歌集「春雪花」
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これ見よか
風に揺らるる
若すすき
人も知らじな
文も絶へなむ
この風景…彼もこんな風景を見ているだろうか…?
咽せるような夏の風に靡く、未だ若い芒の葉…。
真夏のどこにでもある風景…。
いや…こんな田舎の風景を、彼は気にも止めていないだろう…。
そんなことさえ、今の私にはもう分かりようもないのだが…。
便りさえ…もう絶えて久しい私には…。
青き田の
光揺らぎて
水面にそ
帰らぬ里に
君ぞ想いし
真夏の強い陽射しに映える稲の葉…眺めれば、田の水面に陽射しが乱反射している…。
私の田舎でも毎年見ていた…いや、見馴れ過ぎて当たり前だった光景…。
もう帰ることのない田舎の風景が眼前の光景と重なり…無性に寂しくなってくる…。
そんな田舎の風景…彼といた時間が頭を過り、深く溜め息をつく…。
彼に私は価値がない…ただ、それだけのことなのだ…。
それだけが、今の私そのものの意味なのだ…。
ただただ…日々が辛い…。
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