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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第4章:日常と非日常
  第116話「兄として・後」

 
前書き
どうしてこんな野郎共の話に二話も使っているのだろう…。(おい
それはともかく、狙撃手(誰かは大体わかる)視点からです。
 

 




       =???side=





 事の発端は、よくある突然な事件だった。
 “あるマンションで、一人の男が人質を手に何かを叫んでいる。”
 …そんな感じの報せだった。

 立て篭もり事件など、魔法文化のない世界でさえ起こるような事だ。
 …だが、その厄介さはどこでも変わらない。何せ、人質がいるのだから。
 そこで活躍するのが、俺だった。

 俺は狙撃手としての腕前は、部隊の中でもトップクラスだ。
 上司にも褒められた事さえある。
 その狙撃を以って、人質に当てずに犯人だけを一撃で倒す。それだけだ。

 今回も、そうして終わると思っていた。
 …その人質が、俺の妹でなければ。





「っ……ぁ………」

 犯人がいたマンションから離れたビルで、俺は茫然としていた。
 “やってしまった”。ただその想いが俺の胸の内を駆け巡っていた。
 人質が妹であるラグナだった。…まだそれはいい。狙撃で助けられるのだから。
 …だが、よりにもよって、俺は誤射をしかけた。
 俺の撃った弾が、誰かによって逸らされてなければ、おそらく左目は…。

「俺、は……」

 犯人は既に昏倒させられていた。おそらく、俺の誤射を防いだ奴が…。
 だが、今はそんな事はどうでも良かった。
 人質を…よりにもよって、大切な妹に誤射を…。

「ぁ…ぅ……」

 声が震え、上手く音として出ない。それほどまでに俺は後悔していた。
 思いあがっていた。妹だったからより緊張してしまった。
 …誤射した言い訳のような思考が浮かんでくる。

「違う……そんなのは関係ない…!」

 ただ、誤射した。その事実のみ。
 その事実のみが重要で、俺を苛んでいた。







「………はぁ」

 その日の夕方。
 俺は上司に途轍もなく怒られ、失意の中近くの店で夕食を取っていた。
 頭に浮かぶのは、誤射をしたあの瞬間。
 正直、上司に怒られた事なんて、どうでも良かった。
 ただただ後悔と罪悪感があっただけだからだ。

「(…実際に当たらなかっただけマシ……なんて思えるかよ…)」

 それは、上司に怒られた後、同僚からのフォローの一言だった。
 だが、そんなのは慰めにもならなかった。
 妹に対して誤射をしてしまった。…それこそが俺が失意の中にいる理由なのだから。

「(…あぁ、確かにマシだろうさ。…もし、本当に当たってしまっていたら、俺は……俺は……!)」

 コップを握る力が強まる。
 胸中を占めるのは、後悔と自分への不甲斐なさ、そして怒りだった。
 もっと上手くできただろうと、誤射の瞬間を思い出す度にそう思ってしまう。

