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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第117話「■■の尖兵・前」

 
前書き
4章唯一のシリアスパート。
王牙が結構変わっちゃってる感がありますが、優輝の影響という事で…。
 

 




       =out side=







「ちっ、少し遅れちまったか…」

 八束神社までの道のりの中、帝は時間を確認して小さく舌打ちする。

「またあの野郎がイラつく事言ってきやがるじゃねぇか」

 帝は優輝と戦闘の特訓をしており、その集合時間に遅れていた。
 既に一年以上続けているため、彼も相応に強くなっていた。

〈…その割には、面倒臭がらずここまで続けてきましたね〉

「うるせぇ!あいつの言う通りにしてるんじゃねぇよ。俺は……だぁもう!」

〈無理して口に出さなくていいんですよ?〉

「うるせぇ!!てめぇまでからかうんじゃねぇ!」

 彼のデバイスであるエアにもからかわれる。
 だが、実際彼の胸中を占める感情は、決して嫌だというものではなかった。

「(言える訳ねぇだろ…!ハーレム目指してたら一目惚れして、今はあの子に認められるよう頑張ってるなんて、そんな恥ずかしい事…!)」

〈…………ふふ…〉

「…なんだよ」

〈いえ、ここ一年で、マスターもいい顔をするようになったと思いまして〉

 元々は、典型的な踏み台転生者のような性格だった帝。
 だが、度重なる“原作”とは乖離した激しい戦いと、優輝の影響、そして文字通りの一目惚れをした事でそれは少しずつ変わっていたのだ。

「……けっ!」

 不貞腐れながらも、帝はどこか満更でもなさそうだった。

「とりあえず、とっとと―――」

〈っ…マスター!!気を付けてください!何か、何か得体の知れないモノが…!〉

 …その時、帝が近道のために通っていた林に、何かが現れた。

「な、なんだ…!?」

〈魔力…いえ、魔力に似せた、“領域外”の力…!?っ…不明、エラー…判別、不可能…!?このエネルギーは、一体…!?〉

 黒い靄のようなものが、力が漏れ出るかのように帝の近くに降りてくる。

 …次の瞬間…。







   ―――ドンッ!!!





「っ……!?」

 謎の結界が張られると同時に、威圧感と共にその“存在”はそこに現れた。
 そして、その威圧感だけで、帝は無意識に膝を付きかけていた。

「て、めぇ……!?一体……!?」

「………ふん」

 現れた存在。それは、普段よりも“黒い”印象なものの…。

〈…“中身”は全くの別物…しかし、優輝様に似ている…?〉

 …優輝に、瓜二つだった。

「…くはっ、降り立った矢先に出会うのが、雑魚とはな」

 優輝に似た男は、帝を見るなり見下すように嗤う。

「てめぇ…!見た目も相まって、単純にムカつく野郎だな……!」

「事実を言って何が悪い?…尤も、俺にとってはどんな奴も等しく雑魚だがな」

 鼻で笑った男の傍を、無骨な剣が通り過ぎる。
 帝が威嚇で放ったものだ。

〈マスター!?そんな迂闊な…!?〉

「…わりぃなエア…。…こいつ、ぶちのめす…!」

「ははっ……できるのならやってみるといい!」

 非常に馬鹿にした態度に、帝は我慢の限界だった。

「てめぇが何の目的でここに来たのかは知らねぇ…。けど、あいつの姿には似つかわしくねぇ雰囲気でわかるんだよ…てめぇは碌でもねぇ奴だってな!」

「…くく、だからなんだ?」

「……それにな、てめぇ如きが、あいつらの事を語ってんじゃねぇ。“等しく雑魚”だぁ?いつまでもその調子こいた自信が持てると思うなよ!」

 挑発染みた馬鹿にした態度を無視し、帝は思っていた事を吐露する。
 非常に気に入らない相手とはいえ、帝なりに優輝の事は認めていたのだ。

〈マスター……〉

「出し惜しみはなしだエア。……全力で殺ってやる…!」

 そういうや否や、帝は両手に双剣を携え、背後に王の財宝による波紋を浮かばせる。

「く、くく…はははははははは!!雑魚は雑魚らしく、踏み台にされて這い蹲っていればいいものを!いいだろう!そちらが御望みなら、こちらも存分に力を振るってやろう!」

 男は大きく笑い、構えもせずに、見下すように帝と対峙した。

「っ…………!」

   ―――「王牙。お前はまず、慢心も油断もするな。まずはそれからだ」
   ―――「お前はスペックは高い。ならば、一つ一つの動きを良く見ろ」
   ―――「その能力の原典の力に頼りすぎるな。自分だけの動きを見出せ」

