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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第118話「■■の尖兵・後」

 
前書き
敵の戦闘技術はそれこそ司や奏と互角程度です。
そして、もし攻撃が普通に通じるのであれば、優輝一人でもその気になれば勝てる程の力量という感じになっています。

優輝が敵の秘密を少し暴けたのは、元々分析・解析が得意だった事に加え、以前に英霊となっているからです。実際に殴られ、その相手に直接触れた事で理解できた…そんな感じです。
物理的な意味で“考えるな、感じろ”な事をしました。
 

 




       =優輝side=





 …椿たち四人が一斉に吹き飛ばされる。
 攻撃が通じないのを良い事に、カウンターを放ったようだ。

「(僕らとは違う“法則”…確かに、それならば攻撃が通じないのも納得だ)」

 殴られたダメージは大きいが、まだ戦える。
 痛みを抑えながら立ち上がり、僕は思考を巡らす。

 “法則”が違う。…これはつまり、二次元の存在が三次元の存在に干渉しようとしているようなものだ。そもそも“存在”がずれているのだ。攻撃が通じるはずもない。

「(攻撃は通じなくても、防御はできる。…となると、ホントに厄介だな…。)」

 防御ができるという事は、相手の“法則”は僕らに一方的に干渉できる。
 …そして、そこから考えられる事は……。

「(…格上の“存在”。または“法則”の世界から、奴はやってきた…)」

 …となると、いよいよ僕らに勝ち目が…。
 いや、まだだ。だからと言って、可能性が“0”な訳ではない…!

「っ……!」

 “ドンッ!”と言う音と共に、奴へと斬りかかる。
 とにかく奴に攻撃が当たらないにしても、そのまま皆をやらせる訳にはいかない。

「くくっ…!」

「っ、はぁっ!」

     ギィイイン!!

 先ほどと比べて、数段動きが早い。
 だけど、僕はそれに対応して剣を防ぐ。

「っ……!」

「む…!」

 剣を創造し、奴を囲うように突き刺す。
 どうせ通じないのだ。目暗まし、足止めのどちらかになれば御の字だ。

「ついでだ…!」

 さらに、地面に手を付いて創造魔法を行使する。
 土を隆起させ、奴を囲うようにする。
 時間稼ぎになるかは分からない。ただ、これで時間に猶予ができたはず…!

「皆、無事か…!」

「なん、とか……」

「そうか……」

 僕が攻撃している間に、皆復帰していた。
 とりあえず一か所に固まる。

「…攻撃を受けて理解した。…あいつ、“存在”そのものが格上だ。“法則”すら僕らとは別の領域なせいで、攻撃が通じないらしい」

「…それに加え、向こうの攻撃は通じると…。何よそれ、卑怯どころじゃないわ」

「対処法は……あるの?」

 僕と椿の言葉に、奏が不安そうに聞いてくる。

「……一つだけ、な。だけど、これが難しい」

「むしろ、思いついていた事に私は驚いているわ。正直、打つ手なしだったもの」

「そうなんだよね。…あたし達じゃ、どうしようもないと思ってた」

 珍しく椿と葵があっさりと諦めるような事を言った。
 司と奏もその言葉に驚いているようだ。

「二人が…そう簡単に諦めるなんて…」

「“存在”の格が違う。…これは、生半可な“差”ではないわ。例えるなら…そうね、物語の登場人物が作者に勝てと言っているようなものなのよ」

「それ、は……」

 司と奏もわかったのだろう。絶望的な“差”を。
 ……だけど…。

「それで、優輝の策は何かしら?」

「それは……っ!」

 単純且つ、途轍もなく難しい事だと説明する前に、土の壁が吹き飛ばされる。

「…先に、もう一度猶予を作り出してから説明する」

「…そうね」

「はははははははは!!」

 実は、土の壁の中に何度も剣を創造して放っていたが、時間稼ぎもここまでか。
 だけど、攻撃は効かなくても足止めはできるとこれでわかった。

「遅い!」

「っ……!」

 笑いながら現れた奴は、即座に司に肉迫する。
 今までの司なら、シュラインで防ぐので精一杯な速度だったが…。

     ギィイン!