「(すまない、ラグナ……)」

 既に管理局に保護され、先に家に帰っているラグナの事を想う。
 …おそらく、罪悪感から俺はまともに顔も見れないだろう。
 こんな不甲斐ない兄ですまない…。



 …そんな、精神的に参っていた時だった。



「………誤射した事、後悔してますか?」

「っ………!」

 後ろの席から、そう声が掛けられたのは。
 …身の毛がよだつ思いだった。いきなり誤射の事を言われたのだから。

「隣の席から失礼します。…あまりにも、深刻そうだったので」

「…あんたたちは……」

 黒髪の少年と銀髪の少女、そして使い魔らしき動物の耳と尻尾がある茶髪の少女。
 振り返った俺の視界に飛び込んできたのは、その三人だった。







       =out side=





「…悪いが、放っておいてくれ」

「貴方のその様子を見たらそうした方が無難なんですけどね…」

 そう言って、優輝は彼の隣の席に移る。

「……僕とどこか“同じ”に見えたので、そういう訳にもいかないんですよ」

「“同じ”……だと?」

「はい」

 “どういう事だ?”と、彼は訝しむ。

「他にも“同じ”だと思った人がいましてね…。貴方の様子と、その感覚から……誤射しかけた相手…貴方の妹かそれに類する人ですね?」

「っ………!?」

 その言葉で、一気に優輝達への警戒心が上がる。
 彼と人質の関係性をまさか一発で当てるとは思わなかったからだ。

「…あぁ、通りで……」

 彼の反応を見て、図星だと分かったのか優輝は納得したように頷いた。

「(……なんなんだ、こいつは…)」

 突然話しかけてきて、勝手に納得している優輝に、彼はそう思わざるを得なかった。

「…優輝」

「っと…。僕の悪い癖だな。これは」

 椿に咎められ、優輝は頭を振って考え直す。
 彼の入ってほしくない領域に図々しく入ったも同然なのだと、優輝も気づいた。

「…改めまして、僕は志導優輝。嘱託魔導師をやらせてもらっています。ついでに言えば、今日の事件に居合わせていました」

「………ヴァイス・グランセニックだ」

 警戒を解かずに、自己紹介に応えるヴァイス。

「現場にいた……って事は、俺の狙撃を防いだのは…」

「僕ですね。ちなみに直後に犯人を射たのは使い魔の椿です」

「………そうだったのか。すまない。そして感謝する。俺の代わりに…」

 警戒しているとは言え、フォローしてくれた。
 その事を感謝するヴァイス。

「いえ、偶々です」

「…………」

 警戒しているが故に、ヴァイスの口数は少なくなる。
 そんなヴァイスを余所に、優輝は軽い感じでそう答える。

「…それで、なんで俺に話しかけてきた?誤射した俺を憐みにでも来たのか?……悪いが気が滅入っているんだ。変にキレてしまう前にどっか行ってくれ」

「そうですか…。では、今日はこれぐらいで」

 酒の入ったコップを見て、優輝もこれ以上深入りするのはダメだと判断した。
 そのまま優輝は元の席に戻った。

「…あっさり引き下がったわね」

「さすがに踏み込めないさ。…あれに近い状態に僕もなった事があるからね。彼のためにも、今はここで退いておいた方がいい」

 シュネーが人体実験された時、緋雪が死んだ時。
 優輝も彼と同じような精神状態に陥っていたのだ。
 だからこそ、踏み込まなかった。









       =優輝side=





「……ここが宿舎か」

 狙撃手…ヴァイスさんとの邂逅から数日後。
 僕はそのヴァイスさんがいる宿舎に来ていた。

「……いた」

 話に寄れば、今は有給を取って気を落ち着けているらしい。
 探してみれば、案外簡単に見つかった。

「…なるほど。時間を置いたのね。でも、結局踏み込むのね」

「そのまま立ち直れたらいいんだが、僕という前例から見たら…な」

 もし、平気そうだったら一言二言程度話しかけるぐらいで済む。
 …が、どうやらそれはなさそうだ。

「…あんたらは……」

「この前会った時と同じ…いえ、むしろ深刻になっていますね」

「っ…お前に何が分かる…!」

 何かに焦っている。後悔している。追い詰められている。
 様々な感情を織り交ぜたような、そんな複雑な表情をヴァイスさんはしていた。
 …僕もかつてはこんな表情だったりしたんだろうな。

「貴方の気持ちは、貴方にしか分かりませんよ。…ただ、“兄”としての気持ちなら、僕にだって理解できます」

「なに……?」

「…この際、貴方のためにもしっかりと話をしておきましょう。…椿、葵。悪いけど席を外していてくれ。一対一で話がしたい」

「…わかったわ」

 二人には席を外してもらう…と言っても、少し離れた所で待機するだけだが。
 同じ“兄”として、他の介入は避けて欲しいからな。

「……先に聞いておきますが、ヴァイス・グランセニックさん。貴方は人質にされた妹さんを助けるどころか、誤射をしかけた事に責任、もしくは罪悪感を感じ、また、“自身の手で助けられなかった”と言う無力感に苛まれている……違いますか?」

「……この前も思ったが、お前は心が読めるのか?」

 僕に対して最大限に警戒した状態で、ヴァイスさんはそういう。
 相手はただの嘱託魔導師。警戒を解く事なんてできないだろう。
 …と言うか、管理局員の一人に何様なんだろうな。我ながら。

