彼願白書
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リレイションシップ
インターンシップ
「さて、件の二人を連れてきたよ。」
鈴谷の後ろに連れてきた少女達が二人。
朱と桃の着物を着た、二人の少女。
その二人を、壬生森は見たことがある。
「えーと、君達が神風と春風だったかな?」
「はい、以後よろしくお願いいたします。司令官。」
神風の言葉に、壬生森は頭を抱えた。
「鈴谷、私はいつから神風型を指揮していたんだい?」
「さぁね?提督がどこでこんないたいけな女の子を引っ掛けてきたかなんて知るわけないじゃん。」
鈴谷はおどけたように肩を竦める。
「貴官の艦隊でなら、トラックで殉じた司令官の仇を取れる……私はそう、確信したのです。」
神風は壬生森の側まで歩きながら、そう語る。
「あの、如何なる敵に屈しないだけの力。私に必要なのは、あの力なのです。あの叢雲が見せた力が。」
神風と壬生森は対峙する。
壬生森は呆れたような、困ったような、そんな顔。
「神風、君の目的は……復讐か?ならば無意味だ。君の仇は既に光と消えた。それ以上は八つ当たりしか出来ない。」
「私は、あの日に何も出来ず、ただただ弱かった私こそが許せないのです。私はあの日とは明らかに違う強さが欲しいのです。例えば姫クラス、鬼クラス、いや……それ以上の存在にさえも、対峙することが出来るだけの力が。」
「君は、その力を得られるだけの器を、持っていると思うか?」
壬生森の冷めた目。
神風はまっすぐに見つめる。
神風が、腰に下げていた刀を見せる。
鞘に傷が入っている、黒い鞘に入った脇差し。
「得てみせます。私はこの剣に対して、その責務があるのです。」
「その剣は、かの提督の遺品か。確か、回収した遺品のリストにあったが、それは彼の遺族に引き渡されたハズだ。」
「私も、遺族です。」
左手には、シンプルな銀の指輪。
壬生森が、頭を抱えた。
懐かしい感覚だ。
本当に、自分のところに来る艦娘はなんで揃いも揃ってこう、ややこしい奴ばかりなのか。
壬生森はハァ、と溜息を吐く。
「私は託されたのです。彼のような犠牲を産み出さないことを。ですが、他の提督の下に行くとなれば、記憶処理は免れない。この願いも想い出も、掻き消えてしまう。それでは、私はなぜ、生き延びたのか……意味がない。ですが、貴方の下に行くならば、それを受けずに済む。そして、貴方の艦隊はあのような怪物を狩る部隊。私の求める全てが、貴方の艦隊にある。」
壬生森は、どうしたものかと悩む。
神風の目が、あまりにもまっすぐに向いていたから。
復讐者というには、あまりにも綺麗な目だったから。
「現実は辛いぞ。」
「心得ています。」
「我々の仕事は、正義の味方なぞではない。」
「私のこの願いは、ここでしか達せられない。」
「いつもいつも、あんな敵を相手にしているわけじゃない。」
「そのくらいはわかってます。」
そこまでやり取りをして、壬生森は何度目かの溜息を吐く。
「まったく、私は頭が痛いよ。熊野め、自分で判断付かないからって私に投げやがって。」
「熊野が判断するわけないじゃない。だって、アイツの提督はアンタなんだから。」
強く、凛として聞き慣れた声に、壬生森は振り向く。
「貴女は、あの時の……」
「私はアンタの願いなんか、知ったこっちゃない。」
叢雲は、来た時の私服のまま、槍だけを出して握る。
「私にとって重要なのは、どんな願いだろうが、それをどれだけ大事に育てているか、ってこと。アンタの願いが、ちゃんと力を伴うかどうか……その願いがアンタの本心からの願いで、それを貫き通したいってなら、私の前に来なさい。」
叢雲はそう言って、左手で挑発するような手招きをする。
神風は、ゆっくりと、一歩ずつ、叢雲の前に向かって歩く。
「構えなさいよ。立っていられたら、アンタを認めてやるわ。」
「腕試し、ということですか。」
壬生森達は、その様子を静かに見守ることにした。
「ところに春風、君はさっきから何も言わないが。」
「私は御姉様の行く末を見守ることにしてますから。」
「とんだ貧乏籤だ。最近、叢雲の機嫌はかなり悪い。」
「御嬢様の機嫌が悪いのは、どっかのヘタレのせいでは?」
メイドはそう言って、ハーブティーのおかわりをグラスに注ぐ。
「叢雲の機嫌が悪いのなんて提督のせいに決まってんじゃん……」
「鈴谷、そういう悪評はやめようか。」
そんなことを言ってる間に、叢雲と神風は対峙していた。
槍を握って上段で構える叢雲と、刀に手を添えて構える神風。
「耐えてみなさい。防いでみなさい。この一槍を受けて尚、生きていたなら、認めてあげる。」
あの日のように、叢雲の槍が光を纏う。
逆巻く風、嵐のように、その光はまるで、周りから光を巻き取るように輝く。
「行くわよ。弔う骸くらいは残してあげる。」
叢雲はその光の槍を握って、空に跳ねる。
まるで、神判を下すように、その槍は神風へと放たれた。
その槍に対して、神風は剣を抜いた。
激突する刃。
その衝撃と光は、神風の姿を完全に包んでしまう。
壬生森達もその光に目を逸らす。
しかし、春風だけは、その光に顔を背けなかった。
そして、放った叢雲の着地した頃に、光と衝撃は収まり、土煙の中から叢雲の手元に槍が跳ね返ってきた。
それを取った叢雲は、すぐさまその槍を振るった。
ガキリと音がなる。
叢雲の槍の穂先と、神風の剣が再び激突する。
驚いたような、叢雲の顔。
「合格、でいいかしら?」
神風の絞り出すような声。
土煙が晴れていき、最初は剣を突き出す腕だけしか見えなかったのが、露になっていく。
着ていた着物は既に袖や裾がズタボロで、自身も立っているのがやっとだろうという有様。
それでいながら、叢雲の槍を押し返そうとキリキリと鍔迫合いをしている。
「やるわね。思っていたより。」
叢雲は鍔迫合いする刃先を弾くと槍を納め、静かに壬生森のほうを見る。
神風はようやっと立っている状態で、肩を大きく揺らして息をする。
壬生森はそんな神風を見て、ハーブティーの残りを飲んだあとに立ち上がる。
今まで、新人を受け入れる度にしていた、いつもの儀式。
「……合格だ。ようこそ、『蒼征』へ。私が壬生森だ。」
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