「(……やってやらぁ…!)」

 威圧感に震える体を抑え、帝は優輝の言葉を思い出す。
 元々は“戦い”の“た”の字も知らなかった一般人だ。
 貰った特典の力で戦っていた帝は、“自分の戦い方”を知らなかった。
 それを、優輝との修行で身に着けてきたのだ。

 ……故に…。

「甘く、見るなよっ!!」

 …彼は既に、“踏み台転生者”と呼ぶような強さではなくなっていた。

「はぁあああああっ!!」

「…くくっ…!」

 帝は王の財宝を放ちながら、双剣を投げ、さらに投影した武器を振りかぶった。
 それを男は不敵な笑みのまま、眺める。



 …帝と謎の男の戦いが、今始まった。















       =優輝side=





「…王牙の奴。遅いな」

「最近はグチグチ言いながらもちゃんと真面目に来てたのにねー」

 いつもの霊術の修行で、僕らは神社に集まっていた。
 あれからも帝、アリシア、アリサ、すずかの腕前は上がっている。
 既にアリシアに至っては優秀な魔導師並の強さを持っているからな。
 だけど、帝はともかく他はだいぶ伸びが悪くなっている。
 模擬戦をしているとはいえ、実戦経験がないからな…。
 いや、この世の中的にないに越した事はないんだけどな。

 ちなみに、司と奏は以前よりもだいぶ強くなった。
 魔法と併用できるようにもなったし、一人でアリシア達三人をあしらえる程だ。
 さすがに経験の差で伸びの良さが出てきたな。
 おまけに司は霊力で天巫女の力が使えるようになったし。
 …アレ、相性が良すぎる。練度があればあれだけで魅了が解けるかもな…。

「あいつを交えた模擬戦をやっておきたいのに、今日に限ってどうしたんだ?」

 今日は、それこそ特に何もない休日だ。
 クロノやユーノ達も本局の方に戻っているし、なのは達だって家にいる。
 …まぁ、父さんと母さんは本局の方に行ってるけど…。
 とにかく、王牙だって特に何も用事はないはずだが…。

「念話してみればいいんじゃない?」

「それもそうだな」

 普段は使うとしても霊術なため、使っていなかった念話を使う。

「…………ダメだ。繋がらない」

 しかし、念話は繋がらない。リヒトから王牙のエアへの通信も繋がらなかった。

「どういう事?念話が繋がらないって事は…」

「隔離系の結界か、念話が届かない程遠い世界にいるか…だ」

 どちらにしても、これはただ事ではない。
 前者ならば今王牙は襲われている事になり、後者ならば何の連絡もないという事から、突然そういった世界に飛ばされた、もしくは飛んだ事になる。

「仕方ない。探すか……っ!?」

 とにかく、王牙を捜索しない事には始まらないため、動こうとする。
 …その瞬間、結界の反応を捉えた。

「場所は……嘘だろ…!?気づかなかった…!」

「それに、突然結界が感知できるようになったって事は、結界に影響を与える程の攻撃が結界内であったという事だよね…?もしかして……!」

 司が焦燥感を滲ませた声でそういう。
 …そう。結界は“突然現れた”ではなく、“感知できるようになった”のだ。
 つまり、既に結界は張られており、尚且つ一切僕らに気づかれなかった…。

「アリシア、アリサ、すずか!今すぐなのは達とクロノに連絡!他は結界に向かうぞ!」

「ゆ、優輝!?優輝がそんなに慌てるなんて…」

「自慢じゃないが、僕は結界の感知は得意な方だ。それなのに、気づかなかった程の手練れ…。おまけに、嫌な予感もするんだ。……これは、ただ事じゃない」

 何より、椿と葵、司も感じているのだろう。…この、“闇”の気配を。
 アンラ・マンユの時とはまた違う、“闇”があの結界の中にいる…!