「ん……!?」

「今!」

 霊術の特訓で戦闘技術が磨かれ、強くなった今なら、いなす事も容易い。
 攻撃をいなした司は、即座にシュラインの柄で地面を打つ。
 魔法陣が奴の足元に出現し、爆発を起こす。

「甘い!」

「奏!」

 だが、その際の煙幕をものともせずに、今度は奏に肉迫する。

「そっちこそ、甘い……!」

「ほう…!」

「今だ!葵!」

「了解!」

 だけど、奏も司と同じく、腕を上げている。
 即座に反応して受け流し、そこから飛び退く。
 そこへ僕と葵で剣やレイピアで包囲。先程と同じように土の壁で囲った。

「転移!」

 すぐに僕は転移魔法で皆を転移……させたように偽装する。
 態と声を上げ、魔力を持つ剣を創造して人数分それを転移させる。
 僕らは近くの茂みに隠れ、気配を断つ。
 結界から脱出できないのは確認済みなため、こちらの方がいい。

「……それで、策は?」

「単純且つ困難なものだ。これ以外は、僕も椿や葵と同じで思いつかない。……すなわち、僕らの…いや、一人でもいいから、存在の“格”を奴に通じるまで上げるしかない」

「……それはまた、無茶苦茶な…」

 僕の言った案に、椿は溜め息と共に頭を抱える。

「確かに、理に適っているわ。…でも、それをどうやって?」

「……あっ、もしかして、神降し……?」

「ああ。…逆に言えば、それでも通じないと…」

「…打つ手なし…ね」

 存在の“格”を上げる。…抽象的な言い方しかできないが、具体的な方法は僕や椿だって思いつかない。…何せ、“良く分かっていない”のだから。
 だけど、少なくとも普通の人間よりも神の方が“格”は上だろう。
 だから、僕らは神降しに賭ける事にした。

「(…でも、それで通じるのか?)」

 “格”が違っても、武器に神殺しの概念などがあれば、一般人でさえ神は殺せる。
 それと同じ事で、最上級の武器を持つ王牙なら、傷の一つはつけれるはず…。
 だけど、それがないという事は、もしかしたら…。

「(…いや、今は考えないようにしよう)」

 どの道、手は神降ししかない。
 そう断じた僕は、早速神降しを行おうとして…。

「っ!転移!!」

 咄嗟に、転移魔法で全員を連れて遠くまで跳ぶ。

「危なかった…!まさか、辺り一帯を薙ぎ払うとは…!」

「ほう、躱したか…。だが、見つけたぞ?」

「っ…!」

 転移魔法を使ったのは、奴の“力”の動きを感じ取ったから。
 即座に転移して正解だった。だが、これで場所がばれてしまったか…。

     ギギギィイイン!!

「っ……!?(さらに、速く…!?)」

「優ちゃん!」

「シュライン!」

〈はい!〉

 咄嗟に体を動かせたものの、一瞬奴の姿を見失った。
 すぐさま司が光の柱で奴を捉え、目暗ましの代わりにした。

「こいつ、さらに強くなるのか…!」

「はははは!何しろ生まれたばかりでなぁ。動きに慣れていなかったのさ。…だが、慣れてきた今では…」

「っ、奏!!」

「………!」

 霊術で身体能力を極限まで上げた事で、何とか見えた。
 奏の後ろに回り込んだ奴を見て、すぐに叫んだが…。

「っ、ぁああっ!?」

「くっ…!『椿!奏を頼む!司、サポートは任せた!葵!』」

「『止めれるか分からないよ!?』」

「『それでもだ!』」

 大きく吹き飛ばされた奏。咄嗟に後ろに跳んだため、ダメージは軽減したが…。
 とりあえず、椿に任せて僕らで斬りかかる。

「はぁあっ!」

「このっ…!」

 当然の如く、すり抜ける。
 だけど、これは攻撃を引き付けるためであり…。

     ギギギギギィイン!!

