけじゃ終わんねぇ」

〈……貴方は、何を“見た”のですか?〉

「…魔法とかがある世界でなお、“超常的存在”と呼べる奴だ」

 何もかもが、違った。力も、法則も、存在も。
 あいつは、無理矢理その領域に行き着いたらしいが…。

「あの男もそうだったが、それを倒した二人………くそ…どうなってるんだよ、この世界…。ああもう…」

〈…今は休んでください。マスター。一度眠れば、頭の整理がつくと思います〉

「…そうさせてもらう」

 元より、そのためにクロノに断りを入れて個室に来たんだ。

〈ただ、一つだけ。…マスターが仰った“天使”なる存在。その正体、マスターは知っていますね?できれば、教えていただけないでしょうか〉

「…どっちが本当の姿かは知らん。…まぁ、エアになら言っていいだろう」

 そういって、俺はエアに“二人”の名前を教える。

〈っ…!そんな、まさかお二人が…!?〉

「あいつに伝えるのが正解なのかどうか…。とりあえず、俺は寝る」

 優輝(あいつ)も気づいていない事だ。
 あの時、俺以外はデバイスを含め、誰も何が起きたか知らない。
 俺だけが、あの男の最期を見ていた。
 …その真実を、誰かに伝える事が正解とは限らない。
 今まで碌に当たった事のない予感だが…今はまだ言うべきではないと思う。

「…………」

 あの男の力と、天使と化した二人の力。
 男の方はともかく、二人は見ただけに過ぎない。
 …だけど、それでも理解ができた。

 あの力は、俺達が扱う力なんて目じゃない。
 あいつの神降しの力すら、下位互換と言えてしまう程だった。
 …それも当然だ。特典で貰ったとはいえ、神殺しの宝具すら効かないのだから。
 不死殺し、世界を裂く剣、ありとあらゆる力を秘める武器が通じなかった。
 その時点で、ある程度は分かっていたつもりだったんだがな…。
 あんなのがまだいると考えるだけで、恐怖で体が震える。
 この事実を、俺は伝えるべきなのか…。

 …ああクソ…。なんで俺は転生なんてしちまったんだ…。
 こんな思いをするぐらいなら、そのまま輪廻の環にでも還ればよかった。
 神の力すら通じない、そんなチートな連中、どう相手にしろって言うんだ。
 第一に、未だにあの男の力は正体不明だ。
 見た事も聞いた事もない未知の力に、どう対応すれば…。

 ……いや、待てよ?あの力…どこか、既視感が……。
 俺はどこで、あの力を見たんだ……?















 っ………!そうだ……!























   ―――転生する時、その時にも、あの力を見た……!





















 
 

 
後書き
魅了が解けたなのはに、なんか色々見ちゃった元踏み台でした。
SAN値が減ると言う訳ではありませんが、見たモノは精神的に支障を来す程のモノだったという感じです。脳と言うより、魂がそれほどの力を感じ取ったみたいな。

一応4章でのシリアスパートはこれにて終了です。
後は少しばかり今回を引きずりながら日常を過ごす予定です。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