「だ、だったらあたし達も戦った方が…」

「ダメだ!…正直、アリシアはともかく二人は足手纏いにしかならない…!そのアリシアだって実戦経験のなさから同行はおすすめできない。…それほどの相手かもしれないんだ…!」

「っ…………」

 感覚が鋭い者は、皆して冷や汗を掻いている。
 かく言う僕も冷や汗が止まらず、さらには恐怖で体が少し震えている程だった。

「……わかった。行くよアリサ、すずか。急いで援軍を呼ばなきゃ!」

「っ…倒せるなら、さっさと倒しなさいよ!」

「が、頑張って…!」

 アリシア達は僕のただならぬ状態で理解したのか、すぐになのは達を呼びに行った。

「…行くぞ、皆」

「…ええ。…いざと言う時は、神降しを使うわ」

「分かった」

 僕らも、結界の方へと向かう。
 霊術で認識阻害を施し、最短距離を跳ぶ。

「(…なんなんだ……!なんなんだこれは…!圧倒的強さから感じる恐怖ではない…!これは、得体の知れないモノに対する、“未知への恐怖”…!)」

 異質すぎる気配に、そう思わざるを得なかった。
 …王牙は、無事なのだろうか…。







「ここか…!」

「シュライン!結界を解析して侵入を!」

〈分かりました!〉

 結界のある場所に着き、すぐさま司が解析に掛かる。
 僕と奏もそれぞれリヒトとエンジェルハートを用いて解析する。
 ……しかし…。

〈…解析、不能…。エラー、エラー…。っ…すみません…!〉

「嘘...!?」

「っ…ありえない…!解析ができない……いや、()()しない…!」

 結果は、無意味だった。
 解析不能なら、まだわかる。だけど、通用しなかったのだ。
 解析“できない”のではなく、解析の対象にすらならない…“すり抜けている”のだ。

「くっ…!」

「霊力もすり抜けた…!」

 奏が霊力を放ち、破ろうとするも、それもすり抜けてしまう。

「……一か八か…!」

「優輝!?」

「迂闊だよ!」

 体に霊力と魔力をバリアーのように纏い、結界に突っ込む。
 葵の言う通り迂闊な行為だが……この結界は放置してはならない…そう感じた。

「っ……!」

「優―――」

 突っ込むと、何事もないかのようにすんなりと内側に入った。
 しかし、代わりに椿の声が聞こえなく…つまり、外界と遮断された。

「リヒト、通信は…」

〈繋がりません。完全に遮断されています〉

「…そうか。…まずいな。椿と葵との“繋がり”も途切れている」

 式姫としての契約がなくなった訳ではない。
 だが、椿と葵の霊力のパスが途切れた。

「おまけに、外へは逃がさないタイプか」

〈…マスター、気を付けてください〉

「分かってる」

 こんな結界を張ったという事は、既に誰かが中にいる。
 …おそらく、王牙だろう。

「っ……優輝君!」

「司!それに、皆も!」

 すると、司を先頭に皆が入ってくる。
 どうやら、僕が入ったのを見て同じように一か八かで入ってきたようだ。

「…これで霊力の供給が元に戻ったわね」

「いきなり途切れたからびっくりしたよ。契約自体は切れてないから生きてるのは分かっていたけどさ」

「そうか。契約自体は切れてないのなら、中に入れたって分かるな」

 それで皆も入ってきた訳か。訳のもう半分はさっきも思った通り一か八かっぽいけど。

「それで、帝君は…」

「…あそこ」

 奏が王牙を見つける。
 そこには、デバイスとバリアジャケットがボロボロになった王牙が倒れこんでいた。

「王牙………っ!!」

 近づこうとして、異質な気配を感じ取る。
 結界内自体が異質だったため、紛れていたが、こいつは……!

「くく……ようやく来たか…」

「お前、は………!」

 その姿を捉えた瞬間、僕らは驚く。
 纏う雰囲気と、中身がすぐに違うと分からせてくれたが、僕と似ていたからだ。
 だけど、それ以上に、その気配の異質さに慄いた。

「……ぐ……ぁ……」

「帝君!しっかり!」

「司!治療を頼む!」

 椿と葵に目で男を警戒するように合図し、僕は王牙の様態を見る。
 …まさに満身創痍。僕も何度かなった事のある状態だ。このままでは死んでしまう。
 すかさず司に治療魔法で死なないようにする。

「王牙!大丈夫か!」

 深い傷は見られないものの、体の至る所に傷を負っている。
 出血も多く、これだと体内へのダメージも大きいだろう。
 王牙も最近はだいぶ強くなっていたはずだ。なのに、ここまでやられるのは…。