「その解答は肯定と見ますよ?」

「…………」

 返す言葉が見つからないのか、少し沈黙が続く。

「…貴方の事がなぜわかるのか、言っておきましょう。…僕も“同じ”だからですよ」

「“同じ”…だと?」

「貴方と似たような境遇の経験をした。…そういう事です」

 明確には言わない…が、一介の管理局員であり、同じ“兄”であればこれぐらいの言葉だけでも察しがつくだろう。

「………同情のつもりか?」

「取り返しのつかない事にはなってほしくない。…それだけですよ」

 今、妹さんと関係がどうなっているのかは分からない。
 だが、彼の様子を見るに、以前までの関係には戻っていないようだ。

「っ……ふざけるな!そんな同情なんていらねぇ。俺の問題に、部外者が口出しするな!」

「そうして腐って、また守れなくなってもか!?」

「っ……!」

 自分がかつてそうなったからこそ、見ていられない。放っておけない。
 掴みかかってきたヴァイスさんに対し、僕はきっちりとそういった。

「後悔するのも、罪悪感を感じるのも、自分を責めるのも、無力を感じるのも構わない。だけど、今こうやって立ち止まる免罪符にはならないんだ!」

「……る…ぇ…」

「今回は、死なせる事も、怪我をする事もなかった。けど、それでも嫌だったのなら、“次”こそはちゃんと守れるようにしなくて、何になる!?」

「…るせぇ……」

「僕と違って、まだ取り返しが付くのなら、いつまでも沈みこんでるんじゃ―――」

「うるせぇ!!」

 感情と共に訴えかける僕を、彼は怒号と共に掴み、持ち上げる。

「言われなくたって、分かってらぁ!…だけどなぁ…っ!腕が震えるんだよ…!俺は怖いんだ…!妹だけじゃなく、また人質にされた誰かを誤射してしまうかもしれないと…!」

「だからって、そうやって逃げても、何も変わらない…!」

 腕を振りほどき、僕はそう返す。

「貴方も一人の“兄”なら!妹に胸を張っていられるような、立派な男でいろ!」

「っ………!」

 その言葉が効いたのか、立ち上がっていたヴァイスさんは再び座り込む。

「貴方の妹から見た普段の貴方は、そんなにも弱々しい姿なんですか?」

「……そんな訳、ないだろう…!」

 拳を握り締めるように、僕の言葉を否定するヴァイスさん。

「…すまん、少し時間をくれ」

「…分かりました。10分ぐらいしたら戻ってくるので…」

「ああ。…ありがとう」

 これで立ち直ってくれるようにはなっただろう。
 後は、もう少し背中を押してフォローするだけで十分だ。





「……落ち着きましたか?」

「ああ。すまんかったな」

 あれから十分後。少し席を外していた僕は戻ってきた。
 ヴァイスさんもだいぶ落ち着いたようだ。

「…あんたのおかげで、目が覚めた。…そうだよな。惨めになってちゃ、ダメに決まっているよな…」

「“今回は無事だった”…なんて、ありきたりな言葉ですが、今はそう思っておくんです。…そして、“次”があった時、今度こそ守れるように…」

「そうだよな…。…あぁ、本当にそうだ。なんで気づかなかったんだ…」

 僕の言葉を確かめるようにそう呟くヴァイスさん。
 心なしか、彼の顔は憑き物が落ちたように、マシになっていた。

「大切な人が危険に陥っていて、それを助けようとして失敗すれば、誰だってそうなります。それが、家族だと言うのならなおさら」

「……そうか…」

 このまま放っておいても、もう自力で立ち直れるだろう。
 それほどまでに、ヴァイスさんの心は立ち直っていた。

「…なぁ、なんでここまでしてくれたんだ?俺が返せるものなんて、たかが知れてるぞ?」

「対価が欲しかったのなら、ここまで踏み込みませんよ。言ったはずです。似たような境遇に遭ったと、僕のようになってほしくないと」

「……………」

 尤も、僕の場合は無力のままではいられないと、修行していたのにも関わらず…って感じの結果だったけどな…。

「……まさか、あんたは…」

「…ここから先は、安易に言えません。…ただ、貴方の想像したものから、大きく外れたものではないとだけ言っておきます」

 ティーダさんには言ってしまったが、こういうのはあまり言う事ではないしな…。
 まぁ、察しられた時点であまり変わらないけど。

「…そうか」

「………」

 少し暗い雰囲気が漂う。

「…はぁ。まさか、俺より幼い子供に色々諭されるとはな…」

「僕にも諭してくれる人がいましたからね…。割と受け売りですよ。これ」

 緋雪の事を思い浮かべ、そして後ろの方で待機している椿と葵をチラ見する。
