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彼願白書

作者:熾火 燐
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リレイションシップ
  タッチダウン、ブルネイ

「まったく、以前から思っていたけど……ホントにここが最前線なのか、少し疑わしい部分があるわね。」

「最前線にまで押し上げた当の本人が言うとは、なかなかの冗談だと思うけれど。」

叢雲と熊野は普段の艦娘としての格好で歩く。
叢雲はともかく、熊野がここに来たのは初めてなのではないか。

難攻不落の最前線、ブルネイ。

トラック陥落という異常事態を、市ヶ谷から完全に情報を遮断されているらしい場所。
タウイタウイ、リンガなどの泊地には口外無用かつ自己防衛のみに終始させ、ここブルネイや本土にある鎮守府には、トラックを囲うようにE海域を指定して、近付けないようにしている。
まぁ、これだけ不自然な動きが重なっている以上は、何かしらの情報収集くらいはしているだろうか。

そのブルネイ鎮守府の管轄である空港に、わざわざロールアウトしたばかりの試作機であるCー3Xを輸送機に指定し、これの超長距離飛行試験とブルネイ鎮守府への回送という名目で飛ばすところに壬生森達3人は乗り込んだのだ。
もちろん、このCー3Xの飛行試験自体も壬生森が外から手を回して捩じ込んだものなのは言うまでもなく。
そんなわけで、壬生森は自分で捩じ込んだ計画の輸送機に乗り込むことで、ブルネイまでやって来たのだ。
やって来た理由は、紛れもなく熊野が持ち込んだレッドファイル。
そして壬生森と熊野が考えたプランのために、この輸送機も回されたのだ。

「二人とも、そこまでにしておけ。今回は、ここのヌシが直々の出迎えらしい。」

後部ランプから降りた壬生森達は、いつぞかに見た大男の姿を見る。
相変わらず、アロハシャツにジーンズとは軍属らしさの欠片もない格好をしている。
とは言うものの、いかつい顔と図体からカタギじゃないのは丸わかりなわけだが。

「久しいな、金城提督。」

「まさか、アンタがスーツ以外の姿でここに来るとはな。」

「上だけだ。いちおう、周りの目があるんでな。」

出迎えたブルネイ鎮守府の最高責任者である金城提督に、壬生森は仕方なく羽織っている二種軍装の下のスーツを見せる。

「久しぶりね。また何か美味しいのを、って言いたいのだけれど……生憎、今回は真面目な仕事で暇がないの。残念だわ。」

「そうか。こっちはそれを覚悟していたんだが……」

「残念だけど、お目付け役がいてね。」

「お目付け役とは随分な言い草ではなくて?そもそも、お目付け役はどちらだか……初めまして、私は熊野ですわ。と言っても大将ともなれば、同じ顔は他でいくらでも見てるでしょうけれど。」

わざとらしく肩を落とす叢雲が指す隣には、熊野の姿。
しかしながら、それは金城提督が見慣れている熊野とは明らかに何かが違う。
金城提督は、感じた違和感の正体を見破ったらしく、僅かに眉が動く。

「顔が同じ、ってだけで中身は別物。そうだろう?」

「艦娘が言われて喜ぶ言葉のひとつですわね。ありがたく、頂戴しますわ。」

なんとも言い難い苦笑いをする金城と熊野の握手。
ひとまずは、熊野が軽いジャブを一当てした感じだろうか。
ウチの熊野は手強いぞー、と自分のことをいろいろと棚に放り投げるように上げて壬生森はクスリと、叢雲は叢雲で相変わらずそんな熊野がどうにも好きになれないなと、眉間に依った皺をひとさし指で解していた。 
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