「(これは…時間稼ぎも、厳しいか…!)」

「くぅぅ……!」

 葵と共に後退させられるように吹き飛ばされる。
 そう。攻撃を引き付けると同時に力量を見ておいたのだ。
 …結論から言えば、非常にまずい。神降しをする暇がない。

「(何か、手は…!)」

 せめて神降しをするまで、何か手段がないか探ろうとして…。





   ―――奴に、砲撃魔法が降り注いだ。





「無事ですか!?」

「リニス!…と、言う事は…!」

 上空を見ると、そこにはリニスさんを筆頭に皆がいた。
 どうやら、アリシア達に頼んでおいた援軍が駆け付けたようだ。

「皆、大丈夫?」

「奏優先で頼みます。…ただ、王牙が…」

 シャマルさんが治癒魔法を掛けてくれたので、ダメージが大きい奏を優先で頼む。

「帝君は遠くで結界で隔離してるから大丈夫。…でも…」

「状況を簡潔に伝えるわ。今、結界によって外部とは完全に遮断。外から入る事は出来ても、脱出は不可能よ。念話の類も通じないわ。尤も、それはリニスならよく分かってそうね」

「…はい。使い魔としての、魔力供給が完全に断たれていました」

 椿の簡潔な状況説明に、皆は奴がいた場所を見る。
 まぁ、明らかな元凶だ。あいつを倒さないとダメなのは丸わかりだからな。

「だけど、なのは達の砲撃が直撃したんだ。少なくとも…」

「あれでダメージを受けていたのなら、とっくに王牙が倒してる」

「なんだと!?」

 今の程度の否定で何突っかかってんだこの織崎(馬鹿)は…。
 ともかく、椿の状況説明は終わっていないので、続きを言ってもらう。

「王牙帝は私達より先に交戦。どうやら最大級の攻撃を当てても通用しなかったらしいわ。……敵の戦闘力は、軽く見積もって私達一人一人より強いわ。そして、何よりも…」

「ははははは!ようやく揃ったようだな!」

「………あいつには、攻撃が通用しないわ。いえ、正しくは、あいつを対象とした魔法、霊術、全てが効かないわ」

 砲撃魔法によって発生した煙幕を吹き飛ばすように、奴が笑いながら現れる。
 一切攻撃が通用していなかった事と、椿の言葉に、皆驚きが隠せないようだ。

「…だとするならば、一体どうすればいいのかしら?」

「……神降しがなければ、飛んで火にいる夏の虫だったわね」

「それ以外、手段がないという事か」

「いえ、それすら通じない可能性が大いにあるわ」

 プレシアさん、アインスさんの言葉に椿はそう返す。
 …だが、結界の効果を改めて聞いて気づいた事がある。

「くそ…!」

「待てヴィータ!迂闊に行っても…!」

 思考を巡らせるよりも先に、ヴィータが仕掛ける。
 攻撃が通じないと言われても、黙っている訳には行かなかったようだ。

「くく…!あまりに愚策…!」

「っ、速―――」

「後ろだ!」

「ヴィータちゃん!」

 背後に回られたヴィータは、咄嗟に掛けた僕の声に応じるように後ろを向こうとする。
 だが、間に合わない。なので、シャマルさんがすかさず遠距離から障壁を張った。

「がぁっ!?」

「(さらに速くなってやがる…!これは…ジュエルシード二つを取り込んだ僕の偽物以上か…!?)」

 その障壁も空しく、ヴィータは吹き飛ばされる。
 グラーフアイゼンで咄嗟に奴の拳を受け止めたが、今ので折られたようだ。

「『司!ジュエルシードをここに呼ぶ事はできるか!?』」

「『……ダメ!シュラインを介しても、結界の外にアクセスできない!』」

「(やはりか…!)」

 次元を隔てても呼べるジュエルシードが、呼べない。
 そうなれば、神降しもアクセスする事はできないかもしれない。

「…椿…」

「…さすがに気づくわよね」

 “神降しはできないのではないか?”という思いに、椿も気づいていたようだ。
 どうするのかと聞こうとするが、その前に飛び退く。

「これほどの人数が集まったのは好都合!一人ずつ殺していこうじゃないか!」

「っ…!なんで、どうしてこんな事を!」

 奴の力による弾…便宜上、魔力弾と呼ぼうか。実際は魔力ではないが。似せてるし。
 それが先程までいた場所で炸裂し、爆発を起こした。
 全員、飛び退いて躱したようで、誰もダメージは受けていないようだ。
 そして、なのはが奴になぜこのような事をするのか問うた。