 二人と、緋雪のメッセージがなければ、今の僕はいないかもしれない。

「…何歳なんだ?」

「13歳です」

 今は中学二年生。ちなみに、誕生日はまだだ。

「今更だが、達観しすぎだろ…」

「ちょっと、事情がありまして…」

 前世の記憶とか、前々世の記憶とか。…特別どころか異常だな。これ。

「…これから、俺はまず何をすればいいだろうな…」

「そうですね…。妹さんと面と向かって話せなくなっているのなら、まずは関係の修復からになりますね。…その後は、貴方次第です」

「……だよな」

 実際に聞いた訳ではないが、妹さんとは少しばかり交流が減っているだろう。
 罪悪感などから、面と向かって話せない…そんな感じだろう。

「スナイパーとして復帰できないのなら、別の事を磨くのも手です。…誰かを助ける手段は、一つではありませんからね」

「そうだな…。一応、復帰しようと頑張ってみるが、そっち方面も考えてみるか…」

「とにかく、立ち止まらなければいいんですよ。“次”のために、何かを磨く。それを大事にしてください。…あ、もちろん、無茶しない範囲ですよ?」

「分かってる」

 ヴァイスさんは狙撃手としては相当優秀な方だと僕は思っている。
 僕でもあの距離は中々正確に当てれないからな。…ちなみに、椿は行けるらしい。
 だから、復帰しようと思えばできるだろう。…ヴァイスさん次第だが。

「……はぁ…」

「…えっと、今度はどうしたんですか?」

 少し話していたら、ヴァイスさんは頭を抱えて溜め息を吐いた。

「…いや、年下…それも子供にここまで色々教えてもらう立場な俺って、傍から見たらちょっと情けないなと思って」

「…あー………」

 これは…うん。年上の身としては辛い部分があるよな…。

「…えっと、先程も言った特別な事情で、精神年齢は貴方と同じぐらいですから、あまり気にしない方向で…」

「そうか…。…まぁ、気にしない事にするか。あんた、見た目不相応な言動をしているからな…。どうも子供には見えん」

「自覚はあります」

 さて、ここまで来ればなんの心配もないだろう。
 どう復帰していくかは分からないが、少なくともマイナス方面ではないだろう。

「…では、僕はこれで」

「もう帰るのか?」

「はい。…貴方がもう平気そうなので」

「そうか」

 席を立ち、椿と葵を連れて僕は帰り出す。

「っと、待ってくれ。せっかくだから連絡先を交換しておかないか?あんた達は確か正式な局員ではなかっただろう?管理局員として、困った時は頼ってくれ」

「ありがとうございます」

 連絡先を交換する。…と言っても、ティーダさんとかクロノとかがいるけど…。
 まぁ、知り合いが増える事は良い事だ。

「…ありがとうな。俺を立ち直らせてくれて。後、狙撃のフォローもしてくれて」

「いえ、僕ができそうな事だから、やっただけです」

 周りの人曰く、僕は“お人好し”だからな。放っておけなかったのだろう。
 後、同じ“兄”としてシンパシーを感じていたのかもしれない。









「なぁ、椿、葵。ちょっと寄り道していいか?」

「…?別にいいけど…」

「どこに行くの?」

 地球に戻ってから、二人にそういう。
 近場だからか、二人も別に嫌と言う訳ではなさそうだ。

「海鳴臨海公園だ」

「公園…またなんでそこに……」

「…ちょっと、ヴァイスさんと話してたらなんとなく…な」

 そう言って、僕らは公園まで寄り道する事にした。



「…ここだ」

「…………」

「普通にベンチ…だよね?」

 辿り着いたのは、海が眺められるベンチの一つ。

「………緋雪」

「…そういう事、ね」

「そう言えば、ここだったね…」

 そう。ここはかつて、緋雪が人として亡くなった場所。
 過去に行った事件で、僕らが覚えている事だ。

「普通なら、八束神社近くの墓地に行くけど、緋雪の場合はな…」

「なるほどね…」

 海風に吹かれながら、少し感慨に耽る。
 ここなら、目を瞑ればいつだって緋雪との思い出が蘇る。
 互いに支え合って、笑い、喜び、楽しんできた。
 魔法に関わって、辛い事もあったけど、それでも充実していた。
 …ここに来ると、いつもそれが実感させられる。

「…ったく、ここに来て、緋雪の事になると涙脆くなるな…」

「優輝…」

 “つぅ”と、頬を涙が伝っていた。
 哀しみも、助けれなかった事による罪悪感、無力感からは解放されている。
 でも、ここに来ると自然とあの時の悲しさが浮かび、涙がこぼれるのだ。