「……気を、付けろ………」

「あまり喋るな。傷に障る」

「………あいつ、攻撃が、通じな…………」

 そこまで言うと、王牙は目を閉じて黙ってしまった。

「帝君!?」

「…生きては…いるな」

 どうやら、ダメージによって意識を失っただけのようだ。

「出血があるから、傷を治しても衰弱してしまうよ…」

「治療は任せる。僕は…」

 立ち上がり、改めて僕に似た男と対峙する。

「…会話は済んだか?」

「……眺めているだけとは余裕だな…」

「当たり前だ。…お前らなぞ、いつでも殺せる」

 ……言ってくれるな。だが、そう言える程の“何か”が奴にはある訳だ。
 王牙の言葉と、この結界内の惨状を見れば、それがよくわかる。

「(“攻撃が通じない”。そして、この結界内の荒れよう…。まさか、“天地乖離する開闢の星(エヌマ・エリシュ)”を使っても、通じなかったのか?)」

 王牙は、僕らが入ってきた場所に頭を向けるように倒れており、男が立っている場所…いや、王牙を起点として、扇状に何もかもが切り裂かれ、抉られている。
 それはおそらく、王牙の…と言うより、王牙の持つ特典“王の財宝”を元々持っている存在の切り札である天地乖離する開闢の星(エヌマ・エリシュ)を放った跡だ。
 多分、この攻撃で結界に影響が出て、僕らが気づいたのだろう。

 …そして、王牙の言葉の通りなら、こいつはそれが通じなかった。
 世界を切り裂くとも言われる宝具なのに、それが通じないとなれば…。

「っ…………」

 ……あながち、本気でやばいかもしれない。
 そう考え、僕の頬に冷や汗が伝る。

「(“解析(アナリーズ)”…!)」

 奴の目的がどんなものにしても、王牙を襲い、僕らに対して殺気を放っている。
 その時点で攻撃してくるのは間違いないだろう。
 だから、僕はすぐに解析魔法を奴に対して使ったが…。

「っ……!?」

「くはっ…!おそらく解析魔法をしたようだが…」

「……結界と同じで、通用しない…!」

 あの異質な結界を張った時点で、なんとなく察しはついていた。
 …僕の本能が警鐘を鳴らしている。予感ではない、直感でやばいと分かった。

「…一応、聞いておこう。お前の目的はなんだ…!」

「目的…目的ねぇ…。素直に言うとでも?」

「思ってねぇよ。…けど、少なくとも“良い事”ではないのは見て取れる」

 なぜか僕と似た容姿。その身から放たれる異質すぎる“闇”の気配。
 そして、結界で隔離し王牙を満身創痍に追い込んだ。
 …これだけで僕らと敵対しているのは分かる。

「はは…!まぁ、いいだろう。どうせ死ぬのだから教えてやるよ……!俺自身の目的は、お前の…志導優輝と…その仲間たちを殺す事さ!俺は“そのためだけ”に生み出されたのだからなぁ!はははははははははは!!」

「な、に……?」

 高笑いしながら言ったその目的に、僕は驚きを隠せなかった。
 僕や僕の仲間の抹殺は…まぁ、そこまでおかしくはない。
 嘱託魔導師とは言え、管理局員のように犯罪者の恨みを買う事はあるからな。

 …だが、見過ごせないワードがいくつかあった。
 まず“俺自身の目的”。…つまり、その背後には別の思惑があるという事だ。
 そして、“生み出された”。先程のワードに繋がるが、奴は生み出された存在であり、奴はともかく、その背後にいる生み出した存在はまた別の目的があるという事。

 …既にいくつもの“異質”があった。
 これは、ただ犯罪者が襲ってきた訳ではない。
 何か大きな存在が、裏で動いているのかもしれない。

「お喋りはそろそろ終わりだ。……死ね!」

「っ…!」

 だけど、その思考を邪魔するように、奴は闇色の弾を撃ってくる。
 魔力…のように見えたが、“何か”が違った。まるで似せてるだけかのような…。
 とりあえず、全員がその場から飛び退いて躱す。
 王牙は司が抱えてくれたようだ。

「『司は王牙を頼む!…気を付けろ。こいつ、“何か”がある!!』」

 すぐに指示を飛ばし、全員が臨戦態勢を取る。

「『了解…!』」

「『優ちゃんこそ、気を付けてね!』」

「『安全を確保できたら、私も行くから!』」

 各々から返事が返ってきたのを確認し、僕は武器を創造しておく。

「(最初から全力で行っても、カウンターを喰らえば終わりだ…!ここは、手堅く様子見の攻撃を…!)」

 転移魔法の術式を二つ用意しておき、創造した武器を飛ばす。
 四方八方から囲うように放ち、僕も転移魔法で転移し、斬りかかる。
 単純且つ、回避の難しい攻撃。これで、奴の“何か”が分かれば…!