「はははは!当たり前だろう!俺はお前たちを殺すのが目的だからな!」

「…なぜ、殺そうとする」

「さあな!俺はそのために作られたから、その裏にある訳など知らんよ!」

「作られた…ですって?」

 僕らに既に言った目的を、改めて奴は言う。
 そして、その言葉に含まれた“裏”に、プレシアさん達大人勢は気づいたようだ。

「そんな事、させるかよ…!」

「今ここで、止めて見せる…!」

 駆け付けた皆が、奴を取り囲むように包囲する。
 効かないと分かっていても、諦められないからな。
 司や大人勢も、それが分かっていて、援護に向かっている。

「…ダメ…それじゃあ、無駄死にするだけ…!」

「奏…まだ、行けるか…?」

「一応…けど、ダメ、なの…!」

 奏が僕の隣にやってくる。
 ある程度回復はしたようで、戦闘自体は可能だが…。
 …いや、厳しいらしい。恐怖で体が震えてしまっている。

「っ……優輝、さん……?」

「……………」

 安心させるように、頭を撫でる。
 …何とか、しなければ…。

「…椿」

「ここにいるわよ」

「皆が相手している間に聞いておく。…神降し、本当にできるのか?」

 先ほどは聞き損ねた事を、改めて尋ねる。

「…できるかどうかと言えば、出来ないに等しいわ」

「やはり…か」

「そんな……」

 外界と完全に遮断されているのだ。当然と言えば当然だ。
 司の時だって、地球から離れていたから時間制限があったしな。

「でも、ほんの少しの間なら、可能よ」

「どういうことだ?」

「貴方だって以前やったでしょ。体に残る神力を用いるのよ。私だって式姫とは言え神の分霊。優輝の見ていない所で、いざという時のための神力を溜めておいたのよ」

「それを使うという事だな…」

 どの道、通用しなければ神降しは無意味だ。
 なら、一瞬でもそれは関係ない。

「時間にして僅か三秒。与えられるのは一撃のみ。……行けるかしら?」

「やるしかないだろう。どうせ、逃げられないんだ」

「それでこそよ」

 分の悪い賭けなんて、よくある事だ。
 そして、その賭けに勝てばいい。それだけだ。

「奏、時間稼ぎ…行けるか?」

「っ……優輝さんのためなら…!」

「無理はするなよ。防御に専念するだけでいい」

「うん………!」

 自分を奮い立たせ、奏も参戦しに行った。
 ……さて…。

「『全員に通達!これから神降しで一撃を放つ!どうにかして、当てるための隙を作ってくれ!』」

 念話でそう伝えておく。
 既に、フェイトやヴィータが吹き飛ばされ、リニスさんも傷を負っている。
 長くは持たない。早くしなければ…!

「椿!」

「分かってるわ!」

 霊術で陣を描き、術式を編む。
 そして、僕は椿と一体化する…!

「(極限まで存在を神に寄らせ、一撃で決める!)」

 神降しと同時に、一気に存在を草祖草野姫に近づける。
 以前、司を助けようとした時のよりも、危険な行為だ。
 でも、そうでもしないと(.)達は勝てない…!

「一撃、必滅―――!!」

「ぬっ…!?」

 踏み込むと同時に、織崎とザフィーラさん、シグナムさんが吹き飛ばされる。
 直後、奴が()に気づくが……遅い!

「“神滅一閃”!!」

 魔法と霊術を全て身体強化に回し、一瞬で間合いを詰める。
 そして、今込められる全ての神力を込めて最大の一撃を放った。











   ―――……だが、その一撃は……。



「っ………!?」

「嘘………」

「そん、な……!?」

 …無情にも、奴の首をすり抜けた。
 同時に、神降しは解けてしまう。

「ははは!どうした!それが最大の一撃か?」

「くっ…!葵!椿を頼む!」

 無理な神降しで力を使い果たし、気絶した椿を葵に任せる。
 すぐに気つけすれば戦線に復帰できるだろうからな。
 同時に、身体強化を施して奴に斬りかかる。

「(まさか、神降ししても通じないとは…!くそっ、薄々予想はしてた事だが…!)」

 導王流と武器の創造を利用して、奴の攻撃を捌く。
 援護射撃などによる動きの阻害はできない。
 シャマルさんのように遠距離から障壁で防ぐのならともかくな。

「遅い!」

「くっ、くそっ……!」

     ギィイン!ギギギィイン!!

