彼願白書
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提督はBARにいる外伝、ロッソ
元提督は料理を覚える。
前書き
前回の要約
『このせかいのばーぼんってどんくらいめずらしいの?』『艦これ改での嵐と萩風くらいレア。』
「さて、そいじゃ作っていこうかね。」
小さく言った金城が出したのは、コンビーフとスイートコーンの缶、そしてバターを一欠。
バターをフライパンに溶かし、そこにコンビーフを入れて、割り砕いていく。
ついでに助手雲くんにコーンの水切りをさせている。
話を横から聞くに、早霜というらしい。
覚えておこう。
そして、炒めながら割っていったコンビーフに水切りしたコーンを混ぜていく。
その手付きは手慣れていて、無駄な仕草がない。
料理が上手というのは、どうやら本当らしい。
「ハイお待ち、まずは軽く『コンビーフコーン』だ。それと、ワイルドターキーはどうやって飲む?」
「そうだな……『ミストスタイル』で貰えるかな?冷やして飲みたいのでね。」
こんな熱々なものだ。バーボンは冷えていたほうがいい。
そうやって壬生森が頼むと、金城はにやりと笑ってクラッシュアイスを用意していく。
「そういや、そちらのお嬢さんは何をご所望で?」
「そうねぇ……あ、こっちの娘もカクテルとか作れるのよね?」
叢雲が目をやったのは、早霜だ。
叢雲め、彼女を試す気だ。
きっと、彼女の注文は……
「えぇ、大概の物は作れますが。何をお作りしましょう?」
「じゃあ『コモドール』を2杯お願い。こんな楽しい夜だもの、貴女も付き合ってくれるわよね?」
それ来た。
代将、つまり前線指揮官を意味する名のカクテル。
叢雲がいつの間にやら気に入っているカクテルだ。
秘書艦としてこの上ないカクテル、らしい。
「えぇ、お誘いあらばお供します。」
早霜はぺこりと一礼して頬笑む。
どうやら、叢雲の挑戦を受けるようだ。
「せっかくなので、このワイルドターキーを使わせてもらいますが……壬生森さん、この樽は瓶詰め前の段階のモノでいいでしょうか?」
「うむ、そのとおりだが……どうかしたかね?」
「いえ、それが確認出来れば大丈夫です。」
納得したように頷いてから、早霜はワイルドターキーの樽からカップに擦りきり一杯取り、シェイカーに入れる。
「マスター、クラッシュアイスを一欠片、少し大きめのを貰えますか?」
「ん、あいよ。」
金城から氷を一欠片、シェイカーに入れると、そこでステアしていく。
そこにクレーム・ド・カカオのホワイトをカップに擦りきり一杯、冷やしていたレモンジュースを同じく擦りきり一杯。そしてそれらをシェークしていく。
シェークの仕草やカップに採る姿は手慣れているようだが、グレナデン・シロップを忘れてるな、と思ったら、カクテルグラスに直接、グレナデン・シロップを滴して、くるりと一回ししてから静かにシェークした中身を注いでいく。
最初はマドラーに伝わせるように、そしてある程度入ったらそのまま静かに注ぐ。
「コモドールです。瓶の状態より『濃い』ものをベースにしているので、少しばかりアレンジしていますが。」
「悪くないわ。ちょっとだけイジワルしようと思ったけど、さすがにカウンターの内側にいるのは伊達じゃないわけね。」
そう言って、叢雲が頬笑む。
叢雲は最初、『甘口のもの』というオーダーを出した。そして具体的なオーダーで『コモドール』を頼んだ。
レシピはバーボン、クレーム・ド・カカオ、レモンジュースを1ずつにグレナデン・シロップを1振り。
しかしここで罠がある。
側にはワイルドターキーの樽が持ち込まれている。
サービス心からこれを使おうと思うだろう。
だが、ここが問題だ。
バーボンは普通、瓶詰め段階で加水処理が行われる。
ワイルドターキーはその加水処理での水が少ないほうなのだが、それでも樽の状態だと瓶のものより『濃い』のだ。
つまり、レシピ通りに作るとバーボンの力が勝ちすぎてしまう。
そこで早霜はワイルドターキーを冷やすついでに加水処理後に近い状態にしたのだ。
つまみが熱いモノという点を見てもなかなかのアドリブだ。
さらに甘口寄りに口当たりをよくするため、クレーム・ド・カカオもミルクチョコレートの風味が強いホワイトを選び、レモンジュースも冷やしてあるものを選んだ。
そして最後にグレナデン・シロップをシェークではなく、グラスに回している。
味の変化が楽しめるし、色合いも変化するため、見た目にも楽しいが、やってることはなかなか難しい。
なかなかの技巧派であるようで、叢雲も久しぶりに微笑んでいる。
どうやら叢雲も気に入ったらしい。
昔、頑張ってきた駆逐艦の新米をその頬笑みを見せながら褒めていたのを覚えている。
「お褒めに預かり、恐縮です。」
静かに一礼して、早霜は自分の分を手早く作る。
自分の分でもその仕草に手抜きや淀みはない。
よく出来た子だなぁ、と思っていると、金城からタンブラーに氷をキチッと詰めた状態でワイルドターキーを出してくる。
「なるほど、よく出来る子らしいね。」
「あぁ、優秀な助手さ。」
金城も鼻が高いようだ。
さて、まずは乾杯と行こう。
「では、乾杯!」
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