「……なぁ、緋雪。お前から見て、今の僕はどう見える?」

「…………」

 虚空に語り掛けるように、僕は呟く。
 これは、自己満足のような独り言だ。でも、ただ言いたくなった。

「もう立ち止まらなくはなった。けど、僕はちゃんと“兄”としていられているのか…。お前が死んでから、もう3年だ。…僕は、まだお前の“兄”でいれてるか?」

「優輝…」

 …こんな事を言った所で、無意味。まさに自己満足なだけだ。

「また道を間違えるかもしれない。また立ち止まってしまうかもしれない。でも、僕が僕である限り、それで終わるつもりはない。…だから、安心してくれ」

 闇の書の姿をしたジュエルシードに取り込まれた時、僕は緋雪の残留思念と会った。
 その時は僕の中にあった罪悪感を取り払ってくれたが…。
 …僕がまたうじうじしていると、緋雪の事だし化けてでもまた出そうだよな。



   ―――……ありがとう。大好きだよ、ムート(お兄ちゃん)



「っ…………」

 …死の間際の、緋雪の言葉が思い出される。

「…あぁ、僕も大好きだ。緋雪……」

 緋雪にとって、あれは異性としての“好き”だったのだろう。
 なぜか恋愛感情を持てない僕からだと、妹としてでしか言えないが…。
 僕も、緋雪の事は大好きだ。例えいなくなっても、それに揺らぎはない。

「……ありがとう、椿、葵。付き合ってくれて」

「…これぐらい、構わないわ」

「あたし達も墓地の方にお参りはしてたけど…うん、これからはこっちにも来ようかな」

 二人にお礼を言うと、優しく微笑んでそう返してくれた。
 …うん、きっと、緋雪も喜んでくれるだろう。

「よし、帰ろうか」

「ええ」

「明日は久しぶりにゆっくりできそうだねー」

 黙祷し、僕らは家へと帰る。
 明日は日曜日。特に予定もないため、葵の言う通りゆっくりするとしよう。









































       =out side=









『………………………』

 …暗く、(くら)く、(くら)く、(くら)く、(くら)く…どこまでも(くら)い、精神世界。
 ()()の内側に広がる闇の世界で、その存在は()ていた。

『……ふふ…………ふふふ…………』

 闇に塗られ、精神世界であるが故に、その“存在”に姿はない。
 だが、その意識は明らかに“一つの存在”を視続けていた。

『着々と……着々と近づいてくる……』

 正体は分からない…が、辛うじて女性だと“認識”できる声で、その存在は言う。

『封印が解けるのも時間の問題……なら、なら…!少し刺激を与えませんとね…?』

 ひどく魅惑的で、だが魂の芯から底冷えするかのような声に聞こえる“念”。
 封印の外側からは分からない、その存在の思惑が進行していた。

『ふふふ……封印されているからと、何もできないと思いでしたか…?』

 “クスクス”と、その存在は嗤う。
 それは、封印を施した相手に対してか、封印を見張っている者に対してか。
 …少なくとも、“良くない事”である事は、誰が見てもわかる事だった。

『あぁああぁ……!早く会いたい…!……会いたい、会いたい、会いたい、あいたいあいたいあいたいアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイ……!!』

 壊れたように連呼する。
 それは、“執念”と言う言葉が可愛く見える程………末恐ろしいものだった。

『…………けど、それはまだ我慢しませんと………ふふふ……』

 ピタリと声が止まり、その言葉と共にその世界の闇が一つの形を造る。

『……あらぁ…そっくりにできました………ふふふ……あはははは……!』

 造られたその姿は、溢れる“闇”の気配と、どこまでも暗く黒い髪と瞳ですぐ違うと分かるものの、まさに優輝と(.)(.)(.)だった。

『…では、行きなさい』

「………くはは……了解した…!」

 優輝と瓜二つのその男は、狂ったような歪んだ笑みを浮かべ、姿を消した。

 向かった先は、第97管理外世界を内包する、一つの“世界”。
 ………優輝達が転生し、暮らしている世界だ。

『……彼を追い詰めてこそ、彼の真の“輝き”が見れると言うもの。……ふふふ………あははは…………あははははははははははははははははははははははははははははは!!!』

 狂ったような笑い声が、闇の世界に響き渡る。

 封印されてなお、衰えぬ“闇”。
 その“闇”の存在が、封印から解き放たれるまで―――





   ―――あと■■■■………。















 
 

 
後書き
ヴァイスさんが原作より少し強化されます。(トラウマ持ちじゃなくなる)
一応、原作通りパイロットの道に行きますけどね。

…そして、どう考えてもヤバイ存在の登場。
ジャンルで言えばヤンデレに価するような奴ですが……まぁ、そんな範疇には収まりません。
4章で唯一のシリアスな部分です。 
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