 捌ききれずに、僕は後退させられる。
 まずい、隙だらけに…!

「優輝さん!」

「っ……!」

 そこへ、奏が割り込む形で庇ってくる。
 霊術で身体強化を施しているようだけど、これじゃあ…!

「っ、ぁああああっ!?」

 展開していたハンドソニックは砕かれ、奏はそのまま吹き飛ばされてしまう。
 さらに、間髪入れずに放たれた魔力弾で追撃を…。

「奏!」

「まず、一人だ」

 咄嗟にエンジェルハートを刀二振りに変えて防ごうとしたが…。
 それすら砕かれ、奏は近くにあった木々に叩きつけられ、戦闘不能になった。

「(くそ…!万策尽きたも同然か…?何か、何か“格”を上げる方法は…!)」

 神降しは、存在の“格”を上げる手段の一つに過ぎなかった。
 だから、他に方法があれば……。

「くそっ!よくも奏を!!」

「ふん。お前も力が与えられているようだが…弱い」

「がはっ!?」

 先程吹き飛ばされていた織崎が突っ込み、見事に返り討ちにされる。
 奴の攻撃の前じゃ、織崎の防御力も紙に等しいらしい。
 アロンダイトも当たり所が悪かったらしく、機能不全に陥ってしまったようだ。

「(思い出せ…!神降しと、今の状態で、何が違うのか…!)」

 力としての違いではなく、“存在”そのものの違い。
 奴に届かなかったとはいえ、確実に違ったはず…!

「考え事している暇はあるのか?」

「っ……!」

「させないよ!!」

 思考を巡らす僕に、奴は時間を与えてくれない。
 接近された事に対し、動こうとすると、今度は葵が割り込んでくる。
 同時に、御札が張られた矢も飛んできて、それが障壁となった。

「葵、椿…!」

「その顔は、まだ諦めてないみたいだね……!なら、賭けるよ…!」

「時間稼ぎは、私達がするわ!だから、頼んだわよ…!」

 鍔迫り合いから一度間合いを離し、奴は連撃を繰り出す。
 本来なら葵一人では対処できない攻撃だが、椿の援護射撃からの障壁で助かっている。
 コンビネーションも良く、上手く動きを阻害しないようにしていた。

「優輝君…」

「…やらなきゃ、やられるだけだ…。神降しすら通じなかった相手に、どこまでやれるかは分からないけど……頼めるか?」

「………うん。やるしか、ないんだから…」

 司は強く頷くと、念話で皆に声を掛ける。
 …皆が、時間を稼いでくれる。この時間を、無駄にはできない…!

「リヒト!シャル!協力してくれ!」

〈はい…!〉

〈分かりました!〉

 マルチタスクを併用し、思考を巡らす。
 魔法のように理論的な考えは通用しない。
 “存在”の違い、それをまず見つける事が先決…!

「(けど、いくら何でも理論が全く通用しない分野だと、見つける事すら…!)」

 概念などに近いソレは、それこそ同じような分野じゃない…と……。
 ……一つ、適したものがあった…!

「リヒト、宝具だ…!」

〈っ……!その手がありましたか…!〉

 その人物の在り方、偉業を再現する切り札。宝具。
 これならば、もしかしたら…!

「…無茶をさせる事になる。行けるか……?」

〈百も承知です!!〉

 いくら因果を変えるような宝具とは言え、“格”を上げるという“領域外”の行為だ。
 そんな事をすれば、いくらリヒトでも壊れかねない。
 …だけど、それしか方法がない。リヒトもそれが分かって了承した。

「“導きを差し伸べし、救済の光(フュールング・リヒト)”…!!」

 奴から離れた場所で、宝具を発動させる。
 …近くには、気絶した奏がいた。どうやら、シャマルさんが移動させたようだ。
 治癒魔法で死ぬことはないと思うが……。

「(今は、目の前の事に集中しろ…!)」

 望んだ結果に“導く”。それがこの宝具の効果。
 だが、僕自身明確に分かっていない“存在”の昇格。
 それは、リヒトに多大な負担を掛け、時間もかかるものだった。

「っ、ぁあああっ!!」

「フェイト!っ、しまっ……!」

 フェイトが、プレシアさんが戦闘不能になる。
 生きてはいるが、復帰は無理だろう。
 続けて、はやて、アインスさん、シャマルさんが落とされる。
 ユニゾンしていたリインも気絶してしまったようだ。