「っ……!?」

「くく……!」

「(馬鹿、な……!?)」

 奴は何もしなかった。まるで、その攻撃が無意味だと知っているかのように。
 実際、僕の攻撃は無意味に終わり、すぐさま転移魔法で間合いを取った。
 だが、その“無意味に終わった原因”に、僕は…皆が驚きを隠せなかった。

「(すり…抜けた……!?)」

 そう。まるで立体映像に斬りかかるかのように、すり抜けたのだ。
 気配を感じ、攻撃もしてきたと言うのに…だ。

「っ……!」

「は、ぁっ!!」

「ふっ……!」

 何かをされる前に、椿が矢を放ち、後方に回っていた葵と奏が斬りかかる。
 だが、それも同じようにすり抜けた。

「…どうした?それで終わりか?」

「(解析が通じない、攻撃もすり抜ける。……魔法か?霊術か?…いや、それ以外なのは確実。この異質な“闇”の気配から、転生者と言う線も薄い…)」

 余裕綽々だからか、奴は攻撃してこない。
 その間に、一度全員集まる。

「……椿、あいつから神の力は…」

「…感じられないわ。…と言うか、あそこまでの“闇”を持つ神がいたら、私の本体の耳にとっくに情報が入っているわ」

「だよな……」

 完全に正体不明の敵。
 今までは何かと正体の掴める敵だった。
 どんな相手でも、少なくとも魔力を使っているのは分かっていたのだ。
 だが、目の前の敵はそれすらも不明。
 分かっているのは僕に似ている事と、奴は生み出された存在であり、背後にまだ何らかの存在とそいつの思惑があるという事だけ。

「くくく…!」

「ちっ……!」

 王牙の切り札が通用しなかったという事から、奴にダメージを与えるには何らかの条件が必要。だけど、その条件が分からない。
 おまけに、悠長に考える時間が与えられるはずもなく、奴は攻撃してきた。

「ははは!」

「くっ…!」

 “闇”で形作られた剣で、僕へと斬りかかってくる。
 椿と葵が矢とレイピアで妨害するが、やはりすり抜ける。

「(攻撃がすり抜けるなら、防御も無意味かもしれん…!)」

 咄嗟にそう思った僕は、避けれるようにしつつ、リヒトで剣を受けようとする。

     ギィイイン!!

「っ……!?」

 身体強化が足りなかったから吹き飛ばされたものの、剣を受けれた。
 すぐさま着地し、追撃をいなす。

「(防御はできる…!?まさか、攻撃の瞬間は…)」

 相変わらず、椿と葵の妨害はすり抜けている。
 奏もバインドで動きを止めようとするが、同じくすり抜けた。

「くっ……!」

「ははははぁ!!」

     ギギギギギギィイン!

 剣を受け流しながら、奴の動きを見る。
 今度は吹き飛ばされる事なく、上手く凌げる。

 ……ここだっ!!

「シッ………っ!?」

「残念だったなぁ?」

「くっ……!」

 動きを読み、攻撃と同時にカウンターを放つ。
 攻撃が受け止められると言う事から、カウンターなら通じると思ったのだが…。

 …それすら、すり抜けてしまう。
 すり抜けた勢いで、奴に背を向ける形になってしまい、咄嗟に障壁で攻撃を凌ぐ。

「優輝!」

「カウンターもすり抜ける…。一体、どうなって……!」

 凌いだ反動で椿たちの場所まで飛ぶ。
 攻撃がすり抜ける。それはあまりにも厄介だ。
 だが、全ての攻撃が無効化できるはずがない。
 どんなものにだって綻びや弱点などがある。

「(幸い、戦闘能力自体はずば抜けている訳ではない。体力が尽きる前に、こいつの弱点を…!)」

「足が止まっているぞぉ!!」

「っ……!」

 放たれる弾幕を躱す。
 馬鹿か僕は!そんな悠長な時間を与えてくれる相手ではないだろう!