「ははははははははは!!どうしたどうした!俺を止めるんじゃないのか!!」

「っ………!」

 今も椿や葵、司を筆頭に足止めが為されている。
 けど、それも一分持つか分からない。皆ダメージが大きいからだ。

「ぐぅううううう………!」

〈マス、ター……!頑、張って、くださ、い……!〉

「分かってる……!」

 一時的とはいえ、“存在”の“格”を上げる行為。
 魂が耐えれても、器である体は耐えれないらしい。
 同時に、リヒトも段々と壊れていく。無理をさせているからな。

「きゃあっ!?」

「かやちゃん!……っ…!」

「っぁ…!ぐ、ぅ………!?」

 椿、葵、司がやられる。
 そこからは、ジェンガが崩れるようにあっという間だった。
 まず、遠距離勢が真っ先に落とされ、残った近距離担当もやられた。
 最後まで残っていたのはなのはだったが、彼女もこちらに吹き飛ばされてきた。

「ぁ……ぐ、ぅ……」

「っ………!」

 …“全滅”。既に、僕を除いて戦闘不能だ。
 その僕も、宝具の反動で体が既にボロボロだった。

「何をしているのかと思えば……どうした?それで何かするんじゃないのか?」

「っ……くそっ…!」

 振りかぶられた拳を、シャルを展開する事で受け流す。
 その瞬間、体が悲鳴を上げる。

「ぐ、ぅうう………!」

 それを何とか抑え込み、リヒトに魔力を流し続ける。

〈……マス、ター……ご武運……を………〉

「(リヒト…!…だけど、これで……!)」

 負荷が掛かりすぎたからか、リヒトは活動停止に陥る。
 だけど、宝具は発動しきった。

「シャル……!」

〈はい…!〉

 再び振るわれた剣に、シャルを添える。
 そして、受け流すと同時に掌底を決める。

 ……果たして、その一撃は、すり抜ける事はなかった。

「がはっ…!?な、馬鹿な…!?」

「辿り…着けた、ぞ……!」

 掌底で奴を吹き飛ばし、僕は吐血する。
 体が負荷に耐えれていない。シャルもそうだ。
 “格”の上がった僕の魔力に耐えきれなかったのか、活動停止していた。
 …無茶をさせてしまったか…。

「(何とかして、倒さないと…)」

 既に満身創痍。だけど、奴を倒さない限り終わらない。

「……ぁ……れ……?」

「……くく、攻撃を通したのには驚いたが、既に死に体じゃないか」

「く、そ…無理、しすぎたか……」

 意識が朦朧とし、足元も覚束ない。このままでは…!

「終わりだ。死ねぇ!!」

「っ………!」

 再び繰り出される、剣の一撃。
 何とかして、その攻撃を受け流すも……。

「ぐぅっ……!?」

「っ………ぁ………」

 カウンターを放つと同時に、僕は倒れてしまった。
 ……まずい……。この、まま…では………。

















       =out side=









 優輝は吐血しながら倒れ込み、そして動かなくなってしまった。
 死んだ訳ではないが、少なくとも戦闘は完全に不可能になった。

 …これで、動けるのは襲撃してきた男のみとなった。

「…く、くく…!やはり、この程度だったか……ははははは!!」

 最後のカウンターを耐え抜いた男は、その場で笑う。
 勝利を確信し、後は殺すだけと言わんばかりに。

「さて、まずは仲間から殺させてもらおうか。お前には絶望を味合わせるのがいいと聞かされたのでなぁ…。手始めに、お前の後ろにいる女どもを頂こう」

 気絶し、聞こえていないにも関わず、男は優輝にそういった。
 そのまま、後ろで倒れている奏達に近づこうとして…。











   ―――気が付けば、懐に魔力のような“何か”の掌底を打ち込まれていた。









「がっ……はっ……!?」

 それを喰らった男は吹き飛ばされ、即座に体勢を立て直し…。

「…受けよ、天軍を束ねし聖なる剣!」

   ―――“天軍の剣”

 その背後に回り込んだ、もう一つの人影の光の剣に切り裂かれた。

「がぁあああああああっ!?」

 “闇”によって、切り裂かれた箇所を修復する男。
 しかし、そのダメージは相当なものだったようで、その場でのたうち回る。

「馬鹿な…!馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な馬鹿な!?ありえない。あり得るはずがない!なぜ貴様らが…!なぜ攻撃が通じる!?なぜ!?」

 何とか立ち上がり、男は目の前に立つ二人に問う。
 そう。あり得るはずがなかった。その二人は、つい先程まで気絶していたのだから。

「っ………まさか、そんなはずが……!?」

 そこで、男は気づく。
 二人の体の変化に。

 二人共、頭上に光輪、背に純白の羽が現れていた。
 その姿は、まさに天使。

「なぜ、お前たちがこんな所に―――!」

「総べての生、母なる天に回帰せよ…!」

   ―――“魔天回帰(まてんかいき)

 男が言葉を言い切る前に、片方が接近。
 掌から放たれた、高密度の“力”が、男を襲う。

「がはっ……!?こんな、事が……あって、いいはずが…!」

「堕ちよ。秩序なき力を、塵へと還せ…!」

   ―――“堕天灰塵(だてんかいじん)

 吹き飛ぶ男に、体勢を整える間を与えずに、もう一人の光が襲う。
 今度は上空へと吹き飛ばされた男は、現れた魔法陣に拘束される。

「なっ……!?」

「母なる天に、その身を捧げよ…!」

   ―――“昇魂光天(しょうこんこうてん)

 先ほど吹き飛ばした方が、魔法陣を一際輝かせる。
 瞬間、光が男に落ち、地面へと叩きつけた。

「がはっ……ぐ、ぅ……!?」

「……まだ、生きているんですね」

「しぶとい…が、もう終わりです」

 既に満身創痍。あれだけ攻撃が通じなかった男が、だ。
 “闇”による修復も追いつかず、瀕死に陥っていた。

「く…そ、がぁああああああ!!」

 最期に、男は全ての力を以って、二人の内片方だけでも葬り去ろうとした。

 …それすら、無駄に終わると知らずに。







「我が身は明けの明星、曙の子…地に投げ堕ちた星、勝利を得る者…!」

   ―――“明けの明星”

 …眩い星が、冥府に堕ちる。
 “闇”の力を伴った攻撃に、クロスカウンターの如く光が放たれた。

「――――――――」

 男は、その光に呑み込まれ、悲鳴を上げる間もなく消滅した。

「……………」

「…………」

 二人は、消滅した場所をしばらく見つめ……糸が切れた人形のように、倒れ込んだ。
 先ほどまであった光輪と羽は消え、完全に気絶して眠っていた。













 かくして、謎の襲撃者は、人知れず消滅させられた。
 その瞬間を見た者は、誰もいなかった。









「っ…………!?」

 ……ただ一人を、除いて……。













 
 

 
後書き
神滅一閃…文字通りの意味を持った一撃。神降しでの神力を全て込めているので、神殺しも可能。……なのだが、今回の敵にはそれでも通用しなかった。

天軍の剣…光によって構成された剣から放たれる斬撃。その一撃は神すら滅ぼす。

魔天回帰…光のエネルギーを集中させ、敵を消し飛ばす技。お手軽で超強力な技。

堕天灰塵…全てを塵へと還すかの如き光を放つ。その光は衝撃を以って敵を打ち砕く。

昇魂光天…常人が受ければ即座に魂が昇天する光を落とす。込めた力が多い程強い。

明けの明星…本領はカウンター。眩いばかりの光を叩き込み、敵を消滅させる。

天軍の剣と魔天回帰、明けの明星は元ネタ……と言うかほぼそのまんまです。(知っている人は知っている作品の技)他はオリジナルですが。
ちなみに、なんか覚醒した二人ですが、この時の事は覚えていません。
性格や口調にも変化があります。(こうでもしないと伏線にならnげふんげふん) 
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