「“模倣(ナーハアームング)Alter Ego(アルターエゴ)”…!」

「ほう…?」

 緋雪の分身魔法を使い、四人で攻める。
 だけど、奴も戦闘能力を隠していたのか、四人でも互角だった。
 ……だが!

「(導王流がある分、こちらが上だ…!)」

     ギィイイン!!

 一人が剣を受け止め、一人が隙を作り、残りで確実に弾く。
 それらを全て“防御”で行い、こちらが仕掛ける隙を作り出す!

「これなら…!」

〈…ダメ、ですね…!〉

「ちっ…!」

 分身と僕の四人で、交差するようにすれ違う。
 その際に、仕込んでおいた魔力の糸で囲うように切り裂こうとしたが、無意味。

「なら、これはどうだ!」

 分身を消し、その際に余った魔力で創造魔法を行使。
 魔力による実体のないものではなく、実際に隕石のように岩を落とす。
 いくら魔法や剣がすり抜けるとはいえ、押し潰すのであれば…!

「……無駄、か」

 するりと何事もなかったかのように奴は落とした岩の上に降り立った。
 …余裕からか、奴は攻撃に積極的ではないのが助かるな…。

「……それで終わりか?」

「くそっ…!」

 一旦、目暗ましをしてから椿たちと合流しようか。
 そう考えた時。





〈“Espace compression(エスパース・コンプレッション)”〉

「むっ……!?」

 奴を覆うように結界が張られ、それが圧し潰すように縮んでいく。
 奴の抵抗を許す事なく、その空間は圧縮され…。

「………これも、無駄なのか」

 奴は、何事もなかったかのようにそこにいた。
 空間の圧縮さえも、奴は無効化したのだ。

「“セイント・エクスプロージョン”!!」

「っ……!」

「優輝君!」

 奴の足元に出現した魔方陣から爆発が起き、辺りが煙幕に包まれる。
 その隙に僕の隣に転移してきた司が、もう一度転移して全員を一か所に集める。

「帝君は結界で隔離してきたから、大丈夫!」

「そうか。……だが…」

 一度距離を離し、体勢を立て直す。

「…椿、葵、何かわかったか?」

「……残念ながら、ほとんど分からなかったわ」

「同じくね。」

 先ほどの攻防をずっと見てもらっていたのだが、やはり分からなかったようだ。

「最悪、神降しも視野に入れよう。」

「ええ。……それすらも、通じるか怪しいけどね…」

「…だな」

 煙幕が晴れ、再び奴の姿が露わになる。

「…くくく…!打つ手なしと言った所だなぁ。……じゃあ、そろそろ俺から行かせてもらおう…かっ!!」

「っ!?」

 そういって動き出した奴の姿を、一瞬とは言え、見失った。
 …してやられた。今のは遅めの速度から動き、一瞬にして高速に切り替える事で相手の意識外へと移動する動きだ。
 つまり……。

「遅い」

「ぐっ……がはっ………!?」

 その一瞬が、命取りだった訳だ。

 奴の拳が僕の腹に深々と突き刺さり、大きく飛ばされる。

「優輝!!」

「このっ…!奏ちゃん!」

「ええ…!」

 吹き飛ばされる中、葵と奏が接近戦を仕掛け、司と椿が援護する形になる。
 …だが、ダメだ。今殴られたので大体悟ってしまった。







「うぁっ!?」

「っ……!」

「二人共!っづ……!?」

「きゃあああっ!?」

 ………どのような技、魔法、策を用いても、奴には通用しない。
 あいつは“領域外”の存在。僕らとは、違う“法則”で成り立っている…!













 
 

 
後書き
Espace compression(エスパース・コンプレッション)…“空間圧縮”のフランス語。文字通り、結界で囲んだ相手を圧縮するように潰す。内側から抵抗されると破られるが、祈りの力が強い程、頑丈になる。

本人に攻撃が通じなくても、結界に対しては“対界宝具”であるため、エヌマ・エリシュの攻撃で揺らぎが生じ、優輝達が気づいたという感じです。

攻撃されるとすり抜け、逆だと普通に当たる。まるでご都合主義のような存在。それが今回の敵です。常時攻撃無効とか何それチートな相手ですが…一度こういう相手がいたんですよね。 
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